2017年12月21日木曜日

Scott Adams "Win Bigly: Persuasion in a World Where Facts Don't Matter" [大きく勝つ:事実が問題でない世界での説得]

目次:1.なぜ事実が過大評価されているのか 2.どのように現実をもっと有益な方法で見るか 3.どのようにトランプ大統領は他人にできない事をするか 4.どのようにビジネスと政治で説得を使うか 5.なぜ集団に属すると強くなり盲目になるのか

アメリカでは選挙が終わるたびに「こうなると分かっていたわたしの賢さについて」という本が出てくるが、これもその一冊。普通ならこんな本は読まないが、著者はわたしのデスクの上のマンガを描いているマンガ家で、たまたま目についたので読んでみた。主たるテーマはトランプの選挙運動の優秀性について。多分、日本では誰も読まないのでわたしがまとめると、この本は主に五つの要素から成り立っている。

初歩的な心理学の説明
認知不協和だの確証バイアスだの。本人は学位を持っていないが、訓練を受けた催眠術師だと言っている。日本で言えば苫米地博士相当と思って良いんだろう。初歩的だが、言っていることは間違ってはいない。
自慢
トランプの勝利を予測したほか、自分には財産があるだのビジネスで成功しているだのフォロワーが多いだのマスコミのインタビューを受けただの。こういうのを並べると説得力が増すと思っているんだろう。このあたりも苫米地博士みたいだ。
トランプとクリントンの選挙運動の分析
自分も説得のプロなのでわかるがトランプはスゴいとか、途中からクリントン側にとんでもない軍師がついたはずとか。トランプの選挙運動を逐一追っていて、これが本来のテーマのはず。冷静に書いていれば広報や選挙運動の教科書になるはずだが、本人は学者ではないので、個人的な事情と混ぜ合わされて書かれている。
苦労話
トランプは色々スキャンダルもあったし、クリントン支持者から嫌がらせをされたとか身の危険を感じたとか。実際、カリフォルニアでトランプを支持するようなこと(元々は誤解だが)を言ってたら、ヤバいのかもしれないし、政治評論家としてやって行こうとしている本人にとっては手に汗握るレースだったんだろうけど、わたしのような外国人が読む分には哀れというか滑稽と言うか。
オカルト
ポジティブシンキングとか成功哲学みたいな話もあるが、それ以上に自分に予知能力があるとか仄めかしている。わたしはこの著者にこういう痛いところがあるのは知っているから驚かないが、初めての人が政治の本だと思って読んだら大抵引くはず。

別にこの本を推奨はしないが、アメリカでは政治評論などで多少知名度はあるみたいだし、この調子で当て続けていけば、いずれ影響力を持って日本にも名が轟いてくる可能性がなくはない。さしあたり、"Dilbert"の作者がblogやtwitterなどで政治評論をしていて、こんな本を書いていることを覚えておいても良いかも知れない。

I am not an American and my impression of the election is "much ado about nothing". But for a political pundit like this author, that was a thrilling race. Living histories are always interesting.

BTW, if you keep saying good things about a candidate, people assume you are a supporter of that candidate. It must have been obvious to you, Scott.

Portfolio (2017/10/31)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0735219717

2017年12月17日日曜日

Pierre Delort "Le Big Data" [ビッグ・データ]

目次:1.企業の中の情報科学 2.データ 3.ビッグデータ 4.ビッグデータの技術 5.会社の中の決定 6.企業の変化

近頃流行りのビッグデータの入門書。最初のうちはIoTやらグーグルのインフルエンザの検索とか有名な話をしている。技術面ではNoSQLなデータベース技術や統計の話などのごく入門程度。最後に企業の組織などに与える影響。正直なところ、わたしにとっては、この程度の話は初歩的過ぎて、内容を公平に評価できない。本当に何も知らない人向けとしか…。わたしとしては、フランス語の勉強ということもあって、良く知っている分野の本を読むのがいいかと思ったところだが、この考え方は間違っていたかもしれない。つまり、知りすぎている話だと、適当に読めてしまうということもあるし、あまり真剣に読むモチベーションが上がらない。

Ce livre est trop basique pour moi. Je l'ai lu seulement pour etudier le français. Néamoins, lire un livre qui parle des choses que je connais trop n'étais pas une bonne idée.

PRESSES UNIVERSITAIRES DE FRANCE - PUF (22 avril 2015)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2130652113

2017年12月7日木曜日

Clifford E. Swartz "Back-of-the-envelope Physics" [封筒の裏の物理学]

目次:1.力と圧力 2.力学と回転 3.音と波 4.熱 5.光学 6.電気 7.地球 8.天文学 9.原子と物理 10.素粒子と量子

『物理が分かる実例計算101選』ということで翻訳書も出ている。色んな事象について物理の公式に則って概算する本。一時期、本屋のビジネス書の棚にやたら「フェルミ推定」という言葉が並んでいたことがあるが、元々フェルミが推定するのが得意だったのはこういうことだったんだろう。

101も計算があるので、一つ一つは比較的短いし、それぞれ独立している。実のところそんなに意外な計算はないが、しばらく物理から離れていた人には懐かしいだろう。実際大学の授業でも使われているらしい。ただ、pop scienceの常で、理数寄りの一般人を面白がらせることができたとしても、これで物理が分かるようになるかどうかは甚だ疑問だ。項目にもよるが、高校生~大学生程度の物理の知識は必要かもしれない。目次からも分かるようにかなり分野が広いので、復習になる。わたしは工学系の勉強をしているので、計算には慣れているが、純粋に学問として物理学をやっていた人には新鮮かもしれない。

学問として物理学をやっている分には現実の数字を計算することは少ないし、工学でも有効数字が4桁を越える事は稀に思う。唯一、測量士の試験は有効数字が6桁くらいあった気がするが、こんなのは例外だろう。そう考えると、現実の計算は、この本でやっているような有効数字1桁くらいの世界で済むのかもしれない。他方、簿記3級は12桁の電卓が必須であり、最後の一桁でも間違えたら大問題である。そう考えると、理系は文系より数字に圧倒的に弱いと言わざるを得ず、こういう本で僅かでも補正するべきなのかもしれない。

A good overview of physics through real calculations.

Johns Hopkins Univ Pr (2003/5/30)
英語
ISBN-13: 978-0801872631

2017年12月5日火曜日

Robert J. Allison "The American Revolution: A Very Short Introduction" [アメリカ革命:非常に短い入門]

目次:1.革命の源 2.植民地の反乱 3.独立 4.独立戦争 5.アメリカは違ったのか?

北米の植民地の反乱からアメリカ独立戦争、最後にラファイエットが独立したアメリカに国賓として招かれ、全米を視察するまでの物語。中心になるのは英軍と反乱軍(アメリカ軍)との戦闘の記述だ。

今まで200冊以上VSIを読んできたが、これが一番、読んでいる間の調べものが多かったし、メモも多かった。一つにはこの本には地図がついていないので、余程アメリカ東海岸に土地勘がない限り、東海岸の地図は必須だ。ニューヨーク・ボストン・フィラデルフィアを中心に北米全域で英軍と米軍が戦略を繰り広げるのはそれだけでアツい。米英の各将軍の戦略行動を読みやすく書いているのは非常に良い。短い本だし、詳しく調べればいくらでも時間を掛けられるが、差し当たりこの本は戦争の経過を読みやすくまとめてくれている。VSIの歴史関係は、わたしとしては外れがほとんどないが、楽しめたという意味では、このタイトルが一番かも知れない。

I love VSIs, especially those of the history category. And this title is one of the best of them that I have ever read.

Oxford Univ Pr(2015/7/31)
英語
ISBN-13: 978-0190225063

2017年11月30日木曜日

Scott Adams "Dilbert 2018 Day-to-Day Calendar" [ディルバート2018年日めくりカレンダー]

毎年買っている机上日めくり。前はPeanutsだったこともあるけど、読みつくした感じもあり。毎朝見る物だから結構重要な選択だが、結局2018年もDilbertに。知らない人はdilbert.comにアクセスすれば大体分る。エンジニア‐オフィスにまつわるマンガ。他にも色々物色するけど、これはbusiness jargonとかが学習できるのが利点ではある。理解できないオチなどがあれば、全世界に大量の読者のいるマンガなので、ググれば大体分かる。

My favorite.

Andrews McMeel Publishing(2017/5/23)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1449482343

2017年11月22日水曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid: The Getaway" [軟弱な子供の日記12: 逃走/保養地]

例によって「グレッグのダメ日記:逃げ出したいよ」というタイトルでポプラ社から翻訳が出ているが見ていない。12冊目にまでなってほぼ同時翻訳だから、相当売れているんだろう。英語は易しいので、わたしは多読とかいう英語学習法を推奨していないが、多読したいのなら最適だろう。タイトルの"getaway"は二重の意味がある。さしあたり一家がクリスマスにリゾートに行く話だが、終りになって第二の意味が明らかになる。

これまでより絵が多い気がする。相変わらず面白いし、直ぐに読んでしまった。感想としては、○Rodrick可哀そう。○ほぼ犯罪といって良い行為は日本で児童書として受け入れられるのか?ポプラ社はいいのか?○Momが写真をやたら撮りたがるのはSNSに絡めてもっと狂気レベルまで押すべき。実際そんなのいるだろうし。○リゾートホテルとか行ったことないけど、まあこんなもんなんだろうな。○何度か映像化されているみたいだし見ようかとも思うけど多分原書が一番面白いんだろう。

後、絵の中に時々スペイン語が出てくる。カリブ海の想定なんだろう。わたしは全部読めるが、通常の英語圏の読者がどの程度読めるのかは分からない。最後のオチの絵もスペイン語だが、何となく分かるんだろう。気になるムキはGoogle翻訳にでもかければいいだろう。スペイン語を勉強した甲斐があった気がしなくもないが、もしかして、スペイン語が分からないほうが面白いのかも知れないというような…。

My favorite series. A trivial question: if I did not understand spanish, would it be more amusing?

Penguin Books Ltd (2017/11/7)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0141385297

2017年11月21日火曜日

Robert C. Allen "The Industrial Revolution: A Very Short Introduction" [産業革命:非常に短い入門]

目次:1.当時と今 2.産業革命前1500-1700 3.なぜ産業革命は英国的なのか 4.イングランドの状況 5.改革と民主主義 6.海外への産業革命の広がり

産業革命の社会経済的な条件とその影響の概説。基礎的だが、モノスゴク良心的な作りで、高校生程度の歴史の知識があれば十分読めるし、万民のための基礎教養書として翻訳されれば売れると思う。もちろん、日本も含めた世界各国での状況にも言及されている。受けた教育のせいか、どうも産業革命=ブルジョワ革命=煤けた都市労働者みたいな貧困なイメージがあり、この辺り時代というか社会変革に明るいイメージがないが、英語圏の本のほうが良い。この本は人々の考え方の変化とかからもかなり広く状況を捉えていて、初学者にも読みやすいと思う。

A great introduction to the era.

Oxford Univ Pr (2017/04)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198706786

2017年11月20日月曜日

Cas Mudde,‎ Cristobal Rovira Kaltwasser "Populism: A Very Short Introduction" [ポピュリズム:非常に短い入門]

目次:1.ポピュリズムとは何か 2.世界のポピュリズム 3.ポピュリズムと動員 4.ポピュリズムの指導者 5.ポピュリズムと民主主義 6.原因と反応

近頃目立つ話題なのでVSIも流れに乗ったということか。わたしの理解したところでは、要するにポピュリズムとは、「庶民のため」という主張以外に特に深いコンセプトのない政治運動というところだろうか。庶民の反対側には、もちろん既得権益がいて、それがどう定義されるかは状況によって適当だったりする。無暗に危機感を煽るとか矢鱈気の強そうなリーダーとか共通点はあるものの、要するに、見世物感が重要で、内容が重要でないというのが論点なんだろう。元々ポピュリズムという言い方自体にネガティブなニュアンスがあるし。それより、この類の政治理論書の通例で、理論自体より、紹介される事例が面白かったりする。主張が不明のまま、なんか既得権益を潰してくれるというイメージだけで勢いを得るのは、日本に限ったことではないということで。

A good overview over populism movements around the world and a theory.

Oxford Univ Pr(2017/2/1)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0190234874

2017年11月19日日曜日

John Goddard,‎ John O. S. Wilson "Banking: A Very Short Introduction" [銀行業:非常に短い入門]

目次:1.銀行業の起源と機能 2.金融媒介 3.証券化される銀行業 4.中央銀行と金融政策の行動 5.銀行業界の規制と監督 6.世界金融危機の起源 7.世界金融危機とユーロ圏政府債務危機 8.世界金融危機への政策と規制の反応

前半は一般的な銀行業の説明で、高校の政治経済レベルで読めるような気もするが、貸方と借方が分からないようだと厳しい。簿記のできない、いわゆる数字に弱い人は厳しいだろうか。しかし、わりと王道な教科書的な解説で、これが理解できないようだと人生の金銭面で苦労するような気もする。後半はわりと直近の金融問題まで解説していて、リアルタイムで新聞などで読んでいた我々としてはおさらいみたいな感じ。後知恵で分かるようなこともあるが、なかなか酷い話で読み応えがあるのは確か。今後のこともあるし、一旦ここで、この本で現状を確認しておくのは良い考えに思える。もっとも、こんな風に思うのはわたしが株式投資に結構注力しているからで、意外に世間の人は興味がないのかもしれない。それにしても必読書に思えるが…。

Basics of banking business and a summary of recent financial crises. A must-read at this moment, both to look over the financial crises and to prepare for the future.

Oxford Univ Pr (2017/02)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199688920

2017年9月24日日曜日

Jon Kabat-Zinn "Mindfulness for Beginners: Reclaiming the Present Moment―and Your Life" [初心者のためのマインドフルネス:今の瞬間‐とあなたの人生を取り戻す]

初心者のためと書いてあるが、本当のマインドフルネスの初心者のためには、むしろ最初の著作である"Full Catastrophe Living"のが良いかと思う。書いてあることに体系性が感じられず、警句集みたいに勝手に文脈を想像して納得できる人はいいが、そうでなければ何のことか分からない人のほうが多い気がする。付属CDは確かに初心者向けのようだが。

個人的にヨガとか気功とかシステマとかその他呼吸法的なものは色々やってきたけど、マインドフルネスも含めて、結局、手段は個人の好みの問題でしかないと思っている。わたしとしては、一々些細なことに動揺するのを止めたいというのが第一なのだが、どれも決定打になっていない。「動揺する時は動揺するのがよろしい」ということで諦めている。不便な生理だが。ただ、呼吸に集中するというのは、一般的に精神衛生に良い事なのだろう。

そして、マインドフルネスは仏教に源流みたいなことを言うが、そういうことなら、手段を取ったら取っただけムダと思っている。

I do not think that this book is for beginners. Like aphorisms, much is left to readers' imagination.

Sounds True; Pap/Com Re版 (2016/07)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1622036677

2017年9月21日木曜日

Arthur Conan Doyle "The Sign of the Four" [四人の署名]

"A Study in Scarlet"に続く、シャーロック・ホームズ登場の二作目。タイトル中の二つの定冠詞が付いているのと付いていないので、ほぼ四通りの表記があるのが気になる。

構成自体は前作と似ていて、殺人事件自体も奇妙だが、ホームズが推理していき、最終的には遠い異国の犯罪に淵源が見つかる。大英帝国の最盛期であり、ドイルという人は、こじんまりした犯罪話に壮大な背景を描く趣味なのだろうか。復讐というテーマも共通だ。

とても面白かったが、ああだこうだと考察したり批評するようなことがない。このある種の中身の無さが魅力だろうか。今時の推理小説と異なり、謎自体よりも、殺人の奇怪さと、それを上回る探偵の奇妙な推理力の対比が主眼で、さらに異国情緒が話を壮大化しているというところ。最後の点については、今でも殺人事件は景勝地で起きるのが良しとされているし、これはポーにはなかった点だ。

あんまり語ることはないが面白いのは確か。引き続きホームズを読んでいく。全作読むつもりだ。

The second novel of Holmes. It was a real page-Turner, though I do not have much to talk about it. Just enjoy it.

Wisehouse Classics (2017/10/22)
言語: 英語
ISBN-13: 978-9176374658

2017年9月19日火曜日

Martin F. Price "Mountains: A Very Short Introduction" [山:非常に短い入門]

目次:1.なぜ山が問題か 2.山は永遠ではない 3.世界の給水塔 4.垂直の世界に生きる事 5.多様性の中心 6.保護された地域と観光 7.山の気候変動

山の博物誌といったところ。山にまつわる地学や地理学や経済や文化などが大雑把に語られる。この本に限らず、どうもVSIの地理系の本は、今一つな感じがある。"Desert"は例外的に面白いと思ったが、それと同じで、人によってはこの本に山のロマンを感じるのかもしれない。例えば、地理を選択した高校生などが読むには良いと思うが。わたしはというと、日本で登山していること自体は好きだが、世界の山文化とか環境保護とかにそこまでの興味はなく、今一つピンとこない。砂漠と違って身近なせいかもしれない。

For mountain lovers.

2017年7月9日日曜日

Jon Kabat-Zinn "Full Catastrophe Living" [惨劇に満ちた人生]

近頃流行りのマインドフルネスの原典というべき本。「マインドフルネスストレス低減法」ということで出ている翻訳は初版のものだと思われる。多分、本質に大差ない。やたら分厚いが、哲学とかその他の背景の説明も多く、実際にマインドフルネスの訓練を始めたいということなら、もっと効率的な本は日本語でもいくらでもありそうだ。訓練中はほかのことは考えるな、変化は勝手にやってくるから、訓練中は何も期待するな、ただ八週間はやってろ、ということだから、思想とか能書きは不要なはずだが、ただ、理屈がないと納得できないというような人のほうが多いだろうから、説得材料で膨らむのはやむを得ない。「今、ここ」に注意を払うことがマインドフルネスの主旨だと思うが、具体的には自分の呼吸と体の各部に注意を集中することでほぼすべてと言っていいと思う。

わたしとしては、座禅会に通っていたり、気功やらヨガやらも多少は経験があるので、色々比較したりもできるが、この本については、そんなことは忘れて、先入観抜きにこれだけで受け止めるほうが良いだろう。近頃はマインドフルネスとタイトルにつく本は、本屋のスピリチュアルの棚に溢れているが、妙な劣化版を読むくらいなら、この原典を読んだほうがいいかもしれない。禅僧もこの流れに乗ってきて、どうも商売色の強さにうんざりする感じもあるが、本質は退屈なほど単純で健全なものだ。それでも座禅よりはかなり色がある。

この本に書いてあるような考え方などは、わたしとしてはむしろ陳腐に思えるくらいに聞き飽きているが、最近、実際に自分が体調に悪くなって初めて真剣に聞く気になるということがあり…。その意味では、読んで良かったし、こういう考え方に馴染みのない人には是非読んでみてほしいものだ。ただ、この類は、実際に健康不安とかがない人は、なかなか読まないし、読んでもピンとこないかもしれない。

To reduce everyday stress, this book is your first choice.

Bantam; Rev Upd版 (2013/9/24)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0345536938

2017年6月23日金曜日

Collins Dictionaries "Collins Easy Learning Spanish Grammar" [Collins簡単学習スペイン語文法]

スペイン語文法をコンパクトにまとめたもの。大学の第二外国語くらいならこれ一冊で十分かと思われる。"Collins Easy Learning xxx Grammar"は今までフランス語とドイツ語を読んでいるが、スペイン語も同じフォーマットで非常に良い。言語の文法って、大変なようで、要するにこの程度の話なのだ。参考書として使うのでも良いが、早いうちに通読してしまうのが良いと思う。

Read this book through when you have studied Spanish for a while. Of course you need to practice a lot, but the essentials of Spanish grammar is all here. It is not a big deal.

HarperCollins UK; 3版 (2016/7/1)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0008142018

John C. Maher "Multilingualism: A Very Short Introduction" [多言語使用:非常に短い入門]

目次:1.多言語世界 2.多言語使用を勧める理由 3.多言語使用、神話、論点 4.人々、言語、危険な物 5.個人の多言語使用:一つの心と多数の言語 6.政治、言語、国家 7.アイデンティティと文化 8.共通語、混合、人工言語 9.絶滅危惧言語

社会レベル・個人レベルでひたすら多言語使用を推奨する本。この著者の念頭にあるのは、単一言語環境に生きている単一言語しか話せない人間、要するに英語圏の英語話者なんだろう。

まず、多言語使用がどれほど普通のことであるかが説かれる。本書によると、世界人口の2/3が少なくとも二言語以上を話すらしい。従って、多言語使用が普通であることは、少なくとも世界人口の2/3にとっては周知の事実でしかないが、公用語自体が二言語以上ある国も含め、とにかく大量に例が挙げられる。さらには、こんな有名人もマルチリンガルだとか、マルチリンガルの子供のほうがモノリンガルの子供より学業成績が良いとか、多面的に物事を考えられるとか、果ては就職に有利とか、マルチリンガルの美点が大量に書き連ねられる。もちろん、我々は気分が良いが、モノリンガルの人が読んだら気を悪くしそうだ。

この件については"Translation"もそんな感じだったが、ちょっと引っかかる。もちろんわたしもマルチリンガルであるに越したことはないと思っているし、頑なに日本語とか英語しか話さない・方言すらバカにするような人種はバカにしているが、この本はマイナス面を明らかにdownplayしている。実際、多言語環境で育ってどの言語も十全でなく困っている子供もいるし、身の回りを見てもマルチリンガルを鼻にかけている種類の帰国子女はむしろ学業成績が低い。何より、著者は言語を習得するのに必要な労力について何も言わない。

後半は社会学的な記述が始まり、少しは厳しい現実が語られる。社会的に地位の高い言語も差別される言語もあるし、国家による強制もあるし、使用されている言語の数はどんどん減っている。しかし、ここでも筆者は基本的に明るい面を強調し、アイルランド語の復興とかエスペラントなどを肯定的に見ている。全体的に言えるのは、世界の言語情勢を客観的に解説する本というよりは、多言語使用を煽る本と言える。外国語を学習しようとする人には、良い動機づけになるだろう。個人的には、わたしも筆者にほぼ同意だし、さらには言語統制機関、日本で言えば国語審議会とかNHKアクセント辞典などに何の敬意も持っていないが、Oxford Universityという出版社にしては、煽り要素が強い気がした。

I am afraid that monolingual people would be offended reading this book. If you are a multilingual or are studying foreign languages other than your mother tongue, this book is for you.

Oxford Univ Pr (2017/6/22)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198724995

2017年6月20日火曜日

William Tardy "Easy Spanish Reader" [簡単なスペイン語読本]

目次:1.Enrique y María 2.Historia de México 3.Lazarillo de Tomes (Adaptacíon)

スペイン語の初級のリーダー。一通り文法を終えた後、一週間程度で読み終わった。アメリカの高校では三年かけて読むという話だが、そんな大層なものではない。第一章は、外国語の初級読本の定跡通り、金持ち高校生のリア充生活を読まされる。この点は少し引くが仕方がないだろう。第二章はメキシコの歴史の概説で、内容的にもなかなかしっかりしている。隣国のことだから、スペイン語を学ぶアメリカ人ならこれくらいは知っておくべきだろうか。第三章は16世紀の悪漢小説ということで、これも普通に面白い。メキシコの歴史が血塗られているし、第三章も始まりが陰惨なので少しうんざりしたが、最後まで読めば納得できた。

各節毎に簡単な設問があり、解答も巻末に完備している。特に先生がいなくても読んでいて退屈しない本だ。版によっては音声CDがついていたりするようだが、わたしの第二版にはついていなかった。ただ、もともとスペイン語の聞き取りで苦労したことがなく、この点についてはどうでもいいかと思っている。アメリカはもちろん、日本のスペイン語学習者にも割と広く読まれている本みたいなので、読むのにさして時間がかかるわけでもないし、読んで損はないだろう。多分、接続法が分からないくらいでも読めるんじゃないかと思う。本文横と巻末に単語の説明もあるし、辞書がなくても読めるくらいだった。

A very good introductory Spanish reader. After finished the grammar, I read this book through within a week.

McGraw-Hill Education; 3版 (2015/7/13)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0071850193

2017年6月4日日曜日

Antulio J., II Echevarria "Military Strategy: A Very Short Introduction"[軍事戦略:非常に短い入門]

目次:1.軍事戦略とは何か 2.絶滅と混乱 3.消耗と疲労 4.抑止と強要 5.テロとテロリズム 6.断頭と標的殺害 7.サイバー戦力と軍事戦略 8.なぜ軍事戦略が成功したり失敗したりするのか

目次に挙げられる概念を実例を用いて説明していく本。別に説明してもらわなくても語義から自明であるというようなものだが、それぞれの戦略の概要と実例と使用上の注意というところ。学問上、概念の明晰化自体に価値があるのかもしれないし、軍事に疎い政治学方面の人には有用なのかもしれない。逆に戦争、というか戦争ゲームに興味のある人には、ちと政治寄り過ぎて抽象度が高過ぎるだろう。ただ一つだけはっきり言えるのは、この本は、英語が非常に明快でスラスラ読める。英語力と世界史の大雑把な知識さえあれば、中学生でも理解できそうだ。この類の本としては割と珍しいと思われるが、暗殺やテロもしっかり戦略的に扱っている。

この類の洋書を読んでいて一つ残念なのは、古代中国の戦争へのアクセスが全くない点である。軍事戦略と言えば、古代中国に膨大な蓄積があるが、西洋の著者がほとんど言及しないのは、読者に馴染みがないから避けているというより、そもそも、著者も知らないのだろう。「孫子」だけは、この本でも頻繁に引用されるが…。

Explications of the strategic concepts such as annihilation, terrorism, etc..

Oxford Univ Pr (2017/2/6)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199340132

2017年6月1日木曜日

H. G. Wells "The Time Machine" [タイム・マシン]

SFの古典。タイムマシンの発明者が西暦802701年の地球(というか自宅だった場所の近所)を探検してくる話。古典的名作として名高いし、古典ながら退屈なところもないし、英語も特に難しくないし、とても面白かった。特にSFに興味がなくても読む価値はある。

ウェルズの小説を読むのは宇宙戦争透明人間に次いで三冊目だが、一々考えさせられる要素がある。まず、タイムマシンの動作の描写だが、完全に映画の早送りと巻き戻しのイメージで考えられている。タイムマシンという概念が発明されるには、映画の発明が決定的だったのだろうか。ドラえもんのタイムマシンはそんなことになっていないし、浦島太郎のタイムスリップはただ時間が経つだけで文明が進歩したりしていない。

それはそれとして、わたしとしては、苦痛のない世界に生きているとバカになるという説に大いに頷いた。VSIの何かで、「猫は安楽に生きているので、厳しい環境で生きているネズミに比べてバカ過ぎて実験に使えない」と書いてあったが、実際そうなのだろう。わたしの周りにもお金持ちの子女でWeenaみたいな容姿も性格もスゴくいいがバカという連中もいたし、不登校で親にも責められず安楽に暮らしている子供は、やはり性格は良いんだけど歳のわりに異様に幼かったりするし…。やはり智慧が発達するには、ある程度不条理あるいは不当に厳しい環境が必要なのかもしれないと思ったりした。と言っても、わたしが育った環境を是とはできないが…。仏教では天上界なんかに生まれると幸せ過ぎて道を求める気を起こさないとも言う…。わたしもここ数年は安楽に暮らし過ぎている気配があり…。そして下層階級は、ここまで酷くなくても、やはり下層階級である。要するに個人的に思い当たるフシが多すぎる。

この小説の最も人気のある論点は格差社会の最終結果というところだが、特に西ヨーロッパの階級社会は昔も今もこの話はフィクションではないのだろう。最後のほうで更に人類滅亡後と思しき未来に進むのは、一瞬蛇足感があったが、作者としては、人類の未来よりもっと大きな世界を描きたかったのだろう。まあ、80万年後があんなことになっているのなら、人類は滅亡したほうが良いだろう。そう考えると、結局、現代は奇跡的に素晴らしい時代なのかもしれない、などと思ったりした。

This classic novel offers very profound insights into the human nature. Not just an amazing imagination.

Heinemann (1970/2/1)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0435120092

2017年5月31日水曜日

Barbara Bregstein "Advanced Spanish Step-by-Step" [上級スペイン語一歩ずつ]

目次:1.SerとEstarと現在形 2.SerとEstarの点過去と線過去 3.現在進行形 4.過去進行形 5.接続法現在 6.命令法 7.名詞・冠詞・形容詞・代名詞 8.現在完了形 9.過去完了形 10.未来形 11.過去未来形 12.接続法現在完了 13.接続法過去 14.接続法過去完了 15.慣用句

Easy Spanish Step by Stepの続編で、この二冊でスペイン語文法はほぼ完成と言える。最初のほうは復習から始まるが、基本的にはEasyのほうから始めるべきだ。Easyのほうは半年ほどかかったが、こっちのAdvancedのほうはほぼ二か月で終わった。二冊目が速くなるのは、それまでの知識が応用できるように教材が配置されているからだ。

この二編の本は構成というか順序が非常に優れている。日本語でスペイン語の入門書と言えば、瓜谷先生の「スペイン語の入門」が標準だと思うが、次々に脈絡なく文法事項が出てきて丸暗記させられる感じで、要するに古風である。大学書林の「○○語四週間」的なハードボイルドな勉強法が向いている人もいると思うが、強力な暗記力が必要だ。

このBregstein先生の本は、構成が良い。一例を挙げると、直説法現在の次に過去形より先に接続法現在が出てくるが、非常に理にかなっている。要は-arと-ir/-erの語尾が振り替わるだけだから、全く異質な線過去や点過去より覚えやすいし、直説法現在の復習も兼ねることになる。日本の教科書だと、通常、直説法を全部終えてから接続法に入るが、Barbara先生の方式の方が易しい。それに、スペイン語では、フランス語やドイツ語より接続法が重要だ。あと、日本語より英語のほうがスペイン語に遥かに近いということは、もちろん非常に大きい。

英語圏の他のスペイン語練習本、たとえば"Practice Makes Perfect"なども見たけど、わたしとしては、Bregstein先生のこの二冊が最善だと思う。普通に英語力があるという前提だが(多分スペイン語をやろうと言うくらいなら、この本の英語くらい読めるだろう)、スペイン語を始めるなら第一選択だろう。音声教材がないのは他で補う必要があるが、もともとスペイン語の発音はそれほど難しくない。

With "Easy Spanish Step-by-Step", the best introductory course to the Spanish language.

McGraw-Hill Education (2011/12/28)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0071768733

2017年5月23日火曜日

Russell G. Foster, Leon Kreitzman "Circadian Rhythms: A Very Short Introduction" [サーカディアンリズム:非常に短い入門]

目次:1.サーカディアンリズム:24時間現象 2.一日の内の時間が問題 3.タイミングがズレる時 4.時計に光を当てる 5.分子時計の刻み 6.睡眠:最も明白な24時間のリズム 7.サーカディアンリズムと代謝 8.生活の季節 9.進化と時計への別の見方

概日周期とも訳せるのかも知れないが、生物の体内に組み込まれている生物時計の概説。生物時計は外部刺激(光など)によって調整されはするが、基本的には外界と無関係に(つまり地下などの外部刺激が変わらない状況でも)時を刻み続ける。機械時計の挿話があったりするが、多分筆者が機械時計に関する名著を読んだものと思われ、機械時計と基本的に関係はない。前半は巨視的に人間を含む生物の生活のリズムについて説明していて、人間であれば、夜勤が有害だったり、若者が夜型だったりするというようなことが説かれている。この件に関しては名著"Sleep"も是非併せて読みたい。わたしは超夜型で、今まで生活リズムで散々苦労してきたのがこの本を読んだ最大の動機だ。学校の開始時間を遅らせるような試みは、欧米では既に始まっているが、日本では聞いたこともないし、さっさとこういう知識が日本でも普及することを願う。最近聞かなくなったが、サマータイムなど論外だ。

後半は完全に分子生物学で、普通に高校程度の生物学の知識があれば読めるが、話が非常に複雑なのは覚悟する必要がある。なんでも、分子レベルの話と生物の行動の関係がここまで明らかにされている例はほとんどないらしく、頑張って読んでいくと壮絶に複雑で、どうやって解明したのか理解に苦しむくらいだ。医師の国家試験でもここまでの知識は要求されていないのではないかというような…。しかも、解明したところで複雑過ぎて、これを健康に役立てるとかいう話にはほど遠い。ただ、こんな壮絶に複雑なことがほとんどの生物の中で行われていることに感嘆する。

I wonder if even medical doctors understand these molecular level mechanisms of circadian rhythms.... Complicated, yet fascinating.

Oxford Univ Pr (2017/5/23)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198717683

2017年5月11日木曜日

Richard Passingham "Cognitive Neuroscience: A Very Short Introduction" [認知神経科学:非常に短い入門]

目次と各章で答えられる疑問

  1. 最近の分野
  2. 知覚
    1. 物体を操作するために認識は必要か。
    2. 腕を切断した人が腕の感覚を持ち続けるのはなぜか。
    3. 言葉を読んだり聞いたりする時に色を見る人がいるのはなぜか。
  3. 注意
    1. 脳卒中の後、左側にあるものを無視する患者がいるのはなぜか。
    2. なぜ別のことに注意を向けると痛みが和らぐのか。
    3. なぜ運転中に携帯電話を使うと危険なのか。
  4. 記憶
    1. 記憶喪失になっても学校で学ぶ知識を覚えられるのはなぜか。
    2. 50代になって人の名前を忘れ始めるのはなぜか。
    3. アルツハイマー病の人が道が分からなくなるのはなぜか。
  5. 推論
    1. 種類の違う知的能力が相関するのはなぜか。
    2. 我々は言葉で考えているのか。
    3. 人類はなぜ賢いのか。
  6. 決定
    1. ぼうっとしていて失敗する時があるのはなぜか。
    2. 長期的には有利な報酬より短期的な報酬を選ぶのはなぜか。
    3. 道徳的推論の基礎は何か。
  7. 点検
    1. 自発的な行動が自由であると言えるのはどういう意味か。
    2. 難しい作業をする時にどのように間違いから学べるのか。
    3. 人はどのように他人の意図を推論できるのか。
  8. 行動
    1. 利き手と言語を扱う大脳半球になぜ関係があるのか。
    2. どのようにしてバイオリンの演奏を学べるのか。
    3. なぜ自分自身をくすぐれないのか。
  9. 未来

タイトルから分かりにくいが、上のような疑問に、主に健常者と脳卒中の患者の脳のfMRI画像によって答えていくというシンプルな本である。脳の色んな部位の名前を覚えるのが面倒である以外は、特に難しい話ではないし、何の予備知識もいらない。脳はみんな持っているので、誰にとっても他人事ではない。しかし、例えば、色の認識と形の認識は脳の別の領域でやっていて後から合成される、などという話は、自分でいくら主観を観察しても分からないことだ。

別にそれが分かったからといって、わたしの色と形の認識が変わるわけではないが、どうもこの類の脳科学の話というのは、世界観を揺さぶられる感じがして楽しい。結局、今わたしが見ているこの世界がどうやって構成されているのかという話だ。わたしとしては、今言った「見ているわたし」にも興味があるが、この筆者はその類の質問は哲学の領域の話で、科学の知ったことではないという立場だ。それにしても、fMRIや脳の損傷からの観察は興味深いし、哲学者でも心理学者でも、知っておくべきことだろう。類書を見ないので、翻訳したら売れる気もするが、ちと書きぶりがストイック過ぎるかなあ。自己啓発的な要素は全くない。

Many questions about human cognition are answered by analysis of healthy humans' and stroke patients' brains observed by fMRI. Simple, but enlightening.

出版社: Oxford Univ Pr (2016/12)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198786221

2017年4月29日土曜日

Jim Bennett "Navigation: A Very Short Introduction" [航海術:非常に短い入門]

目次:1.初期の航海文化 2.中世とルネサンスの学習と実践 3.数学的科学 4.推測航法と経度と時間 5.数学的船員の全盛期 6.電子の時代

この本の言う"navigation"とは、人間が海上で自船の位置と方向を知る技術のことに限定されている。その古代から現代にいたる発展史の概説。まずは天文航法・地文航法から始まり、平面航法からメルカトル航法や中緯度航法の説明もあり、最後は電波航法に至る。器具にもかなり重点があり、磁石の発見から六分儀やクロノメーターやジャイロコンパスやロラン局の説明などもあり。あまり類書を知らないので面白かった。

ただこの本、ちょっと素人には難しいかもしれない。基本的には歴史を語る本なのだが、テーマが航法だから、最低限の数学・科学の記述は避けられない。そして、VSIの通弊で図解が少ない。船の免許を持っているとか海技士であるとかなら問題ないかもしれないが、そうでなくても、あらかじめ簡単にでも現代の航海術の知識はあったほうが良いだろう。

わたしはというと、昔、少し海上交通を調べてたことがあり、天文も好きだし、測量も電波も国家資格を持っている。この際なので、航海学の本や海技士のテキストなども見ながら、この本を読んでいたが、なかなか楽しかった。こういうのはマニアックかもしれないが、たとえば「ワンピース」みたいな海洋冒険マンガで航海術が適当にしか描かれていないのは残念なことだ。こういう本を通して、空以外に何の目印もない海上で船を定位することがどれだけ大変かが知られればいいが、ちょっと難しいのかもしれない。

A good historical overview, though maybe a bit difficult if you are not familiar with modern navigation techniques.

Oxford Univ Pr (2017/05)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198733713

Josh Robertson "50 Years of the Playboy Bunny" [プレイボーイバニーの50年]

プレイボーイクラブとバニーガールの興亡史。半分はバニーガールの写真。ヌードもあるが、アメリカの60-70年代のノリなので、今見ると別にいやらしくもない。というか、多くの読者はバニーガールを見たいのであり、ヌードなんかに使うページはムダというのが一般的な意見のようだ。ともあれ、写真に関してはこれ以上本物のバニーガールを見れる資料は他に知らない。

バニーガールは元々プレイボーイクラブのウェイトレスとして考案されたもので、基本的には60-70年代の趣味だ。プレイボーイクラブの様子は本書に詳しく記述されているが、多分、今でもあるような「クラブ」と大差ないのかもしれない。紳士の社交場というか、遊び場というか、わたしもそんな場に縁がないので、何とも言えないが。高価だし退廃的だし、楽しむには高い社会性が必要だし、時代の流れとともに衰退したのも良く分かる。

肝心のバニーのほうは、大変厳しい仕事で、体育会系というか軍隊に近い印象を受けた。もちろん、お触り厳禁だし、客とのデートも厳禁だから、その意味では安心なのかもしれないが、姿勢やら動作やらのルールが非常に厳しい。例えばバニーガールは椅子に座ってはいけない(椅子の背にちょっと腰かけるのはいい)。水を飲んでいるところを見られてはいけない。トイレに行くところを見られてはいけない。もちろん容姿の良いのが前提だが、並大抵なことではない。折しも公民権運動やらフェミニズムやらが盛り上がってくる時代で、バニーガールの労働組合ができるに至っては、潮時という感じだ。

わたし自身はプレイボーイという雑誌もほんど読んだこともないし、そこで提案されているライフスタイルも良く知らないし興味もなかったが、こういう文化もあったんだなと思うくらいだ。バニーガールは何となくスタイリッシュな印象があったが、結局、生身の人間なので現場は大変だ。何にしろバニーガールの資料と言えば、真っ先にこの本なので、興味の方向性は人それぞれとしても、特にカジノ法成立に乗じようとする人には読んでおいてほしいものだ。

I do not understand the culture Playboy magazine promotes. Still, I find bunny's costume very stylish and elegant. This book contains many of photos of bunnies and also a great account of Playboy Clubs, which was intersting even to me.

Chronicle Books (2010/10/13)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0811872263

2017年4月25日火曜日

Dava Sobel "Longitude" [経度]

目次:1.仮想の線 2.時間以前の海 3.時計仕掛けの宇宙で漂流 4.瓶の中の時間 5.共感の粉 6.賞 7.歯車作りの日誌 8.バッタが海へ行く 9.天の時計に届く 10.ダイアモンドの測時計 11.火と水の審判 12.二つの肖像画の話 13.ジェームズ・クック船長の二度目の航海 14.天才の大量生産 15.子午線の庭で

John Harrisonという時計技師の伝記。背景を説明すると、18世紀には海上で経度を知ることが非常に難しく(緯度は北極星の高さを測れば済む)、経度を知る方法には懸賞金が掛かっていた。そこで、天体観測に基づく方法と正確な時計を使う方法が争っていた。天体に関しては、月と太陽などの他の天体との角度を測る事になるが、膨大な観測データが必要である。時計に関しては、最初に出発地の時間に合わせておけば、太陽時との差で経度差が分かることになるが、非常に正確な時計が必要である。ハリソンはこの賞金に時計技師として挑戦した。

というわけで、賞金がかかっているから、天文派のほうも必死なので、時計自体よりも、時計が完成した後のムダな政治的な争いが記述の大半を占める。複数の船長が価値を認めているのだから、賞金なんかより現場に売ってしまえばいいような気がするが、基本的には賞金争い(時計が海上でも正確であることを認めるか否か)の話ばかりだ。当時はもちろん機械時計だし、どうも超高級工芸品のような物で、簡単に量産できるような物ではなかったらしい。どうやって量産化したのかは詳しくは分からない。

個人的には近頃航海術に興味があり、その関連で読んだが、この本は政治劇が主で、技術的にはそれほど詳しくない。時計が好きな人にとってはジョン・ハリソンという人物は大きな所なので読む価値があるのかもしれない。結構売れた本らしく、日本語訳もあるようだが、お勧めはしない。

A story or biography of a clockmaker. The main theme is politics around getting the cash prize long after the chronometers had been well produced, not the technology itself.

HarperPerennial (2005/9/5)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0007214228

2017年4月18日火曜日

Alex Reinhart "Statistics Done Wrong: The Woefully Complete Guide" [間違った統計:悲惨なほど完全な案内]

目次:1.統計的有意性入門 2.検定力と検定力の足りない統計 3.疑似反復:データを賢く選べ 4.p値と基準率の誤り 5.有意性の間違った判断 6.データへの二度漬け 7.連続性の誤り 8.モデルの濫用 9.研究者の自由:良い兆候? 10.みんな間違える 11.データを隠すこと 12.何ができるか?

特に医学を中心に統計の誤用・誤解を論う本で、基本的に科学者・学生に向けて書かれている。統計学者の苦言みたいな話は類書も多い所だが、わたしが知る限りでは最善だと思う。分野を問わず、統計を扱う分野なら全大学生が読むべき本だ。ただ、基本的な統計学の知識はあることが前提になっている。ほとんど数学は使われていないが、たとえば、p値がどうやって算出されるかみたいな話は知っていることが前提だ。医学の知識は別に必要ではない。統計に無関係な人はいないと思うし、できれば一般人にも知ってほしいことばかり書いてあるが、ちとハードルが高いかもしれない。しかし、マスコミの統計などを疑うにしても、この程度の知識はあったほうが良い。

個人的には、医学統計という件では、健康食品の類の評価が毎年ひっくり返る件とか、コレステロール論争とかでうんざりしているのもあるが、この本のせいで、ますます信用する気がなくなった。それはそれとしても、統計学というのは非常に面白い分野だ。統計というもの自体が人間の直観に反するものなのだろう。別にこの本に書いてあることで初耳な事は少ないが、題材などは非常に面白い。統計検定1級を取るつもりだが、ますますやる気が湧く。

「ダメな統計学」ということで日本語訳も出ている。amazonの書評で翻訳に文句を言っている人もいるが、パッと見たところ、そこまで問題のある翻訳とも思えない。訳注が付きまくっているようだし、確かにかなりウザい感じはあるが、別に日本語訳でも読んでもいいと思うが…。

A must-read for all college students. There are many books on the same subject, but I guess this one is the best.

No Starch Pr (2015/3/16)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1593276201

2017年4月11日火曜日

Martyn Rady "The Habsburg Empire: A Very Short Introduction" [ハプスブルク帝国:非常に短い入門]

目次:1.王朝と帝国;称号と民 2.帝国の視野;11-16世紀 3.それぞれの王のように;16-17世紀 4.信仰のために;17-18世紀 5.啓蒙主義と反動;18-19世紀 6.フランツ・ヨーゼフの時代;19世紀 7.世界大戦と解体;20世紀

ハプスブルク家の通史と言うよりは、ハプスブルク家の当主の歴史≒ほぼヨーロッパ史の叙述になる。ハプスブルク家特有の事情は、例えばやたら顎が出ているとか少しは叙述があるが、あまりない。ハプスブルク家の家庭問題はそのまま世界史ということもあるが、あくまでハプスブルク家から見た帝国≒スペイン・神聖ローマ帝国・オーストリア・ハンガリー・その他多数の通史である。

その限りでは、ほとんどただの世界史の本みたいな感じではあるが、この本がスゴく面白いのは、著者の語り方が素晴らしいのもあるが、わたしがスペインやオーストリアの側から世界史を見ることが少なかったからだろう。著者も言っているが、歴史は勝者によって書かれるし、特に、20世紀の勝者は中央集権・単一民族(nation)・単一言語という体制を早くに作った西欧の国で、ハプスブルクみたいな多民族多宗教多言語の緩やかな連帯ではない。結局、帝国は解体されて20世紀以降、東欧・バルカン半島辺りには酷い政府がいっぱいできたし、今となっては、ハプスブルク家の頃のほうがみんな仲良くしていたし、むしろ時代を先取りしていたのではないかというようなことだ。

というわけで、英仏のような勝者から書かれた歴史を見直すのには素晴らしい本だった。ハプスブルクという名前は、日本でもそこそこ認知されているし、一時期は長崎県の一部(出島のことだろう)も支配していたと言う。ハプスブルク家的に重要でも、帝国の運営に直接関係のないことはあまり触れられない。たとえばマリー・アントワネットは名前すら出てこない。芸術面もあまり細かい叙述はないが、ヴィーンのモーツァルトとかプラハのミュシャとかは帝国の問題として触れられる。欧州の文化芸術を理解する上でもハプスブルク家の理解は必須だから、翻訳すればそこそこ売れると思うがどうか。

全く余談だが、現在、東京の国立新美術館でミュシャ展をやっていて、スラブ叙事詩が来ているらしく、近く見に行こうと思う。本書の記述によると、ナショナリズムが勃興してオーストリア=ハンガリー二重帝国がグダクダになる中、ドイツでもイタリアでもないスラブ民族という世界観を打ち出すために製作されたものらしい。多分、当時はまだチェコ人はスロバキア人とは違うとかいうところまで話が矮小化していないかったのだろう。こういう歴史背景を知っていれば、現代日本でミュシャがラッセンとかヒロヤマガタとかと並んで押し売り商材にされている件についても、独特の感慨が湧いてくるというものだ。

I found that I had been familiar with the European history only through the victors' side, id. nation states such as France and Germany. This book is very instrumental for me to see the world from the middle and the eastern Europe. Storytelling is also very impressive.

Oxford Univ Pr (2017/06)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198792963

2017年4月3日月曜日

Elizabeth Blackburn, Elissa Epel "The Telomere Effect: A Revolutionary Approach to Living Younger, Healthier, Longer" [テロメア効果:もっと若く健康的に長く生きるための革新的な方法]

目次:1.早く老いる細胞がどのようにあなたを老けて見せ、感じさせ、行動させるか 2.長いテロメアの力 3.テロメラーゼ:テロメアを補充する酵素 4.ほころび:ストレスはどのように細胞に入り込むか 5.自分のテロメアを気にしろ:否定的な考えと弾力的な考え 6.青色が灰色に変わる時:鬱と不安 7.テロメアを鍛える事:どの程度の運動が十分か 8.疲れたテロメア:疲弊から復活へ 9.テロメアは重い:健康な代謝 10.食事とテロメア:細胞の健康に最適な食事 11.テロメアを支援する場所と顔 12.妊娠:細胞の老化は子宮から始まる 13.子どもの頃は一生影響する:幼児期がどのようにテロメアに影響するか

テロメアという言葉がどれくらい一般に知られているか分からないが、要するに生物の老化を決定する細胞内の構造である。若ければ若いほど長く、歳を取ると短くなる。ただ、人によって、つまり、遺伝的・環境的な様々な原因によって、実年齢より長かったり短かったりする。というか、どちらかというとテロメアの長さこそが実年齢というべきで、これと暦年齢との差が本書の主題である。

だいたい二つの部分があり、テロメアとテロメア―ゼ(テロメアを回復させる酵素)についての判明している科学的知見と、テロメアに良い生活習慣などの説明が交互に来る。読者のかなりの部分が、後者にしか興味がないと思われるが、その件に関しては、率直に言って、特に斬新な知見もなく、"LOHAS"の一言で済むようなことだった。つまり、ストレスを管理し、たばこは吸わず、酒を控え、適度に運動し、瞑想をし、有機野菜を食べ、肉食を避け、オメガ3脂肪酸を取り、愛情のある生活をし、質の良い睡眠をとり、近所の人と仲良くし…。要するに世間で言われているようなとても意識の高い生活を推奨しているだけだが、背後にテロメアに関する疫学的な知見と、ノーベル生理学賞という説得材料が後に控えている点がこの本の売りなんだろう。

強いて世間の常識と少しずれていると思われるのは、体重自体をあまり問題にしていない点だ。体重自体より代謝とかダイエットのストレスのほうが問題であるとかいう言い分で、体重増加が代謝に関する重要な情報であることを強く言わない。もう一つ目立ったのは、特に前半でマインドフルネスを非常に重用している点で、これはDepression: A very Short Introduction"でもそうだったが、流行りなんだろう。

個人的には最後のほうのテロメアの遺伝とか胎児期~幼児期のストレスでのテロメアの損傷に関する知見がこの本の最大の収穫で、暗澹たる気持ちになったが、社会運動を別にすれば、個人が自分ではどうしようもないことである。格差社会はテロメアに及んで文字通り遺伝すらしている。世界的に売れている本らしく、日本でも「テロメア・エフェクト」という分かりにくいタイトルで訳されている。意識の高い生活をしたいが意志力が足りない人は、この本を読めば自分を説得する材料が増えるかもしれない。

All doctors recommend almost same style of life and this book is not an exception. In a word, "LOHAS". One outstanding feature of this book is a strong recommendation of "mindfulness" to control stress.

Grand Central Publishing (2017/1/3)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1455587971

2017年3月29日水曜日

Alex Roland "War and Technology: A Very Short Introduction" [戦争と技術:非常に短い入門]

目次:1.導入 2.地上戦 3.海・空・宇宙・現代の戦闘 4.技術の変化

中二感の漂うタイトルだが、実際その通りで、中学生や高校生が読んでも良さそうな内容である。この本がいう技術というのは、物理的な技術のことで、軍隊の編成とか戦術のことではない。たとえば、青銅器とかあぶみの登場とか、火薬や内燃機関がどう戦争を変えたとか、主に第二次世界大戦くらいまでの歴史を、わりと抽象的に説明している。範囲はかなり限定されていて、所謂国家間の戦争の話ばかりでテロなどの話はほとんどない。また基本的に物理的な兵器の話で、化学生物兵器の話もほとんどない。所々面白い事実もあるが、全体的には一般論だ。

VSIにしては著者の見解がわりと前に出ているが、特にサイバー戦争を大したことないと一蹴したり、核兵器にやたら好意的だったり、歴史学者は左翼的だとか、どうも賛成しかねる意見が多いし、説得力が薄い。ただ、間違いなく英語は易しいし読みやすい。一般的な世界史の知識はあった方がいいが、英語力を別にすれば、高校生または中学生でも読める内容だと思う。別に敢えてお勧めはしない。

Maybe a good book for teens.

2017年3月26日日曜日

Jan Scott, Mary Jane Tacchi "Depression: A Very Short Introduction" [鬱病:非常に短い入門]

目次:1.メランコリアの非常に短い歴史 2.現代:鬱病の診断と分類 3.鬱病のリスクがあるのは誰か? 4.鬱病のモデル 5.治療の進化 6.現在の論争と未来の方向 7.現代社会における鬱病

ほぼ目次の通り、鬱病に関する色々な方面からの解説。1,2章は歴史。3章は疫学。4章は生理学や社会学や心理学などの様々な方向からの病気の原因のモデル化の概観。5章は抗鬱剤とか行動療法とか精神分析とか様々な治療。6章はたまに話題になる「本当に抗鬱剤に効果があるのか」とか代替療法などの概観。7章は鬱病の経済的効果など。

この本を手に取る人のかなりの部分が、自分または身近に鬱の人がいるということだと思うが、序文でも断られている通り、患者サイドにはあまり実用的な本ではない。どちらかというと病院や医療行政の関係者向きだろうか。実のところ、わたしも鬱にはかなり詳しく、知識としては、この本で改めて知ったということは少ない。しかし、入門書としては、いろいろな論点を取り上げていて適切だと思う。わたしが少し驚いたのは、著者がわりとマインドフルネスに期待をかけていることだった。

あと、わりと最近言われるようになったことで、行動療法などのセラピーが脳の構造を変化させるという点は改めて考えさせられる。あと、胎児や幼児期の環境が脳・内分泌器官の成長に影響するという点も個人的に気になるところだ。当たり前だが、脳というものは常に変化していないと機能しない。英単語一つ覚えるだけでも、それに対応して脳のどこかの構造が変化しているはずだ。幼児期にストレスに晒されているとコレチゾルの分泌が強化されるとか、いかにもありそうな話だ。しかし、大人になってからでも、学習によって脳の構造を変えられるというのは勇気づけられる話。

そういうことでは、ある程度鬱病に詳しいと自負する人でも、知識をアップデートするには良いのかもしれない。もちろん、遺伝もあるが、遺伝子が環境によってONになったりOFFになったりするというのも最近言われるようになってきたことだし、特に鬱病の人には希望を与える本かもしれない。

あと、全く関係ない話だが、何年か前にVSIから"Depression"というタイトルが出るという告知があって、Amazonで予約していたら、三年ぐらい待たされた挙句キャンセルされた。改めて企画した本だと思うが、あれは何だったんだろう。

Very good reading. What surprised me was that the authors seem to have a positive opinion for "mindfulness".

Oxford Univ Pr(2017/3/3) 言語: 英語
ISBN-13: 978-0199558650

2017年3月14日火曜日

David J. Hand "Measurement: A Very Short Introduction" [測定:非常に短い入門]

目次:1.簡単な歴史 2.測定とは何か 3.物理科学と工学における測定 4.生命科学と医学と健康における測定 5.行動科学における測定 6.社会科学と経済学と商業と公共政策における測定 7.測定と理解

測定全般を薄く広く扱っているが、熱が一番あるのは知能指数や物価指数みたいな、社会科学である程度の統計解析が必要なところだ。恐らく、この辺りが著者の本領なのだろう。つまり、「長さ」や「重さ」みたいに、現実世界に確固としてあるものを正確に測定するというところではなく、測定行為自体が測定対象を構築するような分野に重点がある。統計哲学的にも面白い分野だ。

反面、「メートルの定義」みたいな理科的な話も少しあるが、内容は薄く、多分、別の本を当てるべきなんだろう。また、工業的な意味での測定・測量や、品質管理で問題になるような測定などにはほとんど触れられていない。基本的には社会科学の分野で測定という行為にまつわるあれこれを論じている部分が熱い。

例えば、世界の大学のランキングみたいな話は定期的に話題になるが、一体大学の性能をどうやって測定しているのか。もちろん、様々な指標を組み合わせて適当に算出しているが、指標を設定自体が測定対象を歪めるということがある。たとえば、指標のために大学を最適化する動機が作用するし、単純なインチキ、たとえば燃費不正計測みたいなこともある。

わたしが特に面白いと思ったのはその辺りだが、誰が読んでもそれぞれ面白い部分を拾えると思う。個々の分野については物足りない部分もあるが、全体的に読みやすい。

A good reading. The best part of this book deals with measurements in social sciences.

2017年3月2日木曜日

Deryle Lonsdale, Yvon Le Bras "A Frequency Dictionary of French: Core Vocabulary for Learners" (Routledge Frequency Dictionaries) [フランス語頻度辞典: 学習者のための語彙]

基本的には、フランス語単語を使われている順に5000語並べ、意味と例文を付けたもの。学習用で、アルファベット索引などもあるが、基本的には先頭から順に読んでいくもので、時々コラムなども入っている。

外国語は何語でもそうだが、基本的な文法を抑えれば、結局は語彙量の問題になる。暗記力のある人はそれを最大限活用して単語カードでも何でも使ってとにかく語彙を増やすことだ。わたしは不幸にして暗記力がないが、それでも何とかしたいと思っていて、この本はちょうど良いかと思った。コーパスが適切かどうかという問題はあるとしても、とにかく頻度順なのだから、それなりにやる気が湧く。フランス語の頻度順の単語集はこれくらいしかないし、出版社がラウトレッジというのも良い。

で、わたしが一通り読んだ感じでは、だいたい納得できる単語が並んでいるような気はする。もちろん、初歩的な教科書には出てくるが、コーパスには頻度が低いような単語もあるし、その逆もある。あと、新聞なども含まれているのか、時代を感じさせる単語もあり。例文を理解する能力を考えて、多分、仏検二級くらいのレベルの時に読めばちょうどいいかもしれない。とにかく、誰かが何の基準で決めたのか分からないような単語集より、ともかくも客観的な統計に基づいて決められた単語を覚えるほうが、やる気も湧く。人によっては主題別の単語集や語源別に覚えたりするほうが良いかもしれないが、頻度順も一つの選択肢だし、わたしみたいに自分の語彙力を確認しつつ足りない語彙を補うようにも使える。

If you want a frequency dicitonary of French, you do not have too much choice.

Routledge(2009/3/26)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0415775304

2017年2月27日月曜日

Dan Roam "Draw to Win: A Crash Course on How to Lead, Sell, and Innovate With Your Visual Mind" [勝つために描く:視覚的知性によって導き、売り、革新するための特訓コース]

目次:1生活が懸かっているように描く 2最も良い絵を描く人が勝つ 3まず円を書いて名前をつけよう 4目を導けば頭はついてくる 5「誰」から始めよう 6導くためには目的地を描く 7売るためには一緒に描く 8革新するためには世界をさかさまに描く 9訓練するためには物語を描く 10分からない時は描く

要するにビジネスの場で「もっと絵を使え」という本。絵と言ってもイラストまで行かず、「図解」くらいだろうか。あくまでビジネスだから「描くことは芸術ではなく思考である」ということで通している。絵の具体的な描き方としては、棒人間の描き方が少し載っているくらいで、別にこの本を読んでも絵自体が上達することはない。というか、この本が要求する程度の絵(図)は、教えられなくて誰でも描ける。

では、この本に何が書いてあるかというと、前半に視覚の重要性を解いているほか、後半は、そこらの安いビジネス書に書いてあることと大して変わらない。ただ一点、何かと「絵(図)を描け」ということを強く訴えている点が違う。昔、「人生がときめく片づけの魔法」というベストセラーがあって、わたしも感心したけど、あの本も、具体的な片づけ方の方法という意味では他の本と大して違うことは書いていない。ただ、「片づけよう」と思わせる力がスゴかった。それと同じで、この本についても、この本が言っている絵の描き方はとても簡単なことだが、実践している人は非常に少ない。そして、スゴくやる気にさせる。

絵が多くて非常に読みやすい本でもあるし、ビジネス・仕事術・プレゼン術みたいなことに興味のある人は読んで損はないと思う。わたしとしては、普段は絵も描かないし、こんなビジネス書には手も伸ばさないが、なんか妙に魅かれるものがあって手を伸ばして、正解だった。以来、何かと絵を描くようにするようになって、まあ、それでもなかなかクリアできない問題もあるが、少し視野が開けた気もする。

After having read this book, I have been drawing diagrams everyday. I hope it help me to get out of the troublesome situation that I am now in.

Portfolio (2016/9/13)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0399562990

2017年2月19日日曜日

Madeline Y. Hsu "Asian American History: A Very Short Introduction" [アジア系アメリカ人の歴史:非常に短い入門]

目次:1.帝国と移民 2.人種とアメリカの共和制 3.周縁で生きること 4.戦争の試練 5.帝国主義と移民と資本主義

主題はタイトルの通り。特に戦前までは中国人・フィリピン人のほか日本人がほぼ主役と言って良い。特に戦前はアメリカも人種差別が酷く、日本からの移民にとってもなかなか苦難の歴史で、日本人は全員読んでいいくらいの話かもしれない。この件については、高校の歴史の教科書でも記述が足りないところだ。というのも、当時のアメリカを含む人種差別の酷さは、それが主たる原因とは言えないかもしれないが、日本が太平洋戦争を始める一つの理由にも挙げられるし、日本人が知らなくていい話ではない。

この本はトランプ政権が誕生するわずか前に出たので、それ以降のことは触れられていない。一通り騒動が収まって数年後くらいには第二版で追記されることになるのかもしれない。現状では、日本政府は、アメリカの入国規制について「国内問題である」としてコメントを控えているようなことで、それも仕方がないかもしれないが、この本を読めば、戦前の日本政府が人種差別については強く抗議していたのと比較できる。当時は有色人種の国で国際的に発言権があったのが日本くらいなので、国際連盟とかの歴史を紐解けば、そういう日本の闘いももっと明らかになるが、この件はとにかく現代日本人に知られていない。

個人的には実はUCLAに所蔵されている日本人収容所の記録文書類を調べたことがあり、その時は収容所内部の生活を見ていただけだったが、こういう広い視野から見るのはとても大切なことだ。この本で扱われているのは「アジア人」というくくりだが、実際には、日本人のほか、中国・朝鮮・インド・フィリピン・ベトナムその他で、みんなそれぞれ出身国の関係もあり、状況が異なる。ただ、アメリカ人はセンサスを始め「アジア人」としか認識していないこともあるし、日本人は、かなりの割合を占める。現状のトランプ政権の移民政策を論じるなら、こういう過去のアメリカの移民政策の歴史、そして日本政府の対応も知っておくべきだろう。少し英語が難しいところもあるので、翻訳で広く日本人に届けばいいと思うのだが。

This book put the Trump's border control policies into the perspective.

Oxford Univ Pr(2016/12/7)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0190219765

2017年2月10日金曜日

Apa Editors "Berlitz Hide This Spanish Book For Lovers" [ベルリッツ恋人のためのスペイン語の本]

早い話が恋人のためのフランス語の本のスペイン語版で、男女が知り合ってセックスしてからお付き合いするまでに必要なフレーズ集。例によって装丁からお洒落だから、特に女性はお持ちになられては如何か。バレンタインの贈り物に最適とかなんとか。

ただ、個人的な話だが、ドイツ語を勉強しているという30代女性を拙いドイツ語で飲みに誘おうとする50代男性を目撃したことを、ふと思い出した。美男美女なら成り立つんだろうが。

Not very practical for me, though it can be useful for handsome guys or sexy girls who do not need to talk much. Ideal for Valentine's gift maybe.

Hide This(2006/1/30)
言語: 英語
ISBN-13: 978-9812468482

2017年2月8日水曜日

Pénélope Bagieu "Cadavre exquis" [たえなる屍]

タイトルはシュルレアリスム用語らしいが、内容との関係が分からない。主人公は22歳の女の子で、日本で言えば、キャンペーンガールというところだろうか。なかなか大変なお仕事だ。失業者の彼と同棲しているが、毎日詰まらなそうな感じである。ある日、とあるアパートでトイレを借りたところ、住人が孤独な有名作家で、彼といい感じになって彼に乗り換えることになる。そこに元妻とかいう編集者が現れて、ここまでは普通に有り得る話だが、この作家、実はかなりのわけあり人物で…。

わたしとしては、この作者の絵が好きだし、読んでいて楽しかったが、一般論としては、まず「なんやねんこの終わり方」という読後の感想だ。こういう佐村河内的なことが実際に可能かという話は別としよう。そして道徳的にどこうみたいな野暮なことは言わないことにしよう。それにしても、最後の終わり方は、流れ的に不自然過ぎて、わたしとしては付いていけない。特に主人公が突然別人になっており、伏線はあるものの、弱すぎる。変貌するならもう少し頁数が欲しかった。ただまあ、わたしが鈍いだけでこれで成り立っていると思う人もいるのかもしれないし、少なくとも大半は面白くて一気に読んでしまったから、お勧めできないわけではない。ただ、わたしなら、この作者ならジョゼフィーヌとかのが最初に読むには良いと思う。

Juste un seul problème: je ne comprends pas les transformations des deux héroïnes. Je ne suis pas assez délicat, comme notre écrivain peut-être?

Folio (27 octobre 2011)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2070444953

2017年2月7日火曜日

Berlitz Publishing "Hide This French Book for Lovers" [恋人のためのフランス語の本]

簡単に言うと、特にセックスとその前後のためのフランス語フレーズ集。男女は問わない。流れとしては、どっかのバーで知り合う→セックス→付き合う→結婚→妊娠→離婚みたいなことらしい。フレーズの量は大したことがないが、イラストも装丁もお洒落で、フランス人あるいは双方共フランス語を話せる恋人のベッドルームに置いておくとロマンチックかも知れない。差し当たりわたしには用のない本のようなものの、読んでいて心が和むし、これはこれで言語の一分野であり、勉強になる。

全くの余談だが、昔、フランス語の勉強をしようとしてフランス映画を見ようとしたところ、字幕付きで安く手に入るのがポルノ映画ばかりで、まあお洒落なんだろうと思って見始めたところ、確かにお洒落ではあるが、コトの性質上、ほとんど会話がなかった。性交シーンは基本的に音楽が流れているだけだし、そうでないシーンでも、よくて主人公の女の独白が少々ある程度で、ほとんど勉強にならない。考えたら当り前のことで、外国語の最高の上達法は、外国語を話す恋人を作ることだとよく言われるが、単にセックスに必要な外国語力なんか、この本程度のことかもしれない。フランス語を学び始めて数か月も経てば、この本は読めるだろう。

A cute book for the bedroom, if you both speak a little French.

Hide This (2006/11)
言語: 英語
ISBN-13: 978-9812469793

2017年1月24日火曜日

Stéphane Escafre " 1064 exercices pour bien débuter aux échecs" [チェスを始めるための1064問]

目次:1.ゲームの規則 2.チェックメイト 3.チェックメイトの方式 4.戦術兵器 5.序盤 6.終盤 7.チェックメイトの攻撃 8.訓練 9.チャンピオンのように指してください 10. 面白い九つの練習

チェスの最善の入門書は"Bobby Fischer teaches chess"だし、ルールを知らない人がこの本から始めるのはあまりお勧めしないが、二冊目くらいにちょうどいいかもしれない。最初の内はルールを説明しているが、最終的には3手メイトとかが普通になってくる。人によってはチェス盤を用意する必要が出てくるかもしれないが、わたしは全部頭の中で解けた。いくつか誤りもあったが、致命的ではない。それよりも印刷の見易さが勝っている。フランス語だが、仮にフランス語が全く読めない人が読んでも、棋譜さえ読めば、たいてい理解できそうだ。

わたしの理解では、チェスにはstructure[戦型]とcombination[読み]の二つの面があるが、この本は大半が後者の面に関するもので、これもFischer本と共通だ。そもそもどんな攻撃やチェックメイトがあるのか分からなければ危険な形も強い形も分からないし、妥当なところだろう。この点、日本語のチェスの本はやたらマニアックなオープニングの研究書ばかりのイメージがあり、強くなりたければ、あるいは楽しみたければ、洋書を読むのは避けられないだろう。日本で一向にチェスが普及しない原因はもちろんあれこれあるわけだが、一つには、こういう優れた書籍が全く翻訳されないことにある。幸いにして日本では、チェスはムダにお洒落なイメージを持たれており、潜在的な需要は大きい。この本はフランスチェス連盟推薦書であり、幾つかの誤りを訂正しつつ翻訳すれば、チェスを指さない人でも将棋ファンには受けるだろうし、学校などを考えれば短期に一万部は行くだろうし、長く売れると思うんだがなあ。本当に、翻訳したい本の一つだ。

Le meilleur livre, pour lire après le Bobby Fischer.

Olibris (2001/1/5)
言語: フランス語
ISBN-13: 978-2916340500

Bobby Fischer, Stuart Margulies, Donn Mosenfelder "Bobby Fischer Teaches Chess" [ボビー・フィッシャーがチェスを教える]

この重要な本を紹介していなかった。説明不要でチェスの最善の入門書であり、これはわたしの個人的な意見ではなく、チェス界の総意に近いだろう。これ以上説明が必要とは思えない。

THE best introductory chess book. A must read for beginners. Period.

Ishi Press (2010/2/4)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0923891602

2017年1月16日月曜日

Arvind Narayanan, Joseph Bonneau, Edward Felten, Andrew Miller, Steven Goldfeder "Bitcoin and Cryptocurrency Technologies: A Comprehensive Introduction" [ビットコインと暗号通貨技術:包括的入門]

目次:1. 暗号理論と暗号通貨の入門 2.ビットコインはどのように脱中央化を達成するか 3.ビットコインの機構 4.どのようにビットコインを保管し使うか 5.ビットコインの採掘 6.ビットコインと匿名性 7.コミュニティと政策と規制 8.代替採掘パズル 9.プラットフォームとしてのビットコイン 10.アルトコインと暗号通貨の生態系 11.脱中央化された機関‐ビットコインの未来? 結論

全くタイトル通りの本でビットコインをブロックチェーンのアルゴリズム水準から社会的な問題に至るまで包括的に解説している。ビジネスマン向けのビットコインの入門書はコアになる技術について曖昧で意味が分からないし、かといって、いきなり実際のマイニングのコードを解説されても意図が分からないというようなことがある。この本はちょうど良く、かつ包括的だ。

というわけなので、コンピュータサイエンスの素養のないただのビジネスマンには、おそらくほとんど読めないのではないかと思う。基礎的なことから解説してあるとはいえ、公開鍵暗号やハッシュ関数に馴染みのない人には、かなり読みにくいと思う。通常の電子署名を理解している人なら、恐らく問題ない。わたしとしては、特に前半はまだるっこしい所もあったが、それだけ良心的に書いてあるということだろう。日本語訳「仮想通貨の教科書」という、これもまた適切なタイトルの訳書も出ているし、ある程度の基礎知識のある人には理想的な教科書だ。もちろん、これ一冊では細部まで届かないが、参考文献もしっかり指示されているから、いくらでも深められる。

それはそれとして、この本でビットコインを学んだわたしの感想としては、とりあえずビットコインを買う気にはなれない…。ビットコインはいわゆるサイバーパンクから生まれており、非常にアナーキーな思想から出発している。この本はバランスを取るために、実世界の権力(=国家権力)の介入もある程度考察しているが、それでもまだ国家権力を過小評価しているような気がする。現時点では、ビットコインは伝統通貨と交換可能だから価値を持っているようなもので、仮に交換が禁止された時に、伝統通貨のほうが見放される事態になることは考えにくい。詳しくはこの本で学べば分かるが、現行のビットコインには、決済速度の他にも、内部的な制約もかなりあり、冷静に判断するためには、ある程度技術的な詳細も学んでおくべきだろう。

ただ、現実的な話はともかく、暗号通貨を作るという実験は、それ自体面白いのは確かだ。わたしとしては、金に物を言わせて強力なハッシュパワーを保持している匿名のマイニングプールを信用するより、ともかくも民主的に現実世界の暴力を独占している国家を信用したほうが、(現状では)マシな気がするが、もちろん、暗号コミュニティは単に現状を追認するのではなく理想を追求しているのであり、それはそれで敬意を払いたい。わたしも本質的には自由と匿名の価値を重んじるほうだ。色々考える事はあるが、その出発点として素晴らしい本だった。

This book does what the title says. It was a great experience.