2017年4月11日火曜日

Martyn Rady "The Habsburg Empire: A Very Short Introduction" [ハプスブルク帝国:非常に短い入門]

目次:1.王朝と帝国;称号と民 2.帝国の視野;11-16世紀 3.それぞれの王のように;16-17世紀 4.信仰のために;17-18世紀 5.啓蒙主義と反動;18-19世紀 6.フランツ・ヨーゼフの時代;19世紀 7.世界大戦と解体;20世紀

ハプスブルク家の通史と言うよりは、ハプスブルク家の当主の歴史≒ほぼヨーロッパ史の叙述になる。ハプスブルク家特有の事情は、例えばやたら顎が出ているとか少しは叙述があるが、あまりない。ハプスブルク家の家庭問題はそのまま世界史ということもあるが、あくまでハプスブルク家から見た帝国≒スペイン・神聖ローマ帝国・オーストリア・ハンガリー・その他多数の通史である。

その限りでは、ほとんどただの世界史の本みたいな感じではあるが、この本がスゴく面白いのは、著者の語り方が素晴らしいのもあるが、わたしがスペインやオーストリアの側から世界史を見ることが少なかったからだろう。著者も言っているが、歴史は勝者によって書かれるし、特に、20世紀の勝者は中央集権・単一民族(nation)・単一言語という体制を早くに作った西欧の国で、ハプスブルクみたいな多民族多宗教多言語の緩やかな連帯ではない。結局、帝国は解体されて20世紀以降、東欧・バルカン半島辺りには酷い政府がいっぱいできたし、今となっては、ハプスブルク家の頃のほうがみんな仲良くしていたし、むしろ時代を先取りしていたのではないかというようなことだ。

というわけで、英仏のような勝者から書かれた歴史を見直すのには素晴らしい本だった。ハプスブルクという名前は、日本でもそこそこ認知されているし、一時期は長崎県の一部(出島のことだろう)も支配していたと言う。ハプスブルク家的に重要でも、帝国の運営に直接関係のないことはあまり触れられない。たとえばマリー・アントワネットは名前すら出てこない。芸術面もあまり細かい叙述はないが、ヴィーンのモーツァルトとかプラハのミュシャとかは帝国の問題として触れられる。欧州の文化芸術を理解する上でもハプスブルク家の理解は必須だから、翻訳すればそこそこ売れると思うがどうか。

全く余談だが、現在、東京の国立新美術館でミュシャ展をやっていて、スラブ叙事詩が来ているらしく、近く見に行こうと思う。本書の記述によると、ナショナリズムが勃興してオーストリア=ハンガリー二重帝国がグダクダになる中、ドイツでもイタリアでもないスラブ民族という世界観を打ち出すために製作されたものらしい。多分、当時はまだチェコ人はスロバキア人とは違うとかいうところまで話が矮小化していないかったのだろう。こういう歴史背景を知っていれば、現代日本でミュシャがラッセンとかヒロヤマガタとかと並んで押し売り商材にされている件についても、独特の感慨が湧いてくるというものだ。

I found that I had been familiar with the European history only through the victors' side, id. nation states such as France and Germany. This book is very instrumental for me to see the world from the middle and the eastern Europe. Storytelling is also very impressive.

Oxford Univ Pr (2017/06)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198792963

0 件のコメント:

コメントを投稿