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2026年4月8日水曜日

A. W. Moore "Gödel's Theorem: A Very Short Introduction" [ゲーデルの定理:非常に短い入門]

Gödel's Theorem (Amazon.co.jp)

目次:1. ゲーデルの定理とは何か 2. 公理化:その魅力と要求 3. 歴史的背景 4. ゲーデルの定理に関わる主要概念 5. ゲーデルの定理の対角線証明 6. ゲーデルの定理の第二の証明とゲーデルの第二定理 7. ヒルベルトプログラムと人間の知性とコンピュータ 8. 数学において、そして数学を理解すること 付録:ゲーデルの定理の証明の概略

本書はゲーデルの定理の紹介ではあるが、本文で実際に定理を証明しており、完全に数学書と言ってよい。VSIには数学のカテゴリに属するタイトルがいくつかあるが、たいていは数学の特定分野の概略を説明しているだけだ。その中で本書は異色と言える。

そもそも数学の定理の証明は、専門の数学者でも、自分の専門分野でなければ概略を知っている程度で、最初から最後まで隙間なく追っているわけではない。だから、本書でゲーデルの定理が証明されていると言っても精粗の程度がある。しかし、この本の内容を完全に理解していれば数学科の学生だとしても「よく勉強しているね」と言ってもらえるレベルだ。必要となる基礎知識は高校生程度で十分とされている。日本なら中学生程度かもしれない。もしも本当に隙間なく定理の証明を書いた本があったら、相当分厚い本になるだろう。

一応、本書に即して雑に内容を言ってみる。それこそ数学の人に怒られそうだが、本書が出発点として示している表現と大差ないはずだ。

極めて雑に言えば:

・ゲーデルの定理は「真実の文をすべて証明でき、しかもウソの文は証明できないようなまともな自然数公理系は存在しえない」と言っている。

・ゲーデルの第二定理は「真実の文しか証明できないまともな自然数公理系は、自分が無矛盾であることを証明できない」と言っている。

その証明を雑に言えば:

・前者については、まともな公理系の言語なら『この文は証明できない』と書くことができる。この文が証明できるなら、公理系はウソを証明できることになる。この文を証明できなければ、公理系は真実の文を証明できないことになる。Q. E. D.

・後者については、さっきの証明により、まともな無矛盾な公理系なら文『この文は証明できない』は真である。しかし、無矛盾であることが証明できるなら文『この文は証明できない』が証明できることになってしまい、矛盾が発生する。Q. E. D. 

注意深い人なら、以上の説明でも、真という概念と証明可能という概念が混乱しているのに気が付くだろうし、公理系の内部の話と、公理系を外から見ている視点が妙に連続しているのにもひっかかるだろう。だいたい、どうやってそんな自己言及文が算術的に構成されるのか。そういうのを一つずつ詳細化していくのが本書の本体だ。

その自己言及の重要箇所だが、ゲーデル数を確立するのはいいとして(本当はそんなに自明でもないが…)、本書の証明は標準的な証明と異なり、対角線論法が中心になっている。ここでわたしは相当引っかかったが、本書では結局、理論が"sufficiently strong"という以上の説明はなされない。引っかかった部分は別途調べて一応納得したようなことだが、人によっては別の場所に引っかかるかもしれない。しかし、数学書を読むというのはそういうことなんだろう。最初にも言ったが、数学者でも自分の専門でもなければ隙間なく精密に証明を確認しているわけではない。つまり、こんな読み方になっている時点で、この本は数学書なんだろう。

本書の本体についてはそんなことだが、他にも歴史的背景や哲学的な考察も含まれている。ただ、個人的にあまり興味がないというのもあるし、本書でも述べられているが、定理自体をしっかり数学的に理解すれば、ひと昔前のPop mathみたいな煽情的な騒ぎ方もする必要がないはずだ。この本については、そういう方向でゲーデルの定理に興味を持っているかどうかとは無関係に、まず数学的に何が行われているのかを知りたい人向けと言えるだろう。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ (‎2023/2/23)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0192847850

2026年2月22日日曜日

Timothy Childers "Philosophy and Probability" [哲学と確率]

Philosophy and Probability (Amazon.co.jp)

確率と哲学 (Amazon.co.jp)

目次: 1. 確率と相対頻度 2. 傾向と他の物理的確率 3. 主観的確率 4. 主観的と客観的確率 5. 古典的と論理的解釈 6. 最大エントロピー原理

時々このテーマの本を読むが、大筋では昔からあまり変わっていない気がする。この本については最後の章:最大エントロピー原理が述べられているのは大きいところだろうか。

わたしが適当にまとめると、客観派は頻度説が基本だが、頻度説では一度限りの事象に適用できないので傾向説に進化する。ただ、進化と言っても、propensityという新概念が導入されるのだから世界観が変わって色々論争になる。主観派というのは要するにベイズ派だが、信念の訂正などに特有の問題もあり、科学哲学の一般問題にも接続する。デュエムクワイン問題などが論じられているが、究極的にはヒュームの懐疑論まで行きついている。このあたり、面白い話ではあるが、わたしの見解では答が得られないのが約束されている。近年逆襲しているのが論理派で、これは古典的な「同様に確からしい」論をさらに洗練していく道である。ここで問題になるのは、何を基準に「同様に確からしい」と言うかだが、そこで最大エントロピー原理が持ち出される。ただ、適用範囲が狭すぎるというのが著者の考えだ。

この本、入門用としては少し分かりにくいかもしれない。多分、学部レベルの哲学の素養や数学の素養は必要だろう。一応補遺で色々解説されているが。あと、微妙な冗談が多いのは好みが分かれるだろう。個人的にはあまり初耳なことはなかった。復習みたいな感じだったが、改めてポパーみたいな「誠実であれば適切な解が見つかる」みたいな突っぱね方は好きになれない。ヒュームとかカルナップとかについて改めて色々考えることもあった。それにしても、なぜ原書と邦訳のタイトルで哲学と確率の順番が逆なのか謎である。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ Pr
発売日 ‏ : ‎ 2013/7/24
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0199661824

2025年8月11日月曜日

Thomas Hull "Project Origami" [折り紙プロジェクト]

 Project Origami (Amazon.co.jp)

ドクター・ハルの折り紙数学教室 (Amazon.co.jp)

想定されているのが高校または大学程度の数学の教室で、折り紙を通じて数学を学ぶための実習のアイデアが数学教師向きに30解説されている。

ある程度折り紙の好きな人が見た場合、純粋に折り紙のアイデアとしては特に珍しいことは書いていない。と言って、別にこの本で何らかの数学が体系的に学べるわけではない。イメージとしては、たまたま折り紙の好きな数学教師が、自分の教えているところと関連のあるプロジェクトを一時間くらいぷっこんで来る感じ。「映える」授業という感じか。

もっともそれが生徒にウケるかどうかは謎だ。もともと折り紙という趣味がマニアックであり、我々は普通に解説しているつもりでも、一般人から見ると熱量にドン引き、ということはあり得る。折り紙好きとしては一度は読んでおきたい本だが、普通の人は折り紙なんか10歳になる前に卒業してしまうからな…。

結局、折り紙が好きな人と数学が好きな人がそんなに重なっている気がしない。月刊おりがみに数学のコーナーはない。確かに自分のことを考えると、初等幾何が異様に得意だったのは間違いないし、折り紙好きと無関係とは思わないが。

というわけで、なかなか誰にでもお勧めというわけにはいかない。本書の想定読者である数学教師とか、たまたま数学にも折り紙にも両方に興味のある人は読んで損はないと思う。天下のRoutledgeだ。

出版社 ‏ : ‎ Routledge; 第2版 (2013/2/11)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1466567917

2025年1月1日水曜日

Paul R. Rosenbaum "Causal Inference" [因果推論]

 Causal Inference (Amazon.co.jp)

目次:1. 処置により引き起こされる効果 2. 無作為化実験 3. 観察研究:問題 4. 測定された共変量のための調整 5. 測定されなかった共変量の感度 6. 観察研究の設計の中の疑似実験的手法 7. 自然実験と中断と操作変数 8. 再現性と解像度とエビデンス因子 9. 因果推論の中の不確実性と複雑性

統計的因果推論の入門書というか、理論的基礎を考える本。似たようなタイトルでThe Book of Whyという本もかなり前に読んでいて、それも統計的因果推論の入門書には違いないが、一応別方面の本だ。The Book of Whyは統計的因果推論の特定の手法、do-calculusを紹介して技術面にも入っているが、本書は古典的な推測統計学しか前提にしていない。あまり数式を使っていないのは、数式以前の世界だから。代わりに箱ひげ図が駆使されている。そして、わたしの意見では、統計的因果推論の原理的な話について、こちらの本のほうが面倒ではあるが、遥かに説得力のある議論が展開されている。

たとえば、こういう話で典型的に出てくるのが喫煙と肺がんの関係で、疑似相関の疑いをどう排除するかだ。The Book of Whyの場合は、確か「そもそもそんな大きな交絡因子は数学的に不可能」みたいな話だった記憶がある。あの本の読んで気になったのは、そもそも交絡因子として何を想定するかが不明ということだった。

本書の場合はもっと分かりやすい。本書の話を単純化すると、喫煙者の肺がんリスクが非喫煙者より9倍(一日二箱以上なら60倍)もある以上、これが疑似相関であると主張するには、喫煙者と非喫煙者の間に9倍(60倍)の差のある因子を発見しなければ説得力が弱い。

早い話が、喫煙者と非喫煙者の肺がんリスクが喫煙のせいではなく喫煙者の特定の遺伝子のせいであると主張するためには、喫煙してもしなくてもその遺伝子だけで肺がんリスクが9倍にならないといけないわけだ。そんな劇的な効果のある遺伝子が今後発見されるとは考えにくい、みたいな。もちろん今の話もさらに厳密に考えればという話はできるが、ここまできたら、因果関係を否定する側に立証を要求するほうが普通だろう。

というような話は一例だか、この類の話をこんな雑にではなく、冷静に一つ一つ議論を積み重ねている。ただし着実過ぎてムズい可能性はある。予備知識としては統計検定二級くらいの知識で十分だが、今くらい雑にまとめてくれる先生がいたほうが理解しやすいかもしれない。書き方の問題もあるが、議論がどこに向かっているのか分かりにくいかもしれない。その意味では数式は確かに少ないが、数学書を読むくらいの覚悟が必要だ。

The MIT Press (2023/4/4)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262545198

2024年5月18日土曜日

Eli Maor, Eugen Jost "Pentagons and Pentagrams: An Illustrated History " [五角形と五芒星: 図解歴史]

Pentagons and Pentagrams (Amazon.co.jp)

1. 五 2.φ 3. しかしそれは神聖なのか? 4. 正五角形を作図すること 5. 五芒星 6. 五角星 7. 敷き詰め 8. 結晶の中の五回対称性の発見 9. ああその五角形

目次から分かるような五角形に関するよもやま話。五角形というのが微妙にマイナーで、ちょうど一冊の本を書きやすいのかもしれない。内容的には日本の高校生くらいなら読めるが、考えないでさらさら読めるような本でもない。しかし、ここまで詳しく五角形について知りたい人も少ないような気もする。わたしはというと、折り紙で正多面体を作っている時に、正十二面体だけ異常に難しくて気になったという経緯。と言っても、直接折り紙に応用できるわけでもない。美術作品などに黄金比を発見するのを批判しているクダリは高く評価したい。五角形好きにはお勧めできる。というか実際この本くらいしかないかもしれない。

Princeton Univ Pr(2022/9/27)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0691201122

2024年4月11日木曜日

Michael Schneider "Proportion: In Art and Architecture" [芸術と建築の中の比率]

Proportion (Amazon.co.jp)

タイトルの通りの比率の図鑑。昔の数学の教科書に載っていたような、なんでもかんでも黄金比を当てはめている図よりは相当マシだが、本質はそういうこと。自然物ではなく設計された人工物の話なんで、説得力はある。にしても神奈川沖浪裏に線を引いているのは初めて見たが。正直わたしはあんまり感心しないが、面白いと思う人もいるんだろう。

Wooden Books (2022/11/1)
言語 : 英語
ISBN-13 :978-1907155482

2024年3月9日土曜日

Michael Glickman "Crop Circles" [作物の円]

Crop Circles (Amazon.co.jp)

1980年前半から2000年代までイギリスに大量出現したミステリーサークルの図鑑。載っているのは図式と数学的な構成の簡単な説明なので、実際の光景はネットで探したりする必要がある。この件について本気で研究したいのなら他に読むべき本はあるが、これも素敵な本です。

Beautiful small book.

Wooden Books (2005/2/15)
言語 : 英語
ISBN-13 :978-1904263340

2024年2月15日木曜日

Oliver Linton "Mathematical Functions" [数学の関数]

Mathematical Functions (Amazon.co.jp)

色々な関数をグラフと共に紹介する図鑑的な本。日本なら高校生くらいが対象だろうか。ニュートン別冊というような感じもする。微積だの複素関数だのも一応出てくる。個人的に最近曲線を眺めるのが好きで、別にただそれだけだが。もちろん真面目に数学の勉強をするのならこんな話ではないが、こういうの、中~高校の図書室とかに置いておいたら引っかかる子もいるんじゃないかなあ。

Wooden Books (2023/9/15)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155444

2024年2月2日金曜日

M Watkins "Useful Mathematical and Physical Formulae" [有用な数学と物理学の公式]

Useful Mathematical and Physical Fromulae (Amazon.co.jp)

タイトル通り見開き頁ごとに一つのジャンルの公式と若干の解説がある。知らない公式はないし、解説も淡々としたもので、我々が見てもほとんど無意味…。だが、まあ図鑑ということなのだろうか。評判も良いようで、ある種の子供には魅惑的なのかもしれないし、大人も結構楽しんでいるようだ。

出版社 : Wooden Books (2001/10/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1902418339

 

2024年2月1日木曜日

Tung Ken Lam "Origami: From Surface to Form" [折紙:面から形へ]

Origami:From Surface to Form (Amazon.co.jp)

日本の本屋で手芸とか趣味の棚にあるような折紙の本というより、数学書の棚に置いてあるたぐいの折紙幾何学とか折紙工学とか呼ばれるジャンルの入門書。色々な折り図も紹介されているので、単に折紙の本としても読めることは読める。ただ、説明がかなり不親切だったり不正確だったり誤記誤図も多くて、折りたいだけの人には勧められない。わたしはこの本に出てくる作品は一部の異様に難しいものを除いてほぼ全て自分で折ってみたが、相当苦労した。実際、ある程度数学力がないと解明できない折り図も多い。日本なら初等幾何学の好きな中学生くらいでも本気を出せば解明できるかもしれないが、普通無理だと思う…。

そんなわけで薄い本だが読み終わる(折り終る)のに二か月以上かかった。一般人にはお勧めできる本ではないし、もっと優れた折り紙の本もあると思うが、わたしにとっては人生を変えた本とまで言えるかもれしない。今まで折紙なんかまったく興味がなく、子供の頃に折った記憶もほとんどないが、今部屋に折紙の本と立体幾何学の本が積み上がり、数百枚の折紙が散らかっている。理論の説明も結構あるが、読んでいる時間より、考えたり折ったりしている時間のほうが圧倒的に長い。印象に残った具体的な作品をいくつか記録しておく。

Magazine box。なんでもない基本的な作品だが、単純な折り方で立体が構成されたのが衝撃だった。

Water bomb。要するに紙風船。これも基本的だが、今までに折った記憶がない。自分で分析して分かったが、この本も含めて、たいていの作品は一般的な指示通りに折ると誤差が大きい。多分、異様に器用な人間を想定しているのだろう。

正八角形の折り畳み。これは理解するのに少し手間取ったが、折り畳みの楽しさがある。誤差を縮める折り方を開発するのに試行錯誤した。

Icosahedron。特に正方形の紙からの正二十面体。作り方は全く説明不足だが、解明して組み上げた。そもそも20unitsも必要ない…。数学の本にはよく正二十面体の図は載っているが、こうして自分の手に取れるのは素晴らしい。この本では五つの正多面体のうち正十二面体の折り方だけ載っていないが、別途作った。正二十面体は多少固定が必要だが、正八面体は簡単に無限に作れるので暇つぶしによい。

WXYZ。これは多面体折紙の最高傑作。折り図や完成図は意味不明だが、自力で考えながら組むのは、そんなに難しくはない。実は完成品を見ても意味が分からないくらいだが、要は4つの正三角形が三次元で交差する形になる。本書には説明がないがユニットの組み方で光学異性体が存在する。だからこんな名前なのかもしれない。既にもう五個か六個作った。

A4の紙から帯を切り出して編み上げる立方体。これは本書に寸法が書いていないので、自分で計算しないといけない。ここまで本書についてこれた人なら自力で計算できるのではないだろうか。画用紙を使ったほうが良い。

Corrugation。いわゆる波形。特にwater bombを基準にしているほうは簡単で、A4の書類でも畳める。Miura-oriみたいに簡単に広げたりはできないが。折り図は意味不明だが、ここまで来た人なら折れる。

2023年10月21日土曜日

Richard Earl "Mathematical Analysis: A Very Short Introduction" [数学的解析:非常に短い入門]

目次:1.無限を飼いならす 2.すべて変化…フェルマーとニュートンとライプニッツの微積分 3.極限へ:18世紀と19世紀の解析 4.計算機を信じるべきか 5.たくさんの次元 6.その曲の名前を当てます… 7.解析にiを入れる 8.しかしさらに…

タイトルが分かりにくいのはVSIの通例というわけではなく、数学で言うAnalysis[解析]という言葉が日常語と少し違うため。この本は要するに日本で言えば高2~大2くらいで習う微積分の概観。似たような本はいくらでもあるような気もするが、VSIということで一応読んでみた。内容的には普通の高校生ではちょっと難しいかもしれない。この類の洋書でよくある話で、三角関数や虚数も定義から話しているが、三角関数を知らないレベルの人がこの本を読み切れるはずがない。大学生、特にformalな教科書で微細な技術ばかり勉強させられてどこに向かっているのか道を見失っている大学生が最適な対象読者だろう。

第二章までは高校で習う程度の数学かもしれないが、既に第三章でテイラー級数とか偏微分方程式とかリーマン積分とか言っている。第四章は数値計算の話で、類書にはあまり見ない内容ではある。第五章は解析幾何学でベクトル場を扱う。第六章はフーリエ分析。第七章は複素解析。第八章はルベーグ積分とか確率密度関数などその他という構成。

個人的にはだいたい一通り勉強したことがあるような内容だが、まともに勉強すれば普通は数年かかる課程をこの薄い一冊に話としてまとめているので、話が荒いのは仕方がない。数式展開が長くなる部分はAppendixで説明されているが、素人のわたしから見ても、正直なところ全然足りない。VSIでも数学は何冊かあるが、特にこの微積分みたいな話は、学問というより技術なので、自分で手を動かさないと習得できないところがある。あくまでメインの数学書を読んでいる人の副読本みたいな感じだろう。何も知らない人が解析とはどんな感じだろうと思ってこの本を読んでも途中で分からなくなる気がする。そこまで親切な本ではない。

A great choice for bedtime reading for those who have previously studied mathematics at the university level.

Oxford Univ Pr (2023/9/22)
言語: 英語
ISBN-13:978-0198868910

2023年9月7日木曜日

George Polya "How to Solve It" [いかにして問題をとくか]

数学の問題を解くための方法論や指導法みたいなこと。世界的に名著とされているので一応読んでみはしたが…。ちょくちょく挟まっている数学の問題の例は面白いところもあるから一応読めるが、はっきり言って退屈だった。なぜこの本がそんなに讃えられるのかは謎である。この本は名声が確立しているし、一応数学書だから褒めておいてレビュアーにとって損がない、というのは別として、数学の先生の指導法ということならもしかして役に立つのかもしれない。あと、ぱっと見、日本語はもっと読みにくそうだ。

Boring....

Penguin (1990/4/26)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0140124996

2023年4月11日火曜日

Oliver Linton "Fractals: On the Edge of Chaos" [フラクタル:カオスの縁]

ハウスドルフ次元がどうこうみたいな話も一応あるが、やはり基本的にはフラクタル図形の博物学みたいなことだろう。色がないのが致命的とかいう説もあるが、個人的にはあまり気にならない。わたしとしては無色のほうが幻想が広がるような気がする。だいたいフラクタル図形は刺々しいというか、サイケデリックな着色がされるもので、フラクタル幾何学が流行った時代を反映しているのかもしれない。まあそれはそれとして、こういうのは学校の図書館に置いておいて、中学生の夢を刺激するべきなのだ。

Fractal shapes are often colored with psychedelic colors. In this book, they are presented mono-chrome, very soothing.

Bloomsbury Pub Plc USA (2021/2/23)
言語 :英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1635575088

Oliver Linton "Numbers: To Infinity and Beyond" [数:無限を越えて]

整数論のpop mathみたいな本で、その意味ではよくあるタイプの本だが、薄い中にしっかり書いてあり、こういう本も子供のころに出会いたかったと思う。内容的にはそんなに難しくなく、最終的にはフェルマーの小定理くらいまでの話だが、別に難関大学受験とかではなければ、高校生でもこれくらいでいいのかもしれない。こういう本は学校の図書室には完備しておくべきなのだ。

A good reading for a math-minded children.

Wooden Books (2021/10/1)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155314

2023年4月9日日曜日

Adam Tetlow "The Diagram: Harmonic Geometry" [ダイアグラム:調和の幾何学]

久しぶりのWooden Books。タイトルから内容が分かりにくいが、基本的には正方形に対角線などの折り紙的な線を引きまくって、その交点で色々な分数や数列を表現している。この説明で面白そうと思わなかったら、読んでも面白いと思わない可能性は高い。わたしは子供の頃こんなの好きだったし、結構夢のような本だと思うが、あまりそんな人は少ないかもしれない。ただ、Wooden Booksから出るくらいなんだから、絶望的な少数派とも思えない。とても素敵な本なのだが。しばらくWooden Booksを読んでいなかったが、また新刊を中心に読んでいく。

Very cute and lovely book. I wish I had met this book in my adolescense.

出版社 : Wooden Books (2023/9/15)
言語 :英語
ISBN-13:978-1952178290

2023年1月24日火曜日

Glen Van Brummelen "Trigonometry: A Very Short Introduction" [三角法:非常に短い入門]

これは翻訳すればVSIの中で過去一売れるかもしれない。高校生にはやや難しいかもしれないが高校の先生くらいが注を補完すればいいだろう。もちろん大学生なら読めるはず。

第一章「なぜ」この本は歴史の記述が魅力の一つだが、導入としてヒッパルコスの天文の問題とブルシューの塔の高さを測る問題とケルヴィン卿の潮汐の問題が語られる。この時点ではあまり面白そうな本の気がしないのだが。

第二章「正弦・余弦とその仲間たち」三角比が一気に導入される。おなじみのsine正弦・cosine余弦・tangent正接・cotangent余接・secant正割・cosecant余割のほかに普通の八線表にあるversed sine正矢・versed cosine余矢、さらにexsecant外正割・excosecant外余割・haversine半正弦が歴史的経緯とともに加えられる。グラフと逆三角関数も導入され、本書で使う基本的な三角関数が出そろう。

第三章「素手で正弦表を構築する」三角関数表の作成は世界中どの文明でも重要だったが、その歴史が語られる。必然的に加法定理や倍角の公式も出てくるが、21倍角の公式はこの本でしか見たことがない。冗談みたいな公式だが、手計算で精度を上げていくには避けられない。

第四章「恒等式、さらに恒等式」三角関数の様々な公式が実例や歴史とともに語られる。正弦定理・余弦定理以下、多分高校の教科書に載っているような公式は多分全部載っているが、モルワイデの公式とかあまり知られていないものも多い。

第五章「無限へ」三角関数の無限級数展開が扱われる。この本はあまり微積は使わないが、どうやって微積を使わないで正弦関数がテイラー展開されるのか疑問に思うような人は、多分、この本の良い読者になる。関数電卓が使っているCORDICの説明も勉強になる。フーリエ級数も扱われる。

第六章「さらにcomplexに」複素平面の導入からオイラーの公式、さらに双曲線関数の様々な公式が導入される。普通の教科書だと双曲線関数は突然定義されることが多いように思うが、ここでは導入の経緯から説明される。

第七章「球とその先」おそらくこれが著者の本領だが、名前だけ有名で実際には誰も勉強していない球面三角法について語られる。理屈の上では高校生でも「読者のための練習問題」を処理して読んでいけるはずだが、マニアックかもしれない。ちょっとWebを検索してもネイピアの円くらいは日本語で出てくるが、pentagramma mirificumとか日本語の定訳が見当たらない。

VSIでこういう高校の教科名みたいなタイトルはわりとレベルが低く、わたしはあまり手を出さないのだが、この本は退屈しなかった。純粋に数学的内容として知らないことは最後の球面幾何以外はほとんどなかったが、歴史的経緯が面白い。高校生が読むと普通に数学の勉強になるかもしれないが、大学生以上が楽に読んでも十分面白いと思う。あと、一応数学書には違いないので、多分電子書籍より紙で読んだ方が良い。

A good math review book for high school students and a wonderful relaxation reading for undergraduates or higher levels.

Oxford Univ Pr (2020/3/2)
言語:英語
ISBN-13:978-0198814313

2023年1月9日月曜日

Silvanus P. Thompson "Calculus Made Easy" [簡単微積分]

目次:1.最初の恐怖からの救出 2.小ささの様々な程度 3.相対的成長について 4.最も簡単な場合 5.次の段階:定数をどうするか 6.和差積商 7.連続微分 8.時が変化する時 9.有益な回避法の導入 10.微分の幾何学的意味 11.極大値と極小値 12.曲線の曲率 13.他の有益な回避法 14.真の複利と有機的成長の法則 15.sinとcosをどう扱うか 16.偏微分 17.積分 18.微分の逆としての積分 19.積分で面積を求めることについて 20.回避法と落とし穴と勝利 21.いくつか解を見つけること

初版は1910年の歴史的名著とされている。内容的には初歩の微分から最後は一応簡単な微分方程式まで。演習問題は完全解答付きだが、そんなわけで一々解いていない。特徴としては、極限とかその他の厳密な議論をすっ飛ばしており、基本的には直観に訴えている。優れたヴァイオリニストがヴァイオリンを自作できる必要はないとかいう理屈で、まあ、今でも微積のこういう教え方は時々あると思うが、その元祖くらいなのかもしれない。にしても、ここまで乱暴な本はあまりないかもしれない。著者も言っているが、多分、同僚からボコられるんだろう。

そんなこともあるし、タイトルからして軽く見られそうだが、一応しっかりした微積分の入門書である。少なくとも高校程度の微積分はカバーしているし、演習問題もしっかりある。ただ、普通の大学のカリキュラムと整合しないと思われ、この本だけで微積分を済ませるわけにはいかないのが現実だろう。他方ε-δみたいな普通のカリキュラムは、何をそんなに気にしてそんな必死に議論をしているのか数学者以外には謎と言う問題もあり、どうかみたいな。

わたしにはどっちがいいのか判断する資格はないが、工学的な計算ができればいいだけなら、これで良いのかもしれない。少なくとも電験一種くらいならこれくらいで十分だろう。あるいは、微積分を教える側にとって有益な本かもしれない。

The easiest possible introductory course for calculus.

Independently published (2022/1/11)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 979-8799511098

2023年1月6日金曜日

Chris McMullen "Essential Calculus Skills Practice Workbook with Full Solutions" [基礎微積分:技術練習帳完全解答付き]

目次:1.多項式の導関数 2.連鎖の規則、積の規則、商の規則 3.三角関数の導関数 4.指数関数の導関数 5.対数関数の導関数 6.二階導関数 7.極値 8.極限とロピタルの規則 9.多項式の積分 10.定積分 11.三角関数の積分 12.指数関数と対数関数の積分 13.多項式置換による積分 14.三角関数置換による積分 15.部分積分 16.多重積分

世界的に評判の良い初歩の微積分の問題集。わたしはこれ以上に簡単な微積分の本を見たことがない…というのは、普通の微積分の導入で語られる面倒な理論的背景は完全に省略されている。つまり「すべての正の実数εについて」みたいな面倒くさい話が一切なく、ただただ微分と積分が機械的にできればよろしいというようなことだ。例えば最初からax^bの導関数はabx^(b-1)であるみたいなところから始まり、なぜそうなるのかの説明は一切ない。

解答はうっとうしいくらい丁寧で、簡単な式変形も省略しないで全部書いてあるし、正解の表記が何通りもある場合は全部書いてある。今の日本の高校の数学がどんなものか良く知らないが、この程度の微積分は高2くらいではなかろうか。相当数学が苦手な人でも「そこまで書かなくていいよ」と言って大半を読み飛ばすと思われる。

一つ、この本の明確な特徴として、三角関数として正弦・余弦・正接の他に普通に正割・余割・余接を使っている。裏表紙に本書に必要な公式が全部乗っているが、例えば∫secθdθ=ln|secθ+tanθ|+Cなどというのは公式扱いであり、説明はない。まあ右辺を微分すればすぐに分かることではあるが。

この辺りは好みなのかもしれないが、わたしはsec, csc, cotは使うべき派であり、tan^2θ+1=1/(cos^2θ)よりtan^2θ+1=sec^2θのほうがどう考えても覚えやすいと思うし、こういう本でもっと普及すればいいと思っている。

あと最大の特徴として、この本はworkbookということで、問題の一つ一つに対して余白があって、答を書き込めるようになっている。つまり別途紙を用意しなくていいということだが、これは人によっては利点かもしれない。この結構な余白と異様に丁寧な解答のせいで、ページ数のわりに問題数は少ない。

そんなわけで、この一冊で「微積分は全部片づけた」とは到底言えないが、多分、この本は昔勉強した微積分を思い出すためにやる人が多いんだと思う。わたしについては微積分は全然忘れていないが、とにかく試験であまりに計算間違いが多いので、算数ドリルと思って暇な時にやって三日で終わっている。知らないことは何もないのだが、やっぱり計算間違いはするもので、少し自分が勘違いしやすいポイントは分かったかもしれない。

Very good for revision.

Zishka Publishing (2018/8/16)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1941691243

2022年2月3日木曜日

Daniel Kahneman et al. "Noise" [ノイズ]

目次:1.ノイズを発見する 2.知性は測定器である 3.予測的判断におけるノイズ 4.なぜノイズが発生するか 5.判断を最適化する 6.最適なノイズ

相当面白く、経営や社会科学全般にmust-readと言っていい本だが、まずタイトルが分かりにくい。簡単に言うと、人間のする判断のバラツキを指摘してその解決策を提案する本。

あの"Thinking, Fast and Slow"のKahnemanが著者だというのにあまり評判になっていないのは、一つには前半部の話が単純に難しいのと、二つには後半部の人間の直感を排除する提案が反感を買うからだろう。

根底にある統計学については、ほとんど数式を使っていないが、最小二乗法くらいは勉強していないと何を言っているのか分からないのではないかと思う。多くの計測値と真値が与えられれば、誤差=バイアス+ノイズとなる。バイアスとは計測値の平均値と真値のズレで、タイトルにもあるノイズはこの右辺第二項を指している。

さらに基本的な統計学で平均二乗誤差=バイアスの二乗+ノイズの二乗と分解できる。全誤差(平均二乗誤差,MSE)を最小化するためには、バイアスを小さくすることも大事だが、ほとんどの場合ノイズが軽視され過ぎているというのが本書の基礎となる主張だ。

多くの場合、例えば裁判官が犯罪者の量刑を決める時には真値は分からない。従ってバイアスも差し当たり分からないが、多くの裁判官をテストすれば平均値を真値と推定してノイズ自体の計算はできる。本書の中心的な主題はバイアスではなくノイズなので、この点はあまり問題にならない。本書の主な問題は同じ案件なのに裁判官やその日の天気などによって量刑が変わってしまうことだ。良く問題になる犯罪者の人種や性別などによるバイアスは本書の主題ではない。

二乗という操作が入るが、とにかく全誤差はバイアスとノイズ(システムノイズと呼ぶ)に分解される。似たような操作でシステムノイズはレベルノイズとパターンノイズに分解される。裁判の例では、レベルノイズとは、そもそも平均的に量刑を重く出す裁判官と軽く出す裁判官がいることに当たる。

パターンノイズは裁判官と状況との交互作用によるものだが、パターンノイズは安定したパターンノイズと機会ノイズに分解される。安定したパターンノイズとは、裁判官によって事例のどの要素(被告の生い立ちとか被害者の年齢とか)を重視するかが違うことによる。筆者たちの研究ではこの要素がシステムノイズの中で最大だという。機会ノイズはさらにその残りで良く分からない。その日の天気とか前の日に地元のスポーツチームが勝ったとかそんなんだろう。

射撃チームが一つの的を狙ったとする。全員の着弾点の平均が的からズレていたら、このチームには全体にバイアスがあることになる。着弾点が散らかっていたらシステムノイズが大きい。右にずれやすい人と左にずれやすい人がいたらレベルノイズということになる。的の状況が個人に安定して別々の影響を与えるなら安定したパターンノイズということなる。それらを全部除いてもそもそも射撃は100%正確になるはずかないというのが機会ノイズ、あるいは本書でも使われる用語では客観的無知ということになる。

この本に文句を言っている人の多くはここまでの基本概念が頭に入っていないのだろうと思う。本書の主張は色々な事例(難民申請の許可や人事評価や保険の査定や指紋の鑑定など)を大量に引用しつつ、人々が思っているよりノイズが大きくて社会正義や経営判断をムチャクチャにしているということだ。そしてノイズを減らすための方策としてガイドラインの導入やアルゴリズム、あるいは単純な数式の導入を推奨する。このあたりの考え方は"Thinking, Fast and Slow"と基本的に同じで、反感を買いやすいのは分かる。ただ文句を言っている人の大半はここまでの議論をきちんと理解していないのではないかと思う。わたしとしては「アルゴリズムは透明性が高い」みたいなところに引っかかったりしたが(普通AIが何を考えているかは分からない)、かなり面白かった。ただ、わたしはここで問題になるような判断ごとを他人事みたいに思っているから単純に面白がっていられるが、経営者とか行政とかは真剣に読むべきだろう。しかしやはり難しいかもしれない。結局、ノイズよりバイアスのほうが分かりやすいし、バイアスを退治すれば英雄だが、ノイズ対策をしても効果は同じくらい大きくてもそこまで目立たない。

経営学の分野でもこの本は紹介されることが多いが、実際に読んでいる人は少ない印象だ。翻訳も出ているし、この文章をここまで読んだ人がこの本を理解できないことは考えにくい。色々面白い事例も載っているし、実務で問題になる人だけでなく、単に面白がりたいだけの人も読んで損はしない。良い本だった。

A must-read for us looking for new intellectual excitement.

William Collins (2021/5/18)
言語:英語
ISBN-13:978-0008309008

2020年11月4日水曜日

Peter Farrell "Math Adventures with Python" [Pythonによる数学の冒険]

Pythonで数学を学ぶという本だが、数学について言えば、日本では高校生でも楽に読めるだろう。Pythonについては、そもそもプログラミング自体の初心者を相手にしている感じで、結局、全体的に高校生に向いていると言える。英語も高校生で読めるような気はする。従ってムダにbrainyな高校生くらいが夏休みに読むのだろうか。大学生だと少し易し過ぎると思うが、本当にプログラミング初心者ならありかもしれない。ちとわたしには対象読者を正確に判定しかねる。個人的にはCOVID-19でヒマな時期に入手したもので、多少Pythonが分かったが、もちろん易し過ぎた。

For brainy high-school students.

ISBN-13 : 978-1593278670
出版社 : No Starch Press; Illustrated版 (2019/1/8)
言語:英語