2012年12月31日月曜日

Paul Thurrott, Rafael Rivera "Windows 8 Secrets"

わりと早い時期に出たWindows 8の解説書。ユーザ向けであって、開発者向けではない。適当に分厚いし、今のところ対抗できる本はないようだ。まあ経験の長いSEなら、いじっていれば自然と分かることばかりだが、確定的な答が必要なら、本書は必須である。そのうち、もっとがっちりした本が出てくるかもしれないし、Win8自体が大幅に改訂される可能性もあると思う・・・。

The best book on Win8 for the time being.

Elizabeth Claire, Richard Greenwood "Three Little Words: A, An, and the (A Foreign Student's Guide to English Articles)"

英語の冠詞の解説&練習問題だが、まあ、この類の本としては普通としか・・・。理屈で習得できる範囲は網羅しているだろう。理屈に興味があるのなら、わたしの推薦は「謎解きの英文法」だが、日本語に限っても類書は山のようにある。

A standard textbook on the articles of English.

Princeton Review "More Word Smart"

やはり少し難しすぎる気はするが、前巻よりも難しいわけではない。というか、こっちの巻のほうが頻度的には高い気がする。ちなみにわたしも知らない単語はやはり一割程度ある。つまり、SATでしか出会わない単語なのだろう。

Good for those who are good at rote learning.

2012年12月27日木曜日

Geoff Johns, Jim Lee "Justice League Vol. 1: Origin (The New 52)"

アメコミはほとんど読んだことがないんだけど、間がないというか、全頁全力みたいなことで、読んでいて結構疲れる。しかし、昔の紙芝居みたいなアメコミからは随分絵も整理されて楽になったかもしれない。話自体は、まあよくある話としか・・・。わたしでも理解できるくらいだから、誰でも理解できるだろう。しかし、アメリカ人は常にしゃべりながらでしか戦えないのかね。

Great art and easy to understand. As far as I understand, some sort of unknown creatures are attacking the human race.

2012年12月25日火曜日

Joseph S. Nye Jr. "The Future of Power"

知らない人のために説明しておくと、ナイ氏はアメリカを代表する政治学者であり、かつ知日派として知られ、駐日大使の候補に名が挙がったこともある。というわけで、こういう本は出て直ぐ読むべきだが、遅くなってしまった。翻訳も当然出ている。

これは既に国際政治学の基本書と言える。アフガンやイラクでアメリカが露骨な軍事力に訴える局面が続いたが、力というのはそんな単純なものではなくて、実際には文化や価値観、public diplomacyを通したソフトパワーと、露骨な軍事力や経済力のようなハードパワーを組み合わせた、スマートパワーが大事だと言っている。そういう見地から将来を考えるとアメリカは当分中国なんかに負けませんよというような話だが、理屈自体はどこの国でも同じことなので、この理屈を元に日本の将来を考えることも可能だ。というか、それ以前に、public diplomacyの概念が日本では遅すぎる。台湾を始め東南アジアでは既に中国の強力な世論工作を受けており、本書のような理論は既に常識化していると言える。従って類書も多いが、主唱者の本はやはり読むべきだし、今後当分の間は、基本書の地位を維持し続けるだろう。

A famous, basic and indispensable must-read on international politics.

2012年12月23日日曜日

Alexander C. Diener, Joshua Hagen "Borders: A Very Short Introduction"

ISBN-13: 978-0199731503
Oxford Univ Pr(2012/9/3)

VSIにありがちなことで、タイトルが簡潔過ぎて意味が分からない。特に前半に境界にも色々な種類があるとか延々と書いているが、国境のことと考えて良い。

要するに、説明の過程で「国境」という言葉が出てくるような社会現象を延々と並べたてているようなことで、わたしとしては、特に刺激的な洞察はなかった。人文地理学というか、国境の文化誌というか。たとえば、国境管理の実際とか各地の国境線の引かれた経緯とかが詳しく書いてあったり、あるいは「現存在にとって境界線とは何なのか」というような哲学的な考察がされていれば面白いと思うが、そんなことにはなっておらず、中途半端な分かり切った一般論ばかりで、発見がない。と言っても、これでも斬新なことが書いてあるように感じる人もいるようなので、もちろん全否定はできないが、わたしとしてはVSIの中でもなかなかのハズレだった。何かの事情で、相当「国境」という概念に思い入れがある人には、もしかすると面白いのかもしれないが・・・。

Frankly speaking, this book bored me. A natural history of boarders of nations. No inspiring analysis, no curious facts. Maybe for high school students?

2012年12月14日金曜日

Martyn Lyons "Books: A Living History"

随分前からダラダラ読んでいたら、最近になって日本語訳が出た模様。「本の歴史」みたいな本は色々あるが、ひとまずこれが標準的と考える。本好きはこれを読んでおいて損はなかろう。個人的にはエルゼビア社の経緯が印象に残っているが、全体的に静かで平和な歴史なんで、かなり本が好きでないと退屈するかも知れない。図鑑ということになっているようだが、確かに写真が多いものの普通に通読してもなかなかのボリュームである。

それはそれとして、ボリュームという単語はラテン語"volvo"「回転する・巻く」の過去分詞"volumen"「巻き物」に由来し、英語の"volume"を日本語の「巻」に訳すのは偶然なのか必然なのか誰かの意図があったのか。自動車会社"volvo"はもともと軸受の会社である。そして巻線可変抵抗器あるいは音量も"volume"であるのも偶然ではなく誰か博識な人の意図的なものだったのかもしれない。そんなことはこの本には書いていないが、読んでいて色々余計な調べ物をしてしまう本ではあった。

A standard book of history of books including lots of photos for all book-lovers.

2012年12月12日水曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid # 7: The Third Wheel"

ISBN-13: 978-1419705847
Harry N. Abrams (2012/11/13)

Movie DiaryとDo-It-Yourself Bookを別にすればシリーズ七作目。出版されたばかりだが、既に日本語訳が出ているようだ。例によって日本語訳は見てもいないが、こういうのは翻訳すると面白さが半減以上するのが分かっているので、無理にでも原書で読むことをお勧めする。そして、日本語タイトル「グレッグのダメ日記」は、今からでもいいから、「グレッグのイケてない日記」にしたほうが良い。つまり、アメトーークのあのノリなのである。

実際、本質的にはギャグなのだが、読んでて本当に悲しくなることがある。特に今回については、女子にモテないという話であり、本人はそんな面倒くさいことはあまり気にしない性質なのだが、一応工夫を重ね、そして報われないのであった。イケてないけど、本人は第一に怠惰であり、怠惰であるために様々な創意工夫があり、あまり友達がいなくても彼なりに楽しく生活しているのであった。子供がこのシリーズにハマっているとか自慢しているお母さん方は、一体自分の子供が何を読んでいるのか知っているのであろうか。

原書のサブタイトル"The Third Wheel"は「余計な奴」の意味。これと日本語訳のサブタイトル「どんどん、ひどくなるよ」を比較すれば、中身を読むまでもなくテイストの違いは明らかであろう。

Hilarious, yes, still, I sometimes feel really sad. I am not mature enough to laugh these things away.

2012年12月9日日曜日

Leslie Holmes " Communism: A Very Short Introduction"

ISBN-13: 978-0199551545
Oxford Univ Pr (2009/9/21)

日本語で共産主義というタイトルの本があったとすると、教義の面倒くさい解説を想像するし、英語でcommunismというタイトルの本があったとすると、共産主義政権下で庶民が如何に苦労したかという憂鬱なエピソードを想像する。実際The Soviet Unionはそんな感じだし。しかし、この本はそういう話も少しは含むが、基本的には共産圏の政治経済史だ。ロシア革命~ソ連崩壊、中国の繁栄まで、共産圏をテーマごとに横断的に解説。こんな話に誰もが納得する中立的な記述なんかあるはずがないが、わたしには十分冷静なように思えた。

こういう本を面白がる理由の一つに、そもそもわたしに世界史の知識が欠けているということがあるのかもしれない。何となくソ連と中国があまり仲が良くないのは知っていたが、何となく東欧はソ連が全部一枚岩の圧政を敷いているような気がしていた。実際には、ブロックの中でも色々齟齬があって、全部が全部ソ連の言うことを聞いていたわけでもないようだ。ワルシャワ条約機構がチェコに侵攻した時、ルーマニアは侵攻を拒否した。アルバニアやユーゴは、ソ連の助けなしに共産党が政権をとっているのでソ連の言うことを聞く義理がない。ソ連がアフガニスタンに侵攻したのは、現地の共産主義が酷過ぎるので穏当な共産主義をインストールするためであった。ベトナムがカンボジアに侵攻したのも同じことであった。

そんなことは常識だというような人には、この本は初歩的過ぎるかもしれないが、わたしとしては非常に面白かった。現に日本のごく近くに、未だに共産主義政権が約二か国ほど存在しているのだから、日本人的には勉強しておいて損はないだろう。歴史以外にも共産主義政府の運営方法なども易しく解説されている。それにしても、冷戦期というのは面白い。The Cold Warも面白かったし。

I know that the term "communism" has a very bad connotation in anglophone countries. Calling someone a "communist" may constitute a slander. In Japan, the situation is a bit different. Japanese intelligentsia tend to be left, as in Latin-America and maybe, in France. And now, as Holmes maintains, neo-liberalism has lost its legitimacy, one of Japan's communist neighbor is prospering, and the other neighbor is becoming more and more dangerous, we should know how communist thinking work.

Though there is no way to write on this theme so that everyone finds neutral enough, I found this book is well level-headed. It is not a simple anti-communist propaganda as is often the case with English books on communism, though it does not praise communism, either.

2012年12月6日木曜日

Serge Guinchard, Thierry Debard "Lexique des termes juridiques 2013"

フランスの法律辞書。まだそれほど使っていないが、非常に良い。まず版形がいいし、手触りが良いし、何より印刷が二色刷りで実に見やすい。これは辞書、特に法律辞書では超重要なことだ。かつ、"ACTU"ということで、最新の法律の動向も簡明に解説されているのも強力な利点である。Gérard Cornu "Vocabulaire Juridique (9e édition)"のほうが情報量は多い気もするが、こちらの利点は圧倒的で、先に手が伸びるのはこちらだ。

Très bon, très pratique, très clair. Surtout, très beau donc très facile à lire. C'est le point le plus important pour un dictionnaire, particulièrement si c'est un dictionnaire du droit, n'est pas?

2012年12月5日水曜日

Norman K. Denzin " On Understanding Emotion"

学生の頃に読んだ本で、「現象学的」という言葉に惹かれて読んだのだった。それに、デンジンという名前がかっこいい。ただ、わりと真面目に現象学を勉強していた身としては、あまりに現象学用語が簡単に扱われるのが、英語の簡単さと相まって拍子抜けした記憶がある。別にこれで象徴的相互作用論Simbolic Interactionismを見限ったりはしなかったが、「この程度か」と思ったのも事実だ。

当時は感情について何か社会学的に構成できないかと考えていて、今でもそういう人は多いのではないかと思うが、イマイチ冴えた研究がない。分かりやすいのは、「恥」とか「罪」とか「甘え」とかだが・・・。社会規範としての感情というのは、研究分野として可能性があると思うが、多分、現象学ということではないんだろうな。とは言え、そんなことを考えている人は、目を通しておいていい本。もっとも、この本の能書きに従っても、あまり何も生まれてこないと思うが・・・。

The name "Denzin" sounds cool. If you are interested in sociology on emotions, this book is a must-read. Though, I do not know if the instructions in this book are so productive....

2012年12月3日月曜日

Klaus Dodds "The Antarctic: A Very Short Introduction"

ISBN-13: 978-0199697687
Oxford Univ Pr (2012/9/7)

南極の入門書・・・だが、南極の自然環境についてではなく、地政学である。実際、この著者はGeopolitics: A Very Short Introductionの著者でもある。これは少し説明しないと分からない。

現在、南極大陸は、南極条約とかで採鉱とか軍事利用とかは禁じられているし、どこの国もどこにでも観測基地を作っていいし、飛行機で飛んでも良い。というわけで、日本では、南極大陸はどこの国の領土でもないというように教えられているし、地図上もそうなっている。だが、そうは教えていない国が世界には7つある。はっきり言うと、イギリス・アルゼンチン・チリ・ニュージーランド・オーストラリア・フランス・ノルウェーで、これらの国は南極条約を受諾しているが、領有権の主張をやめたわけではない。

この本の大半は、醜い領有権争いに当てられている。日本で南極といえば、アムンゼンやらスコットやら白瀬とかの冒険とか、昭和基地とかの科学調査活動が第一に思い浮かぶが、そういう活動も一々領有権争いと密接に関連していてうんざりする。幸いにして日本は南極大陸の領有権を主張していないが、この騒動と無関係ではない。一番大きいのは捕鯨で、オーストラリアの主張するところのオーストラリア領南極大陸の近海で捕鯨をしたというので国際司法裁判所に提訴されている。つまり、南極大陸の領有権問題自体は南極条約で棚上げされているが、大陸棚とか経済排他水域とかは未解決のままなのである。もちろん、日本はそもそも南極大陸がオーストラリア領であること自体を認知していないし、そんなあやふやな根拠で国際司法裁判所が領海権などを認めるとは思えないが、捕鯨そのものについては絶望的な少数派ということもあり・・・。

著者がイギリス人であり、この本がイギリスの本であることも覚えておくべきだろう。イギリスは南極大陸の領有権を主張している国の一つであり、その範囲がアルゼンチンとチリと重なっている。だからと言って、この本の記述が不公平だとかいうことではないが、たとえば、領有権を主張していない中国やアメリカで出版される本なら、ニュアンスが違ってくる可能性はある。わたしとしては、入門書としてはひとまず十分で、詳しく調査する用事が出来た時の備えになった。

A book on ugly contestations over sovereignty of Antarctica. Depressing, but an ugly truth.

Scott Adams "Dilbert 2013 Day-to-Day Calendar: I'd like to thank all of you for your utter apathy."

今年も一年使ったが、来年もやはりデスクトップはこれで。Dilbertカレンダーは何種類かあるけど、day-to-dayがお得。研究者・技術者のデスクに最適。何となくわたしの気分だけど、主人公Dilbertの身分相当の人でないと、似合わない気がしなくもない。たとえば、管理職とか女性とか営業とかのデスクにこれがあったら、ちょっと気持ち悪いかもしれん。Peanutsを使ってた時もあるけど、今となっては、わたしのカバー率が相当高くなってしまった。

My favorite one. Recommended for all Dilbert-like people. It would be odd if this calendar were seen in a room of a CEO, marketing, etc.

2012年11月30日金曜日

H. P. Lovecraft "The Shadow over Innsmouth"

いわゆるクトゥルフ神話の代表作。ラブクラフトの作品は昔に大抵読んでいて、二流だとしか思っていなかったが、ふと思い出してもう一度これを読んでみたら、記憶にあるよりは面白かった。世界観自体は好きなんで・・・。

どの辺が二流かと言うと、最大の理由は、「なんでか良くわかないけどとにかく嫌な感じを受ける」という類の主観的な描写が多過ぎるのである。正しくは、hideousとかhorribleとかいう主観的な形容詞は最小限にして客観的な描写に徹し、読者にこそ主観的な恐怖を体験させるべきなのではないか。エロ小説の描写で「エロい」とか「淫らな」とかいう言葉を多用している状態を想像されたい。ラブクラフトの場合は、読者が受けるべき印象を、一人称の主人公の受けた印象として描写してしまう。あとは、読者がいかに自分で自分を怖がらせるかに掛っているわけだ。

他にも文句は色々あるが、基本的にわたしはSAN値が高いので、ホラーに対して厳しい傾向がある。この小説もハッピーエンドにしか思えない。しかし、この小説の価値はそういうことではなく、神話の入門ということにあるのだろう。その意味では必読書である。この小説を元にした日本語のテレビドラマ「インスマスを覆う影」は名作だった。やはりハッピーエンドとしか思えないが・・・。

Ia! Ia! Cthulhu fhtagn! Ph'nglui mglw'nafh Cthulhu R'lyeh wgah-nagl fhtaga....

2012年11月24日土曜日

Geoffrey Hosking " Russian History: A Very Short Introduction"

ISBN-13: 978-0199580989
Oxford Univ Pr(2012/4/7)

ロシアの壮絶な歴史。まずキエフ(今はウクライナだが)がモンゴルにさんざん蹂躙されるところから始まる。キエフは地政学的に防御が困難で、常に騎馬民族に襲撃される町なのである。その間、北のノブゴロドは森林に守られていることもあり、大人しくモンゴルに屈服して朝貢していた。反対側からバイキングだとか言ってスウェーデン人が攻めて来ていたので、モンゴル人の相手をしている場合ではなかったのである。しかし、この間、モンゴル人から統治術を学んだことが、ツアーによる専制からプーチンによる専制まで長い影を落とすことになる。

その後も一方では、キプチャクだのタタールだのコサックだのトルコだのから侵略されるし、他方ではスウェーデンだのリトアニアだのポーランドだのドイツ騎士団だのから侵略されて、一々の細かい戦争まで取り上げられていない。日露戦争に至っては一言も触れられていない(年表には辛うじて載っているが)。つまり、日露戦争なんか、遠くの国境でロシア軍が負けただけの話であり、そんな程度のことはロシア史では日常茶飯事で、一々書いていたらキリがないのだ。実際、ナポレオンのモスクワ侵攻も一ページ少々で済まされているくらいで、もともとロシアのやってきた戦争の数が、日本なんかとは桁が違う。

そして最終的にはスターリンという大災害に見舞われるわけだが、この本を読んだ感想としては、こんな過酷な条件の国は、どんな天才的な政治家が出てきても、キレイにまとめることは不可能ではないかと思われる。良く今まで生き残ってきたし、日本史というのが如何に平和ボケな歴史かというのが痛感される。とにかくロシア史というのは戦争だけでも盛り沢山なので、世界史に疎いわたしですら、もう少し書いてほしいと思うところが色々あった。ただ、わたし同様にロシア史について詳しくない人が読む分には退屈はしない。地図が一切載っていないので、Google Mapsは必須だ。

Fascinating. Lots of wars. Mongols, Kipchaks, Tatars, Cossacks, Lithuanians, Poles, Turkey, Sweden, German knights, France.... Finally, Staling. A history of a great survivor.

2012年11月23日金曜日

T. F. Hoad " The Concise Oxford Dictionary of English Etymology"

結構長く使っている英語の語源辞典。本気で語源の研究をする人は、もっと分厚い専門書を探したほうがいいし、語源で英単語を覚えたいとかいうことなら、他に日本語でも良い本があるのかも知れない。わたしの場合は、複数のヨーロッパ言語を使うので、時々語源が気になって調べたくなるくらい。実際には、Online Etymology Dictionaryでも大体間に合うのだが。これとラテン語・ギリシア語をはじめ、いくつかのヨーロッパ系の言語の辞書を持っていると、結構ヒマが潰れたりする。

A standard Dictionary of this kind. I speak several languages of Europe so sometimes I maniacally search many dictionaries including this one.

2012年11月18日日曜日

Stephen Mumford "Metaphysics: A Very Short Introduction"

ISBN-13: 978-0199657124

Oxford Univ Pr(2012/9/8)

形而上学の入門書。いきなり「テーブルとは何か」から始まる。唯名論と実在論とか、空間の最小単位とか、時間の流れる速度とか、物体は延長と不貫入性を持つとか、不在は原因たり得るのかとか、同一人物の定義とか、形而上学の定番の問題がぞろぞろ解説される。言っていることは特に難解でもないので、高校生でも理解できると思われる。

問題は、こういうことを子細に考察して何の役に立つのかというところだろう。おそらく、「面白いからそんなのはどうでも良い」という人種でないと、こういう研究はできないが、一応著者も最終章で弁護を試みており、わたしはあまり同意ではない・・・。個人的には、どちらかというと、こういうのは現実の仕組みというより人間の思考の仕組みを調べているというカントの説に賛成だ。もっとも、現実と人間の思考をそんな明快に区別できるとは思わないが。この本に限らず西洋哲学全般に「個人の内面に与えられるもの」を絶対視することにより、本質的に独我論的であり、外界と個人を接続するのに必ず神が必要になる。そういえば、この本で独我論が取り上げられないのは示唆的ではあるまいか。わたしとしては、ヴィトゲンシュタインとデリダで終わっている。まあそこまで大きく考えなくても、一体何が問題で、それが何に還元されたら解決ということになるのか、ということについては意識的に考えながら読んだほうが良い。

それはそれとして、この著者の眼中にないようだが、形而上学には少なくとも一つ実用性があった。つまり、情報科学である。多少とも情報科学を学んだことがあれば、「モナド」とか「アフォーダンス」とか「オントロジー」とか形而上学用語を聞いたことがあるはずで、つまり、プログラムには世界を写し取るという面があり、特に言語理論や人工知能の研究は形而上学から様々な示唆を受けているのであった。SEのための数学とかSEのための会計学とか適当な本が多いが、そういうことならSEのための形而上学という本も執筆されるべきなのだ。

Easy to read for beginners. Typical topics in metaphysics are introduced and readers are invited to think themselves. In the last chapter the author tries to defend the value of metaphysics, which I do not totally agree. It is not mentioned in this book though, metaphysics is useful at least in one industrial area: information science. I want to read a book with a title, for example, "Metaphysics for AI".

2012年11月14日水曜日

Mignon Fogarty "Grammar Girl's 101 Misused Words You'll Never Confuse Again"

間違いやすい単語を101集めたもの。と言っても、アメリカ人が間違いやすいだけで、日本人が間違いやすいとは限らない。たとえば、heroinとheroineは日本人でも間違えるかもしれないが、setとsitを間違える日本人がいるとは思えない。hilariousとhystericalみたいに別にどうでもいい気がするのもあり。GorillaとGuerrillaとなると、ふざけているとしか思えないが、そんな風でもないので、もしかしたらマジなのかもしれない。一項目あたりが短いし、大学一年生くらいでも英語学習として気軽に読めそうだ。何より安い。

A collection of short explanations about confusing words. Easy to read even for foreigners. Though these words are confusing for Americans, not necessarily for foreigners.

2012年11月12日月曜日

Douglas Adams "The Hitchhiker's Guide to the Galaxy"

SFファンでもない他人に一冊だけ古典的SFを勧める段になって、堅いのは"The Door into Summer"と思っているが、これもアリかもしれない。コメディだが、古くなっていない。わたしは最初この本をオーディオで少し聞いて、「カブト虫のジュース」という単語を覚えた。

A classic SF. Hilarious. I listened to an audio edition first and learned that there is juice of beetles.

2012年11月10日土曜日

Alain Bauer, Jean-Louis Bruguière "Les 100 mots du terrorisme"

フランス語。読んでて鬱になるが、100語でわかるテロリスムというところで、日本語訳すれば売れると思う。やはりテロというのはフランス語やスペイン語でやるものなのだろう。つまり、その辺が宗主国というか元凶なのである。基本的には少数民族・共産党・イスラム教の仕業で、日本からはオウム真理教がエントリー。毒ガステロは、その後出てこないが、テロリストとしてオウムの科学力は群を抜いていたらしい。しかし、欧米に比べれば、日本はのんきなものだ。テロといっても色々なパターンがあり、「そんなんで社会が変わるわけないだろ」というような、原理主義とかオウムとかみたいなテロもあるが、現実に国家主権を排除して地域を支配している集団もある。個人名も結構挙がっているが、目的なんかどうでもよくて、単に職業としてテロリストみたいなのも多い。日本人が読むと、結構、常識を覆されるのかもしれない。

Au Japon il n'y a pas beaucoup de terrorisme. Aum sinrikyo était une exéption notable. Peut-être que la France et l'Éspagna sont les pays origines.

2012年11月9日金曜日

Theresa Neil "Mobile Design Pattern Gallery"

ISBN-13: 978-1449314323

スマホ用の画面デザイン集。この類の本の通例として当たり前のことしか書いていないが、既知のパターンの分類標本展ということで、状況の整理と語彙の提供という点に意義がある。似たような本は他にもあるのかも知れないが、出版社の力があるので、これが当面標準ということになるだろう。従って開発側にいる人は必ず目を通しておいた方がよい。

Does not provide novel ideas. Just a standard classification system and standard controlled vocabulary. A must-have for everyone in this area.

2012年11月8日木曜日

June Casagrande "Grammar Snobs Are Great Big Meanies: A Guide to Language for Fun and Spite"

この超重要な本を紹介するのを忘れていた。この本が日本であまり読まれていないようなのは、けしからん。一通り英語の文法に自信があって、TOEICで満点を取れるくらいなら、一度この本は読んだ方が良い。要は、英語の世界でも日本語の世界における「正しい日本語」と同様に、「正しい英語」というのにやたら口うるさい人がいるものだが、この本はそういう人をバカにする本。Strunk & Whiteだとか、"The Chicago Manual of Style"だとか、Swanだとか、他にもその手の「正しい英語マニュアル」はいっぱいあるが、そんなものを読む前に、まずこの本を読むべきだ。この本は、その手のマニュアルをすべて比較対照して、相互の不一致とかも一々指摘している。この本を読んだ後で、それでもマニュアルに拘るのなら、もう止めない。

タイトルから明らかなように、著者は英文法に関してはかなり寛容で、「問題な英語」みたいな例について、「別にどっちでもええやん」みたいなことを言う傾向がある。わたしも、「正しい日本語」みたいな本にムカつく傾向があるので、外国人だが、わたしはこの著者を断固支持する。ただし、この著者はこの著者でかなり性格が悪いので、イヤな人はイヤかも知れない。続編とも言うべき"Mortal Syntax"も、パワーは落ちるが、やはり面白い。もとが新聞のコラムだから、英語も簡単で読むのが楽。

I am not a native speaker of English. Still I find this book very fascinating. There are lots of similar grammar snobs of Japanese language. And I am not a strict type, either.

Nancy Duarte "Resonate: Present Visual Stories that Transform Audiences"

評判だし、プレゼンをする機会がないこともないので読んでみたが、こういう本にしては多分良い部類なんだろう。この本の言うプレゼンは営業的な意味合いが強く、従って感情の煽り方が重視されており、聴衆の思考力には期待していない。巧言令色みたいなニュアンスが付きまとうのは避けられず、そこに引っかかる人はこんな本は読めない。ただし、他人のプレゼンを冷たく裏読みするのには役に立つというような・・・。

それにしても、たとえば、聴衆の気を引くために数字を出すという手法があるが、「毎日x人が死んでいます」みたいな数字は、「またこのパターンか」くらいで記憶に残ったためしがない。いかにも「プレゼンの手法を勉強した人」みたいな印象は受けるし、それこそが重要ということもあり得るが。ゴミの排出量を東京ドームで表すなら、埋立地やゴミ処理場の能力も東京ドームで表してもらわないと意味が分からない。早い話が、流暢なプレゼンを心地よく聴いて後に何も残らないより、多少、客に頭を使わせたほうが良いこともあるんじゃないかね。

細かい話はキリがないが、この本の最大の欠点は、この本自体がプレゼンとして面白く無さ過ぎるということだった。ただ、アメリカでも評判みたいなので、社内社外の営業活動をする人は読んで損はなさそうだ。大学で講義するとかいうことだと、多分あまり参考にならない。

Rumor has it that this is the best book of its kind. I seldom read this sort of book. I can only say that this book itsself is rather boring.

2012年10月25日木曜日

Dashiell Hammett "The Maltese Falcon"

これも古典的傑作。ハメットは当り外れがあるが、これと"The Glass Key"と"Red Harvest"は間違いない。そのうち村上春樹訳で「マルチーズ・ファルコン」とか翻訳されたら嫌だ。

No need for my opinion.

2012年10月23日火曜日

Raymond Chandler "The Little Sister"

ISBN-13: 978-0241954324

村上春樹訳を見かけたので懐かしくなった。もっとも、わたしはなぜか村上春樹が好きくないので訳本を読んだりはしないが。チャンドラーの作品はほとんど読んでいると思うが、一番印象に残っているのがこれ。世間での評判はイマイチらしいので、チャンドラーファンを増やすには"The Long Good-bye"とかを勧めたほうが良いのかも知れないが・・・。念の為にチャンドラーは一応推理小説の範疇に入っているが、推理して犯人が分かるわけではない。いわゆるwhodunnitではなく、都市型冒険小説というか、まあ要するにハードボイルド。

In my humble opinion, this is the best Marlowe.

John Whitington "PDF Explained"

ISBN-13: 978-1449310028

PDFに関しては、簡単な解説とか入門書がなく、これを手にとるしかないわけだが、決して分かりやすい本ではない。具体例にそって良心的に解説されてはいるが、どうも全体像が見えないというような。どのみちわたしは詳細に理解する必要がないので、この程度で間に合うわけだが、それにしても、分厚いマニュアルに少しずつでも浸透していったほうが速いかもしれない。人それぞれだと思うが・・・。

Well, if you need to get a notion of what a PDF file is, this book will suffice. However, This book does not show you a way to go further. Maybe getting a boring heavy manual and trying to get a grand picture out of that is a better idea.

2012年10月20日土曜日

Claudio Tuniz "Radioactivity: A Very Short Introduction"

放射線科学の概説書。もちろん、核兵器とか原発とか人体への悪影響の話もあるが、特にそういうテーマに重点があるわけではない。その部分に関しては、普通の日本人はこの本に書いてある程度の知識は既に備えているだろう。他に医療や農業や非破壊検査など、放射線の利用は多岐にわたり、ページ数を一番割いているのは、地質学の話であった。この辺りは、ほとんど放射線と関係のないようなことまで詳しく解説されており、ムダに人類史に詳しくなる。今から七万年前、人類は数千人だったとか・・・。もちろん、年代測定で一々放射線が活用されているということなのだが、何の解説なのか分からなくなる時もあった。個人的には、IAEAが水資源探査に随分資源を割いているのがイマイチ理解できていなかったが、ようやく合点が行った。

というわけで、フクシマがどうとか、核テロがどうとかいう話にのみ興味があるムキにはお薦めしない。もっとも、ベクレルとシーベルトの区別がつかないとか言う人は、この本くらいから放射線の基礎知識を勉強する手もある。放射線の応用範囲の広さもよく分かるし、扇情的な解説書より読むのが楽だ。

A brief overview of applications of radioactivity. A great part is dedicated to earth science. Bad effects on the human body and nuclear power plants are mentioned but not extensively, though if you do not understand the difference between Bq and Sv for example, you might want to study first this book. Applications include agriculture, medical uses, nondestructive inspection and water resource search.

Caesar "De Bello Gallico"

思い出し次いでに、古典ギリシア語の入門&標準に最適な名文がアナバシスだとすれば、古典ラテン語のそれに相当するのが「ガリア戦記」なのであった。岩波文庫の翻訳がわりと酷かった記憶がある。その後、アエネーイスとか読むことになっているが、その辺りで、西洋古典の道は諦めた。西洋古典を志す若者への忠告としては、一生働かなくていい身分でない限り、こんなのを主たる専攻にするべきではない。もっとも、西洋史学とか西洋文学とか西洋哲学の専攻で全然ラテン語が読めないというのも、真面目な人間とは思えないが・・・。趣味で学ぶ分には、一生退屈しない。いい加減な作家の歴史小説を読むよりずっと古代ローマ人に近づいた気になれる。ついでに、ラテン語はギリシア語よりずっと易しい。

We were supposed to read "De Bello Gallico" after having mastered grammatica Latina.

Ξενοφών "Ανάβασις"

ギリシア語のことを聞かれて思い出した。わたしが古典ギリシア語で読んだ唯一の本であった。「アナバシス」は、おもに古代軍事に興味のある人が読んでいるようだが、実は、古典ギリシア語を一通り学んだ後、最初に読むべき本とされていた。クセノポンは、哲学者としては二流みたいなことになっているが、古典ギリシア語としては標準的な名文とされているのであった。ギリシア語は時代や方言があり、「イーリアス」用のギリシア語やら「新約聖書」用のギリシア語やら、いろいろあるわけだが、いずれの分野に興味があるにせよ、まずはアナバシスを読むことになっているのである。それからアンドロマケーを読んで、というような道が推奨されていて、実際、そういう風に進んだ遠い日の記憶・・・。ただ、今のわたしなら、現代ギリシア語から学ぶかもしれない。現代ギリシア人は「イーリアス」を普通に読めるらしい。どうも、現代日本人が「源氏物語」を読んだり、現代イギリス人がシェークスピアを読むより楽なようだ。それはそれとして、内容もまあまあ面白いが、なにせ古代の本なので、退屈な部分も多々あるのは仕方がない。

We were supposed to read Anabasis first after having mastered basic classical Greek grammar. So told and so did I. Only book that I have ever read in Greek.

2012年10月18日木曜日

F Scott Fitzgerald "The Great Gatsby"

退廃で思い出した。これも美しい英文で癒される。なぜか分からないが、わたしは、冒頭に語り手の父によって語られる教訓を強く記憶していて、今でもやたら人にも推奨する。そして主人公登場シーンは、語り手並みに驚いた。大したことでもないのだが、小説を読んでいてあれほど驚いたことは他にない気がする。どうでもいいが、SnoopyがGatsbyの真似をする一連のマンガがあって、この小説を読んでいないと意味が分からない。翻訳は全然知らないが、タイトルに関しては、「華麗なるギャッツビー」のほうが退廃感があって好きだ。

Another healing decadence.

Joyce James "Dubliners"

これは白鯨を読み終わった後に、同じような感じでダラダラ読もうと読み始めて、直ぐに読み終わってしまった。これは明白に記録が残っていて、十年前。美しいというのもあるが、わたしとしては退廃的という感触が強かった。美しい退廃は癒される。研究家的には色々「飯の種」的なものが含まれているらしいが、どうでもいい。

Beautiful decadence has healing properties.

Herman Melville "Moby-Dick: or, The Whale"

これを読んだのも随分昔で、なぜ今更かというと、Googleで出版107周年記念になっていたから。しかし、実際、わたしにとっては思い出もあり・・・。第一に、わたしが英文で読んだ本では、最長の部類に属する。読むのにかかった時間は間違いなく一番長い。五年か六年くらいかかった。第二に、実際面白かった。面白いのになかなか読み進まなかったのは、昔の小説にありがちな退屈な部分も相当あるからだ。鯨の解剖学だとか、船舶英語とか、調べないと意味が分からないが、分かっても別に面白くないというような・・・。日本語訳もちょくちょく見たが、結構誤訳があった記憶がある。文章が時代がかっているので、仕方がない。しかし、休み休みとは言え、それだけ長い間一冊の本に付き合っていると、読み終わる時に独特の感慨もあるもので、ちとこれは説明しがたい。特にエンディングがアレなんで・・・。まあ有名古典なので万人が読むべきだが、英語の難易度はかなり高いという点は覚悟が必要だ。

A classic tale of whale-killers. By the way, I hate whale.

2012年9月29日土曜日

David A. Gerber "American Immigration: A Very Short Introduction"

ISBN-13: 978-0195331783

アメリカの移民史と現状。初期の移民からアイルランド系の問題やら、排日運動やら、最近のヒスパニックやら。標準的な教科書と言えるだろう。右か左かと言えば左だが、このレベルの基礎知識に右も左もない。個人的には北米の日系移民について調査した経験があるので、懐かしく読んだのみ。どのみち、日本人から見ればアメリカ人は全員移民なのであり、今更移民を排斥したりするのも、やや滑稽ではある。というか、国家というものは、いつから人の移動を制限できるようになったのかとか、根本的に考えたくもなる。EUなんかなくても、昔はヨーロッパもパスポートなしで移動できたのだ。

A standard concise history of American immigration. If right or left, this book is on the left side, though that does not matter at this basic descriptive history, I guess.

2012年9月14日金曜日

Mignon Fogarty "Grammar Girl's 101 Words Every High School Graduate Needs to Know" (Quick & Dirty Tips)

タイトルの通り、確かに知っていないとマズい単語が101個。英検二級くらいじゃないかな。知らんけど。と言っても"kudzu"がそんなことになっているとは知らなかったが・・・。一単語につき一ページまたは二ページで、余白も多いので気が楽。これはこの手の本では重要なポイントだと、わたしは考えている。

One or two pages per one word. Lots of blank spaces. Innocuous illustrations. I mean very good. I hate dictionary style word books.

2012年9月9日日曜日

Ian Robertson "The Winner Effect: How Power Affects Your Brain"

ISBN-13: 978-1408824733

安倍首相なんて、久しぶりに思い出した。今なら橋下市長などは、この本の読者の格好の研究対象になるだろう。日本語訳のタイトルをつけるとしたら、直訳は「勝者効果」というところだが、内容的には「権力の心理学」というところ。心理学で言えば、Kahnemanも衝撃的だったが、これもなかなかのものだ。誰か翻訳作業中かなあ。amazon.comでも一個しか書評がついていないようだが。まだ出て間もないから仕方ないけど、もっと読まれるべき。

勝ちたいと思うこと、勝つこと、社会的地位が高いこと、他人に対して影響力を持つこと、権力を持つことが、脳にどういう効果をもたらすかの解説。勝ち組である(と感じる)ことは、良い面としては、確かにある種の能力を高める。原始的な話で言えばセクシーになる。集中力が増したり、活発になったりする。負け組であると感じている人は、力を発揮できない。等々。ただしマイナス面もあり、話としてはこっちのほうが面白い。まず、自分が他人からどう見られるかを判定する能力が低下する。他人への共感力が低下する。等々。一つ一つに脳科学的な説明が続く。

考えてみれば、日本でも、ある程度は聡明なはずのワンマン経営者が、素人以下の情勢判断をして大顰蹙を買うということは良くあって、なんでそんなことになるのか不可解だったが、やっと腑に落ちた気がする。あと、いじめ問題とか、一方が他方を軽蔑している夫婦とか、ブッシュとブレアの不可解な戦争とか、差別が被差別者の脳に浸透する仕組みとか、色々勉強になって、ここには書ききれない。

シチュエーションとしては、政治や経営の話が多いが、家族・学校・病院・刑務所等々でも、要は、権力が問題になるようなところでは、誰でも身近に感じるはずのことで、いじめ問題なども取り上げられている。誰もが読むべきだが、特に権力を持つ人は読んだほうが良い。権力はドラッグと同様であり、本人が気がつかないうちに中毒を引き起こす。権力は人を幸福にも不幸にもするし、取り扱い方法を学んでおくべきだ。

というわけで、本当に誰にでもお薦めできる本ではあるが、特に書き出しが全然面白そうでないという重大な欠点があった・・・。叙述パターンとして1具体事例の描写。2脳科学的真実。3「これで全て謎が解明されたのだろうか。いやそうではない。次の例を見よう」の繰り返しになっている。読んでいるほうとしては1「いやそんな個別例を一般化されても」2「その理論は面白いけど、それでこの個別例が説明できるかどうかはまた別では」3「そりゃそうだろう」の繰り返しになり、読書中、ツッコミまくっているような感じになる。超重要かつ明日から使えるような実用的なことを言っているのだが、印象的に損をしている気がする。もう一つ言えるのは、本の中でも言っていることだけど、西洋人の権力観・個人観が、我々東洋人と若干違うということもあり、我々から見ると「少し単純過ぎるのではないか」と思うこともある。しかし、それも色々考える材料にはなる。特に最後のほうの権力感が脳に及ぼす悪影響のほうは圧巻だし、面白くなさそうと思っても読み続けて良かった。英語的にも決して難しい本ではないので、誰にでもお薦めしたい。

I recommend this book to everyone who exerts power on others, especially professionally, i.d. politicians, bosses, teachers, parents.... A major draw back is that the beginning part is a bit boring at least for me. Then it's becoming more and more interesting and the final part, which describes negative sides of winning, is just wonderful. And..., well, I am an east Asian, and I perceive great cultural differences between Westerners and us. Having power is not so simple in Japan... Still of course, we share common sociology and physiology to a great extent and this book is a must-read for both of us.

Jeffrey Brown " Darth Vader and Son" (Star Wars (Chronicle))

これなあ・・・。スターウォーズを大して知らないわたしでも十分に萌えた。

Moe/kawaii or cute.

2012年9月7日金曜日

Peggy Garvin "Government Information Management in the 21st Century"

ISBN-13: 978-1409402060

世界の色々な国での公共図書館における、政府情報の提供に関する論文集。第一部は、公共図書館に焦点を当てて、政府情報を提供する際の様々な論点・実例を提示。特に電子政府と図書館の関係が問題になる。政府がサービス窓口として図書館を使っていくという方向もあるし、市民が図書館を通して政府情報に迫っていくという方向もある。情報の保存・アクセス等の問題は、電子・紙資料それぞれにあり、どこの国の図書館も大変だ。特に東欧のようにネットが普及していないのに電子政府だけ確立しているような地域では、アクセスを保証するために図書館を使うという面もあり・・・。

第二部は、情報を提供する側(政府機関)に焦点を当てて、「開かれた政府」の実現に関する様々な論点・実例を提示している。こちらも電子署名の問題やら著作権の問題やらで、具体的には大変だが、方向性はわりと見えている気もする。この辺りは、ヨーロッパ・北米の事例からbest practiceを学ぶというようなことで。

わたしの考えでは、この本は全ての公共図書館司書が読むべきだが・・・まあ、日本では無理だろう。英語が読めないというのは別として、残念ながら、日本と欧米では、図書館員の社会的地位が違い過ぎる。アメリカには連邦政府の寄託図書館制度(FDLP)があり、全米の1200館を越える寄託図書館は連邦政府の情報を保持し提供する義務がある。つまり、少なくともその1200館には政府情報を扱う司書がいるわけだ。もちろん、背景には、政府の透明性が民主主義にとって必須で、米国民には政府情報にアクセスする権利があるとかいう理屈がある。というか、そもそも図書館の数も質も絶望的に違うわけだが。アメリカでは修士を取っていないと図書館で働くのは難しい。

他方、日本の公共図書館で政府情報や法律について尋ねても、素人以下の答しか返ってこない。市の職員ならまだしも、近頃の司書はほとんどがバイトで、まあ司書資格は持っているんだろうが、司書過程では政府情報についてロクに教えていないんだろう。酷いところではTSUTAYAが図書館を経営していて、単なる娯楽施設としか思われていないのだろう。そもそも政府刊行物や法律書を置くスペースもない有様で、民主主義も開かれた政府もあったものではない。

というわけで、この本は、中央・地方の政府の情報公開担当者が読んでくれることに期待したい。正直なところ、日本政府には情報を提供するどころか、情報を収集する能力というか予算すらロクにない気がするが、情報がなければまともな政策を立案できるわけがない。民主主義のためとかいう理屈とは別に、情報の流通が改善すれば、それだけで日本経済に与える影響は大きいと思うのだ。残念ながら、本書では、その件については、アメリカとEUについてしか分析していないが・・・。

I bet this book is already well-know in the library world, because it is published by a famous publisher, Ashgate. Having read this book, I was forced to reflect that Japanese librarians enjoy much lower social status than their colleagues in Europe or north America. Someone must translate this book into Japanese. Or, at least write a review of this book in Japanese.

2012年9月6日木曜日

Paul Krugman "End This Depression Now!"

この本については考えることが色々ある。どうでもいいことから始めると、「さっさと不況を終わらせろ」という残念なタイトルと売り文句で邦訳が出ているが、Amazon.co.jpに少し出ている訳者解説だけでも翻訳の質の想像がつく。この訳者は80年代ニューアカの生き残りか何かなのか。特に、内容が左派(とされている)であることを考えると、本書が誤解されるのが怖い。 もっとも、わたしは翻訳の中身は読んでいない。

内容は、要は、不況なんだから財政出動せよという、普通のことを言っているに過ぎない。もっとも、その普通が通らない世の中なので、わざわざこんな本が出て来るわけだが、真面目にマクロ経済を学んだ人には、特に斬新な内容はない。わたしはマンキューだったが、それでも普通に思える。スティグリッツは不平等の解消が景気回復につながるという点を強調していたが、クルーグマンの場合は本当にただ常識を述べているだけだ。唯一、ユーロ危機については、少し勉強になった気がする。

わたしは経済政策をどうこういう立場にはないが、純粋に政策的には、多分、ケインズ派が正しいのだろう。この本を手に取ったのは、別にノーベル経済学賞を信じているからでも、左派だからでもなく、単にクルーグマンへの批判がアホ過ぎるから興味を持っただけだった。実際、わたしは業務で高名なネオリベ経済学者の講演を聞いたりすることもあるが、内容がどうこう以前に、学者としての資質が疑われる。

ただ、個人的には、この本の冒頭の献辞"To the unemployed, who deserve better."から、既にうさんくささを感じる。言っていることは正しいとしても、こういう大義名分を持ち出す人間は、どうも信用できない。明らかにウけようとしているだけだし、ちょっと安さを感じる。ただ内容はごく普通のマクロ経済学なんで、初心者でも安心して勉強できるかと思う。

As a Japanese friend of yours, I can assure you that living in mild depression is not so bad after all. Deficit hawks should take a look at the situation in which Japanese government is currently placed. America is much larger and stronger than Japan. I just do not understand what Americans are afraid of. And you have great economists, which is not the case in Japan. Cheer up!


2012年9月1日土曜日

Sam Burchers, Bryan Burchers "Vocabulary Cartoons: SAT Word Power"

だいぶ前に読んだ本だが。わたしは単語暗記本は苦手で、別にごろ合わせが入ってもイラストがついても、それは変わらないが、一ページに一語だと気が楽だったというくらい。人によるようで一般には評価が高いようだ。わたしはリアルに本を読んで辞書を引いたほうが全然率がいい。
Standard books for SAT words.

2012年8月20日月曜日

Joseph E. Stiglitz "The Price of Inequality"

世界の99%を貧困にする経済というわけで、こういう本が素早くまともな日本語訳で出ているのは素晴らしいことだ。カーネマンの訳を待ち望んでいる人が多いが、こっちのほうが緊急に決まっている。

実を言うと、この本に書いてあることは、少なくともわたしにとっては既に常識化しているようなことで、特に斬新な話はない。日本の常識とは依然として大きくかけ離れていると思うが・・・。わたしは議論を求める人に「この本を読んでからにしてくれ」と言うことは滅多にないのだが、この本は第一候補になりそうだ。特に経済学の知識がなくてもほとんど理解できるんではないかと思う。なぜなら、明白なことを明白に書いているだけだからだ。今回の不景気は金融機関が規制緩和されてムチャをしたせいであり、従って規制を元に戻せと言うだけのことに、何の難しいこともない。技術的には色々あるにしても、そこまでは踏み込まない。あくまで一般向けだ。そしてスティグリッツ先生の今後の活躍を祈る。日本にもこういうしっかりした経済学者がいればねえ・・・。

This book is very easy to read. Because it states obvious things obviously. Doesn't it? I seldom say, "Wait, first you read this book. After, we're talking about it." This book might be one of few such books.

2012年8月10日金曜日

Henry David Thoreau "Walden: Or, Life in the Woods"

要は森の中で一人で自給自足生活してみたということなのだが、サバイバル生活というわけではなく、普通に町と行き来しているし、他人との交流もある。畑を耕したり釣りをしたり薪を割ったりしているだけで、要は単なるキャンプ生活と考えたほうがいい。よく比較されるが、「方丈記」みたいな隠者生活のようなもので、生活の中で思いついたことを書いてみたというような。

とにかく自然の描写が多いが、北米の動植物に馴染みがないと、あまり意味が分からない。詩情を解する人ならまた違う感想もあるかも知れない。ポイントは文明批判みたいなことだが、田舎で孤独な生活を送っている独身男の上から目線の都市生活批判という構図にカチンと来る人にはお勧めできない。誰でも多少はこういう生活に憧れるところはあると思うけど、具体的に参考になるわけではない。基本的に、文学なんだと思う。

A classic. Unfortunately, I do not understand poesy. However, everybody sometimes would like to go into this sort of lifestyle.

2012年8月6日月曜日

Charles Eames, Ray Eames, Glen Fleck, I. Bernard Cohen, Robert Staples "A Computer Perspective"

計算機の歴史写真集だが、基本的には電子計算機以前の話。やたら著者表示が多いのは、著述するためというより、写真を探しまくったり著作権をクリアしたりするために、プロジェクトチームが必要だったせいだろう。写真がメインで、それぞれの解説は短いが、さらに詳しく調べたくなるような話が多い。計算機自身だけでなく、計算機が必要だった科学・工業・商業分野についての解説も多い。おそらく、写真自体が貴重で価値があるのだろう。

A photo book of mostly analog computers. I guess those photos are themselves precious. Brief explanations are fascinating. They point vast areas where computers were badly needed.

2012年8月2日木曜日

David Salsburg "The Lady Tasting Tea: How Statistics Revolutionized Science in the Twentieth Century"

統計学者列伝というか、特に後半の時代の浅い所は統計学界ゴシップ集というか・・・。わたしは一気に読んでしまったが、基本的にはある程度統計学を勉強した人にしか面白くない気がする。数式は全く出てこず、この本を統計学の素人が読んでも入門にもならない。特に奇人変人が多いわけでもないので、それ自体で読み物として面白いわけではない。個人的にはピアソン・フィッシャー・ネイマン・ベイズのそれぞれの哲学的対立に興味があったのだが、その内容に踏み込むほど深い話にもならない。確率の話も少々あったが、こちらもそれほどは踏み込まない。

A collection of gossips of famous statisticians. Recommended for those who have studied at least a little of statistics.

2012年7月30日月曜日

Maria Carla Galavotti "Philosophical Introduction To Probability" (Csli Lecture Notes)

確率概念に関する哲学の最高の入門書。この本が日本語訳されていないどころか、日本人が読んでいる形跡すら発見できないのはとても残念なことだ。だいたい、日本では確率という概念が哲学的に考察されていないらしい。めちゃめちゃ面白いのに。今まで類書で、Donald Gillies "Philosophical Theories of Probability"もあったが、こちらのGalavotti本はGillies本を完全に越えていると思う。

多少統計学に詳しい人なら、統計学が多大な哲学的問題と神学的論争をはらんでいることは、誰でも知っていると思うが、確率概念も似たようなことになっているというか、もっと酷いことになっている。と言っても、ピンとこないかも知れないので、目次に出てくる人名を挙げておこうと思う。いずれも、確率理論に大きな貢献をした人たちだ。ヤコブ・ベルヌーイ、ニコラス・ベルヌーイ、ダニエル・ベルヌーイ、トーマス・ベイズ、ガルトン、ピアソン、フィッシャー、フランシス・ベーコン、ミル、ハーシェル、ヒューウェル、コルモゴロフ、ラプラス、ロバート・レスリー・エリス、ジョン・ベン、リカルド・フォン・ミーゼス、ハンス・ライヘンバッハ、アーネスト・ナジェル、ピアス、ポパー、ハンフリー、ポワンカレ、ド・モルガン、ジョージ・ブール、ウィリアム・スタンリー・ジェボンズ、ジョン・メイナード・ケインズ、ラムジー、ウィリアム・アーネスト・ジョンソン、ヴィトゲンシュタイン、ワイスマン、カルナップ、ハロルド・ジェフリー、ウィリアム・ドンキン、エミール・ボレル、ド・フィネッティ、リチャード・ジェフリー、パトリック・スップス。

大雑把には、ラプラスの古典的解釈から始まり、頻度派・傾向派・論理派・主観派の四つの派閥が論争を繰り広げている。統計学の世界では、大雑把には、ネイマン・ピアソン派とベイズ派が闘争を繰り広げており、現状では、少なくとも日本の学校の統計教育は完全に前者が支配しているが、一応教科書も周到に考えられており、逆確率の問題などは基本的には出題されない。統計検定も「信頼区間」という難解な概念が採用されている。

それに比べると、確率のほうは、未だに「同様に確からしい」とかいうラプラス以来の雑な論理が学校教育でまかり通っている次第で、要は深く考えるのが面倒なんだろうけど、こういう本を翻訳して少しは考えるべきなのだ。予備知識としては、初歩的な確率・統計理論、特にベイズの定理はよく理解している必要はあるが、基本的には数式は出てこない。あと、量子力学については、技術的細部について知っている必要はなく、ポピュラーサイエンス程度の知識でも問題ないだろう。

The best introductory book of this kind. We know a lot about controversies in the area of statistics, namely Neymann-Pearson vs Bayesian. However, there are a lot more intense controversies among four schools of probability. Really fascinating.

2012年7月10日火曜日

Gérard Cornu "Vocabulaire Juridique (9e édition)"

フランス法の標準的な辞書。使い始めて半年くらいだが、そこそこ役に立っている。もっとも、意味が分かったところで、日本語にどう訳すかは別問題だが・・・。

Un dictionnaire standard pour le droit français. Très pratique.

2012年6月25日月曜日

Morris L. Cohen, Kent C. Olson "Legal Research in a Nutshell"

アメリカ(連邦・州・外国)の法情報調査のガイドブック。版を重ねているだけあって、この類の本としては、今まで見た中で最善だと思う。

どうでもいい点から褒めると、まず装丁がいい。ペーパーバックながら手触りの良いしっかりした紙、小さめの版形に、美しい厚さ。印刷がきれいで読みやすい。英文も素晴らしく易しく、カビ臭い法律書や重いデータベースにうんざりしている時に、実に心が安らぐ。版を重ねているので、わりと最新の情報を反映しているし、間違いもほとんどないことが予測される。

内容としては大体一般的で、調査一般論、成文法の調査、判例の調査(sheparding)、行政機関による規則等、外国法、国際法・・・etc. わたし的には"Legislative Information"(Legislative histories)の章が貴重だった。類書では手薄になるところだ。オンライン資料の紹介も、政府サイトのほか、West、LexisNexis、HeinOnlineその他商用サイトを偏りなく紹介。ロースクールみたいな環境なら問題ないし、無料サイトだけでも相当なところまで調べられる。参考文献の指示も充実している。

英米法について全くの初心者がこれを読んでも厳しいと思うが、多少知識がある人から専門家まで、広い範囲の人が手元に置いて使っている。初心者には、Noloの"Legal Research"が演習形式で独習できて良いと思うが、既にアメリカ法の基本は分かっているというのなら、いきなりこの本を片手に調査しても良さそうだ。

A simple & beautiful book especially when you are fed up with legal materials. Above all I love chapter 5 "Legislative Information" since other similar books tend to scamp this part. This book is from West, but it treats West, Lexis, Heins equally.

2012年6月18日月曜日

George F. Ritzer "The McDonaldization of Society: 20th Anniversary Edition"

この本は「マクドナルド化する社会」ということで、当初はそこそこ日本でも売れて、その後、版を重ねている。社会学を勉強しているなら、必読書ではあるが・・・。酷い言い方をすれば、「世の中何でも便利になって画一化されて苦労しなく済むようになって、それで失われたものもあるんじゃないの」みたいなボヤきで終わってしまう。その象徴がマクドナルドというだけの話で。

しかし、重要なのは、もう一歩先にあるんだろう。この社会が何を組織的に破壊しているのか。ハバマスによれば、近代化はまだ未完で進行中らしいが、マクドナルド化もその一過程なんだろう。日本人の感覚で言えば、「コンビニ化する社会」のほうがリアルかつ先を行っている気がする。

それはそれで、ある種陳腐な話だが、それと別に、もう一つ別の重要な指摘もある。つまり、「客に労働させる」という思想だ。マクドナルドでは、客が料理を厨房からテーブルまで運ばなければならない。店員に名札をつけて、客に人事管理をさせる。マクドでなくても、Web2.0のビジネスモデルでは良く聞く話だ。Web2.0では、商売人は自分ではコンテンツを供給しない。客にコンテンツを供給させるのであり、商売人は場所を提供して管理しているだけというような。

というように、少し考えるだけでも、「マクドナルド化」というのは、複数のイノベーションの束だが、わたしたちはマクドナルドに何を求めているのか。単に信頼できて安くて美味しい物を求めた結果がマクドナルドだというのが最も単純な説明に思われる。この考え方では、画一的だったり、客が働かされたりするのは結果でしかない。しかし、それだけでなく、個人商店よりもマクドナルドに安らぎを感じる傾向があるのなら、少しは話が面白くなってくる。

単純な経済合理性、とわたしたちが考えるものも、一つの思想には違いない。わたしたちは、確かに伝統社会の何かを嫌っていて、それを組織的に地ならししている。その過程は今も進行中だ。しかし、ノスタルジーもあるし、何でもチェーン店化するのが唯一のビジネスモデルではないことも発見しつつある。地域コミュニティの再生とかソーシャルキャピタルとか言っているが、一方で、昔の不自由で陰鬱なムラ社会みたいなのを復活させたいとも思っていない。などと考えていると、時代はマクドナルド化の次に行っている気がするし、現実にマクドナルドは貧民のイメージがついてきている。何にしろ、この本は読んでおいた方がよろしい。

Now we understand that we live in the post-mcdonald world, meaning that franchise is not a sole possibility. Maybe mcdonaldization is just a result of economic rationality. Maybe we love McDonald on its own. At least in Japan, McDonald is deemed for the poor.

2012年6月16日土曜日

D. P. Simpson "Cassell's Latin Dictionary: Latin-English, English-Latin"

久しぶりに使う用事があって懐かしくなった。

昔、真剣に西洋古典学を志していた頃があり、ギリシア語・ラテン語ともに、二年間、わりと真剣に勉強したのだった。もうかなり忘れてしまったが、特にラテン語は今でもたまに役立つことがある。

古典語はそれなりに難しい。勉強するには何か強力な動機が必要だ。現代語の勉強にも役立つからとかいうような理由では貧弱すぎる。また、法学なんかでラテン語を使うからとかいう程度の理由でも無理だろう。もっと強力な理由、たとえばローマ帝国に異常な憧れを抱いているとか、ラテン語は神の言葉だと信じているとかでないと、ラテン語の文法を習得するだけでも難しい。今時は文学科でも、ラテン語必修ということは少ないんじゃないかなあ。

動機はなんであれ、真面目にラテン語を学ぶということになると、最初に絶対に必要になるのがこの辞書で、ほぼ選択の余地はないように思われる。それ以外の使い道としては、何かの語源を調べたくなったとか、ローマ法まで遡る必要が生じたとか、何かの建物にラテン語が刻まれていたとかそんなんだが、その程度のことなら、この学習用辞書でたいてい間にあってしまう。もしかすると、ラテン語を勉強したことの無い人でも、ある程度は使えるかもしれない。

A standard Latin-English/English-Latin dictionary for beginners.

2012年6月7日木曜日

Jean-Claude Corbeil, Ariane Archambault "Merriam-Webster's Compact 5-Language Visual Dictionary"

2600ものかなり高精度の絵があり、9500の名詞について、英西仏独伊語が併記されている。・・・という説明から想像する以上に、細かい名詞が大量に挙げられている。多分、ネイティブでも知らない単語が多数ある。たとえば、日本人が見ても、日本語でどういうのか分からないようなのも多数ある。そして、基本的に名詞しか載っていない。こんな本を喜ぶのは語学マニアくらいだと思うが、類書の中では最善である。

The best book of its kind.

2012年5月31日木曜日

John von Neumann "The Computer and the Brain: Second Edition"

今更こんな本を読んでも特に得るものはないという意見については、残念ながらほとんど正しいと言うしかない。当時、アイデア自体は画期的だったのかもしれないが、今では、誰でも知っている話でしかない。その点がノイマン先生の偉大さを証明しているような気がしなくもないが、先生の原文を読んで感動するくらい。一箇所、自分で自分を書き換えるコードの話をしている点だけは、今でも画期的だ(タネンバウム先生がそんなことを言っていた)。まあ歴史資料ということで。

予備知識としては、計算機については、へねぱたを読んでいるくらいで十分。論理回路が分からない人に解読するのは困難かと思われる。脳については「ニューロン」という言葉を知っているくらいで十分。単純に容積とか計算速度とかについて語っているだけ。

Well, of course von Neumann is one of the greatest computer scientists. This book is, however, not of a great interest for me. Nowadays even laymen know what this book tells us. Just a historical book.

2012年5月26日土曜日

J. Allan Hobson "Dreaming: A Very Short Introduction"

夢に関する脳科学的知見の解説。わたしにとってはなかなか衝撃的だったが・・・。だいたい、こういうタイトルだと、夢に関する精神分析とか、夢の文化誌とか、その類の人文学になってしまい、興味もなかったが、同じくVSIの"Sleep"(これも名著)で言及されていたので、興味を持っただけ。

この本は一貫して、医学的知見から「夢の形式」を解明している。すなわち、睡眠中は、覚醒時よりも激しく活動している脳の部位と、機能を停止している脳の部位がはっきりしている。たとえば、感覚や運動に関する領域は激しく活動している。ただし、実際の感覚器官からの入力や、実際の運動器官への出力は禁じられている。連想に関する領域も強く活動している。情動に関する部位は激しく活動しているが、論理的思考や反省を司る部位は機能していない。長期記憶へのアクセスは可能だが、短期記憶へはアクセスできないので、ほとんどの夢は忘れられる。等々で、これは脳内化学物質の変化でもはっきりしている。これらの脳科学的所見から、夢に見られる特徴、たとえば、強い感情とか、場所や時間意識や反省意識の消失とか、やたら昔のことを思い出すとか、その他さまざまな特長が説明される。

そんなわけで、精神分析をはじめとして、夢の内容に関する研究に対する敵意が半端でない。夢をほとんど忘れるのは、フロイトが想定したような超自我による抑圧のせいではなく、単に睡眠中には記憶に必要な化学物質が脳内にないからである。夢の内容は超自我による抑圧のせいで変形されているのではなく、むしろ脳の一部領域の活動がそのまま表出されているだけであり、いかなる解釈も必要ではない云々。

つまり、睡眠は脳のメンテナンスモードであり、夢はその副産物に過ぎない。夢の内容をいくら研究しても、それは妄想にしかならない。むしろ夢の形式的特徴、たとえば、物事の同一性が簡単に無視されるとか、状況に対する吟味や注意力の維持がないとか、時間や空間の連続性の無視とかに注目し、それらと脳の各領域の機能を照合していくことにより、脳科学が進歩して行く。覚醒時に学習した内容が睡眠中に整理されて定着していくという理論は既に確立している。

普通の科学的な考え方としか思えないが、改めて考えると、夢に関する研究で、こんな当たり前の説は読んだことがなかった。意識だとかクオリアだとかいう問題については、また色々な考え方もあると思うが、その件については別に論じればいいだろう。意識が脳の状態に依存しているのは明白だし、著者が言う通り、問題なんかないのかもしれない。

In hindsight, the author's way of thinking on dream is quite normal and obvious. Hobson explains why we are so crazy while we are sleeping by way of medical research on brain. For example, we are so illogical in dream because the part of the brain which dictate logical thinking is sleeping. We do not remember what we dreamed because chemicals necessary for short-term memory are absent while we are sleeping. Very simple. Freudian interpretation is misguided because of lack of scientific knowledge about brain. I wonder why I have never come across this kind of simple scientific theory on dream before. Maybe people prefer stories than fragmented long-term memories, just we all are in the dreams.

2012年5月18日金曜日

Dan Ariely "The Upside of Irrationality"

"Predictably Irrational"の続編というわけで、本質は似たような方向で、実験→教訓という流れは変わっていない。文章に関しては正直言って冗長な感じはするけど、内容は単なる前作の水増しではないので、前作に感心した人は引き続き読んで満足すると思う。特に著者の個人的な体験(なかなか壮絶だが)からの教訓が多い。これは貴重だ。

ていうかまあ、行動経済学で強調されるのは、「実は誰でも知っているけど、標準経済学で無視されていること」なわけで、あらかじめ標準経済学に洗脳されている人には衝撃的な事実でも、素で考えたら当たり前のことが多い。行動経済学から学べる教訓は色々あるが、最大の教訓は、「みんな自信過剰」ということだろう。

Another nice book from Ariely. Source of wisdom.

Dan Ariely "Predictably Irrational"

行動経済学については、最初にあまり面白くない本(洋書だったがタイトルとか忘れた)を読んでしまい、更に日本語の本はどれもこれも詰まらないので(話術の問題だろう)、ずっと無視していたが、"Thinking, Fast and Slow"を読んで感動してから、遡って売れた本を読んでいる次第。それにしても、行動経済学の本は、どうもタイトルが冴えない。ともあれ、行動経済学的なエピソードは既にわたしの中で飽和していて、この本を読んでも新奇な事例は出てこないが、それでも、解釈とか話術には色々発見があった。相対論と同じで、本質は飽きるほど分かっているのだが、色々な解釈とか表現とかで楽しめる感じ。(ただし相対論はさすがに飽きた)。

この本の特徴としては、セイラーほどではないが、わりと人間を信じていて、社会改良的な方向が見える点か。カーネマンよりは学術的ではない。タレブほど醒めてはいない。表現が難しいが、それぞれの個性としか言えない。社会関係基盤にまで触れている点も、今まで読んだ本とは違う。日本でも「ソーシャル・キャピタル」の概念が普及し始めているが、そっちの方向も追求してみる価値がありそうだ。

Another nice book on behavioral economics. I have been already fed up with episodes from behavioral economics. Still, I was fascinated by its way of telling and interpreting economical experiments. My first choice is Kahneman. However, it depends on one's taste.

2012年5月16日水曜日

David Stillman, Ronni Gordon "The Ultimate French Review and Practice"

わたしはこの本の前の版で勉強したのだが、最近になって文法を忘れているような気がしてきたので、新版が出た機会にあらためて買った次第。わたしのフランス語文法力は、この本と"Collins French Grammar"で成り立っている。今となっては簡単過ぎるが、流して見ている。

フランス語学習歴も長くなったので、日本で出ているフランス語学習書は大抵見ているし、英語圏のテキスト・問題集も色々見てきたが、やはりこの本を越えるものは見たことがない。入門段階でこの本を使うのは無理だと思うが、日本語の軽い入門書や音声教材で一通り発音が正確にできるようになった後、できるだけ早くこの本に取り組むことを推奨したい。それでもハードルが高い場合は一旦"Easy French Step-by-Step"を経由する手もある。これも良書。

By far the best French workbook that I have ever seen. Once you have got an overview of French grammar by some introductory book, you should jump into this book as soon as possible.

2012年5月15日火曜日

David A. Patterson, John L. Hennessy "Computer Organization and Design, Fourth Edition: The Hardware/Software Interface (The Morgan Kaufmann Series in Computer Architecture and Design)"

本屋で見かけて懐かしくなった。ヘネシー&パターソン、いわゆるヘネパタだが、わたしが勉強したのは原書第二版だったかなあ。ソフト屋さんにとって、これとタネンバウム先生のMINIX本その他は、基本書だった。MINIXはともかく、ヘネパタは今でも基本書であろう。と言っても、近頃のプログラマはこの本を読んだことがないどころか、「難しくて読めない」とか言う始末で、それでもプログラマを名乗れるほどプログラミングが簡単になったというか抽象化されたというか仮想化されたというようなことだろう。コンピュータの世界は階層化されていて、上層はそれはそれで大変だが、プログラムを書いていて、「このプログラムがどうなって実際の演算回路が動くのか」というのは、普通は知りたくなると思うのだ。とすると、コンパイラは比較的閉じた理論空間になっており、その前にアセンブリを知っていないと近寄れず、そうするとこれが基本書になる。もちろん、まだ下層もあるが、完全に金物の世界になる。それはそれで面白い世界だが、タイトルにある通り、ソフトウェアとハードウェアの境目が、この本のターゲットだ。ソフト屋さんが知っておくべき最下層と言えよう。

Famous classical textbooks. Must-read for all the software programmers.

2012年5月5日土曜日

Linda Greenhouse "The U.S. Supreme Court: A Very Short Introduction"

アメリカ連邦最高裁判所の概説。ただ、法学部的な意味での入門書ではなく、歴史とか、司法府と行政府・立法府とのせめぎ合いとか、最高裁裁判官の指名問題とか、世論との関係とか、基本的には政治的な面の解説だ。従って、そもそもアメリカの裁判制度とか、アメリカ法の体系とかがどうなっているのか知らない人は、多少勉強してから読んだほうが良い。日本では、こういうことはほとんど問題にならないので、面食らうかもしれない。

アメリカは行政府でも猟官制だし、司法府でも、裁判官の任命に当っては、下級裁判所でも一々共和党派か民主党派かで問題になる。結局、日本では、裁判官は中立な立場で法を解釈するという建前が、割と額面通り信用されているところがあり、本当はウソなんだろうと思うが、かといって、このアメリカモデルもどんなもんなんだろうか。たとえば、「妊娠中絶の選択は女性が単独で決定できる」というのが憲法違反かどうかというのは、少なくともアメリカでは明白に政治問題で、裁判官を民主党が指名するか共和党が指名するかは大問題になる。日本ではそれほどでなくても、それまでのそいつの判決記録を辿れば傾向は見えるはずだし、本当は調べるべきなんだろう。こんなのは純粋な法解釈というより、世間の空気を読むとか、個人の信念とかの問題のほうが大きい。

というような話が多く、最高裁がどのように粛々と業務を行っているのかという説明は少ない。生々しい現実ではあるが、法学部生のように現実を無視して黙々とアメリカの法体系やら司法制度を学びたいということなら、この本は違う。むしろ、ジャーナリスティックな本だ。

Not recommended for those who want to study the American legal systems seriously, in other words, irrespective of the reality. This book is rather realistic and journalistic. In japan, people rarely talk about this sort of issues, because we believe naively that justices interpret and apply laws neutrally. I suspect that in Japan justices tend to be influenced by general public opinions more than in the U.S.... This book is very illuminating for us.

2012年4月14日土曜日

Steven W. Lockley, Russell G. Foster "Sleep: A Very Short Introduction"

この本は睡眠愛好家というか、睡眠する人なら必読書と言えよう。短眠とかサマータイムみたいな危険思想を社会から排除するためにも、緊急に翻訳されることを望む。

大きく生理学パートと疫学パートに分けると、生理学的には、睡眠はほとんど謎だ。サーカディアンクロックの元締めがSCNだったり、青色光やメラトニンが生物時計の調整にとって有効だったりとか断片的なことは分かっているが、「そもそもなぜ睡眠が必要なのか」みたいなことは良くわかっていない。したがって、睡眠関係の障害にも決定的な治療がなかったりする。ただ、サーカディアンリズムに明確な個人差・年齢差等があるのははっきりしている。たとえばティーンエージャーはテレビゲームがどうこうとかではなく、生理的に夜型なのであり、学校の開始時刻はもっと遅らせるべき云々。

疫学的には、明確な統計も多い。サマータイム(DST)は明確に有害である。眠気運転は飲酒運転と少なくとも同程度以上に犯罪的である。シフト労働には発がん性がある。その他色々深刻な統計が多いが、我々の文明は睡眠をあまりにも軽視し過ぎており、こういうことが大々的に問題にならないのは異常だ。わたしに言わせれば、人の睡眠を邪魔するのは重大な犯罪であり、刑法に条文を設けるべきかと思われる。

How to本ではないが、実用的なアドバイスもいくつかある。社会そのものの変革を要するような提言はともかく、最適な時差の克服法などは科学的で直ぐに試せるだろう。わたしとしては、コーヒーの消費量を減らそうと考えている。何よりも睡眠を大事にすることだ。それは「早寝早起き」などというような非科学的な話ではなく、各人のサーカディアンリズムにあった最適な睡眠を確保することである。特に十代・二十代は、今の社会では生理的に無理なリズムを強いられている。学校や病院、公衆衛生の担当者にも読んでほしいところだ。

A must-read for all sleepers. Physiologically, there are lots yet to explore about sleep. Epidemiologically, however, much is known and we do not understand why people ignore those overwhelming evidence that our society should prioritize sleep more than ever. I remember the recent rolling blackout in Tokyo. Those nights were sad but so excellent. Seriously, this book is a must-read for those in public health sector and schools.

2012年4月6日金曜日

Richard H. Thaler, Cass R. Sunstein "Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness"

簡単に言うと、近頃は何でも選択肢が多いのが良いことだという風になっていて、何をどう設定すればいいのかよく分からない。結果的に選択肢がない場合より酷いことになったりする。と言って、わたしが真っ先に思いつくのは「サブウェイ」だが、昔はスタバもそうだった。スタバは早期にデフォルトのコーヒーを気軽に飲めるようになったので、ここまで繁栄しているが、サブウェイもさっさと見習うべきなのだ。

いや、そんなことはこの本には書いていないが、要は、「選択肢を増やして放置するのではなく、適切なデフォルト値を提供せよ」と主張する本である。この主張はサブウェイにでも家電にでも携帯電話の料金体系にでも、何にでも当てはまりそうだが、ここでは特に公的機関の提供するサービスについて考察されている。従って、この場合の「適切なデフォルト値」とは、「最も国民の利益になりそうな選択肢」を意味する。もちろん、敢えてデフォルト値と違った選択をする人にはその権利は保証するべきだが、どんなデフォルト値を設定しても、たいていの人はデフォルトに従ってしまうのであり、デフォルト値の選択には慎重な検討が必要だ。多くの場合、デフォルト値を設定しないことはできないので、この含意は大きい。

事例が多いのが勉強になる。それはさておき、日本語訳が割と酷い。そもそもタイトルが酷い。「実践行動経済学」とあるが、behavioral economicsという単語自体、ほとんど本文に出ていなかった気がする。確かに、社会保険や貯蓄の例が多いが、特に経済に関する話に限られていない。「健康、富、幸福への聡明な選択」とあるが、まるで自己啓発書みたいだ。「健康、富、幸福に関する選択を改良する」というのが原文に忠実だろう。原題"Nudge"は適切な日本語がないが、人をごく軽く突いて勧めるような感じ。つまり、デフォルト値のことである。

まあ、本格的に公共政策を学んでいる人にとっては、こういうことは枝葉末節に思われるのかもしれないが、現実に大影響を与えるわけだし、どんなに優れた制度でも、デフォルト値の設定を誤ると成果を上げない。単に学問的に研究している人には関係ないかも知れないが、特に現場にいる人には、必読書と言える。


2012年3月30日金曜日

Daniel Kahneman "Thinking, Fast and Slow"

この本を読むのに時間がかかったのは、分厚いからではなく、面白過ぎるから。一ページ読むたびに色々な考えが湧いてきて、なかなか読み進めなかった。

ダニエル・カーネマンは行動経済学を開拓したというのでノーベル経済学賞を受賞している。しかし、サブプライム騒動以来、「行動経済学」と名のつく下らない本が巷に溢れているし、ノーベル経済学賞という賞は信用がない。従って、こんな本を読む理由もないところだったが、英国放送局の著者インタビューで少し興味を持ったので、開拓者の本を読んで行動経済学は終わりにしようと思っただけ。しかし、衝撃的に面白かった。

まず、著者は経済学者ではなく心理学者であり、この本の主題も経済には限っていない。特に前半は経済とは直接関係のない心理学の話だ。多分、邦訳が出る時には、「ノーベル賞」と「行動経済学」というワードを全面に出して売るんだと思うけど、そんなものに何の興味もない/うんざりしている人でも楽しく読める。わたしは心理学という学問もあまり尊敬していないが、ここ十数年で心理学は長足の進歩を遂げ、バカにできない。

簡単に言うと、この本は、人間の「直観」を疑う本だ。世の中には「直観を信じろ」という方向の自己啓発書的なものが多いが、この本は全く逆の方向の啓発になる。直観には構造的なバイアスがあり、簡単に錯覚する。そして教えられるまで自分が錯覚していることにも気がつかない。一時期、錯視図形のコレクションが流行ったが、この本は、直観の錯覚のコレクションのような趣もある。一々紹介しないけど、最近発見されている錯視図形に勝るとも劣らない、衝撃的な錯覚コレクションだ。

わたしとしては、特に前半部の統計に関する錯覚が興味深い。「統計でウソをつく本」みたいな本はいくらでもあるが、そういう本は、統計に関する教訓を垂れて終わることが多い。しかし、カーネマンは心理学者であり、錯覚の原因を追及する。錯視と同じように、錯覚には構造的な要因があり、どのような状況で、どのように人が錯覚するかは予測できるのだ。そして、錯視と同じように、正解を教えられても、人はなおも錯覚し続ける。ちょうど、「この二本の線は同じ長さだ」と頭では分かっていても、錯視が訂正されないように。そうと分かれば、錯覚を利用することもできる。

後半は経済学の教義に踏み込んでいく。この辺りはいわゆる行動経済学で、聞いたことのあるような話も多いが、それでもなおも面白いのは、さすがは開拓者と言ったところか。そもそもこの著者は話が上手い。対象読者は完全に一般人なので、特に予備知識は必要はない。もちろん、多少の統計学・経済学の基礎知識があれば、尚可だが、言っていることは、高校生くらいでも理解できそうだ。そのうち日本語訳も出ると思う。

The best book on behavioral economics by a Nobel laureate. Many self-help books recommend you to believe your intuition, but this book recommend the contrary. I guess this book is already among bestsellers in English-speaking countries.

2012年3月13日火曜日

Edwin H. Sutherland "The Professional Thief"

これも二十年前に読んだ本。初めて英語で学術書を全部読んだというので記憶に残っているだけではなく、単に面白かった。

サザランドは現代犯罪学の礎を築いた一人で、"differential association"「分化的接触」の理論で有名だ。この説によると、犯罪というのは単独の精神異常者が起こすのではなく、犯罪を良しとする集団(地域とか親族とか友達とか)があり、そこで学習されるという。当時からギャングはいたわけだし、普通に穏当な見解に思われるが、当時としては画期的だったらしい。当時の普通の考え方としては、犯罪者は単なるバカとか悪とか遺伝とか人種とか、あるいは逆に単なる合理的経済行動だとか労働者の闘いだとかいうことになっていたんで、普通の見方というのは、なかなか難しかったようだ。その後、サザランドは"white collar crime"「ホワイトカラー犯罪」という言葉を導入し、研究を進めていくがそれはともかく。

この本は、とある実在の"thief"(窃盗犯でいいと思う)とサザランドの合作で、職業盗賊のリアルな生活を描いている。といっても、戦前のアメリカの話なんで、いかにも大らかで、普通に銀行強盗とかが成り立っているし禁酒法とか言っている。そんな話が好きなら、多分、映画より面白いだろう。後半になってサザランドの解釈とかの部分になると、これは社会学の学生とか研究者向きということになるが・・・。

で、読み終わってレポートとか提出した後で、教官に「翻訳が出てるよ」と言われた。詐欺師コンウェルとかいうタイトルだったが、アマゾンでは見つからない。

From my college days. It was so interesting, even if you are not interested in sociology at all. A thief in good old days in America.

Julian Jaynes "The Origin of Consciousness in the Breakdown of the Bicameral Mind"

これは二十年以上前に読んで結構呆れた本だが、たまに言及する人がいるので調べたら、2005年に翻訳が出ている。日本語訳はいかにもなタイトルにされてしまっているが、素直には「意識の起源と二院制の心の崩壊」。古代文明の遺産(叙事詩とか遺物)と(当時の)最新の脳科学理論から、意識の起源を考察したもの。

はっきり言ってトンデモ本の範疇だと思うし、検証不能というか、今では反証されている部分も多いんではないかと思う。なんでこんな本を読んだかと言うと、当時、わたしは「イーリアス」をギリシア語原文で読んでいたし、ついでに分裂症関係の文献も大量に読んでいて、しかも教官(さらに別の全然関係ない分野だが)がこの本に入れ込んでいたから。

というわけで、わたしの興味は主としてイーリアスと分裂症に関係する部分だった。分裂症というか統合失調症の基本症状の一つに「自分の考えなのに自分の考えとは思えない」というのがあり、現代人の場合は、ここから「電波で思考を操られている」とかいうことになるわけだが、古代人の場合はこれが「神の声である」ということになり、しかも、その神の声の言うことが割と筋が通っていて、社会全体で同じような声を聞いていたのであると。

それはそれでいいとして、思考をどこに帰属させるかの問題だけのような気がする。古代人が神々の声に盲目的に従っていたとして、現代人だって、社会に共有されているなんかの理論やら道徳やらに盲目的に従っているのであり、自動人間であることに大差はない。別に神々の思考と「自分」の思考に、別々の場所(右脳と左脳とか)を割り当てなくてもいいのではないかと思うのだ。それが誰の思考に帰属されるか、または感じられるかは、また別の話として・・・。

I put this book under the category "pseudo-science". I was really interested in Iliad and schizophrenia at the same time. Some ideas are really interesting but due to the limitation of the level of then current brain science a big part of this book is now out-dated.


2012年3月8日木曜日

Burton G. Malkiel "A Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing"

翻訳も版を重ねている「ウォール街のランダム・ウォーカー」。わたしが株を買うきっかけだった。

本書は基本書であり、世界中どこでも、株式市場の業界関係者は全員読んでいる。難しい本ではないし、株式売買をするなら、素人であっても必読書と言える。みんなが読んでいる本は、やはり読んだほうが良い。語彙が増える。

よって立つ基本原理、効率的市場仮説は、要するに公開株式には全ての情報が織り込まれた値段がついているので、割安だったり割高だったりする銘柄は基本的に存在しえないということだ。独自情報や理論を元に出し抜こうとしても、多数のプロが鎬を削っている効率的な市場では無謀。ただし、株式市場は常にインフレに対して勝ち続けていることだけは事実なんで、リスクとリターンを考慮して適当にインデックス的に買って、あとはホールドしておけばよい。売買を繰り返すのは手数料を損するだけであると。

正しいかどうかは別として、専門家がランダム買いに負けるという理論は痛快ではある。そんなわけで、わたしは株を始めた。そして、ホリエモンが立候補して逮捕され、村上ファンドは解散し、リーマンは破綻し、木村剛は逮捕された。日航は上場廃止となり、東電は巨額の賠償を抱えている。どう見ても市場価格は全ての情報を織り込んでいなかった。個人的には、この間も不屈の精神でbuy & holdを貫徹しているが、だからといってこの本の主張を支持しているわけではない。わたしの成績はインデックスよりは全然マシだ。運が良いだけだと思うが・・・。

この本自体、専門家を否定すると言う意味で不可知論だが、近頃は更に過激な不可知論のほうが人気があるようだ。その最たるものが"The Black Swan"であろう。しかし、勉強という意味でも、こっちを先に読んだほうが良い。



2012年2月29日水曜日

Robert M. Bramson Ph.D. "Coping with Difficult People"

「困った人たち」との付き合い方というわけで、十年以上前にブームになったジャンルの元祖。こういうのは大抵元祖は越えられないんだけど、個人的には後追い本も読みたくなった・・・。

"difficult people"が分類されていて、それぞれの対処法が書かれているんだけど、ここで言う"difficult people"というのは、主として、対人態度がなっていない人のことを言う。つまり、傲慢だったり、陰口ばかり言っていたり、怒鳴ってばかりとか。これはなかなかの限定だ。

もっと根本的に困った人、たとえば完全主義者だとかmicro managerとか利己主義者だとかいうような問題は対象ではない。また、もっと具体的に困った人、たとえば、遅刻ばかりするとかストーカーだとか自分の非を絶対に認めないとかも対象ではない。

対象を限定しても、なお対処法はバラバラで、共通の要素は少ない。役に立つというより、痛快がって読まれているような疑惑もある。まあ、なかなか話しにくい個人的な問題を客観的に描いてくれるのは、それだけで気が楽になるということもあるのだろう。

この本のブームの後、バラバラの対処法からわずかな共通項を取り出したのが"assertiveness"ということになるんだろうか。この本がアメリカンな感じがするというのは、全ての対処法に共通して「はっきり言う」というのがあるからで、これが日本人の発想ではない。「ご不満な点もあるのかも知れませんが、わたしはこの提案が現在最善であると考えています。もう一度着席して最後まで話を聞いてください」「今おっしゃったことは当てこすりに聞こえましたが違いましたか?」もちろん常に直接対峙が良いとは全く言っていないが、assertiveとはこういうことだ。

といっても、assertiveness本は、問題を一個人に限定してしまう傾向があり、その時点で不自由だ。重要なのはもっと実用的な会話マニュアルだったり、フレーズ集だったりのはずで、この本も、そういうフレーズを拾えるのが主たる利点であった。フレーズというか「言い方を知っているかどうか」というのは、結構致命的なことで、知らなければグダグダになってしまう所でも、知っていれば冷静に、アメドラのように話せる。というか、アメドラの吹き替えのように話すことを心がければ、自動的にassertivenssが付属してくるような気がしてきた。何にしろ、色々考えさせてくれている時点で、これは良い本であった。

Classical book of this genre. In this book, "difficult people" means people who have bad habitual general attitude toward others. Apparent menace toward a particular person is out of its range. Or more concrete problems, such as "being always late", are also out of its range. This seems a great limitation, but still there are a range of difficult people and coping procedures... I guess the greatest common denominator would be "assertiveness". But Books on assertiveness tend to focus on only one person, you. That is not how assertiveness grows. What we need is just "phrases to use". And in that regard, this book is pretty good, though I want to read more.


2012年2月19日日曜日

Charles M. Schultz "Peanuts: A Golden Celebration: The Art and the Story of the World's Best-Loved Comic Strip"

これは相当昔に読んだ本だけど、今日和訳を発見したので、敢えて紹介する。Peanutsについて書いたことがなかったし。確か、これが出た後すぐに作者休業で亡くなったんだよな・・・。

PeanutsはDilbertと同様に、割と翻訳者に恵まれた感があるが、やはりマニアとしては原書にこだわりたいところだ。今から思えば、わたしが初めて洋書を買ったのが丸善で、Peanutsであった。以来、原書またはWebでしか読んでいない。

http://www.peanuts.com/

色んなeditionがあるのはアメコミの通例で、近頃は日本のマンガもそんなことになっているが、Peanutsの場合、やたら自己啓発染みた解説書が多いのが特徴だ。もちろん、全部無視する。作者はプロテスタントで、教会で活動していたこともあるようだが、キリスト教的な教えをコミックに注入しようとしたことはないと明言している。正直なところ、わたしの見解では、キリスト教的な解釈など、Peanutsに対する冒涜でしかない。

んで、"Charles M. Schulz: Conversations (Conversations with Comic Artists)"を読むとなると、これは相当なマニアと言えるが、マニアなら必読書だ。結局のところ、Charlie Brownみたいな人だったらしい。なんでこんな人が、わりと悲惨な離婚になったのか良く分からないが、古き良きアメリカの温厚なおじさんだったんだなあと。






2012年2月18日土曜日

Princeton Review "Word Smart"(4e)

基本的にはSAT用の単語帳とされているらしい。つまりアメリカの大学入試レベルということで、アメリカでは良くある類の本。単語の難易度ということでは、英検1級も少し越えているんじゃなかろうか。わたしですら、知らない単語が一割くらいあった気がする。つまり、ビジネスで英語を使うとかNY Timesを読むとかいう程度のことなら、この本は少し難し過ぎる。実用的な語彙ももちろん多いが、SATを受けた後、一生出会わない単語もありそうだ。

ちなみに、わたしは単語の丸暗記は苦手で、この本は例文が充実しているのが売りだが、それでもやはり厳しかった。ただこれは人によるんで、何とも言えない。わたしとしては語源系のほうが有り難いが、この本では、語源はほとんど問題にならず、単にアルファベット順に並んでいる。

A word book for SAT. I do not particularly like this book, since I prefer etymological explications to a bunch of sample sentences.

2012年2月14日火曜日

Donald Gillies "Philosophical Theories of Probability" (Philosophical Issues in Science)

これはわりと何度も読み返している本だ。確率理論とか統計理論は、第一に直感に反する事例が多いのが面白いのと、第二に神学的対立が多いのが面白い。この本が面白いのは後者のせいで、「確率とは何か」について様々な説を歴史的経緯も含めて紹介している。いろいろ文句もあるけど、考えるのは面白い。

・論理説・・・ケインズに代表される。無差別原理「同様に確からしい」事象に分割して確率を計算していく。分割の仕方が複数ある場合に簡単に矛盾に陥る。
・主観説・・・ラムジーなどに代表される。基本的にはギャンブラーの心の中に確率がある。わりと整然たる公理系を導く。
・頻度説・・・ミーゼスなどに代表される。反復した時の経験から確率を定義する。定義が狭すぎるのが難点。
・傾向説・・・ポパーに代表される。確率とは状況に内在する傾向性である。量子力学などを想定。

Great overview. I read this book once in a while. Philosophy of probabilities are most interesting because there are lots of counter-intuitive examples and (as of this book's case) there are lots of theoretical controversies despite the fact that it is an area of mathematics.

2012年2月8日水曜日

Ray Young, Sally Brock "Bridge for People Who Don't Know One Card from Another"

この本の良し悪しは分からない。わたしはブリッジの他の本を読んだことがないし、最も良心的そうな薄い本を選んだだけであった。本書はトランプには四つのスーツがあります、くらいから説明している。日本語では適当な本が入手しにくい。とりあえずプレイを始めるには十分と言えよう・・・。戦術にのめりこむとキリがないのは、麻雀と同じだ。

実はブリッジは、プレイのルール自体は全く難しくない。本書では、わりと早目に"Mini-Bridge"を紹介していて、これは切札の決め方や点数等を除けば、ブリッジと何も変わらない。習得するのに十分程度で済む。本によっては"Whist"を紹介していることもあるようだ。どっちにしろ、「ナポレオン」なんかより易しい。

オークションのルールも全く難しくない。点数は少し複雑だが、点数表があれば問題ない。大抵のデッキには、カードの一枚としてブリッジの得点表が入っている。何も知らない四人が集まって、ルールだけ覚えてプレイしても、ゲームは成立するし、そこそこ楽しいんじゃないかと思う。

難しくなるのは、敵味方の持札を推測しようとするからなのだ。オークションの経緯やカードの出し方によって持札が推測できるのは当然だが、味方に自分の持札を推測させるという面もあり、慣習に則ってオークションやプレイをしないと、味方まで混乱させる。これが面倒臭い。こういう慣習には一々合理的な理由があるが、初心者はひとまず丸覚えするしかない。

味方同士なんだから、手札を見せ合ってゆっくり検討すればいいんじゃないかと思うが、そういうことになっていないらしい。たとえば、プレイ中に味方に「スペードのエース持ってる?」とか訊いても良さそうだが、多分反則なんだろう。しかし、麻雀と同じで、いくらでも脱法手段がありそうなものだ。

で、慣習を丸覚えしたとして、次に、カードゲーム自体の難しさがある。ブリッジに限ったことではないが、カードゲームでは、それまでに誰がどのカードを出したかを覚えているのが決定的に重要だ。ブリッジでは、オークションの経緯も覚えている必要がある。別に覚えていなくてもプレイはできるが、強くなりたければ、これは最低条件と言える。麻雀のように捨牌を表示しておく習慣がないらしい。この条件をクリアした上で、初めて戦略がどうのこうのと言えるようになる。

そして、最後の難関が、「以上の条件をクリアしたヒマな四人を集める」ということになる。生きている間に生身の人間とブリッジをプレイするのは、ほぼ絶望的かもしれない。麻雀と同じで賭博が付き物のようだが、味方に殺意を抱く可能性がある分、性質が悪い。

An introduction to contract bridge. I do not know if this book is a great book because I have not read other bridge books. But I guess bridge is not a difficult game if you only want to understand the basic rules and some basic strategies. And this book suffice for a beginner.

2012年2月3日金曜日

Stephen Smith "Environmental Economics: A Very Short Introduction"

いわゆる環境経済学の入門書。現実よりは理論の解説。わたしには初歩的過ぎるというのもあるけど、わたしがバカにしている「前提条件の多過ぎる」経済理論だ。経済学部の初学者が英語の勉強も兼ねて読む分にはいいんではないかと思うが、実務的にはほとんど意味がない。別に環境経済学を学んだことがなくても、多少経済学をやった人なら、普通に推測がつく程度の話だ。経済学を全く知らない人なら、もしかして思想的に衝撃を受けるのかも知れない・・・。まあ直ぐに慣れてしまう、というか洗脳されてしまうわけだが。じゃあ最初から知らないほうが良いのかと言うと、もしかするとそうなのかも知れない。

Perhaps good for a novice student of economics. Just a bunch of theories which are too simple and demand too many premises. Not a practical book.

Nassim Nicholas Taleb "The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable"

今頃こんなのを読んでいるのは、今読んでいる本がこの本に色々言及していて、ちと興味が湧いたから。なお、今読んでいるほうの著者についても、この本は色々言及していて、高く評価している。ベストセラーになった時に読まなかったのは、あの頃は金融市場の失敗を論う本が多くてウザかったのと、Popular Mathというか、特に統計学関係についてはうんざりしているから。だいたいが、「リスクは飼い慣らせる」というバカみたいな主張か、「統計学者はウソつきである」みたいな少しは面白い逆の主張であり、この本は後者だが、純粋に統計論としては、特に目新しい内容はなかった。ただ、ポパーとマンデルブロをそんなに高く評価するのは意外だ。そんなに言うのなら調べようと思う。

しかし、この本がウけているのは、そんな技術的なところじゃなくて、自己啓発書みたいな読まれ方をしているんだろうと思う。金融工学が詐欺なことは今では誰でも知っているが、徹底的にコキ下ろされる。分かりやすさのために話は戯画的に単純化されており、スーツを着た高給取りの正規分布原理主義者が徹底的にバカにされる。読者は大いに溜飲を下げ、気分も明るくなるが、生活は何も変わらないというような・・・。

とにかくベストセラーだから読んで損ということはない。"black swan"は一般名詞になっているし。だいたい、経済学を学び始めたころに誰でも素朴に思うのは「前提条件が多過ぎる」ということだが、どっぷり浸かっていくうちに、それを忘れてしまうようだ。こういう本はたまには売れないといけない。そして、また、そのうち忘れられるんだろうとは思う。それとも、著者が考えるように、この世はどんどんblack swanが増えていて、忘れたくても忘れられなくなるかな。

A multi million seller. There are two types of popular math book. On the one hand there are so many dull books that stipulate that we can manage risk. On the other hand there are a bit more interesting books that stipulate that statisticians are liars. This book falls in the latter category but I doubt it is also read as a sort of self-help book. Anyway perhaps partly owing to this book now we all know that computational finance is a big fraud. We mock well-dressed Wall-Street experts, feel good, and do not change our way of life.





2012年1月27日金曜日

Joshua Piven, David Borgenicht "The Complete Worst-Case Scenario Survival Handbook"

これは相当出ているシリーズだが、そのベスト版という感じ。日本語でも「この方法で生きのびろ!」というタイトルでいくつか出ていた。様々な危機的な状況からの脱出手段を解説している。半ば真面目なのもあるが、基本的にはギャグだ。真剣にシリーズを追うほどのファンでなければ、この一冊がお勧めというような感じ。

Very best of "Worst-Case Scenario" series.

2012年1月23日月曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid 6: Cabin Fever"

いつも楽しみにしているこのシリーズ、まだ六冊目だったか・・・。日本語訳も続いているようだ。例によって日本語訳は読んでいないから出来は知らないが、表紙の時点でアウト。ていうか、こういうのって、訴えられるんじゃなかったのか。原著を強く推奨する。ていうか、本屋でも見かけないということは、多分、児童書のコーナーに置いてあるんだろう。ポプラ社だし。

何の根拠もないただの憶測だが、もしかすると日本語訳には検閲が入っていても不思議ではない。主人公は「真面目系クズ人間」と言うのが最も近い。アメリカ人の感覚では"wimpy"というのは、相当な悪口だと思われるが、「ダメ日記」と言うのは自意識過剰過ぎる。本人は天真爛漫に怠惰で臆病で利己的だ。のび太に近い。

とにかくリアルなのは、多分、著者にそれくらいの子どもがいるのと、著者自身がそうだったんだろう。この世代になると、親子でそんなに子ども時代の環境が変わっていない。リアル過ぎて、主人公に共感して一緒にイライラしたりする次第だ。これを笑って読めるのが大人なのかもしれない。

リアルというのは主として感情面の話で、物理的には、アメリカの中産階級の裕福さに唖然とする。庭付き一戸建てに専業主婦は当たり前として、子ども部屋からトイレから車から、何もかもが広大だ。何より、主人公を取り巻く大人が、色々な意味でちゃんとしている。まあ、よく調べると、中味はあんまり主人公と変わっていないようだが・・・。

I love this series. Greg is really wimpy, which all we are. By the way I am astounded by his family's richness. Adults surrounding him are all very, well, well-educated. Though, inside they are all wimpy too, I guess.



2012年1月20日金曜日

Chris Bray "Backgammon For Dummies"

この本の解説をする前に「バックギャモン」の何たるかを説明せねばならぬ。

「バックギャモン」は数千年の歴史を持つとか言っているが、要は双六で、日本では奈良時代から遊ばれていた。囲碁並みに単純なゲームだから、ルールがそんなに違ったはずがない。おそらく、「枕草子」や「徒然草」に出てくる「双六」と、今の「バックギャモン」に大した違いはないと思われる。当時からそんな描写があるが、なかなか熱い深遠なゲームだ。

ルールを覚えるだけなら、どうせ単純なものだし、無料で落ちているソフトを適当にプレイしていれば大体分かる。ついでにGNU Backgammonなどはゲームを解析してくれる。とは言え、ある程度本気で解析結果を理解するには、一冊くらい何か読んで考え方を理解する必要がある。この辺りはオセロに似ているが、オセロではコンピュータの手が人間の理解を越えているのに対し、バックギャモンは一応理解可能だ。

というわけで、この古式ゆかしい伝統遊戯を習得したいと考えると、日本語の本では日本バックギャモン協会編『バックギャモン・ブック』しかない。しかし、残念ながら、『バックギャモン・ブック』は読みやすいとは言えず、バックギャモンの普及に貢献しているというよりは、妨害している気がする。さらに、amazon.co.jpに、あからさまに不自然なキモいレビューが多い。仮に内容が素晴らしかったとしても、この点については、こだわらざるを得ないであろう。

チェスでもそうだけど、どのみち、日本語の解説はカタカナばかりで読みにくい。さらに、こういうマイナーゲームは、日本語圏では村社会の空気で気後れがする。最初から洋書を読むべきだが、とりあえずこの本は無難なところだろう。定評があるし、読みやすいし、勉強になった。一つ文句があるとしたら、ダブリングの説明は後回しにしたほうが良かった。ダブリングは1920年代に発明されたもので、それ以前の数千年は、そんなのなしでも、世界中で禁止令が出るほど楽しまれていた。さんざん遊んでから、ダブリングを学んでも遅くない。ダブリングの導入によって、途端に戦略上の計算が面倒になる。不合理な点がないので、麻雀の点数計算とは比較にならないほど簡単だが、囲碁程度には面倒だ。さらにトーナメントになると更に難しくなるが、幸いにしてこの件は最後に回されている。ていうか、ボードゲームの常で、いくら考えても切りがない。

この本を読んだだけでバックギャモンの達人になるわけではないが、少なくとも、「単にルールを知っている」程度の人に負けることは、ほとんどなくなるだろう。サイコロがあるので、絶対というわけにはいかないが・・・。たとえば、オセロで同じような本を一冊読めば、初心者にはほぼ絶対に負けないと思われるが、そこまでの差にはならない。しかし、麻雀よりは率がいいはずだ。ルールも単純だし、小学生くらいから余裕で始められる。だいたい、こういうのは子どものうちに覚えてしまうのがよろしく、小学校の先生などは、算数の勉強にもなるので、是非習得して指導されたい。

Nice book, though I never read another book on backgammon. Now I can play against GNU backgammon in my spare time. I would prefer if the explanation on "doubling" were put in the last part, because backgammon is fascinating even if there were no doubling cube.