2010年12月27日月曜日

Brian Daizen Victoria "Zen at War"

日本の仏教教団、特に禅宗の戦争責任を追及する本。

・・・というと狭すぎるけど、その上で、「もともと禅の教義自体に殺人を肯定する要素があるのではないか」という問いが立てられている。まあ昔から武士道とか剣道とかと禅がリンクさせられているし。

この話をどう考えるかは別として、こういう本を外人が書くしかなかったのは、情けない気もする。日本語訳の訳文の評判がよろしくなく、わたしとしても、決して好きなタイプの訳文ではないけど、この本に関しては日本語文からの引用が多く、敢えて英語で読むのはお勧めしない。意味的に特に気になることはなかった。つか、正直なところ、著者の主張より、引用のほうが遥かに重要だし。

高徳の僧侶とされている人が、政治経済社会科学等について、あり得ないほど無知なことを言って、がっかりすることは多い。その最たる分野がこの辺りのところだろう。禅僧が全員剣の達人でないのと同様に、社会的にバカでも仕方がないとは一応言えるが、この本が問うているのはそんなハイレベルなことではなく、仏教と道徳の関係だ。つまり、殺人に反対するのには、仏教の不殺生戒だけで十分だったはずだというようなことで。


2010年12月26日日曜日

Robert J. McMahon "The Cold War" (Oxford Very Short Introductions)

第二次大戦からドイツ再統一に至る冷戦の通史。この本は、VSIの一つでありながら、この分野の定番の概説書となっている。

完全にアメリカ目線で、いわゆる「リアリスト」ということになるだろう。アメリカが如何に対ソ冷戦を戦ったかということを冷徹に描く。欧州以外では熱い戦争も多かったが、原爆やらベトナム戦争やらはアメリカの世界戦略の一環であり、同情的な描写は一切ない。この世界観自体どうかと思うけど、実際、冷戦期のアメリカの思考はこの通りだったんだろう。これが冷戦の全貌だとは思わないが、定番と言われるだけのことはある。

個人的には、歴史関係の本を読んでいて、一番面白いのが冷戦期だ。時代も近いので、あんまり妙なことを言うのも不謹慎かもしれないけど、どうもスリルがあるというか、夢があるというか。

2010年12月24日金曜日

S. V. Gupta "Units of Measurement" (Springer Series in Materials Sciense)

簡単に言うと「単位の百科事典」。もちろん、中心はSI単位系の解説だけど、他の単位系の解説や、条約、関連する科学者の伝記まである。個人的には次元解析みたいな話には興味がある。多分、通読する人は少ない。たとえば、古代インドの単位に興味を持つ人は少ない。筆者がインド人で、多分、インド人向きに書いているからだろうけど。

読み物として考えると、同じテーマの本は日本語でもいくつかあるし、特段この本が優れている気もしない。はっきり言って娯楽性が低く、淡々とした本だ。ただ、この手の参考書誌は、似たような本が沢山重複して、初めて役に立つ。英語であるというのも重要な利点だ。

2010年12月17日金曜日

Toby Segaran, Colin Evans, Jamie Taylor "Programming Semantic Web"

オライリーという出版者とタイトルから想像される通り、セマンティックWebに関する、広範囲に渡る、具体的な概説書。翻訳もよくできているようだ。しかし、わたしはこの件について自分でコードを書く予定は今のところないし、ついでに、セマンティックWebに関してはもともと懐疑的なんで、その点を更に割り引かないといけない。

具体的なコードはPythonで書いてあるんだけど、わたしとしては、Prologのことが思い浮かんで仕方がない。特に日本はそうだけど、アメリカですら、冷戦期の大型計算機の成功体験が忘れられず、いまだに人工知能とかエキスパートシステムとか意思決定支援システムとか、それっぽいことを言えば予算を引っ張れるようなことではないかとかいうのが、わたしの懐疑の原点かもしれない。本書の中で人工知能はわざわざ否定されているけど、つまり、わざわざ断りを入れないといけないような世情なのであろう。実際にやっていることはPrologの頃とあまり変わっていない気がした。わたしの想像力のなさのせいかもしれないが、現に仕事でロクでもない開発例を何件も見ているんだから仕方ない。オントロジーとか言って哲学を引くのが流行りらしいけど、哲学者に失礼だろう。記号論はこんな雑な学問じゃない。

とはいえ、たとえば学術論文誌とか、そういう限られた世界では新展開が今後あるかも知れないという気もするので、一応こういう話は読んでおいて良かった。他にも入門書っぽい本はあるだろうけど、これが一番いいんじゃないかと思う。懐疑派であっても、読んで損したということにはならないと思う。



2010年12月8日水曜日

Rodolfo Saracci "Epidemiology" (Oxford Very Short Introduction)

多分、インフルエンザの流行に乗ろうとしたタイトルだけど、特に個別の疫病について解説するというよりは、一般的な疫学の方法論を解説している。個別の疫病については、方法論の説明の中で、肥満と糖尿病の関係や喫煙と肺癌の関係について解説されるくらい。パンデミックの防止法とかは書いていない。

・・・というと、専門的過ぎて一般に売れないような印象になるけど、疫学ほど統計の解釈に厳密な業界はない。統計的思考を鍛えるには、ある意味では、これは素晴らしい本だ。もちろん、実際には社会統計にも別の種類の難しさがあるけど、「統計的思考」という意味では、共通なことも多い。数理統計学の解説はほとんどないけど、実地での統計の使用に興味のある人には、疫学に興味がなくても面白いんじゃないかと思う。

2010年11月22日月曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid #5: The Ugly Truth"

こういう名作が日本の読者に届かないのは残念なことだ。今amazon.co.jpのランキングを見たら、洋書で66位となっていたから、そこそこ日本でも売れているらしい・・・。

日本語訳については、過度に自虐的な邦題と改悪された表紙を見ただけで、読む気をなくす。読む気をなくして中身を見ていないから、訳文がどうなのかは知らないけど。ただ、どっちみち、こういうのは原文で読まないと、面白さが半減する。

内容については、まあ、ごく普通の中学生の生活ということにしておく・・・。日本では児童向けみたいな売られ方をしているけど、PTA的見地からすれば、むしろ有害図書なんじゃないかと思う。だから、過剰にネガティブな邦題になるんだろう。本当のところは、大人が読んでこそ面白い。中学生くらいの子どもがいる親なら読む義務がある。英語も易しいし、「初めて洋書を読む」くらいの人でも大丈夫だろう。是非初巻から読みたい。


2010年11月21日日曜日

Margarita Madrigal "Madrigal's Magic Key to Spanish"

これは単純に英語のできる人がスペイン語を習得するための本。CDがついていないが、もともとスペイン語の発音は簡単&方言が多いからどうでもいいだろう。

天下り式に活用表を提示するのでなく、ひたすら言葉で時、時制も人称も一つずつ確実に習得していく感じなので、多分、普通の文法書とかに慣れていると、まだるっこしい。その分地道にやれば確実に力にはなるが、普通の日本人には、もっとシンプルな文法書のほうが好まれるだろう。アメリカ人でも同じだと思うけど。

しかし、この本には圧倒的な利点がある。だからこそ、数十年前の本が復刊されて未だに売れているのだ。

この本の圧倒的な利点は、英語をスペイン語に自然に変換する方法を示している点にある。実感として、英語から最も簡単に移行できる言語は、ドイツ語でもフランス語でもなくて、スペイン語だ。もちろん、落とし穴もあるが、類書にない決定的な利点だ。この本をメインに勉強しなくても、サブとして必ず読むべき本だろう。英語ができることが前提だが・・・。

2010年11月17日水曜日

Ken Taylor "50 Ways to Improve Your Business English"

この本は、今まで読んだこの手の本で最善だった。

簡単に言うと、非ネイティブスピーカーのために、国際的な場での英語の使い方・身につけ方を解説している。非常に実際的で、英語力のレベルが様々な人たちが集まる会議の進め方もあるし、英語力の優位を悪用するネイティブスピーカーへの対処法まで解説されている。もちろん、普通の英文メールの書き方とか読解力の鍛え方なども解説。

「アメリカ人になりたい」くらいまで思っている人には物足りないかもしれないが、「外人との会議で話したい」というような方向なら、この本は必読と言える。著者は外人相手の英語教師だが、会うまでもなく超優秀であることがこの本で分かる。非ネイティブスピーカーの心理とか立場を本当によく分かってくれている。

あと、Further Readingで、参考図書やWebサイトを紹介してくれているのも有難い。

レベルはというと、最低でもこの本が読める程度の英語力ということになるが、易しく書いてくれているから、大学生くらいなら大丈夫なんじゃないかと思う。論旨は明快だから、この本で読解力をつけようとするのもアリだ。

この本が名著である理由は、第一に単純にその目的を果たしているからだけど、(裏表紙に"A book that does exactly what it says on the cover!"とある)、第二に一般的にhow-to本の模範例でもある。how-to本は、このように書くべきなのだ。

2010年10月28日木曜日

Christopher S. Goto-Jones "Modern Japan" (Oxford Very Short Introductions)

関ヶ原の合戦から現在までの日本の歴史。特に日本人のアイデンティティ、ナショナリズムと、「西洋」「近代」との軋轢を描く。Page-turnerとまでは言わないが、一気読みしてしまった。

普通の高校生であれば、事実として知らないことは多分ほとんど書いていない。歴史の教科書は瑣末な事項ばかりで読み物になっていないから読む気がしない。かといって、「日本の通史」みたいな本は、右翼だったり左翼だったり、どっちにしろ晦渋な本ばかりでうんざりする。その点、この本は何気ない。

わたしの場合は、外国からやってくる日本研究者の接待があるので、参考までに読もうと思っただけ。世の中には「英語で日本を説明する本」みたいなものはいくらでもあるが、ああいうのは、日本の歴史教科書をそのまま英語に直したようなもので、有用かもしれないが、それ自体は読んでも楽しくない。

この本の内容としては、ペリー来航以降、日本人のアイデンティティが、常に「西洋」・「近代」との戦いだったことが描かれる。んで、いろいろあって太平洋戦争になり、敗戦で傷つき、ノスタルジックな川端康成とか極右の三島由紀夫が出たり、いまだに戦争の謝罪だの靖国で揉めているのも、傷ついた自己イメージみたいなことで解釈できると。岸田秀とかが言及されているだけでも頭が痛い。最後のほうはこばやしよしのりとか田母神とかまで出てきて、つまり、この著者の真の興味はそのあたりなんだろう。特にウヨクな人は、読んでいて腹を立てる可能性が高いが、この本は権威あるOxford大学出版局から出ており、しかも売れ線であるから、腹を立てるためにだけでも読んだほうがいい。

わたしとしては、太平洋戦争は単なる石油の取り合いとしか思っておらず、特に今時の日本人にとって、「日本人とは何か」という問いがそんなに重要な気がしない。確かに明治の知識人の書いたものとか、太平洋戦争の頃のアジテーションとかを考えると、確かに「日本人のアイデンティティ」みたいなことが大問題のような印象はあるけど、一部の知識人とかウヨクが勝手に苦悩しているだけで、歴史を動かすほどの問題の気がしない。しかし、まあ、話としては面白かった。

2010年10月22日金曜日

Raymond Wacks "Philosophy of Law" (Oxford Very Short Introductions)

こういうタイトルだと、極端な例を持ち出して「君はどう考えるか」みたいな本が増えている今日この頃、これは伝統的な法哲学の学説史。非常に薄いので、一つ一つの学者に関しては、端折過ぎの気がするし、これで分かった気になられてはたまらないとも思うけど、入門者にはこんなものかもしれない。

「著者が自分の見解を抑えている」というようなレビューもあるけど、本当に読んだのかと思う。かなりはっきりした価値評価をしているが、普通の主流派の判断なので、普通の人は流してしまうのかもしれない。ヴェーバー・デュルケム・ハバマスあたりを数ページで解説しようとするのもなかなかだが、最後のほうはフーコーとかラカンとかデリダまで超簡単に紹介して、結論としては「ほとんど法の理解に役に立たない」みたいな。じゃあ最初から書くなよと言いたいけど、アングロアメリカの法哲学界も、一時期ポストモダンの流行に巻き込まれてうんざりしたのだろう。・・・というようなことからも分かるように、「薄く広く」という本なので、ある意味頭を使わなくても読めるということはある。

2010年10月13日水曜日

Ken Binmore "Game Theory" (Oxford Very Short Introductions)

ゲーム理論については一通り勉強したことがあるし、今さら概説書を読んでも得る物もないだろうと思っていたが、書評が「素晴らしい」と「難し過ぎて意味が分からん」の二つに割れているようで、面白そうなので読んでみた。

わたしの感想としては、素晴らしい。研究に必要な数学は省かれているが、ゲーム理論の含意を知るのにそこは重要ではない。たいていの人は、ゲーム理論と言えば「囚人のジレンマ」とか「ナッシュ均衡」くらいの知識で止まっていて、面白い寓話ですね、くらいではないだろうか。この本では、それは入口に過ぎない。他に様々なゲームを検討していて、様々な社会的・生物学的現象をモデル化していく。「そんなのは所詮は現実を極端に単純化した玩具で、現実の社会はもっと不合理な道徳感情などによって支えられている」というのが普通の社会学者の言い分だと思うけど、この本を読むともう一度考え直したくなる。

わたしの理解が正しければ、この著者は、「ナッシュ均衡でない道徳制度や社会制度は長続きしない」と考えている。ホッブズは「万人の万人に対する闘争」を解決するために国家権力が必要だと考えた。それでいいとして、それによって出現する均衡状態はナッシュ均衡だけで説明できるのか、それとも人類学者や社会学者が考えるように、何か不条理な宗教的畏怖や権威の概念が必要なのか。むしろ宗教や感情はナッシュ均衡の作り出す幻ではないのか。わたしには何とも言えないが、この方向を追求する価値はあると思うのだが。

最後のほうでは、ゲームが成り立つ基礎みたいなことまで研究していて、ほとんどヴィトゲンシュタインみたいなことになっている。一般的なゲームの他にも、オークションや「利己的遺伝子」の話などもあって、面白い話が盛りだくさんだ。ただ、確かに、頭を使わないで読める本ではない。著者は明らかに楽しんで書いているし、わたしも、この楽しさを共有できる人が多いといいなあと思う。難しいという人が多いのも事実だが、わたしのこの書評をここまで読んでくれた人なら、問題なく読めるだろう。

2010年10月12日火曜日

Tom Rath "Strengths Finder 2.0"

主張としては「弱点の克服に時間を使うよりは長所を伸ばしたほうがいい」というようなことだけど、この本自体は本体ではない。本体はWeb上の自己診断テストで、それでタイプ分類が出るから、自分に関係するところだけ読めばいいようになっている。よくある「適性診断テスト」みたいな物の、デラックス版と思って良い。「あなたに向いている職業は~」みたいな話のほか、色々なアドバイスが出て来る。アクセスコードは本に付属。

テストは余裕で三十分くらいかかる。わたしは英語で受けたけど、日本語でもOKなようだ。わたしの結果は、Ideation, Maximizer, Analytical, Deliberative, Futuristicだった。もともと自己申告だから、星占いみたいに意外な結果が出たりはしない。そして、自己イメージに沿って褒め称えてくれるので気分が良い。こんなので喜んでいるのもどうかと思うが、星占いと同様に話のタネになるし、多分大間違いでもないだろう。自信喪失気味で、しばらく人に褒めてもらっていない人などにお薦めだ。

2010年10月9日土曜日

Robert A. Heinlein "The Door into Summer"

これ読んだのは相当昔だけど、急に思い出したので紹介する。今まで読んだ小説の中では、多分五本の指に入るだろう。わたしは基本的に復讐話が好きだ。もっとも、これは結局はあんまり復讐ではないんだけど。SFだけど、そんなに難しくもないし、普段SFを読まない人でも楽しく読めると思う。恋愛小説という説もあるが、その辺りはわたしはあんまり反応していない。けど、そういう楽しみ方もあるんだろう。猫小説という分類も有り得る。

2010年10月7日木曜日

Stephen Hawking, Leonard Mlodinow "The Grand Design"

ホーキング博士の最新刊。宇宙論という分野は、進歩が激しいというか情報爆発みたいな感じで、専門家ですら最新の情勢についていくのが大変らしいが、そこでホーキング博士みたいな人が書いてくれると話が早い。例によって一々神の非存在を論じていてうんざりするが、間違いなく本人が書いているというようなことで。

半分以上が、ギリシアの叡知をキリスト教が抑圧したとかいう世界観と、量子力学と相対論のよくある概説みたいなので占められている。本題はそこから先で、M-theoryと言う理論(群)を推してくるが、最終的にはライフゲームみたいなもので、単純な規則から見かけ上複雑な状況も作れるということらしい。まあ、昔から「宇宙のすべては単純なアルゴリズムの反復で生成できる」みたいな主張をする人はいるわけで、ホーキングはそこまで野心的ではないが、とにかく、「宇宙の存在を説明するのに、神は不要」ということがひたすら強調されていて、多分、普通の日本人には、そこまで必死になる理由が分からないんじゃないかと思う。

と思ってタイトルを見なおすと"The Grand Design"というのは、キリスト教系の"intelligent design"論に対抗する意味のようだ。日本語に翻訳しても、あんまり売れないかなあ。

2010年9月27日月曜日

Graham Hutton: "Programming in Haskell"

Haskellの基本的入門書であり、Haskellを勉強しようと考えた人がこの本を見逃すことは考えられないし、敢えて読まないことも考えにくい。読んでから気がついたが、和訳があって、訳もちゃんとしているし、訳注が素晴らしいので、日本語を読めるんなら、日本語で読んだほうがいい。少なくとも参照する価値はある。

本自体は文句の付けようがないし、MUST-READなので、特に推奨の書きようもないんだけど、この際なのでHaskellを推奨する。近頃、関数型言語が流行り始めているが、色々な関数型言語の中では、このHaskellこそが最も基本というか過激派というか、関数型原理主義者とか理論家になりたいのなら、これが選択肢だ。実際のところ、数学の素養のある全くの素人にとっては、最も易しい言語だろう。それに呼応して、本書に出てくる多くのプログラム例は、実際にはそのままの形では動作しない。そんな関心は二の次なのだ。しかし、真面目な話、関数型言語の何たるかを知るのに最善の本でもある。



2010年9月26日日曜日

David Canter: Forensic Psychology (Oxford Very Short Introductions)

このタイトルを「犯罪心理学」と訳すと意味が狭過ぎる。犯罪の原因に関する心理学の他、法廷心理学、陪審員選び、精神鑑定、ウソ発見、証人の記憶の信憑性、刑務所や矯正施設での心理学、性犯罪者や薬物中毒者の処遇、プロファイリング等、要するに犯罪・刑事・司法のあらゆる分野における心理学の応用を概説する。

とにかく読みやすい。だいたいわたしは心理学という学問をあんまり信用していないが、犯罪心理学の泰斗だけあって、科学者としての良心が一々感じられる。科学的なカテゴリと、司法行政の現場でのカテゴリの間の矛盾にも敏感だ。「何にでも○○症候群とか付けるな」とか、「精神鑑定なんて当てにならない」と思っている人は読む価値があるだろう。読んでも疑念は晴れないが、しかし、こういうのが全然無いとマズいのも厳然たる事実というようなことは分かる。

特に英語圏では"プロファイリング"という言葉が濫用されて、まあそれで優秀な人間がForensic Psychologyに集まって来るのはいいけど、科学的に確実な範疇を越えて濫用されても困るというような、とても常識のある著者なので、安心して読めるだろう。

2010年9月16日木曜日

Anthony Giddens "Sociology" (6e)

わたしがこの本に出会ったのは随分昔のことになるけど、その当時は退屈な本にしか思えなかった。翻訳だったせいも大きいと思うけど、当時は、もっと尖った、極端で不条理な理論書みたいなほうが好きだったからな・・・。今でもパラパラ見ることがあるけど、そのたびに考える材料を提供してくれる。

そういうわけで、わたしの口からは、「社会学を学ぶ奴は全員読め」とは言いにくい。それぞれの興味の持ち方によっては、退屈な部分もある多々あるだろうし。しかし、とにかく分厚いから、興味を惹いたところだけでも、適当に拾い読みしていれば、論文のネタに困るなどということはない。

Programming F# (O'Reilly)

F#を勉強しようという人が本を探すと、この本が真っ先に出てくるはずで、ほとんど選択の余地もないし、本自体もちゃんとした基本書なので、わたしがどうこう言う話でもないのだが・・・。和訳が出たのにさっき気が付いたので、訳の仕上がりは知らない。まあ海外とやりとりする際などには英語で話さないといけないから、原著のほうが間違いないだろう。

一応、基本から解説してあるから、関数型プログラミングについて無知でも読めることは読める。非手続き型言語本にありがちなマニアックな理論はあまり語られない。そういうことが楽しいムキは、LispとかHaskellみたいなので勉強した方が楽だろう。まあ、F#も特に変な言語ではないので、その方向からF#を選択するのも間違いとは思わない。Lisperなら、この本をチラ読みするだけでも、十分概要をつかめるし、それでとりあえず終了かもしれない。

Microsoft流の実用主義というようなことで、はたしてF#に先行投資する価値があるのかどうかは知らない。わたしはあると思っているが・・・。あと関係ないけど、IO Booksの"関数プログラミング言語「F#」"は、全くお勧めできない。


2010年9月14日火曜日

Harriet Bulkeley, Peter Newell "Governing Climate Change" (Routledge Global Institutions)

たとえば、Shell一社でサウジアラビア一国の二酸化炭素排出量を越えているというような時に、従来型の国際機関-国-企業・私人というようなガバナンスには限界があるというような問題意識から書かれている。企業は規制の厳しい国からは逃げることができるし、途上国の住民を立ち退かせて森にしてカーボン・シンクなどと言い張ることもできる。

このような状況では、国以外に、コミュニティベースの運動や企業連合のようなものが重要になってくるというのが一貫した主張だ。HIVと同じで、似たような団体や標準が増えすぎている気もするし、果たしてどれだけ有効なのかも良く分からない。一方、ネオリベラルな思考に基づいた排出権取引のようなガバナンスもあるとかで、有効無効は別として、色々考えさせられる。

そして、もちろん、ガバナンス推進派と懐疑派との間の知識社会学的戦闘も描かれているが、筆者たちは基本的には懐疑派を科学的に問題にならないと考えているようだ。なんにしろ、この本は、温暖化問題に対する対策を記述するというよりは、新しいタイプのグローバル・ガバナンスの勃興に興味がある。その点に関しては、わたしももっと研究したくなった。

わたしは実は個人的には温暖化問題を真剣に考えていないのだが、二酸化炭素原因説が陰謀だという話より、二酸化炭素が原因じゃないというの説が陰謀だと言うほうが説得力がある。どっちにしろ多少の陰謀はあるんだろうけど、その辺りも少し記述がある。

純粋に温暖化問題について概要を知りたいという場合は、たとえば、Oxford Very Short Introduction Seriesの"Global Warming"をお勧めしたいけど、別に日本語でも色々あるだろう。



2010年9月10日金曜日

Writings from the Zen Masters (Penguin Great Ideas)

無門関・十牛図のほか、あとは日本の禅僧のランダムな逸話。前二者は日本語でも容易に手に入るし、最後のも、日本語でそれらしい本を読んでいれば、知っていることがほとんどだろう。しかし、英語で読んだほうが、直接響いてくることもある。不思議なものだけど、どうも日本語は雰囲気で読んでしまっているところがあるのかなあ。

2010年9月9日木曜日

Dale Carnegie: How to Stop Worrying and Start Living

今更だけど、この本はやっぱり挙げておきたい。日本語訳が「道は開ける」とかいう残念なタイトルになっているので、気持ち悪がって手にも取らない人が多いんじゃないだろうか。しかし、読んだ人はみんな絶賛しているし、わたしも絶賛する。大体書店の自己啓発のエリアに陳列されていて、そのエリア全体をバカにしていると、下手をすると一生手に取らない。確かに自己啓発本のルーツではあるんだけど、決して今時の胡散臭い本ではない。むしろ、アメリカ哲学の最後の傑作と言うべきなんだろう。

"Worry"という単語は、「クヨクヨする」という意味もあるが、「イライラする」という意味もある。だから、心配と訳すると意味が狭すぎるけど、基本的に心配性の人のために書かれた本だ。楽天家がこの本を読んでどう思うのかは分からない。わたし自身が心配性だから。そして、別に困ってもいない人に敢えて勧めるのも躊躇われる。

内容は、心配性の人に心配をやめる様々な方法を具体的に教えるものだ。それも胡散臭い呪術的な方法ではなく、激しく古典的な方法が挙げられていく。たとえば、何かに夢中になってしまえば、心配をしているヒマがない。そういう意味では、斬新なことは何も書いていないが、それでもわたしを含めて多くの人が絶賛している。まあ、わたしが説明するより、とにかく手にとってもらいたい。少し大きめの本屋ならどこでも日本語訳は置いてあるし。英語で読んでも易しい。



今ではわたしはたまにしかこの本を見ない。結局、心配をやめるには、単に心配をやめるしかない。心配をやめたいと思っているのなら、やめればいい。分かる人はこれで分かるんだろう。分からなければ、ひとまずこんな本を読むしかない。だから、わたしにとってこの本は、いずれ卒業しないといけない本だ。いつかわたしはこの本を忘れるだろうか。

2010年9月8日水曜日

Political Philosophy (Oxford Very Short Introduction)

実のところわたしは政治哲学というものにあんまり関心がなく、サンデル教授が正義について語っても、パラパラ見て、「思いつき言ってるだけやん」と思って放置してしまう。まだ中国や日本の昔の思想家のほうが興味がある。少なくとも、彼らは次の日から現実に適用可能なことを語っている。

現実から離れた・単純化された・異常な状況について、ああだこうだと理屈を重ねるのは楽しいけど、それはそれで終わりというのが、だいたいのわたしの哲学全般に対する思いだ。記号論とかは本当に面白いけど、厳密な議論ほど現実に適用できないというのが、デリダの教えだと思っている。

とは言え、社会哲学がないと困るのは事実だし、それで踊っている人が現実にいるんだから、無視してばかりもいられない。そうすると、「考えてみよう」みたいな本より、単なる学説史紹介みたいな本のほうがいいけど、その点では、この本はわたしには初歩的過ぎた。初学者には良いと思う。理屈を捏ねるのが好きな人は、サンデル先生のほうがいいかもしれない。流行でもあるし。





2010年8月31日火曜日

The U.S. Congress(Oxford Very Short Introduction)

このシリーズのフォーマットに則った、米国連邦議会の入門書。機能と現状と歴史を交えながら解説していく。最後はCapitolの案内まで。翻訳しても売れると思うけど、米国議会を学ぼうとするくらいなら、この程度の英文は読めるはず。最初の一冊としてもお奨めだし、基礎教養ということなら、これで完結している。

これを読み終わると、"Congressional Procedures and the Policy Process"がだいたい理解できるようになる。こっちはすべての議会関係者・ロビイストの必携書ということになっていて、立法過程の戦略が詳細に解説されている。これ以上詳しく学びたいということだと、"The Hill"とか"Roll Call"みたいな業界紙を読みながら専門に研究するか、この本を片手に連邦議会周辺で働くしかない。

もっとも、米国の法律が主たる興味という場合は、"Congressional Record"とか"Federal Register"とか判例とかを読めるようになるほうが優先課題だ。この辺りは、わたしはNOLOの"Legal Research"で学んだけど、もっと重い本でよければいくらでもあるし。

それにしても、日本の国会に関しては、こういう分かりやすい中立な解説書がなさすぎる。一番それらしいのが「新・国会事典」だけど、どうも建前な解説が多くて、リアルなところが分からない。議会の歴史がまだ浅いのかな・・・。







2010年7月29日木曜日

Galaxies (Oxford Very Short Introduction)

大体天文学史と同期して宇宙の大きさの測定を述べていく。銀河測量学というか。最初のうちは比較的近くの天体の距離の測定とかやっているが、銀河系・銀河間となっていくにつれ、「本当にこれで大丈夫なのか」というような話が増えていく。まあ、本当がどうだろうと、何億光年先の距離を多少間違えていても関係ないけど。最後のほうなんか、ほとんど妄想みたくなってくる。

わたし自身はこの手の話はさんざん読んでるし、特段新しい知識もないんだけど、なんか読んでしまうのは、気が晴れるのと、語り方が違うから。特にこの本に関しては、測量という渋いテーマがあり、軟弱なポピュラーサイエンスとは少し違うかもしれない。

2010年7月23日金曜日

Theo Gray's Mad Science

危険で面白い化学実験を集めた本。一応、面白さを追求しているが、どっちかというと危険であることに意義があるというような・・・。爆発系の写真が多くて楽しいけど、問題があるとしたら、マジで危険なことだ。注意事項は色々書いてあるけど、本当にこの実験を再現しようとするのなら、こんな注意では到底足りないし、相当な設備と経験が必要になる。そんなわけで、危険過ぎる実験を著者が代わりにやってくれていると考えるべきだ。一応科学的な解説もしてあるけど、やっていることは基本的に中学生レベルなんで、これで何か勉強になるわけでもない。まあ、一回読んで面白かったから、それでいい。




2010年7月15日木曜日

The Laws of Thermodynamics (Oxford Very Short Introduction)

熱力学の入門書。このシリーズでは通例だが、数式は最小限に抑えられている。技術的な細部より、熱力学の第零~三法則の意義を説く。

熱力学というと、どうもダサいイメージがあって、ポピュラーサイエンスでも、ほとんど話題にならない。そういう意味でも、この本は価値があるけど、物理志向の高校生くらいが読んでも面白いんじゃないかと思う(英語が読めればの話だが・・・)。四つの法則だけでも、色々、環境問題的・哲学的な含意があると思うけど、この本はその辺りはストイックに、あくまで物理学に集中している。それを良しとするかどうかは人それぞれだと思うけど、どのみち薄い本なので、少しでも興味があれば、読む価値は高い。

2010年6月3日木曜日

Desert (Oxford Very Short Introduction)

砂漠の自然地理とか人文地理とか地学とか博物学とか。高校の頃に地理の時間に習ってそのまま二度と思いだすことのない単語が頻出する。わたしは地理とか生物とか嫌いだったけど、それでも面白いんだから、相当な名著かもしれない。著者は砂漠に関するテレビ番組を作ったりもしているようで、この面白さは納得できる。

主題は砂漠の物理と、そこに住む生き物や人間文化の驚異だ。もちろん環境問題にも触れられているけど、視点が完全に観察者で、鬱陶しい「ねばならない」という観念が薄く、砂漠の豊かな自然を語るほうに重点がある。たとえば地下水を汲み上げて無理矢理砂漠の上に作った都市とかについても、「長くは維持できないだろう」みたいな観察をするくらいで、要は砂漠の一時期の一風景でしかないんだろう。

とかく、砂漠というと最近はロマンというよりネガティブな印象のほうが強いけど、かなり感覚が変わる。とりあえずサボテンでも買ってこようと思う。

2010年5月30日日曜日

Neoliberalism (Oxford Very Short Introduction)

これは名著。三十年に渡る新自由主義の功罪を解説。第一の感想は、「さっさと翻訳しろ」ということだけど、翻訳しても生硬な文章になったりするんだろう。英語を読めることに感謝しなければならない。

新自由主義そのものの説明もコンパクトでいいが、世界の新自由主義を概観して回るのが素晴らしい。もちろんサッチャー・レーガンから始まるけど、アジア、南米、アフリカなども概観。もちろん小泉政権も入っている。それぞれのバリエーションと功罪を分析。

日本のマスコミはいまだに小さな政府だとか事業仕分けだとか言っている次第で、本当に世界から見れば遅れているというか、バカと言っていいと思う。こういうのはblogとかでは結構論じられているとは思うけど、そういう人たちは、学問的背景が薄かったり、単なるアカだったりで、パワー不足は否めない。こういう本を読んで、世界のネオリベを学習すれば、また説得力が違ってくると思うのだ・・・。

2010年5月22日土曜日

Forensic Science(Oxford Very Short Introduction)

日本語では科学捜査とかいうのかなあ。詳しくは知らないけど、英語圏ではこういうテーマのテレビドラマが流行っているらしい。概説だけど、地味な仕事だという印象。

2010年5月16日日曜日

Privacy (Oxford Very Short Introduction)

個人情報保護法制の概説。読みにくいのは、第一に分野自体が新しくて論点が整理されつくしていないのと、第二に、判例法中心の英米法の体系が、日本人に馴染みがないから。日本で言えば、個人情報保護法はもちろんだが、知財関係とか民法、不正競争防止法、不正アクセス防止法のほか国際条約等の広い知識が必要で、応用分野の中でも最も高度な世界かもしれない。というわけで、この辺りの知識に自信があって、さらに英米にまで手を出そうという志の人にのみお勧めする。

2010年5月12日水曜日

The Wimpy Kid Movie Diary: How Greg Heffley Went Hollywood

映画のメイキングなんで、基本的には映画を見た/見る人が読むものなんだろう。わたしは見ていないし、見る機会があるかどうかわからないが、なんとなく面白かった。ただ、わたしは例外なんだろうとは思う。

2010年4月22日木曜日

Freefall : Stiglitz

これはこれからの時代の経済学の基本的入門書になるかなあ。といっても、本当の素人が読んで理解できる部分は限られていると思うけど。しかし、経済学を学び始めたのなら、一刻も早く読んだほうがいいのは間違いない。大恐慌からリーマンブラザーズ破綻に至るまで、何が起こったのかを分かりやすく解説している。これを読んだからといって単位が貰えるわけでもないが、本当に経済を理解したいのなら、必須だ。


2010年4月9日金曜日

Innovation: A Very Short Introduction (Oxford Very Short Introductions)

ウェッジウッドの話から始まるが、結局はビジネスマン向けの啓蒙書みたいな方向なのかなあ。言っていることは、オープンな企業文化が大事だとかWeb2.0だとかで、わたしから見ても凡庸な気がする。ただ、この本の価値は、豊富な実例引用だ。それに、日本では、あまりイノベーションという切り口でビジネスや政治を語ることがないので、斬新に感じるところもある。

2010年4月7日水曜日

101 French Proverbs with MP3 Disc: Enrich your French conversation with colorful everyday sayings

フランス語の諺を101集めたもの。別にそれ自体は面白くも何ともないが、一つ一つにちょっとした文章例がついていて、そこに価値がある。適当な感じの長さのフランス語って、案外ないし。音声ファイルも大きいな。

2010年3月29日月曜日

The Ultimate French Verb Review and Practice

初級文法を一通り終えている&英語が読めるのが前提だと思うけど、とりあえず、フランス語の動詞活用に関しては、これが確かに最善の一冊だろう。特に欠点もなく、ただただ優良図書。わたしとしては、"The Ultimate French Review and Practice"を終えてからやったので、楽だった。問題集で習得できるのはここまでだろう。この先は実地にやっていくしかない。



2010年3月25日木曜日

Institutions of the Asia-Pacific (Routledge Global Institutions)

わざわざ地球の裏側の人に解説してもらうこともないとは言えるが、外からみた状況という意味もある。

解説の中心はASEAN諸国で、それに加えて中国・日本・オーストラリア・アメリカ・インドの動き。前半は既存の組織の解説で、中心となるのはASEAN, APEC, ARF。いかに無効な組織であるかばかり書いてあって、先が思いやられるが、事実だし、読んでいて面白い。欧州と違って、各国の背景があまりに多様で、アメリカが統合を阻み続けたということが繰り返される。

後半は今後の展開で、geopolitics/geoeconomicsの解説に重点がある。中国の台頭、アメリカの撤退、日本の対米追従、オーストラリアの微妙な立場などお馴染みの話題。ただし、この本が書かれた時期と比べると、日本の現政権ははっきり脱米入亜に進路を振っているし、オーストラリアも中国寄りに切り替えた。まあ当然の流れとは言える。何にしろ、話の中心には必ず日本がいるので、あまり資料性はない気がするが、読み物として成り立っている。

2010年3月10日水曜日

Relativity (Oxford Very Short Introductions)

特殊相対性理論&一般相対性理論の一般人向け解説書。数式はほとんど出てこない。

似たような本は、特に翻訳書でも結構多いし、あんまり期待していなかったけど、予想外に面白かった。

話自体は古典的なので、後は説明の仕方とか、最新の宇宙論とかとの関係とかで差がつくだけだけど、冗談も交えながら、自然に読ませる。特に特殊相対性理論は、数学的にそんなに難しいわけでもないので、一般向けの解説書を読んでいるより、真面目に勉強したほうがいいというのも一理あるけど、見通しも大事だし、一冊というのなら、これが一番だ。

2010年3月4日木曜日

The United Nations and Human Rights: A Guide for a New Era (Routledge Global Institutions)

国連における、人権関係諸機関のガイド。版を重ねているだけのことはあって、この件に関しては、第一に参考になる本かなと思う。特に、この手の機関と頻繁に付き合いがあるか、言及する機会の多い人にとっては、必携書かもしれない。あくまで機関の概説で、人権概念そのものについては、あまり記述していない。

しかし、ここに記載されているような数多くの重複した機関が何をやっているのかというと、結局は、それ系のNGOから話を聴いたり、各国に大量の報告書を提出するように命令したりして、適当に非難声明を出すくらいのことで、話に具体性が乏しく、正直あまり面白くはない。別にこれはこの本のせいではなくて、「人権」とか「国連」とかいう言葉から、当然想像できることだ。まあでも、こういう話が好きな人も多いので、個人的な感想に過ぎない。資料性もあるし、関係者なら、手元に置いておけば、結構活用する機会があるんではないかと思う。

2010年3月1日月曜日

German a la Cartoon

マンガでドイツ語を学ぼうという趣旨の英語の本だが、タイトルはフランス語風というような・・・。

実際には、一こまマンガが101個あって、それぞれに単語の説明と英訳がついている。ごくごく初歩的な単語にも訳がついているので、その点で苦労する人はいないだろう。文法的には、多分、直接法しか使っていなかったと思う。正直なところ、あんまり勉強になるとは思えないが、ドイツ語に親しむという意味では、非常に良い本だろう。マンガ自体は大して面白くないけど、絵は好きだ。マンガ家は複数だけど、こういう絵を見ていると、日本のマンガの絵が、いかに画一化されているかを痛感する。

2010年2月28日日曜日

The Great Depression and the New Deal (Oxford Very Short Introductions)

大恐慌の始まりから戦後ブレトンウッズ体制が築かれる間の物語。筆者は「デフォルメ」と言っているが、学術的な記述というよりは物語。たとえば、NHKが七日シリーズでドキュメンタリーを編集したら、こんな感じになるだろう。決して楽しい話ではないし、昨今の経済事情も思い合わされて、色々考えることもあるが、こんなことを繰り返しながらも資本主義でやっていくしかないんだろう・・・。感情や評価コミで、状況を語っていくが、巻末の立法リストは資料性もあり。現代の経済政策を考える人にとっても、これくらいが最低限の基礎知識ではないかと思う。

2010年2月13日土曜日

Loneliness: Human Nature and the Need for Social Connection / 孤独の科学

わたしはこの本はKindleに入れているが、今日、日本語翻訳を発見した。アメリカでは相当売れているようなので、翻訳が出るのは当然だけど、日本でも売れるんじゃないかと思う。

遺伝子がどうとか、人類の進化の途上でどうこうとか、ちょっとした実験の紹介だったりがあって、体裁としては、よくある心理学の本だ。厳密に考えると憶測が多過ぎて科学としてどうよとか思うのは心理学の常だけど、それでもこの本は読む価値があった。

第一にポイントになるのは、孤独感が人の心理・生理にどういう影響を与えるか。「そんなこと言われなくてもだいたい分かってるよ」と思うけど、それでもあらためて鬱になるくらいの話だ。

第二のポイントは、孤独から抜け出すためのアドヴァイス。これは各所に散りばめられているが、要するに、「人を助けることを考えろ」ということだろう。これも書いてあるけど、不幸な人、孤独な人は、自分の不幸さに囚われていて、人を助けるような余裕がないと考えがちだ。だが、自分の不幸を棚に上げて人を助ける方向に行く以外に救いはない。

それ以外のこと、たとえば、実験の結果どうだったとか、進化の過程で孤独感がどういう役割を果たしたかとかいう話は、正直あんまり感銘を受けなかった。けど、人によっては、説得力を感じるだろうし、結論の真実さに変わりはない。

誰でもこの本から得るものはあると思うけど、特に孤独な人にとって、この本は、一つの方向に一歩踏み出すキッカケになるかもしれない。



2010年2月12日金曜日

Oxford French Cartoon-Strip Vocabulary Builder

フランス語の語彙強化のためのマンガ、ということだけど、マンガ自体、なかなかクオリティが高い。普通にフランス語の新聞に乗っていても不思議ではない。同じマンガで、ドイツ語・スペイン語もあるみたいだけど、多分、フランス語がオリジナルだろう。なんかそんな気がする。

左ページにマンガ、右ページに語彙の説明が載っている。語彙は、むちゃくちゃ初歩的な単語まで解説されている。文法的には、多分、接続法はなかったと思う。ただ、それでも、一通り初級文法を終えているくらいでないと苦しいだろう。文法の説明はほとんどない。それを考えると、単語は少し易し過ぎるし、勉強になったのかどうか分からないけど、とにかく面白かったから良しとしよう。

2010年2月5日金曜日

The Ultimate French Review and Practice

フランス語の初級段階を終えた人が文法事項を確実にするのに使う。とにかく量があるので、覚悟を決めた人にお勧め。実際には、これくらいは当然としてやらないと、日常会話ができるようにはならない。英語圏でも、しっかりフランス語をやりたい人なら、練習問題集としては、この本が第一の選択になる。

CD-ROMは、わたしの環境では、VISTAでは動作しなかったし、XPでもアクサンが出なくて、実際には使い物にならなかった。また別の環境でも試してみるけど、CD-ROM抜きでも、十分に価値がある本だ。

Postcolonialism (Oxford Very Short Introduction)

まず、このタイトルでは何のことか分からない人もいると思う。簡単に言うと、反植民地主義、反帝国主義、反黒人差別、反多国籍企業、反グローバリズム、環境保護・・・。人名で言うと、もっと分かりやすくて、カストロ、ゲバラ、ファノン、サルトル、毛沢東・・・。

皆さんの周りにも、こういうのが好きな人がいて、大抵は団塊の世代で、わたしがあんまりこういう話が好きでないのは、多分彼らのせいだ。実際問題として、今となっては、彼らの主張は紋切り型でしかなく、彼らが当てにしていた社会主義とかはご覧の有様だし、何より暑苦しい。しかし、依然として差別意識は白人の中では未だに強力で、平気でイラクやらアフガニスタンやらを爆撃し続けているのだから、こういう話を素通りばかりしているわけにもいかない。

そこで、一冊こういう本を読んで置くのは良い考えだと思う。文学的というか、感情に訴えようとする部分が大きく、その意味でも期待を裏切らない。

2010年1月21日木曜日

The Everything Learning German Book (2nd ed.)

わたしは第一外国語がドイツ語だったし、院試もドイツ語で通った。だから、ドイツ語を復習するにしても、この本は簡単過ぎたんだけど、なんだかんだで、しっかり全部読んだ。

まず、これは英語圏で最も売れているドイツ語入門書だろうし、評判に誤りはない。本当の初歩から、接続法まで、必要事項は一通り解説している。しかも、わたしはこれ以上易しい入門書は、少なくとも日本語では見たことが無い。もちろん、英語とドイツ語の文法が、それだけ酷似しているということがある。フランス語は、単語レベルでは英語と似ているが、文法に関しては、英語に最も近い言語はドイツ語だ。ていうか、もともと英語はドイツ語だったのに、その上にフランス語の語彙が載ったようなわけで、基本は何も変わっていない。この辺りの事情も本書に軽く解説されている。

他の本も少しみたけど、英語が読めるという前提で、ドイツ語を初歩から学びたいということなら、本書が最もお勧めだ。日本語で勉強するより、ずっと楽だし。もちろん、本当にドイツ語を使えるようになるには、読み終わった後、別に問題集とか本格的な本に取り組む必要があるけど。CDも付いているけど、わたしはあまり聴かなかった。もともとドイツ語の発音がそんなに難しくないせいだけど、本当の初心者は聴きながら読んだほうがいい。

2010年1月10日日曜日

How to Start a Conversation and Make Friends

これは日本人の英語学習者が全員読むべき英会話本である。

基本的にはアメリカのビジネスマン向けの本だけど、日本人の英語学習者も、この本を読む程度の英語力があれば、直ちに読むべきである。この本の対象読者には、外国人の英語学習者も含まれていると書いてある。

この本が優れているのは、読み始めて直ぐに分かる。まず、最初に解説されているのは、知らない人ばかりの立食パーティーのような状況だ。こういうのは、「コネを作る」という趣旨で開催されるが、多くの日本人にとって、居心地悪いものではないだろうか。アメリカ人はわりと平気な顔をしているように見えるが、この本を読めば分かるように、彼らにとっても勇気のいることらしい。こういう時に、ドギマギしてしまう人のためにこそ、この本は書かれている。もちろん、有用な英語フレーズも満載だ。

第一章は、そんなことを含めた、会話の始め方で、ここだけでも価値がある。続く章では、会話の続け方、深め方、面倒な相手の取り扱いなどが解説されていく。我々にとっては、外国人との会話の仕方という箇所も非常に重要で、読み応えがある。携帯電話とかe-mailとかも、結構重要なことが書かれている。

この手の本にありがちな精神論は、ほとんどない。もちろん、自分の会話スタイルの欠点を認識することは重要だが、この本によると、そういう欠点は特に深刻な心理学的問題の表れというより、単なるクセだから気をつけて直しましょうと。自己啓発書嫌いの人でも問題ないと思う。そして何より、英会話に役立つ。本当は日本人が学ばないといけない英会話は、こういうことなのだ。

2010年1月4日月曜日

Congressional Procedures and the Policy Process

わたしが持っているのは7th ed.だけど、通読した上に頻繁に参照するからボロくなってしまった。この最新8th ed.もmust buyだ。米国議会の立法過程をリアルに解説しているため、ロビイストや議会関係者の間では必携書とされている。もちろん、純粋に政治学の勉強をしている人にとっても、必読書と言えるだろう。これ以上詳しい情報となると、もう現場の議員やスタッフに尋ねるしかないのではないか。しかも、彼らにしても、やはりこの本を読んで勉強しているのだ。

International Judicial Institutions (Routledge Global Institutitons)

国際司法の歴史だけど、実質はほとんどが戦争裁判で、「平和と人道に対する罪」の話がほとんど。日本人としては、こういうことだと、すぐに東京裁判を思い浮かべ、「どうせ」みたいな気分になるけど、著者たちは徹底して訴追する立場で、国際司法の発展に尽力しているようだ。確かに「戦争だから何やっても仕方がないんだよ」みたいな暴論には賛成できないが、著者たちの情熱にも、ついていけないような正義感を感じる。しかし、こういう情熱がないと人類も進歩しないんだろう。色々な裁判を具体的に追っているので、現代史の勉強にもなる。

The International Olympic Committee and the Olympic System (Routledge Global Institutions)

国際オリンピック委員会の概説だけど、それだけでなく、様々な関連団体(各スポーツの国際団体や各国内のオリンピック委員会など)も解説していて、国際的なスポーツビジネス全般の解説書になっている。これを読んでいないスポーツジャーナリストなんてあり得ないんじゃないかと思う。読んでいて驚くような発見も多い。名著だ。

The International Organization for Standardization (ISO) (Routledge Global Institutions)

本書でも触れられているけど、日本企業は、概して「お客様の要望に合わせて物を作る」ことを良しとしており、自ら規格を作って客に押し付けようという発想が薄い。最近になって、ようやく日本でも標準規格を作ることの重要性が認識されてきたけど、ひとまず、こういう本から勉強したらどうだろうか。



The Organization for Security and Co-operation in Europe (Routledge Global Institutions)

OSCEという機関は、欧米でも知名度が高いとは言えず、NATOかEUの下部機関と思われてるんじゃないだろうか。実際にはロシアからアメリカまでほぼ全ヨーロッパをカバーする組織であり、しかも歴史もずっと古い。そして現実に重要な活動を行なっていて、その辺りは本書を読んで発見していただきたい。特に東欧・中央アジアの紛争地帯での活動実績が多数地図入りで解説されていて、その辺りの世界地理・国際情勢の勉強にもなる。類書もなく、お勧めの一冊だ。

The World Bank (Routledge Global Institutions)

世界銀行というと、一般的にはあんまり良い評判がないような気がするけど、反グローバリズム団体が書くような本と比較すると、この本ははっきり世銀を擁護する側だと言えるだろう。正直なところ、決して公平な本とは思えなかった。しかし、批判する側の本はもっと不公平なことが多い。

The World Intellectual Property Organization (Routledge Global Institutions)

WIPOというと、TRIPs以降、単なる国際特許事務所くらいにしか思われていないけど、筆者はそうではないと主張している。そうなんだろうとは思うけど、この本の価値は、とにかくWIPOの概要を解説していて、類書がない点にある。知らなくても実務上大して問題がないということもあるけど、知財関係の仕事をしている人は一応基礎教養として知っておくべきことが多い。

UN Security Council (Routledge Global Institutions)

安全保障理事会に関する最も標準的なテキスト。日本で国連というと、だいたい総会を基本に書かれることが多く、法的にはそれは間違いではないけど、現実に国連で最も重要なのは安保理だ。そして、国連は世界で最も正統性の高い機関である・・・。一頃の常任理事国入り問題の時にも、日本人が根本的に国連と安保理の重要性を分かっていなかった気がしている。日本語でも優れた解説書があるけど、そのうち二冊だけ紹介しておきたい。いずれも必読書であり、もしも英訳したら、世界中でテキストとして採用されるレベルだ。日本語で読めることに感謝。





The World Health Organization (Routledge Global Institutions)

伝染病対策があるので、医療関係は国際機関の歴史がわりと古い。そして各地域の機関を統合する形でWHOができたわけだけど、そういう基本から、現在のWHOの概要まで解説。この本自体は読みやすくて退屈もしないし良いんだけど、残念なのは、日本人議長の評判が非常に悪いのと、結局は製薬会社の国際カルテルみたいな印象を受けたこと。インフルエンザでは派手に宣伝しているけど、かつてHIV/AIDSでは、ほとんど手を打たず、世銀やユニセフなどに完全に遅れを取ったことなども描かれている。

Internet Governance (Routledge Global Institutions)

インターネットを誰がどのように管理して運営しているのか、ほとんど世間では知られていない。特に具体的な米国政府やITUのような団体との関連は、一般人には謎だろう。時折、ドメイン名問題や児童ポルノなどで問題になるけど、報道もしっかりできていないんじゃないだろうか。変遷もあるので、詳しいと自認する人も、一読する価値があると思う。

The European Union (Routledge Global Institutions)

EUの概説書で、類書は多いけど、迷うんなら、Routledgeブランドを選んでも良いんじゃないだろうか。読み物としても読みやすい。リスボン条約を受けて、いずれ版を改めることにはなると思うけど、この本に書いてることが無効になるわけでもない。

The North Atlantic Treaty Organization (Routledge Global Institutions)

NATO(北大西洋条約機構)を通して描く現代史のような感じで、読んでいて退屈しないし、最後の年表は資料性も高い。日本から見ると、完全に地球の反対側の話だけど、現実に地域紛争に対して実効性のある軍事力を持っている唯一の組織であり、日本にも重大な影響を及ぼす組織だ。

Transnational Organized Crime (Routledge Global Institutions)

表紙を見るとInterpolの解説書かと思うが、実際にはInterpolや類縁機関の解説は少ししかない。本書の主要テーマは、国際犯罪一般だ。だから、Routledgeのこのシリーズの中では、異例といえる。

著者は元々Interpoleなどで現場にいた人なので、挙げられている事例が一々リアルなのが魅力的(この言葉が適切かどうか分からないけど)。中国人やイタリア人に対しても、全く遠慮がない。全体的に暗いムードが漂うけど、これが現実なんだろう。時々衒学的な書き振りが気になったけど、読み物としても苦にならなかった。

The Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) (Routledge Global Institutions)

OECDという組織があることを知らない人は少ないと思うが、具体的に何のための機関で加盟要件が何なのか知っている人は少ないと思う。わたしみたいな調査員は、OECDの出版物のお世話になることも多いが、それでも、OECD自体については、基本的なこともあまり知らなかった。他に類書もないし、普段世話になっている人は、一度読んでおく価値があるんじゃないだろうか。もちろん、出版物が出る過程にも触れられている。

The International Committee of the Red Cross (Routledge Global Institutions)

国際赤十字委員会の概説で、国際赤十字連盟や、各国の類縁団体は対象外になる。といっても、たいていの人には区別がつかないんじゃないだろうか。要はスイスに本部のあるNGOなんだけど、「国境なき医師団」や「アムネスティ・インターナショナル」のようなNGOとは真逆で、派手な演出を嫌い、「静かな外交」を望む傾向がある。役割的にカブっている組織も多くて、縄張り争いみたいなことも記述されている。

The International Monetary Fund (Routledge Global Institutions)

IMFの概要解説もあり、もちろん読む価値はあるけど、本書の大半は、IMFに関する統計的研究のレビュー。たいていの本と同様に、IMFを批判するような結論にはなっている。日本語だと、最近出た中公新書がお勧め。こちらはさらに手厳しいが、紙面の制約のため、批判の根拠はしっかり記述されていない。



Global Food and Agricultural Institutions (Routledge Global Institutions)

国連系の五つの食糧関係機関(FAO, ARD, WFP, IFAD, CGIAR)を同時並行的に解説していく。資料性はあるが、実際読むのは大変だった。国連機関の通例で、この五つは、はっきり言ってカブっていて、国連のムダの象徴のような観もある。それが分かるのも、こういう風に、まとめて解説してくれるからで、類書もなく、非常に貴重な本だ。

Human Rights (Oxford Very Short Introduction)

導入部分は「何でも人権人権言いやがって」みたいなシニカルな入り方で、どうなることかと思ったが、こういう感じ方は、世界共通なんだろう。もともと、人権という概念が出てくる文脈というのが、色々な意味でネガティブなことが多くて、楽しく学ぶことが難しいのかもしれない。特に日本での人権概念が面倒くさくなっている人は、こういう洋書で学ぶと、また新鮮だと思う。日本では「人権」という言葉ではあまり語られないような問題、たとえば「死刑」や「拉致」や「開発」のような話も多数出てくる。平易で読みやすい解説書だ。

The Soviet Union (Oxford Very Short Introduction)

ソ連が滅んでもう随分経つし、そろそろ帝国の歴史を書いてもいいだろう、というような気分だろうか。今となっては、「ソ連」という言葉に、少しノスタルジーも感じるくらいで、「あれは何だったのか」と思って読んでみた。結論としては、「こんな国に住みたくない」というようなことで・・・。日本の今後を考える上でも、反面教師になるだろうか。

スタイルとしては、漠然とした編年史ではなく、「富と貧困」「エリートと大衆」といった、トピックごとの編年史になっている。ソ連成立以前と崩壊以後のことは大胆にカットされているので、ある程度この辺りの知識がないと読みにくいかもしれない。

The European Union (Oxford Very Short Introduction)

複雑極まる欧州連合の解説。特に歴史的な記述が充実していて、英・独・仏という大国の間の綱引きがリアルに描かれる。先日、リスボン条約が発効して、法制面では随分変わってしまったけど、この本で解説されていることは依然としてほとんど有効だ。

日本語だと、法制面に詳しい岩波新書と、経済面に詳しい日経文庫の入門書があり、いずれも優れた入門書ではあるけれど、それより先にこちらを読んで置いたほうが、より理解が進むだろう。





The World Trade Organization (Oxford Very Short Introduction)

WTOの解説というと、どうしてもグローバリズムの関連で感情的な本が多いけど、その点、この本は比較的教科書的で、安心して読める。それでも、やはりWTOに対しては批判的なスタンスではあるが、読みやすいし、基礎的な情報は網羅されている。

The United Nations (Oxford Very Short Introduction)

安全保障理事会を中心にした国連の解説。とにかく国連というのは重複の多い、雑然とした官僚機構で、簡単に解きほぐして説明できるものではないが、最初に読む一冊としては悪くない。日本語なら「人類の議会」も、面白く読める入門書だけど、より筆者の価値判断が入っているので、好みの問題だ。もちろん、真剣に国連の勉強をするのなら、どちらも必読書。





American Political Parties and Elections (Oxford Very Short Introduction)

日本の常識から考えると、アメリカの二大政党制は謎だらけで、特に、大統領選の予備選挙なんて、アメリカ人でもちゃんと仕組みを把握している人は少ない。分かりやすく書いてあるので、この本を一冊読めば、上院と下院の人数配分から党大会の意味まで、自信を持って説明できるようになる。それだけでもすごいことじゃないだろうか?

The American Presidency (Oxford Very Short Introduction)

大統領制の歴史と概要。VSIにしては分厚いほう(178ページ)だけど、これだけコンパクトにまとめた本は貴重だ。最後には大統領と副大統領の一覧も載っているようなわけで、そこそこ資料性もあるんじゃないかと思う。

2010年1月3日日曜日

Foucault (Oxford Very Short Introduction)

ミシェル・フーコーの業績を、時代を追って解説する本。日本語だと、どうもフーコーは神格化されてしまうようなところがあって、こういう冷静な解説は少ないんじゃないかと思う。もちろん、フーコーの著作を何冊か読んでいるほうがいいけど、読んだことが無くても、問題はない。フーコーの考え方は、ある種、思想界では常識化しているようなところもあって、読んだことがなくても、全然馴染みがないということはないと思う。

それはそれとして、個人的には「懐かしい」という思いが強かった。今から思うと、そんなに「主体」という概念の処理に成功してもいないんじゃないかな・・・とか。

2010年1月2日土曜日

Quantum Theory (Oxford Very Short Introduction)

数式を使わない量子力学の入門書・・・というと有りがちな本みたいだけど、この本については、最後に付録の形で、最低限の数式は載っている。日本で言えば、高校生程度の物理の知識があれば、数式も追えるんじゃないかと思うが、もちろん読み飛ばすのも自由だ。やはり、よくあるポピュラーサイエンスとは少し違うかなと思う。

Brain (Oxford Very Short Introduction)

脳科学の最新の知見を概説。脳の驚くべき能力に圧倒された。正確に言うと、日常のごく些細なことでも、恐ろしく膨大な情報処理能力が必要なはずで、それを実際に脳が処理している事実に、改めて衝撃を受ける。ただただ驚嘆するための本。

Anarchism (Oxford Very Short Introduction)

日本語で「アナーキズム」というと、なにか暴力的なイメージを持たれやすいが、この本の言うアナーキズムは、自由とか不介入とか寛容とかいうようなことで、わりと現代日本では普通のことのようだ。普通すぎて逆に分かりにくくなっているところもある。ただ守らないといけない価値には違いなく、時にはこういう風に哲学的に考えるのもいいかと思う。

Nuclear Weapons (Oxford Very Short Introduction)

核兵器に関する科学的・工学的説明は最小限で、ほとんどは、冷戦期の核軍縮交渉の歴史。核不拡散体制の維持についても触れられているが、VSIにしては、かなり専門的な本と言える。わたしはIAEA等と関わりがあるので、じっくり読ませてもらった。

Global Warming (Oxford Very Short Introduction)

IPCCの最新の報告に対応した第二版。類書も多いけど、この本は、わずか百数十ページで、科学的な事実から政治経済まで、温暖化に関するあらゆる論点を整理している。問題を一望するには最適かと思う。

Chaos (Oxford Very Short Introduction)

カオス理論の概説。ものすごく簡単な数式に基づくモデルが、全く予想できない挙動を示すのが印象的だ。数式は最小限しか使われていない。そして、カオスに関する一般的な誤解の訂正にも力が入れられている。言っていることは本当に単純なことで、曖昧さもないんだけど、科学というものの限界を本当に考えさせられる。衝撃を受けた。

Logic (Oxford Very Short Introduction)

現代論理学の入門書。といっても、普通の人は何のことか分からないだろう。わたしは情報科学の延長で論理学を学んだことはあるし、論理哲学から学んだこともあるし、数学基礎論みたいなことから学んだこともあるが、それでも、ここに書いてあるような非古典論理学は初めて知った。頭の体操みたいな感じで読んでも面白いと思う。

Memory (Oxford Very Short Introduction)

記憶のメカニズムについて最新の研究を紹介しているけど、印象としては、如何に何も分かっていないかということのほうが強い。もちろん、興味深い話も多いけど。記憶術についても、かなり実践的なアドバイスがあるんだけど、普通の実用書に載っていることと大して違いはない気が・・・。ただ、うさんくさい記憶術にだまされることはなくなるだろう。

Kafka (Oxford Very Short Introduction)

これはカフカのファン限定。おそらく、この本を読む人は、カフカの小説を全部読んでいるだろう。それくらいでないと、あまり読む意味がない。ファンなら落とせない本だ。わたしは伝記なども結構読んでいるが、それでも知らないことも多かった。

Cosmology (Oxford Very Short Introduction)

いわゆる宇宙論の本で、よくあるポピュラーサイエンスの本と同列かなと思う。ただ、観測天文学に重点があるのが、珍しいか。

Statistics (Oxford Very Short Introduction)

数式も出てこないし、確率・統計の本当の入門書で、日本なら高校生レベルかと思う。数式もほとんど出てこないし、逆にレベルが低過ぎて、日本語では類書がないのかも知れない。あと、この本はベイズ派の立場に立っているが、日本ではまだ少数派なんじゃないかと思う。

Habermas (Oxford Very Short Introduction)

ハバマスの議論をこういう概説書形式で書こうという志だけでも素晴らしいが、しかもそれに成功している。感動した。社会学の学生にとっても、ハバマスというのは巨大なテーマで取っ付きにくいと思うけど、この本は、ハバマスを専門にするしないにかかわらず、必読書と言えるだろう。日本語でこれに相当する本はなく、翻訳したら売れると思う。個人的には、もうすこし欧州連合の関係を読みたかったが、贅沢は言うまい。

Globalization (Oxford Very Short Introduction)

テーマが巨大だが、版を重ねているだけのことはあって、色んな分野を見事にコンパクトに解説している。筆者の立場ははっきりしていて、要するに反新自由主義みたいなことだけど、今となっては常識的な立場と言えるかもしれない。もちろん、個々の点についてはそれぞれ勉強するしかないけど、こういう全体像を提示する本も貴重だ。

British Politics (Oxford Very Short Introduction)

この本は、VSIの他の本とは少し傾向が違う。一応、英国の政治の概説のようなことなんだけど、筆者は労働党の国会議員で、公平なOverviewというよりは、他国と比較しつつ、英国の政治風土についてボやくというような感じ。だから、フォーマルな概説を期待する人は別の本を探したほうがいいけど、実際の国会議員が書いているだけあって、リアルに雰囲気が分かるというメリットはある。

Particle Physics (Oxford Very Short Introduction)

この本は本当に感動した。素粒子物理学の概説書。

頭を使わないで読める本ではないが、数式は全く出てこないし、ポピュラーサイエンス程度と思っても差し支えない。この面白さと感動は、本書を読んでもらう以外に伝えようがない。この分野で、日本人が同時に三人、ノーベル賞を受賞したのは記憶に新しいが、あの先生たちの業績を理解するのにも、この本以上のものはない。もともとこの分野は日本人が強く、この本が翻訳されない意味が分からない。最初は「四つの力」から、最後はヒッグス粒子まで、見事に解説。

Mathematics (Oxford Very Short Introduction)

基本的には大学で数学科を志す学生のために書かれているけど、日本人なら、高校生で問題なく読める。(もちろん英語が読めるという前提だが・・・)

特に、色々な命題を「一般化」するという方向が印象的で、数学者が何に生き甲斐を感じているのか、少しは分かったような気がする。何にせよ、これほど易しい数学を用いて、そんなことを感じさせてくれる本は貴重だ。

International Migration (Oxford Very Short Introduction)

日本で「移民」というと、不法入国者をどうするかという話と、日本経済を支えるために移民をという話が多い気がする。あんまりこういう本みたいに、移民自身を主体として、色々な問題を考えることは少ないんじゃないかなあ。少なくとも東京で暮らしていると、移民に接しない日はないし、誰にとっても、身近に感じることがあるんじゃないかと思う。

Nationalism (Oxford Very Short Introduction)

ナショナリズム、あるいはネイションの概念の歴史を解説する本。こういうタイトルだと、ナショナリズムの政治的利用法の解説を予想してしまうけど、この本はさらに哲学的で、結局は「どうして人は分かれて群れたがるのか」というようなところにまで行きついてしまう。こういうテーマだと、日本語でも古典的な本は多いけど、一々重厚で晦渋なことが多いので、こういう本で入門するのもいいかもしれない。

Schizophrenia (Oxford Very Short Introduction)

統合失調症(精神分裂病)に関する最新の医学的知見を紹介する本。

といっても、未だに分かっていないことが多いけど、脳に器質的な原因があることははっきりしているし、打つべき手も次第に明らかになってきている。昔は、哲学的なアプローチや精神分析的なアプローチもあったけど、この本ではほとんど問題にされていない。実際、未だに究極的な原因は分からないとは言え、ここまで解明が進むと、いずれ完治への道も開けるんじゃないかと期待が持てる。

もちろん、身近に統合失調症の人がいて、接し方等について学びたいというのなら、この本はそういう目的には沿わない。そういうことなら、日本語でもほかに良い本があると思うし、もちろん、医者に相談するのが第一だ。

International Relations (Oxford Very Short Introduction)

いわゆる国際関係論の入門書で、「もしあなたが突然、英国の外務大臣になったら」という体で書いてある。

普通に新聞で国際面を読んでいる人には、知らないことはほとんど書いていないんじゃないかと思う。そうでない人が、急に国際政治について学ぶことになった、というような人には適している。筆者の立場は「リアリスト」ということで、人によっては少し引っかかるところもあるかもしれないけど、概ね常識的なところだと思う。いずれにせよ、これは入門書でしかない。

HIV/AIDS (Oxford Very Short Introduction)

日本では、あまりHIV/AIDSに関する報道を聞かなくなったけど、薬が進歩しただけのことで、依然として問題には違いない。だが、世界的にはもっと大問題で、特にサハラ以南の惨状は、もっと日本人にも知ってほしい。

この本は、HIV/AIDSに関する医学的説明は最小限に抑えて、AIDSが政治経済に与える影響にページを割いている。個人的には、WTO/TRIPsについてほとんど問題にしていないのが気になるけど、この問題について学ぶ最善の入門書の一つだろう。

Emotion (Oxford Very Short Introduction)

「感情」というのは、心理学の中でも、最も重要で、かつ、最も曖昧な分野なのかなと思う。もともと「感情」は「論理」の敵みたいなところがあるのかもしれない。特に哲学的思考の訓練を受けている人は、この本を読んでも、ツッコミどころがかなり多いかもしれない。しかし、ひとまず現代心理学による「感情」に関する知見が分かりやすくコンパクトにまとめてあるので、興味のある人は読む価値があるだろう。

Nothing (Oxford Very Short Introduction)

タイトルからは分かりにくいけれど、物理学史の概説書。ただ、この分野は類書が多いので、「真空」に焦点を合わせることによって、特徴をつけている。最初は「自然は真空を嫌う」というような話から始まり、終わりには、「ディラックの海」「ヒッグス粒子」のような最先端の話題に行きつく。ポピュラーサイエンスとか、物理学史に馴染んでいる人でも、また別の見方が発見できるかも知れない。


Buddha (Oxford Very Short Introduction)

仏陀の伝記。もちろん、神話的要素は排除されて、歴史的人物としての仏陀が問題にされている。

別に、こんなのを英語で読む必要はないと言えばない。ただ、わたし個人として、仏教に関しては、西洋人の目を通して、敢えて英語で読むことによって、気がつくことが良くある。日本語ができる人で、この本を読む人は少ないと思うけど、ある程度仏教にコミットしている人は、読んでみてもいいかもしれない。

Geopolitics (Oxford Very Short Introduction)

近ごろ書店の国際政治学の棚に、"Geopolitcs"というタイトルの本が増えた。「地政学」という学問は、かつてドイツや日本で盛んに研究され、戦後しばらく下火になったが、特に9.11以降、中東や中央アジアとの関連で、再び重要なテーマになっている・・・ということも、この本で解説されている。

一頃、「地政学」という言葉を使いたがる人々=ネオコンみたいなイメージがあって、それは間違いではないと思うけど、今後の国際情勢を語る上では避けられない言葉だ。一冊こういう本を読んでおくのも、良いんじゃないかなと思う。

Superconductivity (Oxford Very Short Introduction)

最近では、超電導に関する報道もめっきり減って、ほとんど忘れられたような分野になってしまったけど、現場では少しずつでも確実に進歩している。2009年になって、こんな本が出るのがその証拠、というような本。こういうジャンルは、普段の地味な研究から、突然飛躍的に進歩するので油断できない。

初心者にも分かるように書いていて、おそらく、これ以上分かりやすい解説書はないんじゃないかと思う。ただ、何分にもジャンル自体が難しい。低温物理学の歴史・基本から解説していて、それ自体、とても興味深いけど、初歩的にでも量子力学を理解していないと、理解が難しい箇所もある。もちろん、それによって、本全体が理解できなくなるわけではない。数式は全く出てこないので、物理学が苦手な人でも問題ないだろう。