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2024年12月25日水曜日

Imari Walker-Franklin, Jenna Jambeck "Plastics" [プラスチック]

 Plastics (Amazon.co.jp)

目次:1. 導入 2. プラスチック製造と利用 3. 廃プラスチックを管理する 4. プラスチックゴミの発見 5. プラスチックに関連する化学物質 6. プラスチックの環境への影響 7. プラスチックの社会への影響 8. プラスチック政策 9. プラスチックの代替と介入

プラスチックの環境問題に関する解説書。高分子化学や石油化学工業の解説書ではない。ただし予備知識として、プラスチックの何が問題なのかを論じている部分を理解するためには、日本の高校程度の化学の知識が必要かと思われる。解決策について論じている部分については、そのような知識はあまり必要ではない。著者たちはこの問題が化学で直接解決できるとは信じていないようで、その方面に深入りしていない。

というのも、現状ではエベレストの頂上だろうとマリアナ海溝の底だろうと農産物だろうと人体の中だろうと、この惑星は既にプラスチックに汚染されきっており、仮にプラスチックが今すぐ全部生産停止になっても、今後数十万年は被害は出続ける。海岸や川で多少ゴミ拾いをしたところで、生産量が圧倒的過ぎて焼け石に水。ゴミを捨てるなとかいう道徳的キャンペーンで解決する社会問題なんか存在しない。どんなに気を付けてもプラスチックは環境に流れ出る。これらの手段が無意味というわけではないが、根本的に生産を規制する以外にないというのが著者たちの立場のようだ。ちなみにプラスチックの大半を消費しているのは包装であり、ここが主要なターゲットになるだろう。

しかし、この本の著者たちは知らなかったことだが、これから第二次トランプ政権が始まるというようなことで、状況は悪化している。著者たちはgreenwashを非難しているが、世界はwoke mind cultureにうんざりしている。環境問題に右翼も左翼もないはずだが、現実にはそんなことになっていない。

個人的に思い返すと、公害防止管理者試験で、騒音振動・大気一種・水質一種に合格したが、廃プラスチックとかいう話は記憶にない。そのうちプラスチック一種とかできるかもしれないが、結局、この本でも問題にしているように、プラスチック公害は基本的に消費者の責任にされていて、生産者は責任を逃れ続けている。

そんなことで色々考えさせる本だったが、この本は入口としてはいいけど、個人的にはもう少し化学工業について勉強していこうと思っている。

The MIT Press (2023/8/22)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262547017

2024年9月11日水曜日

Marlene Zuk, Leigh W. Simmons "Sexual Selection: A Very Short Introduction" [性淘汰:非常に短い入門]

Sexual Selection (Amazon.co.jp)

目次:1. ダーウィンのもう一つの大きなアイデア 2. 配偶システム、誰と誰がどれくらい長く 3. 競争者の中から選ぶこと 4. 性的役割とステレオタイプ 5. 交尾の後の性的淘汰 6. 性的対立 7. 性はどのように種を存続させるか 8. 結論、ここからどこへ

性淘汰の動物博物誌という感じ。素人の想像以上に色々なパターンがあって、それはそれで楽しい。ヒトで言えば「どういうのがモテるか」という話だが、結論から言うと、そういう話はよく分からない。それ以前に動物でも「なぜその特徴を持っているとモテるのか」ということが分からないことが多過ぎる。たとえば、どう考えても生存に不利な特徴を持っているオスがメスに選好される種があったとして、人間が理屈をつけるとすると「そのようなどうでもいい特徴に資源を割り振れるだけの余裕があると見なされるから」とかいうことになるが、仮説でしかない。その後その特徴が実は生存に有利なことが判明するかもしれない。この本でも色々な現象について色々な説明が試みられるが、話半分というところだろう。もちろん、そういう話半分な話が好きな人には色々面白いと思う。

‎Oxford Univ Pr (2018/11/1)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198778752

2024年8月6日火曜日

Alec Thompson "Daydreams & Thought Experiments" [白昼夢と思考実験]

Daydreams (Amazon.co.jp)

最初のほうは白昼夢というか楽しい妄想みたいな話だが、メインになるのは特に「テセウスの舟」や「トロリー問題」など英米哲学で問題になるような思考実験のコレクション。最後のほうは「シュレディンガーの猫」とか「サスキンドの象」というような物理学の話。合間には禅の公案まであり。わたしとしてはあまり知らない話は出てこないのだが、多くの人にとっては初耳な話も多いだろう。聞いたことがあっても楽しめる。一つにはイラストがいい。これは無限に時間をつぶせるので、翻訳して新幹線の駅の売店にでもおいておくべきだと思う。あまりちゃちな装丁にしてほしくないが。良い本だ。

Best book for a long travel.

Wooden Books (2023/10/15)
言語 : 英語
ISBN-13 :978-1907155550

2024年3月28日木曜日

Gerald Ponting "British Wild Flowers: Their Naming and Folklore" [イギリスの野生の花:名前と伝説]

British Wild Flowers (Amazon.co.jp)

わたしは野草というか道端に生えている草がかなり好きで、特にこれから春の季節は歩いているのが楽しい。ということで雑草に関する図鑑の類は結構持っているが、洋書はほとんど読んでいない。というのも、日本と外国では植生が違うから…。この本でも、だいたい日本でも同じような草があるとは思うが、実際にはイギリスで散歩してみないと分からない。別の話として、ヨーロッパの古書マニアの世界には植物図鑑の伝統があり、この本にはそういう図版も収録されている。マニアならコレクションの端に持っておくべきものだろう。写真ではなくイラストだが、日本でもよくある「身近な雑草図鑑」の類。この本がどうかはさておき、雑草ファンは世界中にいるようだ。

A beautiful book on lovely weeds.

Wooden Books (2022/11/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1907155420

2024年3月19日火曜日

Hugh Newman "Stone Circles" [環状列石]

Stone Circles (Amazon.co.jp)

主にイギリス各地にある石器時代の環状列石の案内。わたしとしてはStonehengeくらいしか知らないし、謎の世界だと思っていたが、最後になってOshoroって何と思って調べたら、どうも日本にも色々あるらしい。今のところわたしの中に観光という文化がほとんどないので聞いたこともなかったが、これからどんどん旅行をしていくことになるとすると、一つのテーマになるかもしれないが、実際には何もないところにただ石が並んでいるだけで謎すぎる。まあ作成当時からそういう謎観光スポットだったのかもしれない…。

A tourist guide, possibly also for Neolithic people.

Bloomsbury Pub Plc USA (2018/10/9)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1635573046

2024年3月6日水曜日

Matt Tweed "Elements of Chemistry: Quarks, Atoms and Molecules" [化学の元素:クオークと原子と分子]

Elements of Chemistry (Amazon.co.jp)

以前にEssential Elementsという同じ著者の本がやはりWooden Booksから出ていて、これはその大幅改訂版というか、別物に近いのかもしれない。目次がかなり変わっている。対象読者はやはり日本で言えばせいぜい中学生か高校生。内容的にはそれだけだが、個人的にイラストが好きで、前の版よりさらに線が整理されて見やすい。どうもWooden Booksは内容というより、語り方や本の作りに惹かれるので、中身はなんでもいいまである。たまに女子学生とかで、ノート作りが主眼で、ノートの内容なんかどうでもいいという人種がいるが、こういうことかなあと思う。

Wooden Books (2023/10/15)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155529

2024年3月5日火曜日

David Wade "Li: Dynamic Form in Nature" [理:自然の中の動的な形]

Li (Amazon.co.jp)

かなり面白くてすぐに読んでしまった本。まずタイトルは、英語話者でも中国語話者でも意味が分からないのは同じことかと思われる。著者がやたら中国哲学を参照するから、日本語話者のわたしが「理」なんだろうと推定しただけで、本書のどこにもこの漢字はない。内容は自然界にある様々な模様の図鑑。たとえばひび割れみたいな模様とか縞とか葉脈など。基本的には平面の模様だ。もっと色々ほしい気もするが、Wooden Booksのページ数の制約があるんだろう。

自然界にある形を数学的に考察するような本は日本語でもたまにあるが、あまり面白かったことがない。葉序がフィボナッチとか巻貝がアルキメデス螺旋でとか聞き飽きたような話で…。もちろんこの本はそんな話はすっ飛ばしている。関係ないけど、昔の数学の教科書には黄金比の図版があって、自然の写真の色んなところに無理やり黄金比を当てはめたりしていたが、あれは何だったのか。この本については、別に数学的な考察もなく、模様エッセイでしかないので、かえって視点が制約されていなくて良い。こういうのって、数学みたいな本より、デザイナー向けの本とかのほうが面白いのかもしれない。

Wooden Books (2007/4/3)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263548

2024年3月4日月曜日

Ben Sessa "Altered States: Minds, Drugs and Culture" [変性意識:心と薬物と文化]

Altered States (Amazon.co.jp)

マインドフルネスだの催眠術だのという話もあるが、大半は要するに違法合法を問わず各種ドラッグの話。図鑑的な価値はあるかもしれないが、似たような本はいくらでもあるかもしれない。例によって対象読者はteensだと思うが、学校図書館には置いてもらえないかもしれない。確かこういうのにやたら興味を持つ人種というのがいて、向精神薬を見せびらかすメンヘラというイメージ。やたらLSDを崇めるヒッピーの孫世代みたいな感じだろうか。今の言い方からわかるように、わたし個人としてはそこまで深い興味がなく、この類の本を読んでもすぐに内容を忘れてしまう。こういう本を読んで新しい精神世界に憧れるのか、結局意識とか気分って化学物質に過ぎないよねと思うか。

Wooden Books (2023/9/15)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1952178252

2024年2月12日月曜日

Guy Ogilvy "The Alchemist's Kitchen: Extraordinary Potions & Curious Notions" [錬金術師の調理場:素晴らしいポーションと面白い概念]

The Alchemist's Kitchen (Amazon.co.jp)

"lapis philosophorum"は"philosopher's stone"ではなく"philosophers' stone"だと思うがまあそれはさておき。古い西洋絵画を見ていると大量の予備知識が要求され、ギリシア神話・ローマ神話・キリスト教・紋章学・占星術・図像学とかなんかてんこ盛りの中に錬金術というものもあるようだ。この本は別にそういう美術的方向性で書いてあるわけではなく、むしろガチ錬金術入門書という感じで、そのほうが我々は読みやすい。やたら複雑な体系性があるわりに現代人から見れば呪術でしかないが、読んでいるとハーブだのアロマだのにハマる気持ちも分からなくはない。しかし錬金術は確かに現物を扱っているから、精錬だの蒸留だのやっているうちに化学が生まれるのは分かるし、占星術も天文学が前提だ。気のせいで済む話ではない。化学と錬金術は地続きだ…。錬金術の研究書は色々あるが、多分これが一番軽い。

Bloomsbury Pub Plc USA (2006/10/17)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0802715401

 

2024年2月2日金曜日

M Watkins "Useful Mathematical and Physical Formulae" [有用な数学と物理学の公式]

Useful Mathematical and Physical Fromulae (Amazon.co.jp)

タイトル通り見開き頁ごとに一つのジャンルの公式と若干の解説がある。知らない公式はないし、解説も淡々としたもので、我々が見てもほとんど無意味…。だが、まあ図鑑ということなのだろうか。評判も良いようで、ある種の子供には魅惑的なのかもしれないし、大人も結構楽しんでいるようだ。

出版社 : Wooden Books (2001/10/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1902418339

 

Steve Marshall "Acoustics: The Art of Sound" [音響学:音の芸術]

Acoustics: The Art of Sound (Amazon.co.jp)

音波の科学から人の聴覚・録音再生技術まで一通り。わたしとしては騒音振動の公害防止管理者/計量士で勉強した範囲が半分くらい。無線・電気通信・電子回路などで勉強した範囲が1/4くらい。残りの録音した音をいじる技術などはあまり知らない感じ。Wooden booksなので、対象読者は多分中高生くらいだが、完全に理解するのは日本の普通の大学生相手でも難しすぎるように思う。dBの説明も薄いし(対数の説明からするのは不可能だが)、フーリエ級数展開は論外としても、回路図なんか普通読めないだろう。まあ雰囲気だけ分かればいいのかもしれない。もちろん、わたしが異常者なのであり、普通の大人にとっては知らないことばかり書いてあるし、相当楽しめるだろう。音楽に興味がないとしても、音に無縁の人は少ない。

わたしは耳はやたら良く、音感も正確だが、音楽に全く興味がない。つまり音をHzとdBとしか思っていない。今まで住宅騒音で二度引っ越している。「こちら側のドアが開きます」は全く理解できないが、そもそも音が何重にも反射するエレベーターの中で音の定位ができるわけがないと思っている。というくらいの音への関心だが、音楽をやる人/聞く人は読んで損はないかもしれない。すぐに読めるし、多分、この本がカバーする範囲を全部わかっている人も少ないと思う。

出版社 :Wooden Books (2022/11/1)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155437

2023年7月13日木曜日

Ross H. Mckenzie "Condensed Matter Physics: a Very Short Introduction" [凝縮物質物理学:非常に短い入門]

目次:1.凝縮物質物理学とは何か? 2.物質の数多くの状態 3.対称性の問題 4.物のオーダー 5.平面国の冒険 6.臨界点 7.量子の問題 8.トポロジーの問題 9.創発性 10終わらない前線

タイトルは色々問題があるが、日本では「固体物理学」とか「凝縮系物理学」とか「物性論」とかいう辺りの話。図書館などでその辺りの棚を見れば分かるが、前提知識が多すぎて素人にはわりと見通しの利かない分野だ。この本で強調されているのは、量子力学的な効果がマクロの世界で観察される現象、特に超伝導と超流動だが、創発性もかなりうるさく描いていて、こっちのほうが本質なのかもしれない。うるさく、というのはやたら適当に社会科学に言及するのがわたしの趣味じゃないというだけで深い意味はない。他にももっと予算を的な話とか、ちょっとクセがある書き手かなあ。

同素体の話とか量子力学の話とかわりと初歩的なところからしていて、わたしはこれ以上易しい物性論の本を見たことがないが、それでもVSIの中でも難しい側の本かもしれない。たまたま今手元に初歩の教科書として有名な黒沢先生の「物性論」があるが、比較すると、もちろんそれよりは全然非技術的だが、見通しは立つのかなという気はする。

Condensed matter physics requires a tons of preliminary knowledge. This book is arguably the easiest introduction, though still difficult for a layman....

Oxford Univ Pr (2023/8/28)
言語 :英語
ISBN-13 :978-0198845423

2023年6月12日月曜日

Kenneth Libbrecht "Field Guide to Snowflakes" [雪片野外帖]

この著者はガチの固体物理学者で、どうも雪の結晶研究の第一人者っぽいが、この本は最も一般向けで、雪の結晶図鑑に近い。子供でも眺めていて楽しめるようなことだ。一応物理学者なのでそれなりに個々の結晶成長過程について説明もあるが、あまり深い話はない。結晶の成長中に湿度や温度が変化して六角形が削れたり角が伸びやすかったりするようだが、多分、現代科学でもそこまで詳しくは分からないんだろう。著者は実験室で人工的に雪を作ったりしているようなので、実際に論文を読んでみたら相当分かっているのかもしれないが。この本は読んでいる最中の別の本の参考文献に上がっていて、先にこっちを読んでしまった。わたしは昔からこういうのが好きだが、考えたらあまりこういう自然観察本はここに記録していない。最大の理由は、動植物だと海外と日本で違いが大きすぎるのであまり洋書を読まないからだが、雪や星についてはそんなこともない。本で読まなくても、著者のサイトSnow Crystals.comが楽しい。

Beautiful.

Voyageur Press (2016/9/1)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0760349427

2023年5月23日火曜日

Klaus Dodds, Jamie Woodward "The Arctic: A Very Short Introduction" [北極:非常に短い入門]

目次:1.北極の世界 2.物理環境 3.北極の生態系 4.北極の人々 5.探検と開発 6.北極の統治 7.北極の炭素貯蔵 8.北極の未来

目次から明らかなように、北極に関するほぼ全学問分野からの概説。高校の科目で言えば地理でも生物でも地学でも世界史でも政治経済でも、ここまで北極に詳しいことは求められないだろう。

人によって興味のあるところは違うとは思うが、わたしとしては、地球温暖化についての北極圏の役割は想像を超えていた。北極圏には前の氷河期以前に生物蓄積れた大量の炭素が保存されており、現在永久凍土がどんどん溶けて、大量の二酸化炭素とメタンが放出中と。地政学も面白いところだ。温暖化がどんどん進んでおそらく今世紀中に少なくとも夏場は北極海が航行可能になると例えば英国と日本が近くなる。スバールバルでは今もロシアが戦略上の都合から無意味に石炭を掘っているとか。グリーンランドがそのうち独立すると、資源を求めて中国資本などがどんどん入ってくるだろう。とにかく、今どんどん永久凍土が沼地化していると同時に、資源開発も進んでいる。

…というようなことはこの本では後半だが、こういう話を正しく理解するには、この本を全部読む必要がある。結局、物理環境とか生態系とか先住民の権利とか、全部絡み合っている。VSIではThe Antarctic南極(Klaus Dodds著)も面白かったが、現在の温暖化の進行状況を考えるとこっちのほうが必読かもしれない。

Authoritative apoaches to the arctic zones from all areas of scholarship.

Oxford Univ Pr (2022/2/1)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-0198819288

2023年4月11日火曜日

Olavi Huikari "The Miracle of Trees" [樹の奇跡]

実のところ、この本に書いてあることも図も、多分高校の生物の教科書くらいに全部載っているような気もする。最後には森を守れ的なところまで行っていて、それなのにつまらなくないのは、一つにはイラストが美しいからだと思うが(描き方を教えてほしい)、教科書というものが本質的につまらないからではないかと言う…。樹の構造なんて本質的に面白いはずで、面白く語れるところ、教科書となると、情報を効率よく伝えようとしてつまらなくなっているんだろう。どうも色々考えさせられる。

A beautiful lovely book. Maybe scientific information in this book is all well presented in a highschool textbook, but this book is far more entertaining.

Bloomsbury Pub Plc USA (2012/10/16)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0802777898

2023年4月10日月曜日

Angela E. Douglas "Microbiomes: A Very Short Introduction" [微生物叢:非常に短い入門]

目次:1.微生物と共に生きること 2.どうやって微生物叢を確保して維持するか 3.微生物叢と栄養と代謝の健康 4.微生物叢と脳と行動 5.微生物叢と感染症 6.農業食糧生産における植物微生物叢 7.微生物療法と健康な微生物叢

"microbiome"が何なのかよく知らないまま読み始めてしまったが、要するに動植物に付随する微生物集団ということらしい。人間の場合は表皮・消化器・膣にいるバクテリアや細菌類ということになる。この本で主に扱われているのは腸内微生物叢と、植物の根の微生物叢だ。前者は心身の健康に直接影響するし、後者は農業への応用で大きな意味を持つ。

全体的な印象として、どうもまだ開拓され始めたばかりの分野らしく、明瞭な因果関係みたいなのはあまり出てこない。昆虫やねずみレベルの実験では、微生物叢が免疫系や性格に大きく影響しているのは判明しており、人間でもそうらしいことは推察されているが、それほどはっきりしたことは言えないようだ。たとえばASDとか肥満の人の腸内細菌叢は普通人と違うと分かっていても、それが原因なのか結果なのかもよくわからない。似たような話でアトピーや花粉症が激増しているのは現代人の腸内細菌叢が変化したからというのも、「おそらく」くらいの話でしかない。腸内には複雑に絡み合った微生物の生態系があり、地球の生態系と同じで、人の介入がどんな経路で何に影響するか分かったものではない。農業における土壌の微生物叢が農作物に与える影響も、同じようにそう簡単ではないようだ。

ただ、そういう応用分野の前に、微生物叢とホストの関係などの描写は色々世界観が変わってくる。母乳にはヒトには分解できないが腸内細菌叢を栽培するには有益な希少糖が色々含まれており、赤ん坊の免疫系が健全に発達するのはそういったものによる微生物叢との相互作用があるからである云々。なんかVSIの別の本で読んだ気がするが、人間の腸壁は常に腸内細菌と接しており、そんなもので一々炎症を起こしていたら身が持たないし、そこでのやりとりが人体の免疫系の健康維持のために必須みたいなこともある。ピロリ菌は後に胃ガンの原因になるが、子供のうちはピロリ菌がいることによって消化管が健全に発達するなど。

ヨーグルトなどのプロビオ製品についても言及があるが、やはりあまり根拠はないようだ。結局、複雑な生態系にたとえばヤクルト菌を投入したところで微生物叢がそんなに大きく変わる気もしない。胆汁酸というものは腸内細菌で二次胆汁酸に変化し、これがさらに腸から吸収されて人体に影響を及ぼすのが人体の通常営業、という話もあるが、気になって調べたら、ヤクルトのサイトでは二次胆汁酸は発がん性がありヤクルトの株は二次胆汁酸を作らないとか威張っている。

個人的には口腔内の微生物叢とか、他にも色々知りたいことはあるが、そこまで研究が進んでいないらしい。対象が複雑過ぎて、そう簡単に研究が進む気がしないが、監視しておきたい分野だ。

It's a very new field. I want to learn moore about microbiomes of human body, but I guess the research has just started off. It seemes even scientists do not know much.

Oxford Univ Pr (2023/2/24)
言語 :英語
ISBN-13 :978-0198870852

2023年2月28日火曜日

Keith Humphreys "Addiction: A Very Short Introduction" [依存症:非常に短い入門]

目次:1. 地勢を理解する 2.依存症の性質 3.依存症の原因 4.回復と治療 5.依存症への文化的・公共行政的接近 6.依存症の未来

まずaddictionを依存症(dependencies)と訳すのが正しくない気もするが、意味としてはそういうことで、主に薬物依存症の病状と予防・治療の概観。ギャンブル依存とかスマホ依存みたいなことは言及はされているが主な対象ではない。対象の薬物は主に酒たばこの他コカインやヘロインとかだが、違法薬物のリストなどは描写されない。本書にもあるように違法薬物による公衆衛生上の全損害を足しても合法薬物である酒たばこには到底及ばない。また刑事司法にもあまり触れられていない。著者の考えでは、この件はあくまで公衆衛生の問題であり、警察や道徳の問題ではない。ありがちな違法薬物のリストや裏社会の流通経路の描写もない。

依存症の問題となると、身近に依存症の人がいたり、飲酒運転の被害者がいたり、逆に大麻解禁論者がいたり、道徳や神の愛を説く人がいたりしてムダに感情的な議論になりがちだが、筆者は一つずつ丁寧に感情論を排除して"evidence"に基づいて実態を説明してく。その手際がほとんど哲学的と言っていいようなレベルで、内容そのものも素晴らしいが、文章はこういう風に書くものだと感心する。

内容については、多分、基本的なんだろうけど、わたし自身が依存症に縁がないこともあって、色々勉強になった。わたしの依存症についての知識は吾妻ひでおの「アル中病棟」くらいしかない。あれはあれで本書と合わせて万民が読むべきだが、ドラマ化の話は作者死亡で立ち消えになったと聞いている。わたしは酒もたばこも好きだが、金がかかるし健康に良くないのでどっちもやってない。コーヒーはこの本では全く相手にされていないが、普段大量に飲んでいても胃が悪くなれば何か月でも飲まないで過ごしたこともある。依存症に縁のない体質なんだろう。そんなわけで酒でもたばこでも依存症の人に冷たい目を向けがち(止めたらいいだけやん)だが、まあそんなことを言っていても公衆衛生は改善しない現実がある。本書にもあるように依存症に遺伝的要因があるのは事実だが、どんなに遺伝的要因があっても、ヘロインをやらなければヘロイン依存症になるわけがないのも事実で、とにかく特定の政策を支持したり精神論を叫ぶ前に現実を冷静に認識する必要がある。

著者は徹底的に現実的で、古い理論やいい加減な巷説を丁寧に排除して事実を描写していく。ただ厚生行政については明確に意見があり、例えば大麻解禁にははっきり反対だ。もちろん大麻を完全に合法化すれば大麻の生産販売消費に関する犯罪は定義上ゼロになるが、合法薬物である酒による公共への被害の大きさを考えれば答は明白であろう云々。経済にも目が届いていて、最後には一部の金持ちが大多数の貧乏人を依存症にして搾取するディストピアも描写している。実際のところ、豊かな国ほど薬物中毒が蔓延するのは事実で、薬物中毒が貧富の格差を拡大するのに寄与して、貧乏人に対する道徳的軽蔑が増すみたいなことは考えられる。そうでなくてもプロテスタントの国は貧乏人=道徳的に劣っているから貧乏という考え方をする人種は多い。

日本語でこういうテーマの本だと、ムダにセンチメンタルな感情ポルノだったり、逆にムダに裏社会感を強調する大人向けホラーだったりして、その意味では吾妻ひでおは冷静だと思うが、Oxford University Pressの安心感がある。そういえば、あんまり関係ないかもしれないが、メンヘルと呼ばれるライフスタイルを送る人の中に、やたら向精神薬を自慢気に見せびらかす人種がいるが、あれもなんか「かっこいい」という認識なんだろうな。文化も重要だ。色々考えてしまう本だった。

I love the way the way the author explains the basics of addiction. Very careful, well-balanced, evidence-based, and almost philosohical.

Oxford Univ Pr (2023/5/23)
言語:英語
ISBN-13:978-0199557233

2023年2月17日金曜日

Edward T. Hall "The Hidden Dimension" [かくれた次元]

目次: 1.コミュニケーションとしての文化 2.動物における距離調整 3.動物における混雑と社会行動 4.空間の知覚:遠距離感覚器-目と耳と鼻 5.空間の知覚:近距離感覚器-肌と筋肉 6.視覚空間 7.知覚への導きとしての芸術 8.空間の言語 9.空間の人類学:組織化モデル 10.距離は人なり 11.異文化間文脈でのproxemics-ドイツ人とイギリス人とフランス人 12.異文化間文脈でのproxemics-日本とアラブ世界 13.都市と文化 14.proxemicsと人類の未来

"proxemics"という概念が提唱された本だが、翻訳が難しい。Wikipediaでは日本語で一応「近接学」という翻訳になっているが、多分中文の「空間行為学」のほうがマシだろう。簡単には、空間の知覚には人間の全感覚器が関与しており、しかも文化の差がかなり大きく、それを記述して解明していこうと試みる学問ということになるだろうか。著者は文化人類学者で、初版1966年ということで相当古いが、今でも主に建築学科の学生が読まされているらしい。確かに昔、近接心理学とかパーソナルスペースという概念をやたら語る人がいたのは、この本のせいだったんだろう。わりと生協の本屋とかでも原書も翻訳書も常に置いてあったし、昔から目には入っていたが、建築学にも文化人類学にもあまり興味がなく、タイトル的にも惹かれないので、ずっと手にしていなかった。

最近建築家の人がこの本に触れていたので、急に気になって読んでみたが、まあ確かに読んでよかった。最初のほうの動物の話はあまり興味がないが、特に日本庭園とか絵画における距離感の描き方の分析は勉強になった。日本庭園なんて、なんか無意味に気取った錦鯉を泳がせておく金持ち趣味くらいにしか思っていなかったが、本書によると、散歩して筋肉の動きなどで空間を感じるために設計され尽くされているらしい。画家の空間の描き方なんかも、言われてみればということが色々ある。この本を読んで、その場で自分のいる周りの空間を見渡すと、見え方が変わってくる。世界観が変わると言っても言い過ぎではないかもしれない…。

建築家の人は常にこういうことを考えているんだろうし、建築学の書棚にはこういう主題の本はほかにもいろいろあるのかもしれないけど、わたしとしては斬新な考察だった。やっぱり色々興味なさそうな分野の本も読んでみるものだ、という感想。

I do not know much about this field, namely "proxemics", architecture or cultural anthoropology, but I found this book is fascinating. Nobody can escape from influencies of proxemics.

Anchor(1990/10/1)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0385084765

2022年12月21日水曜日

Randall Munroe "What If? 2: Additional Serious Scientific Answers to Absurd Hypothetical Questions" [もし-だったら2 :無茶な仮定の質問に対する追加の真剣な科学的な回答]

"What If?"の続編。前が八年も前というのが信じられないが、この間"How to"とか"Thing Explainer"もあったし、何より著者のサイトxkcd.comを頻繁に見ているから、あまり久しぶりな気がしない。

内容は副題の通り前著"What If?の継続で、基本的にはxkcd.comで受け付けた質問に対する回答という形式。最初のうちはただの数値推定みたいな話が多くて(フェルミ推定とかいうのが流行った時期だろうか)、面白いのもあればそれほどでもないのもある。考えたら、出版界でムダに真剣な科学的考察というのが流行った時期が確かにあったが、生き残っているのはこの著者だけのような気もする。こういうの何人もいらないからな…。読むなら前著から読みたいような気もするが、別にこの本から読んでもいいし、何ならどこから読んでもいい。翻訳はまだ出ていないようだが、そのうち出るんじゃないだろうか。誰が読んでも面白いとは思えないが、xkcd.comのファンは全員読むだろう。

Great, as expected.

Hodder & Stoughton (2022/9/13)
言語:英語
ISBN-13:978-1473680623

2022年10月20日木曜日

Warwick F. Vincent "Lakes: A Very Short Introduction" [湖:非常に短い入門]

目次:1.導入 2.深い水 3.太陽光と動き 4.生命を支えるシステム 5.魚に至る食物連鎖 6.極限の湖 7.湖とわたしたち

全く個人的な話だが、わたしにとって湖とはまず第一に琵琶湖Lake Biwaであり、その点については、近畿圏以外の人間、特に関東地方の人間が琵琶湖の大きさを過小評価しているのが気になっている。琵琶湖の大きさは滋賀県の1/6程度だが、これは東京23区を全部足したより余裕で大きい。東京23区を全部水没させても琵琶湖より小さいのである。これだけは言っておかないと、「琵琶湖で泳ぐ」という行為がほぼ海水浴と同等であることが理解されない。当然それなりに危険もある。

その琵琶湖は昔は南部の水質が悪くてそこから引く京都大阪の水は不味いというもっぱらの評判だったが、最近では随分改善されたんだろう。飲んでいないから知らないが。淀川もきれいになり過ぎ、そもそも瀬戸内海がきれいになり過ぎてもう少し汚さないと生態系に悪影響とかそんな話になっている。

というようなことがあって、元々平均的な日本人より湖について詳しいということもあるが、最近は公害防止管理者・水質一種を取ったこともあって、この本に書いてあるような生物物理化学地学みたいな理屈の話は実はあまり知らないことがない。世界の色々な湖の自然史みたいな話は楽しい。陸水に興味のある学生向けの入門書としても優れているのだろうが、一般人としては普段から湖の傍に住んでいる人は必読かもしれない。湖はそれぞれに個性があって一般論で語り切れないところもあるが、一般論も知っておいたほうが人生も楽しい。

I guess that this is not only an excellent introduction for limnology, but for all the people who live near a lake will appreciate this book. Although every lake have its own peculiarities, knowledge of some general limnology will your lake life more interesting.

Oxford Univ Pr (2018/4/1)
言語:英語
ISBN-13:978-0198766735