2012年4月6日金曜日

Richard H. Thaler, Cass R. Sunstein "Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness"

簡単に言うと、近頃は何でも選択肢が多いのが良いことだという風になっていて、何をどう設定すればいいのかよく分からない。結果的に選択肢がない場合より酷いことになったりする。と言って、わたしが真っ先に思いつくのは「サブウェイ」だが、昔はスタバもそうだった。スタバは早期にデフォルトのコーヒーを気軽に飲めるようになったので、ここまで繁栄しているが、サブウェイもさっさと見習うべきなのだ。

いや、そんなことはこの本には書いていないが、要は、「選択肢を増やして放置するのではなく、適切なデフォルト値を提供せよ」と主張する本である。この主張はサブウェイにでも家電にでも携帯電話の料金体系にでも、何にでも当てはまりそうだが、ここでは特に公的機関の提供するサービスについて考察されている。従って、この場合の「適切なデフォルト値」とは、「最も国民の利益になりそうな選択肢」を意味する。もちろん、敢えてデフォルト値と違った選択をする人にはその権利は保証するべきだが、どんなデフォルト値を設定しても、たいていの人はデフォルトに従ってしまうのであり、デフォルト値の選択には慎重な検討が必要だ。多くの場合、デフォルト値を設定しないことはできないので、この含意は大きい。

事例が多いのが勉強になる。それはさておき、日本語訳が割と酷い。そもそもタイトルが酷い。「実践行動経済学」とあるが、behavioral economicsという単語自体、ほとんど本文に出ていなかった気がする。確かに、社会保険や貯蓄の例が多いが、特に経済に関する話に限られていない。「健康、富、幸福への聡明な選択」とあるが、まるで自己啓発書みたいだ。「健康、富、幸福に関する選択を改良する」というのが原文に忠実だろう。原題"Nudge"は適切な日本語がないが、人をごく軽く突いて勧めるような感じ。つまり、デフォルト値のことである。

まあ、本格的に公共政策を学んでいる人にとっては、こういうことは枝葉末節に思われるのかもしれないが、現実に大影響を与えるわけだし、どんなに優れた制度でも、デフォルト値の設定を誤ると成果を上げない。単に学問的に研究している人には関係ないかも知れないが、特に現場にいる人には、必読書と言える。


2012年3月30日金曜日

Daniel Kahneman "Thinking, Fast and Slow"

この本を読むのに時間がかかったのは、分厚いからではなく、面白過ぎるから。一ページ読むたびに色々な考えが湧いてきて、なかなか読み進めなかった。

ダニエル・カーネマンは行動経済学を開拓したというのでノーベル経済学賞を受賞している。しかし、サブプライム騒動以来、「行動経済学」と名のつく下らない本が巷に溢れているし、ノーベル経済学賞という賞は信用がない。従って、こんな本を読む理由もないところだったが、英国放送局の著者インタビューで少し興味を持ったので、開拓者の本を読んで行動経済学は終わりにしようと思っただけ。しかし、衝撃的に面白かった。

まず、著者は経済学者ではなく心理学者であり、この本の主題も経済には限っていない。特に前半は経済とは直接関係のない心理学の話だ。多分、邦訳が出る時には、「ノーベル賞」と「行動経済学」というワードを全面に出して売るんだと思うけど、そんなものに何の興味もない/うんざりしている人でも楽しく読める。わたしは心理学という学問もあまり尊敬していないが、ここ十数年で心理学は長足の進歩を遂げ、バカにできない。

簡単に言うと、この本は、人間の「直観」を疑う本だ。世の中には「直観を信じろ」という方向の自己啓発書的なものが多いが、この本は全く逆の方向の啓発になる。直観には構造的なバイアスがあり、簡単に錯覚する。そして教えられるまで自分が錯覚していることにも気がつかない。一時期、錯視図形のコレクションが流行ったが、この本は、直観の錯覚のコレクションのような趣もある。一々紹介しないけど、最近発見されている錯視図形に勝るとも劣らない、衝撃的な錯覚コレクションだ。

わたしとしては、特に前半部の統計に関する錯覚が興味深い。「統計でウソをつく本」みたいな本はいくらでもあるが、そういう本は、統計に関する教訓を垂れて終わることが多い。しかし、カーネマンは心理学者であり、錯覚の原因を追及する。錯視と同じように、錯覚には構造的な要因があり、どのような状況で、どのように人が錯覚するかは予測できるのだ。そして、錯視と同じように、正解を教えられても、人はなおも錯覚し続ける。ちょうど、「この二本の線は同じ長さだ」と頭では分かっていても、錯視が訂正されないように。そうと分かれば、錯覚を利用することもできる。

後半は経済学の教義に踏み込んでいく。この辺りはいわゆる行動経済学で、聞いたことのあるような話も多いが、それでもなおも面白いのは、さすがは開拓者と言ったところか。そもそもこの著者は話が上手い。対象読者は完全に一般人なので、特に予備知識は必要はない。もちろん、多少の統計学・経済学の基礎知識があれば、尚可だが、言っていることは、高校生くらいでも理解できそうだ。そのうち日本語訳も出ると思う。

The best book on behavioral economics by a Nobel laureate. Many self-help books recommend you to believe your intuition, but this book recommend the contrary. I guess this book is already among bestsellers in English-speaking countries.

2012年3月13日火曜日

Edwin H. Sutherland "The Professional Thief"

これも二十年前に読んだ本。初めて英語で学術書を全部読んだというので記憶に残っているだけではなく、単に面白かった。

サザランドは現代犯罪学の礎を築いた一人で、"differential association"「分化的接触」の理論で有名だ。この説によると、犯罪というのは単独の精神異常者が起こすのではなく、犯罪を良しとする集団(地域とか親族とか友達とか)があり、そこで学習されるという。当時からギャングはいたわけだし、普通に穏当な見解に思われるが、当時としては画期的だったらしい。当時の普通の考え方としては、犯罪者は単なるバカとか悪とか遺伝とか人種とか、あるいは逆に単なる合理的経済行動だとか労働者の闘いだとかいうことになっていたんで、普通の見方というのは、なかなか難しかったようだ。その後、サザランドは"white collar crime"「ホワイトカラー犯罪」という言葉を導入し、研究を進めていくがそれはともかく。

この本は、とある実在の"thief"(窃盗犯でいいと思う)とサザランドの合作で、職業盗賊のリアルな生活を描いている。といっても、戦前のアメリカの話なんで、いかにも大らかで、普通に銀行強盗とかが成り立っているし禁酒法とか言っている。そんな話が好きなら、多分、映画より面白いだろう。後半になってサザランドの解釈とかの部分になると、これは社会学の学生とか研究者向きということになるが・・・。

で、読み終わってレポートとか提出した後で、教官に「翻訳が出てるよ」と言われた。詐欺師コンウェルとかいうタイトルだったが、アマゾンでは見つからない。

From my college days. It was so interesting, even if you are not interested in sociology at all. A thief in good old days in America.

Julian Jaynes "The Origin of Consciousness in the Breakdown of the Bicameral Mind"

これは二十年以上前に読んで結構呆れた本だが、たまに言及する人がいるので調べたら、2005年に翻訳が出ている。日本語訳はいかにもなタイトルにされてしまっているが、素直には「意識の起源と二院制の心の崩壊」。古代文明の遺産(叙事詩とか遺物)と(当時の)最新の脳科学理論から、意識の起源を考察したもの。

はっきり言ってトンデモ本の範疇だと思うし、検証不能というか、今では反証されている部分も多いんではないかと思う。なんでこんな本を読んだかと言うと、当時、わたしは「イーリアス」をギリシア語原文で読んでいたし、ついでに分裂症関係の文献も大量に読んでいて、しかも教官(さらに別の全然関係ない分野だが)がこの本に入れ込んでいたから。

というわけで、わたしの興味は主としてイーリアスと分裂症に関係する部分だった。分裂症というか統合失調症の基本症状の一つに「自分の考えなのに自分の考えとは思えない」というのがあり、現代人の場合は、ここから「電波で思考を操られている」とかいうことになるわけだが、古代人の場合はこれが「神の声である」ということになり、しかも、その神の声の言うことが割と筋が通っていて、社会全体で同じような声を聞いていたのであると。

それはそれでいいとして、思考をどこに帰属させるかの問題だけのような気がする。古代人が神々の声に盲目的に従っていたとして、現代人だって、社会に共有されているなんかの理論やら道徳やらに盲目的に従っているのであり、自動人間であることに大差はない。別に神々の思考と「自分」の思考に、別々の場所(右脳と左脳とか)を割り当てなくてもいいのではないかと思うのだ。それが誰の思考に帰属されるか、または感じられるかは、また別の話として・・・。

I put this book under the category "pseudo-science". I was really interested in Iliad and schizophrenia at the same time. Some ideas are really interesting but due to the limitation of the level of then current brain science a big part of this book is now out-dated.


2012年3月8日木曜日

Burton G. Malkiel "A Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing"

翻訳も版を重ねている「ウォール街のランダム・ウォーカー」。わたしが株を買うきっかけだった。

本書は基本書であり、世界中どこでも、株式市場の業界関係者は全員読んでいる。難しい本ではないし、株式売買をするなら、素人であっても必読書と言える。みんなが読んでいる本は、やはり読んだほうが良い。語彙が増える。

よって立つ基本原理、効率的市場仮説は、要するに公開株式には全ての情報が織り込まれた値段がついているので、割安だったり割高だったりする銘柄は基本的に存在しえないということだ。独自情報や理論を元に出し抜こうとしても、多数のプロが鎬を削っている効率的な市場では無謀。ただし、株式市場は常にインフレに対して勝ち続けていることだけは事実なんで、リスクとリターンを考慮して適当にインデックス的に買って、あとはホールドしておけばよい。売買を繰り返すのは手数料を損するだけであると。

正しいかどうかは別として、専門家がランダム買いに負けるという理論は痛快ではある。そんなわけで、わたしは株を始めた。そして、ホリエモンが立候補して逮捕され、村上ファンドは解散し、リーマンは破綻し、木村剛は逮捕された。日航は上場廃止となり、東電は巨額の賠償を抱えている。どう見ても市場価格は全ての情報を織り込んでいなかった。個人的には、この間も不屈の精神でbuy & holdを貫徹しているが、だからといってこの本の主張を支持しているわけではない。わたしの成績はインデックスよりは全然マシだ。運が良いだけだと思うが・・・。

この本自体、専門家を否定すると言う意味で不可知論だが、近頃は更に過激な不可知論のほうが人気があるようだ。その最たるものが"The Black Swan"であろう。しかし、勉強という意味でも、こっちを先に読んだほうが良い。



2012年2月29日水曜日

Robert M. Bramson Ph.D. "Coping with Difficult People"

「困った人たち」との付き合い方というわけで、十年以上前にブームになったジャンルの元祖。こういうのは大抵元祖は越えられないんだけど、個人的には後追い本も読みたくなった・・・。

"difficult people"が分類されていて、それぞれの対処法が書かれているんだけど、ここで言う"difficult people"というのは、主として、対人態度がなっていない人のことを言う。つまり、傲慢だったり、陰口ばかり言っていたり、怒鳴ってばかりとか。これはなかなかの限定だ。

もっと根本的に困った人、たとえば完全主義者だとかmicro managerとか利己主義者だとかいうような問題は対象ではない。また、もっと具体的に困った人、たとえば、遅刻ばかりするとかストーカーだとか自分の非を絶対に認めないとかも対象ではない。

対象を限定しても、なお対処法はバラバラで、共通の要素は少ない。役に立つというより、痛快がって読まれているような疑惑もある。まあ、なかなか話しにくい個人的な問題を客観的に描いてくれるのは、それだけで気が楽になるということもあるのだろう。

この本のブームの後、バラバラの対処法からわずかな共通項を取り出したのが"assertiveness"ということになるんだろうか。この本がアメリカンな感じがするというのは、全ての対処法に共通して「はっきり言う」というのがあるからで、これが日本人の発想ではない。「ご不満な点もあるのかも知れませんが、わたしはこの提案が現在最善であると考えています。もう一度着席して最後まで話を聞いてください」「今おっしゃったことは当てこすりに聞こえましたが違いましたか?」もちろん常に直接対峙が良いとは全く言っていないが、assertiveとはこういうことだ。

といっても、assertiveness本は、問題を一個人に限定してしまう傾向があり、その時点で不自由だ。重要なのはもっと実用的な会話マニュアルだったり、フレーズ集だったりのはずで、この本も、そういうフレーズを拾えるのが主たる利点であった。フレーズというか「言い方を知っているかどうか」というのは、結構致命的なことで、知らなければグダグダになってしまう所でも、知っていれば冷静に、アメドラのように話せる。というか、アメドラの吹き替えのように話すことを心がければ、自動的にassertivenssが付属してくるような気がしてきた。何にしろ、色々考えさせてくれている時点で、これは良い本であった。

Classical book of this genre. In this book, "difficult people" means people who have bad habitual general attitude toward others. Apparent menace toward a particular person is out of its range. Or more concrete problems, such as "being always late", are also out of its range. This seems a great limitation, but still there are a range of difficult people and coping procedures... I guess the greatest common denominator would be "assertiveness". But Books on assertiveness tend to focus on only one person, you. That is not how assertiveness grows. What we need is just "phrases to use". And in that regard, this book is pretty good, though I want to read more.


2012年2月19日日曜日

Charles M. Schultz "Peanuts: A Golden Celebration: The Art and the Story of the World's Best-Loved Comic Strip"

これは相当昔に読んだ本だけど、今日和訳を発見したので、敢えて紹介する。Peanutsについて書いたことがなかったし。確か、これが出た後すぐに作者休業で亡くなったんだよな・・・。

PeanutsはDilbertと同様に、割と翻訳者に恵まれた感があるが、やはりマニアとしては原書にこだわりたいところだ。今から思えば、わたしが初めて洋書を買ったのが丸善で、Peanutsであった。以来、原書またはWebでしか読んでいない。

http://www.peanuts.com/

色んなeditionがあるのはアメコミの通例で、近頃は日本のマンガもそんなことになっているが、Peanutsの場合、やたら自己啓発染みた解説書が多いのが特徴だ。もちろん、全部無視する。作者はプロテスタントで、教会で活動していたこともあるようだが、キリスト教的な教えをコミックに注入しようとしたことはないと明言している。正直なところ、わたしの見解では、キリスト教的な解釈など、Peanutsに対する冒涜でしかない。

んで、"Charles M. Schulz: Conversations (Conversations with Comic Artists)"を読むとなると、これは相当なマニアと言えるが、マニアなら必読書だ。結局のところ、Charlie Brownみたいな人だったらしい。なんでこんな人が、わりと悲惨な離婚になったのか良く分からないが、古き良きアメリカの温厚なおじさんだったんだなあと。






2012年2月18日土曜日

Princeton Review "Word Smart"(4e)

基本的にはSAT用の単語帳とされているらしい。つまりアメリカの大学入試レベルということで、アメリカでは良くある類の本。単語の難易度ということでは、英検1級も少し越えているんじゃなかろうか。わたしですら、知らない単語が一割くらいあった気がする。つまり、ビジネスで英語を使うとかNY Timesを読むとかいう程度のことなら、この本は少し難し過ぎる。実用的な語彙ももちろん多いが、SATを受けた後、一生出会わない単語もありそうだ。

ちなみに、わたしは単語の丸暗記は苦手で、この本は例文が充実しているのが売りだが、それでもやはり厳しかった。ただこれは人によるんで、何とも言えない。わたしとしては語源系のほうが有り難いが、この本では、語源はほとんど問題にならず、単にアルファベット順に並んでいる。

A word book for SAT. I do not particularly like this book, since I prefer etymological explications to a bunch of sample sentences.

2012年2月14日火曜日

Donald Gillies "Philosophical Theories of Probability" (Philosophical Issues in Science)

これはわりと何度も読み返している本だ。確率理論とか統計理論は、第一に直感に反する事例が多いのが面白いのと、第二に神学的対立が多いのが面白い。この本が面白いのは後者のせいで、「確率とは何か」について様々な説を歴史的経緯も含めて紹介している。いろいろ文句もあるけど、考えるのは面白い。

・論理説・・・ケインズに代表される。無差別原理「同様に確からしい」事象に分割して確率を計算していく。分割の仕方が複数ある場合に簡単に矛盾に陥る。
・主観説・・・ラムジーなどに代表される。基本的にはギャンブラーの心の中に確率がある。わりと整然たる公理系を導く。
・頻度説・・・ミーゼスなどに代表される。反復した時の経験から確率を定義する。定義が狭すぎるのが難点。
・傾向説・・・ポパーに代表される。確率とは状況に内在する傾向性である。量子力学などを想定。

Great overview. I read this book once in a while. Philosophy of probabilities are most interesting because there are lots of counter-intuitive examples and (as of this book's case) there are lots of theoretical controversies despite the fact that it is an area of mathematics.

2012年2月8日水曜日

Ray Young, Sally Brock "Bridge for People Who Don't Know One Card from Another"

この本の良し悪しは分からない。わたしはブリッジの他の本を読んだことがないし、最も良心的そうな薄い本を選んだだけであった。本書はトランプには四つのスーツがあります、くらいから説明している。日本語では適当な本が入手しにくい。とりあえずプレイを始めるには十分と言えよう・・・。戦術にのめりこむとキリがないのは、麻雀と同じだ。

実はブリッジは、プレイのルール自体は全く難しくない。本書では、わりと早目に"Mini-Bridge"を紹介していて、これは切札の決め方や点数等を除けば、ブリッジと何も変わらない。習得するのに十分程度で済む。本によっては"Whist"を紹介していることもあるようだ。どっちにしろ、「ナポレオン」なんかより易しい。

オークションのルールも全く難しくない。点数は少し複雑だが、点数表があれば問題ない。大抵のデッキには、カードの一枚としてブリッジの得点表が入っている。何も知らない四人が集まって、ルールだけ覚えてプレイしても、ゲームは成立するし、そこそこ楽しいんじゃないかと思う。

難しくなるのは、敵味方の持札を推測しようとするからなのだ。オークションの経緯やカードの出し方によって持札が推測できるのは当然だが、味方に自分の持札を推測させるという面もあり、慣習に則ってオークションやプレイをしないと、味方まで混乱させる。これが面倒臭い。こういう慣習には一々合理的な理由があるが、初心者はひとまず丸覚えするしかない。

味方同士なんだから、手札を見せ合ってゆっくり検討すればいいんじゃないかと思うが、そういうことになっていないらしい。たとえば、プレイ中に味方に「スペードのエース持ってる?」とか訊いても良さそうだが、多分反則なんだろう。しかし、麻雀と同じで、いくらでも脱法手段がありそうなものだ。

で、慣習を丸覚えしたとして、次に、カードゲーム自体の難しさがある。ブリッジに限ったことではないが、カードゲームでは、それまでに誰がどのカードを出したかを覚えているのが決定的に重要だ。ブリッジでは、オークションの経緯も覚えている必要がある。別に覚えていなくてもプレイはできるが、強くなりたければ、これは最低条件と言える。麻雀のように捨牌を表示しておく習慣がないらしい。この条件をクリアした上で、初めて戦略がどうのこうのと言えるようになる。

そして、最後の難関が、「以上の条件をクリアしたヒマな四人を集める」ということになる。生きている間に生身の人間とブリッジをプレイするのは、ほぼ絶望的かもしれない。麻雀と同じで賭博が付き物のようだが、味方に殺意を抱く可能性がある分、性質が悪い。

An introduction to contract bridge. I do not know if this book is a great book because I have not read other bridge books. But I guess bridge is not a difficult game if you only want to understand the basic rules and some basic strategies. And this book suffice for a beginner.

2012年2月3日金曜日

Stephen Smith "Environmental Economics: A Very Short Introduction"

いわゆる環境経済学の入門書。現実よりは理論の解説。わたしには初歩的過ぎるというのもあるけど、わたしがバカにしている「前提条件の多過ぎる」経済理論だ。経済学部の初学者が英語の勉強も兼ねて読む分にはいいんではないかと思うが、実務的にはほとんど意味がない。別に環境経済学を学んだことがなくても、多少経済学をやった人なら、普通に推測がつく程度の話だ。経済学を全く知らない人なら、もしかして思想的に衝撃を受けるのかも知れない・・・。まあ直ぐに慣れてしまう、というか洗脳されてしまうわけだが。じゃあ最初から知らないほうが良いのかと言うと、もしかするとそうなのかも知れない。

Perhaps good for a novice student of economics. Just a bunch of theories which are too simple and demand too many premises. Not a practical book.

Nassim Nicholas Taleb "The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable"

今頃こんなのを読んでいるのは、今読んでいる本がこの本に色々言及していて、ちと興味が湧いたから。なお、今読んでいるほうの著者についても、この本は色々言及していて、高く評価している。ベストセラーになった時に読まなかったのは、あの頃は金融市場の失敗を論う本が多くてウザかったのと、Popular Mathというか、特に統計学関係についてはうんざりしているから。だいたいが、「リスクは飼い慣らせる」というバカみたいな主張か、「統計学者はウソつきである」みたいな少しは面白い逆の主張であり、この本は後者だが、純粋に統計論としては、特に目新しい内容はなかった。ただ、ポパーとマンデルブロをそんなに高く評価するのは意外だ。そんなに言うのなら調べようと思う。

しかし、この本がウけているのは、そんな技術的なところじゃなくて、自己啓発書みたいな読まれ方をしているんだろうと思う。金融工学が詐欺なことは今では誰でも知っているが、徹底的にコキ下ろされる。分かりやすさのために話は戯画的に単純化されており、スーツを着た高給取りの正規分布原理主義者が徹底的にバカにされる。読者は大いに溜飲を下げ、気分も明るくなるが、生活は何も変わらないというような・・・。

とにかくベストセラーだから読んで損ということはない。"black swan"は一般名詞になっているし。だいたい、経済学を学び始めたころに誰でも素朴に思うのは「前提条件が多過ぎる」ということだが、どっぷり浸かっていくうちに、それを忘れてしまうようだ。こういう本はたまには売れないといけない。そして、また、そのうち忘れられるんだろうとは思う。それとも、著者が考えるように、この世はどんどんblack swanが増えていて、忘れたくても忘れられなくなるかな。

A multi million seller. There are two types of popular math book. On the one hand there are so many dull books that stipulate that we can manage risk. On the other hand there are a bit more interesting books that stipulate that statisticians are liars. This book falls in the latter category but I doubt it is also read as a sort of self-help book. Anyway perhaps partly owing to this book now we all know that computational finance is a big fraud. We mock well-dressed Wall-Street experts, feel good, and do not change our way of life.





2012年1月27日金曜日

Joshua Piven, David Borgenicht "The Complete Worst-Case Scenario Survival Handbook"

これは相当出ているシリーズだが、そのベスト版という感じ。日本語でも「この方法で生きのびろ!」というタイトルでいくつか出ていた。様々な危機的な状況からの脱出手段を解説している。半ば真面目なのもあるが、基本的にはギャグだ。真剣にシリーズを追うほどのファンでなければ、この一冊がお勧めというような感じ。

Very best of "Worst-Case Scenario" series.

2012年1月23日月曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid 6: Cabin Fever"

いつも楽しみにしているこのシリーズ、まだ六冊目だったか・・・。日本語訳も続いているようだ。例によって日本語訳は読んでいないから出来は知らないが、表紙の時点でアウト。ていうか、こういうのって、訴えられるんじゃなかったのか。原著を強く推奨する。ていうか、本屋でも見かけないということは、多分、児童書のコーナーに置いてあるんだろう。ポプラ社だし。

何の根拠もないただの憶測だが、もしかすると日本語訳には検閲が入っていても不思議ではない。主人公は「真面目系クズ人間」と言うのが最も近い。アメリカ人の感覚では"wimpy"というのは、相当な悪口だと思われるが、「ダメ日記」と言うのは自意識過剰過ぎる。本人は天真爛漫に怠惰で臆病で利己的だ。のび太に近い。

とにかくリアルなのは、多分、著者にそれくらいの子どもがいるのと、著者自身がそうだったんだろう。この世代になると、親子でそんなに子ども時代の環境が変わっていない。リアル過ぎて、主人公に共感して一緒にイライラしたりする次第だ。これを笑って読めるのが大人なのかもしれない。

リアルというのは主として感情面の話で、物理的には、アメリカの中産階級の裕福さに唖然とする。庭付き一戸建てに専業主婦は当たり前として、子ども部屋からトイレから車から、何もかもが広大だ。何より、主人公を取り巻く大人が、色々な意味でちゃんとしている。まあ、よく調べると、中味はあんまり主人公と変わっていないようだが・・・。

I love this series. Greg is really wimpy, which all we are. By the way I am astounded by his family's richness. Adults surrounding him are all very, well, well-educated. Though, inside they are all wimpy too, I guess.



2012年1月20日金曜日

Chris Bray "Backgammon For Dummies"

この本の解説をする前に「バックギャモン」の何たるかを説明せねばならぬ。

「バックギャモン」は数千年の歴史を持つとか言っているが、要は双六で、日本では奈良時代から遊ばれていた。囲碁並みに単純なゲームだから、ルールがそんなに違ったはずがない。おそらく、「枕草子」や「徒然草」に出てくる「双六」と、今の「バックギャモン」に大した違いはないと思われる。当時からそんな描写があるが、なかなか熱い深遠なゲームだ。

ルールを覚えるだけなら、どうせ単純なものだし、無料で落ちているソフトを適当にプレイしていれば大体分かる。ついでにGNU Backgammonなどはゲームを解析してくれる。とは言え、ある程度本気で解析結果を理解するには、一冊くらい何か読んで考え方を理解する必要がある。この辺りはオセロに似ているが、オセロではコンピュータの手が人間の理解を越えているのに対し、バックギャモンは一応理解可能だ。

というわけで、この古式ゆかしい伝統遊戯を習得したいと考えると、日本語の本では日本バックギャモン協会編『バックギャモン・ブック』しかない。しかし、残念ながら、『バックギャモン・ブック』は読みやすいとは言えず、バックギャモンの普及に貢献しているというよりは、妨害している気がする。さらに、amazon.co.jpに、あからさまに不自然なキモいレビューが多い。仮に内容が素晴らしかったとしても、この点については、こだわらざるを得ないであろう。

チェスでもそうだけど、どのみち、日本語の解説はカタカナばかりで読みにくい。さらに、こういうマイナーゲームは、日本語圏では村社会の空気で気後れがする。最初から洋書を読むべきだが、とりあえずこの本は無難なところだろう。定評があるし、読みやすいし、勉強になった。一つ文句があるとしたら、ダブリングの説明は後回しにしたほうが良かった。ダブリングは1920年代に発明されたもので、それ以前の数千年は、そんなのなしでも、世界中で禁止令が出るほど楽しまれていた。さんざん遊んでから、ダブリングを学んでも遅くない。ダブリングの導入によって、途端に戦略上の計算が面倒になる。不合理な点がないので、麻雀の点数計算とは比較にならないほど簡単だが、囲碁程度には面倒だ。さらにトーナメントになると更に難しくなるが、幸いにしてこの件は最後に回されている。ていうか、ボードゲームの常で、いくら考えても切りがない。

この本を読んだだけでバックギャモンの達人になるわけではないが、少なくとも、「単にルールを知っている」程度の人に負けることは、ほとんどなくなるだろう。サイコロがあるので、絶対というわけにはいかないが・・・。たとえば、オセロで同じような本を一冊読めば、初心者にはほぼ絶対に負けないと思われるが、そこまでの差にはならない。しかし、麻雀よりは率がいいはずだ。ルールも単純だし、小学生くらいから余裕で始められる。だいたい、こういうのは子どものうちに覚えてしまうのがよろしく、小学校の先生などは、算数の勉強にもなるので、是非習得して指導されたい。

Nice book, though I never read another book on backgammon. Now I can play against GNU backgammon in my spare time. I would prefer if the explanation on "doubling" were put in the last part, because backgammon is fascinating even if there were no doubling cube.