2017年3月29日水曜日

Alex Roland "War and Technology: A Very Short Introduction" [戦争と技術:非常に短い入門]

目次:1.導入 2.地上戦 3.海・空・宇宙・現代の戦闘 4.技術の変化

中二感の漂うタイトルだが、実際その通りで、中学生や高校生が読んでも良さそうな内容である。この本がいう技術というのは、物理的な技術のことで、軍隊の編成とか戦術のことではない。たとえば、青銅器とかあぶみの登場とか、火薬や内燃機関がどう戦争を変えたとか、主に第二次世界大戦くらいまでの歴史を、わりと抽象的に説明している。範囲はかなり限定されていて、所謂国家間の戦争の話ばかりでテロなどの話はほとんどない。また基本的に物理的な兵器の話で、化学生物兵器の話もほとんどない。所々面白い事実もあるが、全体的には一般論だ。

VSIにしては著者の見解がわりと前に出ているが、特にサイバー戦争を大したことないと一蹴したり、核兵器にやたら好意的だったり、歴史学者は左翼的だとか、どうも賛成しかねる意見が多いし、説得力が薄い。ただ、間違いなく英語は易しいし読みやすい。一般的な世界史の知識はあった方がいいが、英語力を別にすれば、高校生または中学生でも読める内容だと思う。別に敢えてお勧めはしない。

Maybe a good book for teens.

2017年3月26日日曜日

Jan Scott, Mary Jane Tacchi "Depression: A Very Short Introduction" [鬱病:非常に短い入門]

目次:1.メランコリアの非常に短い歴史 2.現代:鬱病の診断と分類 3.鬱病のリスクがあるのは誰か? 4.鬱病のモデル 5.治療の進化 6.現在の論争と未来の方向 7.現代社会における鬱病

ほぼ目次の通り、鬱病に関する色々な方面からの解説。1,2章は歴史。3章は疫学。4章は生理学や社会学や心理学などの様々な方向からの病気の原因のモデル化の概観。5章は抗鬱剤とか行動療法とか精神分析とか様々な治療。6章はたまに話題になる「本当に抗鬱剤に効果があるのか」とか代替療法などの概観。7章は鬱病の経済的効果など。

この本を手に取る人のかなりの部分が、自分または身近に鬱の人がいるということだと思うが、序文でも断られている通り、患者サイドにはあまり実用的な本ではない。どちらかというと病院や医療行政の関係者向きだろうか。実のところ、わたしも鬱にはかなり詳しく、知識としては、この本で改めて知ったということは少ない。しかし、入門書としては、いろいろな論点を取り上げていて適切だと思う。わたしが少し驚いたのは、著者がわりとマインドフルネスに期待をかけていることだった。

あと、わりと最近言われるようになったことで、行動療法などのセラピーが脳の構造を変化させるという点は改めて考えさせられる。あと、胎児や幼児期の環境が脳・内分泌器官の成長に影響するという点も個人的に気になるところだ。当たり前だが、脳というものは常に変化していないと機能しない。英単語一つ覚えるだけでも、それに対応して脳のどこかの構造が変化しているはずだ。幼児期にストレスに晒されているとコレチゾルの分泌が強化されるとか、いかにもありそうな話だ。しかし、大人になってからでも、学習によって脳の構造を変えられるというのは勇気づけられる話。

そういうことでは、ある程度鬱病に詳しいと自負する人でも、知識をアップデートするには良いのかもしれない。もちろん、遺伝もあるが、遺伝子が環境によってONになったりOFFになったりするというのも最近言われるようになってきたことだし、特に鬱病の人には希望を与える本かもしれない。

あと、全く関係ない話だが、何年か前にVSIから"Depression"というタイトルが出るという告知があって、Amazonで予約していたら、三年ぐらい待たされた挙句キャンセルされた。改めて企画した本だと思うが、あれは何だったんだろう。

Very good reading. What surprised me was that the authors seem to have a positive opinion for "mindfulness".

Oxford Univ Pr(2017/3/3) 言語: 英語
ISBN-13: 978-0199558650

2017年3月14日火曜日

David J. Hand "Measurement: A Very Short Introduction" [測定:非常に短い入門]

目次:1.簡単な歴史 2.測定とは何か 3.物理科学と工学における測定 4.生命科学と医学と健康における測定 5.行動科学における測定 6.社会科学と経済学と商業と公共政策における測定 7.測定と理解

測定全般を薄く広く扱っているが、熱が一番あるのは知能指数や物価指数みたいな、社会科学である程度の統計解析が必要なところだ。恐らく、この辺りが著者の本領なのだろう。つまり、「長さ」や「重さ」みたいに、現実世界に確固としてあるものを正確に測定するというところではなく、測定行為自体が測定対象を構築するような分野に重点がある。統計哲学的にも面白い分野だ。

反面、「メートルの定義」みたいな理科的な話も少しあるが、内容は薄く、多分、別の本を当てるべきなんだろう。また、工業的な意味での測定・測量や、品質管理で問題になるような測定などにはほとんど触れられていない。基本的には社会科学の分野で測定という行為にまつわるあれこれを論じている部分が熱い。

例えば、世界の大学のランキングみたいな話は定期的に話題になるが、一体大学の性能をどうやって測定しているのか。もちろん、様々な指標を組み合わせて適当に算出しているが、指標を設定自体が測定対象を歪めるということがある。たとえば、指標のために大学を最適化する動機が作用するし、単純なインチキ、たとえば燃費不正計測みたいなこともある。

わたしが特に面白いと思ったのはその辺りだが、誰が読んでもそれぞれ面白い部分を拾えると思う。個々の分野については物足りない部分もあるが、全体的に読みやすい。

A good reading. The best part of this book deals with measurements in social sciences.

2017年3月2日木曜日

Deryle Lonsdale, Yvon Le Bras "A Frequency Dictionary of French: Core Vocabulary for Learners" (Routledge Frequency Dictionaries) [フランス語頻度辞典: 学習者のための語彙]

基本的には、フランス語単語を使われている順に5000語並べ、意味と例文を付けたもの。学習用で、アルファベット索引などもあるが、基本的には先頭から順に読んでいくもので、時々コラムなども入っている。

外国語は何語でもそうだが、基本的な文法を抑えれば、結局は語彙量の問題になる。暗記力のある人はそれを最大限活用して単語カードでも何でも使ってとにかく語彙を増やすことだ。わたしは不幸にして暗記力がないが、それでも何とかしたいと思っていて、この本はちょうど良いかと思った。コーパスが適切かどうかという問題はあるとしても、とにかく頻度順なのだから、それなりにやる気が湧く。フランス語の頻度順の単語集はこれくらいしかないし、出版社がラウトレッジというのも良い。

で、わたしが一通り読んだ感じでは、だいたい納得できる単語が並んでいるような気はする。もちろん、初歩的な教科書には出てくるが、コーパスには頻度が低いような単語もあるし、その逆もある。あと、新聞なども含まれているのか、時代を感じさせる単語もあり。例文を理解する能力を考えて、多分、仏検二級くらいのレベルの時に読めばちょうどいいかもしれない。とにかく、誰かが何の基準で決めたのか分からないような単語集より、ともかくも客観的な統計に基づいて決められた単語を覚えるほうが、やる気も湧く。人によっては主題別の単語集や語源別に覚えたりするほうが良いかもしれないが、頻度順も一つの選択肢だし、わたしみたいに自分の語彙力を確認しつつ足りない語彙を補うようにも使える。

If you want a frequency dicitonary of French, you do not have too much choice.

Routledge(2009/3/26)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0415775304