2015年10月6日火曜日

Emily Bronte "Wuthering Heights" [嵐が丘]

これはモームの「世界の十大小説」の一つに挙げられて定評がある上に、やたら舞台化もされている。どうも世間的には恋愛話と理解されているようだが、実際の原書は陰惨な復讐譚で、体調の悪い時に読むと気分が滅入る。構成が複雑とかいう評判だが、普通に読んでいて混乱するところはなかった。筋を追うのが苦手なわたしでも平気だったから、この点は誇張され過ぎている。有名な小説だから、読んで損はない。翻訳は見ていないが、古典だからそんなに酷いことはないだろう。粗筋はWebでいくらでも見つかるし、以下個人的な感想。
わたしとしては、"Pride and Prejudice"[高慢と偏見]の次に何を読もうかと探していたところ、「十大小説」というのもあるし、何より復讐というのが気に入ったので、この小説を選んだ。だいたい復讐譚は「金色夜叉」にしろ「モンテ・クリスト伯」にしろ外れがないと思っていた。しかし、この小説が外れというわけではないが、何にしろ復讐譚に付き物の爽快感が全くない。普通の復讐譚というのは、まず最初に気の毒な被害者がいて、その被害者に同情し、加害者を憎むところから始まるものだが、この小説では被害者=復讐者であるHeathcliffが嫌な奴で、ほとんど同情できない。加害者もどうかというような奴だし、当初の被害と関係のない子どもたちもHeathcliffの復讐の対象になるのだが、この子供たちもイヤな感じでどうしようもない。普通に児童虐待だし、監禁とか暴行とか強制結婚とか当時でも重罪のはずだが、何か弁護士も抑えられているとかで、正義も司法もあったものではない。脇役も悪党ばかりだし、主たる語り手たる家政婦も思慮の足りない感じに設定されている。作者が戦略的に読者の共感を潰して回っているとしか思えない。
さらに、これは作者がどの程度意識しているのか不明だが、19世紀のイギリスのことなので、"Pride and Prejudice"と同様に過酷な格差社会が前提になっている。もともと浮浪児の暴力的なHeathcliffが上流階級のCatherine(これもイヤな女)に失恋するところが話の始まりだが、復讐の中核をなすのが財産の分捕りと、財産に伴う教育や教養をその子どもから剥奪するというようなことで、要は格差を逆転するという陰湿な話である。
そんなわけで読んでいる間中、「なんでこんな話書くの?」と思い続けることになり、最後に正義が勝つという希望は早いうちに失われる。実際、最後は何か分けのわからない発狂的なことで終わり、読み終わった後、やはり「なんでこんな話書くの?」と言うしかない。この点について作者のエミリー・プロンテの言葉が残っていないらしく、実際聞かれても作者もよく分からなかったかもしれない。
さらに関係ないが、Kate Bush "Wuthering Heights"という歌があり、参考までに聞いてみると、原作とほとんど関係がない。実際、小説を読まずに作られた曲らしいが、原作を踏まえて聞くとなかなかの狂気である。しかし、多分、世間でいう「嵐が丘」のイメージはKate Bushのほうなんだろう。とにかく、退屈はしなかったが、これを読んでいる間は気が滅入った。次はもうちょっと明るい小説を読もうと思っている。
Very depressing, thought worth reading and not boring. I would pick a more pleasant novel next.
Penguin Classics (2002/12/31)
英語
ISBN-13: 978-0141439556

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