2015年12月14日月曜日

Ray Bradbury "Fahrenheit 451" [華氏451度]

わたしは特にSFファンではないが、ブラッドベリだけは子供の頃に翻訳であらかた読んでいて、これだけがなぜか残っていた。今なら原文で読める。

初出版が1953年という時代背景は把握しておく必要がある。ラジオの黄金時代からテレビの黄金時代への移行期で、常にソ連との核戦争が念頭にあった時代だ。ネタバレでない程度に、話としては、本が禁止された世界でみんなテレビ漬けのアホみたいな愚民になってしまっている。戦争の危険が迫る中、主人公は人々が隠し持っている本を燃やす仕事(fireman)をしているが、ある時からこの世界に疑問を抱くようになり…。

というわけで、時代に対する風刺がきっかけになってはいるので、読者の関心もそちらに行きがちで、作者自身も色々解説しているようだ。一般的には有害図書指定などの制度批判みたいに取られがちだが、作者的にはマスメディアによる愚民化のほうが関心だということらしい。確かに主人公の上司が語る禁書の歴史を普通に判断すれば、この世界の禁書の第一の目的は思想統制というより愚民化だ。同じようなことのような気もするが、この世界では思想を持つこと自体が否定の対象で、特定の思想が支持されているわけではない。特定の本が燃やされるのではなく、すべての本が燃やされる。わたしも有害図書を指定したがる連中には嫌悪感しか持っていないし、作者も同様だと思うが、この話のテーマは、そことは少し違うんじゃないか。

この辺りの話はさておき、印象的なシーンも多いし、やはりブラッドベリは天才だと思う。構想もさることながら、これだけの流麗な文章を操れる人は少ない。訳は見ていないけど、新訳が出たりしているので大丈夫だろう。

A beautiful novel. All books are banned, not some books, which means to me that the theme is obscurantism, not censorship.

HarperVoyager (2013/3/28)
ISBN-13: 978-0007491568

2015年12月11日金曜日

John Haigh "Probability: A Very Short Introduction" [確率:非常に短い入門]

目次:1基礎/2確率の仕組み/3小史/4偶然性の実験/5確率を理解する/6人々がプレイするゲーム/7科学・医学・ORへの応用/8他の応用/9奇妙な現象と逆説

VSIの中で、この手の「タイトルが一般的過ぎる」本の一つと言えそうだ。フォーマットとして、基本概念の説明・学史・応用が抑えられている。そこそこ評判は悪くないので、完全な素人、日本で言えば高校生くらいなら面白いかもしれない。もともと確率は逆説の宝庫で、さして知識がなくても面白い問題集みたいな本は日本語でもいくらでもある。実際の計算の技術についてはほとんど触れられない。特に数学については、こういうpop mathみたいな本を読むより、まともな本を読んで挫折するほうが良いと言うのがわたしの持論だが、読みやすい本ではあるようだ。

ただ、この本、最初のうちに確率の哲学的論争をある程度解説しているのはなかなか良く、この方面の入門には良いかもしれない。詳しくは"Philosophical Introduction To Probability"が素晴らしい本だ。

A light reading on probability. Not very technical.

Oxford Univ Pr (2012/5/4)
英語
ISBN-13: 978-0199588480

2015年12月6日日曜日

Randall Munroe "Thing Explainer: Complicated Stuff in Simple Words" [物の説明書:簡単な言葉による複雑な物事]

ウェブマンガ"xkcd"の作者にしてベストセラー"What If?"の著者による一種の科学図鑑。わたしとしては、かなり面白いと思うが、おそらく翻訳されないだろう。

基本的には色々な機械や科学的な知識を、筆者がイラストと細かく書き込まれた文章で解説しているのだが、この文章がただの文章ではない。すべての文章が「英語で最もよく使われる1000語」だけを使って書かれている。従って、機械用語も科学用語もほとんど出てこない。それでどうやって説明するかというところにこの本の面白さがある。たとえば、"Japan"は1000語の中に入っていないので"a country named after the rising sun"などと書かれる。すべてがこの調子だから非常に面倒くさい。一応目次の最初のほうだけ書き写すと雰囲気が分かるかもしれない。

Things in this book by page
Page before the book starts/ Shared space house/ Tiny bags of water you're made of/ Heavy metal power building / Red world space car/ Bags of stuff inside you/ Boxes that make clothes smell better/...

イラストの周囲にはびっしりと解説が書き込まれている。本来一語で済むところを長々書く必要があるし、内容も実はそこそこ濃い。結果、ぱっと見には、何かの病気の人が書いたようにも見える。実際、この本を書き上げるにはかなり粘着質というか異常な執念が必要な気もする…。読む側としては、ある程度説明対象について知っていて、それがどう説明されるかを楽しむということになる。ユーモアも忘れていないし、とても面白い。

ただ、読む人を選ぶような気はする。特に、翻訳は不可能というか不要かもしれない。少なくとも英単語としては千語で納まっているのだから、その限りでは日本の中学生でも読めるわけだ。だから、中学生または高校生の英語の勉強には優れたテキストかもしれない。特に理系寄りの子どもは喜んで読んでくれるような気もするが、どんなものか…。もちろんxkcdの好きな人は、枕元にでも置いておくと当分退屈しない。

Hysterical.

Houghton Mifflin Harcourt (2015/11/24)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0544668256