2017年5月31日水曜日

Barbara Bregstein "Advanced Spanish Step-by-Step" [上級スペイン語一歩ずつ]

目次:1.SerとEstarと現在形 2.SerとEstarの点過去と線過去 3.現在進行形 4.過去進行形 5.接続法現在 6.命令法 7.名詞・冠詞・形容詞・代名詞 8.現在完了形 9.過去完了形 10.未来形 11.過去未来形 12.接続法現在完了 13.接続法過去 14.接続法過去完了 15.慣用句

Easy Spanish Step by Stepの続編で、この二冊でスペイン語文法はほぼ完成と言える。最初のほうは復習から始まるが、基本的にはEasyのほうから始めるべきだ。Easyのほうは半年ほどかかったが、こっちのAdvancedのほうはほぼ二か月で終わった。二冊目が速くなるのは、それまでの知識が応用できるように教材が配置されているからだ。

この二編の本は構成というか順序が非常に優れている。日本語でスペイン語の入門書と言えば、瓜谷先生の「スペイン語の入門」が標準だと思うが、次々に脈絡なく文法事項が出てきて丸暗記させられる感じで、要するに古風である。大学書林の「○○語四週間」的なハードボイルドな勉強法が向いている人もいると思うが、強力な暗記力が必要だ。

このBregstein先生の本は、構成が良い。一例を挙げると、直説法現在の次に過去形より先に接続法現在が出てくるが、非常に理にかなっている。要は-arと-ir/-erの語尾が振り替わるだけだから、全く異質な線過去や点過去より覚えやすいし、直説法現在の復習も兼ねることになる。日本の教科書だと、通常、直説法を全部終えてから接続法に入るが、Barbara先生の方式の方が易しい。それに、スペイン語では、フランス語やドイツ語より接続法が重要だ。あと、日本語より英語のほうがスペイン語に遥かに近いということは、もちろん非常に大きい。

英語圏の他のスペイン語練習本、たとえば"Practice Makes Perfect"なども見たけど、わたしとしては、Bregstein先生のこの二冊が最善だと思う。普通に英語力があるという前提だが(多分スペイン語をやろうと言うくらいなら、この本の英語くらい読めるだろう)、スペイン語を始めるなら第一選択だろう。音声教材がないのは他で補う必要があるが、もともとスペイン語の発音はそれほど難しくない。

With "Easy Spanish Step-by-Step", the best introductory course to the Spanish language.

McGraw-Hill Education (2011/12/28)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0071768733

2017年5月23日火曜日

Russell G. Foster, Leon Kreitzman "Circadian Rhythms: A Very Short Introduction" [サーカディアンリズム:非常に短い入門]

目次:1.サーカディアンリズム:24時間現象 2.一日の内の時間が問題 3.タイミングがズレる時 4.時計に光を当てる 5.分子時計の刻み 6.睡眠:最も明白な24時間のリズム 7.サーカディアンリズムと代謝 8.生活の季節 9.進化と時計への別の見方

概日周期とも訳せるのかも知れないが、生物の体内に組み込まれている生物時計の概説。生物時計は外部刺激(光など)によって調整されはするが、基本的には外界と無関係に(つまり地下などの外部刺激が変わらない状況でも)時を刻み続ける。機械時計の挿話があったりするが、多分筆者が機械時計に関する名著を読んだものと思われ、機械時計と基本的に関係はない。前半は巨視的に人間を含む生物の生活のリズムについて説明していて、人間であれば、夜勤が有害だったり、若者が夜型だったりするというようなことが説かれている。この件に関しては名著"Sleep"も是非併せて読みたい。わたしは超夜型で、今まで生活リズムで散々苦労してきたのがこの本を読んだ最大の動機だ。学校の開始時間を遅らせるような試みは、欧米では既に始まっているが、日本では聞いたこともないし、さっさとこういう知識が日本でも普及することを願う。最近聞かなくなったが、サマータイムなど論外だ。

後半は完全に分子生物学で、普通に高校程度の生物学の知識があれば読めるが、話が非常に複雑なのは覚悟する必要がある。なんでも、分子レベルの話と生物の行動の関係がここまで明らかにされている例はほとんどないらしく、頑張って読んでいくと壮絶に複雑で、どうやって解明したのか理解に苦しむくらいだ。医師の国家試験でもここまでの知識は要求されていないのではないかというような…。しかも、解明したところで複雑過ぎて、これを健康に役立てるとかいう話にはほど遠い。ただ、こんな壮絶に複雑なことがほとんどの生物の中で行われていることに感嘆する。

I wonder if even medical doctors understand these molecular level mechanisms of circadian rhythms.... Complicated, yet fascinating.

Oxford Univ Pr (2017/5/23)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198717683

2017年5月11日木曜日

Richard Passingham "Cognitive Neuroscience: A Very Short Introduction" [認知神経科学:非常に短い入門]

目次と各章で答えられる疑問

  1. 最近の分野
  2. 知覚
    1. 物体を操作するために認識は必要か。
    2. 腕を切断した人が腕の感覚を持ち続けるのはなぜか。
    3. 言葉を読んだり聞いたりする時に色を見る人がいるのはなぜか。
  3. 注意
    1. 脳卒中の後、左側にあるものを無視する患者がいるのはなぜか。
    2. なぜ別のことに注意を向けると痛みが和らぐのか。
    3. なぜ運転中に携帯電話を使うと危険なのか。
  4. 記憶
    1. 記憶喪失になっても学校で学ぶ知識を覚えられるのはなぜか。
    2. 50代になって人の名前を忘れ始めるのはなぜか。
    3. アルツハイマー病の人が道が分からなくなるのはなぜか。
  5. 推論
    1. 種類の違う知的能力が相関するのはなぜか。
    2. 我々は言葉で考えているのか。
    3. 人類はなぜ賢いのか。
  6. 決定
    1. ぼうっとしていて失敗する時があるのはなぜか。
    2. 長期的には有利な報酬より短期的な報酬を選ぶのはなぜか。
    3. 道徳的推論の基礎は何か。
  7. 点検
    1. 自発的な行動が自由であると言えるのはどういう意味か。
    2. 難しい作業をする時にどのように間違いから学べるのか。
    3. 人はどのように他人の意図を推論できるのか。
  8. 行動
    1. 利き手と言語を扱う大脳半球になぜ関係があるのか。
    2. どのようにしてバイオリンの演奏を学べるのか。
    3. なぜ自分自身をくすぐれないのか。
  9. 未来

タイトルから分かりにくいが、上のような疑問に、主に健常者と脳卒中の患者の脳のfMRI画像によって答えていくというシンプルな本である。脳の色んな部位の名前を覚えるのが面倒である以外は、特に難しい話ではないし、何の予備知識もいらない。脳はみんな持っているので、誰にとっても他人事ではない。しかし、例えば、色の認識と形の認識は脳の別の領域でやっていて後から合成される、などという話は、自分でいくら主観を観察しても分からないことだ。

別にそれが分かったからといって、わたしの色と形の認識が変わるわけではないが、どうもこの類の脳科学の話というのは、世界観を揺さぶられる感じがして楽しい。結局、今わたしが見ているこの世界がどうやって構成されているのかという話だ。わたしとしては、今言った「見ているわたし」にも興味があるが、この筆者はその類の質問は哲学の領域の話で、科学の知ったことではないという立場だ。それにしても、fMRIや脳の損傷からの観察は興味深いし、哲学者でも心理学者でも、知っておくべきことだろう。類書を見ないので、翻訳したら売れる気もするが、ちと書きぶりがストイック過ぎるかなあ。自己啓発的な要素は全くない。

Many questions about human cognition are answered by analysis of healthy humans' and stroke patients' brains observed by fMRI. Simple, but enlightening.

出版社: Oxford Univ Pr (2016/12)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198786221

2017年4月29日土曜日

Jim Bennett "Navigation: A Very Short Introduction" [航海術:非常に短い入門]

目次:1.初期の航海文化 2.中世とルネサンスの学習と実践 3.数学的科学 4.推測航法と経度と時間 5.数学的船員の全盛期 6.電子の時代

この本の言う"navigation"とは、人間が海上で自船の位置と方向を知る技術のことに限定されている。その古代から現代にいたる発展史の概説。まずは天文航法・地文航法から始まり、平面航法からメルカトル航法や中緯度航法の説明もあり、最後は電波航法に至る。器具にもかなり重点があり、磁石の発見から六分儀やクロノメーターやジャイロコンパスやロラン局の説明などもあり。あまり類書を知らないので面白かった。

ただこの本、ちょっと素人には難しいかもしれない。基本的には歴史を語る本なのだが、テーマが航法だから、最低限の数学・科学の記述は避けられない。そして、VSIの通弊で図解が少ない。船の免許を持っているとか海技士であるとかなら問題ないかもしれないが、そうでなくても、あらかじめ簡単にでも現代の航海術の知識はあったほうが良いだろう。

わたしはというと、昔、少し海上交通を調べてたことがあり、天文も好きだし、測量も電波も国家資格を持っている。この際なので、航海学の本や海技士のテキストなども見ながら、この本を読んでいたが、なかなか楽しかった。こういうのはマニアックかもしれないが、たとえば「ワンピース」みたいな海洋冒険マンガで航海術が適当にしか描かれていないのは残念なことだ。こういう本を通して、空以外に何の目印もない海上で船を定位することがどれだけ大変かが知られればいいが、ちょっと難しいのかもしれない。

A good historical overview, though maybe a bit difficult if you are not familiar with modern navigation techniques.

Oxford Univ Pr (2017/05)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198733713

Josh Robertson "50 Years of the Playboy Bunny" [プレイボーイバニーの50年]

プレイボーイクラブとバニーガールの興亡史。半分はバニーガールの写真。ヌードもあるが、アメリカの60-70年代のノリなので、今見ると別にいやらしくもない。というか、多くの読者はバニーガールを見たいのであり、ヌードなんかに使うページはムダというのが一般的な意見のようだ。ともあれ、写真に関してはこれ以上本物のバニーガールを見れる資料は他に知らない。

バニーガールは元々プレイボーイクラブのウェイトレスとして考案されたもので、基本的には60-70年代の趣味だ。プレイボーイクラブの様子は本書に詳しく記述されているが、多分、今でもあるような「クラブ」と大差ないのかもしれない。紳士の社交場というか、遊び場というか、わたしもそんな場に縁がないので、何とも言えないが。高価だし退廃的だし、楽しむには高い社会性が必要だし、時代の流れとともに衰退したのも良く分かる。

肝心のバニーのほうは、大変厳しい仕事で、体育会系というか軍隊に近い印象を受けた。もちろん、お触り厳禁だし、客とのデートも厳禁だから、その意味では安心なのかもしれないが、姿勢やら動作やらのルールが非常に厳しい。例えばバニーガールは椅子に座ってはいけない(椅子の背にちょっと腰かけるのはいい)。水を飲んでいるところを見られてはいけない。トイレに行くところを見られてはいけない。もちろん容姿の良いのが前提だが、並大抵なことではない。折しも公民権運動やらフェミニズムやらが盛り上がってくる時代で、バニーガールの労働組合ができるに至っては、潮時という感じだ。

わたし自身はプレイボーイという雑誌もほんど読んだこともないし、そこで提案されているライフスタイルも良く知らないし興味もなかったが、こういう文化もあったんだなと思うくらいだ。バニーガールは何となくスタイリッシュな印象があったが、結局、生身の人間なので現場は大変だ。何にしろバニーガールの資料と言えば、真っ先にこの本なので、興味の方向性は人それぞれとしても、特にカジノ法成立に乗じようとする人には読んでおいてほしいものだ。

I do not understand the culture Playboy magazine promotes. Still, I find bunny's costume very stylish and elegant. This book contains many of photos of bunnies and also a great account of Playboy Clubs, which was intersting even to me.

Chronicle Books (2010/10/13)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0811872263

2017年4月25日火曜日

Dava Sobel "Longitude" [経度]

目次:1.仮想の線 2.時間以前の海 3.時計仕掛けの宇宙で漂流 4.瓶の中の時間 5.共感の粉 6.賞 7.歯車作りの日誌 8.バッタが海へ行く 9.天の時計に届く 10.ダイアモンドの測時計 11.火と水の審判 12.二つの肖像画の話 13.ジェームズ・クック船長の二度目の航海 14.天才の大量生産 15.子午線の庭で

John Harrisonという時計技師の伝記。背景を説明すると、18世紀には海上で経度を知ることが非常に難しく(緯度は北極星の高さを測れば済む)、経度を知る方法には懸賞金が掛かっていた。そこで、天体観測に基づく方法と正確な時計を使う方法が争っていた。天体に関しては、月と太陽などの他の天体との角度を測る事になるが、膨大な観測データが必要である。時計に関しては、最初に出発地の時間に合わせておけば、太陽時との差で経度差が分かることになるが、非常に正確な時計が必要である。ハリソンはこの賞金に時計技師として挑戦した。

というわけで、賞金がかかっているから、天文派のほうも必死なので、時計自体よりも、時計が完成した後のムダな政治的な争いが記述の大半を占める。複数の船長が価値を認めているのだから、賞金なんかより現場に売ってしまえばいいような気がするが、基本的には賞金争い(時計が海上でも正確であることを認めるか否か)の話ばかりだ。当時はもちろん機械時計だし、どうも超高級工芸品のような物で、簡単に量産できるような物ではなかったらしい。どうやって量産化したのかは詳しくは分からない。

個人的には近頃航海術に興味があり、その関連で読んだが、この本は政治劇が主で、技術的にはそれほど詳しくない。時計が好きな人にとってはジョン・ハリソンという人物は大きな所なので読む価値があるのかもしれない。結構売れた本らしく、日本語訳もあるようだが、お勧めはしない。

A story or biography of a clockmaker. The main theme is politics around getting the cash prize long after the chronometers had been well produced, not the technology itself.

HarperPerennial (2005/9/5)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0007214228

2017年4月18日火曜日

Alex Reinhart "Statistics Done Wrong: The Woefully Complete Guide" [間違った統計:悲惨なほど完全な案内]

目次:1.統計的有意性入門 2.検定力と検定力の足りない統計 3.疑似反復:データを賢く選べ 4.p値と基準率の誤り 5.有意性の間違った判断 6.データへの二度漬け 7.連続性の誤り 8.モデルの濫用 9.研究者の自由:良い兆候? 10.みんな間違える 11.データを隠すこと 12.何ができるか?

特に医学を中心に統計の誤用・誤解を論う本で、基本的に科学者・学生に向けて書かれている。統計学者の苦言みたいな話は類書も多い所だが、わたしが知る限りでは最善だと思う。分野を問わず、統計を扱う分野なら全大学生が読むべき本だ。ただ、基本的な統計学の知識はあることが前提になっている。ほとんど数学は使われていないが、たとえば、p値がどうやって算出されるかみたいな話は知っていることが前提だ。医学の知識は別に必要ではない。統計に無関係な人はいないと思うし、できれば一般人にも知ってほしいことばかり書いてあるが、ちとハードルが高いかもしれない。しかし、マスコミの統計などを疑うにしても、この程度の知識はあったほうが良い。

個人的には、医学統計という件では、健康食品の類の評価が毎年ひっくり返る件とか、コレステロール論争とかでうんざりしているのもあるが、この本のせいで、ますます信用する気がなくなった。それはそれとしても、統計学というのは非常に面白い分野だ。統計というもの自体が人間の直観に反するものなのだろう。別にこの本に書いてあることで初耳な事は少ないが、題材などは非常に面白い。統計検定1級を取るつもりだが、ますますやる気が湧く。

「ダメな統計学」ということで日本語訳も出ている。amazonの書評で翻訳に文句を言っている人もいるが、パッと見たところ、そこまで問題のある翻訳とも思えない。訳注が付きまくっているようだし、確かにかなりウザい感じはあるが、別に日本語訳でも読んでもいいと思うが…。

A must-read for all college students. There are many books on the same subject, but I guess this one is the best.

No Starch Pr (2015/3/16)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1593276201

2017年4月11日火曜日

Martyn Rady "The Habsburg Empire: A Very Short Introduction" [ハプスブルク帝国:非常に短い入門]

目次:1.王朝と帝国;称号と民 2.帝国の視野;11-16世紀 3.それぞれの王のように;16-17世紀 4.信仰のために;17-18世紀 5.啓蒙主義と反動;18-19世紀 6.フランツ・ヨーゼフの時代;19世紀 7.世界大戦と解体;20世紀

ハプスブルク家の通史と言うよりは、ハプスブルク家の当主の歴史≒ほぼヨーロッパ史の叙述になる。ハプスブルク家特有の事情は、例えばやたら顎が出ているとか少しは叙述があるが、あまりない。ハプスブルク家の家庭問題はそのまま世界史ということもあるが、あくまでハプスブルク家から見た帝国≒スペイン・神聖ローマ帝国・オーストリア・ハンガリー・その他多数の通史である。

その限りでは、ほとんどただの世界史の本みたいな感じではあるが、この本がスゴく面白いのは、著者の語り方が素晴らしいのもあるが、わたしがスペインやオーストリアの側から世界史を見ることが少なかったからだろう。著者も言っているが、歴史は勝者によって書かれるし、特に、20世紀の勝者は中央集権・単一民族(nation)・単一言語という体制を早くに作った西欧の国で、ハプスブルクみたいな多民族多宗教多言語の緩やかな連帯ではない。結局、帝国は解体されて20世紀以降、東欧・バルカン半島辺りには酷い政府がいっぱいできたし、今となっては、ハプスブルク家の頃のほうがみんな仲良くしていたし、むしろ時代を先取りしていたのではないかというようなことだ。

というわけで、英仏のような勝者から書かれた歴史を見直すのには素晴らしい本だった。ハプスブルクという名前は、日本でもそこそこ認知されているし、一時期は長崎県の一部(出島のことだろう)も支配していたと言う。ハプスブルク家的に重要でも、帝国の運営に直接関係のないことはあまり触れられない。たとえばマリー・アントワネットは名前すら出てこない。芸術面もあまり細かい叙述はないが、ヴィーンのモーツァルトとかプラハのミュシャとかは帝国の問題として触れられる。欧州の文化芸術を理解する上でもハプスブルク家の理解は必須だから、翻訳すればそこそこ売れると思うがどうか。

全く余談だが、現在、東京の国立新美術館でミュシャ展をやっていて、スラブ叙事詩が来ているらしく、近く見に行こうと思う。本書の記述によると、ナショナリズムが勃興してオーストリア=ハンガリー二重帝国がグダクダになる中、ドイツでもイタリアでもないスラブ民族という世界観を打ち出すために製作されたものらしい。多分、当時はまだチェコ人はスロバキア人とは違うとかいうところまで話が矮小化していないかったのだろう。こういう歴史背景を知っていれば、現代日本でミュシャがラッセンとかヒロヤマガタとかと並んで押し売り商材にされている件についても、独特の感慨が湧いてくるというものだ。

I found that I had been familiar with the European history only through the victors' side, id. nation states such as France and Germany. This book is very instrumental for me to see the world from the middle and the eastern Europe. Storytelling is also very impressive.

Oxford Univ Pr (2017/06)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198792963

2017年4月3日月曜日

Elizabeth Blackburn, Elissa Epel "The Telomere Effect: A Revolutionary Approach to Living Younger, Healthier, Longer" [テロメア効果:もっと若く健康的に長く生きるための革新的な方法]

目次:1.早く老いる細胞がどのようにあなたを老けて見せ、感じさせ、行動させるか 2.長いテロメアの力 3.テロメラーゼ:テロメアを補充する酵素 4.ほころび:ストレスはどのように細胞に入り込むか 5.自分のテロメアを気にしろ:否定的な考えと弾力的な考え 6.青色が灰色に変わる時:鬱と不安 7.テロメアを鍛える事:どの程度の運動が十分か 8.疲れたテロメア:疲弊から復活へ 9.テロメアは重い:健康な代謝 10.食事とテロメア:細胞の健康に最適な食事 11.テロメアを支援する場所と顔 12.妊娠:細胞の老化は子宮から始まる 13.子どもの頃は一生影響する:幼児期がどのようにテロメアに影響するか

テロメアという言葉がどれくらい一般に知られているか分からないが、要するに生物の老化を決定する細胞内の構造である。若ければ若いほど長く、歳を取ると短くなる。ただ、人によって、つまり、遺伝的・環境的な様々な原因によって、実年齢より長かったり短かったりする。というか、どちらかというとテロメアの長さこそが実年齢というべきで、これと暦年齢との差が本書の主題である。

だいたい二つの部分があり、テロメアとテロメア―ゼ(テロメアを回復させる酵素)についての判明している科学的知見と、テロメアに良い生活習慣などの説明が交互に来る。読者のかなりの部分が、後者にしか興味がないと思われるが、その件に関しては、率直に言って、特に斬新な知見もなく、"LOHAS"の一言で済むようなことだった。つまり、ストレスを管理し、たばこは吸わず、酒を控え、適度に運動し、瞑想をし、有機野菜を食べ、肉食を避け、オメガ3脂肪酸を取り、愛情のある生活をし、質の良い睡眠をとり、近所の人と仲良くし…。要するに世間で言われているようなとても意識の高い生活を推奨しているだけだが、背後にテロメアに関する疫学的な知見と、ノーベル生理学賞という説得材料が後に控えている点がこの本の売りなんだろう。

強いて世間の常識と少しずれていると思われるのは、体重自体をあまり問題にしていない点だ。体重自体より代謝とかダイエットのストレスのほうが問題であるとかいう言い分で、体重増加が代謝に関する重要な情報であることを強く言わない。もう一つ目立ったのは、特に前半でマインドフルネスを非常に重用している点で、これはDepression: A very Short Introduction"でもそうだったが、流行りなんだろう。

個人的には最後のほうのテロメアの遺伝とか胎児期~幼児期のストレスでのテロメアの損傷に関する知見がこの本の最大の収穫で、暗澹たる気持ちになったが、社会運動を別にすれば、個人が自分ではどうしようもないことである。格差社会はテロメアに及んで文字通り遺伝すらしている。世界的に売れている本らしく、日本でも「テロメア・エフェクト」という分かりにくいタイトルで訳されている。意識の高い生活をしたいが意志力が足りない人は、この本を読めば自分を説得する材料が増えるかもしれない。

All doctors recommend almost same style of life and this book is not an exception. In a word, "LOHAS". One outstanding feature of this book is a strong recommendation of "mindfulness" to control stress.

Grand Central Publishing (2017/1/3)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1455587971

2017年3月29日水曜日

Alex Roland "War and Technology: A Very Short Introduction" [戦争と技術:非常に短い入門]

目次:1.導入 2.地上戦 3.海・空・宇宙・現代の戦闘 4.技術の変化

中二感の漂うタイトルだが、実際その通りで、中学生や高校生が読んでも良さそうな内容である。この本がいう技術というのは、物理的な技術のことで、軍隊の編成とか戦術のことではない。たとえば、青銅器とかあぶみの登場とか、火薬や内燃機関がどう戦争を変えたとか、主に第二次世界大戦くらいまでの歴史を、わりと抽象的に説明している。範囲はかなり限定されていて、所謂国家間の戦争の話ばかりでテロなどの話はほとんどない。また基本的に物理的な兵器の話で、化学生物兵器の話もほとんどない。所々面白い事実もあるが、全体的には一般論だ。

VSIにしては著者の見解がわりと前に出ているが、特にサイバー戦争を大したことないと一蹴したり、核兵器にやたら好意的だったり、歴史学者は左翼的だとか、どうも賛成しかねる意見が多いし、説得力が薄い。ただ、間違いなく英語は易しいし読みやすい。一般的な世界史の知識はあった方がいいが、英語力を別にすれば、高校生または中学生でも読める内容だと思う。別に敢えてお勧めはしない。

Maybe a good book for teens.

2017年3月26日日曜日

Jan Scott, Mary Jane Tacchi "Depression: A Very Short Introduction" [鬱病:非常に短い入門]

目次:1.メランコリアの非常に短い歴史 2.現代:鬱病の診断と分類 3.鬱病のリスクがあるのは誰か? 4.鬱病のモデル 5.治療の進化 6.現在の論争と未来の方向 7.現代社会における鬱病

ほぼ目次の通り、鬱病に関する色々な方面からの解説。1,2章は歴史。3章は疫学。4章は生理学や社会学や心理学などの様々な方向からの病気の原因のモデル化の概観。5章は抗鬱剤とか行動療法とか精神分析とか様々な治療。6章はたまに話題になる「本当に抗鬱剤に効果があるのか」とか代替療法などの概観。7章は鬱病の経済的効果など。

この本を手に取る人のかなりの部分が、自分または身近に鬱の人がいるということだと思うが、序文でも断られている通り、患者サイドにはあまり実用的な本ではない。どちらかというと病院や医療行政の関係者向きだろうか。実のところ、わたしも鬱にはかなり詳しく、知識としては、この本で改めて知ったということは少ない。しかし、入門書としては、いろいろな論点を取り上げていて適切だと思う。わたしが少し驚いたのは、著者がわりとマインドフルネスに期待をかけていることだった。

あと、わりと最近言われるようになったことで、行動療法などのセラピーが脳の構造を変化させるという点は改めて考えさせられる。あと、胎児や幼児期の環境が脳・内分泌器官の成長に影響するという点も個人的に気になるところだ。当たり前だが、脳というものは常に変化していないと機能しない。英単語一つ覚えるだけでも、それに対応して脳のどこかの構造が変化しているはずだ。幼児期にストレスに晒されているとコレチゾルの分泌が強化されるとか、いかにもありそうな話だ。しかし、大人になってからでも、学習によって脳の構造を変えられるというのは勇気づけられる話。

そういうことでは、ある程度鬱病に詳しいと自負する人でも、知識をアップデートするには良いのかもしれない。もちろん、遺伝もあるが、遺伝子が環境によってONになったりOFFになったりするというのも最近言われるようになってきたことだし、特に鬱病の人には希望を与える本かもしれない。

あと、全く関係ない話だが、何年か前にVSIから"Depression"というタイトルが出るという告知があって、Amazonで予約していたら、三年ぐらい待たされた挙句キャンセルされた。改めて企画した本だと思うが、あれは何だったんだろう。

Very good reading. What surprised me was that the authors seem to have a positive opinion for "mindfulness".

Oxford Univ Pr(2017/3/3) 言語: 英語
ISBN-13: 978-0199558650

2017年3月14日火曜日

David J. Hand "Measurement: A Very Short Introduction" [測定:非常に短い入門]

目次:1.簡単な歴史 2.測定とは何か 3.物理科学と工学における測定 4.生命科学と医学と健康における測定 5.行動科学における測定 6.社会科学と経済学と商業と公共政策における測定 7.測定と理解

測定全般を薄く広く扱っているが、熱が一番あるのは知能指数や物価指数みたいな、社会科学である程度の統計解析が必要なところだ。恐らく、この辺りが著者の本領なのだろう。つまり、「長さ」や「重さ」みたいに、現実世界に確固としてあるものを正確に測定するというところではなく、測定行為自体が測定対象を構築するような分野に重点がある。統計哲学的にも面白い分野だ。

反面、「メートルの定義」みたいな理科的な話も少しあるが、内容は薄く、多分、別の本を当てるべきなんだろう。また、工業的な意味での測定・測量や、品質管理で問題になるような測定などにはほとんど触れられていない。基本的には社会科学の分野で測定という行為にまつわるあれこれを論じている部分が熱い。

例えば、世界の大学のランキングみたいな話は定期的に話題になるが、一体大学の性能をどうやって測定しているのか。もちろん、様々な指標を組み合わせて適当に算出しているが、指標を設定自体が測定対象を歪めるということがある。たとえば、指標のために大学を最適化する動機が作用するし、単純なインチキ、たとえば燃費不正計測みたいなこともある。

わたしが特に面白いと思ったのはその辺りだが、誰が読んでもそれぞれ面白い部分を拾えると思う。個々の分野については物足りない部分もあるが、全体的に読みやすい。

A good reading. The best part of this book deals with measurements in social sciences.

2017年3月2日木曜日

Deryle Lonsdale, Yvon Le Bras "A Frequency Dictionary of French: Core Vocabulary for Learners" (Routledge Frequency Dictionaries) [フランス語頻度辞典: 学習者のための語彙]

基本的には、フランス語単語を使われている順に5000語並べ、意味と例文を付けたもの。学習用で、アルファベット索引などもあるが、基本的には先頭から順に読んでいくもので、時々コラムなども入っている。

外国語は何語でもそうだが、基本的な文法を抑えれば、結局は語彙量の問題になる。暗記力のある人はそれを最大限活用して単語カードでも何でも使ってとにかく語彙を増やすことだ。わたしは不幸にして暗記力がないが、それでも何とかしたいと思っていて、この本はちょうど良いかと思った。コーパスが適切かどうかという問題はあるとしても、とにかく頻度順なのだから、それなりにやる気が湧く。フランス語の頻度順の単語集はこれくらいしかないし、出版社がラウトレッジというのも良い。

で、わたしが一通り読んだ感じでは、だいたい納得できる単語が並んでいるような気はする。もちろん、初歩的な教科書には出てくるが、コーパスには頻度が低いような単語もあるし、その逆もある。あと、新聞なども含まれているのか、時代を感じさせる単語もあり。例文を理解する能力を考えて、多分、仏検二級くらいのレベルの時に読めばちょうどいいかもしれない。とにかく、誰かが何の基準で決めたのか分からないような単語集より、ともかくも客観的な統計に基づいて決められた単語を覚えるほうが、やる気も湧く。人によっては主題別の単語集や語源別に覚えたりするほうが良いかもしれないが、頻度順も一つの選択肢だし、わたしみたいに自分の語彙力を確認しつつ足りない語彙を補うようにも使える。

If you want a frequency dicitonary of French, you do not have too much choice.

Routledge(2009/3/26)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0415775304

2017年2月27日月曜日

Dan Roam "Draw to Win: A Crash Course on How to Lead, Sell, and Innovate With Your Visual Mind" [勝つために描く:視覚的知性によって導き、売り、革新するための特訓コース]

目次:1生活が懸かっているように描く 2最も良い絵を描く人が勝つ 3まず円を書いて名前をつけよう 4目を導けば頭はついてくる 5「誰」から始めよう 6導くためには目的地を描く 7売るためには一緒に描く 8革新するためには世界をさかさまに描く 9訓練するためには物語を描く 10分からない時は描く

要するにビジネスの場で「もっと絵を使え」という本。絵と言ってもイラストまで行かず、「図解」くらいだろうか。あくまでビジネスだから「描くことは芸術ではなく思考である」ということで通している。絵の具体的な描き方としては、棒人間の描き方が少し載っているくらいで、別にこの本を読んでも絵自体が上達することはない。というか、この本が要求する程度の絵(図)は、教えられなくて誰でも描ける。

では、この本に何が書いてあるかというと、前半に視覚の重要性を解いているほか、後半は、そこらの安いビジネス書に書いてあることと大して変わらない。ただ一点、何かと「絵(図)を描け」ということを強く訴えている点が違う。昔、「人生がときめく片づけの魔法」というベストセラーがあって、わたしも感心したけど、あの本も、具体的な片づけ方の方法という意味では他の本と大して違うことは書いていない。ただ、「片づけよう」と思わせる力がスゴかった。それと同じで、この本についても、この本が言っている絵の描き方はとても簡単なことだが、実践している人は非常に少ない。そして、スゴくやる気にさせる。

絵が多くて非常に読みやすい本でもあるし、ビジネス・仕事術・プレゼン術みたいなことに興味のある人は読んで損はないと思う。わたしとしては、普段は絵も描かないし、こんなビジネス書には手も伸ばさないが、なんか妙に魅かれるものがあって手を伸ばして、正解だった。以来、何かと絵を描くようにするようになって、まあ、それでもなかなかクリアできない問題もあるが、少し視野が開けた気もする。

After having read this book, I have been drawing diagrams everyday. I hope it help me to get out of the troublesome situation that I am now in.

Portfolio (2016/9/13)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0399562990

2017年2月19日日曜日

Madeline Y. Hsu "Asian American History: A Very Short Introduction" [アジア系アメリカ人の歴史:非常に短い入門]

目次:1.帝国と移民 2.人種とアメリカの共和制 3.周縁で生きること 4.戦争の試練 5.帝国主義と移民と資本主義

主題はタイトルの通り。特に戦前までは中国人・フィリピン人のほか日本人がほぼ主役と言って良い。特に戦前はアメリカも人種差別が酷く、日本からの移民にとってもなかなか苦難の歴史で、日本人は全員読んでいいくらいの話かもしれない。この件については、高校の歴史の教科書でも記述が足りないところだ。というのも、当時のアメリカを含む人種差別の酷さは、それが主たる原因とは言えないかもしれないが、日本が太平洋戦争を始める一つの理由にも挙げられるし、日本人が知らなくていい話ではない。

この本はトランプ政権が誕生するわずか前に出たので、それ以降のことは触れられていない。一通り騒動が収まって数年後くらいには第二版で追記されることになるのかもしれない。現状では、日本政府は、アメリカの入国規制について「国内問題である」としてコメントを控えているようなことで、それも仕方がないかもしれないが、この本を読めば、戦前の日本政府が人種差別については強く抗議していたのと比較できる。当時は有色人種の国で国際的に発言権があったのが日本くらいなので、国際連盟とかの歴史を紐解けば、そういう日本の闘いももっと明らかになるが、この件はとにかく現代日本人に知られていない。

個人的には実はUCLAに所蔵されている日本人収容所の記録文書類を調べたことがあり、その時は収容所内部の生活を見ていただけだったが、こういう広い視野から見るのはとても大切なことだ。この本で扱われているのは「アジア人」というくくりだが、実際には、日本人のほか、中国・朝鮮・インド・フィリピン・ベトナムその他で、みんなそれぞれ出身国の関係もあり、状況が異なる。ただ、アメリカ人はセンサスを始め「アジア人」としか認識していないこともあるし、日本人は、かなりの割合を占める。現状のトランプ政権の移民政策を論じるなら、こういう過去のアメリカの移民政策の歴史、そして日本政府の対応も知っておくべきだろう。少し英語が難しいところもあるので、翻訳で広く日本人に届けばいいと思うのだが。

This book put the Trump's border control policies into the perspective.

Oxford Univ Pr(2016/12/7)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0190219765