2026年4月8日水曜日

A. W. Moore "Gödel's Theorem: A Very Short Introduction" [ゲーデルの定理:非常に短い入門]

Gödel's Theorem (Amazon.co.jp)

目次:1. ゲーデルの定理とは何か 2. 公理化:その魅力と要求 3. 歴史的背景 4. ゲーデルの定理に関わる主要概念 5. ゲーデルの定理の対角線証明 6. ゲーデルの定理の第二の証明とゲーデルの第二定理 7. ヒルベルトプログラムと人間の知性とコンピュータ 8. 数学において、そして数学を理解すること 付録:ゲーデルの定理の証明の概略

本書はゲーデルの定理の紹介ではあるが、本文で実際に定理を証明しており、完全に数学書と言ってよい。VSIには数学のカテゴリに属するタイトルがいくつかあるが、たいていは数学の特定分野の概略を説明しているだけだ。その中で本書は異色と言える。

そもそも数学の定理の証明は、専門の数学者でも、自分の専門分野でなければ概略を知っている程度で、最初から最後まで隙間なく追っているわけではない。だから、本書でゲーデルの定理が証明されていると言っても精粗の程度がある。しかし、この本の内容を完全に理解していれば数学科の学生だとしても「よく勉強しているね」と言ってもらえるレベルだ。必要となる基礎知識は高校生程度で十分とされている。日本なら中学生程度かもしれない。もしも本当に隙間なく定理の証明を書いた本があったら、相当分厚い本になるだろう。

一応、本書に即して雑に内容を言ってみる。それこそ数学の人に怒られそうだが、本書が出発点として示している表現と大差ないはずだ。

極めて雑に言えば:

・ゲーデルの定理は「真実の文をすべて証明でき、しかもウソの文は証明できないようなまともな自然数公理系は存在しえない」と言っている。

・ゲーデルの第二定理は「真実の文しか証明できないまともな自然数公理系は、自分が無矛盾であることを証明できない」と言っている。

その証明を雑に言えば:

・前者については、まともな公理系の言語なら『この文は証明できない』と書くことができる。この文が証明できるなら、公理系はウソを証明できることになる。この文を証明できなければ、公理系は真実の文を証明できないことになる。Q. E. D.

・後者については、さっきの証明により、まともな無矛盾な公理系なら文『この文は証明できない』は真である。しかし、無矛盾であることが証明できるなら文『この文は証明できない』が証明できることになってしまい、矛盾が発生する。Q. E. D. 

注意深い人なら、以上の説明でも、真という概念と証明可能という概念が混乱しているのに気が付くだろうし、公理系の内部の話と、公理系を外から見ている視点が妙に連続しているのにもひっかかるだろう。だいたい、どうやってそんな自己言及文が算術的に構成されるのか。そういうのを一つずつ詳細化していくのが本書の本体だ。

その自己言及の重要箇所だが、ゲーデル数を確立するのはいいとして(本当はそんなに自明でもないが…)、本書の証明は標準的な証明と異なり、対角線論法が中心になっている。ここでわたしは相当引っかかったが、本書では結局、理論が"sufficiently strong"という以上の説明はなされない。引っかかった部分は別途調べて一応納得したようなことだが、人によっては別の場所に引っかかるかもしれない。しかし、数学書を読むというのはそういうことなんだろう。最初にも言ったが、数学者でも自分の専門でもなければ隙間なく精密に証明を確認しているわけではない。つまり、こんな読み方になっている時点で、この本は数学書なんだろう。

本書の本体についてはそんなことだが、他にも歴史的背景や哲学的な考察も含まれている。ただ、個人的にあまり興味がないというのもあるし、本書でも述べられているが、定理自体をしっかり数学的に理解すれば、ひと昔前のPop mathみたいな煽情的な騒ぎ方もする必要がないはずだ。この本については、そういう方向でゲーデルの定理に興味を持っているかどうかとは無関係に、まず数学的に何が行われているのかを知りたい人向けと言えるだろう。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ (‎2023/2/23)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0192847850