2017年12月21日木曜日

Scott Adams "Win Bigly: Persuasion in a World Where Facts Don't Matter" [大きく勝つ:事実が問題でない世界での説得]

目次:1.なぜ事実が過大評価されているのか 2.どのように現実をもっと有益な方法で見るか 3.どのようにトランプ大統領は他人にできない事をするか 4.どのようにビジネスと政治で説得を使うか 5.なぜ集団に属すると強くなり盲目になるのか

アメリカでは選挙が終わるたびに「こうなると分かっていたわたしの賢さについて」という本が出てくるが、これもその一冊。普通ならこんな本は読まないが、著者はわたしのデスクの上のマンガを描いているマンガ家で、たまたま目についたので読んでみた。主たるテーマはトランプの選挙運動の優秀性について。多分、日本では誰も読まないのでわたしがまとめると、この本は主に五つの要素から成り立っている。

初歩的な心理学の説明
認知不協和だの確証バイアスだの。本人は学位を持っていないが、訓練を受けた催眠術師だと言っている。日本で言えば苫米地博士相当と思って良いんだろう。初歩的だが、言っていることは間違ってはいない。
自慢
トランプの勝利を予測したほか、自分には財産があるだのビジネスで成功しているだのフォロワーが多いだのマスコミのインタビューを受けただの。こういうのを並べると説得力が増すと思っているんだろう。このあたりも苫米地博士みたいだ。
トランプとクリントンの選挙運動の分析
自分も説得のプロなのでわかるがトランプはスゴいとか、途中からクリントン側にとんでもない軍師がついたはずとか。トランプの選挙運動を逐一追っていて、これが本来のテーマのはず。冷静に書いていれば広報や選挙運動の教科書になるはずだが、本人は学者ではないので、個人的な事情と混ぜ合わされて書かれている。
苦労話
トランプは色々スキャンダルもあったし、クリントン支持者から嫌がらせをされたとか身の危険を感じたとか。実際、カリフォルニアでトランプを支持するようなこと(元々は誤解だが)を言ってたら、ヤバいのかもしれないし、政治評論家としてやって行こうとしている本人にとっては手に汗握るレースだったんだろうけど、わたしのような外国人が読む分には哀れというか滑稽と言うか。
オカルト
ポジティブシンキングとか成功哲学みたいな話もあるが、それ以上に自分に予知能力があるとか仄めかしている。わたしはこの著者にこういう痛いところがあるのは知っているから驚かないが、初めての人が政治の本だと思って読んだら大抵引くはず。

別にこの本を推奨はしないが、アメリカでは政治評論などで多少知名度はあるみたいだし、この調子で当て続けていけば、いずれ影響力を持って日本にも名が轟いてくる可能性がなくはない。さしあたり、"Dilbert"の作者がblogやtwitterなどで政治評論をしていて、こんな本を書いていることを覚えておいても良いかも知れない。

I am not an American and my impression of the election is "much ado about nothing". But for a political pundit like this author, that was a thrilling race. Living histories are always interesting.

BTW, if you keep saying good things about a candidate, people assume you are a supporter of that candidate. It must have been obvious to you, Scott.

Portfolio (2017/10/31)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0735219717

2017年12月17日日曜日

Pierre Delort "Le Big Data" [ビッグ・データ]

目次:1.企業の中の情報科学 2.データ 3.ビッグデータ 4.ビッグデータの技術 5.会社の中の決定 6.企業の変化

近頃流行りのビッグデータの入門書。最初のうちはIoTやらグーグルのインフルエンザの検索とか有名な話をしている。技術面ではNoSQLなデータベース技術や統計の話などのごく入門程度。最後に企業の組織などに与える影響。正直なところ、わたしにとっては、この程度の話は初歩的過ぎて、内容を公平に評価できない。本当に何も知らない人向けとしか…。わたしとしては、フランス語の勉強ということもあって、良く知っている分野の本を読むのがいいかと思ったところだが、この考え方は間違っていたかもしれない。つまり、知りすぎている話だと、適当に読めてしまうということもあるし、あまり真剣に読むモチベーションが上がらない。

Ce livre est trop basique pour moi. Je l'ai lu seulement pour etudier le français. Néamoins, lire un livre qui parle des choses que je connais trop n'étais pas une bonne idée.

PRESSES UNIVERSITAIRES DE FRANCE - PUF (22 avril 2015)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2130652113

2017年12月7日木曜日

Clifford E. Swartz "Back-of-the-envelope Physics" [封筒の裏の物理学]

目次:1.力と圧力 2.力学と回転 3.音と波 4.熱 5.光学 6.電気 7.地球 8.天文学 9.原子と物理 10.素粒子と量子

『物理が分かる実例計算101選』ということで翻訳書も出ている。色んな事象について物理の公式に則って概算する本。一時期、本屋のビジネス書の棚にやたら「フェルミ推定」という言葉が並んでいたことがあるが、元々フェルミが推定するのが得意だったのはこういうことだったんだろう。

101も計算があるので、一つ一つは比較的短いし、それぞれ独立している。実のところそんなに意外な計算はないが、しばらく物理から離れていた人には懐かしいだろう。実際大学の授業でも使われているらしい。ただ、pop scienceの常で、理数寄りの一般人を面白がらせることができたとしても、これで物理が分かるようになるかどうかは甚だ疑問だ。項目にもよるが、高校生~大学生程度の物理の知識は必要かもしれない。目次からも分かるようにかなり分野が広いので、復習になる。わたしは工学系の勉強をしているので、計算には慣れているが、純粋に学問として物理学をやっていた人には新鮮かもしれない。

学問として物理学をやっている分には現実の数字を計算することは少ないし、工学でも有効数字が4桁を越える事は稀に思う。唯一、測量士の試験は有効数字が6桁くらいあった気がするが、こんなのは例外だろう。そう考えると、現実の計算は、この本でやっているような有効数字1桁くらいの世界で済むのかもしれない。他方、簿記3級は12桁の電卓が必須であり、最後の一桁でも間違えたら大問題である。そう考えると、理系は文系より数字に圧倒的に弱いと言わざるを得ず、こういう本で僅かでも補正するべきなのかもしれない。

A good overview of physics through real calculations.

Johns Hopkins Univ Pr (2003/5/30)
英語
ISBN-13: 978-0801872631

2017年12月5日火曜日

Robert J. Allison "The American Revolution: A Very Short Introduction" [アメリカ革命:非常に短い入門]

目次:1.革命の源 2.植民地の反乱 3.独立 4.独立戦争 5.アメリカは違ったのか?

北米の植民地の反乱からアメリカ独立戦争、最後にラファイエットが独立したアメリカに国賓として招かれ、全米を視察するまでの物語。中心になるのは英軍と反乱軍(アメリカ軍)との戦闘の記述だ。

今まで200冊以上VSIを読んできたが、これが一番、読んでいる間の調べものが多かったし、メモも多かった。一つにはこの本には地図がついていないので、余程アメリカ東海岸に土地勘がない限り、東海岸の地図は必須だ。ニューヨーク・ボストン・フィラデルフィアを中心に北米全域で英軍と米軍が戦略を繰り広げるのはそれだけでアツい。米英の各将軍の戦略行動を読みやすく書いているのは非常に良い。短い本だし、詳しく調べればいくらでも時間を掛けられるが、差し当たりこの本は戦争の経過を読みやすくまとめてくれている。VSIの歴史関係は、わたしとしては外れがほとんどないが、楽しめたという意味では、このタイトルが一番かも知れない。

I love VSIs, especially those of the history category. And this title is one of the best of them that I have ever read.

Oxford Univ Pr(2015/7/31)
英語
ISBN-13: 978-0190225063