2012年5月31日木曜日

John von Neumann "The Computer and the Brain: Second Edition"

今更こんな本を読んでも特に得るものはないという意見については、残念ながらほとんど正しいと言うしかない。当時、アイデア自体は画期的だったのかもしれないが、今では、誰でも知っている話でしかない。その点がノイマン先生の偉大さを証明しているような気がしなくもないが、先生の原文を読んで感動するくらい。一箇所、自分で自分を書き換えるコードの話をしている点だけは、今でも画期的だ(タネンバウム先生がそんなことを言っていた)。まあ歴史資料ということで。

予備知識としては、計算機については、へねぱたを読んでいるくらいで十分。論理回路が分からない人に解読するのは困難かと思われる。脳については「ニューロン」という言葉を知っているくらいで十分。単純に容積とか計算速度とかについて語っているだけ。

Well, of course von Neumann is one of the greatest computer scientists. This book is, however, not of a great interest for me. Nowadays even laymen know what this book tells us. Just a historical book.

2012年5月26日土曜日

J. Allan Hobson "Dreaming: A Very Short Introduction"

夢に関する脳科学的知見の解説。わたしにとってはなかなか衝撃的だったが・・・。だいたい、こういうタイトルだと、夢に関する精神分析とか、夢の文化誌とか、その類の人文学になってしまい、興味もなかったが、同じくVSIの"Sleep"(これも名著)で言及されていたので、興味を持っただけ。

この本は一貫して、医学的知見から「夢の形式」を解明している。すなわち、睡眠中は、覚醒時よりも激しく活動している脳の部位と、機能を停止している脳の部位がはっきりしている。たとえば、感覚や運動に関する領域は激しく活動している。ただし、実際の感覚器官からの入力や、実際の運動器官への出力は禁じられている。連想に関する領域も強く活動している。情動に関する部位は激しく活動しているが、論理的思考や反省を司る部位は機能していない。長期記憶へのアクセスは可能だが、短期記憶へはアクセスできないので、ほとんどの夢は忘れられる。等々で、これは脳内化学物質の変化でもはっきりしている。これらの脳科学的所見から、夢に見られる特徴、たとえば、強い感情とか、場所や時間意識や反省意識の消失とか、やたら昔のことを思い出すとか、その他さまざまな特長が説明される。

そんなわけで、精神分析をはじめとして、夢の内容に関する研究に対する敵意が半端でない。夢をほとんど忘れるのは、フロイトが想定したような超自我による抑圧のせいではなく、単に睡眠中には記憶に必要な化学物質が脳内にないからである。夢の内容は超自我による抑圧のせいで変形されているのではなく、むしろ脳の一部領域の活動がそのまま表出されているだけであり、いかなる解釈も必要ではない云々。

つまり、睡眠は脳のメンテナンスモードであり、夢はその副産物に過ぎない。夢の内容をいくら研究しても、それは妄想にしかならない。むしろ夢の形式的特徴、たとえば、物事の同一性が簡単に無視されるとか、状況に対する吟味や注意力の維持がないとか、時間や空間の連続性の無視とかに注目し、それらと脳の各領域の機能を照合していくことにより、脳科学が進歩して行く。覚醒時に学習した内容が睡眠中に整理されて定着していくという理論は既に確立している。

普通の科学的な考え方としか思えないが、改めて考えると、夢に関する研究で、こんな当たり前の説は読んだことがなかった。意識だとかクオリアだとかいう問題については、また色々な考え方もあると思うが、その件については別に論じればいいだろう。意識が脳の状態に依存しているのは明白だし、著者が言う通り、問題なんかないのかもしれない。

In hindsight, the author's way of thinking on dream is quite normal and obvious. Hobson explains why we are so crazy while we are sleeping by way of medical research on brain. For example, we are so illogical in dream because the part of the brain which dictate logical thinking is sleeping. We do not remember what we dreamed because chemicals necessary for short-term memory are absent while we are sleeping. Very simple. Freudian interpretation is misguided because of lack of scientific knowledge about brain. I wonder why I have never come across this kind of simple scientific theory on dream before. Maybe people prefer stories than fragmented long-term memories, just we all are in the dreams.

2012年5月18日金曜日

Dan Ariely "The Upside of Irrationality"

"Predictably Irrational"の続編というわけで、本質は似たような方向で、実験→教訓という流れは変わっていない。文章に関しては正直言って冗長な感じはするけど、内容は単なる前作の水増しではないので、前作に感心した人は引き続き読んで満足すると思う。特に著者の個人的な体験(なかなか壮絶だが)からの教訓が多い。これは貴重だ。

ていうかまあ、行動経済学で強調されるのは、「実は誰でも知っているけど、標準経済学で無視されていること」なわけで、あらかじめ標準経済学に洗脳されている人には衝撃的な事実でも、素で考えたら当たり前のことが多い。行動経済学から学べる教訓は色々あるが、最大の教訓は、「みんな自信過剰」ということだろう。

Another nice book from Ariely. Source of wisdom.

Dan Ariely "Predictably Irrational"

行動経済学については、最初にあまり面白くない本(洋書だったがタイトルとか忘れた)を読んでしまい、更に日本語の本はどれもこれも詰まらないので(話術の問題だろう)、ずっと無視していたが、"Thinking, Fast and Slow"を読んで感動してから、遡って売れた本を読んでいる次第。それにしても、行動経済学の本は、どうもタイトルが冴えない。ともあれ、行動経済学的なエピソードは既にわたしの中で飽和していて、この本を読んでも新奇な事例は出てこないが、それでも、解釈とか話術には色々発見があった。相対論と同じで、本質は飽きるほど分かっているのだが、色々な解釈とか表現とかで楽しめる感じ。(ただし相対論はさすがに飽きた)。

この本の特徴としては、セイラーほどではないが、わりと人間を信じていて、社会改良的な方向が見える点か。カーネマンよりは学術的ではない。タレブほど醒めてはいない。表現が難しいが、それぞれの個性としか言えない。社会関係基盤にまで触れている点も、今まで読んだ本とは違う。日本でも「ソーシャル・キャピタル」の概念が普及し始めているが、そっちの方向も追求してみる価値がありそうだ。

Another nice book on behavioral economics. I have been already fed up with episodes from behavioral economics. Still, I was fascinated by its way of telling and interpreting economical experiments. My first choice is Kahneman. However, it depends on one's taste.

2012年5月16日水曜日

David Stillman, Ronni Gordon "The Ultimate French Review and Practice"

わたしはこの本の前の版で勉強したのだが、最近になって文法を忘れているような気がしてきたので、新版が出た機会にあらためて買った次第。わたしのフランス語文法力は、この本と"Collins French Grammar"で成り立っている。今となっては簡単過ぎるが、流して見ている。

フランス語学習歴も長くなったので、日本で出ているフランス語学習書は大抵見ているし、英語圏のテキスト・問題集も色々見てきたが、やはりこの本を越えるものは見たことがない。入門段階でこの本を使うのは無理だと思うが、日本語の軽い入門書や音声教材で一通り発音が正確にできるようになった後、できるだけ早くこの本に取り組むことを推奨したい。それでもハードルが高い場合は一旦"Easy French Step-by-Step"を経由する手もある。これも良書。

By far the best French workbook that I have ever seen. Once you have got an overview of French grammar by some introductory book, you should jump into this book as soon as possible.

2012年5月15日火曜日

David A. Patterson, John L. Hennessy "Computer Organization and Design, Fourth Edition: The Hardware/Software Interface (The Morgan Kaufmann Series in Computer Architecture and Design)"

本屋で見かけて懐かしくなった。ヘネシー&パターソン、いわゆるヘネパタだが、わたしが勉強したのは原書第二版だったかなあ。ソフト屋さんにとって、これとタネンバウム先生のMINIX本その他は、基本書だった。MINIXはともかく、ヘネパタは今でも基本書であろう。と言っても、近頃のプログラマはこの本を読んだことがないどころか、「難しくて読めない」とか言う始末で、それでもプログラマを名乗れるほどプログラミングが簡単になったというか抽象化されたというか仮想化されたというようなことだろう。コンピュータの世界は階層化されていて、上層はそれはそれで大変だが、プログラムを書いていて、「このプログラムがどうなって実際の演算回路が動くのか」というのは、普通は知りたくなると思うのだ。とすると、コンパイラは比較的閉じた理論空間になっており、その前にアセンブリを知っていないと近寄れず、そうするとこれが基本書になる。もちろん、まだ下層もあるが、完全に金物の世界になる。それはそれで面白い世界だが、タイトルにある通り、ソフトウェアとハードウェアの境目が、この本のターゲットだ。ソフト屋さんが知っておくべき最下層と言えよう。

Famous classical textbooks. Must-read for all the software programmers.

2012年5月5日土曜日

Linda Greenhouse "The U.S. Supreme Court: A Very Short Introduction"

アメリカ連邦最高裁判所の概説。ただ、法学部的な意味での入門書ではなく、歴史とか、司法府と行政府・立法府とのせめぎ合いとか、最高裁裁判官の指名問題とか、世論との関係とか、基本的には政治的な面の解説だ。従って、そもそもアメリカの裁判制度とか、アメリカ法の体系とかがどうなっているのか知らない人は、多少勉強してから読んだほうが良い。日本では、こういうことはほとんど問題にならないので、面食らうかもしれない。

アメリカは行政府でも猟官制だし、司法府でも、裁判官の任命に当っては、下級裁判所でも一々共和党派か民主党派かで問題になる。結局、日本では、裁判官は中立な立場で法を解釈するという建前が、割と額面通り信用されているところがあり、本当はウソなんだろうと思うが、かといって、このアメリカモデルもどんなもんなんだろうか。たとえば、「妊娠中絶の選択は女性が単独で決定できる」というのが憲法違反かどうかというのは、少なくともアメリカでは明白に政治問題で、裁判官を民主党が指名するか共和党が指名するかは大問題になる。日本ではそれほどでなくても、それまでのそいつの判決記録を辿れば傾向は見えるはずだし、本当は調べるべきなんだろう。こんなのは純粋な法解釈というより、世間の空気を読むとか、個人の信念とかの問題のほうが大きい。

というような話が多く、最高裁がどのように粛々と業務を行っているのかという説明は少ない。生々しい現実ではあるが、法学部生のように現実を無視して黙々とアメリカの法体系やら司法制度を学びたいということなら、この本は違う。むしろ、ジャーナリスティックな本だ。

Not recommended for those who want to study the American legal systems seriously, in other words, irrespective of the reality. This book is rather realistic and journalistic. In japan, people rarely talk about this sort of issues, because we believe naively that justices interpret and apply laws neutrally. I suspect that in Japan justices tend to be influenced by general public opinions more than in the U.S.... This book is very illuminating for us.