わたしは特にSFファンではないが、ブラッドベリだけは子供の頃に翻訳であらかた読んでいて、これだけがなぜか残っていた。今なら原文で読める。
初出版が1953年という時代背景は把握しておく必要がある。ラジオの黄金時代からテレビの黄金時代への移行期で、常にソ連との核戦争が念頭にあった時代だ。ネタバレでない程度に、話としては、本が禁止された世界でみんなテレビ漬けのアホみたいな愚民になってしまっている。戦争の危険が迫る中、主人公は人々が隠し持っている本を燃やす仕事(fireman)をしているが、ある時からこの世界に疑問を抱くようになり…。
というわけで、時代に対する風刺がきっかけになってはいるので、読者の関心もそちらに行きがちで、作者自身も色々解説しているようだ。一般的には有害図書指定などの制度批判みたいに取られがちだが、作者的にはマスメディアによる愚民化のほうが関心だということらしい。確かに主人公の上司が語る禁書の歴史を普通に判断すれば、この世界の禁書の第一の目的は思想統制というより愚民化だ。同じようなことのような気もするが、この世界では思想を持つこと自体が否定の対象で、特定の思想が支持されているわけではない。特定の本が燃やされるのではなく、すべての本が燃やされる。わたしも有害図書を指定したがる連中には嫌悪感しか持っていないし、作者も同様だと思うが、この話のテーマは、そことは少し違うんじゃないか。
この辺りの話はさておき、印象的なシーンも多いし、やはりブラッドベリは天才だと思う。構想もさることながら、これだけの流麗な文章を操れる人は少ない。訳は見ていないけど、新訳が出たりしているので大丈夫だろう。
A beautiful novel. All books are banned, not some books, which means to me that the theme is obscurantism, not censorship.
HarperVoyager (2013/3/28)
ISBN-13: 978-0007491568