2016年8月18日木曜日

Cynthia Freeland "Art Theory: A Very Short Introduction" [芸術理論:非常に短い入門]

目次:1.血と美 2.枠組みと目的 3.文化の交差 4.金・市場・美術館 5.ジェンダーと天才とゲリラ少女 6.認知と創造と理解 7.デジタル化と伝播

いわゆる哲学科で学ぶような美学の概説書というか教科書に近く、評判が良いので、芸術に関わっている人は読んでおいて損はないところだろう。芸術をめぐる様々な論点を具体的な有名な芸術作品を例に解説していく。正典的ないわゆる芸術作品を取り上げて正統な議論をしていくので、特に変な偏向はない。わたしはというと、こういう言い方から既に明らかなように、こういう方面には非常にシニカルだし、「どうでもえやん」と思うこともあるが、一冊読んで置いて損はしない。

A well-balanced guidance to art theories.

出版社: OUP (2003/2/13) 言語: 英語
ISBN-13: 978-0192804631

2016年8月16日火曜日

Kevin Passmore "Fascism: A Very Short Introduction" [ファシズム:非常に短い入門]

目次:1.『AでありAでない』ファシズムとは何か 2.ファシズム以前のファシズム? 3.イタリア『拳で歴史を作る事』 4.ドイツ:人種的国家 5.ファシズムの拡散 6.灰から甦る不死鳥? 7.ファシズムとネイションと人種 8.ファシズムと女性とジェンダー 9.ファシズムと階級 10.ファシズムとわたしたち

最初のほうはファシズムの定義にこだわっており、全編に渡って一貫してちょくちょくこだわっていて、その点は結構大変だが、基本的には欧州とアメリカの様々なファシズムを通覧していて、非常に勉強になった。現代への目配りも織り込まれている。

面倒と言うのはファシズムという言葉に含まれる道義的な負荷のせいだけでもなく、各国毎に相互に影響したり対立しながらバリエーションが大きいせいだ。例えば、まあ差し当たり、疑似軍隊みたいなルックスをしていたとかいうのは似ているだろうか。人種(race)にこだわったといっても人種の概念が一定していない。ユダヤ人が文化概念というより人種概念になったのは比較的最近のことで、ナチみたいな絶滅政策もあれば、同化政策もある。近頃の新右翼みたいなのは、人種や民族はそれぞれ平等だが、それぞれの特徴を尊重して維持するべきなどと主張していて、結果的には移民排除・追放には違いないが、人種間に優劣があると主張するのはほとんどいない。

等々のことで、目次から明らかなように他にも女性の立場とか階級との関係が非常に入り組んでいることなども説明され、面倒ではあるが、事実に反する単純化を避けるには止むを得ない。しかし、それにしても何か色々なバリエーションを貫く一つのメンタリティがあるのではないかと思うのだが、そこに行かない(行けない)のは学者の慎重さなのだろう。実際、そんな本は色々あるが、あんまりピタリと来た本も記憶にない。勉強になったし、特に政治学に興味のある学生には良い入門書じゃないかと思う。

A very good overview of fascism. I assumed there was a core mentality that all varieties of fascism share, but the author carefully avoid such a simplification, which I understand is an evidence of the scholar's sincerity.

Oxford Univ Pr 2 Upd New版 (2014/06)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199685363

2016年8月15日月曜日

Mark Maslin "Climate: A Very Short Introduction" [気候:非常に短い入門]

目次:1.気候とは何か 2.大気と海洋 3.天気対気候 4.極端な気候 5.テクトニクスと気候 6.全球的気候寒冷化 7.大氷河期 8.未来の気候変動 9.気候変動を固定する事 10.究極の気候変動

地球の気候の概要というようなことで、一部では難しいと言われているようだが、特段の予備知識が必要には思われない。日本で言えば、地学を選択した高校生なら問題なく読めるというか、センター試験で満点を狙うレベルなら、これくらいは知っている必要があるような気もする。もちろん、気象予報士を狙うような人にとっては、入門書にいいくらいだ。ただし、この本の主たるテーマは大規模の気候であり、今日明日の天気の話ではない。資格試験で言えば、eco検定などでも、この程度の知識はあったほうが良いだろう。個人的には特段の新情報はないが、良い復習になった。まさしくVSIの趣旨に則った本なので、特に気候にあまり知識がない人には入門書として間違いないところだろう。直接天気予報の勉強にはならないが、天気に興味がある人にとっても、気候の背景知識を持つのに良い本だ。

A good overview of the climate system of the Earth. Especially if you are interested in weather forecast, this level of understandings of the climate is certainly needed.

Oxford Univ Pr (2013/7/24)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199641130

2016年8月4日木曜日

U.S. Army Command and General Staff College "Outfought and Outthought: Reassessing the Mongol Invasions of Japan" [戦いで負けることと思考で負けること:モンゴルの日本侵略の再検討]

目次:1.導入 2.歴史文献 3.両軍の戦力 4.最初の侵略(1274)と結果 5.第二の侵略(1281) 6.戦略分析 7.孫子からの視点 8.結論

米軍による元寇(文永の役・弘安の役)の戦術分析。純粋に元寇の記述としてもモノスゴく面白い本で、翻訳したらブームになるのではないかと思う。これだけでは一冊にするには薄すぎると言うのなら、米軍司令部は他にも面白そうな研究をいっぱい出しているようだから、一緒に翻訳すればいいだろう。戦史ファンが飛びつくのは保証しよう。

まず、元寇における台風の役割は色々言われているが、この本では台風は既に敗北していたモンゴル軍に追い討ちを掛けただけという立場である。というのも、文永の役でも日本側の激しい抵抗で大宰府を陥落させられていないし、補給が続かず退却を余儀なくされている。弘安の役ではそもそもモンゴル軍は上陸を阻まれ、台風の前に二か月も侵攻できておらず、海上では常に劣勢で、既に敗北は確定的であった。

そして、米軍司令部は、当時無敵だったモンゴル軍のこの惨敗を孫子とクラウゼヴィッツに照らして批判する。一々尤もな話で、徴兵中心のモンゴル軍と職業軍人のサムライたちでは士気も装備も個々の戦闘能力にも差があった。先に対馬・壱岐を攻略したため、日本側に十分な迎撃態勢を作る時間を与えた。日本側の予想している地点(博多湾)に予想通り二度も突入する。日本側の行動速度が速く、側面からの攻撃が全て防がれる。日本側が完全に包囲して射撃陣地を構築している博多湾に身動きのできない大軍(夜襲を恐れて軍船を連結していた)で自ら包囲されに行くなど論外云々。

記述は戦術に限定されているわけではなく、それ以前の朝鮮などを通じた外交交渉の流れも描かれている。この辺りのモンゴルの外交も批判されるが、何より、日本に戦闘態勢を取らせたのがマズいという評価だ。フビライが孫子を読んでいた証拠はないが、中国人の将軍たちが読んでいたのは間違いなく、孫子の兵法に従っていれば、違う結果になっていたかも知れないとか言っている。

著者は中国語も日本語も読めないらしく、参考資料が英語または英訳文献しかないという制約があるものの、少なくともわたしが読んでいる分には不自然なところはなかった。専門家が読めばまた違う意見もあるのかもしれないが、差し当たり素人が読んでいてもモノスゴく面白い。単純に翻訳したいし、この辺りに詳しい日本人歴史家と軍事専門家の注釈にも期待したいのだが。

A tactical analysis of the Mongols vs. Samurai. Great Reading. I am not a specialist in history but have good command of old Japanese and Chinese language and some knowledge about overall history of east asia. I found no defect in this great narrative. The storytelling is very good and would never bore lay people like me.

Pennyhill Press (2014/1/13)
言語: 英語
ASIN: B00HV14CKK

2016年8月1日月曜日

Noel Carroll "Humour: A Very Short Introduction" [ユーモア:非常に短い入門]

目次:1.ユーモアの性質 2.ユーモアと感情と認知 3.ユーモアと価値観

ユーモアに関する哲学的・社会学的研究。通常のVSIのフォーマットなら研究史から始まるところ、この本に関しては、先行研究は参照しつつも最初から最後まで著者の思索が続く。さしあたりユーモアをどう定義するかについて三分の一くらい費やされる。あとは心理的な効用についてだったり、社会的な効用についてなど。

この本、Amazonではわりと評価が高い。わたしはお笑いが好きだから、この類の本は相当読んでいるが、面白い本に当たったことはなく、この本も例外ではない。というか、正直に言うと、わたしとしては、この本はVSIの中でも最悪に近いと思っている。ので、あまり多くは語りたくないが、Amazonでは評価されているから、こういうのが面白い人も多いのだろう。

強いて考えれば、ユーモアを西洋哲学の語彙で考察するのが無理なのではないかと思う。本書で推されるincongruity理論は結構なものだが、いくらでも反論は思いつくし、一々弁論も可能だが、なんか本質を外している感じは否めない。桂枝雀の「緊張と緩和」理論は、ユーモアというよりは笑いの理論だが、その辺りから出発したほうが未来がある気がする。

This book was not for me. I love comedy and have read many books of this topic, all of which I never found interesting....

Oxford Univ Pr (2014/03)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199552221

2016年7月22日金曜日

Jonathan Borwein "A Dictionary of Real Numbers" [実数辞典]

世の中には「奇書」と呼ばれる本が多数あり、あまり感心したことがないが、これこそ奇書ではないだろうか。個人的にはこれ以上の奇書に出会ったことがない。簡単に言うと[0, 1)までの八桁の実数の逆引きである。例として裏表紙に書いてある例だが、

  • 0.93371663 → 2log((e+π)/2)

こんな調子で大量の数値が載っているから例なんか他にいくらでもあるが

  • 0.23318249 → 8*x^2+5x-6=0の解の一つ(の小数点以下8桁)
  • 0.88869591 → 10^(4√2-3√3)(の小数点以下8桁)
  • 0.30275578 → ln(√2)÷ln(π)
  • 0.91457357 → 2e/3-π/3の3乗根の一つ

世の中には眺めているだけで楽しい数学辞典は色々あり、たとえば分厚い積分の公式集なんかは実際に役に立ったこともあるし、統計分布の辞典なんかも楽しいが、この本に関しては、わたしが実用する機会がほとんど想像できない。実際には、この本が役立つ人は世の中に結構いて、何かしらの数値解析に携わっている人は、この本によって数値から事態を把握できることがあるらしい。誰でもわたしと同じように衝撃を受けるのかどうかは謎だが、わたしとしては単に円周率を印刷しただけで奇書を気取っているようなのとは次元が違うように思う。真面目な数値解析の人にも役に立つのだろうが、例えば、株価の予測をしている人なんかは使わない手はないように思われる。ちょっと説明不能な感銘を受けた。

This is the most strange book I have ever seen. I can imagine that to some people this book is very useful and very time-saving. Still, My amazement does not part me. Very impressive and amusing.

Springer (2011/12/30)
英語
978-1461585121

2016年7月14日木曜日

A. M. Glazer "Crystallography: A Very Short Introduction" [結晶学:非常に短い入門]

目次:1.長い歴史 2.対称性 3.結晶構造 4.回折 5.原子を見る事 6.放射線源

いわゆる結晶学の概説で、日本語でも英語でも類書を見ないから、かなり貴重な本ではないかと思う。ただ、なぜ類書がないのかはこの本を読めば分かる通り、話自体がかなり難しいからなんだろう。この本、一応丁寧に初学者向きに書いてはいるものの、それでも、群論・フーリエ変換・光学・エックス線等の基礎知識がないと厳しい。おそらく、理工系の学生でも三年目くらいにならないとしんどいのではないかと思われる…。これまで200冊以上VSIを読んでいるが、その中でも最も難しいと言い切って良いだろう。

わたしとしては、たまたま光通信の勉強をする機会があったので、非常に勉強になった。光ファイバ自体の他、レーザーダイオードなどの付属機器の理解に、この本で解説されるような結晶学の知識は非常に役立つ。他にも本書で触れられる通り、結晶学の知識が必要な分野は結構多いから、ちと難し目ではあるが、翻訳したら需要もあるかもしれない…。

A very good and rare introductory book on this subject, though it might be very challenging to those who have no back ground....

Oxford Univ Pr (2016/06)
言語: 英語
978-0198717591

2016年7月13日水曜日

Thierry Debard, Serge Guinchard "Lexique des termes juridiques 2016-2017 - 24e éd."[法律用語辞典2016-2017第24版]

定番のフランス法律辞典。毎年改訂されるので、一応買い換えている。類書は他にも色々あるけど、結局、決め手になるのは、二色刷りとか活字とか装丁だ。ふと思ったが外国語の勉強に自分専門分野の辞書というのは悪くないかもしれない。Que sais-je?の100 motsも同じことだ。

J'aime la présentation de ce livre. Facile à lire.

Dalloz(22 juin 2016)
フランス語
978-2247160754

2016年6月16日木曜日

Chris Shilling "The Body: A Very Short Introduction" [身体:非常に短い入門]

目次:1.自然の身体か社会的な身体か 2.性別のある身体 3.身体を教育すること 4.身体を統治すること 5.商品としての身体 6.身体の問題:ジレンマと論争

例によってタイトルが短すぎて意味が分からないが、翻訳出版するなら「身体の社会学」というところ。本来ならこういうタイトルは読まないが、冒頭を数ページ読んで、筆者の誠実な文体が気に入って全部読むことに。出てくる人名はゴフマンとかアガンペンとかブルデューとか、社会学者がほとんどだ。

実際ものすごく良く書けている。たとえば二章は普通のフェミニズムの見解を普通に述べているだけだが、社会学を学ぶのなら当然把握しておくべき内容が分かりやすくまとめられている。以降、パノプティコンとかバイオポリティクスとか対面の相互作用とか、社会学の基本を「身体」という面から学習できる。社会学の初学者には、英語の勉強も兼ねて読む価値が高い。翻訳すれば、全国の社会学の学生の指定図書になると思うし、結構売れそうに思う。

ここから先は完全にわたしの個人的な感想だが、最初から最後まで"embodied"という形容詞が気になった。冒頭でも著者は西洋哲学の身体軽視を批判するところから入っているが、それでもまだ日本人・東洋人の感覚から遠いような気がする。それでも社会学からすれば大きな一歩なのかもしれないが。ただ、最後の辺り、インターネット越しの社会関係と、身体の近接を前提とする社会関係の相違は、少し考える気にはなった。

I am not a big fan of sociology any more. Still, this book is extremely well written.

2016年6月10日金曜日

H G Wells "The Invisible Man" [透明人間]

古典的名作であり、実際相当面白い。「今読むとやっぱり古い」みたいな意見もあるようだが、わたしは全くそうは思わない。今、透明人間をテーマにした小説・マンガ・ドラマを作っても、こんなに面白くならないだろう。ユーモアもあり、怪奇もあり、謎の感動もある。

話は要するに透明になることに成功した人間の冒険だが、主人公の性格が狂っていて良い。利己的で、自制心が弱く、暴力的である。今だったら主人公を慎重な性格に設定して、透明であることを活かして悪と戦ったりしかねないところだ。夜神月には共感しないがグリフィンには共感できる。元々準備万端で透明になったわけではなく、衣食住の確保から苦労するが、基本的には盗みと暴力の壮絶なドタバタになり、喜劇なのか悲劇なのか判定が難しい。クライマックスでは一つの町を恐怖で支配するとか言い出し、その割に手始めにやることが個人的な復讐というのもこの主人公に相応しい。グリフィンは悪い奴だが、それに相応しい末路を迎えるわけで、謎の感動がある。

この小説を読む人は、自分だったらどうすると必ず考えると思うが、自制心が子供並で、屈強の肉体を持っている上に他人から監視されないとなれば、まあ、遅かれ早かれ、百人が百人こんなことになるんだろうと思う。その意味では、ほとんど普遍的な真理を描く名作文学である。世間でどう評価されているのかあまり知らないが、単なる「SFの古典」ではなく、もっと高く文学的に評価されても良さそうなものだ。訳は見ていないが、古典だし大体大丈夫たろう。

One of the best novels I have ever read. Griffin is a bad guy, sure, and if we contrive a modern TV series featuring a invisible man, we will create him as a hero fighting with evil forces or something. Nonsense. If we have only childlike self-control and a tough body suitable for hand-to-hand combat and are not be seen from others, sooner or later, we will all become Griffin. The Invisible Man tells us a universal truth. This is not only a classic SF, but also one of the great literatures in the world.

2016年6月1日水曜日

Robin Wilson "Combinatorics: A Very Short Introduction" [組み合わせ論:非常に短い入門]

目次:1.組み合わせ論とは何か 2.四種類の問題 3.順列と組み合わせ 4.組み合わせ論の動物園 5.敷き詰めと多面体 6.グラフ 7.正方行列 8.デザインと幾何学 9. 分割

この本はわたしには初歩的過ぎて公平なレビューにならないかもしれない。中学生だとしんどいかもしれないが、おそらく日本の高校生くらいなら普通に読めるだろう。全く頭を使わないわけではないが、紙と鉛筆が必要なわけでもなく、pop mathより少し踏み込んでいるくらい。わたしの場合、コンピュータサイエンスを相当やった経緯があるのと、群論の知識が初歩的にでもあるので、ちと易し過ぎる。肝心なところで証明が無かったりするのが気になるが、レベルを考えるとやむを得ない。

中途半端なpop mathを読むくらいなら、真剣な数学書を最初だけ読んで挫折するほうが優れている、というのがわたしの持論だが、この本についても翻訳してもイマイチな気はする。パスカルの三角形をいじるような組み合わせ論については中高生向けの本もあるだろうし、N=NP?みたいな話なら計算機科学でやはり初歩的な本も山のようにあるし、四色問題のようなグラフ理論ならVSIでもいい本がある。ただ、そのあたりを一冊で済ましているということもあるので、大学生の英語の勉強には良いかもしれない。

It was too elementary for me, though maybe a good reading for japanese high-school students.

Oxford Univ Pr (2016/07)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198723493

2016年5月11日水曜日

Peter Molnar "Plate Tectonics: A Very Short Introduction" [プレートテクトニクス:非常に短い入門]

目次:1.基本的な考え 2.海洋底拡大と磁気異常 3.破砕帯とトランスフォーム断層 4.海洋リソスフェアの潜り込み 5.リソスフェアの固いプレート 6.大陸のテクトニクス 7.どこから来てどこへ行くのか?

地磁気の話を読んでいたので、そのつながりで手を出しただけだが、予想外に面白かった。わたしとしてはプレートテクトニクス≒大陸移動説+地震くらいに思っていたところ、この本では、大陸の地殻変動も結構詳しく語られる。とはいうものの本書は基本的にはプレートテクトニクスという言葉を海洋底に限定している。何でかと言うことも本書で詳しく語られるが、要するに、海洋底がモノスゴク固くてプレート境界以外でほとんど変形しないのに対し、大陸を乗せているリソスフェアは簡単に変形して、「プレート」と言いにくいらしい。

通常、VSIでは標準的なフォーマットとして「研究史」「研究方法」「研究結果」が語られるが、本書ではすべてが織り込まれて一つのストーリーとして語られる。一つには研究の歴史が浅いせいで、大陸移動説やプレートテクトニクスがまともに受け入れられ始めたのは1960年代になってからのことだ。そういうわけで、通常の教科書よりは物語性が高くて読みやすい。一つ残念なのは、日本周辺の話が手薄なことだが、語られているのは基本的に一般論なので、日本周辺でもだいたい同じことなんだろう。熊本の地震もあったことだし、プレートテクトニクス一般だけでなく、地震や地質学に関心がある人にもお勧めだ。

We who live in a island arc should be familiar with this theme. Much more fascinating than I thought.

Oxford Univ Pr(2015/05)
英語
ISBN-13: 978-0198728269

2016年4月25日月曜日

Stephen Blundell "Magnetism: A Very Short Introduction" [磁気:非常に短い入門]

目次:1.神秘的な魅力? 2.磁石としての地球 3.電流と力への道 4.統一 5.磁気と相対論 6.量子磁気 7.スピン 8.磁力図書館 9.地球上と宇宙の磁気 10.奇妙な磁気

VSIのフォーマット通りで、前半は磁気の歴史が語られる。初期の磁石の文化史みたいなところから電磁気学の一般的な歴史を通って相対論と量子力学の説明になる(古典物理学の範囲では磁石の存在すら説明できない)。教科書的とは言え、なかなか充実している。後半は工学的な応用の話や地磁気の話など盛りだくさん。ちょっと高校生では読むのはしんどいかと思うが、理系の大学生なら大丈夫だろうし、マクスウェル方程式を理解しているくらいなら問題ない。一応巻末にマクスウェル方程式は出ている。結構意外な話も多かった。

A variety topics of magnetism. From basics to sophisticated modern physics.

Oxford Univ Pr (2012/7/5)
英語
ISBN-13: 978-0199601202

2016年4月11日月曜日

Jason Martineau "The Elements of Music: Melody, Rhythm, & Harmony" (Wooden Books)[音楽の要素:旋律、表紙、和音]

近頃音の勉強を始めているので、久々のWooden Booksだが、これは微妙なところだ。書いてあることはいわゆる「楽典」に近いようなことだが、ある程度音楽の素養がないとついていけないところがある。「楽典」はたいていそうだが、この本も、手元にバーチャルにでも鍵盤がないと読みにくいだろう。専門家の評価は高いようだが、誰にでもお勧めと言うわけにはいかない。Wooden Booksはそういうものだが、真面目に勉強するための本ではない。

You should place a keyboard (at least virtually) before you while reading this book, I guess.

Walker & Co (2008/10/28)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0802716828

2016年4月10日日曜日

Christopher Hall "Materials: A Very Short Introduction" [材料:非常に短い入門]

目次:1.金・砂・糸 2.微細な検査 3.強固だがツルツル 4.電気の青 5.材料を作る事と物を作る事 6.砂のそんな量

この本はものすごく面白いのだが説明が難しい。目次でも伝わらないと思うが、とにかく、VSIにありがちな「これから専門分野を学ぶ学生のためのガイダンス」みたいな本ではない。要は様々な「材料」または「素材」という物について物理的・科学的・工学的・歴史的・経済的・資源的・環境的なあらゆる面から色々記述している。従って、単一の学問分野に限定されていない。これだけの広い知識を一人で扱う著者はスゴい。ちょっと難しい部分もあるかもしれないが、基本的には高校生でも読めるのではないかと思う。人に言いたくなるまめちしきが満載で、どういう人にお勧めというわけでもないが、強いて言えば資源を扱う商社マンとかか。もちろん、わたしみたいな単なる好奇心の強い一般人でも退屈はしない。タイトルが一般的過ぎるのであまり期待していなかったが、予想外のヒットだった。

The title may appear too simple, but it contains a lot of trivia and is never boring. The author describes so many materials from so many aspects. He is incredibly polymathy.

Oxford Univ Pr (2014/12)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199672677