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2026年5月21日木曜日

Rob Boddice "Pain: A Very Short Introduction" [痛み:非常に短い入門]

Pain (Amazon.co.jp)

目次:1. 痛みの概念 2. 痛みと敬虔さ 3. 痛みと機械 4. 痛みと文明 5. 同情と思いやりと共感 6. 喜びとしての痛み 7. 現代医学と科学の中の痛み 8. 慢性的な痛み 9. 痛みの分化

麻酔については、かなり前に読んだAiden O'donnell "Anaesthesia: A Very Short Introduction"のほうが遥かに詳細である。本書"Pain"については、著者は歴史学者らしく、医学的記述や哲学的考察はほとんどない。西欧における痛みの文化誌というところ。だいたい想像がつくが、古代ギリシアとか、キリスト教とか、文化的社会的偏見とか…。まあ、痛みというものに対して抱いている観念を相対化するのには役立つのかもしれない。個人的にはあまりこの類の博物誌に感心しないのだが、時々面白い話もある。

特にわたしが注目する点としては、この本は一貫して心の痛みと体の痛みという二分法を拒否している。もう少し詳しく書いてほしいところだったが、単なる痛覚と簡単に言うが、想像以上に上位精神とか文化との相互作用があるらしい。一体、痛みとは、脳へのインプットなのか、脳からのアウトプットなのか。最近、アメリカでプラセボの鎮痛効果が向上しているが、プラセボに勝たないと新しい鎮痛薬は出せない。このため新しい鎮痛薬はほとんど市場に出てこない云々。こういう面白そうな論点はところどころあるのだが、全く表面的にしか記述されないのが残念だ。

しかし、こういうところが気になるのはわたしの趣味であって、社会史とか文化誌に興味の中心のある人たちはまた興味の中心が違うんだろう。ここまで色々な本を読んできて、そういうこともようやく分かってきた。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ Pr

発売日 ‏ : ‎ 2017/10/1

言語 ‏ : ‎ 英語

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198738565

2026年5月5日火曜日

Jennifer M. Gidley "The Future: A Very Short Introduction" [未来:非常に短い入門]

 The Future (Amazon.co.jp)

目次:1. 未来の3000年 2. 増える未来 3. 未来研究学界の進化 4. 水晶玉と空飛ぶ車とロボット 5. 技術世界か人間中心の未来か 6. 大規模な地球の未来の課題

半分くらいは未来学の歴史というか、昔の人の考えた未来みたいなことと、その考察。残り半分は現在の未来学の中身という感じ。この分野について詳しくないが、多分、この分野については標準的な教科書みたいに扱えるぽい。

未来学というのは特に今時の日本で流行らない。時々SF作家の集会とか賢人会議的なもので断片的にニュースがあるようなくらいで、それ以上詳しく見る機会がない。そもそも喫緊の課題がいくらでもあるし、結局目の前にあることしかできないし、結局予測は外れる。時々こういう超長期展望を話す人がいても、結局ふわふわした話しか出てこないのはこの本も同じだ。未来と言っても色んな分野があるが、各個別分野についてはあまり具体性がないというか、そもそも専門知識も薄いんだろう。想像とかフィクションが好きな人は楽しいかもしれないが、具体的な話が好きならビジネス書のコーナーに行ったほうがいいかもしれない。

まあそれでも、未来に人が何を投影しているのかとか、そこから何が読めるかという話なら色々ありそうだが、その方面も薄い。わたしの趣味からすると漠然過ぎる話だった。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ Pr

発売日 ‏ : ‎ 2017/6/1

言語 ‏ : ‎ 英語

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198735281

2026年5月1日金曜日

Jack A. Goldstone "Revolutions: A Very Short Introduction" [革命:非常に短い入門]

Revolutions (Amazon.co.jp)

目次:1. 革命とは何か 2. 何が革命を引き起こすのか 3. 革命の過程と指導者と結果 4. 古代世界の革命 5. ルネサンスと宗教改革の革命 6. 立憲革命:アメリカとフランスと欧州(1830と1848)と明治日本 7. 共産主義革命:ロシアと中国とキューバ 8. 独裁者に対する革命:メキシコとニカラグアとイラン 9. カラー革命:フィリピンと東欧とソ連とウクライナ 10. 2011年アラブ革命:チュニジアとエジプトとシリアとイエメン 11. 最近と未来の革命

最初に革命にありがちなパターンが述べられているが、本書の本体は世界史の教科書から革命の部分を抜き出したような話。いろいろな革命がコンパクトに叙述されている。VSIの一つのパターンで、こういうのでわたしの世界史の知識が堆積していったところがある。特に斬新な話はないが、世界史の復習をしたい人、または何らかの理由で革命自体に興味がある人が読む本という感じ。日本で言えば歴史の好きな高校生くらいかもしれない。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ Pr

発売日 ‏ : ‎ 2023/12/1

言語 ‏ : ‎ 英語

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0197666302

Thomas Dixon "The History of Emotions: A Very Short Introduction" [感情の歴史:非常に短い入門]

The History of Emotions (Amazon.co.jp)

1. 過去の鼓動 2. 悲しみの地図 3. 情念から絵文字へ 4. 恐怖と幸福の追求 5. すべての激昂 6. 愛を求めて

読書人のための読み物という感じだが、まずこの本を貫いているのは「過去の人や異文化の人に現代人の感情を当てはめていいとは思えない」という考えだ。かなり最近になってから流行りだした考え方で、感情が社会的構築物、教育によってインストールされるものという話の流れだ。

で、色々な最近の理論や、著者の専門である西洋の歴史からの様々なエピソードが紹介されたりする感じ。一つ一つの論評は面白いのだが、どうもわたしに刺さらないというのは、一つには結局のところ昔の人の感情を追体験するのが不可能でよくわからないからだろう。ので、個別例が積み上げられてもどうも「読み物」という感想にしかならない。あまり詳しくない人には、「この状況で持つべき感情はこう」みたいな固定観念が相対化されるかもしれない。

感情をいくつかの「基本感情」みたいなものとその混合として判別しようとする試みもあるが、多分、ホルモン的なレベルでも成功していない。極端な行動主義は研究放棄に過ぎない。ただ今のところ間違いないのは、感情が社会的構築物で、それが生理までかなり支配してしまうということくらいだろう。

個人的に、特にマンガ「キングダム」を読んでいてうんざりしたのは、現代日本の正社員みたいな価値観や思考を紀元前の中国人に投影し過ぎというだけでなく、「昔の中国人がその状況でその感情を持っただろうか」という疑問がありすぎて、あまり読む気がなくなった。

あと、わたしは感情がない人間みたいに思われがちだが、実際には感情がないわけでなく、ただ現代の常識的な日本人が想定する感情体系とかなりずれているんだろうなという気は常にしている。いろいろ思うことがあるが、この分野の進展待ちという感じ。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ Pr1

発売日 ‏ : ‎ 2023/8/25

言語 ‏ : ‎ 英語

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198818298

2026年4月30日木曜日

Martin Hewitt "The Victorians: A Very Short Introduction" [ヴィクトリア朝人:非常に短い入門]

The Victorians (Amazon.co.jp)

目次:1. 一般化の課題 2. ヴィクトリア朝人とともに生きる 3. 時代としてのヴィクトリア朝 4. ヴィクトリアニズム 5. ヴィクトリア朝の状況 6. 有名なヴィクトリア朝人とそれほど有名でないヴィクトリア朝人 7. ヴィクトリア朝の世界

この本を読もうと思うためには、まずヴィクトリア朝(1837〜1901)という言葉に反応する必要があるが、そういう人は案外多いような気もする。これは大英帝国の最盛期と言っていいんだろう。長さが全然違うが、日本なら大正時代(1912年〜1926)に妙なロマンがあるのに感覚が近い。ヴィクトリア朝英国という言葉から何を思い浮かべるかは人によって違うと思うが、わたしなら、まず「ジョジョの奇妙な冒険」第一部とSherlock Holmesに描かれる世界であり、William Morrisのデザインだ。人によってはDickensとかAlice in WonderlandとかOscar WildeとかDr. Jeykill and Mr. Hydeとか、挙げ始めたらきりがない。

なので、ヴィクトリア朝という言葉に反応しなくても、ヴィクトリア朝の有名人を列挙された時にイメージが湧くことは十分に考えられる。例えば物理学なら、ファラデーとかマクスウェルとかケルヴィンとか言われると、途端に何か見えてこないだろうか。児童文学でも黄金時代なので、好きな人は無意識にヴィクトリア朝の価値観に染まっている可能性がある。等々。

といっても、別にこの本は個別の人物にフォーカスはない。そういう人々が生きていた時代の文化社会風潮をわりと漠然と描いているようなことだ。吸血鬼とか切り裂きジャックの世界観を理解するためには良い本かもしれない。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ Pr

発売日 ‏ : ‎ 2023/11/24

言語 ‏ : ‎ 英語

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198736813

2026年4月29日水曜日

Antoinette Burton "Gender History: A Very Short Introduction" [ジェンダー史:非常に短い入門]

Gender History (Amazon.co.jp)

ジェンダー史というよりジェンダー史史というべき。VSIはたいてい序盤にその学術分野の歴史が振り返られるが、この本については最後までその調子で、ジェンダー史の具体例は薄い。

それも分からなくはないというのは、最近、そもそも歴史というジャンルが何なのかと思うからだ。わたしの考える大雑把な世界観では、まず事実、次にそれを反映した史料があり、歴史家はその上で真相を暴いていくのか物語を作っていくのか。どちらにしろ、「単に面白い」ということもあると思うが、「現在の政治に影響を与えよう」という意図もありえるところだ。

で、ジェンダー史という分野が後者に傾きがちなのは別にいいとして、この本の主題はそれそのものというより、「ジェンダー史という分野の存立自体についての政治学」みたいなことになる。それも主に一般社会・政治からの賛否というより、学者同士の抗争みたいな歴史で、かなりこの分野にコミットしている人にしか価値の分かりにくい本である。

たとえば女性史がジェンダー史に進化したとかいう単調な世界観をこの本は拒否するが、しかし他の人種やマイノリティ問題とかと統合されたり離反したり、複雑なことだ。結局のところ、歴史自体が歴史的産物であり、当時と違う価値観で過去を眺めれば、どんどん歴史も変わっていくのだろう。変わった結果の歴史について書いた本ではなく、その変化の試みの歴史という。どのみちマニアックな本であった。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ Pr

発売日 ‏ : ‎ 2024/7/1

言語 ‏ : ‎ 英語

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0197587010

2026年4月28日火曜日

Dane Kennedy "Decolonization: A Very Short Introduction" [脱植民地化:非常に短い入門]

Decolonization (Amazon.co.jp)

目次: 1. 脱植民地化の波 2. 世界の戦争の植民地への帰結 3. 無秩序化する世界と再秩序化 4. 民族国家の問題 5. 帝国の継続性と忘却の政治学

ほぼ全世界を取り扱っており、世界史の復習という感じ。戦争ばかりなのでうんざりするが、特に変なことは書いていないと思う。わたしは学校で真面目に世界史の勉強をしていないので、こういう本の積み重ねで世界史の知識が構成されている。

普通、脱植民地化というと、第二次大戦後の世界各地のドタバタを言い、この本でもその部分は大きな面積を占めるが、それがすべてではない。この本の構成としては、第一波:アメリカ・ハイチの独立から始まる南北アメリカの独立。第二波:第一次世界大戦後の中東欧。第三波:第二次大戦後。第四波:ソ連邦崩壊ということになっている。

日本も植民地を持っていた側なので、日本の記述も相当あるが、世界レベルで見れば小さい。むしろ欧米列強が東アジアに持っていた植民地をぶち壊してしまったニュアンスが強いのは、そもそもこの本がイギリスの本なので当然ではある。特に斬新な洞察などがあるわけではないが、イギリス的には、イギリスの植民地からの撤退がそんなスムーズでなかった、というのが一つの論点らしい。こういう本は、そもそも「怒りたい人」が読みがちだが、普通に世界史の復習として有効だ。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ Pr

発売日 ‏ : ‎ 2016/5/2

言語 ‏ : ‎ 英語

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0199340491

2026年2月11日水曜日

Dana Villa "Hannah Arendt: A Very Short Introduction" [ハンナ・アーレント:非常に短い入門]

Hannah Arendt (Amazon.co.jp)

目次: 1. 暗黒時代の生活 2. 全体主義の本質と起源 3. 政治的自由と政治的領域と活動的生活 4. 革命と憲法と「社会の問題」 5. 判断と思考と意志

ハンナ・アーレント(1906-1975)という名を知っているのは政治学か社会学を勉強した人間くらいだろうか。この本は良い本だと思うが、英文は読みにくい。それでもArendtの元の英文よりはマシだと思うが。思想の紹介の仕方自体が何か弁証法的だ。

些細なきっかけでアイヒマン裁判の話を思い出してアーレントの考え方を再確認したくなった(第五章)。しかし、正直言うと、時代がかっている気がした。どうも第二次世界大戦前後の思想家というのは、歴史上の人物というには近すぎるし、その割に今の時代の思考の枠組みというか土台にかなりズレがある。例えば、アイヒマンの件については、今時は、個人の倫理観に絶望する時代は通過して、制度の問題に焦点があるんじゃないかな。某国が国内の某民族に対してナチスと大して変わらないことをしていることについて問題になっても、倫理観に訴えても何も起こらないのが実態としてある。

何でもない普通の人、しかも別に洗脳されたというほど思想に染まっていない、単なる無思想な人間が民族浄化に加担する。解決策として哲学が有効だろうか。そんな感じになっているのも、アーレントの寄与があってのことかもしれないが。

Oxford Univ Pr
 ‎2023/4/26
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198806981

2026年1月11日日曜日

Samuel Helfont "The Iraq Wars: A Very Short Introduction" [イラク戦争:非常に短い入門]

 The Iraq Wars: A Very Short Introduction (Amazon.co.jp)

目次:1. 序:アメリカとイラクとイランイラク戦争 2. 湾岸危機1990-91 3. 制裁と査察と紛争1991-2000 4. イラク侵攻2003 5. 抵抗と内戦と反乱と鎮圧 6. ISISとアメリカのイラクへの帰還 7. 結論

微妙に同時代史と言えるような時代を取り扱っているが、微妙に知っているような気になってしまっている案件で、こういう本で一旦整理するのは良い。意外と誤解や「その後判明した真実」などもあった。サダム・フセインは実際に大量破壊兵器を持っていたが、あまりに露骨にウソをついたり査察を拒否した上にこっそり廃棄していたから、廃棄した証拠も出せず、大量破壊兵器を差し出すこともできなかった云々。しかしどのみち残虐な圧制だったから排除して良かったんだろう…と思うと、それまで潜んでいたセクトが内戦を始めてまた無辜の市民が云々。

基本的に戦争の話である上に、国家と民族と部族と宗教が入り組んでいてうんざりする。それでもかなり単純化していくれているはずだが…。しかしこれも現実だから仕方がない。最近は米軍がベネズエラの大統領を誘拐して、あれもまあとんでもない独裁者でベネズエラ国民歓喜というところだが、大統領のみを除去してどうなるんだろうか。そんな作戦になるのもイラクでの泥沼の教訓を活かしているのだろう。いくら極悪非道な政府でも、その国の統治方法を知っているのはそいつらだけなのだ。

というようなことで、イラク戦争は一応たいていの文書記録も出ているところなので、この辺りを学習すれば現在進行中の話の理解も深まるということである。トランプ大統領がベネズエラ国民の自由と民主主義のために戦うわけがない。アメリカにとってどうでも良ければソマリアみたいにさっさと撤収してしまうに決まっている。そのうちウクライナからも撤収するが、イラクやベネズエラは放置しているとアメリカに実害がある。台湾がどっちなのか明白だが、トランプ大統領がどう考えるか分からない。一度イラク戦争を見直すのも良いかもしれない。

Oxford Univ Pr (2025/10/15)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0197753637

2025年4月16日水曜日

Philip Dwyer "Violence: A Very Short Introduction" [暴力:非常に短い入門]

Violence (Amazon.c.jp)

Amazonのレビューに一つ酷評がついているが、全く同感だ。これまで大量にVSIシリーズを読んできたが、VSIに限らず、このブログの中でも屈指のダメ本だろう。

内容は、例によって最初に定義みたいな話はあるが、結局曖昧なまま進む。あとは特に近代以降の、社会問題化したような古今東西の暴力(戦争~残虐刑~DVを含む)を断罪陳列しているだけ。定義について曖昧にしたまま、著者の倫理観的に許されない暴力の事例が並べられているだけだ。

例えば、警察官が犯罪者を取り押さえたりするような場合や、子供同士のケンカなどは取り上げられもしない。植民地支配は暴力だが、それに対する反乱は暴力ではないらしい。死刑は暴力だが懲役は暴力ではないらしい。そういう定義ならそれで全く構わないが、それならその点ははっきりさせるべきだろう。

この本はVSIでたまにある「断罪系」なんだけど、本当にそれ以外に内容がほとんどない。こういう話なら、

・暴力の生物学的起原
・暴力の心理学的メカニズム
・国家による合法的暴力の独占の変遷
・暴力のコントロール方法
・暴力を制圧するための暴力
・…

など、色々な興味深い論点があるはずだが、ほぼ問題にされていない。せめて聞いたことのない事例が多く紹介されていれば世界史の勉強になったり、人によっては猟奇的ホラー的興味の対象になるかもしれないが、ほぼ聞いたことのある話だ。

まだまだ文句は言えるし、実際に書きもしたが、長くなるので消した。著者について少し調べたら、歴史の専門家で、生物学・心理学・社会学・哲学みたいな要素はない。歴史の特定の分野では権威なんだろう。

Oxford Univ Pr (2022/6/24)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198831730

2025年3月12日水曜日

Natalie Labriola "Tarot: Timeless Secrets of the Ancient Mirror" [タロット:古代の鏡の永遠の秘密]

Tarot (Amazon.co.jp)

わたしにとってTarotは流行らないゲームだが、これはゲームではなく、占いで重視されるMajor Arcana 22枚の解説が主。フランス語圏と違って英語圏ではライダーウェイト版という権威があり、カードがわりと統一されている。

どのみちそんなに歴史のあるものでもないし、本質的にゲームカードなので、いくらでも想像は膨らむし適当なことも無限に言えるが、こういうのも社会情勢とか文化が反映される。そういうことではイルミナティカードのほうが面白い気もする。

たまに易経とか読むこともあるが、占いという作業も面白いのかもしれない。将来の展望や行動を考える時に、机の上に客観的なデータだけでなく、全くランダムなタロットや筮竹があったら考察が捗るのだろうか。全くあり得ない話でもない気がしてきた。というか、気が付いていないだけで、我々の思考は実は常にそんなものなのかもしれない。我々の思考は、体調や天候や場所や最近の出来事や、要するに多数の偶然に影響されているわけで、それにタロットを追加しても結果に大差はなく、むしろ考えやすいまであり得る。というか、それ以外に思考の方法があるのだろうか。

Wooden Books (2024/6/1)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155505

2025年3月3日月曜日

Christian Jacq, Institut Ramsès "Le Petit Champollion illustré - Les hiéroglyphes à la portée de tous" [図解小シャンポリオン-みんなのヒエログリフ]

ヒエログリフの入門書。図解というのは、まあそもそもヒエログリフが図解ということかもしれない。入門と言っても、実際には文字集・単語集みたいな感じで、筆者のエッセイのようなものが綴られている。どこまでがエジプト学的に確定している事実で、どこからが筆者の感想なのか分かりにくい。面白いから売れているようだが。例えば中国語でいえば、漢字と熟語についての成り立ちを面白く解説しているようなもの、と言えばほぼ正確にこの本の実態を表しているだろう。文法とかそんな話はほとんどない。発音も結局は古代ギリシア語からの推測でしかなく、あまり真剣に考えても仕方がない。そもそもセム語とかその辺りの言語は母音を書かない。

ということで古代エジプト語を真剣に勉強するというような本ではない。一応練習問題とかもついていたりするが、気楽な読み物と考えるべきだろう。しかし、時々真剣に興味深い話もある。ちょっと記録しておこう。

ヒエログリフは基本的に象形文字を組み合わせて意味を表すが、音写もできるし、併用することもできる。フランス人に対してこの事態を説明するのは面倒だが、漢字と同じことなので我々には何の問題もない。で、アルファベット的にヒエログリフを並べた時にAに相当するのが𓄿だが、そもそもヒエログリフに母音を書く習慣はなく、これは実際には「子音のA」である。

我々は「子音のI(Y)」や「子音のU(W)」は知っているが、「子音のA」は知らない。本書にもそれ以上説明がないが、ヘブライ語のℵと同じで声門閉鎖音を表す。ドイツ語は単語の先頭の母音が無意識に必ずこの音になっており、したがって"Es ist ein...."みたいな文があったとしても単語がくっついて発音されることはない。アメリカ人でもappleて発音してみ、と言えば最初のappleの前に無意識に𓄿が入ることが多いようだ。というか、日本人でも「𓄿えっ!」と驚く時に入る人のほうが多いような気がする。しかしこれらの例では𓄿が入っても入らなくても言葉の意味は変わらないし、誰も気が付かないくらいかもしれないが、セム語では意味が変わってしまうのだろう。

読んでいるとこんなことも色々考える。あと、これはこの本がフランス語だから筆者も何にも思っていないのかもしれないが、日本語の「知っている」英語の"know"の一語に対し、フランス語には"connaître/savoir"の区別があり、スペイン語には"conocer/saber"の区別があり、ラテン語には"cognōscere/sapere"の区別がある。で、古代エジプト語にも当たり前のようにこの区別があるが、確かにこの二つは人間の脳の動作として全く別物の気がしてきた。

そんなことを考えていると、そういえばスペイン語のestar/serの区別はなんだとか、元のラテン語がどうとか、もはやヒエログリフとは関係のない話だが、どんどん余計な調べものをしていたので読み終わるのに時間がかかった。本質的にはヒエログリフの組み立てからイスラーム以前のエジプト人の思考を問うていく感じがハイデガーみたいだ。結果的には退屈しない本であった。

Robert Laffont (25 août 2022)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2221263877

2024年12月5日木曜日

Daron Acemoglu, James A. Robinson "Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty" [国家はなぜ衰退するのか:権力と繁栄と貧困の起源]

Why Nations Fail (Amazon.co.jp)
国家はなぜ衰退するのか(上)(Amazon.co.jp)
国家はなぜ衰退するのか(下)(Amazon.co.jp)

原著2012年刊の時点で注目していた本だが、気になりながらずっと放置しているうちに2024年ノーベル経済学賞受賞ということで、読むしかなくなった。

ずっと放置していた最大の理由は書名が大風呂敷過ぎるように感じたからだが、実は書名の質問に対する答えは比較的単純なものだ。わたしがまとめると、要するに1私有財産権が守られないほどの無政府状態になるか2ごく一部の政治エリート層が富を独占して残りの国民から搾取するから。このどちらでも、技術革新が起こらないので国家が衰退する。

1の状態は論外として、2の状態では、例えば貴族と奴隷みたいな社会だと、好き放題収奪される奴隷の側では技術革新を起こす理由がないし、外国から新技術を取り入れる理由もない。エリート層は自分たちの地位を守るために技術革新を阻止する。さらに2の状態ではクーデターの魅力が大きい。その結果、革命は起こるが、単に支配者が入れ替わるだけで少数が多数を抑圧搾取する構造は何も変わらない。

実例が大量に挙げられ、ほとんど世界史のおさらいみたいになる。本書が分厚く見えるのはそのせいで、書いている理論が難しいからではない。例えば韓国と北朝鮮のとんでもない格差の原因は、北朝鮮では一部エリートが政治権力を独占していて私有財産権が認められていないからだとか。面白いけど、高校生程度の世界史の知識は必要かもしれない。

などと言っているうちに、つい先日、韓国の大統領が突然夜中に非常戒厳を発令していて何のこっちゃみたいな話になっている。そもそも軍隊も警察も真剣に従わない。しかし、同じ話が中南米とかアフリカとかで発生しても、そんなに驚かない。この違いは民度がどうとかいう話ではなく…という話はこの本を読んだ人と語る話だ。最近ダボス会議でのアルゼンチンの大統領の演説もだいたいこの本の路線に乗ったものだっただろうか。

面白くてわりと一気に読んだ本だった。あまり大風呂敷系のタイトルは読まないけど、この著者については読んでいってもいいかもしれない。

Crown Currency (2013/9/17)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0307719225

2024年11月14日木曜日

Jean Servier "Les Berbères" [ベルベル人]

Les Berbères (Amazon.co.jp)

ベルベル人と言われても何のことか分からない人も多いと思われるが、フランス語やフランス文化を学ぶ人は「マグリブ」という謎の地名と共に必ず聞く話である。大雑把にはマグリブとはアフリカ北部の地中海沿岸地域で、ベルベル人は主にその辺りに住んでいる民族ということになるだろうか。ただ漠然とした印象では、当人たちがあまり民族という概念を尊んでいる感じがないし、あのあたりの通例で部族という概念のほうが強いのだろう。だいたいがイスラム教徒で、ベルベル諸語と言われるような言葉が話されていたりする。…というくらい。

で、正規のフランス語のコース教材みたいなを勉強していると、このマグリブとかベルベル人という概念がやたら出てくる。一応「先住民族」みたいな扱いもあり、「多様性を尊重する」とかいう流れの中で、公式な出版物ではかなり紙面面積を取る。本人たちがあまり民族性を主張していないのに、フランス政府が無理矢理一つの民族という枠にハメている感じは否めないが…。とにかく、今の価値観が「全人類を対等の権利を持つ民族集団に区分して各集団に平等にリソースを割り振る」ということになっているから仕方がない。

そういう背景があって、フランス文化の勉強をしているとあちこちで散発的にマグリブ文化の話を聞かされるが、結局ベルベル人というのが何なのかということになるとまとまった記述がない。あるとしたらこの本が第一と思われる。この本自体は教科書的というか公式的で読み物としてそんなに面白くないと思うが、散発的に聞いている話がまとまる感じはある。

QUE SAIS JE (1 mars 2017)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2130792833

2024年5月7日火曜日

Hugh Newman "Goebekli Tepe and Karahan Tepe: The World's First Megaliths" [ギョベクリ・テペとカラハン・テペ:世界初の巨石遺跡]

Goebekli Tepe and Karahan Tepe (Amazon.co.jp)

遺跡シリーズだがこれは異色でトルコ。巨石にこだわっているようだ。やはり新石器時代という扱いだが、イギリスの遺跡より古い上に出土品が洗練されている気がする。まだ発掘途中らしいが、相当昔から人類はこんなことをしていたらしい。人類学などではよく言われることだが、根本的に労働力が余っていたんだろうか。

Wooden Books (2023/10/15)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-1907155543

2024年4月18日木曜日

Hector McDonnell "Orkney: Megalithic Marvel of the Northern Isles" [オークニー:北部諸島の巨石遺跡]

Orkney (Amazon.co.jp)

オークニー諸島は歴史的政治的に色々ややこしいこともあったりするようだが、この本は基本的に新石器時代の墓に注力している。まあまあ有名な観光地らしいが、このシリーズにしては真面目な発掘調査報告書みたいな感じがある。ここに観光に行く時は、相当ヒマというか余裕があるというか、幸せな時だろうというような感じ。変な都会に行くよりいいかもなあ。

Wooden Books (2020/5/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263289

2024年4月12日金曜日

Mark Mills "Ancient English Cathedrals" [古代イギリスの大聖堂]

Ancient English Cathedrals (Amazon.co.jp)

イギリスの観光案内シリーズの一つ。アルファベット順に並んでいる。各聖堂の中のイラストと歴史など。一々色んな歴史があるものだ。イギリスの小説なんか読んでいると、教会でなくても古い邸宅に謎の地下室とか謎の歴史伝説が設定されているが、日本ではあったとしてもどうもドラマチックでない。あと、イラストで見る限りすべて広くて異常に天井が高いが、これで「瞑想に適している」は、わたしとしては無理がある。日本で言えばららぽくらいの商業施設の吹き抜けくらいの高さなんだろう。わたしも天井が高いのは好きだが、どう考えても空調が効かない。日本にも有名な建築家が建てた「光の教会」とかいう完全コンクリの教会が絶望的に寒くて有名だが、もしかすると教会というものは本質的にそうなのかもしれない。わたしは子供の頃は教会に通っていたこともあるし、今は週一くらいで寺に通っているが、天井が高いと言っても二階分くらいで、瞑想とかいうことなら、それくらいが妥当な気がする。建物の構造が瞑想の概念に影響しているかもしれない。

Wooden Books (2006/2/15)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263418

2024年4月10日水曜日

Howard Crowhurst "Carnac: And Other Megalithic Sites in Southern Brittany" [カルナックと南ブルターニュの他の巨石遺跡]

Carnac(Amazon.co.jp)

Wooden Booksはたいていイギリスの遺跡を扱うが、これはフランス領らしく珍しい。しかし、内容はシリーズの他の本と同じくやはり遺跡の発掘調査報告書と謎の直線群と想像。これだけ読んでくると、だいたい全部同じに見えてくる。差が分かるほど詳しいわけでもない。この本もわたしも。

Wooden Books (2018/10/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263968

2024年4月9日火曜日

Gerald Ponting "Callanish and Other Megalithic Sites of the Outer Hebrides" [カラニシュとアウターヘブリディーズの巨石遺跡]

Callanish (Amazon.co.jp)

イギリスにありがちな謎のモノリス遺跡の一つ。ストーンヘンジにも劣らない迫力に思えるが、観光地として少し不便なんだろうか。まあ行ったところで風景自体は「ふうん」にしかならないと思われるが…。やはり新石器時代の遺跡でよくわからないことが多い。謎の伝説やどこまで本当かわからない天文学との関係とかleyとかはこのシリーズの定例だ。もちろん観光に行くなら先に読んでおいたほうが良い。

出版社 : Wooden Books (2000/1/1)
言語 :英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263081

2024年4月2日火曜日

Christina Martin "Sacred Springs" [聖なる泉]

Sacred Springs (Amazon.co.jp)

イギリスの各地にある泉の観光ガイドのようなもの。この泉という文化が日本と違い過ぎて、そこが勉強になる。多分日本の泉はほとんど温泉になってしまうし、そもそも水が豊富で井戸なんかどこでもある。イギリスではそんなことではないようだ。実際、西洋のおとぎ話にはやたら泉が出てくるし、インチキ西洋中世物語の類、例えばドラクエとかでも泉はやたら重要スポットみたいに扱われる。日本人にはない発想だ。ここに紹介されているような泉は一々いい感じの伝説などがついている。日本の温泉の弘法大師がどうたらみたいな話より少女趣味で良い。Dressing、つまりRPGのダンジョンの中にある泉みたいな敷石や枠や門などによる整備も日本で見たことがない。

関係ないけど、「ダンジョン」という現実には稀な構造がRPGの世界では普通なのにははっきりとした理由があり、世界初のコンピューターアドベンチャーゲームとされるADVENTに由来する。泉は少なくともダンジョンよりは現実にもよくあるようだ。

Wooden Books (2006/2/15)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263456