2022年6月16日木曜日

Paul Klenerman "The Immune System: A Very Short Introduction" [免疫系:非常に短い入門]

目次:1.免疫系とは何か 2.第一対応者:先天性免疫反応 3.適応免疫:(非)自己発見の旅 4.記憶を作ること 5.少なすぎる免疫:免疫学的不全 6.多すぎる免疫:自己免疫とアレルギー疾患 7.免疫系v2.0

似たような話を扱うタイトルはVSIにも他にも色々あるが、多分、これが一番評判が良い。免疫の話となると病原体や白血球やを擬人化というか、意志を持った存在みたいに扱ってしまい、それなら別に「はたらく細胞」でも読んでいればいい。我々が知りたいのは、例えば分子化学レベルでどうやって免疫細胞が患部に引き寄せられるのかとかいうようなことで、そこまで来ると確かにこの本が最善というか類書がないのではないかと思う。ただ、もちろん、最低限の生物化学の知識は必要だが、日本で言えば高校の生物化学レベルではないかと思う。

というようなことで、現代医学でもよく分からないことはたくさんあるにしても、差し当たり今のところ免疫系について分かっていることの概観が提示される。その上で免疫系の病気や治療の例も面白い。人類の免疫系はウイルスやバクテリアだけでなく多細胞生物に寄生される前提で設計されているので、寄生虫を駆除した時点で免疫系が正常運転していないとかいうのは、どうも確からしい。腸内細菌と人体は極薄の膜でしか隔てられておらず、病原体が多少侵入したくらいで炎症を起こしている場合ではないし、免疫系の通常運転は常に腸内細菌と反応して維持されているので、腸内の生態系が変わると免疫系の運転状態が変わるのも確からしい。複雑過ぎて「特定の乳酸菌で花粉症が治る」みたいな話ではなさそうだが。そもそも本書で言われている通り、免疫系は個人差が多すぎて、そのせいで骨髄バンクでも滅多に適合者がいないとかいう話で、何をするにしても各個人向けにカスタマイズする必要がある。

自己貪食の話も少しあって、結局、多少飢餓状態があったほうが健康にいいのは確からしいとか、他にも色々面白い話はあった。リューマチが自己免疫疾患とは初耳である…とか。近頃はもう抗生物質の候補がないとか、単純な化学レベルではあまりいい話はないが、こういうレベルだとまだまだ広大な未踏領域が広がっている。一般には少し難しい本なのかもしれないが、これを越えると、もう本当の専門書しかないかもしれない。

The best overview of the field.

Oxford Univ Pr (2018/1/30)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198753902

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