2018年4月26日木曜日

Pascal-Henri Keller "La dépression" [鬱病]

目次:1.メランコリーから鬱病へ 2.鬱病を説明する事 3.鬱病と治療の希望 4.精神分析モデル 5.鬱病の未来と鬱病者の未来

鬱病の歴史から原因から治療法から市場規模までに至る概説。よくある類の本とは言えるが、フランスだからなのか、文学的というか哲学的な雰囲気が強い。精神分析を重視するのはフランスだからだろう。他方、近頃流行りのマインドフルネスについては僅かしか触れられていない。わたしとしては、この件については昔から色々考えていて、何にしろ身体的原因が第一に違いなく、精神分析含め、あまり文学的に解釈しても仕方がないと思っている。脳内ホルモンの大半は小腸でも作られるし、食べ物、特にアミノ酸を調整するのがお勧めだ。例えば、トリプトファンとかフェニルアラニンは明確に気分が変わる。前者はわたしはアレルギーがあるのでダメだし、人によって合う合わないがあると思うけど。

Je vous recommende des amino-acides.

Presses Universitaires de France (20 janvier 2016)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2130635062

2018年4月25日水曜日

Michael Beaney "Analytic Philosophy: A Very Short Introduction" [分析哲学:非常に短い入門]

目次:1.いくつの物があるか? 2.存在しない物をどのようにわたしたちは語れるか? 3.あなたはわたしの言っている意味が分かるか? 4.わたしたちが言ったり考えたりできることに限界はあるか? 5.どのようにわたしたちはもっと明晰に考えられるか? 6.それで分析哲学とは何か?

分析哲学の導入書。各章ごとに問題を出して考えながら、正典的な哲学者を紹介し、最後に分析哲学全体の歴史・外観を提示する。薄い本だが、良くできていると思う。これから哲学をやろうというムキには安心してお勧めできるところだ。念のために確認しておくが、哲学の世界は大陸哲学と分析哲学に二分されており(この二分法自体、本書で批判されているが)、この本は分析哲学のほうを紹介している。

わたしとしては散々やったことなので、今更入門書でもないが、時折こういうのを見たくなるというのは、微細な議論にうんざりしているからで、哲学なんて、やればやるほど微細な所に入っていく。少し気が利いた人間なら早晩哲学の限界に絶望するはずだと思うが、哲学は無限に絶望を先送りできるのも事実だ。そして、この本の著者の主張に反し、少なくとも日本では、哲学者というのは哲学の文献学者のことで、本気で哲学をしている人は少ないし、学生の分際でそんなことをしようものなら、まず先人の業績を学べと正論で潰されることになっている。一体、車輪の再発明はそれほど無価値なのだろうか…。

それはそれとして、この本に限ったことではないが、分析哲学の用語はかなり情報科学に流用されていて、その件について語る哲学者を見かけない。どこかにいるだろうから探し出したいと思っている。もう一つ、少し前にビジネス書で流行った"critical thinking"というのは、分析哲学由来らしい。少し気になるところだ。

A neat introduction to analytic philosophy.

Oxford Univ Pr (2018/1/23)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198778028

2018年4月24日火曜日

Jean-Claude Ellena "Le parfum" [香水]

目次:1.現代香水業の誕生 2.鼻と香り 3.材料と原料 4.職業訓練 5.職業 6.香水 7.時 8.マーケティング 9.市場展開 10.世界市場の役者 11.香水の保護

香水・調香師・香水業界の概説+著者個人の職業生活。ほぼ目次通りの全般的な解説だ。著者は業界では有名な調香師。作品にはわたしが好きなブルガリの緑茶とかエルメスのナイルの庭などがある。…と言われてピンとこないようだと、この本は多分厳しい。この本に出てくる香水や化学物質は、当然文字だけで香がついているわけでない。普段から香水を使わない人がこの本を読んでも意味が分からない部分が多すぎるだろう。実際に勉強するには、香見本が必要で、そういうセミナーみたいなのも日本には多いようだ。わたしは実は色んな香水を常用しているので、この本は楽しく読めたが、こんなのは例外だろう。著者の個人的な話が多すぎる気もするが、調香師なんて世界にそんなにいるわけでもないし、そもそもどうやったらなれるのかも明らかではない…。香水は意外に金のかからない趣味だし、始めるのにハードルもないが、どんなアンケートでも「異性につけて欲しい香水は何ですか」の答の不動の一位は「何もつけない」が不動の一位であるという現実がある。楽しい世界なのだが…。

J'aime bien le thè vert d'Ellena. Comment puis-je devenir parfumeur?

PUF (1 novembre 2017)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2130798552

2018年4月13日金曜日

Onfray Michel, LE ROY "Nietzsche : Se créer liberté" [ニーチェ:自由の創造]

ニーチェの伝記マンガ。翻訳も出ていて評判も良いようだが、雰囲気重視のBDなので、これで伝記になっているかどうかは微妙だ。フランス人はニーチェが好きだし、わたしも相当読んで、おかげでムダに大仰な言い方や、ムダに人を偽善者扱いする論法に感染してしまってこの有様だが、伝記はほとんど知らなかった。このBDの語るニーチェの生涯については、かなり陰鬱で、まあそんなところだろうというような感想だ。

Je ne sais pas de grande chose sur la vie de Nietzshe mais je trouve que ce BD est assez convaincant.

Le Lombard (19 mars 2010)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2803626502

2018年4月3日火曜日

Thomas Pink "Free Will: A Very Short Introduction" [自由意志:非常に短い入門]

目次:1.自由意志の問題 2.自由意志としての自由 3.理性 4.自然 5.自由なき道徳? 6.自由意志論者の自由についての懐疑 7.自己決定と意志 8.自由と自然の中のその位置

わたしはこの件について特に深い関心もなく、自由意志とは、人間関係を調整するための法的虚構に過ぎないと思っており、しかもそれ以外のマトモな使用法がないと思っているが、著者の立場は遥かに常識的というか、常識に沿うように概念を調整している感じ。割と伝統的であり、単純明快な議論を期待しているムキにはお勧めできない。単純な極論、例えば「人間の意志は脳の物理的動作によって必然的にか偶然的にか決定されている」というような言い分に、著者がどう答えるのかも明らかでない。多分「そのように我々は日常的に理解していない」となるのだろうか。著者の関心は自由意志に関する日常的な理解の防衛にあるようだ。無論、常識は価値があるから常識なのであり、そうして人間は進化してきたのだし、法学者には都合がいいだろうが、常識と別に真相があるかも知れないと考える人には物足りないだろう。関心の向きが違うと言えばそれまでだが、総じてぼんやりしている印象があるが、関心の持ち方が著者と合う人もいるかもしれない。

In my opinion, this book failed to repel extremists.

Oxford Univ Pr (2004/8/5)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0192853585