2022年7月25日月曜日

Walter Tevis "The Queen's Gambit" [クイーンズ・ギャンビット]

まあまあの期間孤児院に居た少女が実はチェスの天才だったという話。Netflixで映像化されて好評とかでついでに本も売れているらしく、一般的には評判のいい小説らしい。結構長い間本屋でも横置きされているし、わたしもチェスを指すので読んでみた。以下は実際にチェスを指す人間の感想なので、一般には参考にならないかもしれない。

この小説、とにかく殺伐としている。もとの家、孤児院、養親とも、あまり感心しないような状況だが、糾弾するほどでもないという、微妙な殺伐さだ。主人公Harmonには友達がJoleneくらいしかいない。主人公が女なので適当な男も出てくるが、わりと原始的な感情しかない。意図的にそう書いているというよりは、多分、作者がそんなに書ける人じゃないんだろうと思う。主人公がややヤク中・アル中気味だが、そこも描写が弱くて何となく克服しているような感じだ。話が基本的に平板というかまったりと殺伐としていて、ある意味、チェスプレイヤーのリアルな生活のような気もする。主人公を女に設定したのは、男ばかりのチェスの世界に少女を投入したら面白いだろうということだろうけど、あんまり性別は効果が出ている気がしない。Netflixはそこは最大限活かしていると思うが、見ていないから知らない。

一般人は興味ないかもしれないが、ガチ勢としては、チェス自体の描写がほとんど意味をなしていない。クイーンがどうとかポーンがどうとかcombination的なことは結構長々と書いてあるが、ガチ勢でも盤面を追跡できない。一局だけ完全に追跡できるゲームがあり、並べてみたが描写が間違っている。今時の将棋マンガなどはプロ棋士が監修について将棋ガチ勢でも盤面を完全に追跡できるし、昔でも浅田哲也「麻雀放浪記」なんかでも小説に手牌が完全に表示されていたりするが、この小説はそういう検証には耐えない。structureの記述はほぼなく、書かれた時代(1983)を考えても、グランドマスターの思考がこんな感じにcombinationだけ読んでいることは考えにくい。まあ時代劇の殺陣みたいに雰囲気だけ読めということだろう。プレーヤーが勝手に封じ手を宣言して、他人と相談しているとかは、いくら昔とは言え驚いたが。

このあたり、映像ではきっちり監修されているだろうし、もしかしたらキチンと局面を解説しているのかもしれない。主人公はロシア語が少しできる設定だが、даとнeтくらいでは説得力もなく、なんか全体的に取材が弱いのではないかという…。まあそこは論点ではなく、チェスプレイヤーの殺伐とした生活というところだろうか。翻訳はサンプルを少し読んだが、ちょっと読む気しないかもしれない。翻訳もチェスプレイヤーの監修が入っているとは思うが、元がこの調子なんでどうにもならないだろう。

文句ばかりになってしまったが、一応最後まで読んだのは、なんとなく殺伐感が良かったからだろう。おそらくだが映像を見たほうがいいと思う。

Though I have not watched the Netflix series, I guess it is a lot better than this original novel.

Weidenfeld & Nicolson (2020/10/29)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1474622578

2 件のコメント:

  1. 電験二種一次通ったみたいでおめでとうございます!

    返信削除
    返信
    1. ありがとうございます。二次も大体できているんですが、最終的には運みたいな試験のようで。

      削除