2021年11月16日火曜日

Ayn Rand "Atlas Shrugged" [肩をすくめるアトラス]

出版側は思想小説みたく言ってほしいのだろうけど、奇書と言っていいだろう。この小説、定期的に日本でも話題になる。聖書に次いでアメリカ人に影響を与えたとか、アメリカの保守の真髄とか、頭のいいアメリカ人は全員読んでいるとか…。

詳しい内容はWikipediaにでも何にでも出ているが、大雑把に言うと、無能な怠け者共の提唱する社会主義のせいで合衆国が滅んでいき、優秀な実業家たちがロッキー山脈のどこかにあるユートピアに逃げていくという話。実際には、この要約から想像するより内容ははるかに酷い。とにかく無能な人間や慈善事業や労働組合などは絶対悪であり、有能な実業家は絶対善であり、富や贅沢はその証拠である。利己主義こそ絶対善であり、ヒーローの側は少しでも利他主義的と思われる行動をするのを極度に恐れていて、むしろ利己主義だけでは生きていけないのを認めたほうが楽なのではという。

登場人物や地の文で延々とそんな思想が語られていて、確かに部分ごとに共感を呼ぶところもあるのだろう。特に自分を有能だと思っている人間には。こんな人にお勧め:

  • 頭の悪い他人に合わせるのを強要されてやる気をなくしている(特に子供の頃はありがちですね)。
  • 革新的なアイデアを怠惰で無能な上司や同僚に潰される(多少真面目に働いたことのある人なら何度も経験があるでしょう)。
  • 生活が苦しいと言いさえすれば金をもらう権利があると思っている怠け者を軽蔑している(実際そんな人いっぱいいるし)。
  • 罪責感で子供をコントロールしようとする家族に殺意を覚えている(毒親とかね)。
  • 有名人を妬む大衆にうんざりしている(批判ばかりしている祖国を見限った日本の王女がアメリカに来ましたね)。

ちと関係のない話をするが、最近「ホームレスを殺せ」とかいうYouTuberが炎上して別のYouTuberが「言いかたは悪かったけどみんなの本音では」みたいな擁護をしていた。「じゃあお前が金を出してホームレスの人を助けろよ」論法は議論では負けないんだろう。個人では上手くいかないから政府があるんですがね…。敢えて「普通の人」の弁護をすると、普通の人はホームレスに金を払わないが、納めた税金の一部分がホームレスの救済に使われるのに反対はしない。自分の家の前にホームレスが寝ていたら追い払うが、遠くの河原に寝ているホームレスに石を投げたりはしない。結局のところ、色んな矛盾する利害関係や感情や理念のせめぎあいの均衡点が現在の状況である。「お前が個人的に助けろ」と「殺せ」の二択ではない。この現在の均衡点をもっと非情側に移動せよという話は分からなくはない。しかし「殺せ」は明確に頭がおかしい。

なぜそこそこ頭の良い人がこういう明確に頭がおかしいことを言うようになるのかというと、簡単な話で「議論に負けないから」に過ぎない。ではそもそも頭が良いというのが間違いだったということになるが、だいたい世間では議論に勝つ人を頭が良いと言うのでこういうことになるわけだ。極端な意見は論理的に一貫するから頭が悪くても守備が簡単で、後は相手の一貫していない部分の攻撃だけしていれば良い。

この小説でも利己主義が絶対善で利他主義や慈善は絶対悪という思想を提唱しているが、残念ながらこの本は哲学書ではなく小説なので、完全に利己主義を貫徹しようとすると、思想は首尾一貫するがその分だけ現実に適用するのに無理が生じる。で、一々登場人物が「これは利他主義ではなくこれこれの理由で利己的な行動で」と言い訳しないといけなくなる。特に、この小説には子供が全く出てこないが、出てきていたらもっと無茶苦茶になるだろう。

しかし、一々こんな初歩的な話をしていてもキリがない。思想がどうこういう点については、この本に影響を受けたとか言っている人間は基本的に信用できないというだけで十分だ。この小説の問題点は他に二つある。一つは、ヒーロー側には科学力があることになっているが、謎の分子構造を持つ金属とか未知の周波数の電波とか静電気を動力にするとか、とにかくアホ過ぎる。この著者の思想では科学技術が非常に重視されているが、著者自身がこれでは説得力がないだろう。

もう一つのほうは深刻で、主人公は女副社長だが、他の登場人物はほぼ男だ。で、この副社長が同じ思想を持つヒーロー側の男とやたらセックスをする。さらにその男同士が彼女を巡って嫉妬、というだけでなく、男同士で同性愛がにおわされていて、ハーレクイン小説と言うとハーレクインに失礼かもしれない。本人の見解では有能で高尚な思想を持つ男に欲情するのは当然であって、それを理由に不倫相手の家族とかが罪責感とかを負わせようとするのは見下げ果てたものだということらしい。思想は別にしても、個人的に生理的にかなりキモい。

別にネタバレしてもいいと思うが、最後は普通に主人公が人を撃ち殺したりしているし(無能な人間には生存権がないので問題ない)、ちょっとこの本を賞賛している人が何を考えているのか理解できない。長い小説だが、世の中にはこんな本もあるんだということで。わたしはヒマなので読んだが、ちと長すぎる。

A long crazy novel.

NAL (2007/2/1)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0141188935

2021年11月9日火曜日

Eric H. Cline "The Trojan War: A Very Short Introduction" [トロイア戦争:非常に短い入門]

目次:1.トロイア戦争 2.文字証拠を調査する 3.考古学的証拠を調査する

トロイア戦争については西洋人と日本人ではテンションが違うところがあり、わたしは古典ギリシア語を勉強していた過去があり、未だにイーリアスの冒頭を暗唱できるようなことで、一般論としてどれくらいお勧めできるのか分からないが、この主題については必読書と言える。最初に「イーリアス」「オデュセイアー」を中心に文字証拠が要約提示される。この要約でも本書の理解には十分ではあるが、実際にはこの本を読もうというような人種は少なくともこの二つの叙事詩は既に読んでいるものと思われる。ただ、他にも「叙事詩の環」なども全部追っている人は少ないかもしれない。さらに歴史的証拠も検討される。トロイア戦争を記録しているのはギリシア人だけでなく、ヒッタイト人も記録しており、当時の世界情勢などが分かりやすく述べられる。最後には発掘されたトロイアな証拠が検討されるがなかなか難しいようだ。単に「ギリシア神話が好き」くらいでは少ししんどい本かもしれない(単なる神話でもないし)が、ちょっとでも踏み込む人には避けられない本だ。

μῆνιν ἄειδε θεὰ Πηληϊάδεω Ἀχιλῆος οὐλομένην.

Oxford Univ Pr (2013/5/10)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0199760275

Luciano Floridi "Information: A Very Short Introduction" [情報:非常に短い入門]

目次:1.情報革命 2.情報の言語 3.数学的情報 4.意味論的情報 5.物理学的情報 6.生物学的情報 7.経済学的情報 8.情報の倫理

色んな領域(学問分野)を情報という観点から見たような本で、正直に言うとわたしには初歩的過ぎる。対象は大学一年生くらいだろうか。情報科学…という分野が今時どれくらい人気学科なのか分からないが、そういう志向のある人は読んでおいたほうが良いかもしれない。なんでも、この著者はその筋の大家らしくてこの本も基本書みたいだし。

  1. 情報革命…一般的なネット文化の観察。セカンドライフとか攻殻機動隊とか言っている。ちょっと古いかもしれない。
  2. 情報の言語…用語の説明。ビットの定義など。
  3. 数学的情報…シャノンの理論。
  4. 意味論的情報…演繹で新情報が生まれるのかみたいな話など。
  5. 物理学的情報…エントロピーとか量子とかマクスウェルの悪魔とかラプラスの悪魔とか。
  6. 生物学的情報…塩基配列とか神経系とか。ウイルスの話とかもできそうなものだが。
  7. 経済学的情報…ゲーム理論とかベイズ理論とか。
  8. 情報の倫理…ここが筆者の本領のようだが、正直に言うと漠然とし過ぎていて論旨が良く分からない。ただ、ここまで来てみると、今までの章も予備知識がない人にとっては全部そうだったのではないかと疑われる。

というわけで、無責任だが多分必読書なんだろうな…みたいな感じ。

This book is supposed to be a must-read, though, I am not so impressed.

Oxford Univ Pr(2010/3/26)
言語:英語
ISBN-13:978-0199551378

Tristram D. Wyatt "Animal Behaviour: A Very Short Introduction" [動物行動:非常に短い入門]

目次:1.どのように動物は行動するのか(そしてなぜ) 2.感じることと反応すること 3.どのように行動は発展するか 4.学習と動物の文化 5.生存のための信号 6.勝つ戦略 7.群衆の知恵 8.行動を応用すること

動物行動学の入門書ということになるが、実際には動物ドキュメンタリーの書籍版として読まれるのがほとんどだろう。事例が豊富に載っているが、ネットで調べれば適当な動画やNational Geographicsの記事がヒットする。そういうわけで誰が読んでも面白く、多分驚くような知らない事実にもぶつかるだろうし、実際評判もいいようだ。わたしはというと、公園のスズメを手乗りスズメにしてしまう程度ではあるが、別に動物行動自体にそこまで興味がない。この本でも動物に「心の理論」があるかどうかとか考えている部分があるが、もしかすると人間も含めて動物の行動なんてもっと簡単に説明がつくのではないかと疑っている。それはさておき、中学生くらいでも面白く読めるかもしれない。

There are lots of animal documentaries on the web, and this book can be read as one of them, only in the book format. Really interesting.

Oxford Univ Pr (2017/5/1)
言語:英語
ISBN-13:978-0198712152

John Bowker "God: A Very Short Introduction" [神:非常に短い入門]

目次:1.神は存在するのか 2.なぜ神を信じるのか 3.アブラハムの宗教‐ユダヤ教の神の理解 4.アブラハムの宗教‐キリスト教の神の理解 5.アブラハムの宗教‐イスラム教の神の理解 6.インドの宗教 7.神を知ることと知らないことについて

筆者は多分キリスト教徒だと思うが、目次にある通りの漠然としたエッセイという感じで、たまにVSIにある「大家の詠嘆」みたいなパターンだ。「神の存在論的証明」とか「神の生理的根拠」みたいなハードな話はない。かつ、本体の大部分は「アブラハムの宗教」なので、一般日本人には縁遠いかもしれない。やたら疑問が提示されるが、基本的には答はない。あと、ちょくちょく現代物理学に言及してくるのが、なんかイヤな感じなんですけど…。とはいうものの、世界人口のかなりの部分がアブラハムの宗教の信者なんで、この本で風景くらい見ておいてもいいかもしれない。哲学とかいっても元は神学ですし。実際にはそこまで深く考えている信者も少ないとは思うけど。

A brief essay on the religions of Abraham.

Oxford Univ Pr(2014/11/1)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198708957

2021年11月8日月曜日

Michael Howard "Clausewitz: A Very Short Introduction" [クラウゼヴィッツ:非常に短い入門]

目次:1.当時のクラウゼヴィッツ 2.戦争の理論と実践 3.戦争の目的と手段 4.制限戦争と絶対戦争 5.クラウゼヴィッツの遺産

最初にクラウゼヴィッツの伝記と最後にクラウゼヴィッツの後世への影響が語られているが、本質的には「戦争論」の解説。従ってクラウゼヴィッツ「戦争論」に興味のない人には用のない本ではある。ただ、わたしは「戦争論」が好きで(そもそも軍事好き)、その延長でVSIということで読んでいる。で、別に真剣に軍事戦略を考えるとかではなく、ただの趣味ということで言えば、まず「戦争論」自体を読むことを考えるべきだろう。岩波文庫で三巻もあるから躊躇われるのかもしれないが、わたしは退屈しなかった。もちろん、本当に軍事戦略や国際政治学の勉強をするのならこのVSIも読むべきだし、趣味で読んでも面白い。あと、クラウゼヴィッツの生涯も「戦争論」もかなりの部分がナポレオン戦争によって占められており、ナポレオン戦争の解説としてVSIのThe Napoleonic Warsも悪くないが、トルストイの「戦争と平和」を推奨したい。こちらは岩波文庫で6巻もあるが、これも大部なわりに退屈な部分があった気がしない。トルストイの短編はあんまり感心しないけど長編は「アンナ・カレーニナ」も面白い。もはやクラウゼヴィッツとは何の関係もないが…。

Enjoyable, even to a layman like me.

OUP Oxford(2002/2/21)
言語:英語

David Garland "The Welfare State: A Very Short Introduction" [福祉国家:非常に短い入門]

目次:1.福祉国家とは何か 2.福祉国家以前 3.福祉国家の誕生 4.福祉国家1.0 5.変種 6.問題 7.新自由主義とWS2.0 8.ポスト産業社会への転換:WS3.0へ 9.不可欠の福祉国家

救貧法がどうとかいうところからの福祉国家の変遷。もちろん最新流行は新自由主義叩きで本書もそのあたりは踏まえてはいるが、現実の財政を無視するような話でもなく、あくまで現実的に考えているところは好感が持てる…いや好感とかそういう問題でもないような気がするが、この辺りは思想の問題なのでなんとも言えない。個人的に現在バカみたいな保守主義小説を読んでいるところだったので実に心が安らぐ。具体的な制度よりは福祉国家への考え方がメインだが、思想というほど抽象的な話でもない。実際の福祉の経済効果などの数値も欲しいところだが、とにかく自由経済を維持しつつ福祉もその不可欠の一部としてやっていくしかないわけで…。というような福祉国家の基礎知識としては必読書だろう。

An indispensable reading about the welfare state.

Oxford Univ Pr (2016/6/1)
言語:英語
ISBN-13:978-0199672660

Christian W. Mcmillen "Pandemics: A Very Short Introduction" [パンデミック:非常に短い入門]

目次:1.ペスト 2.天然痘 3.マラリア 4.コレラ 5.結核 6.インフルエンザ 7.HIV/AIDS

世界史レベルのパンデミックの歴史だが、基本的に公衆衛生行政の歴史みたいな方向性。個人的には似たような本を色々読んでいるので、個々の疫病についてはまあまあ知っているが、知らない人には疫病の世界史の入門になるだろう。だいたい疫学というのがそんなに流行らない昨今だったが、今回のCOVID-19はいずれこの本の改訂版に載る案件であり、これを機に読んでいる人も多そうだ。実はわたしは今頃二回目のワクチン接種を受けてムダに発熱してダルい昼下がりだが、今後もこんなことは続くのだろう。世界史の視野で見ればまた気分も違ってくる。

A nice eerie reading especially around these days....

Oxford Univ Pr(2016/12/1)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0199340071

John Waller "Heredity: A Very Short Introduction" [遺伝:非常に短い入門]

目次:1.魂と種と身贔屓2500BC-AD400 2.中世世界の性と種と罪 3.近代初期の遺伝1450-1700 4.啓蒙時代の遺伝 5.19世紀の遺伝 6.分子と人類 7.新しい地平 8.進歩と可能性

一応医学史ということになるが、主に科学というより社会との関連が解説されている。筆者によれば1800年以前に遺伝について考えられたことはほぼすべて間違っているが、その分もしっかり書いているので、この本の前半では遺伝に関する荒唐無稽な説を延々と読まされることになる。遺伝のメカニズムそのものに興味がある人にはお勧めできない。どっちかというと遺伝の社会史みたいに思ったほうが良いし、まだまだ開拓の余地のある世界のように見える。

A social history around heredity.

Oxford Univ Pr(2017/10/24)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198790457

2021年11月5日金曜日

Michael Freeden "Liberalism: A Very Short Introduction" [リベラリズム:非常に短い入門]

目次:1.多くの住居を持つ家 2.リベラルの物語 3.リベラリズムの層 4.リベラリズムの形態学 5.リベラルの有名人 6.哲学的リベラリズム-正義の理想化 6.盗用・中傷・退廃

政治思想に関する本は大抵書きぶりが面倒くさく、この本も例外ではないとは言えるが、かなりマシなほうかと思う。現実の現行の政治と関係し過ぎるせいもあるけど、本質的に入り組んでいるのだろう。自由主義と資本主義がどう関係するのかとか、自由主義と民主主義に必然的な関係があるのかとか、ちょっと考えただけで面倒くさい。こういう概念の整理に価値がないと言い切ってしまいたくもなるが、整理できないまでも考えたほうがいいのだろう。著者の信念が強く反映されるのは止むをえないが、それでも常識的とされている話からそんなにずれている気もしない。この類の話の整理の仕方として一番良いのは歴史的事件と思想の発展史の対応を理解することで、というか、それ以外の方法があるような気もせず、この本もその方向でしっかり書かれている。例えばchapter3は圧政からの自由→自由な経済活動→自己表現→社会調和→多様性みたいな整理で、この時点で随分分かりやすいような気もする。現代に近いところほど著者の個人的見解が強く感じられ、例えばいわゆるネオリベラリズムは仲間にすら入れてもらえないような感じだが、それでもリベラリズムを名乗るのは価値のあることなんだろう。名乗るのならこの本みたいな入門書くらい読んでおくべきなのかもしれない。

Relatively easy to comprehend, among many books on this topic.

Oxford Univ Pr (2015/8/1)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0199670437

Tim Newburn "Criminology: A Very Short Introduction" [犯罪学:非常に短い入門]

目次:1.犯罪学の導入 2.犯罪とは何か 3.誰が犯罪を犯すのか 4.犯罪をどのように測定するのか 5.犯罪の最近の傾向を理解する 6.犯罪の減少を理解する 7.犯罪をどのようにコントロールするのか 8.どのように犯罪を防ぐのか 9.犯罪学の未来

目次からも分かるように基本的には主に社会学と刑事政策の範疇にある犯罪学で、犯罪捜査や司法の話ではない。あまり期待していなかったがかなり面白かった。個人的に昔、犯罪学は色々調べたことがあり、統計が信用できないだの立法過程や司法機関のほうが問題だのと非生産的なことばかり言っている気がしていたが、どうも時代も変わったらしい。本書にもあるように統計を疑うのは賢明なことだが、非常に重要な情報であることには変わりない。例えば、どんな状況のどんな国でも十代後半に犯罪率のピークが来るのは確からしい。戦後犯罪率が上がり続けるが1990年頃にピークを迎えてその後減るという謎現象も確かにあるようだ(Chapter 6)。生物学的・遺伝的原因も昔のように全面却下されていない(無鉛ガソリンの影響の可能性すら言及されている)。不確かな情報からでも、実際に有効な行政手段も生まれているらしい。もちろんVSIなので入門でしかなく、わたしとしては物足りないところもあるが、学問が進歩しているのは認識させられた。これを読んでさらに犯罪学を究めようという人は少ないかも知れないが、社会を見る一つの視点を得る意味で誰が読んでも損がないのではないかと思う。

I have read numerous books on this topic from decades ago. Still, I think this book is the best.

Oxford Univ Pr(2018/6/26)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0199643257

2021年10月20日水曜日

Jeff Kinney "Rowley Jefferson’s Awesome Friendly Spooky Stories" [ローリージェファーソンの恐ろしくフレンドリーな怖い話]

Diary of a Wimpy KidのスピンオフでGregの親友のRowleyが書いた体の三冊目。多分日本語に訳されていない。これまでと違い、わりと短めのたわいもない話が何編か収録されている。設定は吸血鬼だのミイラだのとホラーではあるが、基本的にユーモア。Gregは最後だけ出てくる。読むのに半日もかからない。英語学習中の中学生くらいでも読めるのではないかと思うがどうだろうか。大人が読んでもまあまあ面白いのがこのシリーズだ。内容的にはハロウィンに最適だが、出版年月を考えると、別にそれは出版社の意図ではなく、単にわたしが放置していたせいらしい。Sidekickは翻訳しても売れないのかねえ。

FYI: The Japanese paper says "Mummy destroys Tokyo".

出版社:Harry N. Abrams (2021/3/16)
言語:英語
ISBN-13:978-1419756979

2021年9月10日金曜日

J. D. Salinger "Nine Stories" [九の話]

サリンジャーの自選短編集で、多少ネタバレになっても日本語で一つずつしっかり記録しておくべきと判断した。

#1 A Perfect Day for Bananafish

冒頭から結末までカッコつけすぎというのが第一印象だが、トリッキーでスタイリッシュで、一番に置くのは妥当なところだろう。サリンジャーがどういう小説を書く人を知りたければ、この作品に違いない。

#2 Uncle Wiggily in Conneticut

会話もクールだし、システム的には#1と同じようなことだ。スタイリッシュな神経症の描写で、ロマン主義の現代版というところか。

#3 Just Before the War with the Eskimos

利己的な主人公が主人公が謎の転回をして友人を赦す。その転回のきっかけとなった件について、血を流しているのはキリストのイメージだとかサンドイッチは聖体拝領だとかいう解釈が出回っていて概ね同意できる。

#4 The laughing Man

ここまでスタイリッシュでトリッキーな話が続いてきたが、急に自然派文学みたいな男の子のノスタルジーだ。

#5 Down at the Dinghy

これも自然派だが、当時のアメリカでユダヤ人差別はかなり重いポイントで、一応衝撃的な結末として成立している点を見逃してはならない。愛と差別の対比のところ、Boo Booがカッコ良すぎるので話がブレる気もする。

#6 Esmé

甘い人気作品だが、まず第一に、話の論理階梯がトリッキーであることに気が付く必要がある。その上でEsméという少女がおよそ非現実的で、全部神経衰弱のロリコン退役軍人の妄想という結末でも良いと思うが、そんなことは作者も分かっていて書いているはずで、非現実的というよりは幻想的と受け止めるべきなんだろう。

#7 Pretty Mouth and Green My Eyes

非常にスタイリッシュでトリッキーで一番の傑作だと思うが、文学偏差値が高く、まともに理解できる人が少ないようだ。まずLeeの横にいる女が何者かということは作者は絶対に書かない。この点はまともな知能の読者なら読んでいる間ずっと気になるはずだ。それにも関わらず作者がこれがArthurの妻Joanieであるみたいなフリを続けていることも分かるはずで、まともな読者は「一体どういうつもりなのか」とずっと思い続けることになる。長々と丁寧にフった後、Arthurがそっちに行くと言って緊張感が一気に高まっても、作者は確定を拒否し続ける。最後の電話でLeeは愕然とするが、驚くのは読者も同じだ。電話を切った後、舞台なら絶妙に間をおいてLeeが女に「お前誰だよ!」と言って暗転しなければならない。

#8 De Daumier-Smith's Blue Period

#3と同じシステムで主人公が謎の転回をして、利己的ナルシスト(中二病)の世界から常識の世界に帰ってくる。#3と同様に転回にきっかけがあるが、ここでは主人公の雇用主が日本人に設定されているのが重要で、ここで冒頭の白隠禅師の公案が回収されていると理解するべきだろう。こんなのが当時アメリカで流行っていたんだろう。

#9 Teddy

最も顰蹙を買っている作品らしいが、ブラッドベリを思い出すような怪奇SF小説と考える。結末を曖昧にするのが得意な作者だが、これについては作者自体がhauntingと言っているらしいし、解釈の割れる余地がない。ここまで読んで、全ての作品に共通する村上春樹感の正体が良く分かった。無論、村上春樹がサリンジャーを模倣しているのは当然だが(翻訳もしてるんだろう)、一貫して「お洒落でトレンディなニューヨーク」なのだ。やれやれ。

"Pretty Mouth and Green My Eyes" is the best of all. Though I feel the first part in which Arthur does not stop talking a bit too long, Salinger's trick worked very well on me. On stage, after hanging the telephone and pausing a bit, Lee must shout at the mysterious kittenish woman, "WHO ARE YOU?".

Little, Brown and Company (1953/1/30)
言語:英語
ISBN-13:978-0316769563

2021年7月30日金曜日

Marcel Pochard "Les 100 mots de la fonction publique" [公務の100語]

書名からは分かりにくいが、要するにフランスの公務員制度に関する概説だ。労働者の権利とかキャリアプランとか、かなり良くできていて実用的な本だと思うけど、普通の人にアピールするような本でもないし、わたしも業務の絡みがなければ手にも取らないところだったと思う。こんなのがQue sais-je?に入る前提として、そもそもフランスが公務員の多い国だということがある。統計の取り方にもよるが、フランス人が良く言っていたのは労働者の三割程度が公務員、どんな統計でも少なくとも20%は越えている。というわけで、こんな本も売れるわけだ。どこの国もそうだが、公務員は比較的教育水準が高いので、本も読むんだろう。

逆に日本の公務員の数が極端に少ない国で、しかもさらに減らせと言っているようなことだが、本当はこういう本でも読んで外国の例を参考にすればいい。別に公務員に限らずフランスは労働者の権利が日本なんかより遥かに守られており、労働時間も短く、もちろんストライキなども多いが、別にフランス人の生産性が日本人より低いわけでもないし、何より出生率が全然高い。この本を翻訳しても冊数的には売れないかもしれないが、間違いなく社会貢献にはなると思う。

Trés utile pour le pays où il y a peu de fonctionnaires comme le Japon....

QUE SAIS JE (20 janvier 2021)
Langue:Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2715405554

2021年7月29日木曜日

Denis Salas "Les 100 mots de la justice" [司法の100語]

業務的に微妙にフランス法に関わっているので読んでみたが、別にこれで入門できるわけではなく、門外漢向けの教養読み物みたいに割り切っているのがQue sais-jeがVSIと違うところだ。仕事でもなければ手にも取らない本だが、"Parabole du douzième chameau"の冒頭だけ翻訳してみる。

12頭目のラクダの寓話
死期が近いことを感じた父は相続を確定することにした。11頭のラクダを三人の息子に分けなければならない。長男は遺産の半分を受け取り、次男は1/4を受け取り、三男は1/6を受け取ることになった。父の死後、分割が数学的に不可能であることが分かった。息子たちは案件をカーディ(イスラム法の裁判官)の元に持ち込んだ。少し考えた後、カーディは言った。「わたしのラクダを1頭連れて行って、遺産の分割が終わったら返してください」。息子たちは12頭のラクダなら分割が可能(長男が6頭、次男が3頭、三男が2頭)なことに直ぐに気が付き、直ちに12頭目のラクダを返した。

この話、なんか子供の頃に読んだことがあるような気もする。本書ではこの件についてクリエイティブな司法だとか何だとか情緒的な話をしている。本書にはこの他に寓話として"Sentence du juge Ooka"(裁判官大岡の判決)も取り上げられていて裁判官も社会の一員だのなんだのと。そんなわけで、元々日本とフランスでそんなに法体系が違うわけでもないので、フランス語ができるがフランス法に深入りする必要のない法学部の学生などが読むには良いが、そんな人はほとんどいないだろうな…。もちろん、リアルにフランスに住むとかフランスと交易するとかいうようなことで真剣にフランス法を学ぶのなら、こんなものを読んでいる場合ではない。あと、どうでもいいけど、OokaじゃなくてOookaにしないのかね。

Ce livre n'est pas très pratique, mais assez intéressant.

PUF(2018/1/1)
言語:フランス語
ISBN-13:978-2130809685

2021年7月26日月曜日

Bertrand Russell "The Conquest of Happiness" [幸福の獲得]

いわゆる幸福論。数理論理学者でありノーベル文学賞受賞者でもあるラッセルの大量の著作の中で最も読まれているものだろう。中心的な主張は「自分のことを考えれば考えるほど不幸になる」というところだと思う。実践的なアドバイスもあるが、概ね良識的で変に極端な思想はない。そこが詰まらないというのも分かるが、本人も言っている通り、真実は斬新であるとは限らない。書かれた時代の制約もあるし、ラッセル自身の偏見もあるが、そんなことも考えながら読んで損はないだろう。そもそもが常識的な処方箋が展開されているだけで、衝撃を受けるような著作ではない。わたしも別にラッセルを崇拝しているわけではないが、退屈はしなかった。

内容はそんなこととして、ラッセルの文章はある程度以上の高校生なら大学入試対策の英文解釈という枠で今でも結構読まされていると思う。模範的な英文で読みにくくもない。当時でも易しい文章を書く人だと思っていて自主的に大量に読んでいた。そういうノスタルジーも含めて読む人も多そうだ。

Writings of Russell are treated as examplary English and often utilized for educational purposes, particulary in higher educations. Very practical, isn't it?

Routledge(2015/8/27)
言語:英語 ISBN-13:978-1138127227

2021年7月6日火曜日

Paul Engel "Enzymes: A Very Short Introduction" [酵素:非常に短い入門]

目次:1.酵素なくして生命なし 2.物事を起こすもの-触媒 3.酵素の化学的性質 4.触媒の構造 5.酵素の働き 6.代謝経路と酵素の進化 7.酵素と病気 8.道具としての酵素 9.酵素と遺伝子-新たな地平

大きく三部くらいの構成で、最初の部分は化学的な説明。単純な化学触媒の説明から出発しているが、すぐに複雑さのレベルが違うことが判明する。たとえば、一体どういう原理で特定の酵素がDNA分子の特定の部分を切断できるのか一般人向けに説明されていることはほとんどないが、この本では、一応原子レベルで何が起こっているのか説明されている。第二の部分は生物学的な部分で、これも、たとえば物を食べるとタンパク質を分解する酵素が分泌されてみたいな説明が、一応分子レベルまで見えるような気がしてくる。高校生物くらいだと、外敵が侵入すると免疫細胞が出動してみたいな擬人化されたような説明になっているところ、そんなのでは納得できないというようなムキには、とっかかりにはなるかもしれない。第三の部分は工学的な応用で洗剤に使う酵素もあるし、最近流行のPCRの説明もある。この本の執筆時点はレムデシビルが有効かもとかいう時期みたいだが…。

それほど分かりやすい本でもないが、対象自体がもともと高校レベルを越えているので仕方がない。とにかく先端医学とか生物工学とかいうような分野も、根本的には酵素反応なわけで、この本みたいに、擬人化した説明を越えてくる本は少ないのではないかと思う。

An introduction to enzyme reaction engineering, which is a fundamental block of vast range of fields.

Oxford Univ Pr (2020/12/2)
言語:英語
ISBN:978-0198824985

2021年5月10日月曜日

David Cottington "Modern Art: A Very Short Introduction" [モダンアート:非常に短い入門]

目次 1.前衛を辿る 2.モダンなメディアとモダンなメッセージ 3.ピカソからポップアイドルへ:芸術家の名声 4.錬金術の実践:モダンアートと消費主義 5.ポストを越えて:一体次は何?

そんなに興味がない…というのも、国立西洋美術館とかに行っても、常設展の順路の最後のほうになると「あー。はいはい」ということで疲れていることもあってほぼ素通りというのが実態で、別にわたしに限ったことでもないと思われる。この本の序章でマネの「草上の昼食」が取り上げられているが、あれくらいの嘲笑は分かる。説明してくれている通り、「あなたたちが美術館で有難く見ている裸婦像はこういうことですよ」という質の悪い冗談なんだろう。ただ、この話を分かるためには、当時の美術界の様子やら、当時の社会通念を理解している必要があり、この時点で面倒くさい。とにかく理屈先行で、芸術家が何と戦っているのか理解する必要があり、特に時代が経過すると戦っている相手が今では消滅していたりするため、少し時代が経つだけでこの類のハンドブックがないと何のことやら分からない。とにかくマニアックな狭い世界の話で、それでもわたしは同伴者に説明する側ではあるが、自分で自分のマニアックな話にうんざりする。まあ実際に大金が動く世界の話なんで、モダンアート投資家になりたい人はこの本くらいから始めるのだろうか。VSIなだけはあって、この類の本にしては良心的だと思う…というのは、本書でも繰り返し語られているように、モダンアート全体が詐欺師集団ではという疑いは常に持たれていて、その疑いを晴らしたいという著者の思いは分かった。しかし、マニアックな話であることに変わりない。マニアックであること自体が敗北であるという観点はないのだろうか…。

Good. Modern art requires much education to appreciate.

Oxford Univ Pr (2005/5/26)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0192803641

2021年3月22日月曜日

Charles M. Schulz "Charlie Brown's Christmas Stocking" [チャーリー・ブラウンのクリスマスの靴下]

これは多分ネタ自体は新聞連載からだが、単なる編集ではなく、最初から雑誌付録として見開き絵本として制作されたようだ。

"The Complete Peanuts"全26巻に、追加の6巻を合わせて全部読み終えたが、追加の6巻のうち、"Snoopy vs. the Red Baron"だけは新聞連載にないものが収録されているのはほぼ間違いないと思う。あれだけドイツ語が出たら流石に記憶に残っていると思うけどな…それともドイツ語が入り過ぎていて削除されたのだろうか。普通のアメリカ人は読めないだろうし。残りの5巻はちと分からない。わたしが子供の頃に丸善で買って読んでいたのはおそらく新聞連載からのセレクト版だと思われる。多分、日本で谷川俊太郎訳で出ていた原本はそれだろう。そういう単なるセレクト版以外に出た冊子の類がこの六冊だけだったのだろうか。かなり細かいものも全集第26巻に収録されていて、本当に微細なものはもちろん落ちていると思うが。特に作者自身があまり初期の物の再版を良しとしていなかったらしい。絵の上手下手よりテイストが違うしな…。

そんなわけで、Red Baronの件は少し気にはなるが、現状でこれ以上網羅的にPeanutsを拾うのは無理だろう。実際、stripはすべて読んだのではないかと思う。Fantagraphics社は日曜版だけ集めたものを現在刊行中だが、色が付くだけですべて既に読んだものだろう。読み始めたのが2020年1月で、読み終わるのが2021年3月までかかった。実際にこんなにちゃんと全部読んだ人間がどれくらいいるのか…。Peanutsマニアにしたところで、印刷物ではこれ以上極められないところまで来たとは思う。アニメはまた別の話だ。そちらはあまり興味がない。

で、近いうちに読了記念として町田のスヌーピーミュージアムに行く。全部読んだ以上、ミュージアムに行っても新しい作品に会えるはずがないし、他にも色々読んでいるから、新しい情報も出てこないと思うが。これでPeanutsの旅は終わりだ。このブログの中でも随分面積を取った。

The end of the saga. I have read all of "the Complete Peanuts" + 6 booklets!

Fantagraphics Books(2012/11/22)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1606996249

Charles M. Schulz "A Valentine for Charlie Brown" [チャーリー・ブラウンにバレンタインを]

これもすべて覚えているわけではないが、多分すべて新聞連載からの編集と思われる。最後の部分はLinus/Sallyがメインで、SallyがValentine boxから手が抜けなくなるクダリは子供の頃から覚えている。どのみち、今では余程のファンしか買わない本だと思う…。

For big funs of the "Peanuts", not for the others.

Fantagraphics Books (2015/1/10)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1606998045

Charles M. Schulz "Batter Up, Charlie Brown!" [打席につけチャーリー・ブラウン!]

書名の意味が分からないがどうも野球用語らしい。やはり新聞連載からの転載ですべて構成されている感じ。しかも、比較的初期のもので、Schroederは捕手をしているが、Lucyの位置が少し変ったりしているし、Snoopyはほとんど出てこない。この巻は新聞連載でもわりと印象に残るホームスチールの話で終わっている。ユニクロでその"SLIDE!"のTシャツを見たことがある。

First, you must study the rules of baseball.

Fantagraphics Books (2014/4/5)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1606997253

Charles M. Schulz "Waiting for the Great Pumpkin" [かぼちゃ大王を待ちながら]

ハロウィンに関係するstripのコレクションで、すべて新聞連載からの転載と思われる。主人公はもちろんLinusだ。概ね初期のもので、Charlie BrownがLinusを嘲笑したり、Sallyが若かったり、安定してからのものとテイストがかなり違う。自分が信じているものを他人が信じてくれないのは悲しいものだ。

From the earlier days of "Peanuts".

Fantagraphics Books(2014/9/21)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1606997727

Charles M. Schulz "Snoopy's Thanksgiving" [スヌーピーの感謝祭]

ほぼすべて感謝祭関連の新聞連載からの転載で成り立っていると思われる。ほぼ絵本みたいな仕立て方で、一ページに一コマみたいなところもあり、スヌーピーでしか成立しない作りかもしれない。Peanutsの連載は50年間続いたが、その間にはネタかぶりも結構あり、特に感謝祭だけ集めているから、それがはっきりしているところもある。編集の責任だろう。

I believe there is no strip I have not seen in the main series(the Complete Peanuts).

Fantagraphics Books (2014/10/4)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1606997789

2021年3月19日金曜日

Charles M. Schulz "Snoopy vs. the Red Baron"[スヌーピー対赤い男爵]

一応説明するとRed Baron赤い男爵とは、第一次世界大戦中のドイツ空軍の実在の撃墜王であり、乗機を赤く塗装していたことで知られている。Snoopyの妄想の中ではFokker triplaneを操っており、いつもSnoopy(連合軍のエース)の乗機Sopwith Camelを撃墜している。わたしの知る限り、Snoopyが一矢でも報いたことはない。この巻はその妄想を描いたstripの特集。エンジンのジャイロ効果のため飛行機の運動がどうとか、結構細部もあったりするが、作者は第一次世界大戦にほんの少し従軍したくらいのはずで、あまりリアリティはない。まあマンガだし。

安定の内容ではあるが、どうも謎も多い。新聞連載からの完全版(The Complete Peanuts)に載っていなかったと断言できる物も多いし、新聞連載から切り取ってきている物も多いし、そのせいで前後の文脈がないと意味が分からない物もある。オリジナルと新聞からの転載との混合で水増し制作みたいなことなのだろうか…。ただ、少なくともこの巻を読まないとPeanutsを全部読んだことにはならないようだ。似たような巻があと五冊あるが…。

Some strips are also found in the "Complete Peanuts", some are not. I do not understand the whole scheme.

Fantagraphics Books(2015/11/9)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1606999066

2021年2月4日木曜日

Charles M. Schulz "The Complete Peanuts Vol. 26: Comics & Stories" [Peanuts完全版巻26:マンガと物語]

この巻はSchultz作品のメインの新聞連載以外の補遺みたいなことらしい。

初耳だったが、1950・1960年代には別人が描いたコミック本があったらしい。ここにはSchultz氏本人の手によるものと思われるものが収録されている。長い話もあるし、テイストやキャラが全然違ったり、Lucyが投手をやっていたり色々衝撃というか、ちょっと信じがたいところもある…。最後の最後で乱丁が発覚するが、企業宣伝マンガはこれだけの量を集めるとかなりうんざりする。実はSnoopyが今でも世界一稼いでいるキャラという話を聞いたこともあり、この点については結構ひっかかる。

かなり懐かしい昔の絵柄を見るとことになるが、そういえば、Charlie Brownは思われているほど"Good grief!"とは言っていないし、Linusが眼鏡キャラだった時期があったのも思い出した。"It was a dark and stormy night"が収録されているのは大きい。裏表紙ではSnoopyに7人のきょうだいがいることになっている。

Now I turn to the other six books of the series.

Fantagraphics Books (2016/11/22)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1606999578

2021年1月27日水曜日

Charles M. Schulz "The Complete Peanuts Vol. 25: 1999-2000" [Peanuts完全版1999-2000巻25]

このシリーズを通してあまり真剣に序文とか読んでいないが、この巻はオバマ大統領である。まあ大したこと言ってないけど。

わりと最初のほう、Charlie Brownが赤毛の女の子のためのクリスマスプレゼントを返品するのにLinusが付いてくるのは面白い。
CB: You work here? In this store? You're her mom, and you work here?
Linus: When we first saw you, I thought you were her older sister..
(Later)
CB: Why did you tell her that?
Linus: She let you return the present, didn't she?

Rerunが鳥をなでるのは遺伝なのだろう。時代背景として、子供たちがソファに座って一方向を見ていたらテレビに決まっているのだが、もう通じにくくなっているだろうか。Woodstockが携帯電話で事故ったりしているが、このマンガは基本的に最後まで黒電話だった。Beagle ScoutにConradの名。全部記録したはずなので後で全部名前を確認しておく。Aunt Marianは確かLucyのauntだったはずだが、Snoopyがauntと言っている。最後はAndyとOlafは常にSpikeを目指しているキャラになった。時事としてHarry Potterの言及。

2013/2/13最後のマンガ。2013/2/12作者逝去。直前まで描いていたことになる。急だった。8年前か…。当時Webで毎日読んでいた…。この巻の残りはLi'l Folks。ちょっとずつCharlie BrownやPattyやShermyになっていく。だんだん面白くなってくる。ギャグがはっきりしてくるというか。

How I miss them....

Canongate Books Ltd (April 21, 2016)
Language:English
ISBN-13:978-1782115229

2021年1月19日火曜日

Charles M. Schulz "The Complete Peanuts Vol. 24: 1997-1998" [Peanuts完全版1997-1998巻24]

まず、Peggy Jeanのクダリで気が付いたが、例えば1990年冬のPeggy Jeanのクダリと全く同じsequenceが1997年冬に出ている。これはオチが同じとかではなく、例えば、20巻306頁と24巻149頁にSnoopyが最後に"Well, at least they didn't go to waste.."と言う全く同じstripがあり、Snoopyの左下に20巻のほうには12-13と書かれているが、24巻には12-13-97と書き足されている。しばらくの間、昔のものが何点か使いまわされているようだ。しかしWebで調べてもこの話が出てこないのは、もしかしてわたしみたいに本当に全部読んでいる人間がほとんどいないのだろうか…。

Rerunのharassmentのクダリは衝撃だ。この概念の流行り始めだろうか。Rerunの幼稚園生活はハードだ。彼の同級生の女の子は可愛いのに名前がないのは残念だ。Rerunの活躍が増えてきた。このマンガ、登場時期によって一応年齢差があるが(たとえばSchroederが生まれたときに既にCharlie Brownはいたし、Lucyはもっと後とか)、結局みんな同年代みたいになっていて、明確に差があるのがRerunだけで、作者的には孫みたいなことかもしれない。

キャラ情報としてLucyが14年後に21歳になると言っている。かなり前にCharlie Brownが7歳だったと思う。Aunt Marianが言及される。"Crybabay" Boobieが久しぶりに登場。Pigpenの打率が.712とか。Beagle Scoutの名前は常に注目しているが、ここではBillとConradが挙がる。もう名前付きキャラは出ないかと思っていたが、Naomi登場。Franklinが黒く描かれなくなったと思っていたが、今度はスクリントーンでかなり黒い。もうPeanutsの名声が確立されて久しいし、「黒人と白人を同じ教室に描くな」的な抗議があったのも昔の話だ。

この時期の定番のクダリとしてAndyとOlafが常にSpikeを探しているし、SpikeがMicky Mouseの友達なことは確立されている。"The moon is always over Hollywood."というフレーズは検索してもこのマンガしかヒットしないし、起源があるわけではならしい。Valley Forgeもこの辺りから増えてくる。Beagle Scoutよりブリッジのシーンが増えてきた。わたしがブリッジを多少勉強したのも、このマンガのせいだった気がする。このマンガは全員がココナツが嫌いだが、それを知っていないと分からないコマもあり。

時事として、ついにDilbertへの言及が出た。ここから先は確実に全部読んでいるはず。Dilbertも作者があんなことにならなければ…。Tiger Woods然り…。

Several strips of the winter of 1997 are exactly the same ones of 1990, except for the numbers(date, I guess) in the last panel. I googled about it and found that no one has mentioned this fact. So, I wonder, am I the only one who read litterally whole "The Complete Peanuts"?

出版社 : Canongate Books Ltd (2015/11/5)
言語:英語
ISBN-13 : 978-1782115212

Louis P. Masur "The U.S. Civil War: A Very Short Introduction" [南北戦争:非常に短い入門]

目次: 1.内戦の起源 2.1861 3.1862 4.1863 5.1864 6.1865と戦後

基本的には米国内戦を時間で追っている。類書と比べてどうなのか分からないが、普通に話は分かるし、翻訳する価値もあるように思う。特にアメリカにおける黒人差別という問題は、日本人にはほとんど実感のないところで「なんでそこまで」と思うことも多く、少なくともこの辺りまでは遡らないとよく分からない。

それはそれとして、内戦はうんざりする。スペイン内戦も酷かったが、米国の内戦もうんざりだ。元々の原因は奴隷制をめぐって南部諸州が合衆国を脱退したことだが、リンカーン大統領はかなり後になるまで優柔不断で、戦争目的は奴隷制と無関係と言い続けるし、それに応じて戦争は長引くだけでただ死者だけが積みあがっていく。スペインの場合はフランコの意図的な作戦だが、内戦というのはもともとこういうものかもしれない。野蛮なことだが、奴隷解放の歴史はこの上にある。

そして日本は内戦を経験していなのだとつくづく思う。戦国時代だとか言っても一般人にとっては迷惑な話くらいでしかなく、小田原城を豊臣軍が包囲したところで周りの小田原市民は見物していただけだろうし、別に小田原市民が名古屋市民を恨んでいるとかいう話になりようもない。そういうこともあり、色々な意味で日本人も学ぶべき歴史だろう。

Gruesome.

Oxford Univ Pr (2020/10/21)
言語:英語
ISBN-13 : 978-0197513668

2021年1月6日水曜日

Charles M. Schulz "The Complete Peanuts Vol. 23: 1995-1996" [Peanuts完全版1995-1996巻23]

Charlie BrownのダンスパートナーEmilyが登場。これが名前付きキャラの最後かもしれない。Rerunが幼稚園に通うようになって女の子も出てくるが、この子は多分最後まで名前が出なかった。初期のShermyとかはもう出てこないが、VioletとPattyは出続けている。キャラの変化としてFranklinがあまり黒く描かれなくなったが、時代の流れなのか編集部の要請なのか。HarrietのAngel food cakeはまだ生きている。キャラの変化と言えば、いつの間にかPeppermint PattyはMarcieの"Sir"に反応しなくなっているし、"You are ... weird, Marcie."は定着している。Charlie Brownのpenmanshipもいつからかもう忘れた。

お約束と言えば、全員がココナッツが嫌いという設定は動かない。子供たちはあまりサマーキャンプに乗り気でない。とにかく良く雪が積もるが、アメリカ中部は今でもこんなに積もるのかもしれない。このマンガの一つの重要な論点として、周りがみんなCharlie Brownをフルネームで呼ぶということがあるが、考えてみたらあまりそんなに良くあるシーンじゃない気がする。SpikeがMicky Mouseをいじるシーンもちょくちょくあるが、姿は見せない。許可とってんのかな。このマンガに限ったお約束ではないが、昔のマンガはよくコンタクトレンズを落としてみんなで探すシーンがあったけど、なぜ今はなくなったのか。

時事として相変わらず主に黒電話が使われているが、ついにインターネットが登場した。わたしとしても、この辺りからWebで全部リアルタイムに読んでいる感じ。

I think I read all the strips hereafter on the web IRT.

Canongate Books Ltd (2015/11/5)
言語: : 英語
ISBN-13 : 978-1782115205