2024年9月18日水曜日

Arthur Conan Doyle "The Hound of the Baskervilles" [バスカヴィル家の犬]

 The Hound of the Baskervilles (Amazon.co.jp) / バスカヴィル家の犬(Amazon.co.jp)

推理小説だしネタバレになっても詰まらないから内容は詳しく書かない。ここまでホームズをだいたい発表順に読んできて、わたしとしてはこれが一番面白いように思うが、一般的にはそこまでは人気はないようだ。最大の理由はホームズが出てこない部分が長すぎるということらしいが、一つには、舞台となる荒野/湿地帯/新石器時代の石造りの家々を思い浮かべにくいからだろう。この点については日本人だけでなく英国人にとってもあまり変わらないのかもしれない。ただし、わたしはここまで大量にWooden BooksでUKの新石器時代の遺跡と荒野を見てきたから、問題にならない。名作だった。

SeaWolf Press (2018/10/22)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1949460513

2024年9月11日水曜日

Marlene Zuk, Leigh W. Simmons "Sexual Selection: A Very Short Introduction" [性淘汰:非常に短い入門]

Sexual Selection (Amazon.co.jp)

目次:1. ダーウィンのもう一つの大きなアイデア 2. 配偶システム、誰と誰がどれくらい長く 3. 競争者の中から選ぶこと 4. 性的役割とステレオタイプ 5. 交尾の後の性的淘汰 6. 性的対立 7. 性はどのように種を存続させるか 8. 結論、ここからどこへ

性淘汰の動物博物誌という感じ。素人の想像以上に色々なパターンがあって、それはそれで楽しい。ヒトで言えば「どういうのがモテるか」という話だが、結論から言うと、そういう話はよく分からない。それ以前に動物でも「なぜその特徴を持っているとモテるのか」ということが分からないことが多過ぎる。たとえば、どう考えても生存に不利な特徴を持っているオスがメスに選好される種があったとして、人間が理屈をつけるとすると「そのようなどうでもいい特徴に資源を割り振れるだけの余裕があると見なされるから」とかいうことになるが、仮説でしかない。その後その特徴が実は生存に有利なことが判明するかもしれない。この本でも色々な現象について色々な説明が試みられるが、話半分というところだろう。もちろん、そういう話半分な話が好きな人には色々面白いと思う。

‎Oxford Univ Pr (2018/11/1)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198778752

2024年8月8日木曜日

Hamish Miller "Dowsing" [ダウジング]

Dowsing (Amazon.co.jp)

わたしは超常現象とかが好きなので知っているが、普通の人は知らないものだろうか。ダウジングとは手にもった棒や振り子の振れで、地下にある物体を検知する技術である。ドラえもんのわりと初期のほうの話であったと思う。正直なところ、Wooden Booksにしても、オカルトにもほどがある。本書によると歴史は相当古い。具体的な方法も書かれているが、これ、本当に真に受けて子供たちがやって楽しめるのかなあ…。最後のほうは道具すら使わず、素手でなんか地球のエネルギーを感じるとか、当然leyとかearth gridsとかよくわからない領域に突入しており、いやまあ、確かにそんな感じの大人も多いが…。そして、この本の評判が非常に良いという事実があり、世間では必要とされているんだろう。何にしろ、聞いたことがないのなら知っておいたほうがいいし、この本も悪くないのかもしれない。ストーンヘンジの上でこんなことをしていたら笑われるのか、それともそんな人はよくいるのか。

Wooden Books (2007/2/14)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263531

2024年8月7日水曜日

Jason Martineau "Love: The Song of the Universe" [愛:宇宙の歌]

Love (Amazon.co.jp)

タイトルはさておいても始まりが"What is love?"とかいうヤバい始まり方で、OEDによればとかいう話にならないのは僥倖だったかもしれない。中身はというと、色々回り道をしつつ結局男女の話で、いろんな神話や文学や芸術を適当に拾っている感じ。エロい話も少なく、人文エッセイみたいな。趣味が合うかどうかだろうな。一般に評判はいいようだ。わたしはというと恋愛小説を回避する人種だが、ちょっとはこんな分野も見て行かないと古典絵画とか見れないよなあ…くらいの気分で眺めているくらい。

Bloomsbury Pub Plc USA (2014/12/30)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1620402566

Jewels Rocka "Divination: Elements of Wisdom" [占い:知恵の要素]

Divnation (Amazon.co.jp)

色々な占いを集めた本。日本からは九星気学とかいうのがエントリーしている。わたしはカレンダーに六曜が書いてあるのもウザいと思っており、天気を占うのにネコの行動を観察するより天気図を用いるタイプだが、それはそれとして、こういう知識がないと読めない西洋の小説などもある。体の痒い所占いに至っては冗談たど思われるが、子供の頃に読んでいたら楽しかったかもしれない。

Wooden Books (2021/3/8)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263845

2024年8月6日火曜日

Alec Thompson "Daydreams & Thought Experiments" [白昼夢と思考実験]

Daydreams (Amazon.co.jp)

最初のほうは白昼夢というか楽しい妄想みたいな話だが、メインになるのは特に「テセウスの舟」や「トロリー問題」など英米哲学で問題になるような思考実験のコレクション。最後のほうは「シュレディンガーの猫」とか「サスキンドの象」というような物理学の話。合間には禅の公案まであり。わたしとしてはあまり知らない話は出てこないのだが、多くの人にとっては初耳な話も多いだろう。聞いたことがあっても楽しめる。一つにはイラストがいい。これは無限に時間をつぶせるので、翻訳して新幹線の駅の売店にでもおいておくべきだと思う。あまりちゃちな装丁にしてほしくないが。良い本だ。

Best book for a long travel.

Wooden Books (2023/10/15)
言語 : 英語
ISBN-13 :978-1907155550

2024年7月16日火曜日

E. M. Cioran "De l'inconvénient d'être né" [生誕の災厄]

De l'inconvénient d'être né (Amazon.co.jp)
生誕の災厄 (Amazon.co.jp)

この著者の作品としてはHistoire et Utopieに続いて読むのは二冊目だが、多分これ以上読まないな。これは断章集ということで、読みやすいと言えば読みやすいが、ひたすら愚痴がならんでいる。生まれるより生まれないほうが良い、という考え方は東洋では普通だし、この本も頻繁に仏教に言及するが、西洋の思想の流れでは、こんなに攻撃的になるしかないのだろうか。著者には仏教だけでなく、無為を良しとする老荘もしっかり読んでほしかったところだ。なかなか我々日本人みたいにスムーズに理解できないのかもしれないが。

この著者の中核となる思想は「人間のやることは最終的にはすべて人間に刃向かってくる」みたいなことだと思われ、その件について具体例を詳説するのはほかの著述でやっているんだろう。別にそれはいいが、東洋では「だからバカバカしいことをしないで、のんびり生きましょう」とむしろ明るい話になる。この著者がやたら攻撃的になるのは、一つにはまだナチスの災厄が生々しかったり共産主義の災害が明白になった時代背景のせいだろうか。しかし、そのわりには愚痴が個人的である。何かを断罪するには、何かの判断基準を持っている必要があるが、この人が何を基準に文句を言っているのか謎だ。結局ニーチェ的というか、西洋哲学が約束した明るい未来が基準なのだろうか。それに現実が見合わないとか内部矛盾があると文句を言うのは、不毛かもしれないが一応筋は通っている。

そのニーチェについて著者は、「偶像を破壊したが別の偶像を建てた」みたいなことを言っていて、これは御尤もな話だ。時々こういう良いことを言うし、人それぞれこの本から拾うところはあると思う。日本語訳もあることなので、特に反出生主義を極めたいムキには必読書かもしれない。

Editions Gallimard (1 janvier 1987)
français

2024年7月14日日曜日

Marya Schechtman "The Self: A Very Short Introduction" [自己:非常に短い入門]

The Self (Amazon.co.jp)

目次:1.形而上学的自己 2.他の誰かになること 3.自分自身であること 4.満ち欠けする自己 5.分裂し混乱する自己 6.身体化された社会的自己

第1章は、よくある「原子レベルで人を分解して遠方の惑星にそいつを再現したら、それはは元のそいつと言えるのか」みたいな話。第2章は比喩的な意味で「別人になった」みたいな話。第3章は洗脳やら社会的偏見に抵抗して言われる「Be yourself, no matter what they say」みたいな話。第4章は子供や老人性痴呆みたいな話。第5章は精神病の例。第6章は生物学や社会的に構成された自己の話。

読むのにかなり時間がかかった。実はわたしとしてはそんなに斬新な話はなかったように思う。わたしにとってテーマの根本は第一章で、たとえば心と体が入れ替わったらみたいなよくある議論。そこからすると、残りの章は余計な回り道のような気もするが、それぞれ面白い話もあるし、第一章のテーマを再考するきっかけにもなるかもしれない。個人的には、生物学、特に免疫系の自他識別が上昇していって神経レベルで表現されたのが自己だとかいう説は斬新だった。

後はわたし自身の考えだが、「自分」というのは要はヒトという動物種で個体間の関係を調整するために必要な概念というだけで、別に実体があるわけじゃないし、必然的に「自分」という言葉がどういう風に使用されているかの研究になるしかないだろうとは思っている。本書で語られているような精神病理の例を見ると、概念の混乱が生物学的な振舞にまで影響することもあり得るんだろう。…というくらいに思っているが、今後の研究の進展によってはまだ分からないけど、この話で良く出てくる脳梁切断の話とか、どこまで真に受けて良いのかとも思う。

Oxford Univ Pr (2024/6/28)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0198835257

2024年5月28日火曜日

Laugh "Bender Heaven: The UK Traveller's Good Home Guide" [曲げ木天国:UK旅行者のための良い家案内]

Benderに適当な日本語訳がないが、本質的には適当な弾力を持つ木を曲げてUの字みたいにして両端を地面に埋めて、それを一定数並べて上から布をかけるとテントみたいになるというようなことだ。イラストは豊富に載っているから見ればすぐにわかる。最終的には薪ストーブをテント内に持ち込んで煙突が外に出ていたりする。さらにその周辺事情というかキャンプ術みたいなのも紹介されている。ものすごく楽しそうだし、ほとんどマンガのような気もする。イギリスでできる以上は日本でもできそうだが、実際には…と思ってしまうな。まず場所が問題で、日本でそんなことができるところというと山になり、山となると熊が出る。イギリスにはこんなことができる場所がそんなにあるのだろうか。多分、富豪の館の巨大な敷地の一角に、実はまっとうな建材を使ったそれっぽい物を作るのがせいぜいだと思う。それはそれで楽しそうだが。宿泊施設にするとバンガローと変わらないか。給水設備とかトイレとか考えだすと、どんどん夢が壊れていく。

A lovely little book. In reality, however, do not take it seriously. It is not so practical.

Wooden Books (2008/3/20)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263692

2024年5月20日月曜日

Glennie Kindred "A Hedgerow Cookbook" [生垣料理本]

A Hedgerow Cookbook (Amazon.co.jp)

簡単に言うと雑草料理本で、世間の評判はかなり良い。しかし実際に料理をしているというよりは、読んでいて楽しいということだろう。実際にこの本を参考にして料理をするとなると、まず、雑草の見分け方が全く書いていない。火を通すにしても、素人が雑草とかキノコを食べるというのは結構危険なことだと思うが…。あと、完成したレシピが載っているわけではなく、基本的な調理法しか書いていない。料理への応用は各自研究せよということらしい。そしてやはり同じ温帯でも日本とは少し植生が違う。わたしもまあまあ雑草が好きだが、やはり野草はアクが強い。参考にはなるが、ガチ勢には色々足りない本だ。

Wooden Books (2000/1/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263036

George Wingfield "Glastonbury: Isle of Avalon" [グラストンベリ:アヴァロンの島]

Glastonbury (Amazon.co.jp)

例によって事実上の観光案内だが、これが一番開き直っていて、普通に散歩コースまで載っている。アーサー王だのイエスが来ただの色々適当な伝説が積み重なっているが、ほぼ出鱈目だろう。古い町には違いない。象徴的な丘は確かに異様だが、実際には若草山くらいだろうか。

Wooden Books (2007/10/16)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263197

2024年5月18日土曜日

Eli Maor, Eugen Jost "Pentagons and Pentagrams: An Illustrated History " [五角形と五芒星: 図解歴史]

Pentagons and Pentagrams (Amazon.co.jp)

1. 五 2.φ 3. しかしそれは神聖なのか? 4. 正五角形を作図すること 5. 五芒星 6. 五角星 7. 敷き詰め 8. 結晶の中の五回対称性の発見 9. ああその五角形

目次から分かるような五角形に関するよもやま話。五角形というのが微妙にマイナーで、ちょうど一冊の本を書きやすいのかもしれない。内容的には日本の高校生くらいなら読めるが、考えないでさらさら読めるような本でもない。しかし、ここまで詳しく五角形について知りたい人も少ないような気もする。わたしはというと、折り紙で正多面体を作っている時に、正十二面体だけ異常に難しくて気になったという経緯。と言っても、直接折り紙に応用できるわけでもない。美術作品などに黄金比を発見するのを批判しているクダリは高く評価したい。五角形好きにはお勧めできる。というか実際この本くらいしかないかもしれない。

Princeton Univ Pr(2022/9/27)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0691201122

Nicole Borelli, M. Jean-Marie Muracciole "150 expressions françaises illustrées et expliquées" [イラストと説明フランス語150の表現]

150 expressions françaises (Amazon.co.jp)

フランス語の慣用表現を150集めたもの。例えば表紙の絵は"être comme un poisson dans l'eau"。何語でもこの類の慣用句集はあるもので、現実にはそれほど頻繁に出会うわけではない。実際わたしもほとんど知らなかったし、今後も出会う気がしない。表紙にはB1-B2とあるが、実際にはC1レベルの試験対応というところじゃないだろうか。B1で読むのはしんどいかもしれない。実用的には試験対策以外に読む理由のない本の気がする。純粋に趣味で読む分には、一ページにつき一句ずつ解説と用例が載っているし、最後には丁寧に練習問題もついているから、読みやすい本には違いない。

ELLIPSES (2015/11/24)
言語 :フランス語
ISBN-13 :978-2340007574

2024年5月14日火曜日

E. M. Cioran "Histoire et Utopie" [歴史とユートピア]

Histoire et Utopie (Amazon.co.jp)

目次:1.遠方の友人への手紙 2.ロシアと自由のウイルス 3.暴君学校 4.怨恨のオデュセイア 5.ユートピアの機構 6.黄金時代

20世紀の中盤から後半にかけての基本的にパリ在住のルーマニア人哲学者だが、知っている人は少ないだろう。古い言い方で「カルト的な人気を誇る哲学者」みたいな感じ。基本的に暗いというか、書いていることが絶望的である。それもショーペンハウアーみたいな静かな絶望より遥かに攻撃的であり、人間性というものをひたすらこき下ろしている感じ。ショーペンハウアーはまだ諦観の中で静かに暮らそうとするスタンスだが、こいつはとにかく黙らない。

この本は一言でいえば、人間というものは根本的に腐っているので、ユートピアなんか構想しても無意味という話。時代背景もあり、終わっている共産主義とか不毛な西側みたいな話が多い。さらに過去を夢見るのも未来に理想社会を描くのも同じく無意味とか、要するに全部こき下ろしているだけ。どれがまだマシとかいう話すら出てこない。

あまり他人に勧めたくなる本ではない。最もついていけないのは、筆者が人類の一般的な性質として想定しているらしい嫉妬の感情の強烈さだ。ただ、例えば、人間は何の制約もなければみんな暴君になるというような考え方は分かる。善悪の問題ではなく、それはそうなんだろう。そして、そうでなければ社会も成立しないような気もする…にしても筆者みたいに人間を断罪しても何にもなりませんね…とかいくらでも考えることはある。

なんでこんな本を読んだのか理由は忘れたが、多分、反出生主義の流れで引っかかったんだと思う。ここのところ、アメリカの自己啓発書ばかり読んでいたが、ああいうのは今の社会を前提にしてその中で楽観的にせいぜい自分のセコい利益を図ることしか考えていない。この本は逆に悲観的というのを通り越して絶望的だが、遥かにスケールは大きい。たまにはこういう本で中和してバランスをとったほうが良いかもしれない。

Editions Gallimard (20 mai 1960)
Langue: Français
ISBN-13 : 978-2070214594

2024年5月7日火曜日

Hugh Newman "Goebekli Tepe and Karahan Tepe: The World's First Megaliths" [ギョベクリ・テペとカラハン・テペ:世界初の巨石遺跡]

Goebekli Tepe and Karahan Tepe (Amazon.co.jp)

遺跡シリーズだがこれは異色でトルコ。巨石にこだわっているようだ。やはり新石器時代という扱いだが、イギリスの遺跡より古い上に出土品が洗練されている気がする。まだ発掘途中らしいが、相当昔から人類はこんなことをしていたらしい。人類学などではよく言われることだが、根本的に労働力が余っていたんだろうか。

Wooden Books (2023/10/15)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-1907155543