2016年12月15日木曜日

Arthur Conan Doyle "A Study in Scarlet" [緋色の研究]

有名なシャーロック・ホームズとワトソンの最初の登場作品。今更紹介するような小説でもないので以下個人的感想。

とにかく退屈する部分がなかった。キャラが魅力的というだけでなく、やっぱりストーリー・テラーなんだなと思う。中盤にユタ州の話がかなりあり、モルモン教への偏見に満ちているという評判だが、それはそれとして、ここも読ませる。わたしですら、そこそこ感情的に読んだ。復讐というテーマもわたしにハマる。終わり方は犯人が救われ過ぎて気に入らないが、まあ仕方がないかと思う。英語も特に読みにくい気はしない。

内容的にホームズを初めて読むという人にお勧めかどうかは分からないが、まずこれが第一作なのだから、順に読んでいく手もあるだろう。わたしとしても、これから出版年順に少しずつ読んで行こうと思う。

This novel is really exciting and contains no boring part, which is remarkable for such an aged classic novel. This is the first novel of Sherlock Holmes series and I will continue reading all the followings.

Wisehouse Classics (2016/5/9)
言語: 英語
ISBN-13: 978-9176372432

2016年12月13日火曜日

Sarah Cooper "100 Tricks to Appear Smart In Meetings" [会議で切れ者と思われるための100の方法]

「会議でスマートに見せる100の方法」ということで翻訳も出ているそうで、実際その通りの内容だ。スマートという言葉は誤解を招くかもしれないが、「切れ者」くらいの感じ。

著者は笑かそうとして書いているんだと思うが、わたしが見た感じでは、会議における典型的なアメリカ人の振る舞いのコレクションというところで、そこまで笑えるわけではない。基本的にアメリカ人は芝居がかっているし、これくらい普通としか…。いわゆる「意識髙い系」の新人などが読めば、普通に役立つ感じがある。純粋にお笑いとして考えると、「仕事をサボろう」というよりは「上手くやって出世しよう」という軸で書かれているから、わたし的には気持ちが離れる。

While I understand the author trying to be funny, which she is, for me it is a collection of typical and stereotypical Americans' behaviors in meetings. Many Japanese hope to act like Americans, as elsewhere in the world, as we see in the theatrical TED presentations, so this book makes a great coursebook for them. I am serious.

Square Peg (2016/10/6)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1910931189

Eleanor Nesbitt "Sikhism: A Very Short Introduction" [シク教:非常に短い入門]

目次:1.導入 2.ナナク師と最初の継承者たち 3.グラント・サヒブ師 4.ターバンとカルサと行動規範 5.現代シク教の形成 6.インドの外のシク教 7.カースト・ジェンダー・他の信仰に対する態度 8.シク教と第三千年紀

知らない人もいるかもしれないが、シク教は主としてインドのパンジャブ地方の宗教で、信者数は2000万人超というから、なかなかの勢力である。インドの多数派はヒンズー教だが、我々がインド人をイメージする時に頭にターバンを巻いているのがシク教徒ということらしい。西洋的にはイスラム教徒と見分けがつかずに無意味な差別が横行することもあるらしい。インドにはもちろん、ムスリムもいるが、日本人としては、あまり間違えないところである。

実際、本書を読んでいると、イスラム教やキリスト教よりは随分寛大な印象を受ける。まず、他人を改宗させなければならないという発想がない。宗教はそれぞれでいいんじゃないのくらいの話で、特に他宗教を差別する思想がない。もちろん、歴史的にはシク教徒に対する迫害もあり、それに対応して尖鋭化したり、母体であるヒンズー教との差異を強調しようとしたりすることもあったようだが、その割には寛大さを維持し続けている。わりと日本人にはなじみやすい考え方と思われる。そして、インド人がたいていそうであるように、教義上はカーストを否定していながら、実生活では未だにカースト意識が抜けない。困ったものだ。日本語ではあまりシク教の分かりやすい入門書もないようで、この本くらいが一番だろう。

While Japanese people seldom confuse Sikhs with Muslims, this book still provides great insights about this religion or lifestyle. I guess Westerners with little knowledge about Sikhism will gain great benefit from learning Sikhism.

Oxford Univ Pr 2nd ed. (2016/07)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198745570

2016年12月2日金曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid # 11: Double Down" [軟弱な子供の日記11: 倍賭け]

当たり外れなく面白いこのシリーズも11巻に突入し、翻訳「グレッグのダメ日記」も続いているようで、人気があるんだろう。毎度繰り返すけど、原文で読む事を強く推奨する。翻訳の質とかは見ていないので知らないけど、英語は易しいので、英語で読むに越したことはない。マンガみたいなものだし。

毎度予約で買って直ぐに一日か二日で読んでしまっている。わたしの感想としては、「自分が良い両親の元に生まれたとしてもこんなもんだったかな」というところだ。主人公の家庭は、アメリカで富裕層とまでは言わないまでも、上流と言える。まあ、そうでなければ軟弱な子供が明るく生きていくのは難しい。現代日本でも、広い自室に自分のテレビやゲームやPCが装備されている子供は、庶民とは言えないだろう。・・・などと下流の軟弱な子供だったわたしは考えるが、児童文学などというような立派なものでもなく、マンガと思ったほうがいい。わたしは「多読」とかいう英語トレーニングを蔑んでいるが、多読に向いているのかもしれない。

It was a nice reading as usual. One of my favorite series.

Harry N. Abrams (2016/11/1)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1419723445

2016年11月22日火曜日

Matthew Reynolds "Translation: A Very Short Introduction" [翻訳:非常に短い入門]

1. 言語を渡り歩く事 2.定義 3.言葉と文脈と目的 4.形式と自己同一性と解釈 5.権力と宗教と選択 6.世界の言葉 7.翻訳文学

話は、ネイティブスピーカーのいない謎の中間言語、"kanbun-kundoku"漢文訓読から始まる。そう言われてみれば、我々はもっとこの奇妙な言語についてもっと真剣に考えるべきだった。本の主題は、翻訳者が翻訳をする時に感じている様々な方向からの制約、そして、翻訳が逆に言語や社会に与える影響。機械翻訳にも触れられるが、いずれにしても、技術的な話には深入りせずに、あくまで言語・社会と翻訳との関わりが主題だ。

個人的な事情として、わたし自身、翻訳者なので、色々「翻訳者あるある」な話や考えさせられる話があった。翻訳者や翻訳を目指す人は読んで損はない。mono-lingualな人がこの本を読んでも冴えないかもしれないが、それにしても、政治などが翻訳で決定的な影響を受けるようなことは良くある話で、ごく最近でも酷い誤訳が新聞やテレビをムダに騒がせていたりするのだから、誰でも翻訳についてこの程度の知識はあって良い。もっとも、mono-lingualがこのブログを読んでいるとも思えんが…。

さらに全く個人的な事情だが、翻訳業界では、「いかにも翻訳」な文体が軽蔑され、「日本語らしい」文体が良しとされているが、何かどうでもいい気がしてきた。昔なら、わたしが好きな宮澤賢治は翻訳でもないのに翻訳調の詩を書いて完全に成り立っている。最近なら、わたしが嫌いな村上春樹も翻訳調だ。そして何より、日本語は漢文訓読によって回復不能な影響を蒙っており、英文翻訳調を漢文訓読調に直しても何にもなっていない気もしてきた。まあ、言語感覚が繊細な人なら、また違う見解もあるのかもしれない。

It was a very good reading. I am a translator myself and I guess that my English a bit odd for native English speakers. Also, my Japanese is too affected by foreign languages and of course by kanbun-kundoku. That sounds awkward but being a walking-Babel is a source of a lot of fun.

Oxford Univ Pr (2016/09)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198712114

2016年11月17日木曜日

Scott Adams "Dilbert 2017 Day-to-Day Calendar" [ディルバート日めくりカレンダー2017]

そろそろ今年もそんな時期で、来年も定番のディルバート日めくりカレンダーを使う予定。Dilbertを知らない人はdilbert.comを見れば直ぐにテイストが分かるし、何なら毎日最新のマンガがWebに載るが、やはりマンガは紙で読みたいところもある。下に箱裏だけ訳しておく。

次にあなた自身の髪の尖ったボス(Pointy-Haired Boss:主人公のボス)が、何か予測できない問題がないか聞いてきたら、ディルバート2017カレンダーを素早く見て、上層部の素晴らしい経営能力によってすべてがコントロールされていると堂々と保証しよう。もちろん、こんなことをしても、こんな馬鹿げた質問には何の役にも立たないが、少なくともあなたは立派に見えるし、ディルバートのマンガを見るついでができて、もっと悪い事態も有り得たことを確認できるだろう。この日めくりカレンダーは全ての頁にディルバートのマンガが載っていて、一年間あなたの責任逃れを支援し、自分の仕事はマシだと思えます。

I am a big fan of Dilbert since many years. My co-workers and bosses do not read English readily so these cartoons are my secret pleasure which everybody always see but do not understand. Very comforting.

Andrews McMeel Publishing (2016/5/24)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1449476656

2016年10月31日月曜日

Chris Cooper "Blood: A Very Short Introduction" [血:非常に短い入門]

目次:1.血の歴史 2.血とは何か 3.病との戦い 4.ヘモグロビン 5.血圧と血流 6.輸血 7.エピローグ:血の未来

血に関する医学的・生理学的よもやま解説。VSIの常で研究史もふんだんに織り込まれている。そこそこ難しい内容のような気もするが、理系の大学生なら読めるだろう。わたしはというと、特に血について考えることもなく、自分の血液型も最近知ったくらいだ。ちなみに自分の血液型を普通に知っているのは東アジアの一部のみらしい。血圧も低いし、健康診断で問題になったこともないが、ずっと退屈せずに楽しく読めた。個人的には、最近「はたらく細胞」を読んでいるけど、さらに詳しく知りたいムキにもお勧めだ。

It was a nice reading. By the way, I hope "Hataraku Saibou (cells on the job)" will be translated into English.

Oxford Univ Pr (2016/10)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199581450

2016年10月5日水曜日

Marc Levinson "The Box: How the Shipping Container Made the World Smaller and the World Economy Bigger" [箱:コンテナはどのように世界を小さくして世界経済を大きくしたか]

目次:1.箱が作った世界 2.ドックの渋滞 3.トラック運転手 4.システム 5.ニューヨーク港をめぐる戦い 6.組合の解体 7.標準設定 8.離陸 9.ベトナム 10.嵐の中の港 11.好況と不況 12.巨大化と複合化 13. 荷主の逆襲 14.ジャスト・イン・タイム 15.付加価値

全然知らなかったが、日本語訳「コンテナ物語」も出てそこそこ売れていたらしい。わたしは貿易も多少関与したことがあり、貿易実務検定とかも取っていたこともあるし、運輸業界の調査をしていたこともあるけど、直接的には規格に関係するところは実務的にも参考になるかと思って読んでみた。

この本の中心的な主題は、コンテナの発明後のコンテナの規格化が各方面にどのような影響を及ぼしたかだ。直接的な規格争いもあるが、わたしが良く知っているようなIT業界のソフトウェアの規格争いとはスケールが違う。わたしがなじんでいるような業界では、規格が対立してればとりあえず両対応にしておくかで済んだりするが、コンテナはそうはいかない。まず関係者が海運のほか港湾・トラック・鉄道・飛行機・荷主等々多いし、船や港湾などの固定設備にかかる金額が全然違うし、実際、多くの都市が規格のせいで興亡している。荷役が省力化されて労働組合が戦うところも詳しく描写されていてうんざりするが、対応を間違えて衰退する港もあるし、一度失敗してハブ港になれないと、港湾設備の建設には巨費がかかる事から、ほとんど挽回できない。

取材はしっはりしているし、読みやすく物語形式で書かれているから、特に海運・港湾・貿易関係の人は、一度読んでおくと面白いと思う。別にこれを読んで仕事が捗るわけではないが、この業界の今昔も振り返れて面白い。

A great storytelling based on a great coverage of information including interviews to elderly people of this industry of transportation.

Princeton Univ Pr (2016/4/5)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0691170817

2016年10月1日土曜日

Stella Z. Theodoulou, Ravi K. Roy "Public Administration: A Very Short Introduction" [行政:非常に短い入門]

目次:1.現状の外観 2.ウェストファリアからフィラデルフィアへの旅 3.世界的な進歩主義的改革 4.現代の福祉国家の勃興 5.世界に広まる新公共経営 6.新しい行政の時代 7.グローバリゼーションとネットワーク・ガバナンスの勃興 8.行政の未来

福祉国家の勃興からケインズ経済学の繁栄、さらに新自由主義(New Public Management:NPM)の逆襲からネットワーク・ガバナンスへの思想の変遷史と未来の展望を描く。冒頭から「なんでも民営化したらええんとちゃうぞ」みたいな結構現状批判みたいなことから始まっていて、その方向で期待したが、意外に淡々と話は進み、ちょくちょく著者の意見は出ているが、終着点としては流行りのネットワーク・ガバナンスみたいなところ。

予想していたより技術的・具体的な話には入らず、基本的には経営思想というか風潮の変遷を追っている。「小さな政府」だの「官から民へ」だのというスローガンが蔓延していた時代はまだ記憶に新しいし、年寄りは未だに「民間だったら許されないぞ」とか役所の窓口でヤカラ飛ばしているようなことで、その意味では、日本でもこういう変遷は身近に感じられる。一般論が多いし、例が提示されても欧米の話ばかりで、日本の話はほぼない。アメリカの政府負債がこのままでは維持不能とか言っているが、この著者たちが日本のことをどう思っているのか不明だ。とは言え、非常に基礎的な話ではあるので、これから政治や公務員を目指すような人は、この程度の話は把握しておいてほしいところだ。英語も別に難しくないし、高級官僚を目指すならこの程度の英語力も必要だろうな…。

A good introduction to public administration, recommended for those who want to be bureaucrat or public servant, despite of despise of citizens.

Oxford Univ Pr (2016/10)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198724230

2016年9月29日木曜日

Michael Puett, Christine Gross-Loh "The Path: What Chinese Philosophers Can Teach Us About the Good Life" [道:中国の哲学者が良い人生についてわたしたちに教えられること]

目次:1.自己満足の時代 2.哲学の時代 3.人間関係について:孔子と「かのような」儀礼 4.決断について:孟子と気まぐれな世界 5.影響力について:老子と世界の生成 6.活力について:内業と精霊のような存在 7.自発性について:荘子と変化の世界 8.人間性について:荀子と世界に型をつけること 9.可能性の時代
これは「ハーバードの人生が変わる東洋哲学」ということで和訳も出ていて売れているようだが、賛否両論の本である。それも無理もない話だ。
まず、この本は、東洋哲学(というか中国哲学)の入門書ではない。もしかするとアメリカ人はこんな本で中国古典に入門するかもしれないが、その意味では、まともな日本人にとっては易し過ぎるというか、義務教育レベルだろう。この本はあくまで自己啓発本と思ったほうが良い。
著者によると、巷に溢れている自己啓発書は、全部元を辿るとプロテスタンティズムに起源を持つ。もちろん、アメリカにも禅だのヨガだのは輸入されているが、すべて、このプロテスタンティズムのレンズによって歪められ、場合によっては全くの反対物にされている。この本は、そういう状況を、中国哲学の古典に依拠して批判し、代替案を提示する。たとえば、多くの自己啓発書は「本当の自分を見つけろ」と言っているが、本当の自分はこんなものだと自分で自分にレッテルを貼って自分を制限するのは得策ではない云々。というように、各章ごとに、自己啓発書にありがちな一つの固定観念を、中国古典の一つを援用しつつ打破していく。
ほとんどの自己啓発書がプロテスタンティズムの延長であるという説は、わたしも全く同意見で、特に社会学をやっていた人にはヴェーバーのプロ倫を思い出すだろう。各論では自己啓発の諸観念を批判していくが、わたしとしては、それでもまだアメリカン自己啓発の臭いがキツい。というのは、この本は、自己啓発自体は決して否定していないし、結局は社会的成功を目指しているからだ。しかし、わたしの理解では孔子は確かに出世しようとしていたかもしれないが、少なくとも荘子にはそんな概念はない。その点が、この本は自己啓発書としてはそこそこ成功しているかもしれないが、東洋哲学の案内としては致命的に視野が狭い。
ただ、ある程度、自己啓発書の概念と中国哲学の概念に通じている人が読めば、「そんな解釈もあるかなあ」という程度には楽しめるところで、pop Chinese philosophiesがこんなものという勉強にはなるだろう。
I have a good command of old chinese language and have read almost all of the classics this book summarizes. What makes this book unique among other self-enlightenment books is the fact that while almost all the self-help books have their origins in the early protestantism ethics, this book is based on chinese philosophies and attacks hidden assumptions of protestantism. That said, this book is too limited in scope. I guess, for example, Zhuangzi is totally misinterpreted.

2016年9月17日土曜日

Lori Langer de Ramirez "Berlitz Spanish Vocabulary Study Cards" [ベルリッツスペイン語単語学習カード]

スペイン語の単語カード。この類のものは英語圏でもあまりないし、日本語圏では皆無に近い。需要があるような気もするけど、なぜか分からない。単語カードは自分で作るものと思われているのか、スマホなどに移行しているのか。しかし、スマホでもロクなものが見当たらないが…。わたしはというと、一通りやったものの、やっぱりわたしには単語カードによる丸暗記は向いていないと再認識したけど、わたしは少数派でもないのかもしれない。

とはいうものの、何語でもそうだが、語学力の八割は単語量だ。この類の物の通例として、何の根拠で単語を選んでいるのか全く分からないが、初級から中級スペイン語ということなら、必須の単語ばかりだし、暗記が得意な人は、非常に効率の高い勉強法だと思う。

At least, words in this set are necessary for intermediate learners.

Berlitz Multimedia(2008/1/15)
言語: 英語
ISBN-13: 978-9812680754

2016年9月14日水曜日

Gillian Clark "Late Antiquity: A Very Short Introduction" [古代末期:非常に短い入門]

目次:1.古代末期とは何で何時か? 2.帝国を運営する事 3.法と福祉 4.宗教 5.救われる為に何をするべきか? 6.蛮族 7.青銅の象:古典とキリスト教文化 8.決定的な変化?

タイトルが分かりにくいが、要するに末期というか衰退期のローマ帝国の通史・概況。あまり人を惹くタイトルの気がしないが、なかなか評判が良いようだ。日本でも一時期あったが、たまにローマ帝国ブームというのがあるらしく、特に没落するあたりは固定ファンがいるらしい。そういうことでは、この本では特にローマ帝国が批判されたりするわけではないが、必読書になるのかもしれない。

VSIの歴史関係は概して優れているが、これも読んで損のないところだ。VSIは結構世界史を網羅していて、このタイトルも間隙を埋めるように企画されたのかもしれない。領域の被っている所では、わたしとしてはByzantiumのほうが面白かったけど、この本も悪くない。歴史というものは、いろんな角度から様々な著者の本を読まないと、イメージもできてこないものだ。単純に読み物として面白い。

A good reading for many including me who are interested in the fall of Roman empire.

Oxford Univ Pr (2011/3/22)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199546206

2016年9月8日木曜日

John Marenbon "Medieval Philosophy: A Very Short Introduction" [中世哲学:非常に短い入門]

目次:1. 導入 2.初期中世哲学の地図 3.後期中世哲学の地図 4.中世哲学の領域 5.機関と文学的形態 6.普遍者(AvicennaとAbelard) 7.心と体と死 8.予知と自由(BoethiusとGersonides) 9.社会と最善の人生(Ibn TufaylとDante) 10.なぜ中世哲学か

哲学史の講義で中世が軽んじられているのは日本に限らず西洋でも同じことらしい。一つには宗教の影響が致命的に純粋哲学を傷付けていると考えられているせいで、早い話が、教会の支配する暗黒の中世を非難して自由で明るいギリシアを良しとするルネサンスの人文主義者の意見が未だに支配的なんだろう。そして、何より、通例の哲学史ではイスラムとユダヤ教が無視されがちだ。そんなわけで、結構真剣に哲学を学んでいても、中世についてはよく知らないというわたしみたいな人種には待望の一冊と言える。翻訳すれば売れるだろうし、志の高い哲学徒は翻訳されるまでもなく読んで後悔はしない。

前半は一般的な中世哲学の見取り図というところで、有名な哲学者や流派が概観される。後半は実在論vs唯名論から始まって幾つかの中世哲学の主題が解説される。いずれも現代の哲学でも論点になるところなので、分かりにくくはないだろう。それにしても、現代の分析哲学だと些末な論点に迷い込みがちなところ、この本の解説は非常に分かりやすい。昔からの議論を追跡するのが、今の論点を理解するのにかえって早道ということもある。中世哲学の入門書は、日本語でもいくつかあるみたいだけど、差し当たりVSIを一冊読んでおいて損はないと思う。

A great introduction to the subject. The obsolete Renaissance idea of the dark Middle Ages damaged by the rule of whatever religion vs the bright free ancient Greek should be now rejected.

Oxford Univ Pr (2016/04)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199663224

2016年9月7日水曜日

Nicholas P. Money "Microbiology: A Very Short Introduction" [微生物学:非常に短い入門]

目次:1.微生物の多様性 2.どのように微生物が働くか 3.微生物の遺伝学と分子微生物学 4.ウィルス 5.ヒトの健康と病気の微生物学 6.微生物の生態系と進化 7. 農業と生物工学の微生物

大学生向けの微生物学の入門書。一般向けの啓蒙書というより、微生物学原論というか、専門への入門というところだ。VSIではVirusesとかBacteriaもかなり面白かったけど、この本もそれに劣らない。それらに比べると少し専門的ではあるが、日本で言えば、高校の生物学をクリアした人なら普通に読めるのではないかと思う。

この分野が面白いのは、単純に、未だに人類に知られていない微生物が目の前の空気中にもわたしたちの体の中にも大量にいるだろうということで。未だに生物の大分類(domain)すら確定していないようなことらしく、今後どうなるかもまだ分からない。この本では微生物の代謝経路もかなり詳細に書いてあるが、世界にはまだまだ我々が想像もしないような代謝経路が存在するのだろう。わたしは特段に微生物に詳しくなる必要もないのだが、こういう解説書を読んでいると、世界観が豊かになるというか変わるというか、なんか心が安らぐ。わたしもいずれは火葬よりは微生物に分解されたいものだ。

In Japan, cremation is almost obligation. But I wish to be biodegraded by microbes.

Oxford Univ Pr (2015/02)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199681686

2016年8月29日月曜日

Shunryu Suzuki, Edward Espe Brown, Zen Center San Francisco "Not Always So: Practicing the True Spirit of Zen" [必ずしもそうではない:禅の真の精神を実践すること]

これも日本に逆輸入されているようで、一応読んでみたけど、勉強になる部分もあるけど、正直なところ何を言っているのかよく分からないところがある。

I would not recommend it.

出版社: HarperOne (2003/5/27)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0060957544

2016年8月24日水曜日

John A. Matthews, David T. Herbert "Geography: A Very Short Introduction" [地理学:非常に短い入門]

目次:1. 地理:世界がわたしたちの舞台 2. 物理的次元:わたしたちの自然環境 3. 人文的次元:場所の中の人々 4. 全体としての地理学:共通の基盤 5. どのように地理学者は働くのか 6.地理学の現在と未来

自然地理学と人文地理学という学問というか学科の概要。VSIの一つの典型で、とても分かりやすく、大学で地理学を専攻しようというような人にはちょうどいいだろう。

個人的には測量の国家資格も持っているし、高校の頃は地学と地理を選択していたし、大学レベルでも、歴史学はもとより地政学だの疫学だ気象学だの農業だのと地理が重要な分野に興味はある。ただ、だからと言って地理学一般に興味があるかというとそんなこともない。実際、大学で「地理」と名のつく単位は何個か取ったけど、やっていることは農業だったり歴史だったりで、「地理」という括りにあまり納得はしていない。状況は「統計学」ほど酷くはないかも知れないが、ともあれ、日本では統計学科はほとんど存在しないが、地理学科は存在するわけで、読んで損な本ではないくらいだった。しかし、地理ファンというのは確実に存在するので、そういう人たちが読むとまた全然違うのだろう。

A good concise overview of geography.

出版社: Oxford Univ Pr (2008/7/20)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199211289

2016年8月23日火曜日

Nigel Warburton "Free Speech: A Very Short Introduction" [言論の自由:非常に短い入門]

目次:1.言論の自由 2.思想の自由市場? 3.侮辱をする事と受ける事 4.ポルノを検閲する事 5.インターネット時代の言論の自由 結論:言論の自由の未来

ミルの自由論を基礎に言論の自由を特に問題になる領域(ヘイトスピーチやポルノ)を中心に概説していく。薄いし、大学生の入門用にちょうどいいだろう。個人的にはこの手の問題については、わたしはたいてい自由の側に立つことになり、わりとミルそのものの立場に近い。シビアな議論に耐える一貫性のある哲学を構築するのは大変というか、ほとんど無理なような気もするが、ただ、現実に裁判所は判断しなければならないし、個別具体例について何だかんだ言いながら進めていくしかない。その為にも本書程度の考察は基礎的ではある。

A good introduction to free speech. The author does not hesitate to present his own position to each topic, though the description is well balanced.

出版社: Oxford Univ Pr (2009/4/15)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199232352

2016年8月22日月曜日

Shunryu Suzuki "Zen Mind, Beginner's Mind" [禅の知性、初心者の知性]

ビギナーズマインドということで翻訳も出ているが、要するにSteve Jobsが愛読したというのが売りらしい。海外でもかなり売れているようだ。正直なところ全く意味の分からない箇所も多いが、宗教なんだから仕方がないのかもしれない。ムダに神秘的なところが一般受けするのかもしれない。

Honestly, disappointing. There are a lot of mysterious expressions.

出版社: Shambhala (2011/6/28)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1590308493

2016年8月19日金曜日

Penelope Wilson "Hieroglyphs: A Very Short Introduction" [ヒエログリフ:非常に短い入門]

目次:1.エジプトでの筆記の起源 2.ヒエログリフ筆記とエジプト語 3.ヒエログリフと芸術 4.『わたしはあなたを知っている、わたしはあなたの名を知っている』 5. 書記と日常の筆記 6.エジプト語の解読 7.現代のヒエログリフ

ヒエログリフにまつわる様々な状況を概説していて、良い本だと思うけど、別にヒエログリフの一つ一つの文字を解説しているわけでもないので、一般には受けないのかもしれない。世の中には「ヒエログリフを読んでみよう」的な本はいっぱいあるわけで、素人を引きやすいのはそういう本だろう。この本もわたしのような全くの素人が読んでも面白いが、対象読者として、これからエジプト学を学ぼうとしている学生を想定しているフシがある。わたしとしては、どんな学問分野でも、素人向けの本より、入門書であってもまず学術書を読みたいと考えているし、それがVSIのいいところでもある。類書と比べて良いのかどうかは不明だが、大変良心的な本だし、悪くはないだろう。それはそれとして、エジプトに関する話は、わりと戦争みたいな話が少ないのが心が安らぐ。文字に対する考え方も共感できるし、絵と文字を峻別しないで絵文字みたいな感じなのも、本来の人間の性質なのかもしれない。

This book might not be popular, but a very good introductory book. It does not teach us directory how to read hieroglyphs, but provides a lot of essential concepts and background information.

出版社: Oxford Univ Pr (2005/6/2)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0192805027

2016年8月18日木曜日

Peter Holland "The Animal Kingdom: A Very Short Introduction" [動物界:非常に短い入門]

目次:1.動物とは何か 2.動物門 3.動物の系統樹 4.始原動物:カイメンとサンゴとクラゲ 5.左右相称動物:体を作る事 6.冠輪動物:素晴らしい虫 7.脱皮動物:昆虫と線虫 8.新口動物I:ヒトデとホヤとナメクジウオ 9.新口動物II:脊椎動物の登場 10.新口動物III:陸上の脊椎動物 11.謎の動物

タイトルに戸惑うが、これは「動物界」という列記とした生物学用語で、つまりその程度の知識が無くても楽しく読める。DNA解析に基づく最新の系統図と進化論に基づいて色々な動物を解説していく。それにしても動物の分類がこんなことになっているとは全く知らなかった。わたしは特別にこの分野に興味があるわけでもないが、このレベルの動物の分類くらいは常識として知っておくべきような気がする。そもそも脱皮動物などという分類すら初耳だし、門のレベルで言うと、今後も変わる可能性があるらしい。特別に生き物が嫌いとかではなければ、ユーモアもあるので、楽しく読める。

A great reading about very basic facts about animal evolutionary tree, which I did not know even I did not know. A wonderful discovery.

出版社: Oxford Univ Pr (2012/1/15)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199593217

Cynthia Freeland "Art Theory: A Very Short Introduction" [芸術理論:非常に短い入門]

目次:1.血と美 2.枠組みと目的 3.文化の交差 4.金・市場・美術館 5.ジェンダーと天才とゲリラ少女 6.認知と創造と理解 7.デジタル化と伝播

いわゆる哲学科で学ぶような美学の概説書というか教科書に近く、評判が良いので、芸術に関わっている人は読んでおいて損はないところだろう。芸術をめぐる様々な論点を具体的な有名な芸術作品を例に解説していく。正典的ないわゆる芸術作品を取り上げて正統な議論をしていくので、特に変な偏向はない。わたしはというと、こういう言い方から既に明らかなように、こういう方面には非常にシニカルだし、「どうでもえやん」と思うこともあるが、一冊読んで置いて損はしない。

A well-balanced guidance to art theories.

出版社: OUP (2003/2/13) 言語: 英語
ISBN-13: 978-0192804631

2016年8月16日火曜日

Kevin Passmore "Fascism: A Very Short Introduction" [ファシズム:非常に短い入門]

目次:1.『AでありAでない』ファシズムとは何か 2.ファシズム以前のファシズム? 3.イタリア『拳で歴史を作る事』 4.ドイツ:人種的国家 5.ファシズムの拡散 6.灰から甦る不死鳥? 7.ファシズムとネイションと人種 8.ファシズムと女性とジェンダー 9.ファシズムと階級 10.ファシズムとわたしたち

最初のほうはファシズムの定義にこだわっており、全編に渡って一貫してちょくちょくこだわっていて、その点は結構大変だが、基本的には欧州とアメリカの様々なファシズムを通覧していて、非常に勉強になった。現代への目配りも織り込まれている。

面倒と言うのはファシズムという言葉に含まれる道義的な負荷のせいだけでもなく、各国毎に相互に影響したり対立しながらバリエーションが大きいせいだ。例えば、まあ差し当たり、疑似軍隊みたいなルックスをしていたとかいうのは似ているだろうか。人種(race)にこだわったといっても人種の概念が一定していない。ユダヤ人が文化概念というより人種概念になったのは比較的最近のことで、ナチみたいな絶滅政策もあれば、同化政策もある。近頃の新右翼みたいなのは、人種や民族はそれぞれ平等だが、それぞれの特徴を尊重して維持するべきなどと主張していて、結果的には移民排除・追放には違いないが、人種間に優劣があると主張するのはほとんどいない。

等々のことで、目次から明らかなように他にも女性の立場とか階級との関係が非常に入り組んでいることなども説明され、面倒ではあるが、事実に反する単純化を避けるには止むを得ない。しかし、それにしても何か色々なバリエーションを貫く一つのメンタリティがあるのではないかと思うのだが、そこに行かない(行けない)のは学者の慎重さなのだろう。実際、そんな本は色々あるが、あんまりピタリと来た本も記憶にない。勉強になったし、特に政治学に興味のある学生には良い入門書じゃないかと思う。

A very good overview of fascism. I assumed there was a core mentality that all varieties of fascism share, but the author carefully avoid such a simplification, which I understand is an evidence of the scholar's sincerity.

Oxford Univ Pr 2 Upd New版 (2014/06)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199685363

2016年8月15日月曜日

Mark Maslin "Climate: A Very Short Introduction" [気候:非常に短い入門]

目次:1.気候とは何か 2.大気と海洋 3.天気対気候 4.極端な気候 5.テクトニクスと気候 6.全球的気候寒冷化 7.大氷河期 8.未来の気候変動 9.気候変動を固定する事 10.究極の気候変動

地球の気候の概要というようなことで、一部では難しいと言われているようだが、特段の予備知識が必要には思われない。日本で言えば、地学を選択した高校生なら問題なく読めるというか、センター試験で満点を狙うレベルなら、これくらいは知っている必要があるような気もする。もちろん、気象予報士を狙うような人にとっては、入門書にいいくらいだ。ただし、この本の主たるテーマは大規模の気候であり、今日明日の天気の話ではない。資格試験で言えば、eco検定などでも、この程度の知識はあったほうが良いだろう。個人的には特段の新情報はないが、良い復習になった。まさしくVSIの趣旨に則った本なので、特に気候にあまり知識がない人には入門書として間違いないところだろう。直接天気予報の勉強にはならないが、天気に興味がある人にとっても、気候の背景知識を持つのに良い本だ。

A good overview of the climate system of the Earth. Especially if you are interested in weather forecast, this level of understandings of the climate is certainly needed.

Oxford Univ Pr (2013/7/24)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199641130

2016年8月4日木曜日

U.S. Army Command and General Staff College "Outfought and Outthought: Reassessing the Mongol Invasions of Japan" [戦いで負けることと思考で負けること:モンゴルの日本侵略の再検討]

目次:1.導入 2.歴史文献 3.両軍の戦力 4.最初の侵略(1274)と結果 5.第二の侵略(1281) 6.戦略分析 7.孫子からの視点 8.結論

米軍による元寇(文永の役・弘安の役)の戦術分析。純粋に元寇の記述としてもモノスゴく面白い本で、翻訳したらブームになるのではないかと思う。これだけでは一冊にするには薄すぎると言うのなら、米軍司令部は他にも面白そうな研究をいっぱい出しているようだから、一緒に翻訳すればいいだろう。戦史ファンが飛びつくのは保証しよう。

まず、元寇における台風の役割は色々言われているが、この本では台風は既に敗北していたモンゴル軍に追い討ちを掛けただけという立場である。というのも、文永の役でも日本側の激しい抵抗で大宰府を陥落させられていないし、補給が続かず退却を余儀なくされている。弘安の役ではそもそもモンゴル軍は上陸を阻まれ、台風の前に二か月も侵攻できておらず、海上では常に劣勢で、既に敗北は確定的であった。

そして、米軍司令部は、当時無敵だったモンゴル軍のこの惨敗を孫子とクラウゼヴィッツに照らして批判する。一々尤もな話で、徴兵中心のモンゴル軍と職業軍人のサムライたちでは士気も装備も個々の戦闘能力にも差があった。先に対馬・壱岐を攻略したため、日本側に十分な迎撃態勢を作る時間を与えた。日本側の予想している地点(博多湾)に予想通り二度も突入する。日本側の行動速度が速く、側面からの攻撃が全て防がれる。日本側が完全に包囲して射撃陣地を構築している博多湾に身動きのできない大軍(夜襲を恐れて軍船を連結していた)で自ら包囲されに行くなど論外云々。

記述は戦術に限定されているわけではなく、それ以前の朝鮮などを通じた外交交渉の流れも描かれている。この辺りのモンゴルの外交も批判されるが、何より、日本に戦闘態勢を取らせたのがマズいという評価だ。フビライが孫子を読んでいた証拠はないが、中国人の将軍たちが読んでいたのは間違いなく、孫子の兵法に従っていれば、違う結果になっていたかも知れないとか言っている。

著者は中国語も日本語も読めないらしく、参考資料が英語または英訳文献しかないという制約があるものの、少なくともわたしが読んでいる分には不自然なところはなかった。専門家が読めばまた違う意見もあるのかもしれないが、差し当たり素人が読んでいてもモノスゴく面白い。単純に翻訳したいし、この辺りに詳しい日本人歴史家と軍事専門家の注釈にも期待したいのだが。

A tactical analysis of the Mongols vs. Samurai. Great Reading. I am not a specialist in history but have good command of old Japanese and Chinese language and some knowledge about overall history of east asia. I found no defect in this great narrative. The storytelling is very good and would never bore lay people like me.

Pennyhill Press (2014/1/13)
言語: 英語
ASIN: B00HV14CKK

2016年8月1日月曜日

Noel Carroll "Humour: A Very Short Introduction" [ユーモア:非常に短い入門]

目次:1.ユーモアの性質 2.ユーモアと感情と認知 3.ユーモアと価値観

ユーモアに関する哲学的・社会学的研究。通常のVSIのフォーマットなら研究史から始まるところ、この本に関しては、先行研究は参照しつつも最初から最後まで著者の思索が続く。さしあたりユーモアをどう定義するかについて三分の一くらい費やされる。あとは心理的な効用についてだったり、社会的な効用についてなど。

この本、Amazonではわりと評価が高い。わたしはお笑いが好きだから、この類の本は相当読んでいるが、面白い本に当たったことはなく、この本も例外ではない。というか、正直に言うと、わたしとしては、この本はVSIの中でも最悪に近いと思っている。ので、あまり多くは語りたくないが、Amazonでは評価されているから、こういうのが面白い人も多いのだろう。

強いて考えれば、ユーモアを西洋哲学の語彙で考察するのが無理なのではないかと思う。本書で推されるincongruity理論は結構なものだが、いくらでも反論は思いつくし、一々弁論も可能だが、なんか本質を外している感じは否めない。桂枝雀の「緊張と緩和」理論は、ユーモアというよりは笑いの理論だが、その辺りから出発したほうが未来がある気がする。

This book was not for me. I love comedy and have read many books of this topic, all of which I never found interesting....

Oxford Univ Pr (2014/03)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199552221

2016年7月22日金曜日

Jonathan Borwein "A Dictionary of Real Numbers" [実数辞典]

世の中には「奇書」と呼ばれる本が多数あり、あまり感心したことがないが、これこそ奇書ではないだろうか。個人的にはこれ以上の奇書に出会ったことがない。簡単に言うと[0, 1)までの八桁の実数の逆引きである。例として裏表紙に書いてある例だが、

  • 0.93371663 → 2log((e+π)/2)

こんな調子で大量の数値が載っているから例なんか他にいくらでもあるが

  • 0.23318249 → 8*x^2+5x-6=0の解の一つ(の小数点以下8桁)
  • 0.88869591 → 10^(4√2-3√3)(の小数点以下8桁)
  • 0.30275578 → ln(√2)÷ln(π)
  • 0.91457357 → 2e/3-π/3の3乗根の一つ

世の中には眺めているだけで楽しい数学辞典は色々あり、たとえば分厚い積分の公式集なんかは実際に役に立ったこともあるし、統計分布の辞典なんかも楽しいが、この本に関しては、わたしが実用する機会がほとんど想像できない。実際には、この本が役立つ人は世の中に結構いて、何かしらの数値解析に携わっている人は、この本によって数値から事態を把握できることがあるらしい。誰でもわたしと同じように衝撃を受けるのかどうかは謎だが、わたしとしては単に円周率を印刷しただけで奇書を気取っているようなのとは次元が違うように思う。真面目な数値解析の人にも役に立つのだろうが、例えば、株価の予測をしている人なんかは使わない手はないように思われる。ちょっと説明不能な感銘を受けた。

This is the most strange book I have ever seen. I can imagine that to some people this book is very useful and very time-saving. Still, My amazement does not part me. Very impressive and amusing.

Springer (2011/12/30)
英語
978-1461585121

2016年7月14日木曜日

A. M. Glazer "Crystallography: A Very Short Introduction" [結晶学:非常に短い入門]

目次:1.長い歴史 2.対称性 3.結晶構造 4.回折 5.原子を見る事 6.放射線源

いわゆる結晶学の概説で、日本語でも英語でも類書を見ないから、かなり貴重な本ではないかと思う。ただ、なぜ類書がないのかはこの本を読めば分かる通り、話自体がかなり難しいからなんだろう。この本、一応丁寧に初学者向きに書いてはいるものの、それでも、群論・フーリエ変換・光学・エックス線等の基礎知識がないと厳しい。おそらく、理工系の学生でも三年目くらいにならないとしんどいのではないかと思われる…。これまで200冊以上VSIを読んでいるが、その中でも最も難しいと言い切って良いだろう。

わたしとしては、たまたま光通信の勉強をする機会があったので、非常に勉強になった。光ファイバ自体の他、レーザーダイオードなどの付属機器の理解に、この本で解説されるような結晶学の知識は非常に役立つ。他にも本書で触れられる通り、結晶学の知識が必要な分野は結構多いから、ちと難し目ではあるが、翻訳したら需要もあるかもしれない…。

A very good and rare introductory book on this subject, though it might be very challenging to those who have no back ground....

Oxford Univ Pr (2016/06)
言語: 英語
978-0198717591

2016年7月13日水曜日

Thierry Debard, Serge Guinchard "Lexique des termes juridiques 2016-2017 - 24e éd."[法律用語辞典2016-2017第24版]

定番のフランス法律辞典。毎年改訂されるので、一応買い換えている。類書は他にも色々あるけど、結局、決め手になるのは、二色刷りとか活字とか装丁だ。ふと思ったが外国語の勉強に自分専門分野の辞書というのは悪くないかもしれない。Que sais-je?の100 motsも同じことだ。

J'aime la présentation de ce livre. Facile à lire.

Dalloz(22 juin 2016)
フランス語
978-2247160754

2016年6月16日木曜日

Chris Shilling "The Body: A Very Short Introduction" [身体:非常に短い入門]

目次:1.自然の身体か社会的な身体か 2.性別のある身体 3.身体を教育すること 4.身体を統治すること 5.商品としての身体 6.身体の問題:ジレンマと論争

例によってタイトルが短すぎて意味が分からないが、翻訳出版するなら「身体の社会学」というところ。本来ならこういうタイトルは読まないが、冒頭を数ページ読んで、筆者の誠実な文体が気に入って全部読むことに。出てくる人名はゴフマンとかアガンペンとかブルデューとか、社会学者がほとんどだ。

実際ものすごく良く書けている。たとえば二章は普通のフェミニズムの見解を普通に述べているだけだが、社会学を学ぶのなら当然把握しておくべき内容が分かりやすくまとめられている。以降、パノプティコンとかバイオポリティクスとか対面の相互作用とか、社会学の基本を「身体」という面から学習できる。社会学の初学者には、英語の勉強も兼ねて読む価値が高い。翻訳すれば、全国の社会学の学生の指定図書になると思うし、結構売れそうに思う。

ここから先は完全にわたしの個人的な感想だが、最初から最後まで"embodied"という形容詞が気になった。冒頭でも著者は西洋哲学の身体軽視を批判するところから入っているが、それでもまだ日本人・東洋人の感覚から遠いような気がする。それでも社会学からすれば大きな一歩なのかもしれないが。ただ、最後の辺り、インターネット越しの社会関係と、身体の近接を前提とする社会関係の相違は、少し考える気にはなった。

I am not a big fan of sociology any more. Still, this book is extremely well written.

2016年6月10日金曜日

H G Wells "The Invisible Man" [透明人間]

古典的名作であり、実際相当面白い。「今読むとやっぱり古い」みたいな意見もあるようだが、わたしは全くそうは思わない。今、透明人間をテーマにした小説・マンガ・ドラマを作っても、こんなに面白くならないだろう。ユーモアもあり、怪奇もあり、謎の感動もある。

話は要するに透明になることに成功した人間の冒険だが、主人公の性格が狂っていて良い。利己的で、自制心が弱く、暴力的である。今だったら主人公を慎重な性格に設定して、透明であることを活かして悪と戦ったりしかねないところだ。夜神月には共感しないがグリフィンには共感できる。元々準備万端で透明になったわけではなく、衣食住の確保から苦労するが、基本的には盗みと暴力の壮絶なドタバタになり、喜劇なのか悲劇なのか判定が難しい。クライマックスでは一つの町を恐怖で支配するとか言い出し、その割に手始めにやることが個人的な復讐というのもこの主人公に相応しい。グリフィンは悪い奴だが、それに相応しい末路を迎えるわけで、謎の感動がある。

この小説を読む人は、自分だったらどうすると必ず考えると思うが、自制心が子供並で、屈強の肉体を持っている上に他人から監視されないとなれば、まあ、遅かれ早かれ、百人が百人こんなことになるんだろうと思う。その意味では、ほとんど普遍的な真理を描く名作文学である。世間でどう評価されているのかあまり知らないが、単なる「SFの古典」ではなく、もっと高く文学的に評価されても良さそうなものだ。訳は見ていないが、古典だし大体大丈夫たろう。

One of the best novels I have ever read. Griffin is a bad guy, sure, and if we contrive a modern TV series featuring a invisible man, we will create him as a hero fighting with evil forces or something. Nonsense. If we have only childlike self-control and a tough body suitable for hand-to-hand combat and are not be seen from others, sooner or later, we will all become Griffin. The Invisible Man tells us a universal truth. This is not only a classic SF, but also one of the great literatures in the world.

2016年6月1日水曜日

Robin Wilson "Combinatorics: A Very Short Introduction" [組み合わせ論:非常に短い入門]

目次:1.組み合わせ論とは何か 2.四種類の問題 3.順列と組み合わせ 4.組み合わせ論の動物園 5.敷き詰めと多面体 6.グラフ 7.正方行列 8.デザインと幾何学 9. 分割

この本はわたしには初歩的過ぎて公平なレビューにならないかもしれない。中学生だとしんどいかもしれないが、おそらく日本の高校生くらいなら普通に読めるだろう。全く頭を使わないわけではないが、紙と鉛筆が必要なわけでもなく、pop mathより少し踏み込んでいるくらい。わたしの場合、コンピュータサイエンスを相当やった経緯があるのと、群論の知識が初歩的にでもあるので、ちと易し過ぎる。肝心なところで証明が無かったりするのが気になるが、レベルを考えるとやむを得ない。

中途半端なpop mathを読むくらいなら、真剣な数学書を最初だけ読んで挫折するほうが優れている、というのがわたしの持論だが、この本についても翻訳してもイマイチな気はする。パスカルの三角形をいじるような組み合わせ論については中高生向けの本もあるだろうし、N=NP?みたいな話なら計算機科学でやはり初歩的な本も山のようにあるし、四色問題のようなグラフ理論ならVSIでもいい本がある。ただ、そのあたりを一冊で済ましているということもあるので、大学生の英語の勉強には良いかもしれない。

It was too elementary for me, though maybe a good reading for japanese high-school students.

Oxford Univ Pr (2016/07)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198723493

2016年5月11日水曜日

Peter Molnar "Plate Tectonics: A Very Short Introduction" [プレートテクトニクス:非常に短い入門]

目次:1.基本的な考え 2.海洋底拡大と磁気異常 3.破砕帯とトランスフォーム断層 4.海洋リソスフェアの潜り込み 5.リソスフェアの固いプレート 6.大陸のテクトニクス 7.どこから来てどこへ行くのか?

地磁気の話を読んでいたので、そのつながりで手を出しただけだが、予想外に面白かった。わたしとしてはプレートテクトニクス≒大陸移動説+地震くらいに思っていたところ、この本では、大陸の地殻変動も結構詳しく語られる。とはいうものの本書は基本的にはプレートテクトニクスという言葉を海洋底に限定している。何でかと言うことも本書で詳しく語られるが、要するに、海洋底がモノスゴク固くてプレート境界以外でほとんど変形しないのに対し、大陸を乗せているリソスフェアは簡単に変形して、「プレート」と言いにくいらしい。

通常、VSIでは標準的なフォーマットとして「研究史」「研究方法」「研究結果」が語られるが、本書ではすべてが織り込まれて一つのストーリーとして語られる。一つには研究の歴史が浅いせいで、大陸移動説やプレートテクトニクスがまともに受け入れられ始めたのは1960年代になってからのことだ。そういうわけで、通常の教科書よりは物語性が高くて読みやすい。一つ残念なのは、日本周辺の話が手薄なことだが、語られているのは基本的に一般論なので、日本周辺でもだいたい同じことなんだろう。熊本の地震もあったことだし、プレートテクトニクス一般だけでなく、地震や地質学に関心がある人にもお勧めだ。

We who live in a island arc should be familiar with this theme. Much more fascinating than I thought.

Oxford Univ Pr(2015/05)
英語
ISBN-13: 978-0198728269

2016年4月25日月曜日

Stephen Blundell "Magnetism: A Very Short Introduction" [磁気:非常に短い入門]

目次:1.神秘的な魅力? 2.磁石としての地球 3.電流と力への道 4.統一 5.磁気と相対論 6.量子磁気 7.スピン 8.磁力図書館 9.地球上と宇宙の磁気 10.奇妙な磁気

VSIのフォーマット通りで、前半は磁気の歴史が語られる。初期の磁石の文化史みたいなところから電磁気学の一般的な歴史を通って相対論と量子力学の説明になる(古典物理学の範囲では磁石の存在すら説明できない)。教科書的とは言え、なかなか充実している。後半は工学的な応用の話や地磁気の話など盛りだくさん。ちょっと高校生では読むのはしんどいかと思うが、理系の大学生なら大丈夫だろうし、マクスウェル方程式を理解しているくらいなら問題ない。一応巻末にマクスウェル方程式は出ている。結構意外な話も多かった。

A variety topics of magnetism. From basics to sophisticated modern physics.

Oxford Univ Pr (2012/7/5)
英語
ISBN-13: 978-0199601202

2016年4月11日月曜日

Jason Martineau "The Elements of Music: Melody, Rhythm, & Harmony" (Wooden Books)[音楽の要素:旋律、表紙、和音]

近頃音の勉強を始めているので、久々のWooden Booksだが、これは微妙なところだ。書いてあることはいわゆる「楽典」に近いようなことだが、ある程度音楽の素養がないとついていけないところがある。「楽典」はたいていそうだが、この本も、手元にバーチャルにでも鍵盤がないと読みにくいだろう。専門家の評価は高いようだが、誰にでもお勧めと言うわけにはいかない。Wooden Booksはそういうものだが、真面目に勉強するための本ではない。

You should place a keyboard (at least virtually) before you while reading this book, I guess.

Walker & Co (2008/10/28)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0802716828

2016年4月10日日曜日

Christopher Hall "Materials: A Very Short Introduction" [材料:非常に短い入門]

目次:1.金・砂・糸 2.微細な検査 3.強固だがツルツル 4.電気の青 5.材料を作る事と物を作る事 6.砂のそんな量

この本はものすごく面白いのだが説明が難しい。目次でも伝わらないと思うが、とにかく、VSIにありがちな「これから専門分野を学ぶ学生のためのガイダンス」みたいな本ではない。要は様々な「材料」または「素材」という物について物理的・科学的・工学的・歴史的・経済的・資源的・環境的なあらゆる面から色々記述している。従って、単一の学問分野に限定されていない。これだけの広い知識を一人で扱う著者はスゴい。ちょっと難しい部分もあるかもしれないが、基本的には高校生でも読めるのではないかと思う。人に言いたくなるまめちしきが満載で、どういう人にお勧めというわけでもないが、強いて言えば資源を扱う商社マンとかか。もちろん、わたしみたいな単なる好奇心の強い一般人でも退屈はしない。タイトルが一般的過ぎるのであまり期待していなかったが、予想外のヒットだった。

The title may appear too simple, but it contains a lot of trivia and is never boring. The author describes so many materials from so many aspects. He is incredibly polymathy.

Oxford Univ Pr (2014/12)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199672677

2016年3月31日木曜日

Barbara Bregstein "Easy Spanish Step-By-Step" [簡単スペイン語一歩ずつ]

目次:1.名詞・冠詞・形容詞 2.Estar, Ser主語代名詞 3.Hay、疑問詞、日、月 4.数、日付、時間 5.規則動詞 6.不規則動詞 7.Irと未来 8.形容詞と副詞 9.否定と前置詞 10.間接目的語 11.直接目的語 12.再帰動詞 13.接続法現在 14.点過去 15.線過去

スペイン語の独習用入門書。独検二級を取った後、週に三・四回程度、朝に二十分ほどずつ、半年くらいかかって終わった。真面目にやる人なら、一か月もかからないかもしれない。

外国語を始める時にどういう形態が良いかは人それぞれで優劣も不明だが、わたしのようにNHKフォーマット(スキット+語句文法解説)が苦手で、古典語のような文法+練習問題でやりたいムキにはこういう本が向いている。要所ごとにReadingが入ってくるが、基本的には文法事項と単語+ひたすら練習問題という形態だ。非常に良心的な本で、やっぱりこういう学習書は英語圏のほうが圧倒的に優れている。音声はないが、スペイン語はもともと発音が簡単だから、入門段階でさえ、ほとんど問題にならないだろう。

この本の注意事項として、早いうちに接続法現在が出てくる。動詞の形としては直説法現在の後に接続法現在を学ぶのは非常に合理的で、さして難しくもないのだが、多分、普通の学習課程では過去形や未来形を先に学ぶことが多いだろう。この点は、何か別テキストと並行してやる人は引っかかるかもしれない。ただ、この後、"Advanced"に進むわけで、どのみち、スペイン語文法を全部把握する気なら勉強する順番は問題にならないだろう。

McGraw-Hill Education (2005/12/21)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0071463386

2016年3月24日木曜日

Annie Heminway "Practice Makes Perfect French Problem Solver" [フランス語の問題を解決]

目次:1.名詞:性と複数化 2.アクサンと有音のhと大文字化 3.形容詞と副詞 4.便利な代名詞 5.過去に関わる時制 6.未来時制と条件法と接続法・Could, Should, would・Whatever, whoever, wherever, whenever 7.動詞転移 8.間違いやすい動詞 9.不定詞・使役・現在分詞・ジェロンディフ 10.動詞と前置詞

意味の分かりにくいタイトルだが、フランス語教師である筆者が、生徒が間違いを犯しやすい文法項目を選んで特に訓練する文法問題集。難易度は一応"Intermediate"ということになっていて、だいたい仏検二級程度だと思う。従ってわたしには易し過ぎる…はずだが、実際には結構ボロボロだったりする。

フランス語もB2レベルになると、あまり文法を練習することも少なくなり、ダラダラしていると文法を忘れてしまう。というわけでダラダラと数か月やっていたが、まあまあいい感じというか、結構危機感を煽られた。この本は、趣旨からして体系的ではないが、間違いやすい点は英語話者も日本語話者も大して変わらないのではないかと思う。その意味では冠詞が項目にないのは特徴ではある。わりと解説が饒舌で、とっつきやすいようにだとは思うが、面倒くさい面もあった。まあ、仏検二級程度の人にはちょうどいい独学復習教材ではある。Practice Makes Perfectシリーズの常で、とても良心的な作品だ。

As with always the case with "Practice Makes Perfect" series, this exercise book was very effective for me.

McGraw-Hill Education (2013/5/20)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0071791175

2016年3月21日月曜日

Nathalie Rouillé, Isabelle Raimbault "Dekita ! Apprendre ou Réviser les Bases de la Grammaire Japonaise Avec Exercices Corrigés" [できた! 解答付きで日本語文法の基礎を学び復習する]

フランス人向けの日本語問題集で、フランス人の評判は良いようだ。レベルはA2-B1とある。漢字はすべてカナが振ってある。もちろんわたしは日本人なので問題にならないし誤記を指摘できるくらいだが、それにしても日本語は難しい。普段あまり意識しないが、日本語とフランス語では文法体系が違いすぎる。改めてちょっと日本語文法を学ぼうかと思う。

Comme je suis japonais, je ne peux pas évaluer ce livre d'exercice. Bien sûr que c'est très facile pour moi, je suis choqué par le fait que la grammaire japonaise soit si compliquée... J'ai infiniment de respect pour tous les étrangers qui apprennent le japonais. Pendent ce temps, je voudrais apprendre la grammaire japonaise moi-même.

Ellipses Marketing (19 février 2013)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2729877217

2016年3月18日金曜日

Mike Goldsmith "Sound: A Very Short Introduction" [音:非常に短い入門]

目次:1.過去の音 2.音の性質 3.調和の音 4.音を聴くこと 5.電子的な音 6.超音波と超低周波 7.水中と地中の音 8.場違いの音

目次だけでは領域の広さが伝わらないかも知れない。音波の物理的な記述・和音と音楽の理論・人間の聴覚の仕組み・マイクやスピーカーなどの電子工学・色々な生き物の聴覚・潜水艦や非破壊検査や医学での超音波と低周波の応用・地震予知・騒音対策などなど。予備知識は何も必要なく、非常に読みやすいが、注記では数式は避けていない。色々な分野で人に語りたくなる豆知識が満載されている。音に関心のある人、たとえば音楽をやっているとか騒音対策に興味があるというような人は読む価値がある。とにかく広い分野に渡っているので、一つ一つはあまり深く解説はされないが、それでも知らないことばかりだった。何らかの形で音を仕事にしている人は、この本程度の知識はあって良いのかもしれない。

非常に短い本だが、面白すぎて読むのに時間がかかった。今まで200冊以上Oxford Very Short Introductionを読んできたが、実は「この件についてもっと研究したい」と思ったことはほとんどない。かなり面白くてもそれだけで満足してしまうのが常だが、この本を読んで真面目に音響工学をやる気になった。省みると、電気通信に詳しいせいで音について全く無知でもないし、何よりわたしは耳がかなり良く、音楽に全く興味がないにも関わらず音感は正確だ。一つ世界が開けた気がする。

Really fascinating. This book drives me into the world of sound engineering. One of the best books in VSI.

Oxford Univ Pr (2016/2/10)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198708445

2016年3月16日水曜日

Pénélope Bagieu "La Page blanche" [空白の頁]

どうもこの著者、一時期日本でも流行ったようで、「エロイーズ」という翻訳が出ている。多分、原書で読んでも翻訳で読んでもそんなに印象は変わらないのではないかと思う。

主人公、恐らく30絡みの女性だが、いきなり記憶喪失になっているところから話が始まる。ところが記憶喪失になったことを他人に知られたくない(何でか知らんが)ので、適当に調子を合わせつつ生活し、自分が何者かを探求していく。唯一頼れるのは同僚の一人の女性だが、記憶喪失前に特に仲良くしていたわけではないし、多分、主人公はちょっとバカにしていたくらいだろう。つまり、記憶喪失前の主人公は、さして好感の持てる人物でもなかったようだ。

読む前に知っておいたほうが良いと思うけど、基本的には何も起こらない。判明するのは、どうも記憶喪失前から単なるどこにでもいるメディアに踊らされる女だったらしいということくらい。謎で読者を引っ張るというよりは、自分の正体が不明と言う空気感を読ませるマンガだ。結局、正体は判明しないが、正体が判明したところで正体不明なのと何が違うのというような、非常に厳密に構成された話である。久しぶりに本格的なフランス文学を読んだ気がしなくもない。

En fin de compte, l'héroïne n'est pas identifiée. Mais, est-ce que cela ferait une différence?

Editeur : Le Livre de Poche (15 mai 2013)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2253167051

2016年3月2日水曜日

Pénélope Bagieu "Joséphine 3; Change De Camp" [ジョゼフィーヌ3:陣営変え]

前の巻でようやく誠実そうな男と付き合い始めた。前半は相変わらずだが、何分にもだらしない女で後半は妊娠してからの騒ぎ。といっても結婚するわけでもなさそうだ。わたしもそれほど詳しくないが、フランスはカトリックの国だから結婚が非常に重く、結婚ほどではないが民法上の準結婚みたいな制度が二、三あって、なんなら同性でもいい。カトリックという割には性的にだらしなさ過ぎる気もするが、とにかくそんな国なんだろう。ジョゼフィーヌのママは娘が結婚しないで妊娠したことに、やはりショックを受けているから、親はまた感じ方が違うのだろう。姉(普通に結婚して専業主婦)も世間体を気にしている。男たちの無関心との対照は笑いどころだ。あと、わたしはフランスでは労働者の権利が非常に強くて産休制度も充実していると教えられてきたが、ジョゼフィーヌは産休を取る時に上司に酷いことを言われている。…というような、教科書に書いてあるのとフランスの現実は違うということも分かるマンガというわけである。とにかく、このジョゼフィーヌ、軽薄でだらしなくて自分勝手で怒り過ぎだが、そんなのも含めてマンガになっているのは作者の力量だろう。醜い部分も含めて可愛く見えるのは相当洗練された感覚だと思う。

Oui, tout à fait fascinante.

Le Livre de Poche (1 juin 2012)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2253131854

2016年2月26日金曜日

William Bynum "The History of Medicine: A Very Short Introduction" [医学史:非常に短い入門]

目次:1.臨床の医学 2.図書館の医学 3.病院の医学 4.共同体の医学 5.実験室の医学 6.現代世界の医学

どういうわけかわたしは医学史に詳しいが、多分、社会史とか一般科学史みたいな本をよく読んでいるから、そっちから知識が入っているのだろう。そういうわたしから見ても良い意味で標準的な歴史書かなと思う。"Very Short"と言いながら、なかなか盛りだくさんで壮大な印象が強い。ありがちな科学的な側面に話を絞っておらず、最近発達した社会史的な面もきっちり入っているのも高評価だ。話は基本的に西欧限定だが、これで東洋版を出してもあまり流行らないのだろうか。たとえば"Yoga: A Very Short Introduction"みたいな類の本を作ったら、(欧米の)大学生受けはすると思うんだがな。なんにしろ、医学史を学ぶんなら(そんな人は少ないと思うが)、これが最初の一冊かもしれない。

Very good as the first book for beginners.

Oxford Univ Pr (2008/8/24)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199215430

2016年2月23日火曜日

Jacob K. Olupona "African Religions: A Very Short Introduction" [アフリカの宗教:非常に短い入門]

目次:1.世界観と宇宙論と創造神話 2.神々と祖先と精霊 3.神聖な権威:神聖王政と僧侶と占い師 4.儀式と祭りと儀礼 5.神聖な芸術と儀礼の実行 6.アフリカのキリスト教とイスラム教 7.今日のアフリカの宗教

もともと広大なアフリカをどの程度この本がカバーしているか疑問だが、とにかく、アフリカの宗教の概説。特段に複雑な教義体系が紹介されたりしないので、宗教というより各地の習俗という風に考えても良い。美術や音楽が宗教がらみ勝ちなのは世界中どこでも同じだ。人類学とか民俗好きの人は読んでいて楽しいだろう。わたしとしては、アフリカの宗教と言うと、サッカーの試合で魔術を使うとかそんな程度のイメージしかなく、別にこの本を読んでもそれほどイメージは変わらない。著者は最初から西欧のアフリカに対する偏見を糾弾しているが、正直なところ、哲学的な考察は薄い。

An overview of African folkways.

Oxford Univ Pr (2014/3/14)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199790586

2016年2月22日月曜日

Richard Toye "Rhetoric: A Very Short Introduction" [修辞学:非常に短い入門]

目次:1.ギリシア人からグラッドストーンへ 2.修辞学の足場 3.修辞学へのアプローチ 4.現代世界の修辞学

「修辞学」と訳したものの、実際は「弁論術」と言うほうが適切。前半は古典時代からtrivium三学科の一つに数えられている「修辞学」の歴史だが、真ん中あたりでオースティンやら現代文学理論が入って来たところで様子が変わる。この辺り、わたしにはとても懐かしいところだった。特に後半は基本的に政治における弁論術の話。メディアの弁論術に与える影響も語られる。と言っても、基本的にはアメリカの大統領とかイギリス議会とか英米圏の話に限定されている。分析法なども概説があるけど、基本的にこれを読んでも弁論が得意になったりはしない。日本で言えば、政治学とか言語学とか社会学/記号論などで処理されるような話だ。

ただ、この本、VSIでは初めて見たけど、ところどころclassroom用のactivityが差し込まれている。VSIのこういう入門書は、たいてい開講前に読んでおくような本が多いが、この本は修辞学の一年目(半年?)くらいに授業で使う想定になっている。もしかすると著者のクラスを取ると弁論に長けるようになるのかもしれない。まあ、英米圏は元々小学校レベルから弁論を仕込まれているいるし、ここでは改めて歴史から振り返ってみて、後半は現代世界・マスコミの弁論術(論法)を分析してみようということだろう。特にマスコミの世論誘導などに興味があるムキは、こういう分析もあるということを知るだけでも価値があるかもしれない。

Pretty informative.

Oxford Univ Pr(2013/5/8)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199651368

2016年2月14日日曜日

Pénélope Bagieu "Joséphine tome 2 : Même pas mal" [ジョゼフィーヌ2:まあ悪くない]

前作と基本的に同じ路線で30代独身女の日常をコミカルに描くというところだが、内容自体はえげつない。別の女が出てきたらどうしようと思いながら恋人の部屋を訪問したら子供が出て来たり、奥さんと別れてくれると妄想したり、若くて美しくて性格の良い人事部長が元彼と結婚して結婚式に呼ばれたりしている。もちろん、日本でもこんなマンガはあるだろうけど、もっとドロドロなレディコミみたいになるか、もっとアホみたいな「本当にあった話」みたいになるはずで、こんな爽やかにお洒落に描いている場合ではないと思う。根本的にある意味、彼の国では男女関係が高度に発達しているのだろう。

あと、日本のこの類のマンガは、主人公が可愛げのある子で周りが性格悪いみたいな描き方が多い気がするが、このマンガは主人公がどうも軽薄で自分勝手で、周りの特に親友のRoseとCyrilが良い奴というようなのも素晴らしい。自分(=主人公)の性悪さを笑いにできるというのは、ギャグマンガ家としては、一段上の気がする。

Vraiment drôle!

Le Livre de Poche (2 mars 2011)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2253131700

2016年2月9日火曜日

H. G. Wells "The War of the Worlds" [宇宙戦争]

SFの古典中の古典、タコみたいな火星人が地球に襲来する名作。有名だし、読んで損はないところ。基本的には人類の反撃はほとんど無効で、語り手は単なる一般市民で、火星人から逃げ回っているだけだ。侵略者たちは熱線と毒ガスで躊躇なく人間を駆除していくが、人類の側は最高で戦艦による砲撃しかない。戦争というよりは一方的な虐殺である。そんなわけで、最初のうちはそれほど面白いと思わなかったが、主人公が間近で火星人を目撃してからはなかなかの展開だ。SFというよりは、怪奇小説と思ったほうが良いかもしれない。別にわたしはSFに詳しいわけでもないので、あまり解説はできないが、SFに興味がなくても面白い。

Classic and fascinating even for those who are not interested in sci-fi in general.

Penguin Classics (2005/5/4)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0141441030

2016年1月26日火曜日

Pénélope Bagieu "Joséphine" [ジョゼフィーヌ]

さっき発見したが、日本語訳が出ている。ジョゼフィーヌは三冊シリーズで、これは一冊目だが、日本語訳は多分、三冊まとめているんだろうと思う。見てないから知らんけど。

何でももともと個人ブログでやっていたらしい30代独身女の日常マンガ。一頁または見開き二頁のマンガで一応毎回落ちている。話は一応ゆっくり進んでおり、この巻については、男を見つけて付き合って最後は失恋して終わっている。ありがちな話ではあるが、日本でこういうマンガがあると、過剰に自虐的だったり過剰にリア充だったりするところ、これに関してはその点はニュートラルで好感が持てる。と言っても、今時の日本の基準からすると、かなり上流階級ではある。一昔前の「スイーツ」くらいの生活水準だろう。はっきり言えば、フランス語学校には、こんな独身女(正社員独身男無し金有り暇人)は山ほどいる。エステに通ったりジムに通ったり精神分析に通ったり出会い系サイトに登録したりピルの処方を頼んだり失恋して泣きわめいたり、とにかく忙しいことである。

なんか書いているうちにだんだん腹が立ってきたが、面白いのは確かで、わたしは店頭で見て絵に強く惹かれた。お洒落だし可愛い。ローズも可愛いしシリルは良い奴だ。残念ながらわたしはおっさんなので、トータルでは「どこの国も女はしょうがねえな」というような感想になってしまうが、30代女性が読むと大いに共感するのかもしれない。続編も既に注文済みである。フランス語も簡単だから勉強に良いかも知れない。フランス語学校に通う30代独身OLにはお勧めだ。参考までに裏表紙だけ翻訳しておいた。

「ジョゼフィーヌ、30代、独身、子どもなし、猫あり。ブロンドで小柄(少なくとも身長は)で、ある日スポーツを始めることになる。オフィスで一緒に働いている連中は、彼女の名前も知らないのに、彼女の強迫的な買い物衝動には気が付く。アパートの管理人にはイヤなことを言われ、両親はさして素晴らしくもなく、完璧な姉には説教をされるが、幸いなことにローズとシリルという親友がいて、いつも彼女の不幸に一緒に付き合ってくれる。夢は理想の男と二人で買い物をしたり官能的な一夜を共にしたりロマンティックな週末を過ごすことだが、それを別にすれば大体幸せ。それでも甘ったるい映画に涙し、エステティシャンの精神分析を受ける。」

Les femmes, comme d'habitude, comme partout.

Livre de Poche (2010/3/24)
言語: フランス語
ISBN-13: 978-2253085096

2016年1月17日日曜日

Katherine Blundell "Black Holes: A Very Short Introduction" [ブラックホール:非常に短い入門]

目次:1.ブラックホールとは何か? 2.時空の航海 3.ブラックホールの特徴 4.ブラックホールに落ちる… 5.ブラックホールのエントロピーと熱力学 6.どうやってブラックホールの重さを測るか 7.もっと食べてもっと大きくなる 8.ブラックホールと副産物

ブラックホールと言えば優れて厨二的なテーマと言えるが、実際にはかなり地味な話ではある。とにかくブラックホールには質量とスピンという二つの性質しかない。数式はほとんど出てこないが、それにしても、力学と熱力学・量子力学の基本的くらいは理解していないと厳しいだろう。巨大な質量が引き起こす現象はそれ自体とても楽しいが、基本的には単純な物理現象なので、物理学書として読んだほうが良い。わたしは楽しかったが、誰でも楽しめるかというと微妙かもしれない。

This book was very fascinating for me, though it might be somewhat bland for other people. No mathematics, but you should be prepared for reading a physics text.

Oxford Univ Pr (2016/02)
英語
ISBN-13: 978-0199602667