2018年12月21日金曜日

Michael Fairhurst "Biometrics: A Very Short Introduction" [生体認証:非常に短い入門]

目次:1.あなたはあなたが言うとおりの人か? 2.生体認証:どこから始めようか? 3.生体認証を実用化する 4.生体認証処理の強化 5.予測的生体認証 6.わたしたちはどこに向かうのか?

この本では生体認証として指紋や網膜、声紋や筆跡が例示されるが、主な内容は個別の技術よりも、全体的な概念模型のほうで、むしろ抽象的な話が多い。わたしみたいに既に情報セキュリティに相当詳しい人が、知識を補完するためにこの本を読んでも新たな知見はほとんどない。初心者が読むと違う感想になるかもしれないが、わたしとしては、常識でわかることや、同じことを繰り返す冗長な記述が多すぎるように思う。薄い本なのでさっさと読めるが、VSIでは久しぶりに期待外れだった。

I could not recommend this book anyone who have already some knowledge about information security. It is too basic.

Oxford Univ Pr (2019/2/1)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198809104

2018年12月18日火曜日

Lucien Nahum "Shadow 81" [シャドー81]

ベトナム戦争を背景にしたハイジャック小説。戦争自体は背景に過ぎず、そこで実戦投入されている最新鋭戦闘機を盗み出し、アメリカ西海岸で旅客機の背後につけて脅迫して身代金を要求する。基本的にサスペンスだが、政治家の醜さやマスコミのウザさを描くクダリもあり、読むハリウッド映画という趣だ。なぜ映画化されなかったのか不思議なくらいだが、どうも英語圏ではそこまで売れた小説ではないらしい。主人公のやってることが建前としても正義でも何でもなく、単なる私利私欲というのが原因かもしれない。

その点を気にしなければなかなかのサスペンスで、少なくとも日本ではかなり売れたようだし、確かに名作だ。荒唐無稽としか言いようのない部分もあるが、それもこの類の話ではやむを得ず、ベトナム戦争当時に超音速VTOL機という時点で微妙にSFなのだし、VTOL機が木製の台に着地するくらいは仕方ないだろう。物語の中心は、ハイジャック機"SHADOW81"と旅客機"PGA81"と管制塔のやりとりが中心で、全体的にストイックな作りだ。センチメンタルな要素は全くなく、安心して読める。小説なのでネタバレは避けるが、読んで損することはないだろうし、特に読んで不愉快になる人がいる気もしない。

全く個人的な話だが、この小説を始めて見たのは、高校の図書室でのことだった。もちろん翻訳版の新潮文庫だったが、ただ二機の飛行機が青空を飛んでいるだけのカバー絵に、「シャドー81」というストイックなタイトルがカッコ良かった。原書よりずっと良い。どうも当時からわたしの趣味は変わっていないらしい。内容もその通りストイックなので、映画映えしないかもしれない。結局、高校の時には読まなかったが、ずっとひっかかっていた。もう一つ同じひっかかり方をしているのが坂口安吾「不連続殺人事件」で、これもこれから読むつもり。

An extremely good hijacking novel.

New English Library Ltd (February 5, 1976)
Language: English
ISBN-13: 978-0450028564

2018年12月7日金曜日

Elisabeth Vanasse "Récits coquins des plaisirs défendus" [禁じられた喜びの淫らな話]

短編エロ小説集。一話は数ページ程度ですぐに読める。読者はほぼ女性のようで、あまり詳しく設定されていないが、すべて、だいたい30前後の独身女性の独白という形で書かれている。内容はというと、ただ色々な状況と趣向でヤリまくっているだけで、特に情緒も感情も何もない。というか、そんなことは読者が好きに想像すればいいんで、書かないほうが良いのだろう。暴力的な内容はないが、場合によっては生理的に受け付けないような場面もあるだろう。これもフランス語の勉強になるかと思って読んでみたが、果たしてなったのかどうか…。仏検二級くらいなら辞書さえあれば読めるだろう。幾つか普段は勉強しない単語があるくらいで、同じ単語が何度も出てくるし特に難しくはない。ただ、別の局面で使える単語でもなく…。

Un peu trop barbares....

J'ai lu (11 septembre 2010)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2290017555

2018年12月6日木曜日

Robert Cialdini "Pre-Suasion: A Revolutionary Way to Influence and Persuade" [事前説得:影響と説得のための革命的方法]

目次:1.Pre-suasion:注意の前倒し 2.連想の役割 3.最良実施例:Pre-suasionの最適化

タイトルのpre-suasionはpersuasionのperをpreに変えた造語。効果的な説得のための戦略(下準備)をまとめたもの。何でも"Influence"という有名な前著があってそれの更新版みたいなことらしい。互酬性を利用するとか連想の力を使うとか環境に気を遣うとか、まあ、この類の話に馴染みのある人には、それほど目新しい話はない。ただ、馴染みのない人は身を守るためにも読んでおいたほうが良い。我々は常に宣伝広告営業に晒されているし、専門家はこの程度のことは当然知っている…知らなくてもこの本読むはずだ。

わたしがこの本を知ったのは、直接にはWin Biglyからだが、この本は余計な自慢話などがないから遥かに読みやすい。中核的な主張も、Win Biglyに比べれば全然控え目だが、大よそ似た線と言っていいだろう。要するに、我々は自分で考えていると思っているが、実は無意識のうちに色々な技術で操られているということだ。わたしとしては他人を操作する用事がほとんどないので、その点はどうでもいいが、自分の行動を律するためにpre-suasionの技術も使えるわけだし、そのうち何か有効な使用法を思いつくかもしれない。しかしまあ、この類の本を読むたびに、自分の力で考えていることなんてほとんどないんだなあと思う。翻訳はあまり良くないという話もあるが、読めるだろう。

A good textbook. We think almost nothing by ourselves....

Simon & Schuster (2016/9/6)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1501109799