2020年12月6日日曜日

Tom McLeish "Soft Matter: A Very Short Introduction" [やわらかい物質:非常に短い入門]

目次:1.やわらかさの科学 2. 乳状性と混濁とインク 3.粘液性と粘性 4.ゲル化と石鹸性 5.真珠性 6.生命性 結論.やわらかい物質から生命へ

タイトルが魅力的過ぎるので即買いだが、期待は裏切られなかった。自然科学系VSIで、なかなかここまで初耳な世界に出会うことは最近少ない。単純なコロイドの話とか液晶の話くらいは聞いたことがあるが、ポリマーのやわらかさと量子力学の関係とか、液晶と超電導の関係とか普通は知らないだろう。ちょっと勉強になることが多過ぎて簡単に紹介できないが、話の頂点は液晶の自己組織性から生物の動作に至るところだ。普通に大学くらいで勉強している人間でも、バクテリアの運動はバクテリアの意志で行われているくらいにしか思っていないと思うが、この本を読んでいると、ただの化学反応にまで還元されつつあることが分かる。なぜただの化学反応がバクテリアを特定の方向に移動させられるのかというと、構成分子自体に方向性があり、たとえば石鹸の疎水基と親水基や液晶の分子みたいなことだが、これにブラウン運動などか加わると統計的に一定方向に移動することになるというような、生物と物理化学の隙間がどんどん埋められていく。

ただ、この本、VSIの中でもかなり難しいほうの本であるのは間違いない。難しい話をかなり易しく書いてくれてはいるが、有機化学やら量子力学やら超電導やら統計熱力学やら結晶学やら、大学レベルの広範な世界からの総合科学みたいなことになっている。しかし、考えてみれば、我々の体や目の前の液晶をはじめ、身の回りにはやわらかい物質が多いのに、この巨大な世界が盲点になっていた。それはこの本を読んだから気付いたことで、知らなければ盲点は盲点と認識できない。一応、多くの人は流体力学くらいはやるので、粘性とかレオロジーとかいいう言葉くらいは知っているかもしれないが、この本は原子レベルまで戻って、結晶の対称性から論じているから、想像がつかないかもしれない。紹介しきれず、とにかく一読してもらうしかない…。

I really appreciate this book.

ISBN-13 : 978-0198807131
Oxford Univ Pr (2021/1/2)
言語:英語

3 件のコメント:

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  2. ソフトマターに興味があるので即購入決定です。
    楽しみです。(難しそうではありますがw)

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    1. ソフトマターというくくり方があること自体をこの本で初めて知ったようなことで、まだまだ未知の世界があるのう…。

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