2012年12月3日月曜日

Klaus Dodds "The Antarctic: A Very Short Introduction"

ISBN-13: 978-0199697687
Oxford Univ Pr (2012/9/7)

南極の入門書・・・だが、南極の自然環境についてではなく、地政学である。実際、この著者はGeopolitics: A Very Short Introductionの著者でもある。これは少し説明しないと分からない。

現在、南極大陸は、南極条約とかで採鉱とか軍事利用とかは禁じられているし、どこの国もどこにでも観測基地を作っていいし、飛行機で飛んでも良い。というわけで、日本では、南極大陸はどこの国の領土でもないというように教えられているし、地図上もそうなっている。だが、そうは教えていない国が世界には7つある。はっきり言うと、イギリス・アルゼンチン・チリ・ニュージーランド・オーストラリア・フランス・ノルウェーで、これらの国は南極条約を受諾しているが、領有権の主張をやめたわけではない。

この本の大半は、醜い領有権争いに当てられている。日本で南極といえば、アムンゼンやらスコットやら白瀬とかの冒険とか、昭和基地とかの科学調査活動が第一に思い浮かぶが、そういう活動も一々領有権争いと密接に関連していてうんざりする。幸いにして日本は南極大陸の領有権を主張していないが、この騒動と無関係ではない。一番大きいのは捕鯨で、オーストラリアの主張するところのオーストラリア領南極大陸の近海で捕鯨をしたというので国際司法裁判所に提訴されている。つまり、南極大陸の領有権問題自体は南極条約で棚上げされているが、大陸棚とか経済排他水域とかは未解決のままなのである。もちろん、日本はそもそも南極大陸がオーストラリア領であること自体を認知していないし、そんなあやふやな根拠で国際司法裁判所が領海権などを認めるとは思えないが、捕鯨そのものについては絶望的な少数派ということもあり・・・。

著者がイギリス人であり、この本がイギリスの本であることも覚えておくべきだろう。イギリスは南極大陸の領有権を主張している国の一つであり、その範囲がアルゼンチンとチリと重なっている。だからと言って、この本の記述が不公平だとかいうことではないが、たとえば、領有権を主張していない中国やアメリカで出版される本なら、ニュアンスが違ってくる可能性はある。わたしとしては、入門書としてはひとまず十分で、詳しく調査する用事が出来た時の備えになった。

A book on ugly contestations over sovereignty of Antarctica. Depressing, but an ugly truth.

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