2023年2月20日月曜日

Philip Moriarty "Nanotechnology: A Very Short Introduction" [ナノテクノロジー:非常に短い入門]

目次:1. NanoPutへようこそ 2.閉じ込められた量子 3.バラバラにすることと組み立てること 4.bitからitへ、itからbitへ 5.ナノマシン 6.ナノボットは近い?

最先端のナノテクノロジーの紹介。技術的詳細というよりは、今何ができるようになっているかの紹介がメインだ。最初のうちは原子を一つずつ目的の場所に置いていくようなことだが、この程度は序の口で、最終的には特定の化学結合や原子の特定の電子一個のスピンを操作するところまで行っている。「今そんなことできるようになってんの」みたいな驚きが圧倒的で、なんかその驚きだけで一冊読み終わってしまった感じだ。原子なんて粒子というよりほとんど波みたいなものだし、そんな物をつまんで好きな場所におけること自体が異常だが、既に解像度は原子以下のレベルに到達している。ただしどうやってそんなことができるのかの説明はほぼない。この本でわかるのは超真空とほぼ絶対零度の環境が必要なくらいだ。そういうことでは"Microscopy: A Very Short Introduction"が詳しい。ただ、7年前の出版だともしかするとこの分野の場合は既に昔かもしれない。

応用面では量子コンピュータを含む計算機と生物学にかなり紙幅を取って、最後はSFみたいな話になっている。この分野は一時期未来予測や人体への害で相当な論争があったらしく、著者の考えも述べられている。ただこの辺りは言っている意味は分かるが、背景に詳しくないとあまり議論が白熱する意味がわからないかもしれない。全体的にSFみたいな読後感だが、実際に実験室内では進行している話だし、近い将来日常生活に応用製品が出てくるかもしれない。それまではSFを読むのとそんなに気分は変わらない本かもしれない。

This is not a science fiction, though, I read it as such. It is still an in-lab technology. Someday, there will be abundant products of nanotechnology in our daily life.

Oxford Univ Pr (2023/2/23)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198841104

2023年2月18日土曜日

Chung-Leng Tran , Sébastien Racineux "Le café c'est pas sorcier" [コーヒーは難しくない]

コーヒーに関するよもやま話だが、豆・焙煎・挽き方・エスプレッソマシン等、飲むまでの工程も一通り解説されていて実用性もあり、基本的には消費者~喫茶店店員くらいが対象か。絵本みたいな体裁だが、中身もわりとしっかりしていて、日本語訳も出ているくらいで、変にプロっぽい教科書みたいなのを読むよりいいかもしれない。個人的にはペーパードリップもしっかり説明されていたのはうれしいが、アルコール系はもう少し欲しかったかもしれない。本当に極めたい人はこんな本を読んでいる場合ではないと思うが、単なる消費者なら、これくらい情報があればもう良いよとなるんじゃないかな。そのうちフランス語で珈琲の話をする機会があったら役に立ちそうだが、まあそんなこともないだろうか。

Bon. C'est pas sorcier. Cependent, je vais au starbucks.

Marabout(14 septembre 2016)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2501103459

2023年2月17日金曜日

Edward T. Hall "The Hidden Dimension" [かくれた次元]

目次: 1.コミュニケーションとしての文化 2.動物における距離調整 3.動物における混雑と社会行動 4.空間の知覚:遠距離感覚器-目と耳と鼻 5.空間の知覚:近距離感覚器-肌と筋肉 6.視覚空間 7.知覚への導きとしての芸術 8.空間の言語 9.空間の人類学:組織化モデル 10.距離は人なり 11.異文化間文脈でのproxemics-ドイツ人とイギリス人とフランス人 12.異文化間文脈でのproxemics-日本とアラブ世界 13.都市と文化 14.proxemicsと人類の未来

"proxemics"という概念が提唱された本だが、翻訳が難しい。Wikipediaでは日本語で一応「近接学」という翻訳になっているが、多分中文の「空間行為学」のほうがマシだろう。簡単には、空間の知覚には人間の全感覚器が関与しており、しかも文化の差がかなり大きく、それを記述して解明していこうと試みる学問ということになるだろうか。著者は文化人類学者で、初版1966年ということで相当古いが、今でも主に建築学科の学生が読まされているらしい。確かに昔、近接心理学とかパーソナルスペースという概念をやたら語る人がいたのは、この本のせいだったんだろう。わりと生協の本屋とかでも原書も翻訳書も常に置いてあったし、昔から目には入っていたが、建築学にも文化人類学にもあまり興味がなく、タイトル的にも惹かれないので、ずっと手にしていなかった。

最近建築家の人がこの本に触れていたので、急に気になって読んでみたが、まあ確かに読んでよかった。最初のほうの動物の話はあまり興味がないが、特に日本庭園とか絵画における距離感の描き方の分析は勉強になった。日本庭園なんて、なんか無意味に気取った錦鯉を泳がせておく金持ち趣味くらいにしか思っていなかったが、本書によると、散歩して筋肉の動きなどで空間を感じるために設計され尽くされているらしい。画家の空間の描き方なんかも、言われてみればということが色々ある。この本を読んで、その場で自分のいる周りの空間を見渡すと、見え方が変わってくる。世界観が変わると言っても言い過ぎではないかもしれない…。

建築家の人は常にこういうことを考えているんだろうし、建築学の書棚にはこういう主題の本はほかにもいろいろあるのかもしれないけど、わたしとしては斬新な考察だった。やっぱり色々興味なさそうな分野の本も読んでみるものだ、という感想。

I do not know much about this field, namely "proxemics", architecture or cultural anthoropology, but I found this book is fascinating. Nobody can escape from influencies of proxemics.

Anchor(1990/10/1)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0385084765

2023年2月14日火曜日

Timothy Williamson "Philosophical Method: A Very Short Introduction" [哲学的方法:非常に短い入門]

目次:1.導入 2.常識から始める 3.議論する 4.用語を明確にする 5.思考実験をする 6.理論を比較する 7.演繹する 8.哲学史を用いる 9.他の分野を用いる 10.模型構築する 11.結論:哲学の未来

目次から分かるように、哲学そのものと言うより、哲学の研究で使われる様々な方法の概要というか、実例込みの紹介というか。多分、哲学科に入ったばかりの学生相手の案内みたいな意図で書かれたのだと思うが、わたしとしては大家による愚痴混じりの業界雑談みたいに読める。これもVSIにはたまにあるパターンだが、久しぶりにこのパターンに出くわした気がしている。

というわけで、素人が興味本位で読むには、ちと哲学の内実自体が少なすぎるし、同僚の悪口が多すぎるんじゃないだろうか。例えば、縄文時代に興味を持った人は、普通に縄文時代に関する本を読むはずで、縄文時代の研究のために使われる様々な手段に関する本には最初は行かないと思うわけですよ…。だから、この本を読むのは哲学に興味を持ったばかりの人ではなく、多少は哲学に足を踏み入れて、これから自分で研究していくか…くらいの人だろう。あと、哲学は法学と同じくらい英米系と大陸系の区別があり、この本は完全に英米系で、大陸系から見れば自然科学や数学を異常に参照する。大陸系に親しんでいる人はかなり違和感があるはずだ。

まあこの本でなくてもVSIに優れた哲学本はたくさんある。記憶に残っているのはMetaphysicsとかLogicだが、この投稿の下のラベル:哲学を踏めばいくらでも出てくる。

One of the VSIs where a cranky old giant talks about his field and his collegues.

Oxford Univ Pr (2020/11/1)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198810001

2023年1月26日木曜日

Claire Belton "Pusheen the Cat's Guide to Everything" [プシーン猫のなんでも案内]

pusheen.comからの最新刊。若干のユーモアのほかはただ可愛いだけ。日本で言えばすみっコぐらしと同じ客層になるだろうか。今回はbrotherだのsisterだの大幅にキャラが増えていて、特にオスが出てきたのをどう考えるかだが、人気が出て続いていくとこういうことになる。すみっコぐらしも当初は隅っこでそれぞれコンプレックスを持ってコソコソ生きている集団だったはずが、今やただのリア充集団だ。Pusheenについては元々そんな暗い設定はないので問題にならない。どうでもいいが、Hatsune Mikuとのコラボグッズが当初言われていたほど出てこないのは引っかかっている。

Kawaii.

Gallery Books (2023/1/10)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1982165413

Paul Lafargue "Le Droit À La Paresse: Réfutation Du Droit Au Travail De 1848" [怠ける権利:1848年労働法への反駁]

有名な古典で、多分Bertrand Russell "In Praise of Idleness" [無為を讃えて]の直接の元ネタだろう。別に入り組んだ内容ではない。Russellと共通する中心的な認識は、機械化の進展で必要な労働量が減っているにも拘わらず労働はどんどん厳しくなり、そのわりに失業は増え、労働者による過剰生産と資本家の過剰消費が発生しているということだ。この事態を批判するはずの社会主義勢力も労働を神聖なものと持ち上げたり、あまつさえ労働の権利などと言い始める始末で、狂っていることに変わりはない。重要なのは労働権le droit au travailなどという狂気の概念ではなく、怠惰の権利le droit à la paresseである云々。わたしとしては御尤もな説だと思う。

LafargueまたはRussellの時代と現代日本の差はどれくらいあるだろうか。と考えた時に過剰生産vs過剰消費と過剰労働vs失業の対立が主な議題にはなると思うが、それはそれとして、個人的には「労働が美徳か悪徳か」というのはかなり大きな論点だ。または、どんな労働でもやらないといけないのなら楽しくやったほうが精神衛生に良いとしても、「働かないと暇すぎて苦痛」などというのは人として堕落しているような気もする。一般論としてプロテスタントは労働を神聖視するがカトリックはそうでもないとか、資本主義経済の下での労働が酷いとしても共産国の労働よりマシだろうとか、とにかく、この本を出発点に色んなことを無限に語れ過ぎて、今ここに書く気にならない。日本語訳もあるので読書サークル的なもので選定すれば、無限に議論が続くのは確実だ。

On peut avoir des discussions sans fin basées sur ce livre.

Legare Street Press (2022/10/27)
言語: フランス語
ISBN-13: 978-1016892148

2023年1月24日火曜日

Glen Van Brummelen "Trigonometry: A Very Short Introduction" [三角法:非常に短い入門]

これは翻訳すればVSIの中で過去一売れるかもしれない。高校生にはやや難しいかもしれないが高校の先生くらいが注を補完すればいいだろう。もちろん大学生なら読めるはず。

第一章「なぜ」この本は歴史の記述が魅力の一つだが、導入としてヒッパルコスの天文の問題とブルシューの塔の高さを測る問題とケルヴィン卿の潮汐の問題が語られる。この時点ではあまり面白そうな本の気がしないのだが。

第二章「正弦・余弦とその仲間たち」三角比が一気に導入される。おなじみのsine正弦・cosine余弦・tangent正接・cotangent余接・secant正割・cosecant余割のほかに普通の八線表にあるversed sine正矢・versed cosine余矢、さらにexsecant外正割・excosecant外余割・haversine半正弦が歴史的経緯とともに加えられる。グラフと逆三角関数も導入され、本書で使う基本的な三角関数が出そろう。

第三章「素手で正弦表を構築する」三角関数表の作成は世界中どの文明でも重要だったが、その歴史が語られる。必然的に加法定理や倍角の公式も出てくるが、21倍角の公式はこの本でしか見たことがない。冗談みたいな公式だが、手計算で精度を上げていくには避けられない。

第四章「恒等式、さらに恒等式」三角関数の様々な公式が実例や歴史とともに語られる。正弦定理・余弦定理以下、多分高校の教科書に載っているような公式は多分全部載っているが、モルワイデの公式とかあまり知られていないものも多い。

第五章「無限へ」三角関数の無限級数展開が扱われる。この本はあまり微積は使わないが、どうやって微積を使わないで正弦関数がテイラー展開されるのか疑問に思うような人は、多分、この本の良い読者になる。関数電卓が使っているCORDICの説明も勉強になる。フーリエ級数も扱われる。

第六章「さらにcomplexに」複素平面の導入からオイラーの公式、さらに双曲線関数の様々な公式が導入される。普通の教科書だと双曲線関数は突然定義されることが多いように思うが、ここでは導入の経緯から説明される。

第七章「球とその先」おそらくこれが著者の本領だが、名前だけ有名で実際には誰も勉強していない球面三角法について語られる。理屈の上では高校生でも「読者のための練習問題」を処理して読んでいけるはずだが、マニアックかもしれない。ちょっとWebを検索してもネイピアの円くらいは日本語で出てくるが、pentagramma mirificumとか日本語の定訳が見当たらない。

VSIでこういう高校の教科名みたいなタイトルはわりとレベルが低く、わたしはあまり手を出さないのだが、この本は退屈しなかった。純粋に数学的内容として知らないことは最後の球面幾何以外はほとんどなかったが、歴史的経緯が面白い。高校生が読むと普通に数学の勉強になるかもしれないが、大学生以上が楽に読んでも十分面白いと思う。あと、一応数学書には違いないので、多分電子書籍より紙で読んだ方が良い。

A good math review book for high school students and a wonderful relaxation reading for undergraduates or higher levels.

Oxford Univ Pr (2020/3/2)
言語:英語
ISBN-13:978-0198814313

2023年1月13日金曜日

Freda McManus "Cognitive Behavioural Therapy" [認知行動療法:非常に短い入門]

目次:1.CBTの行動学的起源 2.CBTにCをつけること 3.CBTの背後にある理論 4.CBTのスタイルと構造 5.CBTの方法 6.CBTの応用 7.将来の方向性と課題

心理療法と呼ばれる治療みたいなものは色々あって、人によって思い浮かべるものが区々だと思うけど、わたしの場合はまず1960年代くらいでアメリカで流行ったような精神分析だ。だいたい患者はほとんど寝ているみたいな楽な椅子に座っていて、精神分析医はその後ろでメモを取っているみたいな…。一時期はまともな上流階級の人間は週一くらいで精神分析セッションを受けているみたいな感じだったらしい。まあ、現代日本でもメンヘルとかいうライフスタイルが存在して、それに近いのかもしれないが。

精神分析は相当色々な文献を読んだが、結局あまり流行らなくなったし、わたしも興味を失ったというのは、話としては面白いんだけど、現実に治療効果が低いのと科学的根拠が無さすぎるからで。あと、薬も発達したし、フロイトがアクセスできなかった脳科学の知見も増えてしまった。フロイトの知見が全部無意味とは思わないが、わたしとしては、未だに精神分析がどうこう言っている人たちを、未だにマルクスを読んで有益な知見を絞り出そうとしている人たちと同じような目で見ている。酷い場合は精神症状は全部幼少期の性的虐待のせいみたいな本が売れて、大量の冤罪が生み出されたとか。

それとは対極にあるというか、それに反発したように出てきたのが行動主義で、ここから本書は始まる。心理学といっても科学的でなければならないということで、まず、目に見える行動以外は非科学的なので研究しないという心理学が出てきた。当然すぐに行き詰まり、やはりCつまり認知の要素も必要ということになって少し緩和されたようなことだ。

本書で語られる対象は、主に強迫神経症のようで、多くの場合、患者は、認知というか事実の解釈が間違っているらしい。例えば「心臓がどきどきする」というのを「死ぬかもしれない」と考えてしまう間違った信念があり、この信念が間違いであることを患者に体感させるのが目標らしい。どうも話が雑過ぎるし、そんな知的な説得で群衆恐怖症とかが治るんなら楽な話に思われるが、多分実際に効果があるんだろう。鬱病におけるnegative thinkingも対象として挙げられているが、とにかく主題は「患者の持っている間違った考えを訂正すること」であり、そんな話ならそう言えばいいだけで、どうもCBTの必要性が良く分からない。患者自身が実験して確認するというのが重視されているが、それにしても別にセラピストはいらないような…。実際最後のほうでは読書療法とか言い出して、CBTの本を読むだけでも効果があるとかいう話になっている。

要するに本書を読んでも、全体的にちょっとわたしにはピンとこない話だ。ただ、これはわたしがそういう問題に縁がないからで、医療の現場では少なくとも精神分析よりは治療成績がいいんだろう。最新の療法としてマインドフルネスを使うMCBTとかいうのも出てきて、もちろんマインドフルネス自体がそもそも心理療法なんだろうけど、そう思うと、全体的に自己啓発書に書いてあることみたいな話も多かった。もちろん自己啓発書のほうがCBTから知見を引用しているのだと思うが、一応科学的という意味で自己啓発書を読むよりこの本を読んだほうが良いかもしれない。ともあれ、CBTの概説書ではあるので、これから治療を受けるとか、そんな理由でどんなものか知りたければ読んで損はない。

An overview of CBT. Maybe CBT is very effective and practical for some sorts of psychological disorder, which I do not understand much, even after reading this book....

Oxford Univ Pr (2022/7/28)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-0198755272

2023年1月9日月曜日

Silvanus P. Thompson "Calculus Made Easy" [簡単微積分]

目次:1.最初の恐怖からの救出 2.小ささの様々な程度 3.相対的成長について 4.最も簡単な場合 5.次の段階:定数をどうするか 6.和差積商 7.連続微分 8.時が変化する時 9.有益な回避法の導入 10.微分の幾何学的意味 11.極大値と極小値 12.曲線の曲率 13.他の有益な回避法 14.真の複利と有機的成長の法則 15.sinとcosをどう扱うか 16.偏微分 17.積分 18.微分の逆としての積分 19.積分で面積を求めることについて 20.回避法と落とし穴と勝利 21.いくつか解を見つけること

初版は1910年の歴史的名著とされている。内容的には初歩の微分から最後は一応簡単な微分方程式まで。演習問題は完全解答付きだが、そんなわけで一々解いていない。特徴としては、極限とかその他の厳密な議論をすっ飛ばしており、基本的には直観に訴えている。優れたヴァイオリニストがヴァイオリンを自作できる必要はないとかいう理屈で、まあ、今でも微積のこういう教え方は時々あると思うが、その元祖くらいなのかもしれない。にしても、ここまで乱暴な本はあまりないかもしれない。著者も言っているが、多分、同僚からボコられるんだろう。

そんなこともあるし、タイトルからして軽く見られそうだが、一応しっかりした微積分の入門書である。少なくとも高校程度の微積分はカバーしているし、演習問題もしっかりある。ただ、普通の大学のカリキュラムと整合しないと思われ、この本だけで微積分を済ませるわけにはいかないのが現実だろう。他方ε-δみたいな普通のカリキュラムは、何をそんなに気にしてそんな必死に議論をしているのか数学者以外には謎と言う問題もあり、どうかみたいな。

わたしにはどっちがいいのか判断する資格はないが、工学的な計算ができればいいだけなら、これで良いのかもしれない。少なくとも電験一種くらいならこれくらいで十分だろう。あるいは、微積分を教える側にとって有益な本かもしれない。

The easiest possible introductory course for calculus.

Independently published (2022/1/11)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 979-8799511098

2023年1月6日金曜日

Chris McMullen "Essential Calculus Skills Practice Workbook with Full Solutions" [基礎微積分:技術練習帳完全解答付き]

目次:1.多項式の導関数 2.連鎖の規則、積の規則、商の規則 3.三角関数の導関数 4.指数関数の導関数 5.対数関数の導関数 6.二階導関数 7.極値 8.極限とロピタルの規則 9.多項式の積分 10.定積分 11.三角関数の積分 12.指数関数と対数関数の積分 13.多項式置換による積分 14.三角関数置換による積分 15.部分積分 16.多重積分

世界的に評判の良い初歩の微積分の問題集。わたしはこれ以上に簡単な微積分の本を見たことがない…というのは、普通の微積分の導入で語られる面倒な理論的背景は完全に省略されている。つまり「すべての正の実数εについて」みたいな面倒くさい話が一切なく、ただただ微分と積分が機械的にできればよろしいというようなことだ。例えば最初からax^bの導関数はabx^(b-1)であるみたいなところから始まり、なぜそうなるのかの説明は一切ない。

解答はうっとうしいくらい丁寧で、簡単な式変形も省略しないで全部書いてあるし、正解の表記が何通りもある場合は全部書いてある。今の日本の高校の数学がどんなものか良く知らないが、この程度の微積分は高2くらいではなかろうか。相当数学が苦手な人でも「そこまで書かなくていいよ」と言って大半を読み飛ばすと思われる。

一つ、この本の明確な特徴として、三角関数として正弦・余弦・正接の他に普通に正割・余割・余接を使っている。裏表紙に本書に必要な公式が全部乗っているが、例えば∫secθdθ=ln|secθ+tanθ|+Cなどというのは公式扱いであり、説明はない。まあ右辺を微分すればすぐに分かることではあるが。

この辺りは好みなのかもしれないが、わたしはsec, csc, cotは使うべき派であり、tan^2θ+1=1/(cos^2θ)よりtan^2θ+1=sec^2θのほうがどう考えても覚えやすいと思うし、こういう本でもっと普及すればいいと思っている。

あと最大の特徴として、この本はworkbookということで、問題の一つ一つに対して余白があって、答を書き込めるようになっている。つまり別途紙を用意しなくていいということだが、これは人によっては利点かもしれない。この結構な余白と異様に丁寧な解答のせいで、ページ数のわりに問題数は少ない。

そんなわけで、この一冊で「微積分は全部片づけた」とは到底言えないが、多分、この本は昔勉強した微積分を思い出すためにやる人が多いんだと思う。わたしについては微積分は全然忘れていないが、とにかく試験であまりに計算間違いが多いので、算数ドリルと思って暇な時にやって三日で終わっている。知らないことは何もないのだが、やっぱり計算間違いはするもので、少し自分が勘違いしやすいポイントは分かったかもしれない。

Very good for revision.

Zishka Publishing (2018/8/16)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1941691243

2022年12月21日水曜日

Randall Munroe "What If? 2: Additional Serious Scientific Answers to Absurd Hypothetical Questions" [もし-だったら2 :無茶な仮定の質問に対する追加の真剣な科学的な回答]

"What If?"の続編。前が八年も前というのが信じられないが、この間"How to"とか"Thing Explainer"もあったし、何より著者のサイトxkcd.comを頻繁に見ているから、あまり久しぶりな気がしない。

内容は副題の通り前著"What If?の継続で、基本的にはxkcd.comで受け付けた質問に対する回答という形式。最初のうちはただの数値推定みたいな話が多くて(フェルミ推定とかいうのが流行った時期だろうか)、面白いのもあればそれほどでもないのもある。考えたら、出版界でムダに真剣な科学的考察というのが流行った時期が確かにあったが、生き残っているのはこの著者だけのような気もする。こういうの何人もいらないからな…。読むなら前著から読みたいような気もするが、別にこの本から読んでもいいし、何ならどこから読んでもいい。翻訳はまだ出ていないようだが、そのうち出るんじゃないだろうか。誰が読んでも面白いとは思えないが、xkcd.comのファンは全員読むだろう。

Great, as expected.

Hodder & Stoughton (2022/9/13)
言語:英語
ISBN-13:978-1473680623

2022年12月11日日曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid #17 : Diper ÖverLöde" [軟弱な子供の日記#17: Diper ÖverLöde]

このサブタイトルは、このシリーズを追っている人には分かるが、主人公の兄Rodrickのやっているバンドである。表紙は主人公Gregで、なぜこんな絵になっているかは最後のほうで判明するが、内容のほとんどはRodrickとその仲間たちのエピソードだ。このシリーズは第一巻からもう何年もずっと出るたびに読んでいて、まあだいたい面白いんだけど、正直なところ、この巻はちょっと低調だったかな…。

というのも、この巻の主役は結局Rodrickなのだが、ファンは知っているように、このRodrickというキャラはかなりハードボイルドというか、無表情であまり何も話さない。絵で言えばほぼ吹き出しがつかない。残りのバンドメンバーもあまりなじみがないし、わたしも最後まで読んであまり誰が誰か覚えていないようなことで、主要キャラが全部ちょっと遠目の描写になっているのが迫力に影響しているのかも知れない。さらに直前の#16はシリーズ最高傑作だったからなあ…。あとタイトルがこれなんで、やや下ネタが多めで、子供には受けるのかもしれない。

それはそれとして、この本は「グレッグのダメ日記 なんだって、やってやる!」という翻訳がポプラ社から出版されている。というか、過去分も含めてシリーズが全部翻訳されているようだ。このシリーズ、前からほぼ犯罪スレスレかどう考えても軽犯罪みたいなことをやっているが、この巻については完全に犯罪を犯しており、ポプラ社的にいいのか心配になる。まあPTAから禁書指定されるほど読まれていないのかもしれないが。わたしに子供がいたら読ませるし、大人でも十分面白い。英語の勉強としてもお勧め。

出版社: Puffin (2022/10/25)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0241583081

2022年10月20日木曜日

Warwick F. Vincent "Lakes: A Very Short Introduction" [湖:非常に短い入門]

目次:1.導入 2.深い水 3.太陽光と動き 4.生命を支えるシステム 5.魚に至る食物連鎖 6.極限の湖 7.湖とわたしたち

全く個人的な話だが、わたしにとって湖とはまず第一に琵琶湖Lake Biwaであり、その点については、近畿圏以外の人間、特に関東地方の人間が琵琶湖の大きさを過小評価しているのが気になっている。琵琶湖の大きさは滋賀県の1/6程度だが、これは東京23区を全部足したより余裕で大きい。東京23区を全部水没させても琵琶湖より小さいのである。これだけは言っておかないと、「琵琶湖で泳ぐ」という行為がほぼ海水浴と同等であることが理解されない。当然それなりに危険もある。

その琵琶湖は昔は南部の水質が悪くてそこから引く京都大阪の水は不味いというもっぱらの評判だったが、最近では随分改善されたんだろう。飲んでいないから知らないが。淀川もきれいになり過ぎ、そもそも瀬戸内海がきれいになり過ぎてもう少し汚さないと生態系に悪影響とかそんな話になっている。

というようなことがあって、元々平均的な日本人より湖について詳しいということもあるが、最近は公害防止管理者・水質一種を取ったこともあって、この本に書いてあるような生物物理化学地学みたいな理屈の話は実はあまり知らないことがない。世界の色々な湖の自然史みたいな話は楽しい。陸水に興味のある学生向けの入門書としても優れているのだろうが、一般人としては普段から湖の傍に住んでいる人は必読かもしれない。湖はそれぞれに個性があって一般論で語り切れないところもあるが、一般論も知っておいたほうが人生も楽しい。

I guess that this is not only an excellent introduction for limnology, but for all the people who live near a lake will appreciate this book. Although every lake have its own peculiarities, knowledge of some general limnology will your lake life more interesting.

Oxford Univ Pr (2018/4/1)
言語:英語
ISBN-13:978-0198766735

2022年7月25日月曜日

Walter Tevis "The Queen's Gambit" [クイーンズ・ギャンビット]

まあまあの期間孤児院に居た少女が実はチェスの天才だったという話。Netflixで映像化されて好評とかでついでに本も売れているらしく、一般的には評判のいい小説らしい。結構長い間本屋でも横置きされているし、わたしもチェスを指すので読んでみた。以下は実際にチェスを指す人間の感想なので、一般には参考にならないかもしれない。

この小説、とにかく殺伐としている。もとの家、孤児院、養親とも、あまり感心しないような状況だが、糾弾するほどでもないという、微妙な殺伐さだ。主人公Harmonには友達がJoleneくらいしかいない。主人公が女なので適当な男も出てくるが、わりと原始的な感情しかない。意図的にそう書いているというよりは、多分、作者がそんなに書ける人じゃないんだろうと思う。主人公がややヤク中・アル中気味だが、そこも描写が弱くて何となく克服しているような感じだ。話が基本的に平板というかまったりと殺伐としていて、ある意味、チェスプレイヤーのリアルな生活のような気もする。主人公を女に設定したのは、男ばかりのチェスの世界に少女を投入したら面白いだろうということだろうけど、あんまり性別は効果が出ている気がしない。Netflixはそこは最大限活かしていると思うが、見ていないから知らない。

一般人は興味ないかもしれないが、ガチ勢としては、チェス自体の描写がほとんど意味をなしていない。クイーンがどうとかポーンがどうとかcombination的なことは結構長々と書いてあるが、ガチ勢でも盤面を追跡できない。一局だけ完全に追跡できるゲームがあり、並べてみたが描写が間違っている。今時の将棋マンガなどはプロ棋士が監修について将棋ガチ勢でも盤面を完全に追跡できるし、昔でも浅田哲也「麻雀放浪記」なんかでも小説に手牌が完全に表示されていたりするが、この小説はそういう検証には耐えない。structureの記述はほぼなく、書かれた時代(1983)を考えても、グランドマスターの思考がこんな感じにcombinationだけ読んでいることは考えにくい。まあ時代劇の殺陣みたいに雰囲気だけ読めということだろう。プレーヤーが勝手に封じ手を宣言して、他人と相談しているとかは、いくら昔とは言え驚いたが。

このあたり、映像ではきっちり監修されているだろうし、もしかしたらキチンと局面を解説しているのかもしれない。主人公はロシア語が少しできる設定だが、даとнeтくらいでは説得力もなく、なんか全体的に取材が弱いのではないかという…。まあそこは論点ではなく、チェスプレイヤーの殺伐とした生活というところだろうか。翻訳はサンプルを少し読んだが、ちょっと読む気しないかもしれない。翻訳もチェスプレイヤーの監修が入っているとは思うが、元がこの調子なんでどうにもならないだろう。

文句ばかりになってしまったが、一応最後まで読んだのは、なんとなく殺伐感が良かったからだろう。おそらくだが映像を見たほうがいいと思う。

Though I have not watched the Netflix series, I guess it is a lot better than this original novel.

Weidenfeld & Nicolson (2020/10/29)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1474622578

2022年7月6日水曜日

Arthur Conan Doyle "The Adventures of Sherlock Holmes" [シャーロック・ホームズの冒険]

いわゆる正典で今更説明することもない。ホームズとしては発表順で言えばA Study in ScarletThe Sign of the Fourに続いて三作目ということになるらしい。ただし、前二作と違って短編集だ。12作品収録されている。

読んでいてひっかかるところもないし、ホームズは面倒くさい性格でもないし、読んでいて気分が明るくなる。依頼人の陳述が非現実なまで的に理路整然としているのにだんだん引っかかってきたが、作者またはDr. Watsonが話が上手すぎるので仕方がないのだろう。短編集なので読みやすいということもある。この作者とH.G. Wellsについては、まるで見てきたみたいに面白い話をする人という印象を持っている。あまりホームズに興味がないとしても、試しに読むならここからかなと思う。ホームズの人物像からしっかり書いてあるのはもちろん第一作"A Study in Scarlet"ではあるが、だいたいみんな人物像は既に知っているし。

The third canon.

Independently published (2022/6/23)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 979-8837485183