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2026年4月28日火曜日

Bence Nanay "Aesthetics: A Very Short Introduction" [美学:非常に短い入門]

 Aesthetics (Amazon.co.jp)

目次:1. 美術館で迷子 2. セックスとドラッグとロックンロール 3. 経験と注意 4. 美学と自己 5. 美学と他者 6. 美学と生活 7. 世界の美学

VSIにありがちな大学で教えるような美学の概説ではなく、著者が自分の穏当な考えを書いたようなエッセイという感じを受けた。この類の本は、中心的な主張というよりは、例示される個別のエビソードのほうが面白いのが通例だ。例えば著者は一時期映画評論家だったらしいが、要はあれこれ批評文を書く前提で映画を見ると楽しくないとかで辞めたとか、まあありそうな話だ。美術館にデートに行って雑談のネタになるというくらいの話。

というようなことだが、そもそも「美とは」みたいなことについて、それほどハードな議論はされていない。もしそんなことをしていたら、英米哲学にありがちな「常識の擁護」みたいなつまらない話になるだろう。といっても大陸哲学みたいに「美は無関心でなければならない」みたいな定義にも踏み込まない。権威主義に対する警戒(成功しているかどうかはともかく)はこのジャンルの定例だ。生物学に還元する話もない。強いて言えば社会学や心理学が強い感じはあるが、そもそも何かに還元しようとする気も薄いようだ。そうするとやはり雑談エッセイ…。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ Pr

発売日 ‏ : ‎ 2020/1/1

言語 ‏ : ‎ 英語

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198826613

2026年2月22日日曜日

Timothy Childers "Philosophy and Probability" [哲学と確率]

Philosophy and Probability (Amazon.co.jp)

確率と哲学 (Amazon.co.jp)

目次: 1. 確率と相対頻度 2. 傾向と他の物理的確率 3. 主観的確率 4. 主観的と客観的確率 5. 古典的と論理的解釈 6. 最大エントロピー原理

時々このテーマの本を読むが、大筋では昔からあまり変わっていない気がする。この本については最後の章:最大エントロピー原理が述べられているのは大きいところだろうか。

わたしが適当にまとめると、客観派は頻度説が基本だが、頻度説では一度限りの事象に適用できないので傾向説に進化する。ただ、進化と言っても、propensityという新概念が導入されるのだから世界観が変わって色々論争になる。主観派というのは要するにベイズ派だが、信念の訂正などに特有の問題もあり、科学哲学の一般問題にも接続する。デュエムクワイン問題などが論じられているが、究極的にはヒュームの懐疑論まで行きついている。このあたり、面白い話ではあるが、わたしの見解では答が得られないのが約束されている。近年逆襲しているのが論理派で、これは古典的な「同様に確からしい」論をさらに洗練していく道である。ここで問題になるのは、何を基準に「同様に確からしい」と言うかだが、そこで最大エントロピー原理が持ち出される。ただ、適用範囲が狭すぎるというのが著者の考えだ。

この本、入門用としては少し分かりにくいかもしれない。多分、学部レベルの哲学の素養や数学の素養は必要だろう。一応補遺で色々解説されているが。あと、微妙な冗談が多いのは好みが分かれるだろう。個人的にはあまり初耳なことはなかった。復習みたいな感じだったが、改めてポパーみたいな「誠実であれば適切な解が見つかる」みたいな突っぱね方は好きになれない。ヒュームとかカルナップとかについて改めて色々考えることもあった。それにしても、なぜ原書と邦訳のタイトルで哲学と確率の順番が逆なのか謎である。

出版社 ‏ : ‎ Oxford Univ Pr
発売日 ‏ : ‎ 2013/7/24
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0199661824

2026年2月11日水曜日

Dana Villa "Hannah Arendt: A Very Short Introduction" [ハンナ・アーレント:非常に短い入門]

Hannah Arendt (Amazon.co.jp)

目次: 1. 暗黒時代の生活 2. 全体主義の本質と起源 3. 政治的自由と政治的領域と活動的生活 4. 革命と憲法と「社会の問題」 5. 判断と思考と意志

ハンナ・アーレント(1906-1975)という名を知っているのは政治学か社会学を勉強した人間くらいだろうか。この本は良い本だと思うが、英文は読みにくい。それでもArendtの元の英文よりはマシだと思うが。思想の紹介の仕方自体が何か弁証法的だ。

些細なきっかけでアイヒマン裁判の話を思い出してアーレントの考え方を再確認したくなった(第五章)。しかし、正直言うと、時代がかっている気がした。どうも第二次世界大戦前後の思想家というのは、歴史上の人物というには近すぎるし、その割に今の時代の思考の枠組みというか土台にかなりズレがある。例えば、アイヒマンの件については、今時は、個人の倫理観に絶望する時代は通過して、制度の問題に焦点があるんじゃないかな。某国が国内の某民族に対してナチスと大して変わらないことをしていることについて問題になっても、倫理観に訴えても何も起こらないのが実態としてある。

何でもない普通の人、しかも別に洗脳されたというほど思想に染まっていない、単なる無思想な人間が民族浄化に加担する。解決策として哲学が有効だろうか。そんな感じになっているのも、アーレントの寄与があってのことかもしれないが。

Oxford Univ Pr
 ‎2023/4/26
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198806981

2025年1月15日水曜日

Gregory R. Beabout "Ethics: The Art of Character" [倫理:人格の技術]

 Ethics (Amazon.co.jp)

西洋倫理学の歴史から最近の論点までの簡単な紹介。後半になると、よく会話のネタになるジレンマの話が増えてくる。Wooden Booksなんで、そんなにテクニカルな話になるはずもなく、理屈好きの高校生などには良いかもしれない。個人的に思うのは、古代の倫理学の持っていた大きな世界観とかもっと考えても良いのかもしれない。それはそれとして、なぜ人類は倫理とかいう制度を発展させたのかとか考えると、どんどんスケールの小さい、現代的な視点に還元されて詰まらなくなる。しかし、考えなくていい話でもないな…。

Bloomsbury Pub Plc USA (2018/1/2)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1635570830

2024年11月19日火曜日

Earl Conee, Theodore Sider "Riddles of Existence: A Guided Tour of Metaphysics" [存在の謎:形而上学の案内付き旅行]

 Riddles of Existence (Amazon.co.jp)

目次:1. 人の同一性 2. 運命論 3. 時 4. 神 5. なぜ無でないのか? 6. 自由意志と決定論 7. 構成 8. 普遍者 9. 可能性と必然性 10. 倫理の形而上学 11. 形而上学とは何か? 12. 超形而上学

タイトルと目次から明らかなように、形而上学の入門書。個人的には散々読んでいる話で、今更なんでこんな本を買って放置していたのか忘れたが、改めて読むと面白いというより懐かしい。この本については分析哲学の流れの中にある本の通例で、特に読むのに予備知識は必要ない。ただ、相当の論理的思考力と、それを無駄遣いする覚悟が必要だ。

個人的にはこういうのはもう、現実の真理について考察しているというよりは、人間の思考の構造について調べているような気がして、そこまで微細な議論を追い求める気もあまりない。最近は脱構築なんて流行らないのかもしれないが、結局、人間の考えることなんか厳密化していくと大体自己矛盾に陥って、それも言葉というものの本性上仕方がないのではないかとか、そんなのがわたしの今の気分だ。

Oxford Univ Pr; New版 (2015/2/4)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198724049

2024年10月27日日曜日

T. Edward Damer "Attacking Faulty Reasoning: A Practical Guide to Fallacy-Free Arguments" [誤った推論を攻撃する:誤謬のない議論のための実践手引き]

Attacking Faulty Reasoning (Amazon.co.jp)

目次:1. 知的行動の規範 2. 議論とは何か 3. 良い議論とは何か 4. 誤謬とは何か 5. 構造規準を犯す誤謬 6. 関連性基準を犯す誤謬 7. 許容性基準を犯す誤謬 8. 十分性規準を犯す誤謬 9. 反論性基準を犯す誤謬 10.論述文を書く

まともな議論をするためのガイドブック。大学の講義の一年分の教科書だろう。定評があるようでわたしが読んだのは第七版だ。グループワークみたいなのも各章ごとについている。最初の方はわりと形式論理学寄りだが、後半はより広く例えば「人格攻撃」とか「ギャンブラーの誤謬」みたいな非学術的な話が増える。誤謬を相手に対して指摘する方法などもわりと記述されており、その意味では論理学の本というよりは実践ガイドである。ディベートなどに有用だが、実際にはこれくらいのことは大学一回生で全員履修したほうがいい。社会科学に比べれば、数学や物理学は極めて原始的な論理しか使わないが、にしても政治経済その他日常生活で論述したくなることもあるだろうし、その時に欠陥だらけの論述をするようでは格好がつかない。実際そんなことも多いし…。

だいたいがわたしは理屈っぽいと言われるほうで、この類の本は昔は大量に読んでいた。色々考えることについては今でもしているが、もう他人の誤りを指摘するような用事からは長らく離れている。結局、人は誤りを指摘されるのを好まない。だったら自分でこの類の本でも勉強して自分で自分の誤りを発見できるようになったほうがいいと思うが。

この本が必修になれば、議論をする時に「それはundistributive middle termだね」などと捗るような気もするが、そんな世の中は来ないし、そうなったところで本当に捗るのかどうか不明だ。この類の本を読む人はそもそも議論の価値を重く見過ぎている気もする。純粋に仮想の話だが、「憲法二十四条が同性婚を認めているとは考えられず、基本的人権に反するのなら憲法のほうが間違っているので憲法を改正するべきである」などと言い始めたとしても、論理的な反論より現実的というか政治的と言うか暴力による反論のほうが大きすぎてほぼ無意味かと思われる。「インフレが厳しいからといって補助金を配っていたらますます円安になってさらにインフレが加速する」などという論理で政治が動くだろうか。しかし、この例については思考に論理的欠陥がないことが個人の利益に直結しかねない。

というわけで、わたしはこの本が想定しているような討論的な意味での論理的議論には悲観的だが、それにしても自分の判断を誤らないためにだけでも、こういう勉強は全員必修だと思っている。分厚いと言う欠点はあるが、さしあたりこの類の本の中では最高峰ではないだろうか。まあ自己啓発書のコーナーには「論理トレーニング」的な薄い本もよくあり、ああいうのでも読まないよりいいと思うが。

Wadsworth Pub Co; 第7版 (2012/1/9)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1133049982

2024年8月6日火曜日

Alec Thompson "Daydreams & Thought Experiments" [白昼夢と思考実験]

Daydreams (Amazon.co.jp)

最初のほうは白昼夢というか楽しい妄想みたいな話だが、メインになるのは特に「テセウスの舟」や「トロリー問題」など英米哲学で問題になるような思考実験のコレクション。最後のほうは「シュレディンガーの猫」とか「サスキンドの象」というような物理学の話。合間には禅の公案まであり。わたしとしてはあまり知らない話は出てこないのだが、多くの人にとっては初耳な話も多いだろう。聞いたことがあっても楽しめる。一つにはイラストがいい。これは無限に時間をつぶせるので、翻訳して新幹線の駅の売店にでもおいておくべきだと思う。あまりちゃちな装丁にしてほしくないが。良い本だ。

Best book for a long travel.

Wooden Books (2023/10/15)
言語 : 英語
ISBN-13 :978-1907155550

2024年7月16日火曜日

E. M. Cioran "De l'inconvénient d'être né" [生誕の災厄]

De l'inconvénient d'être né (Amazon.co.jp)
生誕の災厄 (Amazon.co.jp)

この著者の作品としてはHistoire et Utopieに続いて読むのは二冊目だが、多分これ以上読まないな。これは断章集ということで、読みやすいと言えば読みやすいが、ひたすら愚痴がならんでいる。生まれるより生まれないほうが良い、という考え方は東洋では普通だし、この本も頻繁に仏教に言及するが、西洋の思想の流れでは、こんなに攻撃的になるしかないのだろうか。著者には仏教だけでなく、無為を良しとする老荘もしっかり読んでほしかったところだ。なかなか我々日本人みたいにスムーズに理解できないのかもしれないが。

この著者の中核となる思想は「人間のやることは最終的にはすべて人間に刃向かってくる」みたいなことだと思われ、その件について具体例を詳説するのはほかの著述でやっているんだろう。別にそれはいいが、東洋では「だからバカバカしいことをしないで、のんびり生きましょう」とむしろ明るい話になる。この著者がやたら攻撃的になるのは、一つにはまだナチスの災厄が生々しかったり共産主義の災害が明白になった時代背景のせいだろうか。しかし、そのわりには愚痴が個人的である。何かを断罪するには、何かの判断基準を持っている必要があるが、この人が何を基準に文句を言っているのか謎だ。結局ニーチェ的というか、西洋哲学が約束した明るい未来が基準なのだろうか。それに現実が見合わないとか内部矛盾があると文句を言うのは、不毛かもしれないが一応筋は通っている。

そのニーチェについて著者は、「偶像を破壊したが別の偶像を建てた」みたいなことを言っていて、これは御尤もな話だ。時々こういう良いことを言うし、人それぞれこの本から拾うところはあると思う。日本語訳もあることなので、特に反出生主義を極めたいムキには必読書かもしれない。

Editions Gallimard (1 janvier 1987)
français

2024年7月14日日曜日

Marya Schechtman "The Self: A Very Short Introduction" [自己:非常に短い入門]

The Self (Amazon.co.jp)

目次:1.形而上学的自己 2.他の誰かになること 3.自分自身であること 4.満ち欠けする自己 5.分裂し混乱する自己 6.身体化された社会的自己

第1章は、よくある「原子レベルで人を分解して遠方の惑星にそいつを再現したら、それはは元のそいつと言えるのか」みたいな話。第2章は比喩的な意味で「別人になった」みたいな話。第3章は洗脳やら社会的偏見に抵抗して言われる「Be yourself, no matter what they say」みたいな話。第4章は子供や老人性痴呆みたいな話。第5章は精神病の例。第6章は生物学や社会的に構成された自己の話。

読むのにかなり時間がかかった。実はわたしとしてはそんなに斬新な話はなかったように思う。わたしにとってテーマの根本は第一章で、たとえば心と体が入れ替わったらみたいなよくある議論。そこからすると、残りの章は余計な回り道のような気もするが、それぞれ面白い話もあるし、第一章のテーマを再考するきっかけにもなるかもしれない。個人的には、生物学、特に免疫系の自他識別が上昇していって神経レベルで表現されたのが自己だとかいう説は斬新だった。

後はわたし自身の考えだが、「自分」というのは要はヒトという動物種で個体間の関係を調整するために必要な概念というだけで、別に実体があるわけじゃないし、必然的に「自分」という言葉がどういう風に使用されているかの研究になるしかないだろうとは思っている。本書で語られているような精神病理の例を見ると、概念の混乱が生物学的な振舞にまで影響することもあり得るんだろう。…というくらいに思っているが、今後の研究の進展によってはまだ分からないけど、この話で良く出てくる脳梁切断の話とか、どこまで真に受けて良いのかとも思う。

Oxford Univ Pr (2024/6/28)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0198835257

2024年5月14日火曜日

E. M. Cioran "Histoire et Utopie" [歴史とユートピア]

Histoire et Utopie (Amazon.co.jp)

目次:1.遠方の友人への手紙 2.ロシアと自由のウイルス 3.暴君学校 4.怨恨のオデュセイア 5.ユートピアの機構 6.黄金時代

20世紀の中盤から後半にかけての基本的にパリ在住のルーマニア人哲学者だが、知っている人は少ないだろう。古い言い方で「カルト的な人気を誇る哲学者」みたいな感じ。基本的に暗いというか、書いていることが絶望的である。それもショーペンハウアーみたいな静かな絶望より遥かに攻撃的であり、人間性というものをひたすらこき下ろしている感じ。ショーペンハウアーはまだ諦観の中で静かに暮らそうとするスタンスだが、こいつはとにかく黙らない。

この本は一言でいえば、人間というものは根本的に腐っているので、ユートピアなんか構想しても無意味という話。時代背景もあり、終わっている共産主義とか不毛な西側みたいな話が多い。さらに過去を夢見るのも未来に理想社会を描くのも同じく無意味とか、要するに全部こき下ろしているだけ。どれがまだマシとかいう話すら出てこない。

あまり他人に勧めたくなる本ではない。最もついていけないのは、筆者が人類の一般的な性質として想定しているらしい嫉妬の感情の強烈さだ。ただ、例えば、人間は何の制約もなければみんな暴君になるというような考え方は分かる。善悪の問題ではなく、それはそうなんだろう。そして、そうでなければ社会も成立しないような気もする…にしても筆者みたいに人間を断罪しても何にもなりませんね…とかいくらでも考えることはある。

なんでこんな本を読んだのか理由は忘れたが、多分、反出生主義の流れで引っかかったんだと思う。ここのところ、アメリカの自己啓発書ばかり読んでいたが、ああいうのは今の社会を前提にしてその中で楽観的にせいぜい自分のセコい利益を図ることしか考えていない。この本は逆に悲観的というのを通り越して絶望的だが、遥かにスケールは大きい。たまにはこういう本で中和してバランスをとったほうが良いかもしれない。

Editions Gallimard (20 mai 1960)
Langue: Français
ISBN-13 : 978-2070214594

2024年2月13日火曜日

Earl Fontainelle "Logic: The Ancient Art of Reason" [論理:古代の推論技術]

Logic (Amazon.co.jp)

論理学の入門というところだが、今時の記号論理学とかいうことではなく、古典ギリシアから近代まで普通に教えられていたいわゆる伝統論理学。別に古いからと言って使えないわけではないし、この基礎がなくて記号論理学や非古典論理とか言っても仕方がないし、正直なところ、この程度の入門書でもショーペンハウアーの議論術なんか不要になる。もっとも一般的には流行る話ではない。古典論理学は中世にほとんど完成されているし、実質が必要なら現代風の分かりやすい本なんかいくらでもある。

わたしはというと、学生時代にわりと真剣に伝統論理学をやったことがあり、ラテン語も読んでいたので、三段論法の格式(Barbara, Calarent...)とか真面目に覚えていた。ただただ懐かしい。ノスタルジーは別として、ではどういう人がこの本を読んだり、またはもっとちゃんとした伝統論理学を勉強するのか考えると、多分、カントだのヘーゲルだのを真面目に勉強しようとしてる人かと思う。本気の勉強にはもちろんこんなのでは無理だが、雰囲気を知るだけならこれで済む。現代論理学を勉強するに当たって伝統論理学も知っておきたいということなら、この本で当りをつけるのも妥当なところかもしれない。

Bloomsbury Pub Plc USA(2016/9/13)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1632864451

2023年5月29日月曜日

Jean Grondin "L'Herméneutique" [解釈学]

これは夢中で一気に読んだ。単純に読んでいて面白いのもあるが、実際、解釈学の概観としてこれが至上の基本書ではないだろうか。ただ、Que sais-jeのわりにガチの哲学書なんで、普段ハイデガーやデリダの言い草に馴染んでいないと何を言っているのか分からない可能性が高い。哲学科の学生は挑戦するべきだが、初心者にはお勧めできない。

もう少し簡単なのをということなら、Oxford Very Short Introductionにも"hermeneutics"というタイトルがあり、少しめくっただけでしっかり読んではいないが、多分あっちのほうが初心者向きだろう。

まず解釈学とは何かという話だが、古典的な意味では単に修辞学の逆である。伝えたい意図を言葉にする技術が修辞であり、言葉を解釈して著者が伝えたい意味を再構成する技術が解釈である。伝統的には聖書の解釈が大きな分野だが、法律の文章の解釈は今でも日常的に問題になっているし、昔の文学の解釈はそれだけで専門分野だし、学校の国語の授業でもそういうことを教えている。

次の段階として、19世紀になって「人文科学も自然科学のように客観的真理を得なければならない」という風潮が強烈だった時期があり、その時代には、人文科学の方法論として解釈学が議論されていた。この場合は、今で言う文学部の全分野、つまり文学も哲学も歴史学も社会学も、なんでもかんでも解釈学を使用することになる。解釈学が整備されれば人文科学も自然科学並みに客観的真理が得られると本気で信じられていたらしい。

第三段階として、本書でも頻繁に引用されるニーチェの「事実なぞ存在しない。解釈のみが存在する」みたいな話が出てくる。「時代の制約やイデオロギーや先入見を排除した完全に客観的な解釈は不可能」というくらいなら多分誰も反対しないと思うが、ここからどんどん話が過激になっていき、解釈のほうが事実に先行するみたいなニュアンスになっていく。もはや解釈学の対象は人文科学や社会科学だけでなく、自然科学も所詮社会的構成物なので解釈次第みたいなことになる。その究極が本書冒頭のソーカル事件みたいなことだろう。

本書の大半は第三段階の議論を巡っている。解釈抜きの生の事実なんか存在しないとか、人間は自らの目的に沿ってしか世界を解釈できないとか、そもそも解釈とは自分の先入見の破壊作業でしかないとか、誘惑的な過激な主張が色々出てくる。名前で言えば、ハイデガー・ガダマー・ハーバーマス・リクール・デリダなどが本書の主役だ。著者自身の立場は、事実は解釈による構成物に過ぎない的な虚無主義は避けているし、所詮我々は認識の枠組みの外に出られないとかいう悲観論も避けている。

そんなわけで、わたしの見るところでは、第三段階は古典的な事実vs解釈の関係を疑うのと解釈の前提になる構造(先入見・イデオロギー・パラダイム・実存…)を重視するのが大きな特徴だが、著者の視点がわりと穏当というか多分ガダマーに忠実なので安心感がある。個人的には「理解するというのは他人を自分の理解体系に組み込んで支配することなんじゃないんですか? 対話によって理解するなんて怖いんですけど」みたいなデリダ的言い草に馴染んでしまっており、それそれで生理的実感みたいなものだが、それ自体も解釈でしかない。…思考は永遠に続く。久しぶりに良い哲学書を読んだ。

C'est le meilleur livre sur l'herméneutique que j'ai lu.

QUE SAIS JE; 5e édition (11 mai 2022)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2715411128

2023年2月22日水曜日

Duncan Pritchard "Scepticism: A Very Short Introduction" [懐疑:非常に短い入門]

目次:1.懐疑とは何か 2.知識は不可能なのか 3.知識を弁護する 4.生き方としての懐疑

ものすごく丁寧に書かれた本だが脱落者多数という気のする本だ。最大の理由は普通に読んでいくと著者が何を目指して議論を進めているのか分からないことにある。もしかすると後から読んでいったほうがわかりやすいくらいかもしれない。

というわけで、最後の章から紹介すると、それまでの話からすると唐突にアリストテレスとかが出てきて、よりよく生きるためには適切な懐疑が必要であるとかいう話になる。つまり、この著者は良識的な知的謙虚さを擁護しようとしているのであり、特に最近目立ってきた反知性主義みたいな極端な懐疑論というか陰謀論や不可知論と戦うのがこの本の目的であり、ここまでの話は全てそれに向かっている。筆者が言うほど科学が信用できるかどうかという問題はあるが、それは枝葉に過ぎない。ただ、これが枝葉に過ぎないというのは最後まで読んだから判定できるので、筆者の科学への信頼の強さに引っかかって最初のうちに読むのを中断する人もいるだろう。

本書のそれまでの主要部分は、主にBIV(Brain in a vat)と呼ばれる極端な懐疑論、要するに「今わたしが経験しているのはすべて幻覚かもしれない」という仮説をめぐる話だ。ただ、著者は別にこの仮説自体を否定するわけではない。著者が否定したいのは「だからどんな知識も不可能である」という結論で、これも早めに言ってくれないとなあ…と思う。これをわかっていないと、何のために色々な細かい議論(しかもその細かい議論も一々引っかかるところが多い)を積み重ねているのかわかりにくい。著者は懐疑論を相互に矛盾する三つの命題のパラドックスにまとめて、解決策の例として三つの説を紹介する。それぞれ一長一短みたいなことだが、ここが本書のコアだとすると、特にこの話に大枠で合意しない人は少ないと思う。簡単に言うと①不可知論は常識に反する②知識の定義の仕方の問題③どこかに出発点となる「自明の真理」がないと懐疑すら不可能というところ。もちろん、著者はこの三つのうちの特定の立場を推しているわけでもない。

で、最後の章でアリストテレスが出てきて、極端な懐疑論は良い生き方に寄与しないとかいう議論が出てくるが、反発する人も多いだろう。結論がどんなに不毛で破滅的かは真理が真理であることと何も関係がない、という流儀もあり得る。言っていることとやっていることが違うというのが有効な反論かどうかも微妙な話だ。等々、わたしも今書いているだけで色々論点が出てきているようなことだが、実際に読んでいる最中は一ページごとに文句が出てきてしまう。本書はわりと懐疑論との対話みたいな感じで書かれているが、考えながら読むというより、いったん全部話を聞いてやるかみたいな態度で読んだほうがいいかもしれない。哲学としては初歩的な議論だと思うが、初心者は結構色々な論法を学べる気もする。

Written in defence of common sense, not for destroying our daily mundane world. If you excuse me, it's very British....

Oxford Univ Pr (2019/12/1)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198829164

2023年2月14日火曜日

Timothy Williamson "Philosophical Method: A Very Short Introduction" [哲学的方法:非常に短い入門]

目次:1.導入 2.常識から始める 3.議論する 4.用語を明確にする 5.思考実験をする 6.理論を比較する 7.演繹する 8.哲学史を用いる 9.他の分野を用いる 10.模型構築する 11.結論:哲学の未来

目次から分かるように、哲学そのものと言うより、哲学の研究で使われる様々な方法の概要というか、実例込みの紹介というか。多分、哲学科に入ったばかりの学生相手の案内みたいな意図で書かれたのだと思うが、わたしとしては大家による愚痴混じりの業界雑談みたいに読める。これもVSIにはたまにあるパターンだが、久しぶりにこのパターンに出くわした気がしている。

というわけで、素人が興味本位で読むには、ちと哲学の内実自体が少なすぎるし、同僚の悪口が多すぎるんじゃないだろうか。例えば、縄文時代に興味を持った人は、普通に縄文時代に関する本を読むはずで、縄文時代の研究のために使われる様々な手段に関する本には最初は行かないと思うわけですよ…。だから、この本を読むのは哲学に興味を持ったばかりの人ではなく、多少は哲学に足を踏み入れて、これから自分で研究していくか…くらいの人だろう。あと、哲学は法学と同じくらい英米系と大陸系の区別があり、この本は完全に英米系で、大陸系から見れば自然科学や数学を異常に参照する。大陸系に親しんでいる人はかなり違和感があるはずだ。

まあこの本でなくてもVSIに優れた哲学本はたくさんある。記憶に残っているのはMetaphysicsとかLogicだが、この投稿の下のラベル:哲学を踏めばいくらでも出てくる。

One of the VSIs where a cranky old giant talks about his field and his collegues.

Oxford Univ Pr (2020/11/1)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198810001

2021年11月9日火曜日

Luciano Floridi "Information: A Very Short Introduction" [情報:非常に短い入門]

目次:1.情報革命 2.情報の言語 3.数学的情報 4.意味論的情報 5.物理学的情報 6.生物学的情報 7.経済学的情報 8.情報の倫理

色んな領域(学問分野)を情報という観点から見たような本で、正直に言うとわたしには初歩的過ぎる。対象は大学一年生くらいだろうか。情報科学…という分野が今時どれくらい人気学科なのか分からないが、そういう志向のある人は読んでおいたほうが良いかもしれない。なんでも、この著者はその筋の大家らしくてこの本も基本書みたいだし。

  1. 情報革命…一般的なネット文化の観察。セカンドライフとか攻殻機動隊とか言っている。ちょっと古いかもしれない。
  2. 情報の言語…用語の説明。ビットの定義など。
  3. 数学的情報…シャノンの理論。
  4. 意味論的情報…演繹で新情報が生まれるのかみたいな話など。
  5. 物理学的情報…エントロピーとか量子とかマクスウェルの悪魔とかラプラスの悪魔とか。
  6. 生物学的情報…塩基配列とか神経系とか。ウイルスの話とかもできそうなものだが。
  7. 経済学的情報…ゲーム理論とかベイズ理論とか。
  8. 情報の倫理…ここが筆者の本領のようだが、正直に言うと漠然とし過ぎていて論旨が良く分からない。ただ、ここまで来てみると、今までの章も予備知識がない人にとっては全部そうだったのではないかと疑われる。

というわけで、無責任だが多分必読書なんだろうな…みたいな感じ。

This book is supposed to be a must-read, though, I am not so impressed.

Oxford Univ Pr(2010/3/26)
言語:英語
ISBN-13:978-0199551378

John Bowker "God: A Very Short Introduction" [神:非常に短い入門]

目次:1.神は存在するのか 2.なぜ神を信じるのか 3.アブラハムの宗教‐ユダヤ教の神の理解 4.アブラハムの宗教‐キリスト教の神の理解 5.アブラハムの宗教‐イスラム教の神の理解 6.インドの宗教 7.神を知ることと知らないことについて

筆者は多分キリスト教徒だと思うが、目次にある通りの漠然としたエッセイという感じで、たまにVSIにある「大家の詠嘆」みたいなパターンだ。「神の存在論的証明」とか「神の生理的根拠」みたいなハードな話はない。かつ、本体の大部分は「アブラハムの宗教」なので、一般日本人には縁遠いかもしれない。やたら疑問が提示されるが、基本的には答はない。あと、ちょくちょく現代物理学に言及してくるのが、なんかイヤな感じなんですけど…。とはいうものの、世界人口のかなりの部分がアブラハムの宗教の信者なんで、この本で風景くらい見ておいてもいいかもしれない。哲学とかいっても元は神学ですし。実際にはそこまで深く考えている信者も少ないとは思うけど。

A brief essay on the religions of Abraham.

Oxford Univ Pr(2014/11/1)
言語:英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198708957

2021年11月5日金曜日

Michael Freeden "Liberalism: A Very Short Introduction" [リベラリズム:非常に短い入門]

目次:1.多くの住居を持つ家 2.リベラルの物語 3.リベラリズムの層 4.リベラリズムの形態学 5.リベラルの有名人 6.哲学的リベラリズム-正義の理想化 6.盗用・中傷・退廃

政治思想に関する本は大抵書きぶりが面倒くさく、この本も例外ではないとは言えるが、かなりマシなほうかと思う。現実の現行の政治と関係し過ぎるせいもあるけど、本質的に入り組んでいるのだろう。自由主義と資本主義がどう関係するのかとか、自由主義と民主主義に必然的な関係があるのかとか、ちょっと考えただけで面倒くさい。こういう概念の整理に価値がないと言い切ってしまいたくもなるが、整理できないまでも考えたほうがいいのだろう。著者の信念が強く反映されるのは止むをえないが、それでも常識的とされている話からそんなにずれている気もしない。この類の話の整理の仕方として一番良いのは歴史的事件と思想の発展史の対応を理解することで、というか、それ以外の方法があるような気もせず、この本もその方向でしっかり書かれている。例えばchapter3は圧政からの自由→自由な経済活動→自己表現→社会調和→多様性みたいな整理で、この時点で随分分かりやすいような気もする。現代に近いところほど著者の個人的見解が強く感じられ、例えばいわゆるネオリベラリズムは仲間にすら入れてもらえないような感じだが、それでもリベラリズムを名乗るのは価値のあることなんだろう。名乗るのならこの本みたいな入門書くらい読んでおくべきなのかもしれない。

Relatively easy to comprehend, among many books on this topic.

Oxford Univ Pr (2015/8/1)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0199670437

2020年9月24日木曜日

David Benatar "Better Never to Have Been: The Harm Of Coming Into Existence" [生まれてこない方が良かった:存在してしまうことの害悪]

いわゆる反出生主義というと第一に挙がる本だが、一般人にとってはテクニカル過ぎるというか、倫理学内部の議論が大半なので、あまり一般には売れないのだろうと思う。

日本に関しては「生んでくれと頼んだ覚えはない」みたいな反抗期の子供か、「子供を作るような社会環境じゃないので生みません」みたいな実は自分の利害を基準にした言い草が反出生主義を名乗っている場合が多い。それはそれで無意味な主張とは思わないが、その点でこの著者の考えの特徴は①功利主義的②生む側の利害ではなくこれから生まれる側の利害が判断基準③どんな状況でも非存在が存在に勝るという三点にまとめられると思う。

従って部外者、特に日本人からすると前提条件が多すぎるかもしれない。「生まれてこないほうが良かったなあ」みたいな話は論理というより単純な詠嘆であり、その主張を正当化するためにキリスト教圏ではこれくらい論証する必要があるのかもしれないが、仏教圏ではこんなのは常識に過ぎない。インドでは輪廻を脱して存在を消滅させるのが昔からの究極目標だった。我々が普通に考えれば、「既に存在しているので善悪を論じても手遅れ」「悪いのならせめてこれ以上の再生産はやめよう」「他人が再生産するのは残念ながら阻止できない」くらいだろう。

筆者の基本的な構成は「子供を作るのは既に存在している人間の利益のためであり、これから存在させられる子供にとっては害でしかなく、自分の利益のために他人に害を為すのは悪である」ということになる。一歩進めれば、政府は出産を奨励するべきではないし、子供を産んでその子供を人質に取って政府に金品を要求するような行為は許されないことになる。こうなると多くの人は黙っていられなくなってくるだろう。とすると、やっぱり、現行の法体系というか倫理体系の中でこういう主張をするのは無意味ではない。

障害者がどうとか安楽死がどうとか妊娠中絶がどうとか大量の論点があるのは誰でも分ると思うが、ただわたしとしては、そこまで議論の詳細に興味を持てなかった。結局のところ人口の再生産は自然現象だし、日本人が減っていると言っても、いずれ減少は止まると思っている。縮小再生産は人間/生き物の本質に反する。いくら論証したところで、出産は祝われ続けるだろう。社会正義のシステムは出産が善である前提で構築されていて、作り直すのは困難だ。むしろ背理法的に筆者の拠って立つ根拠が否定される可能性のほうが高い。ただ、真剣に倫理学の枠内で議論したい人にとっては必読書のように思われる。

Obvious is obvious. What we need is a method through which we stop existing.

ISBN-13 : 978-0199549269
出版社 : Oxford University Press(2008/9/15)
言語: : 英語

2019年6月21日金曜日

"Critical Theory: A Very Short Introduction" [批判理論:非常に短い入門]

目次:1.フランクフルト学派 2.方法の問題 3.批判理論とモダニズム 4.疎外と物象化 5.啓蒙された幻想 6.ユートピア実験室 7.幸福の意識 8.偉大な拒否 9.諦めから刷新へ 10.未完の仕事:連帯と抵抗とグローバル社会

入門と言いながらこれも素人にはお勧めしかねる本だ。評判はものすごく良いようだが…。人名で言えば、アドルノ・ホルクハイマー・フロム・マルクーゼ・ベンヤミン・ルカーチ・グラムシ・マンハイム・ハバマスとかまあ、たいてい日本語の訳書があるし、この界隈を一応読んでいないと、この本だけ読んでもしんどいかと思う。というのも、この本は一人一人の思想を解説するというよりは、目次にあるようなテーマについてフランクフルト学派の態度を著者が解釈していくというような体裁なので、まったくとっかかりのない人が読むのは少し無理がある。あるいは、続いて個別の思想家に取り組んでいくという前提でこれから読み始める手はありえる…。

というわけで、主たる読者は軟弱化する以前のヘヴィな社会学を学ぶ志の高い社会学か政治学の学生というところだと思われる。その前提で書くが、この界隈の最大の問題意識は、フランス革命の経緯からも例示されている通りに、啓蒙が反動、最悪ファシズムをもたらすという事態をどう考えて対抗するかというところだと思われる。思想に思想で対抗するのは無理なような気もするし、何ならフランクフルト学派みたいな考え方は詰んでいるような気もするが、油断をしていると、この平和な日本でさえファシズムからそんなに遠くないような気もする。さしあたり英米基準で作られた日本国憲法の価値観というものがあり、それにどんな問題があるにしても、江戸時代の日本の政治体制のほうが良かったとは思えない。しかし、これがファシズムの出現を阻止するのに十分かどうかは明らかではない。少なくとも格差社会の激化を阻止するには足りないようだ。

というようなことを真剣に考える人にはフランクフルト学派を避けて通れるはずもない。我々が常識と思っている考え方のかなりの部分が血塗られた歴史の後に勝ち取られていることが再認識される。結局、こういうことについて中立な立場などは存在しない。ただ、思想で解決する問題とも思えない…。

A great overview of the Frankfurt school, though not for introduction.

Oxford Univ Pr (2017/10/20)
英語
ISBN-13: 978-0190692674

2019年6月19日水曜日

John Robertson "The Enlightenment: A Very Short Introduction" [啓蒙:非常に短い入門]

目次:1.啓蒙 2.宗教との関り 3.人間の境遇の改善 4.公衆を啓蒙すること 5.哲学と歴史の中の啓蒙

VSIにしては内容が重くて素人にはお勧めしかねるというような…。ある程度歴史と哲学の基礎知識がないと読めない。我々が歴史で習う啓蒙の時代というのは、要するに今の時代に通るような自然法の理論とか自然科学とかが確立されて、タイムスリップしたとしても、まあ何とか一応知的な話が通じるようになった時代みたいなことだろうと思う。その後世界に起こったことは、つまずきながらもカントとかハバマスとかが考えるような公共圏みたいな公正というか透明というかそういう単一の世界に進み続けているというような…。こういう話を脱構築するのは簡単だが、良くも悪くも何となく目指すべき社会の方向は共有されているのだろう。例えばの話、国家が特定の宗教を強要することを良いとは我々は思わないし、この前提を共有しない人間とは話にならないような気がしている。しかし、そういう話と関係のない、例えば江戸時代の日本が同時代の西欧に比べて野蛮だった気もしないし、どうもこの辺りがわたしの中で整理がついていない。こういう本を読むと、さらに何のことやらわからなくなる。現実的にはハバマスが考える線で生きていくしかないと思うが…。

At least, this book does not serve as an "introduction".

Oxford Univ Pr (2015/12/1)
英語
ISBN-13: 978-0199591787