2018年12月18日火曜日

Lucien Nahum "Shadow 81" [シャドー81]

ベトナム戦争を背景にしたハイジャック小説。戦争自体は背景に過ぎず、そこで実戦投入されている最新鋭戦闘機を盗み出し、アメリカ西海岸で旅客機の背後につけて脅迫して身代金を要求する。基本的にサスペンスだが、政治家の醜さやマスコミのウザさを描くクダリもあり、読むハリウッド映画という趣だ。なぜ映画化されなかったのか不思議なくらいだが、どうも英語圏ではそこまで売れた小説ではないらしい。主人公のやってることが建前としても正義でも何でもなく、単なる私利私欲というのが原因かもしれない。

その点を気にしなければなかなかのサスペンスで、少なくとも日本ではかなり売れたようだし、確かに名作だ。荒唐無稽としか言いようのない部分もあるが、それもこの類の話ではやむを得ず、ベトナム戦争当時に超音速VTOL機という時点で微妙にSFなのだし、VTOL機が木製の台に着地するくらいは仕方ないだろう。物語の中心は、ハイジャック機"SHADOW81"と旅客機"PGA81"と管制塔のやりとりが中心で、全体的にストイックな作りだ。センチメンタルな要素は全くなく、安心して読める。小説なのでネタバレは避けるが、読んで損することはないだろうし、特に読んで不愉快になる人がいる気もしない。

全く個人的な話だが、この小説を始めて見たのは、高校の図書室でのことだった。もちろん翻訳版の新潮文庫だったが、ただ二機の飛行機が青空を飛んでいるだけのカバー絵に、「シャドー81」というストイックなタイトルがカッコ良かった。原書よりずっと良い。どうも当時からわたしの趣味は変わっていないらしい。内容もその通りストイックなので、映画映えしないかもしれない。結局、高校の時には読まなかったが、ずっとひっかかっていた。もう一つ同じひっかかり方をしているのが坂口安吾「不連続殺人事件」で、これもこれから読むつもり。

An extremely good hijacking novel.

New English Library Ltd (February 5, 1976)
Language: English
ISBN-13: 978-0450028564

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