2012年4月6日金曜日

Richard H. Thaler, Cass R. Sunstein "Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness"

簡単に言うと、近頃は何でも選択肢が多いのが良いことだという風になっていて、何をどう設定すればいいのかよく分からない。結果的に選択肢がない場合より酷いことになったりする。と言って、わたしが真っ先に思いつくのは「サブウェイ」だが、昔はスタバもそうだった。スタバは早期にデフォルトのコーヒーを気軽に飲めるようになったので、ここまで繁栄しているが、サブウェイもさっさと見習うべきなのだ。

いや、そんなことはこの本には書いていないが、要は、「選択肢を増やして放置するのではなく、適切なデフォルト値を提供せよ」と主張する本である。この主張はサブウェイにでも家電にでも携帯電話の料金体系にでも、何にでも当てはまりそうだが、ここでは特に公的機関の提供するサービスについて考察されている。従って、この場合の「適切なデフォルト値」とは、「最も国民の利益になりそうな選択肢」を意味する。もちろん、敢えてデフォルト値と違った選択をする人にはその権利は保証するべきだが、どんなデフォルト値を設定しても、たいていの人はデフォルトに従ってしまうのであり、デフォルト値の選択には慎重な検討が必要だ。多くの場合、デフォルト値を設定しないことはできないので、この含意は大きい。

事例が多いのが勉強になる。それはさておき、日本語訳が割と酷い。そもそもタイトルが酷い。「実践行動経済学」とあるが、behavioral economicsという単語自体、ほとんど本文に出ていなかった気がする。確かに、社会保険や貯蓄の例が多いが、特に経済に関する話に限られていない。「健康、富、幸福への聡明な選択」とあるが、まるで自己啓発書みたいだ。「健康、富、幸福に関する選択を改良する」というのが原文に忠実だろう。原題"Nudge"は適切な日本語がないが、人をごく軽く突いて勧めるような感じ。つまり、デフォルト値のことである。

まあ、本格的に公共政策を学んでいる人にとっては、こういうことは枝葉末節に思われるのかもしれないが、現実に大影響を与えるわけだし、どんなに優れた制度でも、デフォルト値の設定を誤ると成果を上げない。単に学問的に研究している人には関係ないかも知れないが、特に現場にいる人には、必読書と言える。


0 件のコメント:

コメントを投稿