2023年11月19日日曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid #18: No Brainer" [軟弱な子供の日記#18:簡単なこと]

随分評判が良いようだが、そこまでかなあ…というような。ここまでこのシリーズはスピンオフも含めて全部読んできていると思うが、このシリーズにしては低調なほうだと思う。主人公の通う公立中学校がどんどん貧乏になって、どんどん小銭稼ぎに走っていくみたいな話。もちろん面白いし退屈しないで一気に読んでいるが、これで絶賛されるというのは、一つにはそもそもGregの語り口が面白いのはあると思うが、何かわたしには欠けている感性があるのかもしれない。社会風刺と言えば褒め過ぎか。アメリカ人にとっては校長が商売人とか、金で生徒の待遇に差をつけるくらいのことは普通だろうしな…。

Funny enough, though this is not the best book of this series.

Harry N. Abrams (2023/10/24)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1419766947

2023年11月10日金曜日

Les Giblin "How to Have Confidence and Power in Dealing with People"[自信と力を持って人を扱う方法]

原著1956年刊の自己啓発書。内容はタイトル通りで、要は「相手の話を聞け(論破するな)」とか「相手を褒めろ」とかなんかそんなことで、はっきり言えばMachiavellian manipulationと言ったら言い過ぎかもしれない。わたしみたいに人づきあいが極端に少ない人間でも、まあそうだよねと思うところもあるし。それで思い出したが、Erving Goffmanというあまり面白くないカナダの社会学者がいたが、時代的にもそういうことだったのかなあとも思う。自己啓発の系譜として学校歴史でも習うような「自助論」(西国立志編)みたいな頃からは相当時代が進んでいて、Dale Carnegieよりも後だし、それよりは全然今時の本に近い。

A nice little reading.

Les Giblin Books(1956/1/1)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0988727533

2023年10月21日土曜日

Richard Earl "Mathematical Analysis: A Very Short Introduction" [数学的解析:非常に短い入門]

目次:1.無限を飼いならす 2.すべて変化…フェルマーとニュートンとライプニッツの微積分 3.極限へ:18世紀と19世紀の解析 4.計算機を信じるべきか 5.たくさんの次元 6.その曲の名前を当てます… 7.解析にiを入れる 8.しかしさらに…

タイトルが分かりにくいのはVSIの通例というわけではなく、数学で言うAnalysis[解析]という言葉が日常語と少し違うため。この本は要するに日本で言えば高2~大2くらいで習う微積分の概観。似たような本はいくらでもあるような気もするが、VSIということで一応読んでみた。内容的には普通の高校生ではちょっと難しいかもしれない。この類の洋書でよくある話で、三角関数や虚数も定義から話しているが、三角関数を知らないレベルの人がこの本を読み切れるはずがない。大学生、特にformalな教科書で微細な技術ばかり勉強させられてどこに向かっているのか道を見失っている大学生が最適な対象読者だろう。

第二章までは高校で習う程度の数学かもしれないが、既に第三章でテイラー級数とか偏微分方程式とかリーマン積分とか言っている。第四章は数値計算の話で、類書にはあまり見ない内容ではある。第五章は解析幾何学でベクトル場を扱う。第六章はフーリエ分析。第七章は複素解析。第八章はルベーグ積分とか確率密度関数などその他という構成。

個人的にはだいたい一通り勉強したことがあるような内容だが、まともに勉強すれば普通は数年かかる課程をこの薄い一冊に話としてまとめているので、話が荒いのは仕方がない。数式展開が長くなる部分はAppendixで説明されているが、素人のわたしから見ても、正直なところ全然足りない。VSIでも数学は何冊かあるが、特にこの微積分みたいな話は、学問というより技術なので、自分で手を動かさないと習得できないところがある。あくまでメインの数学書を読んでいる人の副読本みたいな感じだろう。何も知らない人が解析とはどんな感じだろうと思ってこの本を読んでも途中で分からなくなる気がする。そこまで親切な本ではない。

A great choice for bedtime reading for those who have previously studied mathematics at the university level.

Oxford Univ Pr (2023/9/22)
言語: 英語
ISBN-13:978-0198868910

2023年10月10日火曜日

Terry Pratchett "The Light Fantastic" [想像上の光]

Discworldシリーズの第2巻。このシリーズは順に読まないといけないわけではなく、基本的には各巻で完結しているが、この巻については先に第1巻"The Colour of Magic"を読んでおくべき。前の巻も一応完結してはいるが、この巻はそこから直接話が続いていて、主人公は相変わらずRincewind:the wizardとTwoflower: the touristさらにThe Luggageという謎の宝箱だ。第1巻の出版が1983年でこの第2巻は1986年。わたしはここの記録によると第1巻を読み終わってから一週間で読み終わったらしい。

前の巻は良くわからない落ちで、主人公たちはそこから回収されて、どうやって回収されたか謎のままだが、まあいい加減な話なんでどうにでもなるというような…。この時点では作者はDiscworldがこの先どんどん広がっていくとはまだ思っていない。前巻はRincewindとTwoflowerが火災保険のせいで大火事になった町から脱出して誘拐されたり逃げ出したりしていただけだが、この巻は世界の終わりとRincewind個人の人生がリンクしていて話はややシリアスである。最後はちょっと寂しいが、ある程度長い小説を読んだ時の常だ…。相変わらず特に中身はないが、久しぶりにちゃんと終わった小説を読んだ気がする。そしてRincewindもTwoflowerもいずれまた出てくるらしい。

Fantastic. Honestly, I like Twoflower.

Gollancz (2014/8/7)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1473205338

2023年9月29日金曜日

Terry Pratchett "The Colour of Magic" [魔法の色]

1983年発表のイギリスのcomic fantasy。本書はDiscworldシリーズの第1巻ということになるが、シリーズはこの後40巻続き、全てベストセラーになり、映像化もされたようだ。

物語の舞台となるDiscworldは剣と魔法の世界で、あまり治安のよくない町にTwoflowerという能天気な観光客がやってくる。背が低くて小太りで眼鏡をかけていて(four-eyes)、首からカメラ的な物をぶらさげている。言葉が分からないが、話す時は会話集のような本を見て話す。これは当時の典型的な日本人観光客のイメージらしい。危機感もなく金をいっぱい持っているので強盗などに狙われることになり、当初、落第魔法使いRincewindも金目当てで近づいて持ち逃げしようとするが、ひょんなことからTwoflowerの護衛をしないといけなくなる。そこからのTwoflower & Rinsewindのドタバタ喜劇。

実質的にはラノベ相当と言っていいのかもしれない。寝不足になる系で、わりと一気に読んでしまったが、普段わたしが読むような小説とはかなり違う。

①タイトルの綴りからも明らかだがイギリス英語である。普段Holmesとか読んでいても米英の違いなんかほとんど気が付かないが、なぜかこの本についてはかなり引っかかる。時代なのだろうか。four-eyesという言い方にしても、Manolito Gafotas/Manolit four-eyesとここでしか見たことがない。

②物理的なアクションが多い。映像と違い、文章で読んでいると何が起こっているのか少し考えないと分からなかったりする。しかもファンタジーの世界なので、文章から現実を逆算するというより、TVシリーズならどういうコマ割りかとか、cartoonならどういう絵なのかという逆算になる。例えばThe LuggageというTwoflowerのペットみたいなのがいる。要するにマンガに出てくるchest/mimic(ドラクエのミミック)みたいなのだと思うが、猛犬みたいな動きもするし、実際の絵は読者のほうで適当に想像するしかない。

③伏線的なものがほぼ回収されない。設定やキャラが散りばめられているが、行き当たりばったりの印象が強い。もっとも、この後40巻もあるんだから、いくらでも設定や伏線は回収する時間はある。筆任せという意味では、わたしは中里介山「大菩薩峠」を思い出すが、最近流行りの考察系みたいなのより気楽でいいかもしれない。

④現実(1983年の英国)への参照が多い。一番印象に残るのは"to boldly go where no man has gone before"という有名なStar Trekのフレーズの参照だが、当時は誰でも知っていたとしても、今となっては相当なSFファンしか気が付かないかもしれない。Twoflowerが首からかけているカメラみたいな物は、中で小人が絵を描いているが、この話が成り立つにはポラロイドカメラが普通である必要がある。当時はまだデジカメがない。フラッシュ(実際にはサラマンダーの虫かご)を焚くのに時間がかかるのも重要なポイントだが、今の常識とずれる。

⑤とにかく中身がない。comic fantasyということでは、昔Alan D. Foster "Spellsinger"を何巻か読んでいたが、読後感がそれに近い。これを読んでもただ面白いだけで後に何も残らないし、人に語ることもない。では、なぜわたしがこの微妙に古い本を読んだのかという話になるが…。

詳しく知らないが、最近、Good Omensというテレビドラマが流行っているらしい。腐女子向けと思われ、わたしは見る気もないが原作がTerry Pratchettらしい。どこかで見た名前だと思ったが、わたしが長年やり続けているコンピュータゲーム"Nethack"の中で見る名前だった。

Nethackは1987年に発表されて改良され続けている昔ながらのフリーのRPGだが、ゲーム内の書店によくTerry Pratchettの小説が出てくる。RPGなので最初に主人公の職業を選ぶが、最も難易度の高い職業としてtouristが用意されている。これは完全にTwoflowerがモデルであり、ゲーム内にも特殊なキャラとしてTwoflowerが登場する…。

というような引っかかりがなかったら一生読まなかったかもしれない。改めて本屋に行くと、Terry Prachettの本は結構平積みされている。わりとケバい表紙のペーパーバックばかりだから今まで目に入っていなかった。そんなに真剣に読むものではなく、旅行中のヒマつぶしにでもというところか。そのうち次の巻"The Light Fantastic"も読むだろう。

A great overture.

Transworld Digital (2008/12/26)
言語: 英語

2023年9月22日金曜日

Arthur Conan Doyle "The Memoirs of Sherlock Holmes" [シャーロック・ホームズの思い出]

緋色の研究(長編)→四人の書名(長編)→シャーロックホームズの冒険(短編集)に続く第二の短編集。いわゆる正典で、間違いなく面白いし、特に世評に重ねて言うことはない。前から気になっているのは、Doyleという人は文体が一種類しかないのだろうか。作品の性質上、語り手はWatsonかHolmesか依頼人その他ということになるが、全員がほぼ同じ文体で、落語で言えば声色を使い分けないタイプだ。ともあれ、ホームズはこの本の最後の短編"The Final Problem"で終わりということになるはずだった。しかし、熱烈なファンから脅迫されたり、連載していた雑誌の売り上げが激減したりで、結局、また復活することになる。わたしとしてもこれでホームズ死亡と言われても急すぎると思う。次はバスカヴィル家の犬(長編)。

Who am I to review a holy canon?

Wisehouse Classics (2020/1/1)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-9176376614

2023年9月7日木曜日

George Polya "How to Solve It" [いかにして問題をとくか]

数学の問題を解くための方法論や指導法みたいなこと。世界的に名著とされているので一応読んでみはしたが…。ちょくちょく挟まっている数学の問題の例は面白いところもあるから一応読めるが、はっきり言って退屈だった。なぜこの本がそんなに讃えられるのかは謎である。この本は名声が確立しているし、一応数学書だから褒めておいてレビュアーにとって損がない、というのは別として、数学の先生の指導法ということならもしかして役に立つのかもしれない。あと、ぱっと見、日本語はもっと読みにくそうだ。

Boring....

Penguin (1990/4/26)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0140124996

2023年8月19日土曜日

Robert Waldinger, Marc Schulz "The Good Life: Lessons from the World's Longest Study on Happiness" [グッドライフ:幸福に関する世界で最も長い研究からの教訓]

なんか日本語訳も売れているらしく、Amazon売り上げ何位とかTED発とか、およそ読む気のしない宣伝文句が並んでいたが、こういう本も謙虚な気持ちで読んでいくかというようなことで読んでみたが。

内容はというと「幸福な人生には人間関係が重要」ということに尽きており、この一点について手を変え品を変え色々説いているだけ。いや、本当のことを言うと手も品も大して変わっておらず、内容への賛否はともかく、かなり単調な読み物と言っていいんじゃないだろうか。

ということであんまり感心しなかったのだが、世間の圧倒的な好評の前にわたし一人の文句なんか無意味だろう。人間関係については時折色々考えることもあるが、この本から何かを得た気がしない。確かにTED Talkの視聴者層が好きそうな本だ。

Exclusively for TED listeners. I mean, it is exclusively for those who have personal likings which TED listeners tend to have.

Rider & Co (2023/1/12)
言語 : 英語
ISBN-13 :978-1846046766

2023年8月2日水曜日

Richard Bellamy "Citizenship: A Very Short Introduction" [市民性:非常に短い入門]

目次:1.市民性とは何でなぜそれが問題なのか 2.市民性の理論と歴史 3.成員資格と所属 4.権利と「権利を持つ権利」 5.参加と民主主義

まずタイトルcitizenshipは「市民権」と訳すと狭すぎるということで、権利の他にも共同体への参加や所属意識的なことも含むということで適当な訳語がない。そもそもcitizenを市民と訳したのが、明治時代の人にしては下手だったのではないかとか思う。「公民性」のほうがマシかもしれない。諦めて「シチズンシップ」で済ませるのも多いようだ。

と言うと規範的なお説教のようなニュアンスが生じるが、この本はそういうことではない。もちろん著者の「かくあるべし」というのはあるが、現実の問題を考えると簡単な話は少ない。著者の書き方が晦渋すぎるという評判もあるが、物事を丁寧に考えるとこうなるしかない気もする。ということで、「こういうことです」とこの本を簡単に紹介できないというような…。

例えば、3章成員資格のところは、ムチャクチャ大雑把に言うと「どういう人間に参政権を認めるか」というようなことで、昔からいろんな基準があった。古代ギリシアであれば「いざという時に国のために戦って死ねるか」、つまり徴兵に応えられるかが基準になっていた。国家総動員となった第一次世界大戦に女性参政権が一気に拡大したのもその伝統の上云々。他にも国内に土地や財産を持っているかとか、その国の言語や文化に通じているかとか、居住歴とか色々。いつでも国外に逃げればいいやと思っている奴に投票権なんか与えたくない気持ちも分かるし。

4章の「そもそも誰でも持っている人権」と「その共同体に所属している人間だけが持っている権利」の関係も面白いところだが、考えれば考えるほど単純に折り合いの付く話ではない。実務的には一件一件考えていくしかないんだろうけど。色々面倒くさい話だが、これを考え抜ける人でないと政治には向いていないのかなあとも思う。

Summarizing is challenging due to the profound nature of the author's thoughts. Challenging to read, but worth the effort.

Oxford Univ Pr (2008/11/30)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0192802538

2023年7月17日月曜日

Bill Perkins "Die With Zero" [ゼロで死ね]

特に日本語訳が売れたらしい。大雑把に言うと、財産を残して死ぬ人間が多い現状に対し、「金を使い切って死なないと勿体ない」と主張する本。遺産を相続させたり寄附したりするんなら今すぐやれみたいな…。つまり、ある程度資産がある人か、これから資産を作る/得る見込みのある人が対象読者ということになる。

わたしの理解では、主張の前提になる命題は二つある。一つは、資産形成を初めてどこかの時点でピークを迎え、そこからは資産を減らして行って死ぬ時にゼロになるのが最も得という考え。わりと常識的な考えと思うが、実際には死ぬまで資産を増やしている人も多く、これはムダであると。もう一つは、若いうちのほうが同額の支出から大きい幸福を引き出せるという考え。例えば若いうちなら留学したりして数百万円から色々な幸福を引き出せるが、死ぬ間際でロクに動けない時に同額の金があっても大した幸福を引き出せない…みたいなことらしい。多くの人は自分の加齢を計算に入れずに支出を先送りし過ぎていると。

この二つの命題を考慮すると、著者の主張では45-60歳の間に資産のピークを迎えるのが最善だそうだ。これは、例えば日本の国家資格であるFP技能士の標準的な教えからすると、確かに早めではある。わたしもFP2級を持っているが、だいたい退職時ピークの計算になっている。本書の主張のコアはそういうことで、残りの部分は必要以上に不安がる人の説得に当てられている。もちろん寿命は誰にも分からないし、死ぬ瞬間にちょうどゼロにするなんて不可能だから仕方がないが、それにしてもみんな財産を残し過ぎだとか。

この件については各人で状況が色々なんで一般的なアドバイスはないが、とにかく、この界隈の出版物の言うことがだいたい安全側に傾きすぎというのは確からしい。わたしとしても、どうしたもんかねと考えることはあるが…。この本が前提にしている価値観、例えば「人生の最大の目的は思い出作り」とか、そういうのにまず共感できるかというのもある。「死ぬ時に年収分の財産を残していたら一年分ムダ働きしたことになる」とかいう考え方も、そうなんかなあとか。

ともかく、本質的には、資産額に焦点を合わせるのではなく、支出から得られる幸福を計量単位にして支出を最適化したら、通常思われているより早めの時点に資産額のピークを設定したほうが良いと言う話であった。今言った話が理解出来たら、別に読まなくてもいい…というのは言い過ぎか。読む人によって引っかかるところも違うだろうし。世間に蓄財本はいくらでもあるが、金を使えと主張する本は少ない。わたしとしては、別に節約家のつもりはないが、読書以外にナチュラルに金を使わない人間なので、いざ支出しようと考えても難しかったりする。クビになったら特に考えなくてもゼロで死ぬかもしれない。そんなことまではこの著者の知ったことではないようだが、色々と考えることはあった。

In spite of all the ads we see every day, few books urge you to spend money. This book made me think about money in a different way.

Mariner Books (2020/7/28)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0358099765

2023年7月14日金曜日

Philip N. Jefferson "Poverty: A Very Short Introduction" [貧困:非常に短い入門]

目次:1.導入 2.歴史 3.測定 4.生活 5.労働市場 6.分布と移動性 7.貧困と戦う 8.貧困はどこへ?

これは趣旨が分かりにくい本だった。VSIのこういう巨大過ぎるタイトルは①学部生向け学科案内②大家による学界近況雑感③素人にも分かる面白トピック集みたいな三種類くらいがあるが、これはそのどれでもない。強いて言えば、この先生の講義に出るならこれくらいのことは知っておけというような統一性のない散漫で広範な知識集というところか。授業の副読本として学生に買わせるのだろうか。しかし、考え方とかモデルとかが何も表示されない。どういう基準で選択したのか分からない、密度の低い事実が並べられているとしか思えない。こういうタイトルの本をわざわざ作るんだから、著者の政治的主張もあるはずだが、それをあまり言わないからますます読みにくい。政策提案ないし価値判断が明白にあって、それに向かって事実を記述していくスタイルなら、公平性は疑うにしてももっと読みやすくなるはずだが。

と思いながらも読んでて面白い事実もいくつかあったが、自然科学とか人文科学ならまめ知識として面白いというようなことだが、社会科学で孤立した事実だけ知っても全体情勢を反映しているかどうか不安過ぎる。他にも文句は色々あるが、もういいだろう。ちょっと不可解な本だった。

Sadly, I foound this book boring.

出版社:Oxford Univ P(2018/10/1)
言語:英語
ISBN-13: 978-0198716471

2023年7月13日木曜日

Ross H. Mckenzie "Condensed Matter Physics: a Very Short Introduction" [凝縮物質物理学:非常に短い入門]

目次:1.凝縮物質物理学とは何か? 2.物質の数多くの状態 3.対称性の問題 4.物のオーダー 5.平面国の冒険 6.臨界点 7.量子の問題 8.トポロジーの問題 9.創発性 10終わらない前線

タイトルは色々問題があるが、日本では「固体物理学」とか「凝縮系物理学」とか「物性論」とかいう辺りの話。図書館などでその辺りの棚を見れば分かるが、前提知識が多すぎて素人にはわりと見通しの利かない分野だ。この本で強調されているのは、量子力学的な効果がマクロの世界で観察される現象、特に超伝導と超流動だが、創発性もかなりうるさく描いていて、こっちのほうが本質なのかもしれない。うるさく、というのはやたら適当に社会科学に言及するのがわたしの趣味じゃないというだけで深い意味はない。他にももっと予算を的な話とか、ちょっとクセがある書き手かなあ。

同素体の話とか量子力学の話とかわりと初歩的なところからしていて、わたしはこれ以上易しい物性論の本を見たことがないが、それでもVSIの中でも難しい側の本かもしれない。たまたま今手元に初歩の教科書として有名な黒沢先生の「物性論」があるが、比較すると、もちろんそれよりは全然非技術的だが、見通しは立つのかなという気はする。

Condensed matter physics requires a tons of preliminary knowledge. This book is arguably the easiest introduction, though still difficult for a layman....

Oxford Univ Pr (2023/8/28)
言語 :英語
ISBN-13 :978-0198845423

2023年6月12日月曜日

Kenneth Libbrecht "Field Guide to Snowflakes" [雪片野外帖]

この著者はガチの固体物理学者で、どうも雪の結晶研究の第一人者っぽいが、この本は最も一般向けで、雪の結晶図鑑に近い。子供でも眺めていて楽しめるようなことだ。一応物理学者なのでそれなりに個々の結晶成長過程について説明もあるが、あまり深い話はない。結晶の成長中に湿度や温度が変化して六角形が削れたり角が伸びやすかったりするようだが、多分、現代科学でもそこまで詳しくは分からないんだろう。著者は実験室で人工的に雪を作ったりしているようなので、実際に論文を読んでみたら相当分かっているのかもしれないが。この本は読んでいる最中の別の本の参考文献に上がっていて、先にこっちを読んでしまった。わたしは昔からこういうのが好きだが、考えたらあまりこういう自然観察本はここに記録していない。最大の理由は、動植物だと海外と日本で違いが大きすぎるのであまり洋書を読まないからだが、雪や星についてはそんなこともない。本で読まなくても、著者のサイトSnow Crystals.comが楽しい。

Beautiful.

Voyageur Press (2016/9/1)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0760349427

2023年6月4日日曜日

Veronique Mottier "Sexuality: A Very Shor Introduction" [セクシュアリティ:非常に短い入門]

目次:1.セクシュアリティ以前 2.セクシュアリティの発明 3.処女か娼婦か:セクシュアリティのフェミニスト批判 4.寝室の中の国家 5.性の未来

かなりうんざりした本である…。まず扱っている対象が面倒なんだろう。近頃LGBTQだとかで全部の話についていっている人がそんなにいるとは思えないが、この本で話が整理されるわけではなく、さらに混乱が増す。フェミニズムだの優生学だの社会主義だのは序の口で、エイズだとか宗教だとかその他もろもろで、とにかくずっと論争の歴史を読まされるが、どの時点でも参加者が多すぎて誰が味方で敵なのかよく分からない。それどころか、そもそも何を争っているのかも分かりにくい。多分、著者はフェミニストで伝統的な男/女の対立を軸に考えているのだと思われ、別の視点の人からはいくらでも文句が出そうな気もする。

もう一つ言えるのは、最近VSIで読んだ奴隷とか優生学とかと同じで、この本も「断罪系」で、要するにこのテーマで中立な記述などというのがあり得ず、何かしらの価値基準からしか記述のしようがないのだが、上のような理由で著者がどの基準で見ているのかが分かりにくい。奴隷については奴隷制反対とか優生学については優生学は悪の疑似科学とか価値基準が分かりやすいが、セクシュアリティについてはそういう分かりやすい基準がない。著者の価値基準はだいたい書きぶりから察しがつくというようなものだが、だとしたら、著者が自分の価値観を明示しないのは良くない気もする。

あと、これは明白に書き方の問題だと思うが、何か全体に具体的な話が薄い。多分、著者は具体的な話より理念の交錯というか政治的な対立のほうに興味があるのだろうか。確かに同性愛のフェミニストと異性愛のフェミニストの関係とか、これに右派左派とか優生学に対する態度とか、人種差別がどうとか、直交する概念がどんどん加わってきて、誰と誰が何を巡って戦っているのかものすごく分かりにくい。参加者がみんな必死なのは確かだが。

総じてVSIでたまにある「テーマか巨大過ぎる」というパターンだと思う。これはこれで資料性があるのかもしれないが、誰が見ても公平なわけではないだろうし、ちとintroductionというのは無理がある。そして、基本的にギリシア・ローマから始まる西欧の話で、世界の他の地域はほぼ無視されている。素人にはお勧めできない。

At least I can say this is not an introduction.

Oxford Univ Pr (2008/6/23)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199298020

2023年5月29日月曜日

Jean Grondin "L'Herméneutique" [解釈学]

これは夢中で一気に読んだ。単純に読んでいて面白いのもあるが、実際、解釈学の概観としてこれが至上の基本書ではないだろうか。ただ、Que sais-jeのわりにガチの哲学書なんで、普段ハイデガーやデリダの言い草に馴染んでいないと何を言っているのか分からない可能性が高い。哲学科の学生は挑戦するべきだが、初心者にはお勧めできない。

もう少し簡単なのをということなら、Oxford Very Short Introductionにも"hermeneutics"というタイトルがあり、少しめくっただけでしっかり読んではいないが、多分あっちのほうが初心者向きだろう。

まず解釈学とは何かという話だが、古典的な意味では単に修辞学の逆である。伝えたい意図を言葉にする技術が修辞であり、言葉を解釈して著者が伝えたい意味を再構成する技術が解釈である。伝統的には聖書の解釈が大きな分野だが、法律の文章の解釈は今でも日常的に問題になっているし、昔の文学の解釈はそれだけで専門分野だし、学校の国語の授業でもそういうことを教えている。

次の段階として、19世紀になって「人文科学も自然科学のように客観的真理を得なければならない」という風潮が強烈だった時期があり、その時代には、人文科学の方法論として解釈学が議論されていた。この場合は、今で言う文学部の全分野、つまり文学も哲学も歴史学も社会学も、なんでもかんでも解釈学を使用することになる。解釈学が整備されれば人文科学も自然科学並みに客観的真理が得られると本気で信じられていたらしい。

第三段階として、本書でも頻繁に引用されるニーチェの「事実なぞ存在しない。解釈のみが存在する」みたいな話が出てくる。「時代の制約やイデオロギーや先入見を排除した完全に客観的な解釈は不可能」というくらいなら多分誰も反対しないと思うが、ここからどんどん話が過激になっていき、解釈のほうが事実に先行するみたいなニュアンスになっていく。もはや解釈学の対象は人文科学や社会科学だけでなく、自然科学も所詮社会的構成物なので解釈次第みたいなことになる。その究極が本書冒頭のソーカル事件みたいなことだろう。

本書の大半は第三段階の議論を巡っている。解釈抜きの生の事実なんか存在しないとか、人間は自らの目的に沿ってしか世界を解釈できないとか、そもそも解釈とは自分の先入見の破壊作業でしかないとか、誘惑的な過激な主張が色々出てくる。名前で言えば、ハイデガー・ガダマー・ハーバーマス・リクール・デリダなどが本書の主役だ。著者自身の立場は、事実は解釈による構成物に過ぎない的な虚無主義は避けているし、所詮我々は認識の枠組みの外に出られないとかいう悲観論も避けている。

そんなわけで、わたしの見るところでは、第三段階は古典的な事実vs解釈の関係を疑うのと解釈の前提になる構造(先入見・イデオロギー・パラダイム・実存…)を重視するのが大きな特徴だが、著者の視点がわりと穏当というか多分ガダマーに忠実なので安心感がある。個人的には「理解するというのは他人を自分の理解体系に組み込んで支配することなんじゃないんですか? 対話によって理解するなんて怖いんですけど」みたいなデリダ的言い草に馴染んでしまっており、それそれで生理的実感みたいなものだが、それ自体も解釈でしかない。…思考は永遠に続く。久しぶりに良い哲学書を読んだ。

C'est le meilleur livre sur l'herméneutique que j'ai lu.

QUE SAIS JE; 5e édition (11 mai 2022)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2715411128

2023年5月25日木曜日

George S. Clason "The Richest Man in Babylon" [バビロンの大富豪]

あまりこういう蓄財本は読まないし、読んでもあまりここに書いたりはしないのだが、たまたまタダで読めた。有名な本は有名というだけの理由で読んで損はない。大雑把に言うと、例えば収入の1/10を貯蓄せよとか、賢明に投資せよとかいう教訓を古代バビロンを舞台にした寓話で教えるような本。書いてあるのは一般的な教訓で、具体的な投資手法が書いてあったりするわけではない。そもそもの原本が1926年刊とかで、今に至るまでずっと売れ続けてきた本かどうか知らないが、最近書店で日本語訳が平積みになっていたりする。確かに読みやすいが、こういう本が読まれるのはいろいろ考えさせられる。

この話の舞台になるバビロンは、自由人と奴隷がいるようなとんでもない格差社会で、かなりの部分が奴隷がいかにして自由人に成り上がるかという作戦に充てられている。奴隷と言っても昔のアメリカの黒人奴隷とは違い、財産を持っても良いし、自由人が奴隷になったり逆もあり得るというような設定で、要するに現代社会で言えば労働者と資本家ということになるのだろう。だから、この本はいかにして労働者が成り上がって資本家側になる方法として読まれている。勤勉・倹約・投資…。ちゃんとした家を持てというのはいかにもアメリカか。

現代社会で自分=労働者=奴隷と定義した上で、自分も自由人=資本家(投資家)になりたい/なれるという世界観の人がどれくらいいるのか分からないが、こういう本が売れる以上は、それなりにいるんだろう。こういう本がそういう世界観を広めている面もありそうだ。そもそもの話として、労働が好きで、その労働が十分な生活費を出してくれるなら、こんな世界観になるわけがない。しかし現実には多くの人が労働が嫌いか、または好きな労働をするための資金がない。高齢その他で働けなくなる可能性もある。

多くの人はFPがどうとかいうレベルではなく、全く基本的なことも知らない。単純な話で、収入-支出=貯蓄ということも良くわかっていない人がたくさんいる。こういう本はある意味ボーダーラインの人たちに有効かもしれないが、しかしどうなんだろう。たいてい詐欺師に騙されるだけのような気もするが…。現に株をやる個人の大半は損をする。

In reality, building a solid financial foundation takes time and dicipline...and enough intelligence....

(2023/4/5)
言語: ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 979-8386374105

2023年5月23日火曜日

Klaus Dodds, Jamie Woodward "The Arctic: A Very Short Introduction" [北極:非常に短い入門]

目次:1.北極の世界 2.物理環境 3.北極の生態系 4.北極の人々 5.探検と開発 6.北極の統治 7.北極の炭素貯蔵 8.北極の未来

目次から明らかなように、北極に関するほぼ全学問分野からの概説。高校の科目で言えば地理でも生物でも地学でも世界史でも政治経済でも、ここまで北極に詳しいことは求められないだろう。

人によって興味のあるところは違うとは思うが、わたしとしては、地球温暖化についての北極圏の役割は想像を超えていた。北極圏には前の氷河期以前に生物蓄積れた大量の炭素が保存されており、現在永久凍土がどんどん溶けて、大量の二酸化炭素とメタンが放出中と。地政学も面白いところだ。温暖化がどんどん進んでおそらく今世紀中に少なくとも夏場は北極海が航行可能になると例えば英国と日本が近くなる。スバールバルでは今もロシアが戦略上の都合から無意味に石炭を掘っているとか。グリーンランドがそのうち独立すると、資源を求めて中国資本などがどんどん入ってくるだろう。とにかく、今どんどん永久凍土が沼地化していると同時に、資源開発も進んでいる。

…というようなことはこの本では後半だが、こういう話を正しく理解するには、この本を全部読む必要がある。結局、物理環境とか生態系とか先住民の権利とか、全部絡み合っている。VSIではThe Antarctic南極(Klaus Dodds著)も面白かったが、現在の温暖化の進行状況を考えるとこっちのほうが必読かもしれない。

Authoritative apoaches to the arctic zones from all areas of scholarship.

Oxford Univ Pr (2022/2/1)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-0198819288

2023年5月21日日曜日

Philippa Levine "Eugenics: A Very Short Introduction" [優生学:非常に短い入門]

目次:1.優生学の世界 2.優生学的知能 3.優生学的生殖 4.優生学の不平等 5.優生学その後

不勉強な分野だったので読んで良かった。わたしの理解では、優生学は確かに一時期普通の思想だったが、一応死んだ科学だし、人権がどうこうとか倫理に訴えるまでもなく、現代の生物学の水準では簡単に論破されるような話である。不勉強だったというのは、ここまでえげつない大災害だったとは思わなかったというのと、冷静に考えると、その頃の言い回しというか論法が現代日本でも普通に生き延びている。

現代日本でも普通という点については、例えば、わたしの大学の研究室の教授なんか普通に「賢い人は賢い人と結婚して子供も賢いからどんどん格差が広がる」と言っていた。もちろん、これだけ聞けば文化資本の継承みたいなことかもしれないが、そいつの日頃を知っている学生は当然遺伝のことを言っているのが分かっていた。人間の価値を生産性-維持費で計算するのは今でも普通に聞く話だ。高齢化で困るとか言っているのは、はっきり言えばそういうことだろう。遺伝子スクリーニングは普通に行われている。昔と違うのは国家が断種まで強制してやるか、個人が自主的に中絶するかの違いだけだ。

実際に起きた被害は、もうこの本を読んでもらうしかない。別にナチ支配下だけで起こったことではなく、その頃はアメリカでも西欧でも日本でも世界中どこでも普通に国家による強制不妊手術はあった。ちょっとその規模がわたしの想像を大幅に超えていた。倫理的な判断はちと苦手だが、まずは事実を知ったほうが良い。

一方で、優生学の理論自体への科学的反論はあまり触れられていない。優生学自体に科学的根拠がないのは自明という態度だ。わたしもその点は同意だが、多分、日本に限らず、そこから説明したほうがいいのかなとは思う。Amazonのレビューでもその類の文句があり…。

こういうの、学校でも教えるべきなんだろうか。しかし、この前読んだ奴隷制の話の時にも思ったが、そもそも学校の先生になるような人は「べき」の強い人が多く、「べき」の強い人の下位集合として「人を断罪するのが好きな人」というのがいて、そういうのが左翼社会科教師とかになって生徒がうんざりするという…。なお、優生学の支持者は別に右翼も左翼も関係がない。むしろ社会主義者やフェミニストのほうが多かったような印象を受けるが、基本的には進歩的知識人みたいな人の間では常識だったんだろう。ここでもカトリックは反対のほうが強かった印象があるが、何とも言えない。ちと禍々しいタイトルというか、ほとんどホラーだが、読んでよかった。

An excellent summary of this important subject.

Oxford Univ Pr; 2nd版 (2017/1/2)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0199385904

2023年5月18日木曜日

Heather Andrea Williams "American Slavery: A Very Short Introduction" [アメリカの奴隷制:非常に短い入門]

目次:1. 大西洋奴隷貿易 2.奴隷制の成立 3.奴隷労働 4.支配の困難さ 5.奴隷制を生き延びること 6.奴隷制の解体

テーマがテーマなので書き方がエモくなるのは避けられないが、VSIにありがちな「大学新入生のための研究入門」というよりは、中高生相手くらいの歴史語りに近い。このテーマで研究方法論みたいな話をされてもマニアック過ぎるし、こういうanecdoteの多いノンフィクションのドキュメンタリーみたいなのほうが勉強になる。気持ちが暗くなる話が多いが、基本的にアメリカという国が奴隷労働で作られた国だし、これはアメリカ人に限らず、日本の中高生くらいでも読むべきだろう。こういうのを高校の熱い社会科教師とかが教えると生徒のほうは白けてしまいがちだが…。

焦点は奴隷制の「生きられた経験」みたいなことにあり、奴隷や奴隷使用者の主観的な経験を主軸に描かれている。背景となる社会事情などを詳しく知りたいならこの本ではないが、しかし、こういう語りをすっ飛ばして社会状況なんか研究しても意味がないだろう。ちと短か過ぎるのが残念なくらい。断罪的な記述は避けられないが、日本人に分かりにくいのは、頻繁に言及される奴隷制とキリスト教の関係だろうか。この本だけ読んでいると、最初キリスト教を根拠にして、平気で残虐に奴隷狩りをして強制労働させていた白人が、謎の理由で真のキリスト教の精神に少しずつ目覚めて奴隷制が廃止されたみたいな印象を受けるが、わたしには到底信じられない。

かといって、「南北戦争は土地に縛られた奴隷を必要とする南部と賃金に縛られた奴隷を必要とする北部の対立であった」みたいなシニカルな記述はこの本の趣旨でもないし、白人の間にも良心の葛藤があったのは事実なんだろう。シニカルというか客観的な話が好みならそういう本を読むべきだが、その場合でもこういう本を飛ばしていいとは思わない。わたしの実感として、アメリカに限らず、白人の有色人種差別は想像を絶するほど根深いところがあり、これくらいのことは勉強しておいていいだろう。

あと、この本はリンカーンの奴隷解放宣言で終わっているが、この後も本当に公制度から人種差別がなくなるのはまだ先の話だ。Peanutsくらいでも、黒人の子と白人の子が同じクラスにいるのはおかしいとかで作者のSchultz氏が抗議されたりしている。奴隷解放宣言は1862年だが、公民権法が制定されたのは1964年のことで、その間も法制度上の差別は続いている。色々考えるところはあるが、基礎教養として万民が読むべき本だろう。

A must-read for everyone.

Oxford Univ Pr (2014/11/3)
言語:英語
ISBN-13:978-0199922680

2023年4月25日火曜日

Charles Phillips, Melanie Frances "The Sherlock Holmes Escape Book: Adventure of the Tower of London" [シャーロックホームズ脱出本:ロンドン塔の冒険]

ロンドン水道英国博物館解析機関に続くシリーズ最新作。四作も続いたわけだし、他言語にも翻訳されているから熱烈なファンも多いと思うが、わたしとしては、ここまでかな、という感じ。

システムは相変わらず読者がパズルを解くことによって話が進んでいく形式で、表紙の円盤のギミックも変わっていないが、この巻はもはや読者がパズルを解けることを想定していない。これまでの三冊も完全に自力解答で進んでいくのはちょっと無理だったが、この巻は答を見ても「なるほど」とはならず「無理でしょ」ということが多く、それも第一問から無理。項目数は96で、確か今までで最も少ないが、問題数は多分今までで一番多い。一番時間がかかったのもこの巻だ。テーマは副題の通りロンドン塔の各所を巡る感じで、一々ワトソン先生が歴史まめ知識を入れてくるのが、英国史に詳しい人は面白いかもしれない。

このシリーズ四冊、一つはっきり言えるのは、ペーパーバックなのに装丁が美麗なのが魅力。飾れるレベルだと思う。表紙がボール紙で強化されているのもポイントが高い。フランス語版とかがパズルをどう翻訳しているのか謎だが、日本語は無理かねえ。電子書籍にするのも大変そうで。児童書という扱いになると思うが、いい本だった。

The all four books in this series are extremely beautiful.

Ammonite Pr (2023/2/21)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1781454619

2023年4月20日木曜日

Charles Phillips, Melanie Frances "Sherlock Holmes Escape Book: Adventure of the Analytical Engine" [シャーロックホームズ脱出本:解析機関の冒険]

前二作、ロンドン水道英国博物館とだいたい同じ趣向で、中学生か高校生くらいが対象だと思うが、英語力の問題から難しいだろう。翻訳が簡単にできないのもはっきりしている。数学的には解けるだろうと思うが、久しぶりにガウスの掃き出し法を使う羽目になった。遊びなのになんでそんなことをと思う子がいても仕方がないが、PTAにはアピールできそうだ。タイトルから想像できるようにバベッジの解析機関がモチーフになっているが、あまり深い意味はない。単純なパズル本で、分岐とかも多少回り道があるだけで、完全解析も可能だ。

I love this series.

Ammonite Pr (2022/9/1)
言語: 英語
ISBN-13:978-1781454411

2023年4月12日水曜日

Marian Green "Charms, Amulets, Talismans & Spells" [チャーム・アミュレット・タリスマン・呪文]

ショッピングモール的なところに入っているこの類の海外グッズを集めているようなエスニック雑貨店が楽しめるのなら、参考になるというか勉強になるかもしれない。文化人類学というよりは手芸のテキストみたいに眺めるべきだろうか。自分で持とうとは思わないが、見ているのは楽しい。案外こういう本は見たことがないが、実際あまりないかもしれない。

Ideas for handcraft.

Bloomsbury Pub Plc USA (2018/10/9)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1635573060

William Vaughan "Shadows: in Nature, Life and Art" [影:自然・生活・芸術]

影について色々書いた本だが、基本的には美術なのかな。物理方面に関心がある人向きではない。といっても、どう影を描くかの参考にもならないだろう…。この本と関係ない話だが、浮世絵の異常な特徴…というか西欧絵画以外はみんなそうだと思うが、基本的に影は描かれていない。最近流行りの明治の新版画はわりとしっかり影を描くので、その点ではっきり江戸時代と違う。そんなわけで、初めて西洋の絵画を見た日本人は、「なんでこの人の顔はこんな変な色なのか」とか思ったらしい。結局、暗い色が影を表しているというのは三次元の視野を二次元に写す規則を学習して初めて理解できることで、人間の視覚が自然にそんな風にできているわけではない。このタイトルならこういうことを書くべきではなかろうか。魅力的なタイトルだが、特にここから夢が広がったりしない。

Very attractive title.

Wooden Books (2021/3/8)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263838

Serge Latouche "La Décroissance" [脱成長]

読むのに時間がかかったし、結論から言うと良い本と言えるかどうか微妙だが、考えることの多い本ではある。その間に日本語訳が出版されて、タイトルにも「脱成長」という非常に適切な訳が当てられた。

多分誰でも思うことだが、経済学を学び始めてすぐに「経済成長を続けなければ資本主義経済は維持できない」と教えられ、「いや地球は有限でいずれ限界が来るし現に人口は既に減り始めているし」と違和感を持つが、「人口が減っても生産性が上がれば問題ない」とか「持続可能な開発」とか意味不明な文言で言いくるめられてしまう。日本で言えば長年経済成長せずに特に生活水準が落ちている気もしないし、歴史的に見ても経済成長しないほとんどの時代でも普通に人間は存続してきた…。生活が良くなることの一つの指標として経済成長があり、別に経済成長しなくても生活が良くなればいいように思うが、今の風潮ではなんでもいいから経済成長が必要なことになっていて、何なら経済に貢献しない「生産性のない人間」は存在自体が悪みたいな…。そもそもサステナブルな社会のためにはどっちかというと成長しないほうがいいのでは…。

この一連の疑問は現代の価値観の中心部を直撃している。さしあたり地球温暖化ということでやむを得ず成長に制限が掛けられ始めたが、それでもグリーンニューディールで経済が成長すればいいとかそんなことになっており、ここで実質的な富の拡大と、金銭価値に換算した数値の成長が微妙に混同されている。それが本書でも言及されているような「自然環境の減価償却を計上せよ」みたいなことで全部解決するのか不明だが。

ということを日頃思っていて"Que sais-je"でこのタイトルに出会ったので即買いしたが、とにかく読みにくい。フランス語が難しいわけでなく、一つには衒学が過ぎるのと、一つには感情が多すぎる。多分、著者はものすごく論争を経験してきているのだろう。こういう話はすぐに「じゃあ石器時代に戻れというのか」とか「GAFAが悪い」というバカみたいな話が出てくるし、著者がその類の話から完全に自由だとも思わない。アングロサクソンの価値観はとか言う文句が典型的だが、わりと最初のほうで熱力学の第二法則とか言い出した時点でうんざりする。

しかし、これが脱成長の第一の論客ということでもあるので、読んで損のないところではある。著者の論理の根源は、成長がどうこうというより、生産力至上主義に対する批判だと思われる。従って人口が減ればいいという考えではない。これは資本主義でもマルクス主義でも関係がない。その意味では怠ける権利の正統後継者なのかもしれない。それに付随する諸概念は人によって賛否があるだろう。やたら連帯solidaritéを強調するのはフランスの伝統だから仕方がない。生態系的制約は誰も多分異論はないが、原発がどうとか個別の話はまた別かもしれない。グローバリゼーションを敵視するのはどうかとか、格差問題とリンクさせるとか他にもいろいろある。特に脱成長で失業問題が解決するとか言われても、フランスと日本では状況が違い過ぎる。こっちでは労働力不足が問題で。

ちと論点が多すぎてまとめきれない。結局、脱成長という概念自体は、「そんなに成長成長言わなくても」くらいのことなので、色々個別の政策として考えるというよりは、もっと根本的な社会全体の価値観の変化を促すものだと思う。フランス人みたく徹底的な労働嫌いになるのが幸せかどうか疑問だが…。

Depuis longtemps, on dit que la croissance est nécessaire pour maintenir l'économie. On se demande souvent si une croissance permanente est possible. Évidemment, ce n'est pas possible. C'est le début.

Éditeur ‏ : ‎ QUE SAIS JE; 2e édition (9 février 2022)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2715409606

Tam O'Malley "Mythological Animals: from Basilisks to Unicorns" [神話の動物:バジリスクからユニコーンまで]

多分、よくある類の幻獣辞典の中の一冊でしかないと思うが、差がつくとしたら装丁とイラストだろうな。わたしはWooden Booksのイラストがだいたい好きだが、好みのわかれるところだろう。色が欲しい人もいるだろうし。内容的には、まあこの類の話としてはそんなに深いわけではないが、浸れる人は楽しいだろうと思う。わたしとしてはNethackで見かけるモンスターというところ。関係ないがNethackはRPGの完成形だが、相当やりこんでいても、ユニコーンは"u"の一文字で、たまにはこういう本も読んでおいたほうがいい。

I recommend this book to Nethack players.@.

Wooden Books (2021/3/1)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263142

2023年4月11日火曜日

Oliver Linton "Fractals: On the Edge of Chaos" [フラクタル:カオスの縁]

ハウスドルフ次元がどうこうみたいな話も一応あるが、やはり基本的にはフラクタル図形の博物学みたいなことだろう。色がないのが致命的とかいう説もあるが、個人的にはあまり気にならない。わたしとしては無色のほうが幻想が広がるような気がする。だいたいフラクタル図形は刺々しいというか、サイケデリックな着色がされるもので、フラクタル幾何学が流行った時代を反映しているのかもしれない。まあそれはそれとして、こういうのは学校の図書館に置いておいて、中学生の夢を刺激するべきなのだ。

Fractal shapes are often colored with psychedelic colors. In this book, they are presented mono-chrome, very soothing.

Bloomsbury Pub Plc USA (2021/2/23)
言語 :英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1635575088

Oliver Linton "Numbers: To Infinity and Beyond" [数:無限を越えて]

整数論のpop mathみたいな本で、その意味ではよくあるタイプの本だが、薄い中にしっかり書いてあり、こういう本も子供のころに出会いたかったと思う。内容的にはそんなに難しくなく、最終的にはフェルマーの小定理くらいまでの話だが、別に難関大学受験とかではなければ、高校生でもこれくらいでいいのかもしれない。こういう本は学校の図書室には完備しておくべきなのだ。

A good reading for a math-minded children.

Wooden Books (2021/10/1)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155314

Olavi Huikari "The Miracle of Trees" [樹の奇跡]

実のところ、この本に書いてあることも図も、多分高校の生物の教科書くらいに全部載っているような気もする。最後には森を守れ的なところまで行っていて、それなのにつまらなくないのは、一つにはイラストが美しいからだと思うが(描き方を教えてほしい)、教科書というものが本質的につまらないからではないかと言う…。樹の構造なんて本質的に面白いはずで、面白く語れるところ、教科書となると、情報を効率よく伝えようとしてつまらなくなっているんだろう。どうも色々考えさせられる。

A beautiful lovely book. Maybe scientific information in this book is all well presented in a highschool textbook, but this book is far more entertaining.

Bloomsbury Pub Plc USA (2012/10/16)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0802777898

2023年4月10日月曜日

Angela E. Douglas "Microbiomes: A Very Short Introduction" [微生物叢:非常に短い入門]

目次:1.微生物と共に生きること 2.どうやって微生物叢を確保して維持するか 3.微生物叢と栄養と代謝の健康 4.微生物叢と脳と行動 5.微生物叢と感染症 6.農業食糧生産における植物微生物叢 7.微生物療法と健康な微生物叢

"microbiome"が何なのかよく知らないまま読み始めてしまったが、要するに動植物に付随する微生物集団ということらしい。人間の場合は表皮・消化器・膣にいるバクテリアや細菌類ということになる。この本で主に扱われているのは腸内微生物叢と、植物の根の微生物叢だ。前者は心身の健康に直接影響するし、後者は農業への応用で大きな意味を持つ。

全体的な印象として、どうもまだ開拓され始めたばかりの分野らしく、明瞭な因果関係みたいなのはあまり出てこない。昆虫やねずみレベルの実験では、微生物叢が免疫系や性格に大きく影響しているのは判明しており、人間でもそうらしいことは推察されているが、それほどはっきりしたことは言えないようだ。たとえばASDとか肥満の人の腸内細菌叢は普通人と違うと分かっていても、それが原因なのか結果なのかもよくわからない。似たような話でアトピーや花粉症が激増しているのは現代人の腸内細菌叢が変化したからというのも、「おそらく」くらいの話でしかない。腸内には複雑に絡み合った微生物の生態系があり、地球の生態系と同じで、人の介入がどんな経路で何に影響するか分かったものではない。農業における土壌の微生物叢が農作物に与える影響も、同じようにそう簡単ではないようだ。

ただ、そういう応用分野の前に、微生物叢とホストの関係などの描写は色々世界観が変わってくる。母乳にはヒトには分解できないが腸内細菌叢を栽培するには有益な希少糖が色々含まれており、赤ん坊の免疫系が健全に発達するのはそういったものによる微生物叢との相互作用があるからである云々。なんかVSIの別の本で読んだ気がするが、人間の腸壁は常に腸内細菌と接しており、そんなもので一々炎症を起こしていたら身が持たないし、そこでのやりとりが人体の免疫系の健康維持のために必須みたいなこともある。ピロリ菌は後に胃ガンの原因になるが、子供のうちはピロリ菌がいることによって消化管が健全に発達するなど。

ヨーグルトなどのプロビオ製品についても言及があるが、やはりあまり根拠はないようだ。結局、複雑な生態系にたとえばヤクルト菌を投入したところで微生物叢がそんなに大きく変わる気もしない。胆汁酸というものは腸内細菌で二次胆汁酸に変化し、これがさらに腸から吸収されて人体に影響を及ぼすのが人体の通常営業、という話もあるが、気になって調べたら、ヤクルトのサイトでは二次胆汁酸は発がん性がありヤクルトの株は二次胆汁酸を作らないとか威張っている。

個人的には口腔内の微生物叢とか、他にも色々知りたいことはあるが、そこまで研究が進んでいないらしい。対象が複雑過ぎて、そう簡単に研究が進む気がしないが、監視しておきたい分野だ。

It's a very new field. I want to learn moore about microbiomes of human body, but I guess the research has just started off. It seemes even scientists do not know much.

Oxford Univ Pr (2023/2/24)
言語 :英語
ISBN-13 :978-0198870852

Alice O'neill "Proverbs: The Wisdom of the World" [ことわざ:世界の知恵]

テーマごとにまとめられた世界のことわざ集。それだけなら似たような本は死ぬほどあるが、この本の異常な特徴として、特定テーマに集められたことわざが一つの文章の中に大量に埋め込まれている。書いているほうは、ほぼパズル状態だったのではなかろうか。ほぼ奇書と言っていい。ただまあ、純粋に読む側としては、この類の言葉のパズルが好きな人たちもいるのも分かるが、普通のことわざを配列しただけのほうが好きな人も多いだろう。

An array of porvebs from around the world sorted by themes. But it is not a mundane collections of proverbs. All proverbs are fit into sentences. To some, it is a lot of fun, I guess.

出版社: Bloomsbury Pub Plc USA (2016/9/13)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1632864420

Amy Jones "Plot: The Art of Story" [プロット:物語の技法]

要するにシナリオの基本的な要素や技法の紹介。シナリオライターになるとか小説家になろうというような人にとっては、多分、常識的というか初歩的過ぎるくらいなんだろう。Wooden Booksなんで、本気だったらもっと専門的な本を読んだほうがいいんだろうと思うけど、素人が楽しむ分には十分というか、わたしとしてはかなり興味深かった。わたしは、このブログでも明らかなように小説をあまり読まないし、他にも映画やドラマもほぼ観ない。まして自分で話を作ろうなどは一度も思ったことがないようなことだが、考えたら、小学生くらいでも単に物語を聞くだけでなく自作しようとする子はたまにいる。そういう子にはこういう本をどんどん買い与えたほうが良い。

There are a few children of genius who not only enjoy reading stories but try to fabricate one on their own. They must be provided with this lovely book.

出版社:Wooden Books (2021/10/1)
言語: 英語
ISBN-13 :978-1904263104

2023年4月9日日曜日

Adam Tetlow "The Diagram: Harmonic Geometry" [ダイアグラム:調和の幾何学]

久しぶりのWooden Books。タイトルから内容が分かりにくいが、基本的には正方形に対角線などの折り紙的な線を引きまくって、その交点で色々な分数や数列を表現している。この説明で面白そうと思わなかったら、読んでも面白いと思わない可能性は高い。わたしは子供の頃こんなの好きだったし、結構夢のような本だと思うが、あまりそんな人は少ないかもしれない。ただ、Wooden Booksから出るくらいなんだから、絶望的な少数派とも思えない。とても素敵な本なのだが。しばらくWooden Booksを読んでいなかったが、また新刊を中心に読んでいく。

Very cute and lovely book. I wish I had met this book in my adolescense.

出版社 : Wooden Books (2023/9/15)
言語 :英語
ISBN-13:978-1952178290

2023年3月26日日曜日

Molly Bang "Picture This: How Pictures Work" [これを描け:絵はどのように機能するか]

絵の文法というか、特に絵本みたいな絵の中で形や色がどういう印象を与えるか研究したような本。実践的というか、対象読者は絵を描く気のある人ということだろう。わたし自身絵を見るのは好きだが自分では描かないし、こういう本をあまり読まないので説明できないが、とにかく面白かったのは確か。

わたしが絵を見るのが好きなのは、三次元空間の光学をどう二次元に写すかに興味があるからで、世界がどうできているかとか、最終的には人間の視覚世界がどういう構造になっているのか見たいだけなのだが、この本の主題はそういうこととは少しずれている。それよりは絵本みたいにドラマを絵で表す方法が研究されていて、あまり考えたことのない視点だった。無限に探究できる世界のほんの入り口だけ見せられたようなものだ。

Impressive even to a layman like me.

Chronicle Books (2016/8/16)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1452151991

2023年3月22日水曜日

Charles Phillips, Melanie Frances "The Sherlock Holmes Escape Book: The Adventure of the British Museum"[シャーロック・ホームズ脱出本:英国博物館の冒険]

システムは前作と同じ。ただ、パズルの量がかなり増えて、よりマニアックになっている。前作と違って、最初の2/3程度はパズルを相当間違えても結局本線に普通に戻れて問題にならない。というか本筋には影響のないパズルも多い。実際のところ全部自力で正解していける人も少ないと思われ、まあ、こういうもんかなという感じ。だいたい二作目は一作目よりマニアックになって、一作目の情緒が失われるもので、これはその典型かと思われる。好みの問題だが、しいて言えばわたしは一作目のほうが好きだ。やはり対象年齢中学生程度だと思うが、なによりパズルが英語なので翻訳するなら大仕事になるし、今時の子供はこんなのやらないかもしれない。要はノベルゲームなので、画面上ならもっと簡単にできてしまう。とはいえ、表紙の物理円盤のギミックとか、特有の魅力があるので、こういうのを一つくらい体験しないのももったいない気がする。

Great, though, I prefer the first volume of this series.

出版社 : Ammonite Pr (2021/3/1)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1781454206

2023年3月15日水曜日

Ormond Sacker, Tobias Willa "The Sherlock Holmes Escape Book: The Adventure of the London Waterworks" [シャーロック・ホームズ脱出本:ロンドン水道の冒険]

ほぼ衝動買いみたいなことだった。

まず表紙がボール紙でしっかり強化されていて円盤が取り付けられている。このギミックにまず惹かれる。この円盤は本書内に出てくるパズルを解くために使用する。内容は一時期流行った脱出ゲームの書籍化だが、紙のノベルゲームみたいなことだ。あるいは昔からあるアドベンチャーゲームブックの形式と言ったほうが分かりやすいかもしれない。パズルの解答によって話が分岐し、例えば「答が青なら19に進む。赤なら25に進む」みたいな感じで次に読むべきページが指定される。基本的にはすべてのパズルに正解しないと最善の結末には到達せず、運の要素はない。

パズルの内容は、中学生くらいなら解ける程度の算数みたいなのも多いが、難しいのは絵からヒントを拾う問題で、目の良い人でもルーペを用意したほうがいいかもしれない。そもそも本文の活字も小さい。解けなくても巻末にヒントがあるし、それでも分からなければ答もある。最善の結末に至るための最も重要なヒントは書いていないようだが、そこはそんなに難しいわけではない。

日本語でも似たような趣旨の脱出ゲーム本はあるが、本書はそれよりはしっかりと読ませるストーリーがある。主人公(読者)がホームズということで、一応ホームズ作品(のタイトル)を知っていたほうがいいが、ググれば簡単に済むことだ。また本書のプレイ時間は「火吹き山の魔法使い」とか「ソーサリー」みたいな膨大なものでもない。あれは確か一冊に400くらい項目があったと思うが、本書は112に過ぎない。すべての分岐を読み切るのも十分可能だ。絵はいかにも昔のヨーロッパの児童書な感じがして、アドベンチャーゲームブックを思い出させる。これは実物を見たら自動的に買ってしまうよな…と思う。

まとめると対象読者は中学生男子というところか…。こんなのが教室に一冊あったら当分盛り上がりそうだ。大人が読んでも面白いと思うが、わたしみたいに脳が中学生の大人が言っても説得力がないかもしれない。ただ、日本の中学生が読めるように翻訳するとなると、パズルが基本的に英語なんで、全部作り直しになりそうだ。絵も描き直しになると思うが、この絵はもったいない。そもそも、この本、一応ペーパーバックではあるが、手に取って物理的に美しい仕上がりになっている。これはシリーズ第一巻なのでこれからどんどん読んでいく。

I love this physically beautiful book. The illustrations are nostalgic.

Ammonite Pr (2019/10/1)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1781453483

2023年2月28日火曜日

Keith Humphreys "Addiction: A Very Short Introduction" [依存症:非常に短い入門]

目次:1. 地勢を理解する 2.依存症の性質 3.依存症の原因 4.回復と治療 5.依存症への文化的・公共行政的接近 6.依存症の未来

まずaddictionを依存症(dependencies)と訳すのが正しくない気もするが、意味としてはそういうことで、主に薬物依存症の病状と予防・治療の概観。ギャンブル依存とかスマホ依存みたいなことは言及はされているが主な対象ではない。対象の薬物は主に酒たばこの他コカインやヘロインとかだが、違法薬物のリストなどは描写されない。本書にもあるように違法薬物による公衆衛生上の全損害を足しても合法薬物である酒たばこには到底及ばない。また刑事司法にもあまり触れられていない。著者の考えでは、この件はあくまで公衆衛生の問題であり、警察や道徳の問題ではない。ありがちな違法薬物のリストや裏社会の流通経路の描写もない。

依存症の問題となると、身近に依存症の人がいたり、飲酒運転の被害者がいたり、逆に大麻解禁論者がいたり、道徳や神の愛を説く人がいたりしてムダに感情的な議論になりがちだが、筆者は一つずつ丁寧に感情論を排除して"evidence"に基づいて実態を説明してく。その手際がほとんど哲学的と言っていいようなレベルで、内容そのものも素晴らしいが、文章はこういう風に書くものだと感心する。

内容については、多分、基本的なんだろうけど、わたし自身が依存症に縁がないこともあって、色々勉強になった。わたしの依存症についての知識は吾妻ひでおの「アル中病棟」くらいしかない。あれはあれで本書と合わせて万民が読むべきだが、ドラマ化の話は作者死亡で立ち消えになったと聞いている。わたしは酒もたばこも好きだが、金がかかるし健康に良くないのでどっちもやってない。コーヒーはこの本では全く相手にされていないが、普段大量に飲んでいても胃が悪くなれば何か月でも飲まないで過ごしたこともある。依存症に縁のない体質なんだろう。そんなわけで酒でもたばこでも依存症の人に冷たい目を向けがち(止めたらいいだけやん)だが、まあそんなことを言っていても公衆衛生は改善しない現実がある。本書にもあるように依存症に遺伝的要因があるのは事実だが、どんなに遺伝的要因があっても、ヘロインをやらなければヘロイン依存症になるわけがないのも事実で、とにかく特定の政策を支持したり精神論を叫ぶ前に現実を冷静に認識する必要がある。

著者は徹底的に現実的で、古い理論やいい加減な巷説を丁寧に排除して事実を描写していく。ただ厚生行政については明確に意見があり、例えば大麻解禁にははっきり反対だ。もちろん大麻を完全に合法化すれば大麻の生産販売消費に関する犯罪は定義上ゼロになるが、合法薬物である酒による公共への被害の大きさを考えれば答は明白であろう云々。経済にも目が届いていて、最後には一部の金持ちが大多数の貧乏人を依存症にして搾取するディストピアも描写している。実際のところ、豊かな国ほど薬物中毒が蔓延するのは事実で、薬物中毒が貧富の格差を拡大するのに寄与して、貧乏人に対する道徳的軽蔑が増すみたいなことは考えられる。そうでなくてもプロテスタントの国は貧乏人=道徳的に劣っているから貧乏という考え方をする人種は多い。

日本語でこういうテーマの本だと、ムダにセンチメンタルな感情ポルノだったり、逆にムダに裏社会感を強調する大人向けホラーだったりして、その意味では吾妻ひでおは冷静だと思うが、Oxford University Pressの安心感がある。そういえば、あんまり関係ないかもしれないが、メンヘルと呼ばれるライフスタイルを送る人の中に、やたら向精神薬を自慢気に見せびらかす人種がいるが、あれもなんか「かっこいい」という認識なんだろうな。文化も重要だ。色々考えてしまう本だった。

I love the way the way the author explains the basics of addiction. Very careful, well-balanced, evidence-based, and almost philosohical.

Oxford Univ Pr (2023/5/23)
言語:英語
ISBN-13:978-0199557233

2023年2月22日水曜日

Duncan Pritchard "Scepticism: A Very Short Introduction" [懐疑:非常に短い入門]

目次:1.懐疑とは何か 2.知識は不可能なのか 3.知識を弁護する 4.生き方としての懐疑

ものすごく丁寧に書かれた本だが脱落者多数という気のする本だ。最大の理由は普通に読んでいくと著者が何を目指して議論を進めているのか分からないことにある。もしかすると後から読んでいったほうがわかりやすいくらいかもしれない。

というわけで、最後の章から紹介すると、それまでの話からすると唐突にアリストテレスとかが出てきて、よりよく生きるためには適切な懐疑が必要であるとかいう話になる。つまり、この著者は良識的な知的謙虚さを擁護しようとしているのであり、特に最近目立ってきた反知性主義みたいな極端な懐疑論というか陰謀論や不可知論と戦うのがこの本の目的であり、ここまでの話は全てそれに向かっている。筆者が言うほど科学が信用できるかどうかという問題はあるが、それは枝葉に過ぎない。ただ、これが枝葉に過ぎないというのは最後まで読んだから判定できるので、筆者の科学への信頼の強さに引っかかって最初のうちに読むのを中断する人もいるだろう。

本書のそれまでの主要部分は、主にBIV(Brain in a vat)と呼ばれる極端な懐疑論、要するに「今わたしが経験しているのはすべて幻覚かもしれない」という仮説をめぐる話だ。ただ、著者は別にこの仮説自体を否定するわけではない。著者が否定したいのは「だからどんな知識も不可能である」という結論で、これも早めに言ってくれないとなあ…と思う。これをわかっていないと、何のために色々な細かい議論(しかもその細かい議論も一々引っかかるところが多い)を積み重ねているのかわかりにくい。著者は懐疑論を相互に矛盾する三つの命題のパラドックスにまとめて、解決策の例として三つの説を紹介する。それぞれ一長一短みたいなことだが、ここが本書のコアだとすると、特にこの話に大枠で合意しない人は少ないと思う。簡単に言うと①不可知論は常識に反する②知識の定義の仕方の問題③どこかに出発点となる「自明の真理」がないと懐疑すら不可能というところ。もちろん、著者はこの三つのうちの特定の立場を推しているわけでもない。

で、最後の章でアリストテレスが出てきて、極端な懐疑論は良い生き方に寄与しないとかいう議論が出てくるが、反発する人も多いだろう。結論がどんなに不毛で破滅的かは真理が真理であることと何も関係がない、という流儀もあり得る。言っていることとやっていることが違うというのが有効な反論かどうかも微妙な話だ。等々、わたしも今書いているだけで色々論点が出てきているようなことだが、実際に読んでいる最中は一ページごとに文句が出てきてしまう。本書はわりと懐疑論との対話みたいな感じで書かれているが、考えながら読むというより、いったん全部話を聞いてやるかみたいな態度で読んだほうがいいかもしれない。哲学としては初歩的な議論だと思うが、初心者は結構色々な論法を学べる気もする。

Written in defence of common sense, not for destroying our daily mundane world. If you excuse me, it's very British....

Oxford Univ Pr (2019/12/1)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198829164

2023年2月20日月曜日

Philip Moriarty "Nanotechnology: A Very Short Introduction" [ナノテクノロジー:非常に短い入門]

目次:1. NanoPutへようこそ 2.閉じ込められた量子 3.バラバラにすることと組み立てること 4.bitからitへ、itからbitへ 5.ナノマシン 6.ナノボットは近い?

最先端のナノテクノロジーの紹介。技術的詳細というよりは、今何ができるようになっているかの紹介がメインだ。最初のうちは原子を一つずつ目的の場所に置いていくようなことだが、この程度は序の口で、最終的には特定の化学結合や原子の特定の電子一個のスピンを操作するところまで行っている。「今そんなことできるようになってんの」みたいな驚きが圧倒的で、なんかその驚きだけで一冊読み終わってしまった感じだ。原子なんて粒子というよりほとんど波みたいなものだし、そんな物をつまんで好きな場所におけること自体が異常だが、既に解像度は原子以下のレベルに到達している。ただしどうやってそんなことができるのかの説明はほぼない。この本でわかるのは超真空とほぼ絶対零度の環境が必要なくらいだ。そういうことでは"Microscopy: A Very Short Introduction"が詳しい。ただ、7年前の出版だともしかするとこの分野の場合は既に昔かもしれない。

応用面では量子コンピュータを含む計算機と生物学にかなり紙幅を取って、最後はSFみたいな話になっている。この分野は一時期未来予測や人体への害で相当な論争があったらしく、著者の考えも述べられている。ただこの辺りは言っている意味は分かるが、背景に詳しくないとあまり議論が白熱する意味がわからないかもしれない。全体的にSFみたいな読後感だが、実際に実験室内では進行している話だし、近い将来日常生活に応用製品が出てくるかもしれない。それまではSFを読むのとそんなに気分は変わらない本かもしれない。

This is not a science fiction, though, I read it as such. It is still an in-lab technology. Someday, there will be abundant products of nanotechnology in our daily life.

Oxford Univ Pr (2023/2/23)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198841104

2023年2月18日土曜日

Chung-Leng Tran , Sébastien Racineux "Le café c'est pas sorcier" [コーヒーは難しくない]

コーヒーに関するよもやま話だが、豆・焙煎・挽き方・エスプレッソマシン等、飲むまでの工程も一通り解説されていて実用性もあり、基本的には消費者~喫茶店店員くらいが対象か。絵本みたいな体裁だが、中身もわりとしっかりしていて、日本語訳も出ているくらいで、変にプロっぽい教科書みたいなのを読むよりいいかもしれない。個人的にはペーパードリップもしっかり説明されていたのはうれしいが、アルコール系はもう少し欲しかったかもしれない。本当に極めたい人はこんな本を読んでいる場合ではないと思うが、単なる消費者なら、これくらい情報があればもう良いよとなるんじゃないかな。そのうちフランス語で珈琲の話をする機会があったら役に立ちそうだが、まあそんなこともないだろうか。

Bon. C'est pas sorcier. Cependent, je vais au starbucks.

Marabout(14 septembre 2016)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2501103459

2023年2月17日金曜日

Edward T. Hall "The Hidden Dimension" [かくれた次元]

目次: 1.コミュニケーションとしての文化 2.動物における距離調整 3.動物における混雑と社会行動 4.空間の知覚:遠距離感覚器-目と耳と鼻 5.空間の知覚:近距離感覚器-肌と筋肉 6.視覚空間 7.知覚への導きとしての芸術 8.空間の言語 9.空間の人類学:組織化モデル 10.距離は人なり 11.異文化間文脈でのproxemics-ドイツ人とイギリス人とフランス人 12.異文化間文脈でのproxemics-日本とアラブ世界 13.都市と文化 14.proxemicsと人類の未来

"proxemics"という概念が提唱された本だが、翻訳が難しい。Wikipediaでは日本語で一応「近接学」という翻訳になっているが、多分中文の「空間行為学」のほうがマシだろう。簡単には、空間の知覚には人間の全感覚器が関与しており、しかも文化の差がかなり大きく、それを記述して解明していこうと試みる学問ということになるだろうか。著者は文化人類学者で、初版1966年ということで相当古いが、今でも主に建築学科の学生が読まされているらしい。確かに昔、近接心理学とかパーソナルスペースという概念をやたら語る人がいたのは、この本のせいだったんだろう。わりと生協の本屋とかでも原書も翻訳書も常に置いてあったし、昔から目には入っていたが、建築学にも文化人類学にもあまり興味がなく、タイトル的にも惹かれないので、ずっと手にしていなかった。

最近建築家の人がこの本に触れていたので、急に気になって読んでみたが、まあ確かに読んでよかった。最初のほうの動物の話はあまり興味がないが、特に日本庭園とか絵画における距離感の描き方の分析は勉強になった。日本庭園なんて、なんか無意味に気取った錦鯉を泳がせておく金持ち趣味くらいにしか思っていなかったが、本書によると、散歩して筋肉の動きなどで空間を感じるために設計され尽くされているらしい。画家の空間の描き方なんかも、言われてみればということが色々ある。この本を読んで、その場で自分のいる周りの空間を見渡すと、見え方が変わってくる。世界観が変わると言っても言い過ぎではないかもしれない…。

建築家の人は常にこういうことを考えているんだろうし、建築学の書棚にはこういう主題の本はほかにもいろいろあるのかもしれないけど、わたしとしては斬新な考察だった。やっぱり色々興味なさそうな分野の本も読んでみるものだ、という感想。

I do not know much about this field, namely "proxemics", architecture or cultural anthoropology, but I found this book is fascinating. Nobody can escape from influencies of proxemics.

Anchor(1990/10/1)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0385084765

2023年2月14日火曜日

Timothy Williamson "Philosophical Method: A Very Short Introduction" [哲学的方法:非常に短い入門]

目次:1.導入 2.常識から始める 3.議論する 4.用語を明確にする 5.思考実験をする 6.理論を比較する 7.演繹する 8.哲学史を用いる 9.他の分野を用いる 10.模型構築する 11.結論:哲学の未来

目次から分かるように、哲学そのものと言うより、哲学の研究で使われる様々な方法の概要というか、実例込みの紹介というか。多分、哲学科に入ったばかりの学生相手の案内みたいな意図で書かれたのだと思うが、わたしとしては大家による愚痴混じりの業界雑談みたいに読める。これもVSIにはたまにあるパターンだが、久しぶりにこのパターンに出くわした気がしている。

というわけで、素人が興味本位で読むには、ちと哲学の内実自体が少なすぎるし、同僚の悪口が多すぎるんじゃないだろうか。例えば、縄文時代に興味を持った人は、普通に縄文時代に関する本を読むはずで、縄文時代の研究のために使われる様々な手段に関する本には最初は行かないと思うわけですよ…。だから、この本を読むのは哲学に興味を持ったばかりの人ではなく、多少は哲学に足を踏み入れて、これから自分で研究していくか…くらいの人だろう。あと、哲学は法学と同じくらい英米系と大陸系の区別があり、この本は完全に英米系で、大陸系から見れば自然科学や数学を異常に参照する。大陸系に親しんでいる人はかなり違和感があるはずだ。

まあこの本でなくてもVSIに優れた哲学本はたくさんある。記憶に残っているのはMetaphysicsとかLogicだが、この投稿の下のラベル:哲学を踏めばいくらでも出てくる。

One of the VSIs where a cranky old giant talks about his field and his collegues.

Oxford Univ Pr (2020/11/1)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198810001

2023年1月26日木曜日

Claire Belton "Pusheen the Cat's Guide to Everything" [プシーン猫のなんでも案内]

pusheen.comからの最新刊。若干のユーモアのほかはただ可愛いだけ。日本で言えばすみっコぐらしと同じ客層になるだろうか。今回はbrotherだのsisterだの大幅にキャラが増えていて、特にオスが出てきたのをどう考えるかだが、人気が出て続いていくとこういうことになる。すみっコぐらしも当初は隅っこでそれぞれコンプレックスを持ってコソコソ生きている集団だったはずが、今やただのリア充集団だ。Pusheenについては元々そんな暗い設定はないので問題にならない。どうでもいいが、Hatsune Mikuとのコラボグッズが当初言われていたほど出てこないのは引っかかっている。

Kawaii.

Gallery Books (2023/1/10)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1982165413

Paul Lafargue "Le Droit À La Paresse: Réfutation Du Droit Au Travail De 1848" [怠ける権利:1848年労働法への反駁]

有名な古典で、多分Bertrand Russell "In Praise of Idleness" [無為を讃えて]の直接の元ネタだろう。別に入り組んだ内容ではない。Russellと共通する中心的な認識は、機械化の進展で必要な労働量が減っているにも拘わらず労働はどんどん厳しくなり、そのわりに失業は増え、労働者による過剰生産と資本家の過剰消費が発生しているということだ。この事態を批判するはずの社会主義勢力も労働を神聖なものと持ち上げたり、あまつさえ労働の権利などと言い始める始末で、狂っていることに変わりはない。重要なのは労働権le droit au travailなどという狂気の概念ではなく、怠惰の権利le droit à la paresseである云々。わたしとしては御尤もな説だと思う。

LafargueまたはRussellの時代と現代日本の差はどれくらいあるだろうか。と考えた時に過剰生産vs過剰消費と過剰労働vs失業の対立が主な議題にはなると思うが、それはそれとして、個人的には「労働が美徳か悪徳か」というのはかなり大きな論点だ。または、どんな労働でもやらないといけないのなら楽しくやったほうが精神衛生に良いとしても、「働かないと暇すぎて苦痛」などというのは人として堕落しているような気もする。一般論としてプロテスタントは労働を神聖視するがカトリックはそうでもないとか、資本主義経済の下での労働が酷いとしても共産国の労働よりマシだろうとか、とにかく、この本を出発点に色んなことを無限に語れ過ぎて、今ここに書く気にならない。日本語訳もあるので読書サークル的なもので選定すれば、無限に議論が続くのは確実だ。

On peut avoir des discussions sans fin basées sur ce livre.

Legare Street Press (2022/10/27)
言語: フランス語
ISBN-13: 978-1016892148

2023年1月24日火曜日

Glen Van Brummelen "Trigonometry: A Very Short Introduction" [三角法:非常に短い入門]

これは翻訳すればVSIの中で過去一売れるかもしれない。高校生にはやや難しいかもしれないが高校の先生くらいが注を補完すればいいだろう。もちろん大学生なら読めるはず。

第一章「なぜ」この本は歴史の記述が魅力の一つだが、導入としてヒッパルコスの天文の問題とブルシューの塔の高さを測る問題とケルヴィン卿の潮汐の問題が語られる。この時点ではあまり面白そうな本の気がしないのだが。

第二章「正弦・余弦とその仲間たち」三角比が一気に導入される。おなじみのsine正弦・cosine余弦・tangent正接・cotangent余接・secant正割・cosecant余割のほかに普通の八線表にあるversed sine正矢・versed cosine余矢、さらにexsecant外正割・excosecant外余割・haversine半正弦が歴史的経緯とともに加えられる。グラフと逆三角関数も導入され、本書で使う基本的な三角関数が出そろう。

第三章「素手で正弦表を構築する」三角関数表の作成は世界中どの文明でも重要だったが、その歴史が語られる。必然的に加法定理や倍角の公式も出てくるが、21倍角の公式はこの本でしか見たことがない。冗談みたいな公式だが、手計算で精度を上げていくには避けられない。

第四章「恒等式、さらに恒等式」三角関数の様々な公式が実例や歴史とともに語られる。正弦定理・余弦定理以下、多分高校の教科書に載っているような公式は多分全部載っているが、モルワイデの公式とかあまり知られていないものも多い。

第五章「無限へ」三角関数の無限級数展開が扱われる。この本はあまり微積は使わないが、どうやって微積を使わないで正弦関数がテイラー展開されるのか疑問に思うような人は、多分、この本の良い読者になる。関数電卓が使っているCORDICの説明も勉強になる。フーリエ級数も扱われる。

第六章「さらにcomplexに」複素平面の導入からオイラーの公式、さらに双曲線関数の様々な公式が導入される。普通の教科書だと双曲線関数は突然定義されることが多いように思うが、ここでは導入の経緯から説明される。

第七章「球とその先」おそらくこれが著者の本領だが、名前だけ有名で実際には誰も勉強していない球面三角法について語られる。理屈の上では高校生でも「読者のための練習問題」を処理して読んでいけるはずだが、マニアックかもしれない。ちょっとWebを検索してもネイピアの円くらいは日本語で出てくるが、pentagramma mirificumとか日本語の定訳が見当たらない。

VSIでこういう高校の教科名みたいなタイトルはわりとレベルが低く、わたしはあまり手を出さないのだが、この本は退屈しなかった。純粋に数学的内容として知らないことは最後の球面幾何以外はほとんどなかったが、歴史的経緯が面白い。高校生が読むと普通に数学の勉強になるかもしれないが、大学生以上が楽に読んでも十分面白いと思う。あと、一応数学書には違いないので、多分電子書籍より紙で読んだ方が良い。

A good math review book for high school students and a wonderful relaxation reading for undergraduates or higher levels.

Oxford Univ Pr (2020/3/2)
言語:英語
ISBN-13:978-0198814313

2023年1月13日金曜日

Freda McManus "Cognitive Behavioural Therapy" [認知行動療法:非常に短い入門]

目次:1.CBTの行動学的起源 2.CBTにCをつけること 3.CBTの背後にある理論 4.CBTのスタイルと構造 5.CBTの方法 6.CBTの応用 7.将来の方向性と課題

心理療法と呼ばれる治療みたいなものは色々あって、人によって思い浮かべるものが区々だと思うけど、わたしの場合はまず1960年代くらいでアメリカで流行ったような精神分析だ。だいたい患者はほとんど寝ているみたいな楽な椅子に座っていて、精神分析医はその後ろでメモを取っているみたいな…。一時期はまともな上流階級の人間は週一くらいで精神分析セッションを受けているみたいな感じだったらしい。まあ、現代日本でもメンヘルとかいうライフスタイルが存在して、それに近いのかもしれないが。

精神分析は相当色々な文献を読んだが、結局あまり流行らなくなったし、わたしも興味を失ったというのは、話としては面白いんだけど、現実に治療効果が低いのと科学的根拠が無さすぎるからで。あと、薬も発達したし、フロイトがアクセスできなかった脳科学の知見も増えてしまった。フロイトの知見が全部無意味とは思わないが、わたしとしては、未だに精神分析がどうこう言っている人たちを、未だにマルクスを読んで有益な知見を絞り出そうとしている人たちと同じような目で見ている。酷い場合は精神症状は全部幼少期の性的虐待のせいみたいな本が売れて、大量の冤罪が生み出されたとか。

それとは対極にあるというか、それに反発したように出てきたのが行動主義で、ここから本書は始まる。心理学といっても科学的でなければならないということで、まず、目に見える行動以外は非科学的なので研究しないという心理学が出てきた。当然すぐに行き詰まり、やはりCつまり認知の要素も必要ということになって少し緩和されたようなことだ。

本書で語られる対象は、主に強迫神経症のようで、多くの場合、患者は、認知というか事実の解釈が間違っているらしい。例えば「心臓がどきどきする」というのを「死ぬかもしれない」と考えてしまう間違った信念があり、この信念が間違いであることを患者に体感させるのが目標らしい。どうも話が雑過ぎるし、そんな知的な説得で群衆恐怖症とかが治るんなら楽な話に思われるが、多分実際に効果があるんだろう。鬱病におけるnegative thinkingも対象として挙げられているが、とにかく主題は「患者の持っている間違った考えを訂正すること」であり、そんな話ならそう言えばいいだけで、どうもCBTの必要性が良く分からない。患者自身が実験して確認するというのが重視されているが、それにしても別にセラピストはいらないような…。実際最後のほうでは読書療法とか言い出して、CBTの本を読むだけでも効果があるとかいう話になっている。

要するに本書を読んでも、全体的にちょっとわたしにはピンとこない話だ。ただ、これはわたしがそういう問題に縁がないからで、医療の現場では少なくとも精神分析よりは治療成績がいいんだろう。最新の療法としてマインドフルネスを使うMCBTとかいうのも出てきて、もちろんマインドフルネス自体がそもそも心理療法なんだろうけど、そう思うと、全体的に自己啓発書に書いてあることみたいな話も多かった。もちろん自己啓発書のほうがCBTから知見を引用しているのだと思うが、一応科学的という意味で自己啓発書を読むよりこの本を読んだほうが良いかもしれない。ともあれ、CBTの概説書ではあるので、これから治療を受けるとか、そんな理由でどんなものか知りたければ読んで損はない。

An overview of CBT. Maybe CBT is very effective and practical for some sorts of psychological disorder, which I do not understand much, even after reading this book....

Oxford Univ Pr (2022/7/28)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-0198755272

2023年1月9日月曜日

Silvanus P. Thompson "Calculus Made Easy" [簡単微積分]

目次:1.最初の恐怖からの救出 2.小ささの様々な程度 3.相対的成長について 4.最も簡単な場合 5.次の段階:定数をどうするか 6.和差積商 7.連続微分 8.時が変化する時 9.有益な回避法の導入 10.微分の幾何学的意味 11.極大値と極小値 12.曲線の曲率 13.他の有益な回避法 14.真の複利と有機的成長の法則 15.sinとcosをどう扱うか 16.偏微分 17.積分 18.微分の逆としての積分 19.積分で面積を求めることについて 20.回避法と落とし穴と勝利 21.いくつか解を見つけること

初版は1910年の歴史的名著とされている。内容的には初歩の微分から最後は一応簡単な微分方程式まで。演習問題は完全解答付きだが、そんなわけで一々解いていない。特徴としては、極限とかその他の厳密な議論をすっ飛ばしており、基本的には直観に訴えている。優れたヴァイオリニストがヴァイオリンを自作できる必要はないとかいう理屈で、まあ、今でも微積のこういう教え方は時々あると思うが、その元祖くらいなのかもしれない。にしても、ここまで乱暴な本はあまりないかもしれない。著者も言っているが、多分、同僚からボコられるんだろう。

そんなこともあるし、タイトルからして軽く見られそうだが、一応しっかりした微積分の入門書である。少なくとも高校程度の微積分はカバーしているし、演習問題もしっかりある。ただ、普通の大学のカリキュラムと整合しないと思われ、この本だけで微積分を済ませるわけにはいかないのが現実だろう。他方ε-δみたいな普通のカリキュラムは、何をそんなに気にしてそんな必死に議論をしているのか数学者以外には謎と言う問題もあり、どうかみたいな。

わたしにはどっちがいいのか判断する資格はないが、工学的な計算ができればいいだけなら、これで良いのかもしれない。少なくとも電験一種くらいならこれくらいで十分だろう。あるいは、微積分を教える側にとって有益な本かもしれない。

The easiest possible introductory course for calculus.

Independently published (2022/1/11)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 979-8799511098

2023年1月6日金曜日

Chris McMullen "Essential Calculus Skills Practice Workbook with Full Solutions" [基礎微積分:技術練習帳完全解答付き]

目次:1.多項式の導関数 2.連鎖の規則、積の規則、商の規則 3.三角関数の導関数 4.指数関数の導関数 5.対数関数の導関数 6.二階導関数 7.極値 8.極限とロピタルの規則 9.多項式の積分 10.定積分 11.三角関数の積分 12.指数関数と対数関数の積分 13.多項式置換による積分 14.三角関数置換による積分 15.部分積分 16.多重積分

世界的に評判の良い初歩の微積分の問題集。わたしはこれ以上に簡単な微積分の本を見たことがない…というのは、普通の微積分の導入で語られる面倒な理論的背景は完全に省略されている。つまり「すべての正の実数εについて」みたいな面倒くさい話が一切なく、ただただ微分と積分が機械的にできればよろしいというようなことだ。例えば最初からax^bの導関数はabx^(b-1)であるみたいなところから始まり、なぜそうなるのかの説明は一切ない。

解答はうっとうしいくらい丁寧で、簡単な式変形も省略しないで全部書いてあるし、正解の表記が何通りもある場合は全部書いてある。今の日本の高校の数学がどんなものか良く知らないが、この程度の微積分は高2くらいではなかろうか。相当数学が苦手な人でも「そこまで書かなくていいよ」と言って大半を読み飛ばすと思われる。

一つ、この本の明確な特徴として、三角関数として正弦・余弦・正接の他に普通に正割・余割・余接を使っている。裏表紙に本書に必要な公式が全部乗っているが、例えば∫secθdθ=ln|secθ+tanθ|+Cなどというのは公式扱いであり、説明はない。まあ右辺を微分すればすぐに分かることではあるが。

この辺りは好みなのかもしれないが、わたしはsec, csc, cotは使うべき派であり、tan^2θ+1=1/(cos^2θ)よりtan^2θ+1=sec^2θのほうがどう考えても覚えやすいと思うし、こういう本でもっと普及すればいいと思っている。

あと最大の特徴として、この本はworkbookということで、問題の一つ一つに対して余白があって、答を書き込めるようになっている。つまり別途紙を用意しなくていいということだが、これは人によっては利点かもしれない。この結構な余白と異様に丁寧な解答のせいで、ページ数のわりに問題数は少ない。

そんなわけで、この一冊で「微積分は全部片づけた」とは到底言えないが、多分、この本は昔勉強した微積分を思い出すためにやる人が多いんだと思う。わたしについては微積分は全然忘れていないが、とにかく試験であまりに計算間違いが多いので、算数ドリルと思って暇な時にやって三日で終わっている。知らないことは何もないのだが、やっぱり計算間違いはするもので、少し自分が勘違いしやすいポイントは分かったかもしれない。

Very good for revision.

Zishka Publishing (2018/8/16)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1941691243