- 1. 1944年以前の遺伝子
- 2. DNAとしての遺伝子
- 3. 突然変異と遺伝子変異
- 4. マーカーとしての遺伝子
- 5. 効果の小さな遺伝子
- 6. 進化の中の遺伝子
- 結論:遺伝子の様々な概念
遺伝子の解説書。最初の二章くらいは研究史と分子生物学の基本みたいなことで、日本で言えば高校の生物をちょっと超える程度。本題はその後で、1)分子生物学的な意味での遺伝子(DNA) 2)人口学的な意味での遺伝子(マーカー、犯罪捜査などに使う) 3)量的遺伝学的な意味での遺伝子(身長などの遺伝を決定する超複雑な変異など) 4)進化論的な意味での遺伝子(自然淘汰などとの関係) 5)人間の行動などを研究する社会生物学などが順に解説される。
印象に残るのは、要するに「複雑過ぎて永遠の謎」みたいなことが予想外に多いということだ。たとえば、血友病なんかは問題の遺伝子が特定されているが、こんなのは珍しい。最も熱い話としては、白人と黒人の間のIQの差がどの程度遺伝子のせいなのか、あるいは遺伝子なんか全く関係ないのか、科学的には判定できない。環境だの文化だのを別としても関連する遺伝子があまりに多過ぎて分析に堪えない。もちろん、IQが遺伝するの明らかだが、遺伝の影響を証明するのと実際の遺伝子を発見するのは全然違うことらしい。もっと単純な話、たとえば身長ですら遺伝子がよく分からない。統計解析の話はほとんど解説されていないが、要するに、関連する遺伝子が多過ぎて、どれだけデータがあっても有意な回帰式がほとんど作れないんだろう。実験が困難とか社会文化要素がとかいうこともあるが、それ以前に何より数学的に解析不可能なようだ。
そんなわけで、世間では遺伝子操作で超人を作るような話もたまに聴くが、どうやらこの本を読む限り、知能の高い人間どころか、身長の高い人間すら設計できないようだ。親の身長が高いと子の身長も高い傾向があるのは誰でも知っているが、それとこれとは全く別のことということは、本書で何度も強調される。地味なテーマだが、遺伝子に対する考え方がアップデートされた。
Genes are not merely sequences of DNA. Everybody knows that taller parents tend to born taller children, but specifying the genes responsible for this heredity is quite another thing, or, if I correctly understand this book, computationally impossible, because there are too many genes.
Oxford Univ Pr (2014/12)
ISBN-13: 978-0199676507
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