2019年6月21日金曜日

"Critical Theory: A Very Short Introduction" [批判理論:非常に短い入門]

目次:1.フランクフルト学派 2.方法の問題 3.批判理論とモダニズム 4.疎外と物象化 5.啓蒙された幻想 6.ユートピア実験室 7.幸福の意識 8.偉大な拒否 9.諦めから刷新へ 10.未完の仕事:連帯と抵抗とグローバル社会

入門と言いながらこれも素人にはお勧めしかねる本だ。評判はものすごく良いようだが…。人名で言えば、アドルノ・ホルクハイマー・フロム・マルクーゼ・ベンヤミン・ルカーチ・グラムシ・マンハイム・ハバマスとかまあ、たいてい日本語の訳書があるし、この界隈を一応読んでいないと、この本だけ読んでもしんどいかと思う。というのも、この本は一人一人の思想を解説するというよりは、目次にあるようなテーマについてフランクフルト学派の態度を著者が解釈していくというような体裁なので、まったくとっかかりのない人が読むのは少し無理がある。あるいは、続いて個別の思想家に取り組んでいくという前提でこれから読み始める手はありえる…。

というわけで、主たる読者は軟弱化する以前のヘヴィな社会学を学ぶ志の高い社会学か政治学の学生というところだと思われる。その前提で書くが、この界隈の最大の問題意識は、フランス革命の経緯からも例示されている通りに、啓蒙が反動、最悪ファシズムをもたらすという事態をどう考えて対抗するかというところだと思われる。思想に思想で対抗するのは無理なような気もするし、何ならフランクフルト学派みたいな考え方は詰んでいるような気もするが、油断をしていると、この平和な日本でさえファシズムからそんなに遠くないような気もする。さしあたり英米基準で作られた日本国憲法の価値観というものがあり、それにどんな問題があるにしても、江戸時代の日本の政治体制のほうが良かったとは思えない。しかし、これがファシズムの出現を阻止するのに十分かどうかは明らかではない。少なくとも格差社会の激化を阻止するには足りないようだ。

というようなことを真剣に考える人にはフランクフルト学派を避けて通れるはずもない。我々が常識と思っている考え方のかなりの部分が血塗られた歴史の後に勝ち取られていることが再認識される。結局、こういうことについて中立な立場などは存在しない。ただ、思想で解決する問題とも思えない…。

A great overview of the Frankfurt school, though not for introduction.

Oxford Univ Pr (2017/10/20)
英語
ISBN-13: 978-0190692674

2019年6月20日木曜日

Pink Dandelion "The Quakers: A Very Short Introduction" [クエーカー:非常に短い入門]

目次:1.クエーカーは誰か 2.クエーカー教の歴史 3.礼拝 4.信仰 5.神学と言語 6.教会一致運動 7.クエーカー教の未来

著者の名前に引っかかるが、まあいい。この本はクエーカー教徒自身にも教科書として使われているようなことらしい。だから良いとは言えないが、別に歴史上、クエーカー教徒は平和主義者で迫害されることはあっても問題を起こした気がしない。だいたい文学作品などでクエーカー教徒という言葉が出てきても「ふうん」と言って無視しているが、こういう本で改めて確認すると、特に風変わりな教義のような気もしない。個人的には否定神学か不可知論みたいなのは面白かったが、キリスト教の一つの究極形のような気もする。

It seems that the quakers themselves cherish this book.

Oxford Univ Pr (2008/3/20)
英語
ISBN-13: 978-0199206797

2019年6月19日水曜日

John Robertson "The Enlightenment: A Very Short Introduction" [啓蒙:非常に短い入門]

目次:1.啓蒙 2.宗教との関り 3.人間の境遇の改善 4.公衆を啓蒙すること 5.哲学と歴史の中の啓蒙

VSIにしては内容が重くて素人にはお勧めしかねるというような…。ある程度歴史と哲学の基礎知識がないと読めない。我々が歴史で習う啓蒙の時代というのは、要するに今の時代に通るような自然法の理論とか自然科学とかが確立されて、タイムスリップしたとしても、まあ何とか一応知的な話が通じるようになった時代みたいなことだろうと思う。その後世界に起こったことは、つまずきながらもカントとかハバマスとかが考えるような公共圏みたいな公正というか透明というかそういう単一の世界に進み続けているというような…。こういう話を脱構築するのは簡単だが、良くも悪くも何となく目指すべき社会の方向は共有されているのだろう。例えばの話、国家が特定の宗教を強要することを良いとは我々は思わないし、この前提を共有しない人間とは話にならないような気がしている。しかし、そういう話と関係のない、例えば江戸時代の日本が同時代の西欧に比べて野蛮だった気もしないし、どうもこの辺りがわたしの中で整理がついていない。こういう本を読むと、さらに何のことやらわからなくなる。現実的にはハバマスが考える線で生きていくしかないと思うが…。

At least, this book does not serve as an "introduction".

Oxford Univ Pr (2015/12/1)
英語
ISBN-13: 978-0199591787

2019年6月18日火曜日

Ian Stewart "Infinity: A Very Short Introduction" [無限:非常に短い入門]

目次:1.パズルと証明と逆説 2.無限との遭遇 3.無限の歴史的な見方 4.無限の裏面 5.幾何学的無限 6.物理的無限

こういうpop-mathというかpop-scienceみたいな本はもう読まなくなったが、たまに読むとそれなりに発見もあり…。たとえば超準解析がε-δよりマシだといのなら、一つ勉強するか…とか。この著者はこの類の数学書では大御所で、興味があるムキには安心してお勧めできる。言っていること自体は、まあ数学志向の高校生ならついていけると思う。別に紙と鉛筆が必要な本ではない。

A nice work of a famous author.

Oxford Univ Pr (2017/7/23)
英語
ISBN-13: 978-0198755234

Katarzyna de Lazari-Radek, Peter Singer "Utilitarianism: A Very Short Introduction" [功利主義:非常に短い入門]

目次:1.起源 2.正当化 3.何を最大化するべきなのか 4.異論 5.規則 6.現場功利主義者

最初に少し歴史が語られるが、基本的には有名なトロリー問題のあたりから始まって倫理学の問題についてのガチの議論が本体だ。正直なところわたしは普遍的な道徳判断基準の導出というものが可能とも有益とも信じていないし、この著者たちの主張にもあまり同意できないところがあるが、この類のパズルに興味がある人は面白く読めるだろう。結局、功利主義は、政治判断を正当化するために最も持ち出されることの多い原理かもしれない。一つだけ引用すると、「食用動物を殺すのはその動物に損害を与えない、なぜなら殺す前提でなければ、そもそもその動物は生まれなかったから」という主張は衝撃的だった。こういうことになるから倫理学というのは油断できない。

Utilitarianism is one of the strongest political decision criteria all over the world. We cannot ignore it, regardless our preferences....

Oxford Univ Pr (2017/9/27)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198728795

Susan Llewelyn, Katie Aafjes-van Doorn "Clinical Psychology: A Very Short Introduction" [臨床心理学:非常に短い入門]

目次:1.現場の臨床心理学者 2.揺り籠から墓場まで 3.商売道具 4.臨床心理化が使う枠組み 5.反省する科学者-実践家としてのわたしたちのアイデンティティを作ること 6.現在の合意と議論 7.臨床心理学の対象の拡張

簡単に言うと心理カウンセラー業の職業案内というところ。その手の学科に入った/入ろうとしている大学生などに良いのではなかろうか。個人的にはこの類の職業の人に感心したことがほとんどないが、必要な職業ではあるのだろう。そしてどんどん業務も拡張されているようなので、そのうち何もかもカウンセラーに相談する世の中になるかもしれない。ここでもマインドフルネスが取り上げられていて、もう完全にこの業界の定番になっているようだ。

A nice concise introduction to the field.

Oxford Univ Pr (2017/6/14)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198753896