2015年2月20日金曜日

Peter S. Ungar "Teeth: A Very Short Introduction"

最初に若干の歯の一般的な構造とか発生の解説、最後に人間の歯に関する若干の考察があるが、主に古生物学・比較生物学的な観点からの歯の博物誌のようなもの。動物が好きな人なら、一度、歯という観点から、色々な動物を見ると楽しいかもしれない。毎日使っているにも関わらず、それほど関心の持たれないパーツだから、なかなか発見が多かった。結局、動物という観点から見れば、人間は全く特別でも何でもないわけで。

わたしはというと、普通ならこの書名では読もうとは思わないが、このたび親不知をこじらせて面倒なことになり、手術入院ということになっているので、読んでみただけ。しかし、この本は特に人間の歯に特化しているわけでもないし、医療的な観点はほとんどないから、その方面では完全に期待外れではあった。ただ、わたしの親不知の問題が、完全に人類の進化のせいであることはよく分かった。根本的な問題は埋伏智歯であり、その表面の膜が拡大して嚢胞となり、下顎骨を溶かしている。その膜がエナメル質を分泌する膜なのか違う膜なのかは掘り出してから分析するのだろうが、どっちにしろ、智歯wisdom toothがまともに生えていないせいだ。さっさと手術してもらいたいが、予約が埋まっているとかで一か月以上先になる。

人類の進化の過程で、前半のうちは人類の顎は拡大していたが、後半から縮小に転じる。もちろん食べ物が良くなったせいだと思われ、たとえば、狩猟採集生活をしている人は今でも顎はしっかりしている。しかし、その子供が西欧風の食事を始めると、わずか一代で顎が小さくなる。ということは、わたしの埋伏智歯は人類の進化のせいと同時に、小さい頃にあまり固い物を食べなかったので発達しなかったということなのか。どっちにしろ、この件は人類全体の問題であり、だからと言って慰めにもならないが、とにかく、手術が平穏に過ぎるのを祈るばかりだ。

Normally I am not particularly interested in teeth, but recently I have found a bad case of irregular wisdom tooth and will undergo an operation in about a month. Though this book is not a medical book but a comparative zoology, I got a certain degree of consort that this is not my problem but a curse over the entire human kind.

Oxford Univ Pr (2014/04)
ISBN-13: 978-0199670598

2015年2月9日月曜日

Jane Austen "Pride and Prejudice"

「高慢と偏見」の邦題で知られる英文学の名作であり、実際面白かった。夏目漱石が冒頭を激賞しているので有名だが、確かにChapter 1だけでも読んでみることをお勧めしたい。男と女で感想が大幅に異なる気がするが、男なら誰しもMr. Bennetに同情せざるを得ないだろう。わたしは一年半くらいかけてこの本をダラダラ読んで、これから悪口みたいなことを書く気がするが、別に小説自体が悪いわけでなく、小説自体は傑作だ。ただ、そこに描写されている世界がキモいだけである。

男と女で感想が大幅に異なる、というのは、この小説が基本的に婚活の話だからである。19世紀英国の感覚だと恋愛小説なのかもしれないが、21世紀日本の感覚では親やら親戚やら友達やらを巻き込んだ婚活小説以外の何物でもない。または純粋社交小説と言うべきだろう。登場人物がほぼ全員上流階級のヒマ人であり、ほとんど社交シーンの描写とそれについての考察の連続である。コミュ障のわたしでも読めたのは、小説だから人物の気持ちやその場の空気を一々描写してくれるからで、これが映画とかマンガだったら、多分わたしには理解できない。イギリス人に会うたびに思うが、英国は高度な社交術を発達させている国であり、Austenの緻密な描写でなければ理解しきれない。

問題のBennet家には、婚活すべき五人の困った娘がおり、主人公は次女Elizabethである。この次女は、欠点を持ちつつも、基本的には最もマトモな人間ということになっている。長女のJaneはElizabethと仲が良いが、Elizabeth的にはちと善良というかナイーブ過ぎるらしい。残りの三人の妹は基本的にはただの子供で、Elizabeth的には思慮が足りない。母親はムキになって娘の婚活を推進しているが、かなりイタく、社交シーンでのそのイタさに、横でElizabethが赤面して頭を抱えているのが定例。その夫たるBennet氏は、良識はあるようだが皮肉屋で、Elizabethをひいきにしているが、基本的には孤独を愛していて、娘の婚活にさして興味を持っていない。

その他、親戚など他にも珍人物が出てきて、どう考えても読者を笑かそうとしている。小説中、何組か結婚が成立することになるが、作者の描写が容赦なく、全部作者に祝福されているわけではない。一つには、社会背景として、男が持っている地位や財産が重大な意味を持っているからで、ただの恋愛小説で済まない世界観になっている。よく言えば厚みがあるが、高慢と偏見と言うより、虚栄心と先入見と欲得と強迫観念と軽薄と若干の恋愛くらいだろう。

小説の主要部分は社交シーンだが、わたしの感覚では、登場人物のセリフは英語的にはいかにも英国的に礼儀正しいが、言っている内実はなかなかキチガイで、読んでいてなかなかキモい。作者的にはElizabethと若干名だけマトモな人間がいることになっているようだが、わたし的には登場人物がほぼ全員キチガイと言って良い。この世界ではMr. Bennetのみ共感できる。この点はChapter 1の段階で明白である。繰り返すが、Chapter 1だけでも読んで損はない。

全く個人的な話だが、わたしは昔のマンガだと「タッチ」とか「めぞん一刻」みたいな高度な空気の読み合いのような話は、キモい上に人物の気持ちが読み切れずについていけない。その点、この小説は、一々空気や気持ちの描写が詳細だから、わたしでもついていける。キモいことに変わりはないが、コミュ障のわたしとしてはなかなか勉強になった。これが世間なんだろう。そして長い時間をかけて読んだ本は、読み終わる時に少し寂しさを感じる。名作だった。

One of the best novels ever written. No comment.

Penguin Classics(2002/12/31)
ISBN-13: 978-0141439518