2017年1月16日月曜日

Arvind Narayanan, Joseph Bonneau, Edward Felten, Andrew Miller, Steven Goldfeder "Bitcoin and Cryptocurrency Technologies: A Comprehensive Introduction" [ビットコインと暗号通貨技術:包括的入門]

目次:1. 暗号理論と暗号通貨の入門 2.ビットコインはどのように脱中央化を達成するか 3.ビットコインの機構 4.どのようにビットコインを保管し使うか 5.ビットコインの採掘 6.ビットコインと匿名性 7.コミュニティと政策と規制 8.代替採掘パズル 9.プラットフォームとしてのビットコイン 10.アルトコインと暗号通貨の生態系 11.脱中央化された機関‐ビットコインの未来? 結論

全くタイトル通りの本でビットコインをブロックチェーンのアルゴリズム水準から社会的な問題に至るまで包括的に解説している。ビジネスマン向けのビットコインの入門書はコアになる技術について曖昧で意味が分からないし、かといって、いきなり実際のマイニングのコードを解説されても意図が分からないというようなことがある。この本はちょうど良く、かつ包括的だ。

というわけなので、コンピュータサイエンスの素養のないただのビジネスマンには、おそらくほとんど読めないのではないかと思う。基礎的なことから解説してあるとはいえ、公開鍵暗号やハッシュ関数に馴染みのない人には、かなり読みにくいと思う。通常の電子署名を理解している人なら、恐らく問題ない。わたしとしては、特に前半はまだるっこしい所もあったが、それだけ良心的に書いてあるということだろう。日本語訳「仮想通貨の教科書」という、これもまた適切なタイトルの訳書も出ているし、ある程度の基礎知識のある人には理想的な教科書だ。もちろん、これ一冊では細部まで届かないが、参考文献もしっかり指示されているから、いくらでも深められる。

それはそれとして、この本でビットコインを学んだわたしの感想としては、とりあえずビットコインを買う気にはなれない…。ビットコインはいわゆるサイバーパンクから生まれており、非常にアナーキーな思想から出発している。この本はバランスを取るために、実世界の権力(=国家権力)の介入もある程度考察しているが、それでもまだ国家権力を過小評価しているような気がする。現時点では、ビットコインは伝統通貨と交換可能だから価値を持っているようなもので、仮に交換が禁止された時に、伝統通貨のほうが見放される事態になることは考えにくい。詳しくはこの本で学べば分かるが、現行のビットコインには、決済速度の他にも、内部的な制約もかなりあり、冷静に判断するためには、ある程度技術的な詳細も学んでおくべきだろう。

ただ、現実的な話はともかく、暗号通貨を作るという実験は、それ自体面白いのは確かだ。わたしとしては、金に物を言わせて強力なハッシュパワーを保持している匿名のマイニングプールを信用するより、ともかくも民主的に現実世界の暴力を独占している国家を信用したほうが、(現状では)マシな気がするが、もちろん、暗号コミュニティは単に現状を追認するのではなく理想を追求しているのであり、それはそれで敬意を払いたい。わたしも本質的には自由と匿名の価値を重んじるほうだ。色々考える事はあるが、その出発点として素晴らしい本だった。

This book does what the title says. It was a great experience.

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