2010年1月21日木曜日

The Everything Learning German Book (2nd ed.)

わたしは第一外国語がドイツ語だったし、院試もドイツ語で通った。だから、ドイツ語を復習するにしても、この本は簡単過ぎたんだけど、なんだかんだで、しっかり全部読んだ。

まず、これは英語圏で最も売れているドイツ語入門書だろうし、評判に誤りはない。本当の初歩から、接続法まで、必要事項は一通り解説している。しかも、わたしはこれ以上易しい入門書は、少なくとも日本語では見たことが無い。もちろん、英語とドイツ語の文法が、それだけ酷似しているということがある。フランス語は、単語レベルでは英語と似ているが、文法に関しては、英語に最も近い言語はドイツ語だ。ていうか、もともと英語はドイツ語だったのに、その上にフランス語の語彙が載ったようなわけで、基本は何も変わっていない。この辺りの事情も本書に軽く解説されている。

他の本も少しみたけど、英語が読めるという前提で、ドイツ語を初歩から学びたいということなら、本書が最もお勧めだ。日本語で勉強するより、ずっと楽だし。もちろん、本当にドイツ語を使えるようになるには、読み終わった後、別に問題集とか本格的な本に取り組む必要があるけど。CDも付いているけど、わたしはあまり聴かなかった。もともとドイツ語の発音がそんなに難しくないせいだけど、本当の初心者は聴きながら読んだほうがいい。

2010年1月10日日曜日

How to Start a Conversation and Make Friends

これは日本人の英語学習者が全員読むべき英会話本である。

基本的にはアメリカのビジネスマン向けの本だけど、日本人の英語学習者も、この本を読む程度の英語力があれば、直ちに読むべきである。この本の対象読者には、外国人の英語学習者も含まれていると書いてある。

この本が優れているのは、読み始めて直ぐに分かる。まず、最初に解説されているのは、知らない人ばかりの立食パーティーのような状況だ。こういうのは、「コネを作る」という趣旨で開催されるが、多くの日本人にとって、居心地悪いものではないだろうか。アメリカ人はわりと平気な顔をしているように見えるが、この本を読めば分かるように、彼らにとっても勇気のいることらしい。こういう時に、ドギマギしてしまう人のためにこそ、この本は書かれている。もちろん、有用な英語フレーズも満載だ。

第一章は、そんなことを含めた、会話の始め方で、ここだけでも価値がある。続く章では、会話の続け方、深め方、面倒な相手の取り扱いなどが解説されていく。我々にとっては、外国人との会話の仕方という箇所も非常に重要で、読み応えがある。携帯電話とかe-mailとかも、結構重要なことが書かれている。

この手の本にありがちな精神論は、ほとんどない。もちろん、自分の会話スタイルの欠点を認識することは重要だが、この本によると、そういう欠点は特に深刻な心理学的問題の表れというより、単なるクセだから気をつけて直しましょうと。自己啓発書嫌いの人でも問題ないと思う。そして何より、英会話に役立つ。本当は日本人が学ばないといけない英会話は、こういうことなのだ。

2010年1月4日月曜日

Congressional Procedures and the Policy Process

わたしが持っているのは7th ed.だけど、通読した上に頻繁に参照するからボロくなってしまった。この最新8th ed.もmust buyだ。米国議会の立法過程をリアルに解説しているため、ロビイストや議会関係者の間では必携書とされている。もちろん、純粋に政治学の勉強をしている人にとっても、必読書と言えるだろう。これ以上詳しい情報となると、もう現場の議員やスタッフに尋ねるしかないのではないか。しかも、彼らにしても、やはりこの本を読んで勉強しているのだ。

International Judicial Institutions (Routledge Global Institutitons)

国際司法の歴史だけど、実質はほとんどが戦争裁判で、「平和と人道に対する罪」の話がほとんど。日本人としては、こういうことだと、すぐに東京裁判を思い浮かべ、「どうせ」みたいな気分になるけど、著者たちは徹底して訴追する立場で、国際司法の発展に尽力しているようだ。確かに「戦争だから何やっても仕方がないんだよ」みたいな暴論には賛成できないが、著者たちの情熱にも、ついていけないような正義感を感じる。しかし、こういう情熱がないと人類も進歩しないんだろう。色々な裁判を具体的に追っているので、現代史の勉強にもなる。

The International Olympic Committee and the Olympic System (Routledge Global Institutions)

国際オリンピック委員会の概説だけど、それだけでなく、様々な関連団体(各スポーツの国際団体や各国内のオリンピック委員会など)も解説していて、国際的なスポーツビジネス全般の解説書になっている。これを読んでいないスポーツジャーナリストなんてあり得ないんじゃないかと思う。読んでいて驚くような発見も多い。名著だ。

The International Organization for Standardization (ISO) (Routledge Global Institutions)

本書でも触れられているけど、日本企業は、概して「お客様の要望に合わせて物を作る」ことを良しとしており、自ら規格を作って客に押し付けようという発想が薄い。最近になって、ようやく日本でも標準規格を作ることの重要性が認識されてきたけど、ひとまず、こういう本から勉強したらどうだろうか。



The Organization for Security and Co-operation in Europe (Routledge Global Institutions)

OSCEという機関は、欧米でも知名度が高いとは言えず、NATOかEUの下部機関と思われてるんじゃないだろうか。実際にはロシアからアメリカまでほぼ全ヨーロッパをカバーする組織であり、しかも歴史もずっと古い。そして現実に重要な活動を行なっていて、その辺りは本書を読んで発見していただきたい。特に東欧・中央アジアの紛争地帯での活動実績が多数地図入りで解説されていて、その辺りの世界地理・国際情勢の勉強にもなる。類書もなく、お勧めの一冊だ。

The World Bank (Routledge Global Institutions)

世界銀行というと、一般的にはあんまり良い評判がないような気がするけど、反グローバリズム団体が書くような本と比較すると、この本ははっきり世銀を擁護する側だと言えるだろう。正直なところ、決して公平な本とは思えなかった。しかし、批判する側の本はもっと不公平なことが多い。

The World Intellectual Property Organization (Routledge Global Institutions)

WIPOというと、TRIPs以降、単なる国際特許事務所くらいにしか思われていないけど、筆者はそうではないと主張している。そうなんだろうとは思うけど、この本の価値は、とにかくWIPOの概要を解説していて、類書がない点にある。知らなくても実務上大して問題がないということもあるけど、知財関係の仕事をしている人は一応基礎教養として知っておくべきことが多い。

UN Security Council (Routledge Global Institutions)

安全保障理事会に関する最も標準的なテキスト。日本で国連というと、だいたい総会を基本に書かれることが多く、法的にはそれは間違いではないけど、現実に国連で最も重要なのは安保理だ。そして、国連は世界で最も正統性の高い機関である・・・。一頃の常任理事国入り問題の時にも、日本人が根本的に国連と安保理の重要性を分かっていなかった気がしている。日本語でも優れた解説書があるけど、そのうち二冊だけ紹介しておきたい。いずれも必読書であり、もしも英訳したら、世界中でテキストとして採用されるレベルだ。日本語で読めることに感謝。





The World Health Organization (Routledge Global Institutions)

伝染病対策があるので、医療関係は国際機関の歴史がわりと古い。そして各地域の機関を統合する形でWHOができたわけだけど、そういう基本から、現在のWHOの概要まで解説。この本自体は読みやすくて退屈もしないし良いんだけど、残念なのは、日本人議長の評判が非常に悪いのと、結局は製薬会社の国際カルテルみたいな印象を受けたこと。インフルエンザでは派手に宣伝しているけど、かつてHIV/AIDSでは、ほとんど手を打たず、世銀やユニセフなどに完全に遅れを取ったことなども描かれている。

Internet Governance (Routledge Global Institutions)

インターネットを誰がどのように管理して運営しているのか、ほとんど世間では知られていない。特に具体的な米国政府やITUのような団体との関連は、一般人には謎だろう。時折、ドメイン名問題や児童ポルノなどで問題になるけど、報道もしっかりできていないんじゃないだろうか。変遷もあるので、詳しいと自認する人も、一読する価値があると思う。

The European Union (Routledge Global Institutions)

EUの概説書で、類書は多いけど、迷うんなら、Routledgeブランドを選んでも良いんじゃないだろうか。読み物としても読みやすい。リスボン条約を受けて、いずれ版を改めることにはなると思うけど、この本に書いてることが無効になるわけでもない。

The North Atlantic Treaty Organization (Routledge Global Institutions)

NATO(北大西洋条約機構)を通して描く現代史のような感じで、読んでいて退屈しないし、最後の年表は資料性も高い。日本から見ると、完全に地球の反対側の話だけど、現実に地域紛争に対して実効性のある軍事力を持っている唯一の組織であり、日本にも重大な影響を及ぼす組織だ。

Transnational Organized Crime (Routledge Global Institutions)

表紙を見るとInterpolの解説書かと思うが、実際にはInterpolや類縁機関の解説は少ししかない。本書の主要テーマは、国際犯罪一般だ。だから、Routledgeのこのシリーズの中では、異例といえる。

著者は元々Interpoleなどで現場にいた人なので、挙げられている事例が一々リアルなのが魅力的(この言葉が適切かどうか分からないけど)。中国人やイタリア人に対しても、全く遠慮がない。全体的に暗いムードが漂うけど、これが現実なんだろう。時々衒学的な書き振りが気になったけど、読み物としても苦にならなかった。

The Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) (Routledge Global Institutions)

OECDという組織があることを知らない人は少ないと思うが、具体的に何のための機関で加盟要件が何なのか知っている人は少ないと思う。わたしみたいな調査員は、OECDの出版物のお世話になることも多いが、それでも、OECD自体については、基本的なこともあまり知らなかった。他に類書もないし、普段世話になっている人は、一度読んでおく価値があるんじゃないだろうか。もちろん、出版物が出る過程にも触れられている。

The International Committee of the Red Cross (Routledge Global Institutions)

国際赤十字委員会の概説で、国際赤十字連盟や、各国の類縁団体は対象外になる。といっても、たいていの人には区別がつかないんじゃないだろうか。要はスイスに本部のあるNGOなんだけど、「国境なき医師団」や「アムネスティ・インターナショナル」のようなNGOとは真逆で、派手な演出を嫌い、「静かな外交」を望む傾向がある。役割的にカブっている組織も多くて、縄張り争いみたいなことも記述されている。

The International Monetary Fund (Routledge Global Institutions)

IMFの概要解説もあり、もちろん読む価値はあるけど、本書の大半は、IMFに関する統計的研究のレビュー。たいていの本と同様に、IMFを批判するような結論にはなっている。日本語だと、最近出た中公新書がお勧め。こちらはさらに手厳しいが、紙面の制約のため、批判の根拠はしっかり記述されていない。



Global Food and Agricultural Institutions (Routledge Global Institutions)

国連系の五つの食糧関係機関(FAO, ARD, WFP, IFAD, CGIAR)を同時並行的に解説していく。資料性はあるが、実際読むのは大変だった。国連機関の通例で、この五つは、はっきり言ってカブっていて、国連のムダの象徴のような観もある。それが分かるのも、こういう風に、まとめて解説してくれるからで、類書もなく、非常に貴重な本だ。

Human Rights (Oxford Very Short Introduction)

導入部分は「何でも人権人権言いやがって」みたいなシニカルな入り方で、どうなることかと思ったが、こういう感じ方は、世界共通なんだろう。もともと、人権という概念が出てくる文脈というのが、色々な意味でネガティブなことが多くて、楽しく学ぶことが難しいのかもしれない。特に日本での人権概念が面倒くさくなっている人は、こういう洋書で学ぶと、また新鮮だと思う。日本では「人権」という言葉ではあまり語られないような問題、たとえば「死刑」や「拉致」や「開発」のような話も多数出てくる。平易で読みやすい解説書だ。

The Soviet Union (Oxford Very Short Introduction)

ソ連が滅んでもう随分経つし、そろそろ帝国の歴史を書いてもいいだろう、というような気分だろうか。今となっては、「ソ連」という言葉に、少しノスタルジーも感じるくらいで、「あれは何だったのか」と思って読んでみた。結論としては、「こんな国に住みたくない」というようなことで・・・。日本の今後を考える上でも、反面教師になるだろうか。

スタイルとしては、漠然とした編年史ではなく、「富と貧困」「エリートと大衆」といった、トピックごとの編年史になっている。ソ連成立以前と崩壊以後のことは大胆にカットされているので、ある程度この辺りの知識がないと読みにくいかもしれない。

The European Union (Oxford Very Short Introduction)

複雑極まる欧州連合の解説。特に歴史的な記述が充実していて、英・独・仏という大国の間の綱引きがリアルに描かれる。先日、リスボン条約が発効して、法制面では随分変わってしまったけど、この本で解説されていることは依然としてほとんど有効だ。

日本語だと、法制面に詳しい岩波新書と、経済面に詳しい日経文庫の入門書があり、いずれも優れた入門書ではあるけれど、それより先にこちらを読んで置いたほうが、より理解が進むだろう。





The World Trade Organization (Oxford Very Short Introduction)

WTOの解説というと、どうしてもグローバリズムの関連で感情的な本が多いけど、その点、この本は比較的教科書的で、安心して読める。それでも、やはりWTOに対しては批判的なスタンスではあるが、読みやすいし、基礎的な情報は網羅されている。

The United Nations (Oxford Very Short Introduction)

安全保障理事会を中心にした国連の解説。とにかく国連というのは重複の多い、雑然とした官僚機構で、簡単に解きほぐして説明できるものではないが、最初に読む一冊としては悪くない。日本語なら「人類の議会」も、面白く読める入門書だけど、より筆者の価値判断が入っているので、好みの問題だ。もちろん、真剣に国連の勉強をするのなら、どちらも必読書。





American Political Parties and Elections (Oxford Very Short Introduction)

日本の常識から考えると、アメリカの二大政党制は謎だらけで、特に、大統領選の予備選挙なんて、アメリカ人でもちゃんと仕組みを把握している人は少ない。分かりやすく書いてあるので、この本を一冊読めば、上院と下院の人数配分から党大会の意味まで、自信を持って説明できるようになる。それだけでもすごいことじゃないだろうか?

The American Presidency (Oxford Very Short Introduction)

大統領制の歴史と概要。VSIにしては分厚いほう(178ページ)だけど、これだけコンパクトにまとめた本は貴重だ。最後には大統領と副大統領の一覧も載っているようなわけで、そこそこ資料性もあるんじゃないかと思う。

2010年1月3日日曜日

Foucault (Oxford Very Short Introduction)

ミシェル・フーコーの業績を、時代を追って解説する本。日本語だと、どうもフーコーは神格化されてしまうようなところがあって、こういう冷静な解説は少ないんじゃないかと思う。もちろん、フーコーの著作を何冊か読んでいるほうがいいけど、読んだことが無くても、問題はない。フーコーの考え方は、ある種、思想界では常識化しているようなところもあって、読んだことがなくても、全然馴染みがないということはないと思う。

それはそれとして、個人的には「懐かしい」という思いが強かった。今から思うと、そんなに「主体」という概念の処理に成功してもいないんじゃないかな・・・とか。

2010年1月2日土曜日

Quantum Theory (Oxford Very Short Introduction)

数式を使わない量子力学の入門書・・・というと有りがちな本みたいだけど、この本については、最後に付録の形で、最低限の数式は載っている。日本で言えば、高校生程度の物理の知識があれば、数式も追えるんじゃないかと思うが、もちろん読み飛ばすのも自由だ。やはり、よくあるポピュラーサイエンスとは少し違うかなと思う。

Brain (Oxford Very Short Introduction)

脳科学の最新の知見を概説。脳の驚くべき能力に圧倒された。正確に言うと、日常のごく些細なことでも、恐ろしく膨大な情報処理能力が必要なはずで、それを実際に脳が処理している事実に、改めて衝撃を受ける。ただただ驚嘆するための本。

Anarchism (Oxford Very Short Introduction)

日本語で「アナーキズム」というと、なにか暴力的なイメージを持たれやすいが、この本の言うアナーキズムは、自由とか不介入とか寛容とかいうようなことで、わりと現代日本では普通のことのようだ。普通すぎて逆に分かりにくくなっているところもある。ただ守らないといけない価値には違いなく、時にはこういう風に哲学的に考えるのもいいかと思う。

Nuclear Weapons (Oxford Very Short Introduction)

核兵器に関する科学的・工学的説明は最小限で、ほとんどは、冷戦期の核軍縮交渉の歴史。核不拡散体制の維持についても触れられているが、VSIにしては、かなり専門的な本と言える。わたしはIAEA等と関わりがあるので、じっくり読ませてもらった。

Global Warming (Oxford Very Short Introduction)

IPCCの最新の報告に対応した第二版。類書も多いけど、この本は、わずか百数十ページで、科学的な事実から政治経済まで、温暖化に関するあらゆる論点を整理している。問題を一望するには最適かと思う。

Chaos (Oxford Very Short Introduction)

カオス理論の概説。ものすごく簡単な数式に基づくモデルが、全く予想できない挙動を示すのが印象的だ。数式は最小限しか使われていない。そして、カオスに関する一般的な誤解の訂正にも力が入れられている。言っていることは本当に単純なことで、曖昧さもないんだけど、科学というものの限界を本当に考えさせられる。衝撃を受けた。

Logic (Oxford Very Short Introduction)

現代論理学の入門書。といっても、普通の人は何のことか分からないだろう。わたしは情報科学の延長で論理学を学んだことはあるし、論理哲学から学んだこともあるし、数学基礎論みたいなことから学んだこともあるが、それでも、ここに書いてあるような非古典論理学は初めて知った。頭の体操みたいな感じで読んでも面白いと思う。

Memory (Oxford Very Short Introduction)

記憶のメカニズムについて最新の研究を紹介しているけど、印象としては、如何に何も分かっていないかということのほうが強い。もちろん、興味深い話も多いけど。記憶術についても、かなり実践的なアドバイスがあるんだけど、普通の実用書に載っていることと大して違いはない気が・・・。ただ、うさんくさい記憶術にだまされることはなくなるだろう。

Kafka (Oxford Very Short Introduction)

これはカフカのファン限定。おそらく、この本を読む人は、カフカの小説を全部読んでいるだろう。それくらいでないと、あまり読む意味がない。ファンなら落とせない本だ。わたしは伝記なども結構読んでいるが、それでも知らないことも多かった。

Cosmology (Oxford Very Short Introduction)

いわゆる宇宙論の本で、よくあるポピュラーサイエンスの本と同列かなと思う。ただ、観測天文学に重点があるのが、珍しいか。

Statistics (Oxford Very Short Introduction)

数式も出てこないし、確率・統計の本当の入門書で、日本なら高校生レベルかと思う。数式もほとんど出てこないし、逆にレベルが低過ぎて、日本語では類書がないのかも知れない。あと、この本はベイズ派の立場に立っているが、日本ではまだ少数派なんじゃないかと思う。

Habermas (Oxford Very Short Introduction)

ハバマスの議論をこういう概説書形式で書こうという志だけでも素晴らしいが、しかもそれに成功している。感動した。社会学の学生にとっても、ハバマスというのは巨大なテーマで取っ付きにくいと思うけど、この本は、ハバマスを専門にするしないにかかわらず、必読書と言えるだろう。日本語でこれに相当する本はなく、翻訳したら売れると思う。個人的には、もうすこし欧州連合の関係を読みたかったが、贅沢は言うまい。

Globalization (Oxford Very Short Introduction)

テーマが巨大だが、版を重ねているだけのことはあって、色んな分野を見事にコンパクトに解説している。筆者の立場ははっきりしていて、要するに反新自由主義みたいなことだけど、今となっては常識的な立場と言えるかもしれない。もちろん、個々の点についてはそれぞれ勉強するしかないけど、こういう全体像を提示する本も貴重だ。

British Politics (Oxford Very Short Introduction)

この本は、VSIの他の本とは少し傾向が違う。一応、英国の政治の概説のようなことなんだけど、筆者は労働党の国会議員で、公平なOverviewというよりは、他国と比較しつつ、英国の政治風土についてボやくというような感じ。だから、フォーマルな概説を期待する人は別の本を探したほうがいいけど、実際の国会議員が書いているだけあって、リアルに雰囲気が分かるというメリットはある。

Particle Physics (Oxford Very Short Introduction)

この本は本当に感動した。素粒子物理学の概説書。

頭を使わないで読める本ではないが、数式は全く出てこないし、ポピュラーサイエンス程度と思っても差し支えない。この面白さと感動は、本書を読んでもらう以外に伝えようがない。この分野で、日本人が同時に三人、ノーベル賞を受賞したのは記憶に新しいが、あの先生たちの業績を理解するのにも、この本以上のものはない。もともとこの分野は日本人が強く、この本が翻訳されない意味が分からない。最初は「四つの力」から、最後はヒッグス粒子まで、見事に解説。

Mathematics (Oxford Very Short Introduction)

基本的には大学で数学科を志す学生のために書かれているけど、日本人なら、高校生で問題なく読める。(もちろん英語が読めるという前提だが・・・)

特に、色々な命題を「一般化」するという方向が印象的で、数学者が何に生き甲斐を感じているのか、少しは分かったような気がする。何にせよ、これほど易しい数学を用いて、そんなことを感じさせてくれる本は貴重だ。

International Migration (Oxford Very Short Introduction)

日本で「移民」というと、不法入国者をどうするかという話と、日本経済を支えるために移民をという話が多い気がする。あんまりこういう本みたいに、移民自身を主体として、色々な問題を考えることは少ないんじゃないかなあ。少なくとも東京で暮らしていると、移民に接しない日はないし、誰にとっても、身近に感じることがあるんじゃないかと思う。

Nationalism (Oxford Very Short Introduction)

ナショナリズム、あるいはネイションの概念の歴史を解説する本。こういうタイトルだと、ナショナリズムの政治的利用法の解説を予想してしまうけど、この本はさらに哲学的で、結局は「どうして人は分かれて群れたがるのか」というようなところにまで行きついてしまう。こういうテーマだと、日本語でも古典的な本は多いけど、一々重厚で晦渋なことが多いので、こういう本で入門するのもいいかもしれない。

Schizophrenia (Oxford Very Short Introduction)

統合失調症(精神分裂病)に関する最新の医学的知見を紹介する本。

といっても、未だに分かっていないことが多いけど、脳に器質的な原因があることははっきりしているし、打つべき手も次第に明らかになってきている。昔は、哲学的なアプローチや精神分析的なアプローチもあったけど、この本ではほとんど問題にされていない。実際、未だに究極的な原因は分からないとは言え、ここまで解明が進むと、いずれ完治への道も開けるんじゃないかと期待が持てる。

もちろん、身近に統合失調症の人がいて、接し方等について学びたいというのなら、この本はそういう目的には沿わない。そういうことなら、日本語でもほかに良い本があると思うし、もちろん、医者に相談するのが第一だ。

International Relations (Oxford Very Short Introduction)

いわゆる国際関係論の入門書で、「もしあなたが突然、英国の外務大臣になったら」という体で書いてある。

普通に新聞で国際面を読んでいる人には、知らないことはほとんど書いていないんじゃないかと思う。そうでない人が、急に国際政治について学ぶことになった、というような人には適している。筆者の立場は「リアリスト」ということで、人によっては少し引っかかるところもあるかもしれないけど、概ね常識的なところだと思う。いずれにせよ、これは入門書でしかない。

HIV/AIDS (Oxford Very Short Introduction)

日本では、あまりHIV/AIDSに関する報道を聞かなくなったけど、薬が進歩しただけのことで、依然として問題には違いない。だが、世界的にはもっと大問題で、特にサハラ以南の惨状は、もっと日本人にも知ってほしい。

この本は、HIV/AIDSに関する医学的説明は最小限に抑えて、AIDSが政治経済に与える影響にページを割いている。個人的には、WTO/TRIPsについてほとんど問題にしていないのが気になるけど、この問題について学ぶ最善の入門書の一つだろう。

Emotion (Oxford Very Short Introduction)

「感情」というのは、心理学の中でも、最も重要で、かつ、最も曖昧な分野なのかなと思う。もともと「感情」は「論理」の敵みたいなところがあるのかもしれない。特に哲学的思考の訓練を受けている人は、この本を読んでも、ツッコミどころがかなり多いかもしれない。しかし、ひとまず現代心理学による「感情」に関する知見が分かりやすくコンパクトにまとめてあるので、興味のある人は読む価値があるだろう。

Nothing (Oxford Very Short Introduction)

タイトルからは分かりにくいけれど、物理学史の概説書。ただ、この分野は類書が多いので、「真空」に焦点を合わせることによって、特徴をつけている。最初は「自然は真空を嫌う」というような話から始まり、終わりには、「ディラックの海」「ヒッグス粒子」のような最先端の話題に行きつく。ポピュラーサイエンスとか、物理学史に馴染んでいる人でも、また別の見方が発見できるかも知れない。


Buddha (Oxford Very Short Introduction)

仏陀の伝記。もちろん、神話的要素は排除されて、歴史的人物としての仏陀が問題にされている。

別に、こんなのを英語で読む必要はないと言えばない。ただ、わたし個人として、仏教に関しては、西洋人の目を通して、敢えて英語で読むことによって、気がつくことが良くある。日本語ができる人で、この本を読む人は少ないと思うけど、ある程度仏教にコミットしている人は、読んでみてもいいかもしれない。

Geopolitics (Oxford Very Short Introduction)

近ごろ書店の国際政治学の棚に、"Geopolitcs"というタイトルの本が増えた。「地政学」という学問は、かつてドイツや日本で盛んに研究され、戦後しばらく下火になったが、特に9.11以降、中東や中央アジアとの関連で、再び重要なテーマになっている・・・ということも、この本で解説されている。

一頃、「地政学」という言葉を使いたがる人々=ネオコンみたいなイメージがあって、それは間違いではないと思うけど、今後の国際情勢を語る上では避けられない言葉だ。一冊こういう本を読んでおくのも、良いんじゃないかなと思う。

Superconductivity (Oxford Very Short Introduction)

最近では、超電導に関する報道もめっきり減って、ほとんど忘れられたような分野になってしまったけど、現場では少しずつでも確実に進歩している。2009年になって、こんな本が出るのがその証拠、というような本。こういうジャンルは、普段の地味な研究から、突然飛躍的に進歩するので油断できない。

初心者にも分かるように書いていて、おそらく、これ以上分かりやすい解説書はないんじゃないかと思う。ただ、何分にもジャンル自体が難しい。低温物理学の歴史・基本から解説していて、それ自体、とても興味深いけど、初歩的にでも量子力学を理解していないと、理解が難しい箇所もある。もちろん、それによって、本全体が理解できなくなるわけではない。数式は全く出てこないので、物理学が苦手な人でも問題ないだろう。