2020年7月30日木曜日

Jane Caplan "Nazi Germany: A Very Short Introduction" [ナチスドイツ:非常に短い入門]

目次:1.ヒトラー神話 2.国家社会主義 3.ミュンヘンからヴァイマール経由でベルリンへ 4.権力 5.民族共同体:共同体と排除 6.民族共同体:統制と所属 7.戦争準備 8.戦争 9.テロから民族殲滅へ エピローグ:過去と和解すること

ナチと言えば、大学の時にナチを研究していた先輩を思い出す。今はどっかで教授をやっているらしいが。そいつはナチをやたら褒め称える傾向があり、わたしがゼミで聞いたのは、ナチは有意義な公共事業をしたとか、ドイツの社会保障制度を確立したのはナチだとか。

まあそれ自体は事実なのだが、別に公共事業だの労働者福祉だのはナチの発明ではなく、当時流行りのケインズ経済学で、アメリカならニューディール政策だし、世界中で流行の政策だったに過ぎない。アベノミクスが安倍晋三の発明でなく、世界中で常識化している財政出動の流行に過ぎないのと同じだ。その前段に当時既に時代遅れだった新自由主義を頑固にやっていた民主党が酷すぎたのであり、その民主党にしても小泉竹中路線を引き継いだに過ぎない。脱線したが、別にナチが政権を取らなくても、たいていの政権は福祉国家を目指したはずで、こんなのでナチを持ち上げるのはおかしい。当時のわたしはここまで理路整然と反論できなかったが、だいたいこの線のことは考えていた。

そのケインズ経済学が提唱する政策の中に社会福祉や公共事業の他に保護貿易があり、植民地を収奪しているイギリスやフランスなどはそれで構わないが植民地のないドイツやイタリアや日本が困ったというのが戦争の原因で、だから戦後にGATT(WTO)/World Bank/IMFのブレトンウッズ機関が設立されて自由貿易が促進され、TPPにまでつながっているわけだ。

というような話はこの本には書いてない。基本的にわりと単純にナチの犯罪を糾弾する本と思って良い。ドイツ人は反省せよ的な…。まあこの類の本もさんざん読んできているが、憂鬱な読書ながら、わたしとしてはあまり知らないことは書いていない。だいたい前半はナチが政権を取るまで、後半は犯罪解説で、戦争自体の描写はあまりない。まあVSIの性質上、これで初めてナチを学ぶ人とかもいるんだろう。悪くないと思うが、似たような本も多いからなあ…。

Suited for the first encounter with Nazis. Well written.

Oxford Univ Pr (2019/10/1)
英語
ISBN-13: 978-0198706953

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