2021年9月10日金曜日

J. D. Salinger "Nine Stories" [九の話]

サリンジャーの自選短編集で、多少ネタバレになっても日本語で一つずつしっかり記録しておくべきと判断した。

#1 A Perfect Day for Bananafish

冒頭から結末までカッコつけすぎというのが第一印象だが、トリッキーでスタイリッシュで、一番に置くのは妥当なところだろう。サリンジャーがどういう小説を書く人を知りたければ、この作品に違いない。

#2 Uncle Wiggily in Conneticut

会話もクールだし、システム的には#1と同じようなことだ。スタイリッシュな神経症の描写で、ロマン主義の現代版というところか。

#3 Just Before the War with the Eskimos

利己的な主人公が主人公が謎の転回をして友人を赦す。その転回のきっかけとなった件について、血を流しているのはキリストのイメージだとかサンドイッチは聖体拝領だとかいう解釈が出回っていて概ね同意できる。

#4 The laughing Man

ここまでスタイリッシュでトリッキーな話が続いてきたが、急に自然派文学みたいな男の子のノスタルジーだ。

#5 Down at the Dinghy

これも自然派だが、当時のアメリカでユダヤ人差別はかなり重いポイントで、一応衝撃的な結末として成立している点を見逃してはならない。愛と差別の対比のところ、Boo Booがカッコ良すぎるので話がブレる気もする。

#6 Esmé

甘い人気作品だが、まず第一に、話の論理階梯がトリッキーであることに気が付く必要がある。その上でEsméという少女がおよそ非現実的で、全部神経衰弱のロリコン退役軍人の妄想という結末でも良いと思うが、そんなことは作者も分かっていて書いているはずで、非現実的というよりは幻想的と受け止めるべきなんだろう。

#7 Pretty Mouth and Green My Eyes

非常にスタイリッシュでトリッキーで一番の傑作だと思うが、文学偏差値が高く、まともに理解できる人が少ないようだ。まずLeeの横にいる女が何者かということは作者は絶対に書かない。この点はまともな知能の読者なら読んでいる間ずっと気になるはずだ。それにも関わらず作者がこれがArthurの妻Joanieであるみたいなフリを続けていることも分かるはずで、まともな読者は「一体どういうつもりなのか」とずっと思い続けることになる。長々と丁寧にフった後、Arthurがそっちに行くと言って緊張感が一気に高まっても、作者は確定を拒否し続ける。最後の電話でLeeは愕然とするが、驚くのは読者も同じだ。電話を切った後、舞台なら絶妙に間をおいてLeeが女に「お前誰だよ!」と言って暗転しなければならない。

#8 De Daumier-Smith's Blue Period

#3と同じシステムで主人公が謎の転回をして、利己的ナルシスト(中二病)の世界から常識の世界に帰ってくる。#3と同様に転回にきっかけがあるが、ここでは主人公の雇用主が日本人に設定されているのが重要で、ここで冒頭の白隠禅師の公案が回収されていると理解するべきだろう。こんなのが当時アメリカで流行っていたんだろう。

#9 Teddy

最も顰蹙を買っている作品らしいが、ブラッドベリを思い出すような怪奇SF小説と考える。結末を曖昧にするのが得意な作者だが、これについては作者自体がhauntingと言っているらしいし、解釈の割れる余地がない。ここまで読んで、全ての作品に共通する村上春樹感の正体が良く分かった。無論、村上春樹がサリンジャーを模倣しているのは当然だが(翻訳もしてるんだろう)、一貫して「お洒落でトレンディなニューヨーク」なのだ。やれやれ。

"Pretty Mouth and Green My Eyes" is the best of all. Though I feel the first part in which Arthur does not stop talking a bit too long, Salinger's trick worked very well on me. On stage, after hanging the telephone and pausing a bit, Lee must shout at the mysterious kittenish woman, "WHO ARE YOU?".

Little, Brown and Company (1953/1/30)
言語:英語
ISBN-13:978-0316769563