2024年12月25日水曜日

Imari Walker-Franklin, Jenna Jambeck "Plastics" [プラスチック]

 Plastics (Amazon.co.jp)

目次:1. 導入 2. プラスチック製造と利用 3. 廃プラスチックを管理する 4. プラスチックゴミの発見 5. プラスチックに関連する化学物質 6. プラスチックの環境への影響 7. プラスチックの社会への影響 8. プラスチック政策 9. プラスチックの代替と介入

プラスチックの環境問題に関する解説書。高分子化学や石油化学工業の解説書ではない。ただし予備知識として、プラスチックの何が問題なのかを論じている部分を理解するためには、日本の高校程度の化学の知識が必要かと思われる。解決策について論じている部分については、そのような知識はあまり必要ではない。著者たちはこの問題が化学で直接解決できるとは信じていないようで、その方面に深入りしていない。

というのも、現状ではエベレストの頂上だろうとマリアナ海溝の底だろうと農産物だろうと人体の中だろうと、この惑星は既にプラスチックに汚染されきっており、仮にプラスチックが今すぐ全部生産停止になっても、今後数十万年は被害は出続ける。海岸や川で多少ゴミ拾いをしたところで、生産量が圧倒的過ぎて焼け石に水。ゴミを捨てるなとかいう道徳的キャンペーンで解決する社会問題なんか存在しない。どんなに気を付けてもプラスチックは環境に流れ出る。これらの手段が無意味というわけではないが、根本的に生産を規制する以外にないというのが著者たちの立場のようだ。ちなみにプラスチックの大半を消費しているのは包装であり、ここが主要なターゲットになるだろう。

しかし、この本の著者たちは知らなかったことだが、これから第二次トランプ政権が始まるというようなことで、状況は悪化している。著者たちはgreenwashを非難しているが、世界はwoke mind cultureにうんざりしている。環境問題に右翼も左翼もないはずだが、現実にはそんなことになっていない。

個人的に思い返すと、公害防止管理者試験で、騒音振動・大気一種・水質一種に合格したが、廃プラスチックとかいう話は記憶にない。そのうちプラスチック一種とかできるかもしれないが、結局、この本でも問題にしているように、プラスチック公害は基本的に消費者の責任にされていて、生産者は責任を逃れ続けている。

そんなことで色々考えさせる本だったが、この本は入口としてはいいけど、個人的にはもう少し化学工業について勉強していこうと思っている。

The MIT Press (2023/8/22)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262547017

2024年12月22日日曜日

Howard J. Herzog "Carbon Capture" [炭素捕獲]

 Carbon Capture (Amazon.co.jp)

目次:1. 気候変動 2. 化石燃料 3. 炭素捕獲 4. 炭素貯留と利用 5. 実際の炭素捕獲 6. 負の排出 7. 政策と政治 8. 未来

タイトルの意味が分からない人が多いと思うが、要するに主に排気ガスから二酸化炭素を抽出して、大気中に放出せずにどこかに貯蔵する技術の解説。現実的には主に火力発電所やセメント工場などの煙道ガスからSOx・NOxなどを取り除いた後で吸収塔で二酸化炭素を吸収し、吸収した二酸化炭素は分離して地層処分することになる。初心者でも読めることになっているが、予備知識として基本的な化学工業の知識の他、火力発電所の仕組みを概念的にでも把握している必要があるだろう。

…と言っただけで、普通の人は色々な疑問が湧くのではないかと思う。①地面にCO2みたいな気体を埋めても漏れてくるんじゃないかとか、②CO2みたいな不活性な物質を分離するのは高価過ぎるんじゃないかとか、③そんなことができるんなら地球温暖化なんか簡単にキャンセルできるのに何でさっさとやらないのかとか。この類の疑問を持つ人なら読んで面白いのではなかろうか。

わたし個人としては、CCS(Carbon Capture & Storage)については公害防止管理者/エネ管/電験の勉強をしていた時に、時々情報は入っていた。と言っても、煙道ガス処理についてはSOx・NOx・煤塵が主で、CO2については煙道の前にそもそも発生を抑える話がこの類の技術の基本だ。そんなことでCCSの話が出てもあまり真剣に考えていなかった。実際、この本の著者も認めているように、最近あまり支持者のいない技術である。ただ、別に技術的に困難とか地球温暖化対策に対して無意味とかいうことではなく、単に政治的な理由による、という。

それとは少し違う話で、最近特に化学系の会社を調べていると、やたらアミンを全面に押してくる会社が多い。アミン類自体多様な用途があるが、一つには業界的にはCCSに未来を見ているのも理由らしい。煙道ガスからCO2を回収する方法は本書にも色々述べられているが、現在の主力はアミンを用いる方法で、煙道ガス中のCO2の90%以上を回収でき、回収されたCO2の純度は99%以上という。

というような話に興味を持てる人には良いCCS入門書だと思う。というか、これ以外に素人向けの本があるのだろうか。ところどころ書き方が整理されていないように見える部分もあるが、大した問題じゃないだろう。

出版社 ‏ : ‎ MIT Press (2018/8/17)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262535755

2024年12月18日水曜日

Markus K. Brunnermeier, Ricardo Reis "A Crash Course on Crises: Macroeconomic Concepts for Run-Ups, Collapses, and Recoveries" [危機についての緊急講義:急騰・急落・回復に関するマクロ経済の概念]

A Crash Course on Crises (Amazon.co.jp)

目次:1. 導入 2. バブルと信念 3. 資本流入とその(誤)配分 4. 銀行とその仲間たち 5. システムリスク・増幅・伝染 6. 支払い能力と流動性 7. 民間部門と公共部門の関係 8. 安全資産への逃避 9. 為替レート政策と回復速度 10. 新しい伝統的金融政策 11. 財政政策と実質金利 12. 結論

金融危機に関する10の考え方(2-11章)をまとめたもの。予備知識として経済学部で最初に教科書で学ぶ程度の知識は必要かと思われる。というか、教科書は正常な状態の金融経済の説明が主で、金融危機みたいな異常事態には深入りしていない。その部分を補完するような本で、それ自体面白いし、正常時の金融理論の理解も深まる。2-11章の各章はそれぞれ考え方の説明と実例から成る。

2...バブルと分かっていてもバブルに乗らざるを得ないことのゲーム理論ぽい考え方。

3...何らかの理由で生産性の低い部門に資源が優先配分されてしまうことによる経済低迷。

4...影の銀行によるリスク増大。

5...現代の銀行が他行を模倣することによるリスクの増大。

6...債務超過と単なる流動性不足の区別をすることの難しさ。

7...国が銀行を保証するが、その銀行が国債を保有していることによる悪循環。

8...安全資産の自己成就的性質による危機増幅。

9...負債が外貨建てで資産が自国通貨である場合の為替によるダメージ。

10...準備の飽和・量的緩和・イールドカーブコントロールとか要は日銀がやっていること。

11...危機時の財政出動に関する最新の見解。

改めて見直すと、一つ一つは別に新しくないが、整理されていて分かりやすい。それぞれの項目について原理的な説明と実例のセットというフォーマットも簡単で良い。専門家から見れば実態を単純化し過ぎということかもしれないが、基本的な「経済学論法」の学習という意味もある。

出版社 ‏ : ‎ Princeton Univ Pr (2023/6/6)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0691221106

2024年12月16日月曜日

Jeffrey Pomerantz "Metadata" [メタデータ]

 Metadata (Amazon.co.jp)

目次:1. 導入 2. 定義 3. 記述メタデータ 4. 管理メタデータ 5. 使用メタデータ 6. メタデータを使う技術 7. 意味論的ウェブ

ほぼ十年前の本だが、扱っている内容が基礎的というか原理的なので、あまり内容は古くなっていない。博物館員・図書館員その他データベース技術者がメタデータを実際に扱うための分厚い本は外にも新しい本が色々あるが、まともにストーリーとして通して読める本としては、多分これが今でも唯一じゃないかなあ…。

読むのに特に前提知識はいらない。Mona Lisaが例として使われるのはこの類の話の定例で、何らかのデータベースを使ったことのある人なら読めると思う。Dublin CoreとかRDFから順にPREMISやらMETSやらDTDやらXMLやらLinked Dataやらschema.orgやら。だいたい基本的なスキーマをその背景などから解説していて読み易い。とは言え、今挙げたスキーマを全く聞いたことがないという人がこの話を面白いと思うかどうかは保証できない。無関係な人はいないはずだし、ITリテラシという意味では必須科目だとは思うが、知らなくても生きていけることではある。

そういうことでは冒頭と最後にSnowden事件の話が出ているが、これが素人にも分かりやすく興味を引くかもしれない。ただSnowden事件自体が古いからな…。あと最後のSemantic WebとかAgent志向みたいな話は、さすがに十年前という気もする。Generative AIが発展する前の時代なので、今ならもっと違う書き様もあるだろう。ただし、繰り返すが、メタデータの必要性は今も昔も変わっておらず、今でもこの本が基礎を学ぶ最善の方法だと思う。世に出ている本の多くは技術的細部に入り過ぎていて、専門家用の辞書でしかない。

もちろん文書館員美術館学芸員その他、いわゆる大量の文化遺産を扱う人にとっては基礎知識なので、多分全員読んだほうがいい。そうなってくると、なぜこの本が日本語訳されていないのかのほうが気になる。こんな本が翻訳されれば最低でも全国の関係機関が一冊ずつ買うわけだから、確実に売り上げが計算できるように思う。古い部分は専門家がupdateの監修すればいいだろう。出版業界もチャンスを随分逃している、というか出版業界自体がメタデータに重く依存している業界なわけで、これくらいの知識は必須だ。

個人的にはもう少し実際のEuropeanaやDPLAの実装を見たいが、もちろんそういうのはこの本の視野を越える。実際には実装については日進月歩なので各機関のWebサイトにある仕様を確認するしかない。

出版社 ‏ : ‎ MIT Press (2015/11/6)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262528511

2024年12月5日木曜日

Daron Acemoglu, James A. Robinson "Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty" [国家はなぜ衰退するのか:権力と繁栄と貧困の起源]

Why Nations Fail (Amazon.co.jp)
国家はなぜ衰退するのか(上)(Amazon.co.jp)
国家はなぜ衰退するのか(下)(Amazon.co.jp)

原著2012年刊の時点で注目していた本だが、気になりながらずっと放置しているうちに2024年ノーベル経済学賞受賞ということで、読むしかなくなった。

ずっと放置していた最大の理由は書名が大風呂敷過ぎるように感じたからだが、実は書名の質問に対する答えは比較的単純なものだ。わたしがまとめると、要するに1私有財産権が守られないほどの無政府状態になるか2ごく一部の政治エリート層が富を独占して残りの国民から搾取するから。このどちらでも、技術革新が起こらないので国家が衰退する。

1の状態は論外として、2の状態では、例えば貴族と奴隷みたいな社会だと、好き放題収奪される奴隷の側では技術革新を起こす理由がないし、外国から新技術を取り入れる理由もない。エリート層は自分たちの地位を守るために技術革新を阻止する。さらに2の状態ではクーデターの魅力が大きい。その結果、革命は起こるが、単に支配者が入れ替わるだけで少数が多数を抑圧搾取する構造は何も変わらない。

実例が大量に挙げられ、ほとんど世界史のおさらいみたいになる。本書が分厚く見えるのはそのせいで、書いている理論が難しいからではない。例えば韓国と北朝鮮のとんでもない格差の原因は、北朝鮮では一部エリートが政治権力を独占していて私有財産権が認められていないからだとか。面白いけど、高校生程度の世界史の知識は必要かもしれない。

などと言っているうちに、つい先日、韓国の大統領が突然夜中に非常戒厳を発令していて何のこっちゃみたいな話になっている。そもそも軍隊も警察も真剣に従わない。しかし、同じ話が中南米とかアフリカとかで発生しても、そんなに驚かない。この違いは民度がどうとかいう話ではなく…という話はこの本を読んだ人と語る話だ。最近ダボス会議でのアルゼンチンの大統領の演説もだいたいこの本の路線に乗ったものだっただろうか。

面白くてわりと一気に読んだ本だった。あまり大風呂敷系のタイトルは読まないけど、この著者については読んでいってもいいかもしれない。

Crown Currency (2013/9/17)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0307719225

2024年11月23日土曜日

Arthur Conan Doyle "The Valley of Fear" [恐怖の谷]

The Valley of Fear (Amazon.co.jp)

ホームズの四つの長編のうち最後のものだが、これなあ…。まあ退屈はしないし一気に読んだが、人気のないほうの作品だろう。ネタバレは避けるが、犯罪の背景が巨大なのはたまにあることで、前半がホームズの推理パート、後半は別の主人公が活躍する。さらにEpilogueがある。

前半部分についてはそもそも事件自体が粗い。後半については、少なくともわたしには最初からネタがだいたい分かったし(前半を踏まえたら分かりそうなものだ)、全く意外性がない。特に主人公が勝ち誇るクダリなんか読んでいられないところがある。ずっと一体何を読まされているんだとずっと思っていたが、意表をつかれたという感想の人も多いようなので、人それぞれかもしれない。

しかし、その点を別にしても、特に後半、愉快な話ではないし、推理小説というよりはそれこそdime novelみたいに思える。最後も後味がよくない。こんなEpilogueを書く必要があったかね。ずっとホームズを発表順に読んでいるが、気を取り直して後二冊。

Flame Tree Collectable Classics(2023/6/27)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1804175606

2024年11月19日火曜日

Earl Conee, Theodore Sider "Riddles of Existence: A Guided Tour of Metaphysics" [存在の謎:形而上学の案内付き旅行]

 Riddles of Existence (Amazon.co.jp)

目次:1. 人の同一性 2. 運命論 3. 時 4. 神 5. なぜ無でないのか? 6. 自由意志と決定論 7. 構成 8. 普遍者 9. 可能性と必然性 10. 倫理の形而上学 11. 形而上学とは何か? 12. 超形而上学

タイトルと目次から明らかなように、形而上学の入門書。個人的には散々読んでいる話で、今更なんでこんな本を買って放置していたのか忘れたが、改めて読むと面白いというより懐かしい。この本については分析哲学の流れの中にある本の通例で、特に読むのに予備知識は必要ない。ただ、相当の論理的思考力と、それを無駄遣いする覚悟が必要だ。

個人的にはこういうのはもう、現実の真理について考察しているというよりは、人間の思考の構造について調べているような気がして、そこまで微細な議論を追い求める気もあまりない。最近は脱構築なんて流行らないのかもしれないが、結局、人間の考えることなんか厳密化していくと大体自己矛盾に陥って、それも言葉というものの本性上仕方がないのではないかとか、そんなのがわたしの今の気分だ。

Oxford Univ Pr; New版 (2015/2/4)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198724049

2024年11月14日木曜日

Jean Servier "Les Berbères" [ベルベル人]

Les Berbères (Amazon.co.jp)

ベルベル人と言われても何のことか分からない人も多いと思われるが、フランス語やフランス文化を学ぶ人は「マグリブ」という謎の地名と共に必ず聞く話である。大雑把にはマグリブとはアフリカ北部の地中海沿岸地域で、ベルベル人は主にその辺りに住んでいる民族ということになるだろうか。ただ漠然とした印象では、当人たちがあまり民族という概念を尊んでいる感じがないし、あのあたりの通例で部族という概念のほうが強いのだろう。だいたいがイスラム教徒で、ベルベル諸語と言われるような言葉が話されていたりする。…というくらい。

で、正規のフランス語のコース教材みたいなを勉強していると、このマグリブとかベルベル人という概念がやたら出てくる。一応「先住民族」みたいな扱いもあり、「多様性を尊重する」とかいう流れの中で、公式な出版物ではかなり紙面面積を取る。本人たちがあまり民族性を主張していないのに、フランス政府が無理矢理一つの民族という枠にハメている感じは否めないが…。とにかく、今の価値観が「全人類を対等の権利を持つ民族集団に区分して各集団に平等にリソースを割り振る」ということになっているから仕方がない。

そういう背景があって、フランス文化の勉強をしているとあちこちで散発的にマグリブ文化の話を聞かされるが、結局ベルベル人というのが何なのかということになるとまとまった記述がない。あるとしたらこの本が第一と思われる。この本自体は教科書的というか公式的で読み物としてそんなに面白くないと思うが、散発的に聞いている話がまとまる感じはある。

QUE SAIS JE (1 mars 2017)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2130792833

2024年11月3日日曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid #19: Hot Mess" [軟弱な子供の日記#19:大混乱]

Diary of a Wimpy Kid #19 (Amazon.co.jp)
グレッグのダメ日記19(Amazon.co.jp)

一応ユーモア児童書扱いでポプラ社は翻訳を続けるようだ。世界的には売れている本だが、日本でも売れているのだろうか。一応各巻独立に読めるが、順に読むに越したことはない。この19巻は祖母の指令で母の姉妹たち及びその子供とかとビーチに泊りがけで行く話。この巻は低調だったような気もするけど、わたしの個人的な問題かもしれない。わたしは親族と言う概念があまり良く分からない。親族がいる人にはリアリティがあるのかもしれない。あと、だいたいオチが読めていたのもしんどかったか…。今回も犯罪すれすれという話もある上に、わたしから見ればグロ過ぎるように思える話もあるが、やはり個人的な問題かもしれない。

それはそれとして本の内容と別の話だが、この本は入手に手間取った。まずAmazon.co.jpに予約していたのが発売前から勝手にキャンセルされる。何度問い合わせてもまともな返事が来ない。割が合わないから入荷するのを止めたのだろう。随分前に予約して円安が進行したせいもあるかもしれない。楽天ブックスは表示されている値段が安いだけで、実際には商品が確保されることはない。一か月くらい経ってから「確保できませんでした」とかいうメールが来るだけだ。どっちにしろ不誠実だ。丸善は在庫が出ない以前にタイトルがヒットしない。多分システムの問題で店頭で調査すればまた違うかもしれない。結局、紀伊国屋書店に店頭在庫があり、確保した上で買いに行った。

  • ヨドバシ.com…新刊和書なら一番割安で住んでいる場所によっては配送もスゴく速い。ただし、すぐに品切れになる上に洋書は不可。
  • Amazon.co.jp…わりと万能だが、そんなわけで最近紙の洋書の入手が悪くなっている。発注を受けてから他のサイトを調べるだけの出品者が多い。どうしてもならAmazon.comとかAmazon.fr。
  • 楽天Books…発注したことは何度もあるが、届いたことは一度もない。新刊和書ならいいのかもしれない。
  • 丸善ジュンク堂…個人的に近所にあるし、店頭在庫が多いが、そんなわけでWebで見えないことがある。高い感じはある。
  • 紀伊国屋書店…大手取次でない出版物や海外取り寄せで結構使っている。信頼できる。

Harry N. Abrams (2024/10/22)
言語 :英語
ISBN-13 : 978-1419766954

2024年10月27日日曜日

T. Edward Damer "Attacking Faulty Reasoning: A Practical Guide to Fallacy-Free Arguments" [誤った推論を攻撃する:誤謬のない議論のための実践手引き]

Attacking Faulty Reasoning (Amazon.co.jp)

目次:1. 知的行動の規範 2. 議論とは何か 3. 良い議論とは何か 4. 誤謬とは何か 5. 構造規準を犯す誤謬 6. 関連性基準を犯す誤謬 7. 許容性基準を犯す誤謬 8. 十分性規準を犯す誤謬 9. 反論性基準を犯す誤謬 10.論述文を書く

まともな議論をするためのガイドブック。大学の講義の一年分の教科書だろう。定評があるようでわたしが読んだのは第七版だ。グループワークみたいなのも各章ごとについている。最初の方はわりと形式論理学寄りだが、後半はより広く例えば「人格攻撃」とか「ギャンブラーの誤謬」みたいな非学術的な話が増える。誤謬を相手に対して指摘する方法などもわりと記述されており、その意味では論理学の本というよりは実践ガイドである。ディベートなどに有用だが、実際にはこれくらいのことは大学一回生で全員履修したほうがいい。社会科学に比べれば、数学や物理学は極めて原始的な論理しか使わないが、にしても政治経済その他日常生活で論述したくなることもあるだろうし、その時に欠陥だらけの論述をするようでは格好がつかない。実際そんなことも多いし…。

だいたいがわたしは理屈っぽいと言われるほうで、この類の本は昔は大量に読んでいた。色々考えることについては今でもしているが、もう他人の誤りを指摘するような用事からは長らく離れている。結局、人は誤りを指摘されるのを好まない。だったら自分でこの類の本でも勉強して自分で自分の誤りを発見できるようになったほうがいいと思うが。

この本が必修になれば、議論をする時に「それはundistributive middle termだね」などと捗るような気もするが、そんな世の中は来ないし、そうなったところで本当に捗るのかどうか不明だ。この類の本を読む人はそもそも議論の価値を重く見過ぎている気もする。純粋に仮想の話だが、「憲法二十四条が同性婚を認めているとは考えられず、基本的人権に反するのなら憲法のほうが間違っているので憲法を改正するべきである」などと言い始めたとしても、論理的な反論より現実的というか政治的と言うか暴力による反論のほうが大きすぎてほぼ無意味かと思われる。「インフレが厳しいからといって補助金を配っていたらますます円安になってさらにインフレが加速する」などという論理で政治が動くだろうか。しかし、この例については思考に論理的欠陥がないことが個人の利益に直結しかねない。

というわけで、わたしはこの本が想定しているような討論的な意味での論理的議論には悲観的だが、それにしても自分の判断を誤らないためにだけでも、こういう勉強は全員必修だと思っている。分厚いと言う欠点はあるが、さしあたりこの類の本の中では最高峰ではないだろうか。まあ自己啓発書のコーナーには「論理トレーニング」的な薄い本もよくあり、ああいうのでも読まないよりいいと思うが。

Wadsworth Pub Co; 第7版 (2012/1/9)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1133049982

2024年10月21日月曜日

Arthur Conan Doyle "The Return of Sherlock Holmes" [シャーロック・ホームズの帰還]

The Return of Sherlock Holmes(Amazon.co.jp)

これも面白かった。内容は詳しく書く必要もない。死んだはずのホームズが復活してまた活躍する短編集。といっても一応また引退するような感じになっている。書き方がどんどん近代化していく感じはあるが、安心して読んでいられる。ホームズ作品を読む人は、まずホームズという人物像が好きなんだと思うが、わたしはあまりそういう感じではない。ただまあ、Baker Streetのアパートに貴人が訪れる図はカッコいいかなあと思い始めた。発表順に読んでいくと次は恐怖の谷。

Independently published (2022/7/20)
言語 : 英語 ISBN-13 :979-8841602958

2024年9月18日水曜日

Arthur Conan Doyle "The Hound of the Baskervilles" [バスカヴィル家の犬]

 The Hound of the Baskervilles (Amazon.co.jp) / バスカヴィル家の犬(Amazon.co.jp)

推理小説だしネタバレになっても詰まらないから内容は詳しく書かない。ここまでホームズをだいたい発表順に読んできて、わたしとしてはこれが一番面白いように思うが、一般的にはそこまでは人気はないようだ。最大の理由はホームズが出てこない部分が長すぎるということらしいが、一つには、舞台となる荒野/湿地帯/新石器時代の石造りの家々を思い浮かべにくいからだろう。この点については日本人だけでなく英国人にとってもあまり変わらないのかもしれない。ただし、わたしはここまで大量にWooden BooksでUKの新石器時代の遺跡と荒野を見てきたから、問題にならない。名作だった。

SeaWolf Press (2018/10/22)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1949460513

2024年9月11日水曜日

Marlene Zuk, Leigh W. Simmons "Sexual Selection: A Very Short Introduction" [性淘汰:非常に短い入門]

Sexual Selection (Amazon.co.jp)

目次:1. ダーウィンのもう一つの大きなアイデア 2. 配偶システム、誰と誰がどれくらい長く 3. 競争者の中から選ぶこと 4. 性的役割とステレオタイプ 5. 交尾の後の性的淘汰 6. 性的対立 7. 性はどのように種を存続させるか 8. 結論、ここからどこへ

性淘汰の動物博物誌という感じ。素人の想像以上に色々なパターンがあって、それはそれで楽しい。ヒトで言えば「どういうのがモテるか」という話だが、結論から言うと、そういう話はよく分からない。それ以前に動物でも「なぜその特徴を持っているとモテるのか」ということが分からないことが多過ぎる。たとえば、どう考えても生存に不利な特徴を持っているオスがメスに選好される種があったとして、人間が理屈をつけるとすると「そのようなどうでもいい特徴に資源を割り振れるだけの余裕があると見なされるから」とかいうことになるが、仮説でしかない。その後その特徴が実は生存に有利なことが判明するかもしれない。この本でも色々な現象について色々な説明が試みられるが、話半分というところだろう。もちろん、そういう話半分な話が好きな人には色々面白いと思う。

‎Oxford Univ Pr (2018/11/1)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198778752

2024年8月8日木曜日

Hamish Miller "Dowsing" [ダウジング]

Dowsing (Amazon.co.jp)

わたしは超常現象とかが好きなので知っているが、普通の人は知らないものだろうか。ダウジングとは手にもった棒や振り子の振れで、地下にある物体を検知する技術である。ドラえもんのわりと初期のほうの話であったと思う。正直なところ、Wooden Booksにしても、オカルトにもほどがある。本書によると歴史は相当古い。具体的な方法も書かれているが、これ、本当に真に受けて子供たちがやって楽しめるのかなあ…。最後のほうは道具すら使わず、素手でなんか地球のエネルギーを感じるとか、当然leyとかearth gridsとかよくわからない領域に突入しており、いやまあ、確かにそんな感じの大人も多いが…。そして、この本の評判が非常に良いという事実があり、世間では必要とされているんだろう。何にしろ、聞いたことがないのなら知っておいたほうがいいし、この本も悪くないのかもしれない。ストーンヘンジの上でこんなことをしていたら笑われるのか、それともそんな人はよくいるのか。

Wooden Books (2007/2/14)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263531

2024年8月7日水曜日

Jason Martineau "Love: The Song of the Universe" [愛:宇宙の歌]

Love (Amazon.co.jp)

タイトルはさておいても始まりが"What is love?"とかいうヤバい始まり方で、OEDによればとかいう話にならないのは僥倖だったかもしれない。中身はというと、色々回り道をしつつ結局男女の話で、いろんな神話や文学や芸術を適当に拾っている感じ。エロい話も少なく、人文エッセイみたいな。趣味が合うかどうかだろうな。一般に評判はいいようだ。わたしはというと恋愛小説を回避する人種だが、ちょっとはこんな分野も見て行かないと古典絵画とか見れないよなあ…くらいの気分で眺めているくらい。

Bloomsbury Pub Plc USA (2014/12/30)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1620402566

Jewels Rocka "Divination: Elements of Wisdom" [占い:知恵の要素]

Divnation (Amazon.co.jp)

色々な占いを集めた本。日本からは九星気学とかいうのがエントリーしている。わたしはカレンダーに六曜が書いてあるのもウザいと思っており、天気を占うのにネコの行動を観察するより天気図を用いるタイプだが、それはそれとして、こういう知識がないと読めない西洋の小説などもある。体の痒い所占いに至っては冗談たど思われるが、子供の頃に読んでいたら楽しかったかもしれない。

Wooden Books (2021/3/8)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263845

2024年8月6日火曜日

Alec Thompson "Daydreams & Thought Experiments" [白昼夢と思考実験]

Daydreams (Amazon.co.jp)

最初のほうは白昼夢というか楽しい妄想みたいな話だが、メインになるのは特に「テセウスの舟」や「トロリー問題」など英米哲学で問題になるような思考実験のコレクション。最後のほうは「シュレディンガーの猫」とか「サスキンドの象」というような物理学の話。合間には禅の公案まであり。わたしとしてはあまり知らない話は出てこないのだが、多くの人にとっては初耳な話も多いだろう。聞いたことがあっても楽しめる。一つにはイラストがいい。これは無限に時間をつぶせるので、翻訳して新幹線の駅の売店にでもおいておくべきだと思う。あまりちゃちな装丁にしてほしくないが。良い本だ。

Best book for a long travel.

Wooden Books (2023/10/15)
言語 : 英語
ISBN-13 :978-1907155550

2024年7月16日火曜日

E. M. Cioran "De l'inconvénient d'être né" [生誕の災厄]

De l'inconvénient d'être né (Amazon.co.jp)
生誕の災厄 (Amazon.co.jp)

この著者の作品としてはHistoire et Utopieに続いて読むのは二冊目だが、多分これ以上読まないな。これは断章集ということで、読みやすいと言えば読みやすいが、ひたすら愚痴がならんでいる。生まれるより生まれないほうが良い、という考え方は東洋では普通だし、この本も頻繁に仏教に言及するが、西洋の思想の流れでは、こんなに攻撃的になるしかないのだろうか。著者には仏教だけでなく、無為を良しとする老荘もしっかり読んでほしかったところだ。なかなか我々日本人みたいにスムーズに理解できないのかもしれないが。

この著者の中核となる思想は「人間のやることは最終的にはすべて人間に刃向かってくる」みたいなことだと思われ、その件について具体例を詳説するのはほかの著述でやっているんだろう。別にそれはいいが、東洋では「だからバカバカしいことをしないで、のんびり生きましょう」とむしろ明るい話になる。この著者がやたら攻撃的になるのは、一つにはまだナチスの災厄が生々しかったり共産主義の災害が明白になった時代背景のせいだろうか。しかし、そのわりには愚痴が個人的である。何かを断罪するには、何かの判断基準を持っている必要があるが、この人が何を基準に文句を言っているのか謎だ。結局ニーチェ的というか、西洋哲学が約束した明るい未来が基準なのだろうか。それに現実が見合わないとか内部矛盾があると文句を言うのは、不毛かもしれないが一応筋は通っている。

そのニーチェについて著者は、「偶像を破壊したが別の偶像を建てた」みたいなことを言っていて、これは御尤もな話だ。時々こういう良いことを言うし、人それぞれこの本から拾うところはあると思う。日本語訳もあることなので、特に反出生主義を極めたいムキには必読書かもしれない。

Editions Gallimard (1 janvier 1987)
français

2024年7月14日日曜日

Marya Schechtman "The Self: A Very Short Introduction" [自己:非常に短い入門]

The Self (Amazon.co.jp)

目次:1.形而上学的自己 2.他の誰かになること 3.自分自身であること 4.満ち欠けする自己 5.分裂し混乱する自己 6.身体化された社会的自己

第1章は、よくある「原子レベルで人を分解して遠方の惑星にそいつを再現したら、それはは元のそいつと言えるのか」みたいな話。第2章は比喩的な意味で「別人になった」みたいな話。第3章は洗脳やら社会的偏見に抵抗して言われる「Be yourself, no matter what they say」みたいな話。第4章は子供や老人性痴呆みたいな話。第5章は精神病の例。第6章は生物学や社会的に構成された自己の話。

読むのにかなり時間がかかった。実はわたしとしてはそんなに斬新な話はなかったように思う。わたしにとってテーマの根本は第一章で、たとえば心と体が入れ替わったらみたいなよくある議論。そこからすると、残りの章は余計な回り道のような気もするが、それぞれ面白い話もあるし、第一章のテーマを再考するきっかけにもなるかもしれない。個人的には、生物学、特に免疫系の自他識別が上昇していって神経レベルで表現されたのが自己だとかいう説は斬新だった。

後はわたし自身の考えだが、「自分」というのは要はヒトという動物種で個体間の関係を調整するために必要な概念というだけで、別に実体があるわけじゃないし、必然的に「自分」という言葉がどういう風に使用されているかの研究になるしかないだろうとは思っている。本書で語られているような精神病理の例を見ると、概念の混乱が生物学的な振舞にまで影響することもあり得るんだろう。…というくらいに思っているが、今後の研究の進展によってはまだ分からないけど、この話で良く出てくる脳梁切断の話とか、どこまで真に受けて良いのかとも思う。

Oxford Univ Pr (2024/6/28)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0198835257

2024年5月28日火曜日

Laugh "Bender Heaven: The UK Traveller's Good Home Guide" [曲げ木天国:UK旅行者のための良い家案内]

Benderに適当な日本語訳がないが、本質的には適当な弾力を持つ木を曲げてUの字みたいにして両端を地面に埋めて、それを一定数並べて上から布をかけるとテントみたいになるというようなことだ。イラストは豊富に載っているから見ればすぐにわかる。最終的には薪ストーブをテント内に持ち込んで煙突が外に出ていたりする。さらにその周辺事情というかキャンプ術みたいなのも紹介されている。ものすごく楽しそうだし、ほとんどマンガのような気もする。イギリスでできる以上は日本でもできそうだが、実際には…と思ってしまうな。まず場所が問題で、日本でそんなことができるところというと山になり、山となると熊が出る。イギリスにはこんなことができる場所がそんなにあるのだろうか。多分、富豪の館の巨大な敷地の一角に、実はまっとうな建材を使ったそれっぽい物を作るのがせいぜいだと思う。それはそれで楽しそうだが。宿泊施設にするとバンガローと変わらないか。給水設備とかトイレとか考えだすと、どんどん夢が壊れていく。

A lovely little book. In reality, however, do not take it seriously. It is not so practical.

Wooden Books (2008/3/20)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263692

2024年5月20日月曜日

Glennie Kindred "A Hedgerow Cookbook" [生垣料理本]

A Hedgerow Cookbook (Amazon.co.jp)

簡単に言うと雑草料理本で、世間の評判はかなり良い。しかし実際に料理をしているというよりは、読んでいて楽しいということだろう。実際にこの本を参考にして料理をするとなると、まず、雑草の見分け方が全く書いていない。火を通すにしても、素人が雑草とかキノコを食べるというのは結構危険なことだと思うが…。あと、完成したレシピが載っているわけではなく、基本的な調理法しか書いていない。料理への応用は各自研究せよということらしい。そしてやはり同じ温帯でも日本とは少し植生が違う。わたしもまあまあ雑草が好きだが、やはり野草はアクが強い。参考にはなるが、ガチ勢には色々足りない本だ。

Wooden Books (2000/1/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263036

George Wingfield "Glastonbury: Isle of Avalon" [グラストンベリ:アヴァロンの島]

Glastonbury (Amazon.co.jp)

例によって事実上の観光案内だが、これが一番開き直っていて、普通に散歩コースまで載っている。アーサー王だのイエスが来ただの色々適当な伝説が積み重なっているが、ほぼ出鱈目だろう。古い町には違いない。象徴的な丘は確かに異様だが、実際には若草山くらいだろうか。

Wooden Books (2007/10/16)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263197

2024年5月18日土曜日

Eli Maor, Eugen Jost "Pentagons and Pentagrams: An Illustrated History " [五角形と五芒星: 図解歴史]

Pentagons and Pentagrams (Amazon.co.jp)

1. 五 2.φ 3. しかしそれは神聖なのか? 4. 正五角形を作図すること 5. 五芒星 6. 五角星 7. 敷き詰め 8. 結晶の中の五回対称性の発見 9. ああその五角形

目次から分かるような五角形に関するよもやま話。五角形というのが微妙にマイナーで、ちょうど一冊の本を書きやすいのかもしれない。内容的には日本の高校生くらいなら読めるが、考えないでさらさら読めるような本でもない。しかし、ここまで詳しく五角形について知りたい人も少ないような気もする。わたしはというと、折り紙で正多面体を作っている時に、正十二面体だけ異常に難しくて気になったという経緯。と言っても、直接折り紙に応用できるわけでもない。美術作品などに黄金比を発見するのを批判しているクダリは高く評価したい。五角形好きにはお勧めできる。というか実際この本くらいしかないかもしれない。

Princeton Univ Pr(2022/9/27)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0691201122

Nicole Borelli, M. Jean-Marie Muracciole "150 expressions françaises illustrées et expliquées" [イラストと説明フランス語150の表現]

150 expressions françaises (Amazon.co.jp)

フランス語の慣用表現を150集めたもの。例えば表紙の絵は"être comme un poisson dans l'eau"。何語でもこの類の慣用句集はあるもので、現実にはそれほど頻繁に出会うわけではない。実際わたしもほとんど知らなかったし、今後も出会う気がしない。表紙にはB1-B2とあるが、実際にはC1レベルの試験対応というところじゃないだろうか。B1で読むのはしんどいかもしれない。実用的には試験対策以外に読む理由のない本の気がする。純粋に趣味で読む分には、一ページにつき一句ずつ解説と用例が載っているし、最後には丁寧に練習問題もついているから、読みやすい本には違いない。

ELLIPSES (2015/11/24)
言語 :フランス語
ISBN-13 :978-2340007574

2024年5月14日火曜日

E. M. Cioran "Histoire et Utopie" [歴史とユートピア]

Histoire et Utopie (Amazon.co.jp)

目次:1.遠方の友人への手紙 2.ロシアと自由のウイルス 3.暴君学校 4.怨恨のオデュセイア 5.ユートピアの機構 6.黄金時代

20世紀の中盤から後半にかけての基本的にパリ在住のルーマニア人哲学者だが、知っている人は少ないだろう。古い言い方で「カルト的な人気を誇る哲学者」みたいな感じ。基本的に暗いというか、書いていることが絶望的である。それもショーペンハウアーみたいな静かな絶望より遥かに攻撃的であり、人間性というものをひたすらこき下ろしている感じ。ショーペンハウアーはまだ諦観の中で静かに暮らそうとするスタンスだが、こいつはとにかく黙らない。

この本は一言でいえば、人間というものは根本的に腐っているので、ユートピアなんか構想しても無意味という話。時代背景もあり、終わっている共産主義とか不毛な西側みたいな話が多い。さらに過去を夢見るのも未来に理想社会を描くのも同じく無意味とか、要するに全部こき下ろしているだけ。どれがまだマシとかいう話すら出てこない。

あまり他人に勧めたくなる本ではない。最もついていけないのは、筆者が人類の一般的な性質として想定しているらしい嫉妬の感情の強烈さだ。ただ、例えば、人間は何の制約もなければみんな暴君になるというような考え方は分かる。善悪の問題ではなく、それはそうなんだろう。そして、そうでなければ社会も成立しないような気もする…にしても筆者みたいに人間を断罪しても何にもなりませんね…とかいくらでも考えることはある。

なんでこんな本を読んだのか理由は忘れたが、多分、反出生主義の流れで引っかかったんだと思う。ここのところ、アメリカの自己啓発書ばかり読んでいたが、ああいうのは今の社会を前提にしてその中で楽観的にせいぜい自分のセコい利益を図ることしか考えていない。この本は逆に悲観的というのを通り越して絶望的だが、遥かにスケールは大きい。たまにはこういう本で中和してバランスをとったほうが良いかもしれない。

Editions Gallimard (20 mai 1960)
Langue: Français
ISBN-13 : 978-2070214594

2024年5月7日火曜日

Hugh Newman "Goebekli Tepe and Karahan Tepe: The World's First Megaliths" [ギョベクリ・テペとカラハン・テペ:世界初の巨石遺跡]

Goebekli Tepe and Karahan Tepe (Amazon.co.jp)

遺跡シリーズだがこれは異色でトルコ。巨石にこだわっているようだ。やはり新石器時代という扱いだが、イギリスの遺跡より古い上に出土品が洗練されている気がする。まだ発掘途中らしいが、相当昔から人類はこんなことをしていたらしい。人類学などではよく言われることだが、根本的に労働力が余っていたんだろうか。

Wooden Books (2023/10/15)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-1907155543

2024年4月18日木曜日

Hector McDonnell "Orkney: Megalithic Marvel of the Northern Isles" [オークニー:北部諸島の巨石遺跡]

Orkney (Amazon.co.jp)

オークニー諸島は歴史的政治的に色々ややこしいこともあったりするようだが、この本は基本的に新石器時代の墓に注力している。まあまあ有名な観光地らしいが、このシリーズにしては真面目な発掘調査報告書みたいな感じがある。ここに観光に行く時は、相当ヒマというか余裕があるというか、幸せな時だろうというような感じ。変な都会に行くよりいいかもなあ。

Wooden Books (2020/5/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263289

2024年4月12日金曜日

Mark Mills "Ancient English Cathedrals" [古代イギリスの大聖堂]

Ancient English Cathedrals (Amazon.co.jp)

イギリスの観光案内シリーズの一つ。アルファベット順に並んでいる。各聖堂の中のイラストと歴史など。一々色んな歴史があるものだ。イギリスの小説なんか読んでいると、教会でなくても古い邸宅に謎の地下室とか謎の歴史伝説が設定されているが、日本ではあったとしてもどうもドラマチックでない。あと、イラストで見る限りすべて広くて異常に天井が高いが、これで「瞑想に適している」は、わたしとしては無理がある。日本で言えばららぽくらいの商業施設の吹き抜けくらいの高さなんだろう。わたしも天井が高いのは好きだが、どう考えても空調が効かない。日本にも有名な建築家が建てた「光の教会」とかいう完全コンクリの教会が絶望的に寒くて有名だが、もしかすると教会というものは本質的にそうなのかもしれない。わたしは子供の頃は教会に通っていたこともあるし、今は週一くらいで寺に通っているが、天井が高いと言っても二階分くらいで、瞑想とかいうことなら、それくらいが妥当な気がする。建物の構造が瞑想の概念に影響しているかもしれない。

Wooden Books (2006/2/15)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263418

2024年4月11日木曜日

Michael Schneider "Proportion: In Art and Architecture" [芸術と建築の中の比率]

Proportion (Amazon.co.jp)

タイトルの通りの比率の図鑑。昔の数学の教科書に載っていたような、なんでもかんでも黄金比を当てはめている図よりは相当マシだが、本質はそういうこと。自然物ではなく設計された人工物の話なんで、説得力はある。にしても神奈川沖浪裏に線を引いているのは初めて見たが。正直わたしはあんまり感心しないが、面白いと思う人もいるんだろう。

Wooden Books (2022/11/1)
言語 : 英語
ISBN-13 :978-1907155482

2024年4月10日水曜日

Howard Crowhurst "Carnac: And Other Megalithic Sites in Southern Brittany" [カルナックと南ブルターニュの他の巨石遺跡]

Carnac(Amazon.co.jp)

Wooden Booksはたいていイギリスの遺跡を扱うが、これはフランス領らしく珍しい。しかし、内容はシリーズの他の本と同じくやはり遺跡の発掘調査報告書と謎の直線群と想像。これだけ読んでくると、だいたい全部同じに見えてくる。差が分かるほど詳しいわけでもない。この本もわたしも。

Wooden Books (2018/10/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263968

Philippa Lewis, Miles Thistlethwaite "Portals: Gates, Stiles, Windows, Bridges, & Other Crossings" [ポータル:門・踏み越し段・窓・橋とその他の横断]

Portals (Amazon.co.jp)

あまり見慣れないテーマだが、想定外に面白かった。要するに、二つの領域を往来できるようにする構造の図鑑。これだけ聞いても面白そうに思えないと思うが、馴染みがなさ過ぎて魅力が説明しにくい。もしかしたら建築系の人はこんなことを考えているのかもしれないなあ…というような考察が色々。たとえば15世紀~16世紀の本のタイトル頁にはよく門が描かれていて、読者を新しい未知の世界へといざなう、みたいな話は、なかなか掴まれる。良い本だった。

A fascinating little book.

Wooden Books (2016/8/31)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-1904263944

2024年4月9日火曜日

Gerald Ponting "Callanish and Other Megalithic Sites of the Outer Hebrides" [カラニシュとアウターヘブリディーズの巨石遺跡]

Callanish (Amazon.co.jp)

イギリスにありがちな謎のモノリス遺跡の一つ。ストーンヘンジにも劣らない迫力に思えるが、観光地として少し不便なんだろうか。まあ行ったところで風景自体は「ふうん」にしかならないと思われるが…。やはり新石器時代の遺跡でよくわからないことが多い。謎の伝説やどこまで本当かわからない天文学との関係とかleyとかはこのシリーズの定例だ。もちろん観光に行くなら先に読んでおいたほうが良い。

出版社 : Wooden Books (2000/1/1)
言語 :英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263081

2024年4月5日金曜日

D.P. Sullivan "Leys: Secret Spirit Paths in Ancient Britain" [レイ:古代イギリスの秘密の霊的道]

Leys (Amazon.co.jp)

色々な謎が解けた一冊。Leyというのは適当な翻訳語がない。面白くない言い方をしてしまうが、疑似科学/pseudoarchaeologyの一種で、各地に散在する古代遺跡に、やたら直線を当てはめる趣味を指す。比較的近距離の単一の遺跡内の直線の場合もあれば、イギリス全土に散らばる遺跡群に直線近似みたいなことをする場合もある。最初の提唱者はそこまででもなかったようだが、幽霊だとかUFOが目撃された的な話が乗っかってきて、かなり楽しい世界が積み上がっているようだ。

というわけで、これまでWooden Booksのイギリス遺跡シリーズで出会ってきた説得力のない謎の直線にはこういう背景があったようだ。わたしもまあまあ疑似科学は好きだが、日本ではあまり聞いたことがない。開発の余地があるように思われる。地形的に直線を引きにくいのだろうか。勉強になった。

Wooden Books (2005/10/25)
言語: 英語
ISBN-13 :978-1904263388

2024年4月4日木曜日

Nick Maggiulli "Just Keep Buying: Proven ways to save money and build your wealth" [ただ買い続けろ:節約して富を築く方法]

Just Keep Buying (Amazon.co.jp)

普通の個人向け資産構築ガイド本で、似たような本は米国にも日本にも山のようにある。数値例がやたら多いのが特徴だが、要はS&P500をひたすら買ってろというようなことで、近頃はそんな話ばかりだし、今更新情報はない。普通に山崎元さんの本でも読んでいれば、実用的にはそっちのほうが上位互換なのではなかろうか。そっちは読んでないから知らんけど。

ただいくつか考えることはある。一つはFIREに対する考え方で、「退職=世界にとって自分がどうでもいい存在であることを認めること=結構な精神的打撃」というクダリだ。そうかもなあと思う。しかし、冷静に考えると、社会に何も貢献していないという意味ではわたしは既に退職しているようなものだ。ではわたしには関係ない気もする。人間の脳というのはある程度ストレスとか嫌なことがある前提で進化してきているので、出勤とかいう概念もなく完全に平和に暮らすのは不健康なのかもしれないとかも考える。

幸福のバスタブ曲線の話。世界のどこのどんな状況のどんな文化でも、幸福度は20代半ばから50代までが最低という有名な話で。本書は情緒的に説明しているし、他にも色々な説を読んだことがあるが、わたしとしては単なる生理現象ではないかと思っている。単に加齢に伴うホルモンの変化のせいでは…。ともかく、理想と現実にギャップを感じて人は不幸になるし、成長もするし、社会を変えようとするんだろう。幸せになったら成長は終わりですよ。

金持ちが自分が金持ちということを感じていないという話。これは著者の体験談にリアリティを感じるというのは、わたしも似たような経験があるからだ。ただわたしの場合は社会性がないので周囲と比較する習慣がないし、その代わりに頻繁に統計データを見ているから、客観的な状況を見誤りにくい。

などと考えることはあったが、そんなに新情報も新考察もなく、上位互換みたいな本もほかにあるだろう。一応読んだから記録まで。

Harriman House Pub (2022/4/12)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0857199713

2024年4月2日火曜日

Christina Martin "Sacred Springs" [聖なる泉]

Sacred Springs (Amazon.co.jp)

イギリスの各地にある泉の観光ガイドのようなもの。この泉という文化が日本と違い過ぎて、そこが勉強になる。多分日本の泉はほとんど温泉になってしまうし、そもそも水が豊富で井戸なんかどこでもある。イギリスではそんなことではないようだ。実際、西洋のおとぎ話にはやたら泉が出てくるし、インチキ西洋中世物語の類、例えばドラクエとかでも泉はやたら重要スポットみたいに扱われる。日本人にはない発想だ。ここに紹介されているような泉は一々いい感じの伝説などがついている。日本の温泉の弘法大師がどうたらみたいな話より少女趣味で良い。Dressing、つまりRPGのダンジョンの中にある泉みたいな敷石や枠や門などによる整備も日本で見たことがない。

関係ないけど、「ダンジョン」という現実には稀な構造がRPGの世界では普通なのにははっきりとした理由があり、世界初のコンピューターアドベンチャーゲームとされるADVENTに由来する。泉は少なくともダンジョンよりは現実にもよくあるようだ。

Wooden Books (2006/2/15)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263456

2024年3月31日日曜日

Evelyn Francis "Avebury" [エーヴベリー]

Avebury (Amazon.co.jp)

Wooden Booksの英国遺跡シリーズの一つ。世界最大の環状列石という話である。例によって基本的にイラストだが、ネットではいくらでも写真が出てくる。5000年前新石器時代。その頃にも日本にも人はいたし遺跡もあるが、どうも観光資源として弱いというのは、石と木の差なんだろう。やたら直線を引いて天文学を反映しているとか言うのも日本ではない話だ。そしてドルイドとかを無理やり復活させて今でもAveburyで謎の儀式をやっているとかいう…。

The world largest stone circle....

Wooden Books(2000/1/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263159

Glennie Kindred "Herbal Healers" [薬草療法]

Herbal Healers (Amazon.co.jp)

色んな薬草の紹介。それぞれの薬草について別名・用法・効能という構成。これは読んでいてかなり楽しかった。わたしはたまたまハーブ類が好きだが、そうじゃない人でも知っているハーブが大半だと思う。カモミールとかレモンバームは茶としてよく飲むし、タイムとかセージは料理で使うし、ホップとかラベンダーは入浴剤…という感じ。

で、それぞれの薬草の効能は常識的というか医学的なところもあるが、本当に面白いのは「血を浄化する」とか「意識を高めてアストラル界へ」とかオカルトというか呪術的な説明で、どこまでが医学的に証明されている話かどこまでが錬金術か区別がつかない。類書を調べると、どうも英語圏ではwitchcraftだとかhealerだとか称してハーブを煎じたり調合したりする遊びというか趣味がまあまあポピュラーらしい。

どのみち良く知られているハーブしか紹介されていないから、特別な危険もないと思うが(妊娠中禁忌とかそんな警告はある)、実際にこの本だけで処方したり調合したりするのは無理。入口にはなるかもしれない。

A lovely introductory small book.

Wooden Books (2002/4/25)
言語 :英語
ISBN-13 : 978-1904263012

2024年3月29日金曜日

Hector McDonnell "St Patrick: His Life and Legend" [聖パトリキウス:その生涯と伝説]

St Patrick (Amazon.co.jp)

タイトル通りの内容。St Patrickはアイルランドにキリスト教を広めた聖人で、わたしとしてはSt Patrick's Dayとか言ってなんでも緑にする件でしか馴染みはない。それも実体験するのはせいぜいアイリッシュ・パブみたいな所に行った時くらい。知られていることが少ないので、多分、この本でもほぼ万全の知識なんだろう。しかしこういう本を読むと、ヨーロッパではキリスト教化=ローマ(ラテン語)化=文明化という定式が徹底的に染みついているのを実感する。それで元々のケルトだのドルイドだのへの郷愁が逆生成されているような。St Patrickの時代自体は、ローマが退却してアングロサクソンが繫栄し始める頃らしいが、イギリスでもキリスト教と文明は体感的にほぼ同義なんだろう。

出版社 : Wooden Books (2007/2/14)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263494

Gordon Strong "Stanton Drew: and Its Ancient Stone Circles" [スタントン・ドリュー:古代の環状列石]

Stanton Drew (Amazon.co.jp)

Stanton Drewというのは新石器時代の遺跡でまあまあの観光地らしく、ネットでいくらでも写真が出てくる。この本も基本的にガイドブックとして読まれるだろう。イギリスの遺跡はやたら巨石構造物が多く、だいたい天文現象との関係がどうこうと言われるが、どの程度信用していいのか不明。伝説や復元想像図も色々ある。

あまり関係ない話だが、日本でも毎年一万件近くの遺跡発掘があり、その数だけ○○教育委員会発行××遺跡発掘報告書(△△年)みたいなのが出る。大半は縄文遺跡だった。というのはわたしは昔仕事で無意味にそんなのばかり見ていた時期があった。たいては柱の跡とか排水溝の跡とか囲炉裏の跡とかそんなのばっかりで、測量データばかりで、どうも盛り上がらない。その点イギリスは巨石そのものでも石の跡でも適当に線を引いて石の配置と暦がどうとか、環状列石は輪になって踊っていた人たちが石化したものだとか、消費者用コンテンツが多い。

Wooden Books (2008/3/20)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1904263739

2024年3月28日木曜日

Gerald Ponting "British Wild Flowers: Their Naming and Folklore" [イギリスの野生の花:名前と伝説]

British Wild Flowers (Amazon.co.jp)

わたしは野草というか道端に生えている草がかなり好きで、特にこれから春の季節は歩いているのが楽しい。ということで雑草に関する図鑑の類は結構持っているが、洋書はほとんど読んでいない。というのも、日本と外国では植生が違うから…。この本でも、だいたい日本でも同じような草があるとは思うが、実際にはイギリスで散歩してみないと分からない。別の話として、ヨーロッパの古書マニアの世界には植物図鑑の伝統があり、この本にはそういう図版も収録されている。マニアならコレクションの端に持っておくべきものだろう。写真ではなくイラストだが、日本でもよくある「身近な雑草図鑑」の類。この本がどうかはさておき、雑草ファンは世界中にいるようだ。

A beautiful book on lovely weeds.

Wooden Books (2022/11/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1907155420

2024年3月27日水曜日

Steven Saunders, Matt Tweed "Mind Tricks: Ancient and Modern" [心理術:古代と現代]

Mind Tricks (Amazon.co.jp)

何の本なのか説明が難しいが、今風に言えば「マインド・ハック」みたいなタイトルをつけるべきなんだろう。例えば記憶術とかクレーマー対処法とか人と仲良くなる方法とかリラックスする方法とか、結局、自己啓発本の棚にあるような話は何でもかんでもという感じ。技術自体は古今東西の文明からフロイトがどうとかもあるし、タロットがどうとか単なるおまじないみたいなのもある。この類の本の通例で"In Japan..."とかいう文章に、なかなかの出鱈目が書いてある。中学生向けのお遊びと言ってしまえばそれまでだが、結局、ビジネス書の棚にある自己啓発本も本質は変わらないような気はする。名言カレンダーみたいなもので、誰でも何かしら引っかかるところがあるかもしれない。

A lovely little book.

Walker & Co (2008/10/28)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0802716804

2024年3月26日火曜日

Gerald Ponting "Ancient Earthworks of Wessex" [ウェセックスの古代土塁]

Ancient Earthworks of Wessex (Amazon.co.jp)

これも日本であまり聞かない文化だし、Wooden Booksじゃないと意図的には出会わない話だが。日本で言えば縄文遺跡くらいの気分だろうか。たまに日本でも弥生時代の環濠集落みたいな話はあるが、もしかすると、この本みたいな体裁で紹介したら面白いのかもしれない。基本はイラスト。多くは国立公園的なものになっているようだ。もちろん環状列石や迷路もあり。特に考古学に興味のない日本人でもイギリスの観光地を行きつくしたら、もうこういうことになるのかもしれない。

A small beautiful guidebook.

Wooden Books (2019/5/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263975

2024年3月22日金曜日

Philippa Lewis "Pantheon: Gods and Goddesses of the Greco-Roman World" [パンテオン:ギリシア・ローマ世界の神々]

Panthon (Amazon.co.jp)

有名なギリシア神話・ローマ神話の神々の紹介。似たような本はいくらでもあると思うが、白黒とはいえ歴史的な図版が多いのは素晴らしい。西洋美術を鑑賞する際には必須の知識である…。縁のない人にも楽しく読めるのではなかろうか。

ただし。わたしはこの件に関してはマニアックなので、その点からすると許せないことがいくつかある。まずラテン語も古代ギリシア語も日本語と同じく母音の長短を区別する言語だが、この本ではその区別が失われている。英語民は長短の区別ができないし、どうせ正しいラテン語表記も正しく読めないからどうでもいいのかもしれない。別に原典にも長音符はないからその点については大した問題ではないとしても、一応ギリシア語名と比定されるラテン語名が対で書いてあるが、ギリシア語側の音写がラテン語化していたりする。何を言っているのかわからないかもしれないが、要は古典語を勉強した人にはひっかかる点が多いということだ。もちろん、こういうのに引っかからない本というのもほとんどないのも事実だ。

A nice introduction, for those who do not care for the original Greek classical spellings.

Wooden Books (2023/9/15)
言語: 英語
ISBN-13 :978-1907155499

2024年3月19日火曜日

Hugh Newman "Stone Circles" [環状列石]

Stone Circles (Amazon.co.jp)

主にイギリス各地にある石器時代の環状列石の案内。わたしとしてはStonehengeくらいしか知らないし、謎の世界だと思っていたが、最後になってOshoroって何と思って調べたら、どうも日本にも色々あるらしい。今のところわたしの中に観光という文化がほとんどないので聞いたこともなかったが、これからどんどん旅行をしていくことになるとすると、一つのテーマになるかもしれないが、実際には何もないところにただ石が並んでいるだけで謎すぎる。まあ作成当時からそういう謎観光スポットだったのかもしれない…。

A tourist guide, possibly also for Neolithic people.

Bloomsbury Pub Plc USA (2018/10/9)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1635573046

2024年3月18日月曜日

Simon Lilly "Ancient Celtic Coin Art" [古代ケルトの硬貨芸術]

Ancient Celtic Coin Art (Amazon.cojp)

鉄器時代のイギリスと言っているが、要するにキリスト教以前のイギリスのコインの文様の主題ごとの図鑑。我々としては眺めているくらいだが、コイン収集家にとっては資料としても有用なようだ。どうもイギリス人にはローマ帝国とかキリスト教の侵略の以前・以後で文化が全然違ってしまっているという意識があるらしく、日本人が縄文がとかアイヌがとか言っているのとレベルの違う人工的な郷愁があるようだ。

Maybe of reference value. For us it is a lovely small book.

Wooden Books (2008/3/20)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263654

Chris Mansell "Ancient British Rock Art" [古代イギリスの岩芸術]

Ancient British Rock Art (Amazon.co.jp)

ある時から急にケルトが流行り出した時期があり、以来、なんかケルトにロマンティックなイメージがついて、その流れの本だと思われる。artというが、実際には岩に刻まれた渦巻模様とか謎の線とかで、具体的に何を表しているのか全く分からない。世には古代文明の芸術も色々あり、エジプトだのアステカだのそれぞれ現代人の感覚と相当違うなと思うが、この本の図版とかを見ていると、そもそも現生人類と関係があるのかどうかすら疑うレベルだ。全く知らない世界過ぎて何とも言いようがないが、Wooden Booksは謎の遺跡系の本も多い。

Mysterious.

Wooden Books (2007/10/16)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263562

2024年3月14日木曜日

Hugh Newman "Earth Grids: The Secret Patterns of Gaia's Sacred Sites" [地球格子:ガイアの神聖な地点の隠されたパターン]

Earth Grids (Amazon.co.jp)

最初は投影法の話か風水の話でもしているのだろうかと思ったら、地球に正多面体を内接させると古代文明か黄金比がどうとかいう話になり、事故の多い謎の三角地帯が等間隔にあるとかエネルギーの流れがどうとか、なかなか良い。子供の頃はこんな本を楽しく読んでいた気がするが、今時はこういう本は迫害されるせいか、本屋でもあまり目立たない。いいと思うけどなあ…。

I love this kind of imagination.... People call it pseudoscience.... Who cares?

Bloomsbury Pub Plc USA (2018/10/9)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1635573053

2024年3月13日水曜日

Andrew Preston "American Foreign Relations: A Very Short Introduction" [アメリカの対外関係:非常に短い入門]

American Foreign Relations (Amazon.co.jp)

目次:1. 最初の原則 2. 拡張主義 3. グローバルなアメリカ 4. アメリカの世紀? 5. 超大国 6. 超超大国とその不満

建国前後からのアメリカの対外関係の通史。わたしが読んだ限りでは標準的と言える記述で、時々復習のためにこういう本も読まないとというところ。もうこれまでこの類の知識もVSI等で随分積んできたので、知識を得るというよりは、語り方に注意が向く。わたしとしては特にひっかかるところもなかった。別にこの本を読んだからと言って、これからのアメリカの外交政策が読めるようになるわけではないと思うが、基礎教養というところ。

A standard overview.

Oxford Univ Pr (2019/5/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0199899395

Oliver P. Richmond "Peace: A Very Short Introduction" [平和:非常に短い入門]

Peace (Amazon.co.jp)

目次: 1. 平和の複数の次元 2. 平和を定義する 3. 歴史の中の勝者の平和 4. 歴史の中の平和:啓蒙時代へ 5. 現代の平和:立憲的平和 6. 次の段階:制度的平和 7. 革新的な段階:市民的平和と社会運動 8. 国際平和機関の発展 9. 平和維持・平和構築・国家構築 10. 平和・平和形成・対抗平和の混合形式

この本の言う「平和」とは主に政治的な意味で、国家間や武装勢力間の戦争・紛争がない状態を指す。日本国憲法的な意味での平和だ。ということで本書の半分くらいは世界史の復習みたいなことで、残りは現代の平和構築の色々な例という感じ。単なる哲学的思索というよりはリアルだが、現場というほどリアルではない。大学の授業とか国会の前で平和デモをしている団体くらいのリアルというか…。こんな感想になるのは、一つには戦争が起こる理由の説明がなさすぎるからだと思われる。おかげで話は難しくなく、読みやすい本ではあった。

Peaceful reading. Provides you with a necessary vocabulary.

Oxford Univ Pr (2023/6/28)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0192857026

Nicholas Cook "Music: A Very Short Introduction" [音楽:非常に短い入門]

Music (Amazon.co.jp)

目次: 1. 瞬間の音楽 2. 音楽で考える 3. 過去の現前 4. 音楽2.0 5.国際社会の中の音楽

VSIの一つの典型「大家の雑談」だと思う。こういう一般的過ぎるタイトルにはありがちだ。音楽理論とか中身の話というよりは、どっちかというと社会学とか経済学に分類されるようなよもやま話という感じか。

わたし自身音楽をほぼ聴かないが、言っていることで分からないことはほとんどない。出てくる個別例についてはたまに面白い。例えば、わたしは楽譜を正確になぞって演奏する行為の何が面白いのか全く理解しないが、どうも著者もそっち側のタイプらしい。覚えきれない長さでなければ楽譜なんかいらないのではと思っているが、ピアノ奏者とオーボエ奏者では音の理解が違うらしい。音楽で世界が一つにとか言っているが、音楽で世界を分断しているほうが多い。とか、読んでて退屈なわけではないが、別にどこにも行かない…というのは、多分、わたしが音楽に興味がなさすぎるからだろう。

Casual chatter of one of the authorities in the field, I guess....

Oxford Univ Pr (2021/5/3)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0198726043

2024年3月12日火曜日

Michelle Baddeley "Behavioural Economics: A Very Short Introduction" [行動経済学:非常に短い入門]

Behavioural Economics (Amazon.co.jp)

行動経済学についてはこれまでここでも色々読んできたが、正直なところ、この本で特に新しい情報はない。短いという良さはあるが、この件については何をおいても御大のThinking, Fast & Slowを読むべきで、日本語訳もよく本屋に積んである。他に色々読んでもあまり追加情報がないのが実態だ。あるとしたらThaler先生くらいかなあ…。本の分厚さにビビるタイプの人にはいいかもしれない。確かに日本語で変なビジネス書を読むよりはいいと思う…。

Oxford Univ Pr (2017/5/1)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198754992

2024年3月11日月曜日

Antoine de Saint-Exupéry "Le Petit Prince" [小さな王子]

Le Petit Prince (Amazon.co.jp)

これはフランス語学習者はたいてい読むことになっているが、どうも読む気にならず放置していた。読んだことのない人でも、ヘビが象を呑み込んだ絵とか、そんなことは何となく聞いたことがあるのではなかろうか。表紙からして読む気にならない。しかしフランス語学習者として無視し続けるのもどうかと思う。しばらくフランス語の本も読んでいなかったので、この際、「子供は大人と違って純真」とかいう世界観とか、面白くない社会風刺とかは時代の制約ということで呑み込んで一応全部読んだ。

内容はたいていの人がだいたい知っているので、感想としては、予想通り感傷的過ぎて読んでいるのもしんどい。もちろんこれはわたしの趣味に過ぎず、一般的には名作ということになっているので、読んで損をするものではない。フランス語学習という観点では、こういう昔の小説は普通に単純過去で語られるが、B2くらいでも単純過去を習得していない人も多いだろう。ただ、それでもB2なら読めるかなと思う。B1ではちょっと無理ではなかろうか。

Independently published (2017/4/9)
言語: フランス語
ISBN-13: 978-1521030141

Lisa Delong "Curves: Flowers, Foliates & Flourishes in the Formal Decorative Arts" [曲線:形式的装飾芸術における花と葉と飾り]

Curves (Amazon.co.jp)

タイトルをどう訳すのか分からないが、基本的には平面充填系の模様の図鑑。ウイリアム・モリスを想像すれば大体間違いない。もちろん背景には幾何学があるが、そこに重点があるわけではなく、あくまで装飾の本。

個人的にはこういう模様自体は好きだし、この本も楽しいが、実際にウイリアムモリスのブックカバーとか使っていると、なんかしんどい感じがある。リバティとかも同じで。Arts and Crafts運動の趣旨からすれば、日用品にこそこういう模様を使うべきということになるが、こんな日常は病的なのではないか。関係ないが、日本のいわゆる民藝運動も、趣旨は分かるがこんな日常はイヤだと思うわけです。この本自体は数学みたいに形式的な解説しかしていないが、そういう時代を感じさせる本だった。

Bloomsbury Pub Plc USA (2013/12/17)
言語 :英語
ISBN-13: 978-1620402580

2024年3月9日土曜日

Michael Glickman "Crop Circles" [作物の円]

Crop Circles (Amazon.co.jp)

1980年前半から2000年代までイギリスに大量出現したミステリーサークルの図鑑。載っているのは図式と数学的な構成の簡単な説明なので、実際の光景はネットで探したりする必要がある。この件について本気で研究したいのなら他に読むべき本はあるが、これも素敵な本です。

Beautiful small book.

Wooden Books (2005/2/15)
言語 : 英語
ISBN-13 :978-1904263340

2024年3月7日木曜日

John Southcliffe Martineau "Mazes and Labyrinths In Great Britain" [イギリスの迷路と迷宮]

Mazes and Labyrinths In Great Britain (Amazon.co.jp)

日本に迷路文化がなさすぎて斬新だが、西洋では先史時代から普通に迷路という文化があり、イギリスにもかなり大量に遺跡もあるらしい。この本は迷路図式しか載っておらず、現地の実際の風景などはググるしかないが、この本に出会うまでそんな文化の存在自体知らなかった。ミノタウロスの迷宮の話は孤立した伝説ではないらしい。民間信仰や宇宙論も反映されているそうだ。

だいたいそんな古代からあるような文化は、たいていは日本にも遅くても室町時代くらいまでには伝わっている気がするが、聞いたことがない。石造りの迷路はともかく、芝生や生垣なら日本でも作りそうなものだが、どうも日本受けしないのかもしれない。調べると迷路の研究書も結構あるようだが、わたしはそんな世界は知らなかったし、普通の日本人は知らないのではないだろうか。と言っても別に実物を体験したいともそんなに思わないが、迷路文化圏に行く用事があれば行ってみるか…。

Wooden Books (2005/2/15)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-1904263333

2024年3月6日水曜日

Matt Tweed "Elements of Chemistry: Quarks, Atoms and Molecules" [化学の元素:クオークと原子と分子]

Elements of Chemistry (Amazon.co.jp)

以前にEssential Elementsという同じ著者の本がやはりWooden Booksから出ていて、これはその大幅改訂版というか、別物に近いのかもしれない。目次がかなり変わっている。対象読者はやはり日本で言えばせいぜい中学生か高校生。内容的にはそれだけだが、個人的にイラストが好きで、前の版よりさらに線が整理されて見やすい。どうもWooden Booksは内容というより、語り方や本の作りに惹かれるので、中身はなんでもいいまである。たまに女子学生とかで、ノート作りが主眼で、ノートの内容なんかどうでもいいという人種がいるが、こういうことかなあと思う。

Wooden Books (2023/10/15)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155529

2024年3月5日火曜日

David Wade "Li: Dynamic Form in Nature" [理:自然の中の動的な形]

Li (Amazon.co.jp)

かなり面白くてすぐに読んでしまった本。まずタイトルは、英語話者でも中国語話者でも意味が分からないのは同じことかと思われる。著者がやたら中国哲学を参照するから、日本語話者のわたしが「理」なんだろうと推定しただけで、本書のどこにもこの漢字はない。内容は自然界にある様々な模様の図鑑。たとえばひび割れみたいな模様とか縞とか葉脈など。基本的には平面の模様だ。もっと色々ほしい気もするが、Wooden Booksのページ数の制約があるんだろう。

自然界にある形を数学的に考察するような本は日本語でもたまにあるが、あまり面白かったことがない。葉序がフィボナッチとか巻貝がアルキメデス螺旋でとか聞き飽きたような話で…。もちろんこの本はそんな話はすっ飛ばしている。関係ないけど、昔の数学の教科書には黄金比の図版があって、自然の写真の色んなところに無理やり黄金比を当てはめたりしていたが、あれは何だったのか。この本については、別に数学的な考察もなく、模様エッセイでしかないので、かえって視点が制約されていなくて良い。こういうのって、数学みたいな本より、デザイナー向けの本とかのほうが面白いのかもしれない。

Wooden Books (2007/4/3)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1904263548

2024年3月4日月曜日

Ben Sessa "Altered States: Minds, Drugs and Culture" [変性意識:心と薬物と文化]

Altered States (Amazon.co.jp)

マインドフルネスだの催眠術だのという話もあるが、大半は要するに違法合法を問わず各種ドラッグの話。図鑑的な価値はあるかもしれないが、似たような本はいくらでもあるかもしれない。例によって対象読者はteensだと思うが、学校図書館には置いてもらえないかもしれない。確かこういうのにやたら興味を持つ人種というのがいて、向精神薬を見せびらかすメンヘラというイメージ。やたらLSDを崇めるヒッピーの孫世代みたいな感じだろうか。今の言い方からわかるように、わたし個人としてはそこまで深い興味がなく、この類の本を読んでもすぐに内容を忘れてしまう。こういう本を読んで新しい精神世界に憧れるのか、結局意識とか気分って化学物質に過ぎないよねと思うか。

Wooden Books (2023/9/15)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1952178252

2024年2月28日水曜日

Ethan Kross "Chatter: The Voice in Our Head, Why It Matters, and How to Harness It" [おしゃべり:わたしたちの頭の中の声、なぜそれが問題なのか、どう制御するか]

Chatter (Amazon.co.jp)

まず、著者の言うchatterの定義が分かりにくいが、要するにネガティブな言語的な反復思考という感じだろうか。ネガティブとも限らないようだが…。実はこの点が最後まではっきりしないのがこの本の致命的な欠点だ。具体例としてムダな心配とかトラウマの反復思考とか共同反芻とか他にも色々あるんだが、共通する要素が良く分からない。科学的に何かあるのかもしれないが。

で、対策として儀式とか自然を見るとか偽薬とか、一体何の話なのか…。一つ一つの項目も大した話がないし、とにかく話がバラバラに思える。こういう自己啓発本はもともと当たり率が低い。ハズレでした。

Crown (2021/1/26)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0525575238

2024年2月15日木曜日

Oliver Linton "Mathematical Functions" [数学の関数]

Mathematical Functions (Amazon.co.jp)

色々な関数をグラフと共に紹介する図鑑的な本。日本なら高校生くらいが対象だろうか。ニュートン別冊というような感じもする。微積だの複素関数だのも一応出てくる。個人的に最近曲線を眺めるのが好きで、別にただそれだけだが。もちろん真面目に数学の勉強をするのならこんな話ではないが、こういうの、中~高校の図書室とかに置いておいたら引っかかる子もいるんじゃないかなあ。

Wooden Books (2023/9/15)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155444

2024年2月13日火曜日

Earl Fontainelle "Logic: The Ancient Art of Reason" [論理:古代の推論技術]

Logic (Amazon.co.jp)

論理学の入門というところだが、今時の記号論理学とかいうことではなく、古典ギリシアから近代まで普通に教えられていたいわゆる伝統論理学。別に古いからと言って使えないわけではないし、この基礎がなくて記号論理学や非古典論理とか言っても仕方がないし、正直なところ、この程度の入門書でもショーペンハウアーの議論術なんか不要になる。もっとも一般的には流行る話ではない。古典論理学は中世にほとんど完成されているし、実質が必要なら現代風の分かりやすい本なんかいくらでもある。

わたしはというと、学生時代にわりと真剣に伝統論理学をやったことがあり、ラテン語も読んでいたので、三段論法の格式(Barbara, Calarent...)とか真面目に覚えていた。ただただ懐かしい。ノスタルジーは別として、ではどういう人がこの本を読んだり、またはもっとちゃんとした伝統論理学を勉強するのか考えると、多分、カントだのヘーゲルだのを真面目に勉強しようとしてる人かと思う。本気の勉強にはもちろんこんなのでは無理だが、雰囲気を知るだけならこれで済む。現代論理学を勉強するに当たって伝統論理学も知っておきたいということなら、この本で当りをつけるのも妥当なところかもしれない。

Bloomsbury Pub Plc USA(2016/9/13)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1632864451

2024年2月12日月曜日

Guy Ogilvy "The Alchemist's Kitchen: Extraordinary Potions & Curious Notions" [錬金術師の調理場:素晴らしいポーションと面白い概念]

The Alchemist's Kitchen (Amazon.co.jp)

"lapis philosophorum"は"philosopher's stone"ではなく"philosophers' stone"だと思うがまあそれはさておき。古い西洋絵画を見ていると大量の予備知識が要求され、ギリシア神話・ローマ神話・キリスト教・紋章学・占星術・図像学とかなんかてんこ盛りの中に錬金術というものもあるようだ。この本は別にそういう美術的方向性で書いてあるわけではなく、むしろガチ錬金術入門書という感じで、そのほうが我々は読みやすい。やたら複雑な体系性があるわりに現代人から見れば呪術でしかないが、読んでいるとハーブだのアロマだのにハマる気持ちも分からなくはない。しかし錬金術は確かに現物を扱っているから、精錬だの蒸留だのやっているうちに化学が生まれるのは分かるし、占星術も天文学が前提だ。気のせいで済む話ではない。化学と錬金術は地続きだ…。錬金術の研究書は色々あるが、多分これが一番軽い。

Bloomsbury Pub Plc USA (2006/10/17)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0802715401

 

2024年2月7日水曜日

Charles Duhigg "The Power of Habit: Why We Do What We Do in Life and Business" [習慣の力:なぜ我々は生活と職業で我々がしていることをしているのか]

The Power of Habit (Amazon.co.jp)

習慣の力 (Amazon.co.jp)

目次:1.習慣のループ 2.欲望する脳 3.習慣を変える黄金の規則 4.要石の習慣またはポールオニールのバラード 5.スターバックスと成功の習慣 6.危機の力 7.あなたより先にターゲットがあなたの望みを知る方法 8.サドルバック教会とモンゴメリーのバスボイコット 9.自由意志の神経学

評判のいい本だが…。半分くらいは商売系でラウリル硫酸塩で物が売れるとか、組織の習慣で不祥事とかいう、あまり感心しない話。なんかエピソードが弱いのと、個人的に組織に関心がない。残りの半分は悪い習慣を断ち切る話で、アルコールとかギャンブルとかがメイン。こっちもこっちでわたしは弱いと思うが、人によるのだろう。わたしの中にどうにかしたい習慣がない。酒もタバコも好きだが健康に良くないので両方しない、と言って済む性格だ。話の前提として、習慣を断ち切りたいと思わないと何も変わらないと本書も言っているが、個人的に別にない。

じゃあなんでこんな本を買ったのかということだが、わたしの場合、習慣というよりASD的な意味でのルーティンへの固執が強いところがあり、おかげで勉強もできているしジムも通い続けられているわけで、そっち方向からの関心だった。ただ本書はそういうことではない。特にエピソードも弱いが、科学面も弱い。それでも名著とされているのは、実践的だからだと思うが、実践する用事がなければ別にという。

Random House (2012/2/28)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-1400069286

2024年2月6日火曜日

Cecelia Watson "Semicolon: The Past, Present, and Future of a Misunderstood Mark" [セミコロン:誤解された記号の過去現在未来]

Semicolon (Amazon.co.jp)

目次:序章.愛と憎しみとセミコロン 1. 深い歴史:セミコロンの誕生 2.セミコロンの科学:アメリカ文法戦争 3.セクシーなセミコロン 4.緩い女性と禁酒法:セミコロンがボストンを混乱に陥れる 5.慈悲の詳細 6.セミコロンを石に刻む 7.セミコロンの賢者たち 8.説得と気取り:セミコロンはスノブのためのものか? 終章.規則に反して?

タイトルの通りだが、著者自身は元々「正しい英語」にやたら拘って研究していた過去があるが、ある時急にアナーキストになったようだ。たまにこういう人いるよね…。そしておそらくトレンドでもあるだろう。日本語でもやたら「正しい日本語」を強要する時代と、「文法学者のほうが現実に合わせろよ」の時代が入れ替わる。わたしとしては「なんでNHKに正しい日本語を決める権利があんねん」とか思っているほうなんで、良い時代になったと思っているが。

実はその点がこの本の主たる主張みたいなところがあり、わたしとしては、その点に関しては著者にそんなことを言われるまでもない。どっちかというと「正しい英語」派の人が読んで改心するかどうかという本だろう。個人的に面白い所としては、法律関係で「句読点の解釈で法解釈が変わる」みたいなところくらいか。こういうことがあるので国家権力が正しい日本語を決める必要もあるわけだ。他のところは、まあ一応セミコロンの歴史を辿ったり、正典文学の中でのセミコロンの使用に随想をくっつけたりしているが、基本的には要するにセミコロン随想というか、無駄口が多くて面倒くさい部分も多々あり。

全体的には軽い読み物。あとはこの著者の趣味が合うかどうか。英文を書く時の参考にする人もいるかもしれないが、わたし自身はまず使うことはない。使うチャンスがないわけではないが、要するに気取る必要がないという…。

Ecco (2019/7/30)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0062853059

2024年2月2日金曜日

M Watkins "Useful Mathematical and Physical Formulae" [有用な数学と物理学の公式]

Useful Mathematical and Physical Fromulae (Amazon.co.jp)

タイトル通り見開き頁ごとに一つのジャンルの公式と若干の解説がある。知らない公式はないし、解説も淡々としたもので、我々が見てもほとんど無意味…。だが、まあ図鑑ということなのだろうか。評判も良いようで、ある種の子供には魅惑的なのかもしれないし、大人も結構楽しんでいるようだ。

出版社 : Wooden Books (2001/10/1)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1902418339

 

Steve Marshall "Acoustics: The Art of Sound" [音響学:音の芸術]

Acoustics: The Art of Sound (Amazon.co.jp)

音波の科学から人の聴覚・録音再生技術まで一通り。わたしとしては騒音振動の公害防止管理者/計量士で勉強した範囲が半分くらい。無線・電気通信・電子回路などで勉強した範囲が1/4くらい。残りの録音した音をいじる技術などはあまり知らない感じ。Wooden booksなので、対象読者は多分中高生くらいだが、完全に理解するのは日本の普通の大学生相手でも難しすぎるように思う。dBの説明も薄いし(対数の説明からするのは不可能だが)、フーリエ級数展開は論外としても、回路図なんか普通読めないだろう。まあ雰囲気だけ分かればいいのかもしれない。もちろん、わたしが異常者なのであり、普通の大人にとっては知らないことばかり書いてあるし、相当楽しめるだろう。音楽に興味がないとしても、音に無縁の人は少ない。

わたしは耳はやたら良く、音感も正確だが、音楽に全く興味がない。つまり音をHzとdBとしか思っていない。今まで住宅騒音で二度引っ越している。「こちら側のドアが開きます」は全く理解できないが、そもそも音が何重にも反射するエレベーターの中で音の定位ができるわけがないと思っている。というくらいの音への関心だが、音楽をやる人/聞く人は読んで損はないかもしれない。すぐに読めるし、多分、この本がカバーする範囲を全部わかっている人も少ないと思う。

出版社 :Wooden Books (2022/11/1)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155437

2024年2月1日木曜日

Tung Ken Lam "Origami: From Surface to Form" [折紙:面から形へ]

Origami:From Surface to Form (Amazon.co.jp)

日本の本屋で手芸とか趣味の棚にあるような折紙の本というより、数学書の棚に置いてあるたぐいの折紙幾何学とか折紙工学とか呼ばれるジャンルの入門書。色々な折り図も紹介されているので、単に折紙の本としても読めることは読める。ただ、説明がかなり不親切だったり不正確だったり誤記誤図も多くて、折りたいだけの人には勧められない。わたしはこの本に出てくる作品は一部の異様に難しいものを除いてほぼ全て自分で折ってみたが、相当苦労した。実際、ある程度数学力がないと解明できない折り図も多い。日本なら初等幾何学の好きな中学生くらいでも本気を出せば解明できるかもしれないが、普通無理だと思う…。

そんなわけで薄い本だが読み終わる(折り終る)のに二か月以上かかった。一般人にはお勧めできる本ではないし、もっと優れた折り紙の本もあると思うが、わたしにとっては人生を変えた本とまで言えるかもれしない。今まで折紙なんかまったく興味がなく、子供の頃に折った記憶もほとんどないが、今部屋に折紙の本と立体幾何学の本が積み上がり、数百枚の折紙が散らかっている。理論の説明も結構あるが、読んでいる時間より、考えたり折ったりしている時間のほうが圧倒的に長い。印象に残った具体的な作品をいくつか記録しておく。

Magazine box。なんでもない基本的な作品だが、単純な折り方で立体が構成されたのが衝撃だった。

Water bomb。要するに紙風船。これも基本的だが、今までに折った記憶がない。自分で分析して分かったが、この本も含めて、たいていの作品は一般的な指示通りに折ると誤差が大きい。多分、異様に器用な人間を想定しているのだろう。

正八角形の折り畳み。これは理解するのに少し手間取ったが、折り畳みの楽しさがある。誤差を縮める折り方を開発するのに試行錯誤した。

Icosahedron。特に正方形の紙からの正二十面体。作り方は全く説明不足だが、解明して組み上げた。そもそも20unitsも必要ない…。数学の本にはよく正二十面体の図は載っているが、こうして自分の手に取れるのは素晴らしい。この本では五つの正多面体のうち正十二面体の折り方だけ載っていないが、別途作った。正二十面体は多少固定が必要だが、正八面体は簡単に無限に作れるので暇つぶしによい。

WXYZ。これは多面体折紙の最高傑作。折り図や完成図は意味不明だが、自力で考えながら組むのは、そんなに難しくはない。実は完成品を見ても意味が分からないくらいだが、要は4つの正三角形が三次元で交差する形になる。本書には説明がないがユニットの組み方で光学異性体が存在する。だからこんな名前なのかもしれない。既にもう五個か六個作った。

A4の紙から帯を切り出して編み上げる立方体。これは本書に寸法が書いていないので、自分で計算しないといけない。ここまで本書についてこれた人なら自力で計算できるのではないだろうか。画用紙を使ったほうが良い。

Corrugation。いわゆる波形。特にwater bombを基準にしているほうは簡単で、A4の書類でも畳める。Miura-oriみたいに簡単に広げたりはできないが。折り図は意味不明だが、ここまで来た人なら折れる。

2024年1月18日木曜日

Abigail Shrier "Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters" [回復できない損害:わたしたちの娘たちを誘惑するトランスジェンダーの流行]

少し前にKADOKAWAが翻訳書を出版しようとしていたが、どっかの団体の抗議を受けて出版中止になったという本。内容は要するに十代の女の子が希望したからと言って、簡単に男性ホルモン投与だの乳房切除手術するな/勧めるなということだ。

別に万民が読むべきとも思わないが、この本を翻訳出版すべき/するなとか騒いでいる人々の99.99%は実際にこの本を読んでいないだろう。翻訳出版してもこの状況がそんなに変わる気もしない。英語圏でもそんな感じらしいし。この記事にたどり着いた人のほとんども読んでいないし読みもしないだろう。わたしは一応読み終えはしたが、内容的にもそんなに面白いわけではない。ここで内容を詳しく説明して読んだ気になられても詰まらない。

ただ、印象として、書きぶりが戦闘的過ぎてその時点で引いてしまうところがある。考え方が一々保守的なのは間違いない。わたしは常に自由の側に立つ傾向があるので、外科手術なんかして仮に後で後悔しても本人の勝手では…などと思うが、まあそれはそれで極論なんだろう。入れ墨なんかより深刻な健康問題があるようだ。しかし、親の権利がどうとか、子供をSNSから引き剝がせとか、それもなあという。自由の側に立つ傾向のあるわたしとしては、翻訳出版中止もおかしいだろと思わなくもないが、現場ではそんなことを言っている場合ではないのかもしれない。

Regnery Publishing (2020/6/30)
言語: 英語
ISBN-13: ‎ 978-1684510313

Irereversible Damage (Amazon)