目次:1.優生学の世界 2.優生学的知能 3.優生学的生殖 4.優生学の不平等 5.優生学その後
不勉強な分野だったので読んで良かった。わたしの理解では、優生学は確かに一時期普通の思想だったが、一応死んだ科学だし、人権がどうこうとか倫理に訴えるまでもなく、現代の生物学の水準では簡単に論破されるような話である。不勉強だったというのは、ここまでえげつない大災害だったとは思わなかったというのと、冷静に考えると、その頃の言い回しというか論法が現代日本でも普通に生き延びている。
現代日本でも普通という点については、例えば、わたしの大学の研究室の教授なんか普通に「賢い人は賢い人と結婚して子供も賢いからどんどん格差が広がる」と言っていた。もちろん、これだけ聞けば文化資本の継承みたいなことかもしれないが、そいつの日頃を知っている学生は当然遺伝のことを言っているのが分かっていた。人間の価値を生産性-維持費で計算するのは今でも普通に聞く話だ。高齢化で困るとか言っているのは、はっきり言えばそういうことだろう。遺伝子スクリーニングは普通に行われている。昔と違うのは国家が断種まで強制してやるか、個人が自主的に中絶するかの違いだけだ。
実際に起きた被害は、もうこの本を読んでもらうしかない。別にナチ支配下だけで起こったことではなく、その頃はアメリカでも西欧でも日本でも世界中どこでも普通に国家による強制不妊手術はあった。ちょっとその規模がわたしの想像を大幅に超えていた。倫理的な判断はちと苦手だが、まずは事実を知ったほうが良い。
一方で、優生学の理論自体への科学的反論はあまり触れられていない。優生学自体に科学的根拠がないのは自明という態度だ。わたしもその点は同意だが、多分、日本に限らず、そこから説明したほうがいいのかなとは思う。Amazonのレビューでもその類の文句があり…。
こういうの、学校でも教えるべきなんだろうか。しかし、この前読んだ奴隷制の話の時にも思ったが、そもそも学校の先生になるような人は「べき」の強い人が多く、「べき」の強い人の下位集合として「人を断罪するのが好きな人」というのがいて、そういうのが左翼社会科教師とかになって生徒がうんざりするという…。なお、優生学の支持者は別に右翼も左翼も関係がない。むしろ社会主義者やフェミニストのほうが多かったような印象を受けるが、基本的には進歩的知識人みたいな人の間では常識だったんだろう。ここでもカトリックは反対のほうが強かった印象があるが、何とも言えない。ちと禍々しいタイトルというか、ほとんどホラーだが、読んでよかった。
An excellent summary of this important subject.
Oxford Univ Pr; 2nd版 (2017/1/2)
言語: 英語
ISBN-13 : 978-0199385904
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