2025年2月21日金曜日

Amy Jones "Literary Devices" [文学技法]

 Literary Devices (Amazon.co.jp)

比喩とか誇張法とか擬人化とか、その類の利いた風な言葉遣いの図鑑みたいな感じ。たとえばカルチャーセンターとかでやっているような小説教室とか、そういうところではこういうことも教えているんだろうな…という感じ。わたしはあまりこういう創作の裏側みたいな話には醒めてしまって興味がないが、例として挙げられる文章はそれなりに面白く、読み込んでしまう。修辞学は意外にやたら好きな人もいるし、試しに読んでみるにはいい本かもしれない。

Wooden Books (2023/9/15)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1952178146

2025年2月20日木曜日

Mark Pallis "Lipsmacking Backpacking: Cooking Off the Beaten Track" [舌鼓バックパッキング:踏み鳴らされた道から外れた料理]

 Lipsmacking Backpacking (Amazon.c.jp)

要はハイキングとかで自然の中での料理の仕方みたいな本だが、レシピ集というよりはもっと基礎的/原始的な各種食材の調理法みたいな感じ。使う物はナイフと携帯コンロと鍋と網くらいだろうか。だいたい切れとか焼けとか煮ろとかそんなレベル。どこで食材を調達するとかいう話はない。食材は普通にスーパーとかで買って来る想定らしい。

従って、普段から普通に料理をしているわたしみたいな人間からすると、特に意外な情報はないが、何かと洋風な感じで、普段の考え方と少し違ってくる。例えばバナナ料理とか普段は考えないからな…。しかし料理なんて本質的にはこんなところで、わたしも普段そんなにレシピとか調味料の分量なんて真剣に考えていない。

総じて、普段あまり料理をしない人のための本かもしれない。あるいは料理をすると言ってもレシピ通りにしか作らない人にとっては、斬新かもしれない。

Wooden Books (2007/5/1)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263579

John Michell "Euphonics: A Poet's Dictionary of Sounds" [音調学:詩人の音の辞書]

Euphonics (Amazon.co.jp)

まずeuphonicsという言葉が存在しないようだ。英語の音素一つ一つについて解説と詩がついている。Aの項目を訳してみる。

A

a daring aviator aloft in the atmosphere

ある日本の賢者がなぜ人が建物から落ちる時に"Aaaaaa!"と叫ぶのかを説明している。それは上に行きたいという自然な欲求からであり、"Aaaa!"という音は心身共に上昇の特徴を持つ。

Aにはalacrity, active, happy, alert, agile, attentive aware, awakeな少年少女の意味がある。該当する鳥はlarkであり、次のように語りかけられるだろう:

Audacious avian arise!

Ascend aloft to azure skies!

Alert to your angelic strain

Our aspiration soar again.

こんな調子で続く。どうでもいいけど、さっきhappyという単語が混ざっていたが、それくらい英語ではhの音は存在感がない。この点はHの項目を見ればさらに明らかになるが…というような話に興味があれば面白い本だ。昔、英詩をやたら好き好んでいた時期があり、タッチタイプも英詩を打って覚えた個人的な過去もある。なんか懐かしい気がした。

Wooden Books (2006/2/15)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263432

2025年1月28日火曜日

Arthur Conan Doyle "His Last Bow" [最後の挨拶]

 His Last Bow (Amazon.co.jp)

ホームズの短編集としては三冊目。なんか粗い話が多かった気がする。第一次世界大戦前後で時代のせいだろう。だいたいジョジョの奇妙な冒険でいうところの第一部くらいという感じ。自動車とか言い始めているし。明確に言えるのは、ホームズとしては最初に読む一冊ではない。

CreateSpace Independent Publishing Platform (2014/9/30)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1502571120

2025年1月22日水曜日

Linda Johnson-Bell "North European Paganism" [北欧の異教]

 North European Paganism (Amazon.co.jp)

今の地域で言えば主にデンマーク・ノルウェー・スウェーデン・フィンランド・バルト三国くらいのキリスト教以前の宗教についてのエッセイという感じ。資料というよりは読み物。と言っても、ヨーロッパ、特に西欧は基本的にキリスト教のせいで古代の宗教はすべて滅亡しているし、あまりはっきりしたことも分からないのかもしれない。

こういうことだから、後でナショナリズムの時代になった時に、民族神話みたいなのをでっちあげる段になって苦労する。ローマ・ギリシアの伝統を引き継げる地域はいいが、イギリスとかフランスはケルトに訴えるしかないし、ドイツは北欧寄りになる。

で、その北欧だが、それにしても今、本気で北欧の神々が信仰されているフシもなく、この本も実際にはファンタジーの材料という感じ。日本人はまあまあ本気で神社にお参りしていると思うが、そういう感じではない。そもそもpaganismというのが元々侮蔑語で、異教というより邪教と翻訳するほうが正しいのかもしれない。

出版社 ‏ : ‎ Wooden Books (2023/9/15)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155468

Danu Forest "Nature Spirits: Wyrd Lore and Wild Fey Magic" [精霊:運命の伝承と自然の妖精魔法]

Nature Spirits (Amazon.co.jp)

日本で言えば妖怪図鑑みたいなもの。題材はギリシア~ケルト~北欧まで広いが、ほぼすべて欧州圏。妖怪というと未だに水木しげるのイメージが付きすぎていると思うが、日本に限らず、何でも謎の妖怪/妖精/精霊のせいにする文化はあるらしい。この本については、英語圏では中学生くらいが対象かと思うけど、この類の話を知っていないと、特に児童文学とかスッと読んでいけないこともあるだろう。基礎教養として読む本だ。

Wooden Books (2008/10/20)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263821

2025年1月15日水曜日

Gregory R. Beabout "Ethics: The Art of Character" [倫理:人格の技術]

 Ethics (Amazon.co.jp)

西洋倫理学の歴史から最近の論点までの簡単な紹介。後半になると、よく会話のネタになるジレンマの話が増えてくる。Wooden Booksなんで、そんなにテクニカルな話になるはずもなく、理屈好きの高校生などには良いかもしれない。個人的に思うのは、古代の倫理学の持っていた大きな世界観とかもっと考えても良いのかもしれない。それはそれとして、なぜ人類は倫理とかいう制度を発展させたのかとか考えると、どんどんスケールの小さい、現代的な視点に還元されて詰まらなくなる。しかし、考えなくていい話でもないな…。

Bloomsbury Pub Plc USA (2018/1/2)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1635570830

Abhinav Singh, Charlotte Jensen "Sleep to Heal: 7 Simple Steps to Better Sleep" [癒しの眠り:よりよい睡眠への七つの簡単なステップ]

Sleep to Heal (Amazon.co.jp)
良い眠りの科学(Amazon.co.jp)

個人的にこの本が期待外れだった理由を三つ書いていくことになる。

第一に、この本の対象読者がわたしではない。著者は睡眠外来の現場の医師で、主に不眠を扱っている。一応、睡眠全般について書いてはいるが、著者の目線は圧倒的に睡眠障害・不眠の人に向いている。わたしはというと、不眠症ではないし、むしろ起きられなくて困っている側だ。不眠の多くの人はそもそも睡眠が嫌いなことが多いが、わたしのほうでは睡眠を愛している。そんなわけで、著者のアドバイスのかなりの部分が無用である。逆に言うと、不眠症の人はこの本を読むと色々学ぶことがあるのかもしれない。

第二に、わたし自身が睡眠関係の本を読み過ぎているせいか、新しい知識があまりない。多分、このブログでも相当紹介しているし、日本語でもいい本は多い。書店に行けば自己啓発書のコーナーに一冊くらいは必ず平置きされているだろう。この本も翻訳されているようで、多分平置きなのではなかろうか。その中でこの本が特に劣っているとは思わないが、特に優れているかどうかも不明。結局、不眠の人が求めているのは解決策であり、日光を浴びるとかシャワーとか、その類のことはどんな本にも書いてある。一つ特徴的なこととして、CPAPはかなり推奨されている。個人的にもCPAPで人生が変わったみたいな話はよく聞くし、不眠の人は考えてもいいかもしれない。

第三に、ムダに分厚くて書き方が冗長な気がする。これは上二つの話とも関係があって、一つには著者の挙げてくる臨床症例があまりにわたしに縁が無さすぎる。もちろんわたしがこの件について既に知識があり過ぎるせいもある。ただ、それを別にしてもムダが多いとというか、膨らませ過ぎな気もする。著者の個人的な話も多い。

とは言っても、実際に不眠の人がこの本を読んだら有意義だと思うのかもしれない。ただ、個人的に思うのは、不眠で困っている場合は、この本を読むより睡眠外来に行ったほうがいい。睡眠薬を買うくらいならこの本を先に読むべきだが。純粋に科学的な興味で読むとしたら、ちょっと期待外れになりそうだ。

Humanix Books (2023/6/6)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1630062347

2025年1月14日火曜日

Amy Jones "Character: Arcs and Archetypes" [キャラクター:物語と元型]

Character (Amazon.co.jp)

フィクションの中のキャラクターの分類学みたいな話。どっちかというと、物語を作ろうという志向のある人向けに書いてある感じ。実際、小説家とか脚本家みたいな人はこんなことを考えているんだろうなとも思う。個人的に思うのは、フィクションというか話を作ろうなどと考える人は、本当に子どもの頃からそんなことをしている印象がある。そんな子供に向いている本ではある。わたしには縁のない世界かもしれない。わたしは相当な読書量があるが、フィクションの占める割合はかなり小さい。そして創作の才能は皆無だ。

出版社 ‏ : ‎ Wooden Books (2023/10/15)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155512

2025年1月1日水曜日

Paul R. Rosenbaum "Causal Inference" [因果推論]

 Causal Inference (Amazon.co.jp)

目次:1. 処置により引き起こされる効果 2. 無作為化実験 3. 観察研究:問題 4. 測定された共変量のための調整 5. 測定されなかった共変量の感度 6. 観察研究の設計の中の疑似実験的手法 7. 自然実験と中断と操作変数 8. 再現性と解像度とエビデンス因子 9. 因果推論の中の不確実性と複雑性

統計的因果推論の入門書というか、理論的基礎を考える本。似たようなタイトルでThe Book of Whyという本もかなり前に読んでいて、それも統計的因果推論の入門書には違いないが、一応別方面の本だ。The Book of Whyは統計的因果推論の特定の手法、do-calculusを紹介して技術面にも入っているが、本書は古典的な推測統計学しか前提にしていない。あまり数式を使っていないのは、数式以前の世界だから。代わりに箱ひげ図が駆使されている。そして、わたしの意見では、統計的因果推論の原理的な話について、こちらの本のほうが面倒ではあるが、遥かに説得力のある議論が展開されている。

たとえば、こういう話で典型的に出てくるのが喫煙と肺がんの関係で、疑似相関の疑いをどう排除するかだ。The Book of Whyの場合は、確か「そもそもそんな大きな交絡因子は数学的に不可能」みたいな話だった記憶がある。あの本の読んで気になったのは、そもそも交絡因子として何を想定するかが不明ということだった。

本書の場合はもっと分かりやすい。本書の話を単純化すると、喫煙者の肺がんリスクが非喫煙者より9倍(一日二箱以上なら60倍)もある以上、これが疑似相関であると主張するには、喫煙者と非喫煙者の間に9倍(60倍)の差のある因子を発見しなければ説得力が弱い。

早い話が、喫煙者と非喫煙者の肺がんリスクが喫煙のせいではなく喫煙者の特定の遺伝子のせいであると主張するためには、喫煙してもしなくてもその遺伝子だけで肺がんリスクが9倍にならないといけないわけだ。そんな劇的な効果のある遺伝子が今後発見されるとは考えにくい、みたいな。もちろん今の話もさらに厳密に考えればという話はできるが、ここまできたら、因果関係を否定する側に立証を要求するほうが普通だろう。

というような話は一例だか、この類の話をこんな雑にではなく、冷静に一つ一つ議論を積み重ねている。ただし着実過ぎてムズい可能性はある。予備知識としては統計検定二級くらいの知識で十分だが、今くらい雑にまとめてくれる先生がいたほうが理解しやすいかもしれない。書き方の問題もあるが、議論がどこに向かっているのか分かりにくいかもしれない。その意味では数式は確かに少ないが、数学書を読むくらいの覚悟が必要だ。

The MIT Press (2023/4/4)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262545198

2024年12月25日水曜日

Imari Walker-Franklin, Jenna Jambeck "Plastics" [プラスチック]

 Plastics (Amazon.co.jp)

目次:1. 導入 2. プラスチック製造と利用 3. 廃プラスチックを管理する 4. プラスチックゴミの発見 5. プラスチックに関連する化学物質 6. プラスチックの環境への影響 7. プラスチックの社会への影響 8. プラスチック政策 9. プラスチックの代替と介入

プラスチックの環境問題に関する解説書。高分子化学や石油化学工業の解説書ではない。ただし予備知識として、プラスチックの何が問題なのかを論じている部分を理解するためには、日本の高校程度の化学の知識が必要かと思われる。解決策について論じている部分については、そのような知識はあまり必要ではない。著者たちはこの問題が化学で直接解決できるとは信じていないようで、その方面に深入りしていない。

というのも、現状ではエベレストの頂上だろうとマリアナ海溝の底だろうと農産物だろうと人体の中だろうと、この惑星は既にプラスチックに汚染されきっており、仮にプラスチックが今すぐ全部生産停止になっても、今後数十万年は被害は出続ける。海岸や川で多少ゴミ拾いをしたところで、生産量が圧倒的過ぎて焼け石に水。ゴミを捨てるなとかいう道徳的キャンペーンで解決する社会問題なんか存在しない。どんなに気を付けてもプラスチックは環境に流れ出る。これらの手段が無意味というわけではないが、根本的に生産を規制する以外にないというのが著者たちの立場のようだ。ちなみにプラスチックの大半を消費しているのは包装であり、ここが主要なターゲットになるだろう。

しかし、この本の著者たちは知らなかったことだが、これから第二次トランプ政権が始まるというようなことで、状況は悪化している。著者たちはgreenwashを非難しているが、世界はwoke mind cultureにうんざりしている。環境問題に右翼も左翼もないはずだが、現実にはそんなことになっていない。

個人的に思い返すと、公害防止管理者試験で、騒音振動・大気一種・水質一種に合格したが、廃プラスチックとかいう話は記憶にない。そのうちプラスチック一種とかできるかもしれないが、結局、この本でも問題にしているように、プラスチック公害は基本的に消費者の責任にされていて、生産者は責任を逃れ続けている。

そんなことで色々考えさせる本だったが、この本は入口としてはいいけど、個人的にはもう少し化学工業について勉強していこうと思っている。

The MIT Press (2023/8/22)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262547017

2024年12月22日日曜日

Howard J. Herzog "Carbon Capture" [炭素捕獲]

 Carbon Capture (Amazon.co.jp)

目次:1. 気候変動 2. 化石燃料 3. 炭素捕獲 4. 炭素貯留と利用 5. 実際の炭素捕獲 6. 負の排出 7. 政策と政治 8. 未来

タイトルの意味が分からない人が多いと思うが、要するに主に排気ガスから二酸化炭素を抽出して、大気中に放出せずにどこかに貯蔵する技術の解説。現実的には主に火力発電所やセメント工場などの煙道ガスからSOx・NOxなどを取り除いた後で吸収塔で二酸化炭素を吸収し、吸収した二酸化炭素は分離して地層処分することになる。初心者でも読めることになっているが、予備知識として基本的な化学工業の知識の他、火力発電所の仕組みを概念的にでも把握している必要があるだろう。

…と言っただけで、普通の人は色々な疑問が湧くのではないかと思う。①地面にCO2みたいな気体を埋めても漏れてくるんじゃないかとか、②CO2みたいな不活性な物質を分離するのは高価過ぎるんじゃないかとか、③そんなことができるんなら地球温暖化なんか簡単にキャンセルできるのに何でさっさとやらないのかとか。この類の疑問を持つ人なら読んで面白いのではなかろうか。

わたし個人としては、CCS(Carbon Capture & Storage)については公害防止管理者/エネ管/電験の勉強をしていた時に、時々情報は入っていた。と言っても、煙道ガス処理についてはSOx・NOx・煤塵が主で、CO2については煙道の前にそもそも発生を抑える話がこの類の技術の基本だ。そんなことでCCSの話が出てもあまり真剣に考えていなかった。実際、この本の著者も認めているように、最近あまり支持者のいない技術である。ただ、別に技術的に困難とか地球温暖化対策に対して無意味とかいうことではなく、単に政治的な理由による、という。

それとは少し違う話で、最近特に化学系の会社を調べていると、やたらアミンを全面に押してくる会社が多い。アミン類自体多様な用途があるが、一つには業界的にはCCSに未来を見ているのも理由らしい。煙道ガスからCO2を回収する方法は本書にも色々述べられているが、現在の主力はアミンを用いる方法で、煙道ガス中のCO2の90%以上を回収でき、回収されたCO2の純度は99%以上という。

というような話に興味を持てる人には良いCCS入門書だと思う。というか、これ以外に素人向けの本があるのだろうか。ところどころ書き方が整理されていないように見える部分もあるが、大した問題じゃないだろう。

出版社 ‏ : ‎ MIT Press (2018/8/17)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262535755

2024年12月18日水曜日

Markus K. Brunnermeier, Ricardo Reis "A Crash Course on Crises: Macroeconomic Concepts for Run-Ups, Collapses, and Recoveries" [危機についての緊急講義:急騰・急落・回復に関するマクロ経済の概念]

A Crash Course on Crises (Amazon.co.jp)

目次:1. 導入 2. バブルと信念 3. 資本流入とその(誤)配分 4. 銀行とその仲間たち 5. システムリスク・増幅・伝染 6. 支払い能力と流動性 7. 民間部門と公共部門の関係 8. 安全資産への逃避 9. 為替レート政策と回復速度 10. 新しい伝統的金融政策 11. 財政政策と実質金利 12. 結論

金融危機に関する10の考え方(2-11章)をまとめたもの。予備知識として経済学部で最初に教科書で学ぶ程度の知識は必要かと思われる。というか、教科書は正常な状態の金融経済の説明が主で、金融危機みたいな異常事態には深入りしていない。その部分を補完するような本で、それ自体面白いし、正常時の金融理論の理解も深まる。2-11章の各章はそれぞれ考え方の説明と実例から成る。

2...バブルと分かっていてもバブルに乗らざるを得ないことのゲーム理論ぽい考え方。

3...何らかの理由で生産性の低い部門に資源が優先配分されてしまうことによる経済低迷。

4...影の銀行によるリスク増大。

5...現代の銀行が他行を模倣することによるリスクの増大。

6...債務超過と単なる流動性不足の区別をすることの難しさ。

7...国が銀行を保証するが、その銀行が国債を保有していることによる悪循環。

8...安全資産の自己成就的性質による危機増幅。

9...負債が外貨建てで資産が自国通貨である場合の為替によるダメージ。

10...準備の飽和・量的緩和・イールドカーブコントロールとか要は日銀がやっていること。

11...危機時の財政出動に関する最新の見解。

改めて見直すと、一つ一つは別に新しくないが、整理されていて分かりやすい。それぞれの項目について原理的な説明と実例のセットというフォーマットも簡単で良い。専門家から見れば実態を単純化し過ぎということかもしれないが、基本的な「経済学論法」の学習という意味もある。

出版社 ‏ : ‎ Princeton Univ Pr (2023/6/6)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0691221106

2024年12月16日月曜日

Jeffrey Pomerantz "Metadata" [メタデータ]

 Metadata (Amazon.co.jp)

目次:1. 導入 2. 定義 3. 記述メタデータ 4. 管理メタデータ 5. 使用メタデータ 6. メタデータを使う技術 7. 意味論的ウェブ

ほぼ十年前の本だが、扱っている内容が基礎的というか原理的なので、あまり内容は古くなっていない。博物館員・図書館員その他データベース技術者がメタデータを実際に扱うための分厚い本は外にも新しい本が色々あるが、まともにストーリーとして通して読める本としては、多分これが今でも唯一じゃないかなあ…。

読むのに特に前提知識はいらない。Mona Lisaが例として使われるのはこの類の話の定例で、何らかのデータベースを使ったことのある人なら読めると思う。Dublin CoreとかRDFから順にPREMISやらMETSやらDTDやらXMLやらLinked Dataやらschema.orgやら。だいたい基本的なスキーマをその背景などから解説していて読み易い。とは言え、今挙げたスキーマを全く聞いたことがないという人がこの話を面白いと思うかどうかは保証できない。無関係な人はいないはずだし、ITリテラシという意味では必須科目だとは思うが、知らなくても生きていけることではある。

そういうことでは冒頭と最後にSnowden事件の話が出ているが、これが素人にも分かりやすく興味を引くかもしれない。ただSnowden事件自体が古いからな…。あと最後のSemantic WebとかAgent志向みたいな話は、さすがに十年前という気もする。Generative AIが発展する前の時代なので、今ならもっと違う書き様もあるだろう。ただし、繰り返すが、メタデータの必要性は今も昔も変わっておらず、今でもこの本が基礎を学ぶ最善の方法だと思う。世に出ている本の多くは技術的細部に入り過ぎていて、専門家用の辞書でしかない。

もちろん文書館員美術館学芸員その他、いわゆる大量の文化遺産を扱う人にとっては基礎知識なので、多分全員読んだほうがいい。そうなってくると、なぜこの本が日本語訳されていないのかのほうが気になる。こんな本が翻訳されれば最低でも全国の関係機関が一冊ずつ買うわけだから、確実に売り上げが計算できるように思う。古い部分は専門家がupdateの監修すればいいだろう。出版業界もチャンスを随分逃している、というか出版業界自体がメタデータに重く依存している業界なわけで、これくらいの知識は必須だ。

個人的にはもう少し実際のEuropeanaやDPLAの実装を見たいが、もちろんそういうのはこの本の視野を越える。実際には実装については日進月歩なので各機関のWebサイトにある仕様を確認するしかない。

出版社 ‏ : ‎ MIT Press (2015/11/6)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262528511

2024年12月5日木曜日

Daron Acemoglu, James A. Robinson "Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty" [国家はなぜ衰退するのか:権力と繁栄と貧困の起源]

Why Nations Fail (Amazon.co.jp)
国家はなぜ衰退するのか(上)(Amazon.co.jp)
国家はなぜ衰退するのか(下)(Amazon.co.jp)

原著2012年刊の時点で注目していた本だが、気になりながらずっと放置しているうちに2024年ノーベル経済学賞受賞ということで、読むしかなくなった。

ずっと放置していた最大の理由は書名が大風呂敷過ぎるように感じたからだが、実は書名の質問に対する答えは比較的単純なものだ。わたしがまとめると、要するに1私有財産権が守られないほどの無政府状態になるか2ごく一部の政治エリート層が富を独占して残りの国民から搾取するから。このどちらでも、技術革新が起こらないので国家が衰退する。

1の状態は論外として、2の状態では、例えば貴族と奴隷みたいな社会だと、好き放題収奪される奴隷の側では技術革新を起こす理由がないし、外国から新技術を取り入れる理由もない。エリート層は自分たちの地位を守るために技術革新を阻止する。さらに2の状態ではクーデターの魅力が大きい。その結果、革命は起こるが、単に支配者が入れ替わるだけで少数が多数を抑圧搾取する構造は何も変わらない。

実例が大量に挙げられ、ほとんど世界史のおさらいみたいになる。本書が分厚く見えるのはそのせいで、書いている理論が難しいからではない。例えば韓国と北朝鮮のとんでもない格差の原因は、北朝鮮では一部エリートが政治権力を独占していて私有財産権が認められていないからだとか。面白いけど、高校生程度の世界史の知識は必要かもしれない。

などと言っているうちに、つい先日、韓国の大統領が突然夜中に非常戒厳を発令していて何のこっちゃみたいな話になっている。そもそも軍隊も警察も真剣に従わない。しかし、同じ話が中南米とかアフリカとかで発生しても、そんなに驚かない。この違いは民度がどうとかいう話ではなく…という話はこの本を読んだ人と語る話だ。最近ダボス会議でのアルゼンチンの大統領の演説もだいたいこの本の路線に乗ったものだっただろうか。

面白くてわりと一気に読んだ本だった。あまり大風呂敷系のタイトルは読まないけど、この著者については読んでいってもいいかもしれない。

Crown Currency (2013/9/17)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0307719225