2013年8月8日木曜日

Martin Bunton "Palestinian-Israeli Conflict: A Very Short Introduction"

非常に読みやすいパレスチナ-イスラエル紛争史。これ以上優れた入門書は知らない。予備知識はほとんどいらない。ハマスとかヒズボラとか何かよく分からなくても問題ない。この本を読み終わる頃には、大体分かっているだろう。鬱陶しいテーマの割には、基本的に直線で話を進めてくれるので、さらさら読める。一応1897-2007ということになっているのは、それ以上遡って大げさに騒ぐことに意味がないという判断である。最近では国連によるパレスチナの認知もあるが、基本的にはステールメイトという判断らしい。

大雑把な話として、もともとパレスチナはアラブ人の住むトルコの一地方に過ぎず、特に一つの"nation"としての自覚はなかった。ユダヤ人の入植も、肥沃な海岸地域が中心で、宗教的に深い意味のあるエルサレムとかは随分後になるまで無視されていた。が、欧州でナショナリズムが流行り始めると、ユダヤ人が迫害されるようになり、人口密度の低い(と考えられていた)パレスチナにユダヤ人の国を作るべしという話が盛んになる。これに対応する形でパレスチナ人という意識が形成されて対立が激しくなる。といっても、アラブは部族社会で、互いの競争が激しく、パレスチナ内も周囲のアラブ諸国も、ユダヤ人に対して団結して対抗できたためしがない。二度の大戦とイギリスの場当たり的な対応が事態を更に混乱させる。イギリスが投げ出した後、数次に渡る中東戦争があり、和平交渉も良い線まで行ったこともあるが、その度に両側の過激派が暴れてぶち壊しになる。で、ヨルダン川西岸地区とかガザ地区に壁が作られたりして、今もパレスチナでは悲惨な状態が続いている。一応、イスラエルは民主主義国家という建前であり、アラブ系が多数を占める地域を併合するのは論理的に無理がある。ので、特にガザ地区にアラブ系住民を追い込んで帰郷を許さないという作戦になり、出口は見えない・・・。

読んでいて思ったのは、殺戮が酷過ぎて、こいつらは旧約聖書の時代から進歩していないのかと。というか、人類は退化することもあるのだろう。レバノンなんて、"Black Swan"のタレブも言っていたが、もともとは色んな宗教と民族が共存して繁栄していて、戦争ばかりしている周囲の国を教養のないバカ連中と思っていたはずなのだ。それがPLOが来てから、バカみたいな経緯で殺戮に参加するようなことで、人間なんてそんなものか。もう一つ注目されるのは、特にアラブ人の団結力のなさというか、多分、部族内では強烈な結束があるのだろうが、部族間・国家間の足の引っ張り合いが酷い。この件については、"Predictably Irrational"のアリエリが、違う文脈で指摘していた覚えがある。何にしろ、軽軽にアメリカがけしからんとかヨルダンは穏健な良い国とか無責任なことを言う前に、現代人の基礎教養としてこの本は読んでおきたい。

One of the best books on this subject I have ever read. Very accessible and concise.

Oxford Univ Pr (2013/09)
ISBN-13: 978-0199603930

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