「高慢と偏見」の邦題で知られる英文学の名作であり、実際面白かった。夏目漱石が冒頭を激賞しているので有名だが、確かにChapter 1だけでも読んでみることをお勧めしたい。男と女で感想が大幅に異なる気がするが、男なら誰しもMr. Bennetに同情せざるを得ないだろう。わたしは一年半くらいかけてこの本をダラダラ読んで、これから悪口みたいなことを書く気がするが、別に小説自体が悪いわけでなく、小説自体は傑作だ。ただ、そこに描写されている世界がキモいだけである。
男と女で感想が大幅に異なる、というのは、この小説が基本的に婚活の話だからである。19世紀英国の感覚だと恋愛小説なのかもしれないが、21世紀日本の感覚では親やら親戚やら友達やらを巻き込んだ婚活小説以外の何物でもない。または純粋社交小説と言うべきだろう。登場人物がほぼ全員上流階級のヒマ人であり、ほとんど社交シーンの描写とそれについての考察の連続である。コミュ障のわたしでも読めたのは、小説だから人物の気持ちやその場の空気を一々描写してくれるからで、これが映画とかマンガだったら、多分わたしには理解できない。イギリス人に会うたびに思うが、英国は高度な社交術を発達させている国であり、Austenの緻密な描写でなければ理解しきれない。
問題のBennet家には、婚活すべき五人の困った娘がおり、主人公は次女Elizabethである。この次女は、欠点を持ちつつも、基本的には最もマトモな人間ということになっている。長女のJaneはElizabethと仲が良いが、Elizabeth的にはちと善良というかナイーブ過ぎるらしい。残りの三人の妹は基本的にはただの子供で、Elizabeth的には思慮が足りない。母親はムキになって娘の婚活を推進しているが、かなりイタく、社交シーンでのそのイタさに、横でElizabethが赤面して頭を抱えているのが定例。その夫たるBennet氏は、良識はあるようだが皮肉屋で、Elizabethをひいきにしているが、基本的には孤独を愛していて、娘の婚活にさして興味を持っていない。
その他、親戚など他にも珍人物が出てきて、どう考えても読者を笑かそうとしている。小説中、何組か結婚が成立することになるが、作者の描写が容赦なく、全部作者に祝福されているわけではない。一つには、社会背景として、男が持っている地位や財産が重大な意味を持っているからで、ただの恋愛小説で済まない世界観になっている。よく言えば厚みがあるが、高慢と偏見と言うより、虚栄心と先入見と欲得と強迫観念と軽薄と若干の恋愛くらいだろう。
小説の主要部分は社交シーンだが、わたしの感覚では、登場人物のセリフは英語的にはいかにも英国的に礼儀正しいが、言っている内実はなかなかキチガイで、読んでいてなかなかキモい。作者的にはElizabethと若干名だけマトモな人間がいることになっているようだが、わたし的には登場人物がほぼ全員キチガイと言って良い。この世界ではMr. Bennetのみ共感できる。この点はChapter 1の段階で明白である。繰り返すが、Chapter 1だけでも読んで損はない。
全く個人的な話だが、わたしは昔のマンガだと「タッチ」とか「めぞん一刻」みたいな高度な空気の読み合いのような話は、キモい上に人物の気持ちが読み切れずについていけない。その点、この小説は、一々空気や気持ちの描写が詳細だから、わたしでもついていける。キモいことに変わりはないが、コミュ障のわたしとしてはなかなか勉強になった。これが世間なんだろう。そして長い時間をかけて読んだ本は、読み終わる時に少し寂しさを感じる。名作だった。
One of the best novels ever written. No comment.
Penguin Classics(2002/12/31)
ISBN-13: 978-0141439518
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