2023年6月4日日曜日

Veronique Mottier "Sexuality: A Very Shor Introduction" [セクシュアリティ:非常に短い入門]

目次:1.セクシュアリティ以前 2.セクシュアリティの発明 3.処女か娼婦か:セクシュアリティのフェミニスト批判 4.寝室の中の国家 5.性の未来

かなりうんざりした本である…。まず扱っている対象が面倒なんだろう。近頃LGBTQだとかで全部の話についていっている人がそんなにいるとは思えないが、この本で話が整理されるわけではなく、さらに混乱が増す。フェミニズムだの優生学だの社会主義だのは序の口で、エイズだとか宗教だとかその他もろもろで、とにかくずっと論争の歴史を読まされるが、どの時点でも参加者が多すぎて誰が味方で敵なのかよく分からない。それどころか、そもそも何を争っているのかも分かりにくい。多分、著者はフェミニストで伝統的な男/女の対立を軸に考えているのだと思われ、別の視点の人からはいくらでも文句が出そうな気もする。

もう一つ言えるのは、最近VSIで読んだ奴隷とか優生学とかと同じで、この本も「断罪系」で、要するにこのテーマで中立な記述などというのがあり得ず、何かしらの価値基準からしか記述のしようがないのだが、上のような理由で著者がどの基準で見ているのかが分かりにくい。奴隷については奴隷制反対とか優生学については優生学は悪の疑似科学とか価値基準が分かりやすいが、セクシュアリティについてはそういう分かりやすい基準がない。著者の価値基準はだいたい書きぶりから察しがつくというようなものだが、だとしたら、著者が自分の価値観を明示しないのは良くない気もする。

あと、これは明白に書き方の問題だと思うが、何か全体に具体的な話が薄い。多分、著者は具体的な話より理念の交錯というか政治的な対立のほうに興味があるのだろうか。確かに同性愛のフェミニストと異性愛のフェミニストの関係とか、これに右派左派とか優生学に対する態度とか、人種差別がどうとか、直交する概念がどんどん加わってきて、誰と誰が何を巡って戦っているのかものすごく分かりにくい。参加者がみんな必死なのは確かだが。

総じてVSIでたまにある「テーマか巨大過ぎる」というパターンだと思う。これはこれで資料性があるのかもしれないが、誰が見ても公平なわけではないだろうし、ちとintroductionというのは無理がある。そして、基本的にギリシア・ローマから始まる西欧の話で、世界の他の地域はほぼ無視されている。素人にはお勧めできない。

At least I can say this is not an introduction.

Oxford Univ Pr (2008/6/23)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199298020

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