2022年12月21日水曜日

Randall Munroe "What If? 2: Additional Serious Scientific Answers to Absurd Hypothetical Questions" [もし-だったら2 :無茶な仮定の質問に対する追加の真剣な科学的な回答]

"What If?"の続編。前が八年も前というのが信じられないが、この間"How to"とか"Thing Explainer"もあったし、何より著者のサイトxkcd.comを頻繁に見ているから、あまり久しぶりな気がしない。

内容は副題の通り前著"What If?の継続で、基本的にはxkcd.comで受け付けた質問に対する回答という形式。最初のうちはただの数値推定みたいな話が多くて(フェルミ推定とかいうのが流行った時期だろうか)、面白いのもあればそれほどでもないのもある。考えたら、出版界でムダに真剣な科学的考察というのが流行った時期が確かにあったが、生き残っているのはこの著者だけのような気もする。こういうの何人もいらないからな…。読むなら前著から読みたいような気もするが、別にこの本から読んでもいいし、何ならどこから読んでもいい。翻訳はまだ出ていないようだが、そのうち出るんじゃないだろうか。誰が読んでも面白いとは思えないが、xkcd.comのファンは全員読むだろう。

Great, as expected.

Hodder & Stoughton (2022/9/13)
言語:英語
ISBN-13:978-1473680623

2022年12月11日日曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid #17 : Diper ÖverLöde" [軟弱な子供の日記#17: Diper ÖverLöde]

このサブタイトルは、このシリーズを追っている人には分かるが、主人公の兄Rodrickのやっているバンドである。表紙は主人公Gregで、なぜこんな絵になっているかは最後のほうで判明するが、内容のほとんどはRodrickとその仲間たちのエピソードだ。このシリーズは第一巻からもう何年もずっと出るたびに読んでいて、まあだいたい面白いんだけど、正直なところ、この巻はちょっと低調だったかな…。

というのも、この巻の主役は結局Rodrickなのだが、ファンは知っているように、このRodrickというキャラはかなりハードボイルドというか、無表情であまり何も話さない。絵で言えばほぼ吹き出しがつかない。残りのバンドメンバーもあまりなじみがないし、わたしも最後まで読んであまり誰が誰か覚えていないようなことで、主要キャラが全部ちょっと遠目の描写になっているのが迫力に影響しているのかも知れない。さらに直前の#16はシリーズ最高傑作だったからなあ…。あとタイトルがこれなんで、やや下ネタが多めで、子供には受けるのかもしれない。

それはそれとして、この本は「グレッグのダメ日記 なんだって、やってやる!」という翻訳がポプラ社から出版されている。というか、過去分も含めてシリーズが全部翻訳されているようだ。このシリーズ、前からほぼ犯罪スレスレかどう考えても軽犯罪みたいなことをやっているが、この巻については完全に犯罪を犯しており、ポプラ社的にいいのか心配になる。まあPTAから禁書指定されるほど読まれていないのかもしれないが。わたしに子供がいたら読ませるし、大人でも十分面白い。英語の勉強としてもお勧め。

出版社: Puffin (2022/10/25)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0241583081

2022年10月20日木曜日

Warwick F. Vincent "Lakes: A Very Short Introduction" [湖:非常に短い入門]

目次:1.導入 2.深い水 3.太陽光と動き 4.生命を支えるシステム 5.魚に至る食物連鎖 6.極限の湖 7.湖とわたしたち

全く個人的な話だが、わたしにとって湖とはまず第一に琵琶湖Lake Biwaであり、その点については、近畿圏以外の人間、特に関東地方の人間が琵琶湖の大きさを過小評価しているのが気になっている。琵琶湖の大きさは滋賀県の1/6程度だが、これは東京23区を全部足したより余裕で大きい。東京23区を全部水没させても琵琶湖より小さいのである。これだけは言っておかないと、「琵琶湖で泳ぐ」という行為がほぼ海水浴と同等であることが理解されない。当然それなりに危険もある。

その琵琶湖は昔は南部の水質が悪くてそこから引く京都大阪の水は不味いというもっぱらの評判だったが、最近では随分改善されたんだろう。飲んでいないから知らないが。淀川もきれいになり過ぎ、そもそも瀬戸内海がきれいになり過ぎてもう少し汚さないと生態系に悪影響とかそんな話になっている。

というようなことがあって、元々平均的な日本人より湖について詳しいということもあるが、最近は公害防止管理者・水質一種を取ったこともあって、この本に書いてあるような生物物理化学地学みたいな理屈の話は実はあまり知らないことがない。世界の色々な湖の自然史みたいな話は楽しい。陸水に興味のある学生向けの入門書としても優れているのだろうが、一般人としては普段から湖の傍に住んでいる人は必読かもしれない。湖はそれぞれに個性があって一般論で語り切れないところもあるが、一般論も知っておいたほうが人生も楽しい。

I guess that this is not only an excellent introduction for limnology, but for all the people who live near a lake will appreciate this book. Although every lake have its own peculiarities, knowledge of some general limnology will your lake life more interesting.

Oxford Univ Pr (2018/4/1)
言語:英語
ISBN-13:978-0198766735

2022年7月25日月曜日

Walter Tevis "The Queen's Gambit" [クイーンズ・ギャンビット]

まあまあの期間孤児院に居た少女が実はチェスの天才だったという話。Netflixで映像化されて好評とかでついでに本も売れているらしく、一般的には評判のいい小説らしい。結構長い間本屋でも横置きされているし、わたしもチェスを指すので読んでみた。以下は実際にチェスを指す人間の感想なので、一般には参考にならないかもしれない。

この小説、とにかく殺伐としている。もとの家、孤児院、養親とも、あまり感心しないような状況だが、糾弾するほどでもないという、微妙な殺伐さだ。主人公Harmonには友達がJoleneくらいしかいない。主人公が女なので適当な男も出てくるが、わりと原始的な感情しかない。意図的にそう書いているというよりは、多分、作者がそんなに書ける人じゃないんだろうと思う。主人公がややヤク中・アル中気味だが、そこも描写が弱くて何となく克服しているような感じだ。話が基本的に平板というかまったりと殺伐としていて、ある意味、チェスプレイヤーのリアルな生活のような気もする。主人公を女に設定したのは、男ばかりのチェスの世界に少女を投入したら面白いだろうということだろうけど、あんまり性別は効果が出ている気がしない。Netflixはそこは最大限活かしていると思うが、見ていないから知らない。

一般人は興味ないかもしれないが、ガチ勢としては、チェス自体の描写がほとんど意味をなしていない。クイーンがどうとかポーンがどうとかcombination的なことは結構長々と書いてあるが、ガチ勢でも盤面を追跡できない。一局だけ完全に追跡できるゲームがあり、並べてみたが描写が間違っている。今時の将棋マンガなどはプロ棋士が監修について将棋ガチ勢でも盤面を完全に追跡できるし、昔でも浅田哲也「麻雀放浪記」なんかでも小説に手牌が完全に表示されていたりするが、この小説はそういう検証には耐えない。structureの記述はほぼなく、書かれた時代(1983)を考えても、グランドマスターの思考がこんな感じにcombinationだけ読んでいることは考えにくい。まあ時代劇の殺陣みたいに雰囲気だけ読めということだろう。プレーヤーが勝手に封じ手を宣言して、他人と相談しているとかは、いくら昔とは言え驚いたが。

このあたり、映像ではきっちり監修されているだろうし、もしかしたらキチンと局面を解説しているのかもしれない。主人公はロシア語が少しできる設定だが、даとнeтくらいでは説得力もなく、なんか全体的に取材が弱いのではないかという…。まあそこは論点ではなく、チェスプレイヤーの殺伐とした生活というところだろうか。翻訳はサンプルを少し読んだが、ちょっと読む気しないかもしれない。翻訳もチェスプレイヤーの監修が入っているとは思うが、元がこの調子なんでどうにもならないだろう。

文句ばかりになってしまったが、一応最後まで読んだのは、なんとなく殺伐感が良かったからだろう。おそらくだが映像を見たほうがいいと思う。

Though I have not watched the Netflix series, I guess it is a lot better than this original novel.

Weidenfeld & Nicolson (2020/10/29)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1474622578

2022年7月6日水曜日

Arthur Conan Doyle "The Adventures of Sherlock Holmes" [シャーロック・ホームズの冒険]

いわゆる正典で今更説明することもない。ホームズとしては発表順で言えばA Study in ScarletThe Sign of the Fourに続いて三作目ということになるらしい。ただし、前二作と違って短編集だ。12作品収録されている。

読んでいてひっかかるところもないし、ホームズは面倒くさい性格でもないし、読んでいて気分が明るくなる。依頼人の陳述が非現実なまで的に理路整然としているのにだんだん引っかかってきたが、作者またはDr. Watsonが話が上手すぎるので仕方がないのだろう。短編集なので読みやすいということもある。この作者とH.G. Wellsについては、まるで見てきたみたいに面白い話をする人という印象を持っている。あまりホームズに興味がないとしても、試しに読むならここからかなと思う。ホームズの人物像からしっかり書いてあるのはもちろん第一作"A Study in Scarlet"ではあるが、だいたいみんな人物像は既に知っているし。

The third canon.

Independently published (2022/6/23)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 979-8837485183

2022年6月30日木曜日

Eric Lauga "Fluid Mechanics: A Very Short Introduction" [流体力学:非常に短い入門]

目次:1.流体 2.粘性 3.管 4.次元 5.境界層 6.渦 7.不安定性 8.流体と流れを研究すること

この本が面白過ぎるのは①流体力学自体が面白い②わたしが流体力学とか連続体力学とかいう分野に疎すぎる③この本の書き方が面白いのどのせいか分からないが、多分、全部のせいだろう。

わたしの流体力学の知識は資格で言えば高圧ガス(機械/冷凍)・水力発電(電気主任)・騒音振動(環境計量士)・公害防止管理者(大気・水質・騒音振動)程度の話で、この辺り程度の流体力学の知識はこの本の小さな部分に過ぎない。ナビエ・ストークスの式もハーゲン・ポワズイユの式もベルヌーイの定理もレイノルズ数もすべて解説されている。この本、できるだけ数式は避けるとかいう切り口上にも関わらず、これほど数式の満載されているVSIは記憶にない。二階の微分方程式(ナビエ・ストークス)が載っているのは後にも先にもこの本くらいだろう。たいていは日本なら高校生でも理解できると思うが、もしかすると少し難しいかもしれない。

面白過ぎるし、今後のために復習を兼ねて見直していく。第一章「流体」は、流体とは何かという話だが、固体と違う流体特有の概念、圧力・浮力・表面張力などの概念も説明される。まだ流れが導入されていないので流体静力学みたいなことだ。

第二章「粘性」では流れが導入される。まずラグランジュ表示とオイラー表示の区別がされ、すべての流れがtranslation/rotation/extensionに分解可能というのは、多分流体力学の定例の入り口なんだろう。この本で扱う流体は非圧縮性流体がほとんどなので発散はゼロになるとか言っているが、このあたり、解析幾何に縁がないと何のことか分かりにくい可能性もある。一通り準備をした後で、せん断応力からニュートン流体の粘度が導入される。でクエット流れからすべりなし条件や可逆性などの基本概念も示され、最後にはナビエ・ストークスの式の式が示される。

第三章「管」は上のような工業資格的には重要な章だ。連続の式について説明したあと、円管におけるハーゲン・ポワズイユの式が示される。レイノルズによる層流から乱流への相転移も示され、この辺りは特にガス配管などでかなり広範囲な応用があるところで、本書でも詳細に示される。

第四章「次元」は、一見謎のタイトルだが、いわゆる次元解析が流体力学では非常に重要で、様々な無次元数が導入される。できるだけ数式を避けるとか言っていたはずだが、最早全く避けていない。最初に導入されるのはもちろんレイノルズ数Reだが、ウォマスリー数Wo・フルード数Fr・ボンド数Bo・ウェーバー数We・キャピラリ数Ca・マッハ数Ma・ロスビー数Roが次々に実例とともに紹介される。この実例がそれぞれ面白く、例えば水面を進むカモの後ろにできる波の角度が19.5度(開き角では39度)と流体力学的に決まっているとか初耳ですが。

第五章「境界層」は歴史通りに展開する。完全流体の仮定からベルヌーイの式を導く。水力発電の計算で酷使される式だ。さらに完全流体であれば物体が流体中を移動する時に抗力が発生するわけがないというダランベールの逆説からレイノルズ数が高い場合の境界層が発見される。流れの剥離の重要性は飛行機で明らかにされる。

第六章「渦」は工業的に重要なカルマン渦とストローハル数Stが導入される。生物が利用するカルマン渦や気象現象、マグナス効果なども面白いが、この章で最も注目するべきはヘルムホルツの渦定理から飛行機の揚力の説明だろう。一時期、揚力の説明が大学レベルの教科書でもムチャクチャだとか界隈で話題になったが、この本はさすがにそんなヘマはしていない。

第七章「不安定性」は流体の不安定性を扱う。レイリー・テーラー不安定性は比重の異なる二つの流体の混合を扱う。レイリー・プラトー不安定性は円柱状の流体が表面張力と特定周波数の攪乱が強化されることによる。テイラー・クエットは遠心力による不安定性を扱う。サフマン・テイラーは粘度の異なる二つの流体の混合を扱う。ケルビン・ヘルムホルツは密度や速度の異なる二つの流体の海面に生じる波上の不安定性を扱う。この章に限ったことではないが、数式のほかに写真が多いのも楽しい。

第八章「流体と流れを研究すること」は流体力学の未来について述べているが、既に明らかなように範囲が巨大で、消化しきれない。とはいうものの、飛沫感染みたいな例を入れているのは時代という気がした。

ここまで書いて分かったが、個々の話については全然知らない話でもない。ただ、今まで流体力学という科目として勉強したことがなかった。多分、統計学と同じで、流体力学の専門家というのが各工業分野に散らばってしまっているのではなかろうか。ここまでVSIを大量に読んできて、もうアカデミアのほとんどの分野を踏んでしまったような気もしていたが、まだまだのようだ。

One of the best titles of VSI series. In spite of the author's statement, there are a tons of mathematical expressions. Maybe equally lots of photos compensate for it. If you do not mind equations, after reading this book, you would most likely want to learn more about this field.

Oxford University Press (2022/4/28)
言語:英語
ISBN-13: 978-0198831006

2022年6月21日火曜日

Bertrand Russell "In Praise of Idleness" [無為を讃えて]

目次:1.無為を讃えて 2.「無駄な」知識 3. 建築と社会問題 4.現代のミダス 5.ファシズムの起源 6.スキュラとカリブディスまたは共産主義とファシズム 7.社会主義のために 8.西洋文明 9.若い冷笑について 10.現代の均一性 11.人間対昆虫 12.教育と規律 13.ストア主義とメンタルヘルス 14.彗星について 15.魂とは何か?

ラッセル卿のエッセイ集で、今時はめっきり減ったタイプの本だなあと思う。だいたい社会批評みたいなことだが、原著出版年が1935年という、ちょうどヒトラーが暴れ始めている頃で、時代の空気もあり。時々日本への言及もあるのは、やっぱり日本は大国だったのだろう。社会主義に対する楽観は今となっては目立つ。

ラッセル卿と言えばノーベル文学書受賞者であり、数理論理学の大家だが、あまり流行らなくなっていくだろうと思うのは、数理論理学とか数学基礎論とか呼ばれる分野がどう見ても衰退しているからだ。数学科では明確に衰退したし、哲学科でもどうなんかな。論理学自体は基本的に思考の訓練用で、もちろん細々と続いているのだとは思うが。「ゲーデル・エッシャー・バッハ」とか、もうあの頃は衰退気味だったのかもしれない。メタ数学だの集合論だの不完全性定理だのを嬉々として語っていた人たちはどこにいったのだろうか。計算機科学では確かに論理回路レベルで分析哲学みたいな話はあるが、関数型プログラミングとか永遠に離陸しない。VSIでもMetaphysicsとかかなり面白いが、話が微細になり過ぎて専業でやるのはしんどいかもしれない。

とにかくラッセル卿は数理論理学者としては間違いなく大家には違いないが、この類のエッセイについては、直弟子のヴィトゲンシュタインですらあまりに感心していなかったようだ。ただ、そこはノーベル文学賞受賞者であり、数理論理学自体が読まれなくなっても、エッセイについては名文だという理由で今でもしぶとく読まれているらしい。わたしがこれを読んだのはタイトルに惹かれたからで、簡単に言うと別にそんなに働かなくても人類は食えるだろうというようなことで、社会主義を推奨するようなことだ。ラッセル卿は常識的な人であり、変に尖った意見とかはないし、特に感動するような文明批評もないが、なんとなく最後まで読んでしまうあたりは人柄なんだろう。昔から英文読解のいい材料になっているし、高校生でも読めるだろう。

Nowadays nobody talks about foundations of mathematics. His essays will survive a bit for his famous clear English....

Thomas Dunne Books; Reprint版 (2017/6/6)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250098719

2022年6月16日木曜日

Paul Klenerman "The Immune System: A Very Short Introduction" [免疫系:非常に短い入門]

目次:1.免疫系とは何か 2.第一対応者:先天性免疫反応 3.適応免疫:(非)自己発見の旅 4.記憶を作ること 5.少なすぎる免疫:免疫学的不全 6.多すぎる免疫:自己免疫とアレルギー疾患 7.免疫系v2.0

似たような話を扱うタイトルはVSIにも他にも色々あるが、多分、これが一番評判が良い。免疫の話となると病原体や白血球やを擬人化というか、意志を持った存在みたいに扱ってしまい、それなら別に「はたらく細胞」でも読んでいればいい。我々が知りたいのは、例えば分子化学レベルでどうやって免疫細胞が患部に引き寄せられるのかとかいうようなことで、そこまで来ると確かにこの本が最善というか類書がないのではないかと思う。ただ、もちろん、最低限の生物化学の知識は必要だが、日本で言えば高校の生物化学レベルではないかと思う。

というようなことで、現代医学でもよく分からないことはたくさんあるにしても、差し当たり今のところ免疫系について分かっていることの概観が提示される。その上で免疫系の病気や治療の例も面白い。人類の免疫系はウイルスやバクテリアだけでなく多細胞生物に寄生される前提で設計されているので、寄生虫を駆除した時点で免疫系が正常運転していないとかいうのは、どうも確からしい。腸内細菌と人体は極薄の膜でしか隔てられておらず、病原体が多少侵入したくらいで炎症を起こしている場合ではないし、免疫系の通常運転は常に腸内細菌と反応して維持されているので、腸内の生態系が変わると免疫系の運転状態が変わるのも確からしい。複雑過ぎて「特定の乳酸菌で花粉症が治る」みたいな話ではなさそうだが。そもそも本書で言われている通り、免疫系は個人差が多すぎて、そのせいで骨髄バンクでも滅多に適合者がいないとかいう話で、何をするにしても各個人向けにカスタマイズする必要がある。

自己貪食の話も少しあって、結局、多少飢餓状態があったほうが健康にいいのは確からしいとか、他にも色々面白い話はあった。リューマチが自己免疫疾患とは初耳である…とか。近頃はもう抗生物質の候補がないとか、単純な化学レベルではあまりいい話はないが、こういうレベルだとまだまだ広大な未踏領域が広がっている。一般には少し難しい本なのかもしれないが、これを越えると、もう本当の専門書しかないかもしれない。

The best overview of the field.

Oxford Univ Pr (2018/1/30)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198753902

2022年6月8日水曜日

Kaplan "GRE Exam Vocabulary in a Box" [GRE試験単語カード]

GRE(北米の大学院入試の共通テスト)用の英単語カード。多分、英検一級くらいだと思う。丸暗記が得意な人には良いと思う。

わたしはこの類の単語丸暗記は自分には無理と悟っているが、昔買ったらしく発掘されたので一通りやってみた。わたしも毎日それなりに高度な英文を読んでいるからかなり単語量は多いほうだと思うが、それでも知らない単語は多数ある。こういうの、「試験以外で見たことがない」単語がどうしても多いし。昔の英文学とか読んでいる人はまた違うのかもしれない。少なくとも新聞を読んだりするくらいなら難しすぎる。漢検なら確実に準一級は超えており、一級相当だろう。北米の大学院に進学したいのならこれくらいやらないといけないのかもしれない。しかし、実際にこんなの必要なのはせいぜい文学系じゃないかとも思う。マニア向けだろう。一つ文句があるとしたら、カードの紙質が硬くて端も角も尖っているから気を付けて扱わないと痛い。

I hate the quality of the cards. Physical strength is nice, but they are too edgy and my fingers all have fallen off.

Kaplan Publishing (2007/7/3)
言語:英語
ISBN-13:978-1419552205

2022年5月4日水曜日

Debbie Newman "Pros and Cons: A Debaters Handbook" [賛成意見と反対意見:ディベートの手引き]

対象読者は高校生~大学生くらいだろうか。色んなディベートトピック、例えば「死刑は廃止すべきか否か」とか「麻薬は合法化するべきか」みたいなことについて、proとconを挙げまくっている辞書みたいな本。一応読みごたえはあったが、もちろんリアルなデータに基づいて論じたりしているわけではないから、基本的にはディベートとか小論文とかの役にしか立たないだろう。英検的な試験の対策とか、語学の授業とか、作文の宿題とか…。こんな本があるのかと呆れたが、その界隈では有名な本らしい。19版とか言っている…。

呆れたというのは、発想が安直すぎるからで、しかし、冷静に考えると当然需要があるはずだ。わたしはそんなに真っ当な語学教室に通った経験はないが、何語であれB2とかC1とかになるとエッセイとかディベートとかの比重が増えるが、頻出テーマは限られている。パッと思いおこして原発とか移民とか逆差別とか代理出産とか、ほぼこの本に項目として挙がっている。

語学の授業でのムダと言えば、まず勝手に状況を想像して演じるrole playingで、「語学がどうとかよりも状況の想像のほうに圧倒的に頭を使う」ようなことで、一体何の授業なのかというのが一番だが、これはB1くらいまでの話だ。B2以降は「語学がどうとかよりも議論自体の内容に頭を使う」みたいなムダが多く、この本を使えば随分効率化される。先生が公式にこの本を推薦しにくいのかもしれないが、わたしは躊躇なく推薦する。

余談だが、わたしはディベートという作業にそんなに価値があるとは思っていない。語学の授業の一環で一応あってもいいのかもしれないが、人を言い負かす技術なんか身に着けても利益より害のほうが大きい気がする。真実を発見したり、人を説得したり、アイデアを出したりするために議論するのは有用だが、そういう局面で相手を論破することを目的に議論する奴が一人でもいると邪魔にしかならない。

Very useful for the second language course students. It does not add to your knowledge, but saves tons of research time. With this book, you can your study time for more important things.

Routledge; 第19版 (2013/9/27)
言語:英語
ISBN-13:978-0415827805

2022年4月27日水曜日

Housel Morgan "The Psychology of Money: Timeless Lessons on Wealth, Greed, and Happiness" [マネーの心理学:富と貪欲と幸福についての永遠の教訓]

日本語訳もまあまあ売れているのだろうか。近頃は本屋に行くとFIREとかが流行ったりして見分けのつかない投資本が大量に平積みされていて、この本もその中に埋もれている。そうやって平積みされている本にはギャンブル本も多いが、中には真面目な本もあり、バカの一つ覚えみたいにインデックスファンドと言っているが、この本はどちらからも距離を取っている。と言っても結局著者もインデックスファンドなんだけど、個人の状況も違うし過去と未来は違うしみたいなレベルの話もしている。

例えば、バブルが生じるのは参加者が不合理だからではなく、短期投資者が増えるからであって、短期投資者にしてみればバブルに乗るのは全く不合理ではないと。ただ、これに長期投資者が巻き込まれると長期投資者が割りを食うみたいな話でしかないらしい。あまり他の本で読まない話だ。

ただ、本書の大半は倹約しろとか誇示的消費は無意味とか足るを知れとか複利の力とか黙って待てとか、まあ、普通の話と言っていいだろうか。タイトルは心理学と言っているが、例えばカーネマンやタレブみたいな常識を超えることは書いていない。実用性で言えば、別にわたしには特に足しにならないが、ある程度まともなFPみたいな本に退屈している人にはいいだろう。エピソードとしては面白い話はいっぱいあるので、クビになるかどうかの面談を待つヒマつぶしにはちょうど良かった。

For those who are bored by sane financial advisers but not insane enough to go into gambling....

Harriman House Pub (2020/9/8)
言語: 英語
ISBN-13:978-0857197689

2022年4月13日水曜日

Sung Jang et al. "101 Things I Learned® in Product Design School" [わたしが工業デザイン学校で学んだ101のこと]

この"101 Things I Learned®"シリーズは多分全部読んでいて、だいたい楽しく読んでいた気がする。内容的にはほとんど記憶にないものの、多分消化してしまったからだろう…。と思っていて、この本だけ読んでいなかったので読んだが、あんまり面白いと思うところがなかったような…。まあ、実際デザインで教えることなんてこんなことなんだろうけど、当たり前なことばかりのような印象だ。もちろん、その当たり前のことが重要なので、軽視していたらダメとかいうことなんだろうけど、一般人が娯楽目的で読んでもあまり面白味はないかもしれない。ただ、アマゾンではかなりの高評価を受けているようなので、もしかしたら専門家からすると名著なのかもしれない…。

I found it boring. Maybe not for amateurs, but for serious students.

Crown (2020/10/13)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0451496737

2022年2月7日月曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid#16: Big Shot" [軟弱な子どもの日記#16: 大物]

今回はGregがやりたくもないバスケットボールに巻き込まれる話で、例によってタイトルには二重の意味がある。このシリーズ、あまりに暴力が過ぎたり犯罪が過ぎたりで笑えないこともたまにあるが、この巻については悲し過ぎて笑えないところがある。当然Gregに運動神経があるはずもないし、基本的に何の活躍もしないどころかできるだけ目立たないようにしている。救いがあるとしたら、同様に酷い子どもが集められてチームになっていることくらいか。RowleyとかRodrickなどの定番キャラは出てこない。Greg本人は例によって特に陰鬱になることもなく、全力で事態をやり過ごそうとしているが、そのせいでMomを含めて周りの大人の酷さも際立つ。最初のうちは一応普通のトーナメントだったはずが、Momのせいで途中から州の最弱チーム決定戦が開催され、勝ったチームから帰れるという…。Gregにしたらバスケをやらされるだけでも十分うんざりなのに、こんな母親は最悪だ。

というわけで、結構悲しい思いをしながら読んでいたのだが、最後の最後で衝撃の展開が待っていた。電車の中で読んでいたが、乗り過ごすところだった。Amazonのレビューでも世界的な評判だが、この最後の感動だけで、このシリーズの最高傑作と言って良いかもしれない。確かに映画化するべきだろう。それまでが悲しかっただけに最高に痛快だ。

残念ながらもう日本語訳「グレッグのダメ日記」はもう出ていないようだが(多分ポプラ社に抗議が来るんだろう・知らんけど)、読まないといけないのはこの巻であり、実際これで救われる子どもはいっぱいいると思う。翻訳が出ないのなら中学校の英語の時間にでも一年かけてでも読んでいい。

The best book from this series ever. Most part is sad. The very mom of Greg betrayed him, but the dazzling glory is waiting for him!

2022年2月4日金曜日

Claire Belton "The Many Lives Of Pusheen the Cat" [Pusheen猫の色々な人生]

まあただ可愛いだけの他愛もない本ではある。こういうのって意外とネタが尽きるのが早い感じはあり。Pusheenが好きなら書籍としては他に塗り絵とかもある。

Kawaii.

Simon & Schuster Ltd (2021/3/18)
言語:英語
ISBN-13: 978-1398506473

2022年2月3日木曜日

Daniel Kahneman et al. "Noise" [ノイズ]

目次:1.ノイズを発見する 2.知性は測定器である 3.予測的判断におけるノイズ 4.なぜノイズが発生するか 5.判断を最適化する 6.最適なノイズ

相当面白く、経営や社会科学全般にmust-readと言っていい本だが、まずタイトルが分かりにくい。簡単に言うと、人間のする判断のバラツキを指摘してその解決策を提案する本。

あの"Thinking, Fast and Slow"のKahnemanが著者だというのにあまり評判になっていないのは、一つには前半部の話が単純に難しいのと、二つには後半部の人間の直感を排除する提案が反感を買うからだろう。

根底にある統計学については、ほとんど数式を使っていないが、最小二乗法くらいは勉強していないと何を言っているのか分からないのではないかと思う。多くの計測値と真値が与えられれば、誤差=バイアス+ノイズとなる。バイアスとは計測値の平均値と真値のズレで、タイトルにもあるノイズはこの右辺第二項を指している。

さらに基本的な統計学で平均二乗誤差=バイアスの二乗+ノイズの二乗と分解できる。全誤差(平均二乗誤差,MSE)を最小化するためには、バイアスを小さくすることも大事だが、ほとんどの場合ノイズが軽視され過ぎているというのが本書の基礎となる主張だ。

多くの場合、例えば裁判官が犯罪者の量刑を決める時には真値は分からない。従ってバイアスも差し当たり分からないが、多くの裁判官をテストすれば平均値を真値と推定してノイズ自体の計算はできる。本書の中心的な主題はバイアスではなくノイズなので、この点はあまり問題にならない。本書の主な問題は同じ案件なのに裁判官やその日の天気などによって量刑が変わってしまうことだ。良く問題になる犯罪者の人種や性別などによるバイアスは本書の主題ではない。

二乗という操作が入るが、とにかく全誤差はバイアスとノイズ(システムノイズと呼ぶ)に分解される。似たような操作でシステムノイズはレベルノイズとパターンノイズに分解される。裁判の例では、レベルノイズとは、そもそも平均的に量刑を重く出す裁判官と軽く出す裁判官がいることに当たる。

パターンノイズは裁判官と状況との交互作用によるものだが、パターンノイズは安定したパターンノイズと機会ノイズに分解される。安定したパターンノイズとは、裁判官によって事例のどの要素(被告の生い立ちとか被害者の年齢とか)を重視するかが違うことによる。筆者たちの研究ではこの要素がシステムノイズの中で最大だという。機会ノイズはさらにその残りで良く分からない。その日の天気とか前の日に地元のスポーツチームが勝ったとかそんなんだろう。

射撃チームが一つの的を狙ったとする。全員の着弾点の平均が的からズレていたら、このチームには全体にバイアスがあることになる。着弾点が散らかっていたらシステムノイズが大きい。右にずれやすい人と左にずれやすい人がいたらレベルノイズということになる。的の状況が個人に安定して別々の影響を与えるなら安定したパターンノイズということなる。それらを全部除いてもそもそも射撃は100%正確になるはずかないというのが機会ノイズ、あるいは本書でも使われる用語では客観的無知ということになる。

この本に文句を言っている人の多くはここまでの基本概念が頭に入っていないのだろうと思う。本書の主張は色々な事例(難民申請の許可や人事評価や保険の査定や指紋の鑑定など)を大量に引用しつつ、人々が思っているよりノイズが大きくて社会正義や経営判断をムチャクチャにしているということだ。そしてノイズを減らすための方策としてガイドラインの導入やアルゴリズム、あるいは単純な数式の導入を推奨する。このあたりの考え方は"Thinking, Fast and Slow"と基本的に同じで、反感を買いやすいのは分かる。ただ文句を言っている人の大半はここまでの議論をきちんと理解していないのではないかと思う。わたしとしては「アルゴリズムは透明性が高い」みたいなところに引っかかったりしたが(普通AIが何を考えているかは分からない)、かなり面白かった。ただ、わたしはここで問題になるような判断ごとを他人事みたいに思っているから単純に面白がっていられるが、経営者とか行政とかは真剣に読むべきだろう。しかしやはり難しいかもしれない。結局、ノイズよりバイアスのほうが分かりやすいし、バイアスを退治すれば英雄だが、ノイズ対策をしても効果は同じくらい大きくてもそこまで目立たない。

経営学の分野でもこの本は紹介されることが多いが、実際に読んでいる人は少ない印象だ。翻訳も出ているし、この文章をここまで読んだ人がこの本を理解できないことは考えにくい。色々面白い事例も載っているし、実務で問題になる人だけでなく、単に面白がりたいだけの人も読んで損はしない。良い本だった。

A must-read for us looking for new intellectual excitement.

William Collins (2021/5/18)
言語:英語
ISBN-13:978-0008309008

2022年2月1日火曜日

Claire Belton "I Am Pusheen the Cat" [わたしはPusheen猫]

Pusheenと言われて分からない人は公式サイトを見るのが早い。要するにすみっコぐらしとかLiz Climo相当と思えばそう間違いではない。ギャグとkawaiiの比重がもう少しkawaii寄りくらい。イラストというほどでもない…。英語は中学生レベルか。わたしは店頭で見て買ったのでWebはあまり見ていないが、書籍の内容はほぼWebと同じらしい。ただ印刷もきれいだ。

Kawaii.

Touchstone (2013/10/29)
言語:英語
ISBN-13:978-1476747019