2010年10月13日水曜日

Ken Binmore "Game Theory" (Oxford Very Short Introductions)

ゲーム理論については一通り勉強したことがあるし、今さら概説書を読んでも得る物もないだろうと思っていたが、書評が「素晴らしい」と「難し過ぎて意味が分からん」の二つに割れているようで、面白そうなので読んでみた。

わたしの感想としては、素晴らしい。研究に必要な数学は省かれているが、ゲーム理論の含意を知るのにそこは重要ではない。たいていの人は、ゲーム理論と言えば「囚人のジレンマ」とか「ナッシュ均衡」くらいの知識で止まっていて、面白い寓話ですね、くらいではないだろうか。この本では、それは入口に過ぎない。他に様々なゲームを検討していて、様々な社会的・生物学的現象をモデル化していく。「そんなのは所詮は現実を極端に単純化した玩具で、現実の社会はもっと不合理な道徳感情などによって支えられている」というのが普通の社会学者の言い分だと思うけど、この本を読むともう一度考え直したくなる。

わたしの理解が正しければ、この著者は、「ナッシュ均衡でない道徳制度や社会制度は長続きしない」と考えている。ホッブズは「万人の万人に対する闘争」を解決するために国家権力が必要だと考えた。それでいいとして、それによって出現する均衡状態はナッシュ均衡だけで説明できるのか、それとも人類学者や社会学者が考えるように、何か不条理な宗教的畏怖や権威の概念が必要なのか。むしろ宗教や感情はナッシュ均衡の作り出す幻ではないのか。わたしには何とも言えないが、この方向を追求する価値はあると思うのだが。

最後のほうでは、ゲームが成り立つ基礎みたいなことまで研究していて、ほとんどヴィトゲンシュタインみたいなことになっている。一般的なゲームの他にも、オークションや「利己的遺伝子」の話などもあって、面白い話が盛りだくさんだ。ただ、確かに、頭を使わないで読める本ではない。著者は明らかに楽しんで書いているし、わたしも、この楽しさを共有できる人が多いといいなあと思う。難しいという人が多いのも事実だが、わたしのこの書評をここまで読んでくれた人なら、問題なく読めるだろう。

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