2023年6月12日月曜日

Kenneth Libbrecht "Field Guide to Snowflakes" [雪片野外帖]

この著者はガチの固体物理学者で、どうも雪の結晶研究の第一人者っぽいが、この本は最も一般向けで、雪の結晶図鑑に近い。子供でも眺めていて楽しめるようなことだ。一応物理学者なのでそれなりに個々の結晶成長過程について説明もあるが、あまり深い話はない。結晶の成長中に湿度や温度が変化して六角形が削れたり角が伸びやすかったりするようだが、多分、現代科学でもそこまで詳しくは分からないんだろう。著者は実験室で人工的に雪を作ったりしているようなので、実際に論文を読んでみたら相当分かっているのかもしれないが。この本は読んでいる最中の別の本の参考文献に上がっていて、先にこっちを読んでしまった。わたしは昔からこういうのが好きだが、考えたらあまりこういう自然観察本はここに記録していない。最大の理由は、動植物だと海外と日本で違いが大きすぎるのであまり洋書を読まないからだが、雪や星についてはそんなこともない。本で読まなくても、著者のサイトSnow Crystals.comが楽しい。

Beautiful.

Voyageur Press (2016/9/1)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0760349427

2023年6月4日日曜日

Veronique Mottier "Sexuality: A Very Shor Introduction" [セクシュアリティ:非常に短い入門]

目次:1.セクシュアリティ以前 2.セクシュアリティの発明 3.処女か娼婦か:セクシュアリティのフェミニスト批判 4.寝室の中の国家 5.性の未来

かなりうんざりした本である…。まず扱っている対象が面倒なんだろう。近頃LGBTQだとかで全部の話についていっている人がそんなにいるとは思えないが、この本で話が整理されるわけではなく、さらに混乱が増す。フェミニズムだの優生学だの社会主義だのは序の口で、エイズだとか宗教だとかその他もろもろで、とにかくずっと論争の歴史を読まされるが、どの時点でも参加者が多すぎて誰が味方で敵なのかよく分からない。それどころか、そもそも何を争っているのかも分かりにくい。多分、著者はフェミニストで伝統的な男/女の対立を軸に考えているのだと思われ、別の視点の人からはいくらでも文句が出そうな気もする。

もう一つ言えるのは、最近VSIで読んだ奴隷とか優生学とかと同じで、この本も「断罪系」で、要するにこのテーマで中立な記述などというのがあり得ず、何かしらの価値基準からしか記述のしようがないのだが、上のような理由で著者がどの基準で見ているのかが分かりにくい。奴隷については奴隷制反対とか優生学については優生学は悪の疑似科学とか価値基準が分かりやすいが、セクシュアリティについてはそういう分かりやすい基準がない。著者の価値基準はだいたい書きぶりから察しがつくというようなものだが、だとしたら、著者が自分の価値観を明示しないのは良くない気もする。

あと、これは明白に書き方の問題だと思うが、何か全体に具体的な話が薄い。多分、著者は具体的な話より理念の交錯というか政治的な対立のほうに興味があるのだろうか。確かに同性愛のフェミニストと異性愛のフェミニストの関係とか、これに右派左派とか優生学に対する態度とか、人種差別がどうとか、直交する概念がどんどん加わってきて、誰と誰が何を巡って戦っているのかものすごく分かりにくい。参加者がみんな必死なのは確かだが。

総じてVSIでたまにある「テーマか巨大過ぎる」というパターンだと思う。これはこれで資料性があるのかもしれないが、誰が見ても公平なわけではないだろうし、ちとintroductionというのは無理がある。そして、基本的にギリシア・ローマから始まる西欧の話で、世界の他の地域はほぼ無視されている。素人にはお勧めできない。

At least I can say this is not an introduction.

Oxford Univ Pr (2008/6/23)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199298020

2023年5月29日月曜日

Jean Grondin "L'Herméneutique" [解釈学]

これは夢中で一気に読んだ。単純に読んでいて面白いのもあるが、実際、解釈学の概観としてこれが至上の基本書ではないだろうか。ただ、Que sais-jeのわりにガチの哲学書なんで、普段ハイデガーやデリダの言い草に馴染んでいないと何を言っているのか分からない可能性が高い。哲学科の学生は挑戦するべきだが、初心者にはお勧めできない。

もう少し簡単なのをということなら、Oxford Very Short Introductionにも"hermeneutics"というタイトルがあり、少しめくっただけでしっかり読んではいないが、多分あっちのほうが初心者向きだろう。

まず解釈学とは何かという話だが、古典的な意味では単に修辞学の逆である。伝えたい意図を言葉にする技術が修辞であり、言葉を解釈して著者が伝えたい意味を再構成する技術が解釈である。伝統的には聖書の解釈が大きな分野だが、法律の文章の解釈は今でも日常的に問題になっているし、昔の文学の解釈はそれだけで専門分野だし、学校の国語の授業でもそういうことを教えている。

次の段階として、19世紀になって「人文科学も自然科学のように客観的真理を得なければならない」という風潮が強烈だった時期があり、その時代には、人文科学の方法論として解釈学が議論されていた。この場合は、今で言う文学部の全分野、つまり文学も哲学も歴史学も社会学も、なんでもかんでも解釈学を使用することになる。解釈学が整備されれば人文科学も自然科学並みに客観的真理が得られると本気で信じられていたらしい。

第三段階として、本書でも頻繁に引用されるニーチェの「事実なぞ存在しない。解釈のみが存在する」みたいな話が出てくる。「時代の制約やイデオロギーや先入見を排除した完全に客観的な解釈は不可能」というくらいなら多分誰も反対しないと思うが、ここからどんどん話が過激になっていき、解釈のほうが事実に先行するみたいなニュアンスになっていく。もはや解釈学の対象は人文科学や社会科学だけでなく、自然科学も所詮社会的構成物なので解釈次第みたいなことになる。その究極が本書冒頭のソーカル事件みたいなことだろう。

本書の大半は第三段階の議論を巡っている。解釈抜きの生の事実なんか存在しないとか、人間は自らの目的に沿ってしか世界を解釈できないとか、そもそも解釈とは自分の先入見の破壊作業でしかないとか、誘惑的な過激な主張が色々出てくる。名前で言えば、ハイデガー・ガダマー・ハーバーマス・リクール・デリダなどが本書の主役だ。著者自身の立場は、事実は解釈による構成物に過ぎない的な虚無主義は避けているし、所詮我々は認識の枠組みの外に出られないとかいう悲観論も避けている。

そんなわけで、わたしの見るところでは、第三段階は古典的な事実vs解釈の関係を疑うのと解釈の前提になる構造(先入見・イデオロギー・パラダイム・実存…)を重視するのが大きな特徴だが、著者の視点がわりと穏当というか多分ガダマーに忠実なので安心感がある。個人的には「理解するというのは他人を自分の理解体系に組み込んで支配することなんじゃないんですか? 対話によって理解するなんて怖いんですけど」みたいなデリダ的言い草に馴染んでしまっており、それそれで生理的実感みたいなものだが、それ自体も解釈でしかない。…思考は永遠に続く。久しぶりに良い哲学書を読んだ。

C'est le meilleur livre sur l'herméneutique que j'ai lu.

QUE SAIS JE; 5e édition (11 mai 2022)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2715411128

2023年5月25日木曜日

George S. Clason "The Richest Man in Babylon" [バビロンの大富豪]

あまりこういう蓄財本は読まないし、読んでもあまりここに書いたりはしないのだが、たまたまタダで読めた。有名な本は有名というだけの理由で読んで損はない。大雑把に言うと、例えば収入の1/10を貯蓄せよとか、賢明に投資せよとかいう教訓を古代バビロンを舞台にした寓話で教えるような本。書いてあるのは一般的な教訓で、具体的な投資手法が書いてあったりするわけではない。そもそもの原本が1926年刊とかで、今に至るまでずっと売れ続けてきた本かどうか知らないが、最近書店で日本語訳が平積みになっていたりする。確かに読みやすいが、こういう本が読まれるのはいろいろ考えさせられる。

この話の舞台になるバビロンは、自由人と奴隷がいるようなとんでもない格差社会で、かなりの部分が奴隷がいかにして自由人に成り上がるかという作戦に充てられている。奴隷と言っても昔のアメリカの黒人奴隷とは違い、財産を持っても良いし、自由人が奴隷になったり逆もあり得るというような設定で、要するに現代社会で言えば労働者と資本家ということになるのだろう。だから、この本はいかにして労働者が成り上がって資本家側になる方法として読まれている。勤勉・倹約・投資…。ちゃんとした家を持てというのはいかにもアメリカか。

現代社会で自分=労働者=奴隷と定義した上で、自分も自由人=資本家(投資家)になりたい/なれるという世界観の人がどれくらいいるのか分からないが、こういう本が売れる以上は、それなりにいるんだろう。こういう本がそういう世界観を広めている面もありそうだ。そもそもの話として、労働が好きで、その労働が十分な生活費を出してくれるなら、こんな世界観になるわけがない。しかし現実には多くの人が労働が嫌いか、または好きな労働をするための資金がない。高齢その他で働けなくなる可能性もある。

多くの人はFPがどうとかいうレベルではなく、全く基本的なことも知らない。単純な話で、収入-支出=貯蓄ということも良くわかっていない人がたくさんいる。こういう本はある意味ボーダーラインの人たちに有効かもしれないが、しかしどうなんだろう。たいてい詐欺師に騙されるだけのような気もするが…。現に株をやる個人の大半は損をする。

In reality, building a solid financial foundation takes time and dicipline...and enough intelligence....

(2023/4/5)
言語: ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 979-8386374105

2023年5月23日火曜日

Klaus Dodds, Jamie Woodward "The Arctic: A Very Short Introduction" [北極:非常に短い入門]

目次:1.北極の世界 2.物理環境 3.北極の生態系 4.北極の人々 5.探検と開発 6.北極の統治 7.北極の炭素貯蔵 8.北極の未来

目次から明らかなように、北極に関するほぼ全学問分野からの概説。高校の科目で言えば地理でも生物でも地学でも世界史でも政治経済でも、ここまで北極に詳しいことは求められないだろう。

人によって興味のあるところは違うとは思うが、わたしとしては、地球温暖化についての北極圏の役割は想像を超えていた。北極圏には前の氷河期以前に生物蓄積れた大量の炭素が保存されており、現在永久凍土がどんどん溶けて、大量の二酸化炭素とメタンが放出中と。地政学も面白いところだ。温暖化がどんどん進んでおそらく今世紀中に少なくとも夏場は北極海が航行可能になると例えば英国と日本が近くなる。スバールバルでは今もロシアが戦略上の都合から無意味に石炭を掘っているとか。グリーンランドがそのうち独立すると、資源を求めて中国資本などがどんどん入ってくるだろう。とにかく、今どんどん永久凍土が沼地化していると同時に、資源開発も進んでいる。

…というようなことはこの本では後半だが、こういう話を正しく理解するには、この本を全部読む必要がある。結局、物理環境とか生態系とか先住民の権利とか、全部絡み合っている。VSIではThe Antarctic南極(Klaus Dodds著)も面白かったが、現在の温暖化の進行状況を考えるとこっちのほうが必読かもしれない。

Authoritative apoaches to the arctic zones from all areas of scholarship.

Oxford Univ Pr (2022/2/1)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-0198819288

2023年5月21日日曜日

Philippa Levine "Eugenics: A Very Short Introduction" [優生学:非常に短い入門]

目次:1.優生学の世界 2.優生学的知能 3.優生学的生殖 4.優生学の不平等 5.優生学その後

不勉強な分野だったので読んで良かった。わたしの理解では、優生学は確かに一時期普通の思想だったが、一応死んだ科学だし、人権がどうこうとか倫理に訴えるまでもなく、現代の生物学の水準では簡単に論破されるような話である。不勉強だったというのは、ここまでえげつない大災害だったとは思わなかったというのと、冷静に考えると、その頃の言い回しというか論法が現代日本でも普通に生き延びている。

現代日本でも普通という点については、例えば、わたしの大学の研究室の教授なんか普通に「賢い人は賢い人と結婚して子供も賢いからどんどん格差が広がる」と言っていた。もちろん、これだけ聞けば文化資本の継承みたいなことかもしれないが、そいつの日頃を知っている学生は当然遺伝のことを言っているのが分かっていた。人間の価値を生産性-維持費で計算するのは今でも普通に聞く話だ。高齢化で困るとか言っているのは、はっきり言えばそういうことだろう。遺伝子スクリーニングは普通に行われている。昔と違うのは国家が断種まで強制してやるか、個人が自主的に中絶するかの違いだけだ。

実際に起きた被害は、もうこの本を読んでもらうしかない。別にナチ支配下だけで起こったことではなく、その頃はアメリカでも西欧でも日本でも世界中どこでも普通に国家による強制不妊手術はあった。ちょっとその規模がわたしの想像を大幅に超えていた。倫理的な判断はちと苦手だが、まずは事実を知ったほうが良い。

一方で、優生学の理論自体への科学的反論はあまり触れられていない。優生学自体に科学的根拠がないのは自明という態度だ。わたしもその点は同意だが、多分、日本に限らず、そこから説明したほうがいいのかなとは思う。Amazonのレビューでもその類の文句があり…。

こういうの、学校でも教えるべきなんだろうか。しかし、この前読んだ奴隷制の話の時にも思ったが、そもそも学校の先生になるような人は「べき」の強い人が多く、「べき」の強い人の下位集合として「人を断罪するのが好きな人」というのがいて、そういうのが左翼社会科教師とかになって生徒がうんざりするという…。なお、優生学の支持者は別に右翼も左翼も関係がない。むしろ社会主義者やフェミニストのほうが多かったような印象を受けるが、基本的には進歩的知識人みたいな人の間では常識だったんだろう。ここでもカトリックは反対のほうが強かった印象があるが、何とも言えない。ちと禍々しいタイトルというか、ほとんどホラーだが、読んでよかった。

An excellent summary of this important subject.

Oxford Univ Pr; 2nd版 (2017/1/2)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0199385904

2023年5月18日木曜日

Heather Andrea Williams "American Slavery: A Very Short Introduction" [アメリカの奴隷制:非常に短い入門]

目次:1. 大西洋奴隷貿易 2.奴隷制の成立 3.奴隷労働 4.支配の困難さ 5.奴隷制を生き延びること 6.奴隷制の解体

テーマがテーマなので書き方がエモくなるのは避けられないが、VSIにありがちな「大学新入生のための研究入門」というよりは、中高生相手くらいの歴史語りに近い。このテーマで研究方法論みたいな話をされてもマニアック過ぎるし、こういうanecdoteの多いノンフィクションのドキュメンタリーみたいなのほうが勉強になる。気持ちが暗くなる話が多いが、基本的にアメリカという国が奴隷労働で作られた国だし、これはアメリカ人に限らず、日本の中高生くらいでも読むべきだろう。こういうのを高校の熱い社会科教師とかが教えると生徒のほうは白けてしまいがちだが…。

焦点は奴隷制の「生きられた経験」みたいなことにあり、奴隷や奴隷使用者の主観的な経験を主軸に描かれている。背景となる社会事情などを詳しく知りたいならこの本ではないが、しかし、こういう語りをすっ飛ばして社会状況なんか研究しても意味がないだろう。ちと短か過ぎるのが残念なくらい。断罪的な記述は避けられないが、日本人に分かりにくいのは、頻繁に言及される奴隷制とキリスト教の関係だろうか。この本だけ読んでいると、最初キリスト教を根拠にして、平気で残虐に奴隷狩りをして強制労働させていた白人が、謎の理由で真のキリスト教の精神に少しずつ目覚めて奴隷制が廃止されたみたいな印象を受けるが、わたしには到底信じられない。

かといって、「南北戦争は土地に縛られた奴隷を必要とする南部と賃金に縛られた奴隷を必要とする北部の対立であった」みたいなシニカルな記述はこの本の趣旨でもないし、白人の間にも良心の葛藤があったのは事実なんだろう。シニカルというか客観的な話が好みならそういう本を読むべきだが、その場合でもこういう本を飛ばしていいとは思わない。わたしの実感として、アメリカに限らず、白人の有色人種差別は想像を絶するほど根深いところがあり、これくらいのことは勉強しておいていいだろう。

あと、この本はリンカーンの奴隷解放宣言で終わっているが、この後も本当に公制度から人種差別がなくなるのはまだ先の話だ。Peanutsくらいでも、黒人の子と白人の子が同じクラスにいるのはおかしいとかで作者のSchultz氏が抗議されたりしている。奴隷解放宣言は1862年だが、公民権法が制定されたのは1964年のことで、その間も法制度上の差別は続いている。色々考えるところはあるが、基礎教養として万民が読むべき本だろう。

A must-read for everyone.

Oxford Univ Pr (2014/11/3)
言語:英語
ISBN-13:978-0199922680

2023年4月25日火曜日

Charles Phillips, Melanie Frances "The Sherlock Holmes Escape Book: Adventure of the Tower of London" [シャーロックホームズ脱出本:ロンドン塔の冒険]

ロンドン水道英国博物館解析機関に続くシリーズ最新作。四作も続いたわけだし、他言語にも翻訳されているから熱烈なファンも多いと思うが、わたしとしては、ここまでかな、という感じ。

システムは相変わらず読者がパズルを解くことによって話が進んでいく形式で、表紙の円盤のギミックも変わっていないが、この巻はもはや読者がパズルを解けることを想定していない。これまでの三冊も完全に自力解答で進んでいくのはちょっと無理だったが、この巻は答を見ても「なるほど」とはならず「無理でしょ」ということが多く、それも第一問から無理。項目数は96で、確か今までで最も少ないが、問題数は多分今までで一番多い。一番時間がかかったのもこの巻だ。テーマは副題の通りロンドン塔の各所を巡る感じで、一々ワトソン先生が歴史まめ知識を入れてくるのが、英国史に詳しい人は面白いかもしれない。

このシリーズ四冊、一つはっきり言えるのは、ペーパーバックなのに装丁が美麗なのが魅力。飾れるレベルだと思う。表紙がボール紙で強化されているのもポイントが高い。フランス語版とかがパズルをどう翻訳しているのか謎だが、日本語は無理かねえ。電子書籍にするのも大変そうで。児童書という扱いになると思うが、いい本だった。

The all four books in this series are extremely beautiful.

Ammonite Pr (2023/2/21)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1781454619

2023年4月20日木曜日

Charles Phillips, Melanie Frances "Sherlock Holmes Escape Book: Adventure of the Analytical Engine" [シャーロックホームズ脱出本:解析機関の冒険]

前二作、ロンドン水道英国博物館とだいたい同じ趣向で、中学生か高校生くらいが対象だと思うが、英語力の問題から難しいだろう。翻訳が簡単にできないのもはっきりしている。数学的には解けるだろうと思うが、久しぶりにガウスの掃き出し法を使う羽目になった。遊びなのになんでそんなことをと思う子がいても仕方がないが、PTAにはアピールできそうだ。タイトルから想像できるようにバベッジの解析機関がモチーフになっているが、あまり深い意味はない。単純なパズル本で、分岐とかも多少回り道があるだけで、完全解析も可能だ。

I love this series.

Ammonite Pr (2022/9/1)
言語: 英語
ISBN-13:978-1781454411

2023年4月12日水曜日

Marian Green "Charms, Amulets, Talismans & Spells" [チャーム・アミュレット・タリスマン・呪文]

ショッピングモール的なところに入っているこの類の海外グッズを集めているようなエスニック雑貨店が楽しめるのなら、参考になるというか勉強になるかもしれない。文化人類学というよりは手芸のテキストみたいに眺めるべきだろうか。自分で持とうとは思わないが、見ているのは楽しい。案外こういう本は見たことがないが、実際あまりないかもしれない。

Ideas for handcraft.

Bloomsbury Pub Plc USA (2018/10/9)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1635573060

William Vaughan "Shadows: in Nature, Life and Art" [影:自然・生活・芸術]

影について色々書いた本だが、基本的には美術なのかな。物理方面に関心がある人向きではない。といっても、どう影を描くかの参考にもならないだろう…。この本と関係ない話だが、浮世絵の異常な特徴…というか西欧絵画以外はみんなそうだと思うが、基本的に影は描かれていない。最近流行りの明治の新版画はわりとしっかり影を描くので、その点ではっきり江戸時代と違う。そんなわけで、初めて西洋の絵画を見た日本人は、「なんでこの人の顔はこんな変な色なのか」とか思ったらしい。結局、暗い色が影を表しているというのは三次元の視野を二次元に写す規則を学習して初めて理解できることで、人間の視覚が自然にそんな風にできているわけではない。このタイトルならこういうことを書くべきではなかろうか。魅力的なタイトルだが、特にここから夢が広がったりしない。

Very attractive title.

Wooden Books (2021/3/8)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263838

Serge Latouche "La Décroissance" [脱成長]

読むのに時間がかかったし、結論から言うと良い本と言えるかどうか微妙だが、考えることの多い本ではある。その間に日本語訳が出版されて、タイトルにも「脱成長」という非常に適切な訳が当てられた。

多分誰でも思うことだが、経済学を学び始めてすぐに「経済成長を続けなければ資本主義経済は維持できない」と教えられ、「いや地球は有限でいずれ限界が来るし現に人口は既に減り始めているし」と違和感を持つが、「人口が減っても生産性が上がれば問題ない」とか「持続可能な開発」とか意味不明な文言で言いくるめられてしまう。日本で言えば長年経済成長せずに特に生活水準が落ちている気もしないし、歴史的に見ても経済成長しないほとんどの時代でも普通に人間は存続してきた…。生活が良くなることの一つの指標として経済成長があり、別に経済成長しなくても生活が良くなればいいように思うが、今の風潮ではなんでもいいから経済成長が必要なことになっていて、何なら経済に貢献しない「生産性のない人間」は存在自体が悪みたいな…。そもそもサステナブルな社会のためにはどっちかというと成長しないほうがいいのでは…。

この一連の疑問は現代の価値観の中心部を直撃している。さしあたり地球温暖化ということでやむを得ず成長に制限が掛けられ始めたが、それでもグリーンニューディールで経済が成長すればいいとかそんなことになっており、ここで実質的な富の拡大と、金銭価値に換算した数値の成長が微妙に混同されている。それが本書でも言及されているような「自然環境の減価償却を計上せよ」みたいなことで全部解決するのか不明だが。

ということを日頃思っていて"Que sais-je"でこのタイトルに出会ったので即買いしたが、とにかく読みにくい。フランス語が難しいわけでなく、一つには衒学が過ぎるのと、一つには感情が多すぎる。多分、著者はものすごく論争を経験してきているのだろう。こういう話はすぐに「じゃあ石器時代に戻れというのか」とか「GAFAが悪い」というバカみたいな話が出てくるし、著者がその類の話から完全に自由だとも思わない。アングロサクソンの価値観はとか言う文句が典型的だが、わりと最初のほうで熱力学の第二法則とか言い出した時点でうんざりする。

しかし、これが脱成長の第一の論客ということでもあるので、読んで損のないところではある。著者の論理の根源は、成長がどうこうというより、生産力至上主義に対する批判だと思われる。従って人口が減ればいいという考えではない。これは資本主義でもマルクス主義でも関係がない。その意味では怠ける権利の正統後継者なのかもしれない。それに付随する諸概念は人によって賛否があるだろう。やたら連帯solidaritéを強調するのはフランスの伝統だから仕方がない。生態系的制約は誰も多分異論はないが、原発がどうとか個別の話はまた別かもしれない。グローバリゼーションを敵視するのはどうかとか、格差問題とリンクさせるとか他にもいろいろある。特に脱成長で失業問題が解決するとか言われても、フランスと日本では状況が違い過ぎる。こっちでは労働力不足が問題で。

ちと論点が多すぎてまとめきれない。結局、脱成長という概念自体は、「そんなに成長成長言わなくても」くらいのことなので、色々個別の政策として考えるというよりは、もっと根本的な社会全体の価値観の変化を促すものだと思う。フランス人みたく徹底的な労働嫌いになるのが幸せかどうか疑問だが…。

Depuis longtemps, on dit que la croissance est nécessaire pour maintenir l'économie. On se demande souvent si une croissance permanente est possible. Évidemment, ce n'est pas possible. C'est le début.

Éditeur ‏ : ‎ QUE SAIS JE; 2e édition (9 février 2022)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2715409606

Tam O'Malley "Mythological Animals: from Basilisks to Unicorns" [神話の動物:バジリスクからユニコーンまで]

多分、よくある類の幻獣辞典の中の一冊でしかないと思うが、差がつくとしたら装丁とイラストだろうな。わたしはWooden Booksのイラストがだいたい好きだが、好みのわかれるところだろう。色が欲しい人もいるだろうし。内容的には、まあこの類の話としてはそんなに深いわけではないが、浸れる人は楽しいだろうと思う。わたしとしてはNethackで見かけるモンスターというところ。関係ないがNethackはRPGの完成形だが、相当やりこんでいても、ユニコーンは"u"の一文字で、たまにはこういう本も読んでおいたほうがいい。

I recommend this book to Nethack players.@.

Wooden Books (2021/3/1)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263142

2023年4月11日火曜日

Oliver Linton "Fractals: On the Edge of Chaos" [フラクタル:カオスの縁]

ハウスドルフ次元がどうこうみたいな話も一応あるが、やはり基本的にはフラクタル図形の博物学みたいなことだろう。色がないのが致命的とかいう説もあるが、個人的にはあまり気にならない。わたしとしては無色のほうが幻想が広がるような気がする。だいたいフラクタル図形は刺々しいというか、サイケデリックな着色がされるもので、フラクタル幾何学が流行った時代を反映しているのかもしれない。まあそれはそれとして、こういうのは学校の図書館に置いておいて、中学生の夢を刺激するべきなのだ。

Fractal shapes are often colored with psychedelic colors. In this book, they are presented mono-chrome, very soothing.

Bloomsbury Pub Plc USA (2021/2/23)
言語 :英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1635575088

Oliver Linton "Numbers: To Infinity and Beyond" [数:無限を越えて]

整数論のpop mathみたいな本で、その意味ではよくあるタイプの本だが、薄い中にしっかり書いてあり、こういう本も子供のころに出会いたかったと思う。内容的にはそんなに難しくなく、最終的にはフェルマーの小定理くらいまでの話だが、別に難関大学受験とかではなければ、高校生でもこれくらいでいいのかもしれない。こういう本は学校の図書室には完備しておくべきなのだ。

A good reading for a math-minded children.

Wooden Books (2021/10/1)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155314