2015年12月14日月曜日

Ray Bradbury "Fahrenheit 451" [華氏451度]

わたしは特にSFファンではないが、ブラッドベリだけは子供の頃に翻訳であらかた読んでいて、これだけがなぜか残っていた。今なら原文で読める。

初出版が1953年という時代背景は把握しておく必要がある。ラジオの黄金時代からテレビの黄金時代への移行期で、常にソ連との核戦争が念頭にあった時代だ。ネタバレでない程度に、話としては、本が禁止された世界でみんなテレビ漬けのアホみたいな愚民になってしまっている。戦争の危険が迫る中、主人公は人々が隠し持っている本を燃やす仕事(fireman)をしているが、ある時からこの世界に疑問を抱くようになり…。

というわけで、時代に対する風刺がきっかけになってはいるので、読者の関心もそちらに行きがちで、作者自身も色々解説しているようだ。一般的には有害図書指定などの制度批判みたいに取られがちだが、作者的にはマスメディアによる愚民化のほうが関心だということらしい。確かに主人公の上司が語る禁書の歴史を普通に判断すれば、この世界の禁書の第一の目的は思想統制というより愚民化だ。同じようなことのような気もするが、この世界では思想を持つこと自体が否定の対象で、特定の思想が支持されているわけではない。特定の本が燃やされるのではなく、すべての本が燃やされる。わたしも有害図書を指定したがる連中には嫌悪感しか持っていないし、作者も同様だと思うが、この話のテーマは、そことは少し違うんじゃないか。

この辺りの話はさておき、印象的なシーンも多いし、やはりブラッドベリは天才だと思う。構想もさることながら、これだけの流麗な文章を操れる人は少ない。訳は見ていないけど、新訳が出たりしているので大丈夫だろう。

A beautiful novel. All books are banned, not some books, which means to me that the theme is obscurantism, not censorship.

HarperVoyager (2013/3/28)
ISBN-13: 978-0007491568

2015年12月11日金曜日

John Haigh "Probability: A Very Short Introduction" [確率:非常に短い入門]

目次:1基礎/2確率の仕組み/3小史/4偶然性の実験/5確率を理解する/6人々がプレイするゲーム/7科学・医学・ORへの応用/8他の応用/9奇妙な現象と逆説

VSIの中で、この手の「タイトルが一般的過ぎる」本の一つと言えそうだ。フォーマットとして、基本概念の説明・学史・応用が抑えられている。そこそこ評判は悪くないので、完全な素人、日本で言えば高校生くらいなら面白いかもしれない。もともと確率は逆説の宝庫で、さして知識がなくても面白い問題集みたいな本は日本語でもいくらでもある。実際の計算の技術についてはほとんど触れられない。特に数学については、こういうpop mathみたいな本を読むより、まともな本を読んで挫折するほうが良いと言うのがわたしの持論だが、読みやすい本ではあるようだ。

ただ、この本、最初のうちに確率の哲学的論争をある程度解説しているのはなかなか良く、この方面の入門には良いかもしれない。詳しくは"Philosophical Introduction To Probability"が素晴らしい本だ。

A light reading on probability. Not very technical.

Oxford Univ Pr (2012/5/4)
英語
ISBN-13: 978-0199588480

2015年12月6日日曜日

Randall Munroe "Thing Explainer: Complicated Stuff in Simple Words" [物の説明書:簡単な言葉による複雑な物事]

ウェブマンガ"xkcd"の作者にしてベストセラー"What If?"の著者による一種の科学図鑑。わたしとしては、かなり面白いと思うが、おそらく翻訳されないだろう。

基本的には色々な機械や科学的な知識を、筆者がイラストと細かく書き込まれた文章で解説しているのだが、この文章がただの文章ではない。すべての文章が「英語で最もよく使われる1000語」だけを使って書かれている。従って、機械用語も科学用語もほとんど出てこない。それでどうやって説明するかというところにこの本の面白さがある。たとえば、"Japan"は1000語の中に入っていないので"a country named after the rising sun"などと書かれる。すべてがこの調子だから非常に面倒くさい。一応目次の最初のほうだけ書き写すと雰囲気が分かるかもしれない。

Things in this book by page
Page before the book starts/ Shared space house/ Tiny bags of water you're made of/ Heavy metal power building / Red world space car/ Bags of stuff inside you/ Boxes that make clothes smell better/...

イラストの周囲にはびっしりと解説が書き込まれている。本来一語で済むところを長々書く必要があるし、内容も実はそこそこ濃い。結果、ぱっと見には、何かの病気の人が書いたようにも見える。実際、この本を書き上げるにはかなり粘着質というか異常な執念が必要な気もする…。読む側としては、ある程度説明対象について知っていて、それがどう説明されるかを楽しむということになる。ユーモアも忘れていないし、とても面白い。

ただ、読む人を選ぶような気はする。特に、翻訳は不可能というか不要かもしれない。少なくとも英単語としては千語で納まっているのだから、その限りでは日本の中学生でも読めるわけだ。だから、中学生または高校生の英語の勉強には優れたテキストかもしれない。特に理系寄りの子どもは喜んで読んでくれるような気もするが、どんなものか…。もちろんxkcdの好きな人は、枕元にでも置いておくと当分退屈しない。

Hysterical.

Houghton Mifflin Harcourt (2015/11/24)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0544668256

2015年11月29日日曜日

Christopher Tyerman "The Crusades: A Very Short Introduction" [十字軍:非常に短い入門]

目次: 導入/1.定義/2.東地中海の十字軍/3.西の十字軍/4.十字軍の影響/5.聖戦/6.十字架事業/7.聖地/結論現代の十字軍

十字軍の概説。十字軍は数え方も定義も曖昧だが、この本ではわりと広めに解釈していて、エルサレム中東方面意外にもスペイン("レコンキスタ")やバルト海方面も網羅している。また、考察の角度も多様で、純粋に軍事的なことから、哲学的、教義的、経済的、政治的などあらゆる面から考察。キリスト教/イスラム教の血塗られた惨劇の歴史は、正直言ってかなり読みごたえがあり、退屈しなかった。特に現代の世界情勢を考えると、必読書と言っていいと思う。

この本は晦渋という評判も一部にはあるが故のないことではない。VSIの歴史系にありがちだが、論述の結構な部分が既存のステレオタイプの解体に当てられていて、そもそもステレオタイプを知らない人間にとっては余計な話に思えがちだ。特に十字軍の概念(というかステレオタイプ)は21世紀の現代でも特にイスラム側のテロリストによって大いに活用されている。筆者の意見は明白で、現代の状況を説明するのに十字軍のイメージを持ち出すのは全部デタラメである。筆者は既存の物語は破壊するが、それに代わる分かりやすい物語は提供しない。ただ淡々と教会・国家の政治やメンタリティーなどの相互作用を叙述していくだけである。そして過去の十字軍の物語を現代にプロパガンダのために使おうするあらゆる試みに反対する。

しかし、何より、これほど多角的に十字軍を叙述している本も少ないのではないかと思う。わたしは特にキリスト教にもイスラム教にも特に感情的負荷はないのでさらさら読んだが、キリスト教徒が読んだらもう少しヘビィな感想を持つのかもしれない。実際、新約聖書を字義通り読めば、キリスト教徒が暴力を振るうなどということはあってはいけないことだし、何なら殺されても反撃してはいけないくらいだ。他方、イスラム教徒にはジハードの義務が全員にあるわけで、これだけ見ればイスラム教のほうが残虐なはずだが、実際には必ずしもそんなことになっていない。何にしろ、あまり関わり合いになりたくないには違いない。

A bloody history.

Oxford Univ Pr (2006/1/12)
英語
ISBN-13: 978-0192806550

2015年11月15日日曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid 10. Old School" [昔の学校]

予約買いから即読了。相変わらず最高だ。例によって「グレッグのダメ日記」というタイトルで既に邦訳が出ているみたいだが、原書を読めるのなら原書で読んだほうが良い。英語は易しい。

今回は二つのパートがあり、前半はRodrickがバイトしていたり爺さんが騒動を起こしていたり電気禁止の日だったり。相変わらずの面々だ。後半はキャンプに送り込まれる。

わたしは相当マンガを読むが、ギャグ漫画でもここまで笑える本は少ない気がする。マンガじゃなくても、これくらい笑いの多い本は少ないと思う。素晴らしいシリーズだ。しかし、無免許運転とか万引きとか、この本を子供に読ませている教育ママはどう考えているのかかなり気になる。薬物とセックスが完全に抑えられているのは流石だとは思うが・・・。それは別としても、リアルな子供より、昔子供だった人が距離を置いてから読んだほうが笑える気はする。

Just hilarious.

2015年11月12日木曜日

John Krebs "Food: A Very Short Introduction" [食べ物:非常に短い入門]

目次 1.美食猿 2.これが好き! 3.食べ物が悪くなる時 4.食べた物があなたになる 5.90億人に食べさせる

食に関するよもやま話。食料政策から栄養学から文化誌から食品安全衛生から農業政策からとにかく色々。体系的というよりは、ほとんど食に関する全分野から色々な話を持ち込んでいる。わたし個人としては、たまたまサプリメントを執拗に研究していて、特に栄養学的にそんなに「定説」に騙される気はしないのだが、この本は、政治的にも栄養学的にも、ひとまず定説をまとめた物と言えそうだ。個人的にもまだまだ勉強しないといけないと思っているが、さしあたり、定説を学ぶのは基本だろう。

A good reading about food. Consists of miscellaneous knowledge and trivia from various areas.

出版者: Oxford University Press(2013/12)
英語
ISBN-13: 978-0199661084

Baruch Fischhoff, John Kadvany "Risk: A Very Short Introduction" [リスク:非常に短い入門]

目次 1.リスクに関わる決定 2.リスクを定義する 3.リスクを分析する 4.リスクに関わる決定をする 5.リスクの認知 6.リスクの伝達 7.リスク、文化、社会

意思決定理論のリスクに関わる部分の解説といったところ。大学で言えば経済学とか心理学で教えるような話で、わたしとしては新しい知見は少ない。このあたり、いくつかの公理を導入した整然とした理論体系もあり、現に人工知能の研究などでは使われているわけだが、現実の人間の行動に肉薄するには程遠い。まず、人間の選好を数値化するところで無理があるし、公理に縛られる人間なんかいない。というわけで、公理的体系と実際の人間の行動のズレを「逆説」とか言って論うのも面白いが、実際のところ、この辺りの話を一回りすると、特にその先何もないなあという感じは避けられない。今までこの分野に興味のなかった人、特に経済学・心理学などの学生にはこの本は入門にいいかもしれない。進んだ読書として、政策への応用としては"Nudge"みたいな本も面白いし、また、単純に面白いという意味では、この本でも言及されるカーネマンの"Thinking, Fast and Slow"を強くお勧めする。

Very informative for students for psychology or economics.

Oxford Univ Pr(2011/07)
英語
ISBN-13: 978-0199576203

2015年11月9日月曜日

Peter Sarris "Byzantium: A Very Short Introduction" [ビザンチウム:非常に短い入門]

目次 1.ビザンチウムとは何か? 2.支配都市コンスタンチノープル 3.古典時代から中世へ 4.ビザンチウムとイスラム 5.生存のための戦略 6.文書、絵、空間、精神 7.帝国の終焉

いわゆる東ローマ帝国の通史。VSIの歴史カテゴリはあまりハズレの記憶がないが、これも素晴らしい。

東ローマ帝国・ビザンチウム帝国は千年以上に渡って地理的・政治的・経済的・文化的のすべての意味で非常に重要な位置を占めていたが、わたしの記憶では学校の世界史の授業でそんなに深く教えられた記憶がない。どうもこの本の話では、完全にキリスト教帝国だったので、ルネサンスの人文主義者たちからバカにされ、"byzantine"というネガティブな形容詞にされたりで、西欧でも未だに評価されていないらしい。

また、当時はこの帝国は全世界の人が単にローマ帝国だと思っていたのだが、元のローマ帝国の西側(イタリアとかフランクとか)の連中が勝手にカトリック教会を作ったりするし、特に末期には十字軍だとかがコンスタンチノープルを蹂躙しているうちに、帝国の中の人たちが「俺たちはローマ=ラテンではない。ギリシアだ」と主張するように変化したらしい。この帝国、アラブやペルシャに対して常に軍事的に劣勢だったが、驚異的な外交力と情勢分析力で千年間生き延びた。最後はトルコ人によるジハードによって蹂躙されたのはとても悲しい話だ。

わたしの世界史の知識はかなりの部分がVSIで形成されていて、日本の教科書がどう教えているのか知らないが、ここは特にトルコとギリシアの関係や、ロシアやシリアやイランとの関係を考える上では必須の知識だと思われる。わたしが無知なだけかもしれないが、日本でもビザンツの歴史はもっと知らされるべきだし、何ならこの本を翻訳しても、結構な衝撃力があるんじゃないかと思う。

This book is a great reading. Indispensable background knowledge for understanding modern international relations around Greece, Turkey, et cetera.

Oxford Univ Pr (2015/10)
英語
ISBN-13: 978-0199236114

2015年10月6日火曜日

Emily Bronte "Wuthering Heights" [嵐が丘]

これはモームの「世界の十大小説」の一つに挙げられて定評がある上に、やたら舞台化もされている。どうも世間的には恋愛話と理解されているようだが、実際の原書は陰惨な復讐譚で、体調の悪い時に読むと気分が滅入る。構成が複雑とかいう評判だが、普通に読んでいて混乱するところはなかった。筋を追うのが苦手なわたしでも平気だったから、この点は誇張され過ぎている。有名な小説だから、読んで損はない。翻訳は見ていないが、古典だからそんなに酷いことはないだろう。粗筋はWebでいくらでも見つかるし、以下個人的な感想。
わたしとしては、"Pride and Prejudice"[高慢と偏見]の次に何を読もうかと探していたところ、「十大小説」というのもあるし、何より復讐というのが気に入ったので、この小説を選んだ。だいたい復讐譚は「金色夜叉」にしろ「モンテ・クリスト伯」にしろ外れがないと思っていた。しかし、この小説が外れというわけではないが、何にしろ復讐譚に付き物の爽快感が全くない。普通の復讐譚というのは、まず最初に気の毒な被害者がいて、その被害者に同情し、加害者を憎むところから始まるものだが、この小説では被害者=復讐者であるHeathcliffが嫌な奴で、ほとんど同情できない。加害者もどうかというような奴だし、当初の被害と関係のない子どもたちもHeathcliffの復讐の対象になるのだが、この子供たちもイヤな感じでどうしようもない。普通に児童虐待だし、監禁とか暴行とか強制結婚とか当時でも重罪のはずだが、何か弁護士も抑えられているとかで、正義も司法もあったものではない。脇役も悪党ばかりだし、主たる語り手たる家政婦も思慮の足りない感じに設定されている。作者が戦略的に読者の共感を潰して回っているとしか思えない。
さらに、これは作者がどの程度意識しているのか不明だが、19世紀のイギリスのことなので、"Pride and Prejudice"と同様に過酷な格差社会が前提になっている。もともと浮浪児の暴力的なHeathcliffが上流階級のCatherine(これもイヤな女)に失恋するところが話の始まりだが、復讐の中核をなすのが財産の分捕りと、財産に伴う教育や教養をその子どもから剥奪するというようなことで、要は格差を逆転するという陰湿な話である。
そんなわけで読んでいる間中、「なんでこんな話書くの?」と思い続けることになり、最後に正義が勝つという希望は早いうちに失われる。実際、最後は何か分けのわからない発狂的なことで終わり、読み終わった後、やはり「なんでこんな話書くの?」と言うしかない。この点について作者のエミリー・プロンテの言葉が残っていないらしく、実際聞かれても作者もよく分からなかったかもしれない。
さらに関係ないが、Kate Bush "Wuthering Heights"という歌があり、参考までに聞いてみると、原作とほとんど関係がない。実際、小説を読まずに作られた曲らしいが、原作を踏まえて聞くとなかなかの狂気である。しかし、多分、世間でいう「嵐が丘」のイメージはKate Bushのほうなんだろう。とにかく、退屈はしなかったが、これを読んでいる間は気が滅入った。次はもうちょっと明るい小説を読もうと思っている。
Very depressing, thought worth reading and not boring. I would pick a more pleasant novel next.
Penguin Classics (2002/12/31)
英語
ISBN-13: 978-0141439556

2015年10月4日日曜日

Scott Adams "Dilbert 2016 Day-to-Day Calendar"

今年もそろそろカレンダーの時期で、定番のディルバート日めくりカレンダーを確保した。近頃はIT業界でもDilbertを知らない人が増えてきた気がするが、簡単に言えばIT業界を舞台にしたマンガである。エンジニア目線で事務方や営業を皮肉る内容が多い。色々な日刊紙に掲載されているほか、Webサイトdilbert.comでも読める。従って、単にマンガを読みたいだけなら、コミックもカレンダーも買う必要がない。IT業界マンガと言えば、日本では最近「お話になりません」が気に入っているが、DilbertカレンダーでアメリカのIT業界の空気を漂わせるのも乙なものだ。来年も一年お世話になるだろう。

A classic comic calendar. My stable on the desk.

Andrews McMeel Publishing; Pag版 (2015/6/9)
英語
ISBN-13: 978-1449465148

2015年10月2日金曜日

Adam J. Silverstein "Islamic History: A Very Short Introduction" [イスラム史:非常に短い入門]

目次 1.物語 2.人々と文化 3.制度 4.源泉 5.競合するアプローチ 6.宗教的意義 7.政治的意義

イスラム教圏の世界史。前半はオーソドックスな世界史的展開を辿る。後半は現代への影響を含めて、歴史・歴史学上の色々な概念に関する説明。非常に分かりやすく、明快に書かれていて、初心者にもお勧めだ。この辺りの歴史は、イスラム教の概念も重要ではあるものの、民族(アラブ人・トルコ人・ペルシャ人・ベルベル人・・・)との関係も実際には複雑で、この本で随分整理された。特に最近は何かと騒ぎの多い地域であり、何でモメているのか・どんなレトリックが使用されているのかを把握するには、この本程度の知識は必要だろう。

全く個人的なこととしては、日本でのイスラムの専門家とされるI氏の話を聴いたところでは、イスラム教ではジハード=殺人が義務のような話だったが、実際のところどうなのか分からない。少なくともこの本はそういう解釈はしていないが・・・。もう少し調べる必要がありそうではある。

A good reading about Islam. It provides basic knowledge to understand the modern islam world, too.

OUP Oxford (2010/1/21)
英語
ISBN-13: 978-0199545728

2015年9月28日月曜日

John Parker, Richard Rathbone "African History: A Very Short Introduction" [アフリカ史:非常に短い入門]

目次:1.アフリカの概念 2.アフリカ人:多様性と統一性 3.アフリカの過去:歴史的源泉 4.世界の中のアフリカ 5.アフリカの植民地化 6.未来を想像し過去を再構築する 7.記憶と忘却:過去と現在

アフリカ史ということだが、VSIの定例でアフリカ史学の方法論みたいな話が前半にくる。この辺り、ポストコロニアリズムやら偏見への反駁やらで一々予想通り面倒くさい。しかし、奴隷貿易や植民地戦争の話などはわりと普通に歴史として読めて勉強になる。特にその辺りに興味のあるムキにはお勧めだ。

Somewhat lengthy statements around post-colonialism or imperial prejudices are necessary and we must understand it. Then clear histories on topics such as slavery or colonialism are fascinating.

2015年9月27日日曜日

Rebecca Elliott "Painless Grammar (Barron's Painless Series)" [苦痛でない文法]

目次:1.発話の部品 2.文の構築と区切り 3.一致 4.単語、単語、単語 5.ゴタついた文章をキレイにする 6.メールの書き方 7.まとめ;文書の編集

本棚から発掘して読んだ。アメリカなら中学生か高校生が読むくらいの「正しい英語」を教える本。もちろん、非ネイティブが間違えるポイントとネイティブが間違えるポイントは全然違うので、直接日本人にどれくらい役立つのかは不明だ。また、「正しい日本語」みたいな本と同じで、「別にええやん」みたいなこともあるが、全体的にそこまで高度な話でもなく、教養ある人の英文ということでは、割と最低限の規則かもしれない。英文自体簡単だし、退屈しないように工夫されているし、まあ大学一年生くらいから洋書を読む練習くらいで読んでもいいかも知れない。

Fascinating, it explains common grammatical mistakes native English speakers often make. Since we non-native speakers' weak points are quite different from those of native speakers, it is not so useful for us, but still interesting to study.

Barrons Educational Series Inc (2011/08)
英語
ISBN-13: 978-0764147128

Elleke Boehmer "Nelson Mandela: A Very Short Introduction" [ネルソンマンデラ:非常に短い入門]

目次:1.マンデラ:物語と象徴 2.人生を書く:初期 3.国家のイコンの成長:後期 4.影響と交流 5.ソフィアタウンの洗練 6.男性的演技者 7.刑務所の庭の影響 8.マンデラの倫理的遺産

マンデラの伝記で、何で買ったのか忘れたが、本棚から発掘されたので読んだ。VSIに収録されている伝記は色々読んでいるが、時代が新しい人なので、今まで読んだ中で最も情報量が多い。圧倒されるが、なにせ、生存環境がわたしに縁が無さ過ぎる上に、人物的にも違い過ぎて、リアリティが感じられない。考えて見れば、今までに読んだ伝記は学者か文学者ばかりで、大政治家は馴染みがない。大人物というのはこういうことなんだろうけど、自分の参考するには距離があり過ぎる。というわけで、わたしにはこの本を評価する資格がないが、この伝記が力作であることだけは間違いない。

A great man. Too great for me to understand.

Oxford Univ Pr (2008/08)
英語
ISBN-13: 978-0192803016

2015年9月23日水曜日

Terence Allen "Microscopy: A Very Short Introduction" [顕微鏡学:非常に短い入門]

目次:1.顕微鏡と新世界の発見 2.顕微鏡の種類 3.光学顕微鏡‐アッベから超解像度へ 4.何を見ているかを識別する 5.電子顕微鏡と原子解像度の夜明け 6.表面の電子顕微鏡 7.他の方法による拡大 8.顕微鏡の影響

顕微鏡の技術解説。光学顕微鏡と透過・走査電子顕微鏡を丁寧に解説しているが、高校程度の物理の知識では理解しきれない気がする。数式などは避けられているが、英語力を別にしても読めるのは理系の大学生以上だろう。物理学一般、特に光学と電磁気学のある程度の知識が必要だ。内容的には相当最先端で、いわゆるナノテクの領域まで踏み込む。この辺り、原子を一個ずつ操作するような最新技術の話だ。また、生物に対する顕微鏡の使用に関する解説がかなりの分量になっていて、たとえばノーベル賞受賞者下村脩先生の業績も文脈の中で理解できる。これだけでもなかなかの収穫だ。誰にでもお勧めというわけに行かないが、研究・業務で顕微鏡を使う人は、顕微鏡技術自体に興味がなくても、教養として読んでおいて損はない。類書もあまり見たことがないし。

Too difficult for high school students, but a very good reading for those who use microscopy at routine basis.

Oxford Univ Pr (2015/08)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198701262

2015年8月30日日曜日

David Blockery "Structural Engineering: A Very Short Introduction" [構造工学:非常に短い入門]

目次
  1. すべてのものは構造を持つ
  2. 形は機能に従うか?
  3. ストーンヘンジから摩天楼まで
  4. 構造を理解する
  5. 動かすものと揺らすもの
  6. 抵抗力

構造力学の入門書という体で、実際大家なんだろう。業界の愚痴や広大な抽象論から入るのはVSIの一つの典型だ。他方で結構高度な概念に踏み込んで説明しているところもある。わたしは初歩的とは言え物理も構造力学も多少やったことがあるから言いたいことは分かるが、完全な素人には説明不足なのではないかと思う。なかなか熱い思いを感じる本ではあり、わたしとしても、再確認できることもあったが、全体的な結論としては素人にはお勧めしかねる本である。多少工学の素養がないと厳しい。
Good reading, but a bit difficult for absolute beginners.
Oxford Univ Pr (2014/11)
ISBN-13: 978-0199671939
英語

2015年8月13日木曜日

John Finney "Water: A Very Short Introduction"[水:非常に短い入門]


  1. 水、どこにでも水・・・
  2. 水分子と相互作用
  3. 氷としての水
  4. 液体―そして期待としての水
  5. 説明されるべき特異性
  6. 生体分子としての水
  7. 過去と現在のいくつかの論争

ひたすら水の構造を解説する本。氷と言っても17種類あるとかで、色々大変だ。水には他の液体にはない様々な特徴があるが、一々構造から解説していく。詳しくは読んでもらうしかないが、基本的にはH-O-Hの曲がった構造、そしてさらに細かく見ると酸素が電気的に陰性に、水素がそれぞれ陽性になるところから隣の水分子と正四面体ができ六角形ができたりしてみたいな話がずっと続く。というようなわけで、水の文化史とか気象変動とか水戦争とかそんな話は全くない。最後には水に記憶があるとかないとか(優しい言葉をかけ続けると良い水がとかいうような)そんな話にもなるが、基本的にはハードな物理化学。ただ、話が上手いので読みやすいのは確か。
Physical chemistry of water(s). Very readable.
Oxford Univ Pr (2015/11)
英語
ISBN-13: 978-0198708728

2015年7月21日火曜日

Pierre Carbone "Les bibliothèque" (Que sais-je?)[図書館(クセジュ)]

目次
  1. 現実世界の中の図書館
  2. 媒体の経済の中の図書館
  3. 組織の管理の中の図書館
  4. 資産の保存と価値付け
  5. 文化の発展
  6. 教育と訓練の支援
  7. 研究と調査
  8. 情報と資料収集
  9. 図書館間の協力
  10. デジタル図書館
  11. 電子資料と図書館コンソーシアム
  12. オンラインサービス

基本的にはフランスの図書館界隈の現状をQue sais-je?にありがちな淡々とした調子で叙述している。ここ十年くらいの図書館業界は色々な混乱があるが、基本的にはIT革命、つまりネットとデジタル化(numérisations)に巻き込まれているということで、混乱が収束するまでまだ後十年はかかるだろう。もちろん、一時期の「小さな政府」みたいなこともあって、日本なんかは民営化も進んでいるが、フランスはわりとこの波に抵抗できたようだ。著作権への対応なども日本と随分違うが、今後の日本の図書館業界には、色々参考になることもあるのではなかろうか。特に深い考察や今後の指針が示されているわけではないが、フランスの図書館事情をコンパクトにまとめた一冊である。
それはそれとして、こういう本は翻訳すれば一定数売れるに決まっているように思うのだが。フランスの図書館事情を解説している本なんてほとんど出ていないのだし、最低でも日本にある図書館は各館一冊ずつは買うだろうし、志のある図書館員や司書課程の学生と教員も買うだろう。出版業界の人間も買うだろうし、情報科学界隈でも売れそうである。簡単に一万部くらい出そうな気がするが、甘いのかな。
Une bonne introduction pour les bibliothèque en France./
PRESSES UNIVERSITAIRES DE FRANCE - PUF(14 septembre 2012)
ISBN-13: 978-2130594550
フランス語

2015年7月14日火曜日

Frank Close "Nuclear Physics: A Very Short Introduction" [核物理学:非常に短い入門]

目次
  1. 大聖堂の中の蠅
  2. 核化学
  3. 強い力
  4. 奇数と偶数と殻
  5. 核の生成と崩壊
  6. 周期表を越えて
  7. 特異原子核
  8. 応用核物理

核物理学の概説。わたしとしては分かりきっている部分もあったが(特に化学とか星の中の反応)、多分、核子以下の水準での物理学の概説書としては、なかなかこれ以上の本も少ないのではないかと思う。というのも、化学の水準ならそこまで降りる必要がないし、核物理学自体、日本でも世界でもあまり人気の学科でもない・・・。個人的には明日MRI(著者はNMRと呼びたいようだ)の検査を受けることになっているので、ムダにタイムリーである。放射線を扱う人の他、化学系の人の基礎教養にも良いのではなかろうか。VSI随一の名著"Particle Physics"の著者でもあり、安心だ。この本の最後はなかなか酷い名言で締めくくられているが、是非最後まで読んで呆れて頂きたい。
本書中にも書いてあるが、VSIには本書と"Particle Physics"のほかにも核物理学関連の本があり、いずれも面白い。
  • "Nuclear Power"・・・原子力発電の色々な技術を解説。
  • "Nuclear Weapon"・・・これはどっちかというと政治が重い。
  • "Radioactivity"・・・放射線利用の概説。

Oxford Univ Pr (2015/10)
ISBN-13: 978-0198718635

2015年6月23日火曜日

Veronika Schnorr, Martin Crellin, Adelheid Schnorr-Dummler, Gabriele Forst, Raymond Sudmeyer "Mastering German Vocabulary: A Thematic Approach" [ドイツ語語彙攻略:主題別アプローチ]

5000語超のドイツ語単語集。Amazonでは絶賛されている本だが、類書が少ないんだと思う。二週間かかって全部読んだ。確かに良い本だが多分、最低で独検2級レベルからだろう。文法は完全に把握していなければ読めない。巻末に簡単な文法の解説があるが、この程度のことは完全に理解していないと本文が読めない。
この本の最大の利点は、例文が異様に充実している点にある。実際異様で、非常に初歩的な単語に対して付いている例文でも、理解するのに相当なドイツ語力を要する。この本は概して難易度の概念がなく、わたしは先頭から順に読んで行ったが、"sein"とか"vor"とか超初歩的な単語が最後のほうになって出てくる。後から読んだほうがマシだったかもしれないが、"haben"が出てくるのは真ん中あたりだった気が・・・。もちろん、この程度の単語を知らない人がこの本を読んでも非効率だろう。
難易度無視以外にも色々欠陥があり・・・
  • 若干古い。通貨はDMだし、IT関係の用語が完全に落ちている。
  • 名詞の複数形が書いていない。
  • 例文の英訳が逐語訳でないので知らない単語は別に調べないといけない。
ただ、これらの欠陥を補ってあまりある例文の充実ぶりというわけで、ドイツ語の文法は一通り終わった人なら読む価値はあると思う。
A good German vocabulary book. It has some drawbacks, including its relatively oldness (it lacks words for IT almost entirely), lack of plural forms of nouns and indifference to word frequency. However, the richness of example sentences compensates these faults and goes further.
Barrons Educational Series Inc (1995/08)
ISBN-13: 978-0812091083

2015年6月1日月曜日

Jonathan Slack "Genes: A Very Short Introduction" [遺伝子:非常に短い入門]


  • 1. 1944年以前の遺伝子
  • 2. DNAとしての遺伝子
  • 3. 突然変異と遺伝子変異
  • 4. マーカーとしての遺伝子
  • 5. 効果の小さな遺伝子
  • 6. 進化の中の遺伝子
  • 結論:遺伝子の様々な概念

遺伝子の解説書。最初の二章くらいは研究史と分子生物学の基本みたいなことで、日本で言えば高校の生物をちょっと超える程度。本題はその後で、1)分子生物学的な意味での遺伝子(DNA) 2)人口学的な意味での遺伝子(マーカー、犯罪捜査などに使う) 3)量的遺伝学的な意味での遺伝子(身長などの遺伝を決定する超複雑な変異など) 4)進化論的な意味での遺伝子(自然淘汰などとの関係) 5)人間の行動などを研究する社会生物学などが順に解説される。
印象に残るのは、要するに「複雑過ぎて永遠の謎」みたいなことが予想外に多いということだ。たとえば、血友病なんかは問題の遺伝子が特定されているが、こんなのは珍しい。最も熱い話としては、白人と黒人の間のIQの差がどの程度遺伝子のせいなのか、あるいは遺伝子なんか全く関係ないのか、科学的には判定できない。環境だの文化だのを別としても関連する遺伝子があまりに多過ぎて分析に堪えない。もちろん、IQが遺伝するの明らかだが、遺伝の影響を証明するのと実際の遺伝子を発見するのは全然違うことらしい。もっと単純な話、たとえば身長ですら遺伝子がよく分からない。統計解析の話はほとんど解説されていないが、要するに、関連する遺伝子が多過ぎて、どれだけデータがあっても有意な回帰式がほとんど作れないんだろう。実験が困難とか社会文化要素がとかいうこともあるが、それ以前に何より数学的に解析不可能なようだ。
そんなわけで、世間では遺伝子操作で超人を作るような話もたまに聴くが、どうやらこの本を読む限り、知能の高い人間どころか、身長の高い人間すら設計できないようだ。親の身長が高いと子の身長も高い傾向があるのは誰でも知っているが、それとこれとは全く別のことということは、本書で何度も強調される。地味なテーマだが、遺伝子に対する考え方がアップデートされた。
Genes are not merely sequences of DNA. Everybody knows that taller parents tend to born taller children, but specifying the genes responsible for this heredity is quite another thing, or, if I correctly understand this book, computationally impossible, because there are too many genes.
Oxford Univ Pr (2014/12)
ISBN-13: 978-0199676507

2015年5月26日火曜日

François Gaudu "Les 100 mots du droit" [法律用語100選(クセジュ)]

法律100語というところだが、もちろんフランスの法律である。と言っても、日本の法律はもともとがフランスの法律の輸入品であり、日仏の事情の違いはあるものの、この本で解説されるような基本概念については、ほとんど違和感がない。きちんとフランス法を学ぶ気ならこんな本を読むより基本書をきちんと読むべきだが、もともと日本の法律にある程度詳しくて、フランスの基本的な法律用語を押さえておくくらいのつもりなら、ちょうどいい。ためしに短い一項目だけ訳してみた。文字通り訳すと読みにくいので若干意訳気味。
Meuble(動産)
フランス法ではsumma divisio、つまりすべての物体を分類するカテゴリーを確立することが好まれる。そういうわけで「すべての物体は動産または不動産である」。不動産は民法典によって厳密に定義されており、不動産でない物体はすべて動産である。従って、動産のカテゴリーに含まれる物には、共通の意味がない。たとえば、債権―人が給付を受ける権利―や「有価証券」―株、債券などがある。同様に、知的財産権―特許、商標、著作権・・・―も動産と考えられる。
動産と不動産の区別からくる規定の違いのため、今日では廃れたが、不動産のほうが動産より価値があるという考えが生まれる。また、概して不動産の売買は動産の売買よりも厳格な形式に従う。さらに、"lésion"、つまり実際の価値との比較で、合意された価格と実際の価値の相違が大きい場合、不動産の売買は無効になることがある。lésionは元の民法典の時代の表現では7/12、すなわち50%以上でなければならない。これに対して動産の売買では、lésionは無効の原因にはならない。
Je ne sais pas si les Françaises savent le fait, mais les droits japonais étaient essentiellement importés de la France. Ce livre aussi sert à savoir les droits japonais.
Puf (2010/10/17)
ISBN-13: 978-2130582946

2015年5月24日日曜日

Inc. Penton Overseas "Speak in a Week Flash! German: 1001 Flash Cards" [一週間で話せるドイツ語:単語カード1001枚]

これは冊子ではなくいわゆるドイツ語の単語カード。昔買ったのが出てきたので一応やってみたけど、やはりあまり良い買い物ではなかった。1)そもそもわたしはこの手の丸暗記が苦手。2)それほど非常識でない気もするけど1001語の選択基準が不明。3)名詞の複数形、動詞の分離・非分離等の基本情報が全く載ってない。単語カードという商品は、紙・電子を問わず、どういうわけか、割と雑な造りのものが多い気がする。ただ、こういうのが得意な人にとっては、類似の商品も少ないことだし、書いていないことは辞書を引けばいいわけだから、悪くないのかもしれない。

I cannot recommend this product, because it lacks vital information such as plural forms of nouns and detachable/undetachable prefixes of verbs.

Penton Overseas(2008/03)
ISBN-13: 978-1591259497

2015年5月22日金曜日

Thomas Piketty "Le capital au XXIe siècle"[21世紀の資本]

これは世界的なベストセラーであり、日本語訳も大層売れて時間も経っているから、今更内容を説明しなくていいだろう。要は格差拡大の構造的な理由を解明している。かなり大部な本だが、ほとんど退屈する部分もなく読めた。

第一に内容が素晴らしい。普段、わたしが肌で感じていることを明確なデータで示してくれている(日本もヨーロッパも状況に大差ない)。格差社会がどうとかいう話は根拠不明の感情的な言い争いになりがちなところ、最善のデータを提示することで論争のための土台を用意してくれる。この本の影響で、今後はムダな感情論が減ることを願う。

第二に、一度は社会科学を志したことのあるわたしとしては、社会科学とはこういうものだと感動すると同時に、「これは俺には無理だったな」と思わされる。実は言っていること自体は、少なくともわたしは何となく分かっていたことではある。わたしは個人的な事情で、億万長者から生活保護世帯まで、色々な社会階層の人たちを見てきた。しかし、それをこの形、つまり、実証的であると同時に説得的である形にまとめるのは、超人的だ。

第三に、わたしは仕事柄、公文書や行政データに多少詳しいが、ピケティがこれだけのデータを集計・分析するのにどれだけの労力を費やしたかと思うと、めまいがする。手下とか学生とかに手伝わせたとしても、高度な計画性が必要な一大事業である。本書の中で、統計データが利用できることが決定的に重要と何度も繰り返されるが、微力ながら何か貢献できればなあと思う。

大部だが読んで損はない。若干クドい部分はあるものの、分かりにくい話ではない。日本語はかなり気持ち悪い文体に訳されているようで非常に残念だが、それでも多分、巷に蔓延る便乗本よりはマシだろう。大きな本屋で一通り日本語の便乗本を見たが、読むに値するようなものはない。ある本なんかはピケティの解説と称しながら、適当に開いたページに「日本では1%と99%の格差よりも正社員と非正規の間の格差のほうが重要である」とか、よくもこんな恥知らずなことが書けると吐き気がした。これは極端かもしれないが、本来ピケティに論破されているはずの連中が、ピケティを無理矢理捻じ曲げて「解説」と称している例が多い気がする。日本の状況には絶望したくなるが、別に難しい話でもなく、原書を読めば誰の目にも明らかなことだ。

Très bien écrit et passionnant. 1)Je connais personnellement des gens de couches sociales très pauvres à celles très riches. Cette oeuvre offre les preuves concrètes pour des délibérations. 2)Quand j'étais étudiant, je rêvais de devenir un scolaire de sciences sociales. Maintenant, je réalise que je ne suis pas assez intelligent grâce à M. Piketty. 3)Je m'occupe d'information du gouvernement japonais. J'imagine que M. Piketty doive avoir travaillé beaucoup pour obtenir les données.

Seuil (30 août 2013)
ISBN-13: 978-2021082289

2015年5月21日木曜日

Ed Swick "Practice Makes Perfect Intermediate German Grammar" [練習が完全を生む:中級ドイツ語文法]

目次・・・1主格と対格 2冠詞と形容詞 3与格 4不規則現在 5属格 6与格対格の前置詞 7再帰代名詞と複数形 8接頭辞 9不規則過去 10完了 11助動詞と二重不定詞 12否定と命令 13語順と未来 14比較級 15最上級 16混合変化動詞 17数字 18関係詞 19受動 20不定詞句 21接続法 22文

これは同じPractice Makes Perfectシリーズの"Basic German"に続けてやった。だいたい三か月半かかったようだ。数か所、答に間違いがあったが、些細なことだ。わたしとしては、特に、冠詞・形容詞の変化が分かりやすく習得できたのが印象に残る。多分、ドイツ語の問題集として、このシリーズ以上の物はないだろう。

ただ、このシリーズ、洋書にありがちな話で体系がどうなっているのか出版社のサイトを見ても分からない。わたしは"Basic German"と"Intermediate German Grammar"しかやっていないが、多分、最初の二冊として、このルートが最善だったようだ。前者は完全な初心者が一通り基礎ドイツ語を身に着ける。後者は中級文法ということだが、ここまでやればほぼ文法は完了と考えていいだろう。もちろん、語彙、特に結構な数の不規則動詞を覚えて使いこなすのはまた別の問題である・・・。

シリーズの他の本をreviewとかを参考にしながら調べると、

  • Sentence Builder・・・初級文法終了程度。文の言い換えとからしい。
  • Pronouns and Prepositions・・・初級文法終了程度。ドイツ語の代名詞と前置詞がそんなに難しいと思えないのだが。
  • German Vocabulary・・・初心者向き。語彙の提示と、語彙を使う練習問題。わたしはこの手の語彙本はダメだ。
  • Complete German Grammar・・・入門らしい。多分、"Basic German"とカブっている。
  • German Conversation・・・個人的には会話に興味がない。
  • Problem Solver・・・中級文法の復習らしい。
  • Verb Tenses・・・動詞の変化に特化しているようだが、ドイツ語の動詞変化はそんなに大変かなぁ・・・。
主として語彙力・読書量不足のために、春の独検2級に受かる気がしないので、そうすると上の中からまた何かをやると思うが、Problem Solverくらいか。

A very good intermediate workbook. I believe I mastered complete German grammar needed to read newspapers, with aid of a german dictionary.

McGraw-Hill (2013/8/9)
ISBN-13: 978-0071804776

2015年5月12日火曜日

Philip V. Mladenov "Marine Biology: A Very Short Introduction" [海洋生物学:非常に短い入門]

目次

  1. 海洋環境
  2. 海洋生物学的過程
  3. 大洋の沿岸域の生物
  4. 極海生物学
  5. 熱帯の海洋生物
  6. 潮間の生物
  7. 大洋からの食べ物

海の生き物の概説ということだが、もちろん色んな生物を解説できるはずもなく、個別の生物に着目しつつも生態系全体の描写に傾いている。個人的には熱帯の賞のサンゴの生態などは初耳だらけだった。VSIのDesertを思い出すが、あちらには環境破壊に対する批判みたいな話はほとんどなかったが、こちら"Marine Biology"は、ちょくちょく批判が挟まる。というのも、現実に人間の影響抜きに海洋生物学を考えられないという差なんだと思うが。わたしとしては、海洋生物については、時たま水族館に行く程度の興味しかないところだが、その程度でも面白いし、実際、深海などには面白い生き物がいっぱいいる。特に環境問題に関心のあるムキにもお勧めだ。

A good overview of the ecology of sea, with examples of interesting species.

Oxford Univ Pr (2013/10)
ISBN-13: 978-0199695058

2015年5月11日月曜日

Peter Atkins "Chemistry: A Very Short Introduction" [化学:非常に短い入門]

目次

  1. 起源、視野、構成
  2. 原理:原子と分子
  3. 原理:エネルギーとエントロピー
  4. 反応
  5. 技術
  6. 達成
  7. 未来

VSIでのこの手の「一般的過ぎるタイトル」がたいていそうであるように、前半は日本で言えば、せいぜい高校生の教科書レベルである。後半からは、大学ぽくなってくるが、色々な先端分野を渉猟するようなことで、特に深いところは語られない。まあ、理系の大学一年生が高校の復習と英語の学習を兼ねて読むくらいか。こんな基礎的な説明でなく、もっと化学の最前線をというムキには、同じ著者の"Physical Chemistry: A Very Short Introduction"をお勧めしたい。

A very basic introduction for beginners.

Oxford Univ Pr (2015/5/1)
ISBN-13: 978-0199683970

2015年5月8日金曜日

Stephen Smith "Taxation: A Very Short Introduction" [税:非常に短い入門]

目次

  • 1. なぜ税があるのか
  • 2. 課税の構造
  • 3. 誰が担税するのか
  • 4. 課税と経済
  • 5. 脱税と執行
  • 6. 税政策の諸問題

なかなか面白くてわりと一気に読んだ。多分、日本の大学なら「租税原論」みたいな話かもしれないが、そこまで堅苦しくなく、特に予備知識も必要ない。特定の国の税金事情についてではなく、公平性と効率性の対立を軸としつつ、租税に関する一般的な原理的な話が主だ。データはOECDからのものが多い。

3章の税負担の帰着の問題や4章の死荷重の問題は経済学部なら初歩的だが一般にはあまり理解されていないところ。他にも色々面白い論点があるが、生活必需品(食品など)の消費税率を下げるのが色々な意味で得策でないという議論には、なかなか啓発された。税の実務などには全く役立たないが、税制の設計なんかについては色々考えさせられる。個人的な事情として、勤め人のわたしとしては、自営業の彼女が何かと領収書をためているのを「なんだかなあ」と常に思っているわけだが、この事態は日本に限ったことではないらしい。さらにどうでもいいが、今年はわたしも医療費控除が発生するので、同じように領収書を溜めるハメになっている。まあ、そんなことでもなければ、普段は税金のことなんか意識にも登らないわけだが・・・。経済学の学生のほか、税金について何か強い思いがある人、たとえば「消費税は逆進的でけしからん」とか「サラリーマンは損をしている」とか思っている人は読んで損はない。

Theories and policies of taxation, told chiefly in regard to the dilemma between efficacy and equity. Very readable and fascinating.

Oxford Univ Pr (2015/06)
ISBN-13: 978-0199683697

2015年5月2日土曜日

Benjamin Bolker, Marta Wayne "Infectious Disease: A Very Short Introduction"

伝染病の概説。最初のうちは数学モデルとかで、わたしとしてはあまり興味の持てないところだったが、伝染病を理解するために基本的な概念が解説されている。次に個別例に入ると一気に読みたくなる。取り上げられるのはインフルエンザ・HIV・コレラ・マラリア・Bd。最後のBdは両生類に感染するもので、一般的に興味があるかどうか分からないが、カエルの激減が気になるムキには重要な伝染病だ。最後にそれ以外の伝染病がまとめて取り扱われる。執筆時点ではエボラが大問題だし、結核やチフスも深刻だ。ここも詳しく説明が欲しかったけど、短い本なんで仕方ない。学問的な入門書というより、日本の新書に近く、一般的な啓蒙という方向性が強い。

An fascinating introductory case studies on infectious diseases, including influenza, malaria and HIV.

Oxford Univ Pr(2015/08)
ISBN-13: 978-0199688937

2015年4月14日火曜日

Peter M. Higgins "Numbers: A Very Short Introduction"

厳密な証明のない数論の入門書というか、全体の見通しを示す本。大半の部分は紙と鉛筆がなくても読める。類書も多いところだが、VSIに収録というところで値打ちがつく面もあるだろう。基礎知識としては、日本なら高卒くらいで十分だ(英語が読めればの話だが)。目立った特徴がないので推薦し辛いのだが、入院中に読んで、やはり数学は面白いと思った。

A standard introduction to number theory. I do not see anything extraordinary about this book, still I enjoyed it. Well-written.

Oxford Univ Pr (2011/3/22)
ISBN-13: 978-0199584055

2015年3月17日火曜日

David C. Catling "Astrobiology: A Very Short Introduction"

タイトルを日本語にすると「宇宙生物学」ということになるのか・・・。と言っても地球以外で生物が確認された試しがないので、本質は、地球外生命体について色々な観測データから想像を巡らせることのようだ。話の半分くらいは太陽系と地球と地球上の生物の歴史。ひとまず地球でしか生命の発生が確認されていないのだからこれは仕方がない。この時点で未確認の憶測が多い。その後で太陽系内の天体、太陽系外の天体について生物の可能性を考えていく。

最初は「生命の定義」みたいな話から始まって、あまり面白くなさそうな気がしたが、ちょっとずつ面白くなっていく。様々な知見が紹介されてその辺りは面白い。基本的には化学の話が主になる。わたしが子供の頃は宇宙には水なんかないように教わっていた気がするが、最近では、水も有機化合物も宇宙のどこにでもいくらでもあるらしい。あとは、それが液体の形で存在するかとか、循環のためのプレートテクトニクスがあるかとか、色々な話が出てくる。個人的な思いとしては、少なくともどこか別の惑星のテレビ放送を見れるくらいでないと、木星の衛星のどこかに微生物がいてもあまり感動しないが、とにかく、宇宙の本は読んでいて心が安らぐ。

On Amazon.com this book enjoys very good reputation. Well, it did not surpass my expectation but thinking about other planets always make me feel calm.

Oxford Univ Pr (2014/1/1)
ISBN-13: 978-0199586455

Bill McGuire "Global Catastrophes: A Very Short Introduction"

地学的な意味での地球滅亡のシナリオをいくつか集めた本。具体的には、地球温暖化・寒冷化・地震火山津波・隕石。非常に読みやすく、素人向けで、ジャーナリスティックというのは言い過ぎにしても、特段の前提知識は必要ないが、科学的には確かなことしか書いていないと思う。特に地震の辺りは日本に重点があるが、何分にも短い本なので、普通の日本人が知らないことはほとんど書いていない程度。上の四つの方面について基礎知識がない人には、とても読みやすい入門書だと思う。

A collection of dooms-day scenarios including global warming, return of the ice age, seismic events and meteor strikes. Very basic and easy to read.

Oxford Univ Pr (2014/09)
ISBN-13: 978-0198715931

2015年3月7日土曜日

Gerhard L. Weinberg "World War II: A Very Short Introduction"

この短い本にどうやって第二次世界大戦を詰め込むのかと思ったが、話はドイツと日本、かつ、各戦闘を追っていくことに集中している。この点に関しては、いい感じの要約と言えるだろう。戦争ゲーム感覚になる。忙しい時なのに、わりと一気読みした。

政治的背景や戦争犯罪なども多少は触れられていて、ネトウヨを激怒させるには十分だが、第一次大戦の敗者による復讐とかそんな程度の話で、わたしの興味のある(そして重要だと考える)経済的動機については全く触れられない。イデオロギー重視で、Wikipediaでこの著者を調べると、まあ、こんな感じの本になるかと納得した。

A good summary of battles fought in WWII. Other than the descriptions about battles, the author attributes the motives of the German and the Japanese offensives chiefly to ideologies, which is rather new to me.

Oxford Univ Pr (2014/12/1)
ISBN-13: 978-0199688777

2015年3月4日水曜日

Adam Tetlow "Celtic Pattern: Visual Rhythms of the Ancient Mind (Wooden Books)"

いわゆるケルトの模様の作成法が中心。と言っても、格子と円を中心にしてケルトの模様のパターンを解析するのが主で、この手の話が好きな人には良い。わたしも普段方眼紙で模様を作成するのが好きなので、参考になった。また、近頃はZentangleとかいうのが上陸していて、わたしはあまり好きではないが、その参考にもなるんじゃないか。

A good book for a doodler like me, with many nice ideas.

Toby F. Sonneman "Lemon: A Global History (Edible)"

レモンの歴史の簡単な概説。著者は特に専門家ではなく、ただのジャーナリストらしい。ので、一般的なレモンの栽培法や利用法の歴史をひたすら描写している。アメリカでレモネードが普通になったのはイタリア系の移民のせいだとか、その類のまめちしきは身に付くが、この本の最大のメリットは、読んでいる間中、ずっとレモンのことを考えていられるということだろう。本物の歴史家や農学者ならまた深いところまで探究してくれそうだが、レモン好きとしては必読書と言える。翻訳も良さげだ。

まったく個人的な事情として、わたしはいわゆる「薬味マニア」である。わさび、生姜、茗荷、紫蘇、梅、胡椒、辛子、山椒などをフィーチャーする食品はとりあえず買ってしまうし、柑橘類で言えば、柚子とか酢橘とかレモンとかいう表示にかなり弱い。この本も面白かったが、この方面の読書も広げていこうかと思っている。

I love lemon, and while reading this book, I can always be thinking of them, which rendered me very happy. A must-read for all lemon-lovers.

Aiden O'donnell "Anaesthesia: A Very Short Introduction"

麻酔の一般的な概説書。わたしのような素人の好奇心から、医療系の学生の入門にまで使えるようだ。哲学的な問題(「実際には痛いのにその記憶が残っていないだけではないか」)とか、なかなか面白いところから始まり、歴史の概説も面白いし、化学・生理学・作用機序、道具類、一般的に麻酔に関わるリスクから将来の展望まで、一通り解説されていて、一般人としては十分満足できる読み物だった。

この本を読もうという一般人は大半そうだと思うが、わたしも麻酔科のお世話になる予定になっている。前に読んだTeethと同じ流れで・・・。まずは嘔吐反射が強すぎるというので歯科で鎮静剤、次に口腔外科で全身麻酔。全身麻酔は口腔の手術なんだからガスではなく静脈から点滴なんだろうか。そういう個別の話は医者から直接聞くとして、それ以前に一般的な麻酔の知識をつけるのには最適な本だ。麻酔のリスクなんて、本題の手術自体のリスクに比べれば極めて小さく、普通の人間が特に気にするようなことではないが、麻酔科の世話になる予定があるのなら、興味本位で読むには最適だ。

Like most readers of this book, I am just a layman who are going to have a few surgical operations under general anaesthesia, one of which is just using sedative agent and the other is using general anaesthesia technic. I also have a minor nerve problem for which anaesthesia might be effective. This book is easy to read, provides sufficient information for me, and above all, is interesting and fascinating.

2015年2月20日金曜日

Peter S. Ungar "Teeth: A Very Short Introduction"

最初に若干の歯の一般的な構造とか発生の解説、最後に人間の歯に関する若干の考察があるが、主に古生物学・比較生物学的な観点からの歯の博物誌のようなもの。動物が好きな人なら、一度、歯という観点から、色々な動物を見ると楽しいかもしれない。毎日使っているにも関わらず、それほど関心の持たれないパーツだから、なかなか発見が多かった。結局、動物という観点から見れば、人間は全く特別でも何でもないわけで。

わたしはというと、普通ならこの書名では読もうとは思わないが、このたび親不知をこじらせて面倒なことになり、手術入院ということになっているので、読んでみただけ。しかし、この本は特に人間の歯に特化しているわけでもないし、医療的な観点はほとんどないから、その方面では完全に期待外れではあった。ただ、わたしの親不知の問題が、完全に人類の進化のせいであることはよく分かった。根本的な問題は埋伏智歯であり、その表面の膜が拡大して嚢胞となり、下顎骨を溶かしている。その膜がエナメル質を分泌する膜なのか違う膜なのかは掘り出してから分析するのだろうが、どっちにしろ、智歯wisdom toothがまともに生えていないせいだ。さっさと手術してもらいたいが、予約が埋まっているとかで一か月以上先になる。

人類の進化の過程で、前半のうちは人類の顎は拡大していたが、後半から縮小に転じる。もちろん食べ物が良くなったせいだと思われ、たとえば、狩猟採集生活をしている人は今でも顎はしっかりしている。しかし、その子供が西欧風の食事を始めると、わずか一代で顎が小さくなる。ということは、わたしの埋伏智歯は人類の進化のせいと同時に、小さい頃にあまり固い物を食べなかったので発達しなかったということなのか。どっちにしろ、この件は人類全体の問題であり、だからと言って慰めにもならないが、とにかく、手術が平穏に過ぎるのを祈るばかりだ。

Normally I am not particularly interested in teeth, but recently I have found a bad case of irregular wisdom tooth and will undergo an operation in about a month. Though this book is not a medical book but a comparative zoology, I got a certain degree of consort that this is not my problem but a curse over the entire human kind.

Oxford Univ Pr (2014/04)
ISBN-13: 978-0199670598

2015年2月9日月曜日

Jane Austen "Pride and Prejudice"

「高慢と偏見」の邦題で知られる英文学の名作であり、実際面白かった。夏目漱石が冒頭を激賞しているので有名だが、確かにChapter 1だけでも読んでみることをお勧めしたい。男と女で感想が大幅に異なる気がするが、男なら誰しもMr. Bennetに同情せざるを得ないだろう。わたしは一年半くらいかけてこの本をダラダラ読んで、これから悪口みたいなことを書く気がするが、別に小説自体が悪いわけでなく、小説自体は傑作だ。ただ、そこに描写されている世界がキモいだけである。

男と女で感想が大幅に異なる、というのは、この小説が基本的に婚活の話だからである。19世紀英国の感覚だと恋愛小説なのかもしれないが、21世紀日本の感覚では親やら親戚やら友達やらを巻き込んだ婚活小説以外の何物でもない。または純粋社交小説と言うべきだろう。登場人物がほぼ全員上流階級のヒマ人であり、ほとんど社交シーンの描写とそれについての考察の連続である。コミュ障のわたしでも読めたのは、小説だから人物の気持ちやその場の空気を一々描写してくれるからで、これが映画とかマンガだったら、多分わたしには理解できない。イギリス人に会うたびに思うが、英国は高度な社交術を発達させている国であり、Austenの緻密な描写でなければ理解しきれない。

問題のBennet家には、婚活すべき五人の困った娘がおり、主人公は次女Elizabethである。この次女は、欠点を持ちつつも、基本的には最もマトモな人間ということになっている。長女のJaneはElizabethと仲が良いが、Elizabeth的にはちと善良というかナイーブ過ぎるらしい。残りの三人の妹は基本的にはただの子供で、Elizabeth的には思慮が足りない。母親はムキになって娘の婚活を推進しているが、かなりイタく、社交シーンでのそのイタさに、横でElizabethが赤面して頭を抱えているのが定例。その夫たるBennet氏は、良識はあるようだが皮肉屋で、Elizabethをひいきにしているが、基本的には孤独を愛していて、娘の婚活にさして興味を持っていない。

その他、親戚など他にも珍人物が出てきて、どう考えても読者を笑かそうとしている。小説中、何組か結婚が成立することになるが、作者の描写が容赦なく、全部作者に祝福されているわけではない。一つには、社会背景として、男が持っている地位や財産が重大な意味を持っているからで、ただの恋愛小説で済まない世界観になっている。よく言えば厚みがあるが、高慢と偏見と言うより、虚栄心と先入見と欲得と強迫観念と軽薄と若干の恋愛くらいだろう。

小説の主要部分は社交シーンだが、わたしの感覚では、登場人物のセリフは英語的にはいかにも英国的に礼儀正しいが、言っている内実はなかなかキチガイで、読んでいてなかなかキモい。作者的にはElizabethと若干名だけマトモな人間がいることになっているようだが、わたし的には登場人物がほぼ全員キチガイと言って良い。この世界ではMr. Bennetのみ共感できる。この点はChapter 1の段階で明白である。繰り返すが、Chapter 1だけでも読んで損はない。

全く個人的な話だが、わたしは昔のマンガだと「タッチ」とか「めぞん一刻」みたいな高度な空気の読み合いのような話は、キモい上に人物の気持ちが読み切れずについていけない。その点、この小説は、一々空気や気持ちの描写が詳細だから、わたしでもついていける。キモいことに変わりはないが、コミュ障のわたしとしてはなかなか勉強になった。これが世間なんだろう。そして長い時間をかけて読んだ本は、読み終わる時に少し寂しさを感じる。名作だった。

One of the best novels ever written. No comment.

Penguin Classics(2002/12/31)
ISBN-13: 978-0141439518

2015年1月28日水曜日

Jolene Wochenske "Practice Makes Perfect Basic German" (Practice Makes Perfect Series)

ドイツ語の全く初心者のための良心的な入門書。書き込み式の練習問題集ではあるが、基本的な説明は全部あるし、文法だけでなく単語のセクションもあるので、これ一冊(と辞書)でドイツ語の基礎は固められる。文法を把握するだけなら、"Collins German Grammar"でほぼ完全ではあるが、わたしみたいに手を動かさないと覚えられないという人には、この本が一番だと思う。類書もほとんどないようだ。

ドイツ語を実用にしようとするのなら、この本一冊では練習が足りないかもしれないが、このシリーズはほかにも動詞変化や会話や前置詞などに特化した本も出ているので、この本をやった後に進んでいける。大学の第二外国語とか、辞書を片手にドイツ語を読めれば良いということだけなら、この本一冊でも十分かと思う。音声がないが、ドイツ語の発音は難しくないので、あまり問題にならないだろう。

ドイツ語の最初の一冊としてお勧めだが、個人的には復習のためにやった。独検3級は大学の頃のおぼろな記憶で対応できたが、2級となるとこういう本でやり直していかないと・・・。

A very good introductory book on German grammar. The best workbook on German I have ever seen.

McGraw-Hill (2011/6/7)
ISBN-13: 978-0071634700