2018年11月20日火曜日

Nataël, Béja "Bye Bye tristesse" [悲しみよさようなら]

要するにエロマンガなんだけど、一つには時系列が少しよれているのと、一つには感情の動きが謎過ぎて読みにくい。わたしの理解したところでは、フランスの話にありがちな「究極の愛を求めてエロいことをしまくったが結局なんか悲しい」というような話のようだ。ただしこの場合は、くっついた夫が浮気、というかムチャクチャな夜会をしているのを発見したので、殺害して「悲しみよさようなら」ということだろうか。違うのかもしれないが、そんなに論理的に構成されているような気もしない。

この特に性的なことで好き勝手して結局何か満たされず悲しくて、そこに何かポエジーを感じろというフォーマットは昔からよくある気がする。ボヴァリー夫人からなのだろうか。ただボヴァリー夫人は厳密に科学的というか現実的というか、必然の道程を辿っているのがわたしにも分かるが、類似品は何のことやらわからないことが多い。何かの別の意味で厳密なのかもしれないが、わたしには分からない世界のようだ。

Je n'ai pas arrivé à comprendre le développement du sentiment.

Glénat BD (1 août 2012)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2356482778

2018年11月17日土曜日

VOUTCH "Les joies du monde moderne" [現代世界の喜び]

一応現代社会への皮肉を込めた一コママンガ集。と言っても、別にそんなに声を出して笑うほど面白いわけでもないし、そんなに絵が見飽きないとかいうわけでもなく、しかし、こういうのを漫然と眺めている時間を楽しむのが大人なような気もして来た。National Geographicとか東京人みたいに応接間や待合室用の雑誌があるが、これは待合室用の本なのかもしれない。もちろん、来客がフランス語を読めなければ意味を為さないが…。飾りとして悪くないし、趣味も良いし、フランス語が読めれば、内容も退屈ではないというような。わたしなら医者の待合室にこれがあったらかなりうれしいし、外人客の多い高級美容室なんかに良いのではないか。

Pour une salle d'attente.

Cherche Midi (5 janvier 2017)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2749143743

2018年11月16日金曜日

Thomas Legrand, Laure Watrin "Les 100 mots des bobos" [ボボの100語]

これはクセジュの中でも稀に見る面白い本だった。boboとはブルジョワ・ボヘミアンの略で、簡単に言うと意識高い系とLOHASとサブカルクソ女が融合して生まれた最強種族のようなものと思えばほぼ間違いない。経済的に余裕はあるが政治的には左翼で、移民や同性婚に寛容で、フェミニストで、国際人で、子供には外国語を学ばせ、ヨガをし、隠れ家的レストランに通い、エコで、トートバッグを持ち歩き、菜食志向で、無農薬野菜を愛し、美術館が好きで、良く分からない前衛的なアートを支持し、仕事とプライベートの区別が薄く、ノマドで、スタバにマックブックを持ち込み、移動は自転車で、海外旅行に行くと観光客向けのところより地元民の通うような居酒屋などを好み、いやもう、あとはみなさんが勝手に想像でリストを続けられると思うが、それもほとんど間違えないと思う。一つ日本と違うとすれば、社会参画志向が日本より遥かに強くて、地域社会や学校などを積極的に改変していく点か。

この本で取り上げられる100語も全部紹介したいくらいだが、もう上記に出たのもあるし、グローカリゼーションとかカウンターカルチャーとか共同農園とかラテマキアートとか、基本的には全部半笑いで読み続けるしかない。実際、フランスでもboboは嘲笑の対象なのだが、現実に政治的には一つの勢力で無視できず、日本で言えば、立憲民主党の支持者のような感じなのだろう。右派が左派を非難する時にboboという言葉が頻出するようなことで、自分がboboであると認める人はいないが、しかし、実際はboboだらけという図である。思い返すと、少なくともわたしが知るフランス人は一人残らずboboだ。

もちろん、あまりに戯画的過ぎて、ただの筆者たちの妄想なのではという疑いもあるが、あまりにリアルで、フランスでは随分研究も重ねられているらしいし、一応公式っぽい定義として「経済資本より文化資本の最大化を目指す人たち」みたいな線で考えられているらしい。とにかく、左派政治家にとっては現実の問題であり、笑っている場合ではない。右派がポピュリズム政党として確立しつつある以上、左派は今までみたいな労働組合基盤というよりboboを基盤にするしかないのかもしれない。

個人的にはgentrificationという概念が面白かった。昔はドーナツ化現象とか言って、金持ちは郊外に住むことになっていた。それがその後逆転して、退廃した都心部に憧れたboboが逆流入してきて、地価が上がって貧乏人が追い出されるほか、行政も動かしてキレイな街になってしまい、下町とは名ばかりの高級住宅街やら囲い付きの住宅地ができてしまう。で、もともとの下町住民とタワーマンションの住人との関係が問題になるというような。

いずれ翻訳されるのかもしれないが、特に社会学とか人文地理学とか都市工学とかの学生には必読書として指定したい。その他、単に「意識高い系大全」みたいなノリの装丁で売っても売れるだろう。boboはライフスタイルであり、専門の雑誌がないのが不思議なくらいだ。こういう面白い本が日本の社会学から出てこないのは残念だが、せめて輸入してもらいたい。

Le meilleur dans la collection "Que sais-je?".

Presses Universitaires de France - PUF (5 septembre 2018)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2130809128

2018年11月13日火曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid #13: Meltdown" [軟弱な子供の日記13巻:融解]

日本語訳グレッグのダメ日記も未だにほぼ同時発売されているようで結構なことだ。ポプラ社の力かも知れないが全世界的に売れているという話でもある。わたしはあの装丁が受け付けないし、一切見ていないが、普通の中学生じゃ原書はキツいだろうか。それにしても高校生なら読めるだろうというようなかなり易しい英語だ。

今回は真冬の話で、前半は登下校などで寒さから逃れる方法、後半はこのシリーズには珍しく子供たちの雪合戦の話。そもそもこの主人公、友達はほぼ一人だけだし、大勢の子供と遊ぶようなエピソードはこれまでなかったかもしれない。まあ遊ぶと言っても、どうもわたしはこれを素直に楽しそうとは思えず、この辺りに子どもの頃から変わらないわたしの性格の問題というか発達障害があるのだろう。このシリーズ、もともと犯罪すれすれのエピソードなどもあり、児童書にしては教育上良いとは思えないのだが、特にケガ人が出るとわたしはしんどい。

そう思って読者レビューなどを見ると、概ね評価が高く、文句を言っている連中のが堅物過ぎる印象は拭えない。主人公の生活水準が髙過ぎるというようなのは仕方がない。日本の子供向けマンガもほとんど平均より金持ち側だ。ただ、主人公の周囲の見下し方に引っかかるのは分からなくはない。わたしがちびまる子ちゃんが大嫌いなのと同じようなことだろう。ただ、弁護のために、グレッグには偽善がなく、彼が周囲を見下していること自体も笑いの対象として描かれていることは言っておく必要がある。

このシリーズ、最初は必ずしも子供向けとは限らなかったような気がするが、巻が進むにつれてはっきり児童向けになった。大人が読んでも面白いが、子供が読んだらもっと面白いのだろうと思う。こんな風に余計なことは考えないだろうし。それに、グレッグみたいなタイプを肯定的に描いてくれる児童書は少ないんじゃないか。このタイプの子供は否定的な自己イメージを形成しがちと思えば、やはり教育上良いのかもしれない。

Not for strict parents.

Harry N. Abrams (2018/10/30)
言語: 英語
ISBN-13: 978-141972743

2018年11月6日火曜日

Joseph Heller "Catch-22" [キャッチ=22]

有名な厭戦小説。設定は第二次世界大戦イタリアの米軍爆撃部隊だが、出版されたのがちょうどベトナム戦争でアメリカ中がうんざりしていた時期ということで流行ったようだ。

この小説のタイトルは不条理の代名詞みたいに英語になっているが、確かに色々不条理なせいで、特に最初のうちは読みにくい。たとえば、カフカの小説の不条理さは、作者の設定した状況が不条理なだけで、文章自体は冷静だ。だから状況の不条理さが浮き立つことになる。しかし、この小説については、戦争と組織の現実の不条理さと作者の設定した不条理さが混ざっている。さらに、登場人物がふざけているのと作者の書き方がふざけているのも混ざっている。それと無関係ではないと思うが、難しい単語が多く、原文で読む人は覚悟したほうがよい。平均的なアメリカ人でも少ししんどいのではないかと思う。あと、時系列通りに話が進まないことは、最初に知って置いたほうが良い。

というわけで、特に前半は、あまり戦争の直接の描写が少ないこともあり、ただ前線から離れた基地で規則に縛られた不条理な生活をしているだけで、話も進まないから、早目に挫折してしまう人も多いだろう。後から読み返すと面白いが…。これも戦争の現実なのだろう。中盤以後はイタリアの売春宿の実情や爆撃団が曝される死の危険などはリアルでゾッとすることになる。基地で命令しているだけの上官は平気だが、読者の馴染みの主人公の友達はどんどん死んでいく…。諧謔小説みたいに言われるが、そもそもが戦争なので、笑って読める小説ではない。

主人公はB-25爆撃機の爆撃手で、彼の最大の目的は生きてアメリカに帰ることであり、任務はイヤイヤこなしていて、仮病などを使ってできる限り逃れようとしている。徴兵制で、何回か爆撃ミッションをこなすとアメリカに帰れる制度らしいが、出世したい上官がその回数をどんどん増やすので帰れないという状況だ。わたしとしては、基本的に仕事をサボろうとする主人公が好きなので、それが戦争かどうかはあまり関係がない。とはいうものの、爆撃機が対空砲火に曝される場面はなかなか緊迫していて勉強になった。我々は爆撃される側の恐怖は良く伝え聞くが、爆撃する側の話はあまり聞かない…。

戦争の話だから、下世話な話も多く、グロい描写も多いので、誰にでもお勧めというわけではないが、著者の実体験に基づいているというし、これも戦争の実態の一つなので、そういう意味ではお勧めできる。ただ、とにかく単語が難しい。それでも読む価値はある。日本語訳は見ていないけど、文句を言っている人もいるようだ。しかし、原書で全部読んだわたしとしては、原文自体が厳しいからな…と言っておきたい。

Generally speaking, I love the protagonist who tries to escape from his official mission, whether it is war or not. The superior officers are meanies even if it is not a wartime. The savage war only accentuates it.

出版社: Everyman's Library (1995/9/21)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1857152203