2016年8月16日火曜日

Kevin Passmore "Fascism: A Very Short Introduction" [ファシズム:非常に短い入門]

目次:1.『AでありAでない』ファシズムとは何か 2.ファシズム以前のファシズム? 3.イタリア『拳で歴史を作る事』 4.ドイツ:人種的国家 5.ファシズムの拡散 6.灰から甦る不死鳥? 7.ファシズムとネイションと人種 8.ファシズムと女性とジェンダー 9.ファシズムと階級 10.ファシズムとわたしたち

最初のほうはファシズムの定義にこだわっており、全編に渡って一貫してちょくちょくこだわっていて、その点は結構大変だが、基本的には欧州とアメリカの様々なファシズムを通覧していて、非常に勉強になった。現代への目配りも織り込まれている。

面倒と言うのはファシズムという言葉に含まれる道義的な負荷のせいだけでもなく、各国毎に相互に影響したり対立しながらバリエーションが大きいせいだ。例えば、まあ差し当たり、疑似軍隊みたいなルックスをしていたとかいうのは似ているだろうか。人種(race)にこだわったといっても人種の概念が一定していない。ユダヤ人が文化概念というより人種概念になったのは比較的最近のことで、ナチみたいな絶滅政策もあれば、同化政策もある。近頃の新右翼みたいなのは、人種や民族はそれぞれ平等だが、それぞれの特徴を尊重して維持するべきなどと主張していて、結果的には移民排除・追放には違いないが、人種間に優劣があると主張するのはほとんどいない。

等々のことで、目次から明らかなように他にも女性の立場とか階級との関係が非常に入り組んでいることなども説明され、面倒ではあるが、事実に反する単純化を避けるには止むを得ない。しかし、それにしても何か色々なバリエーションを貫く一つのメンタリティがあるのではないかと思うのだが、そこに行かない(行けない)のは学者の慎重さなのだろう。実際、そんな本は色々あるが、あんまりピタリと来た本も記憶にない。勉強になったし、特に政治学に興味のある学生には良い入門書じゃないかと思う。

A very good overview of fascism. I assumed there was a core mentality that all varieties of fascism share, but the author carefully avoid such a simplification, which I understand is an evidence of the scholar's sincerity.

Oxford Univ Pr 2 Upd New版 (2014/06)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199685363

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