2023年4月25日火曜日

Charles Phillips, Melanie Frances "The Sherlock Holmes Escape Book: Adventure of the Tower of London" [シャーロックホームズ脱出本:ロンドン塔の冒険]

ロンドン水道英国博物館解析機関に続くシリーズ最新作。四作も続いたわけだし、他言語にも翻訳されているから熱烈なファンも多いと思うが、わたしとしては、ここまでかな、という感じ。

システムは相変わらず読者がパズルを解くことによって話が進んでいく形式で、表紙の円盤のギミックも変わっていないが、この巻はもはや読者がパズルを解けることを想定していない。これまでの三冊も完全に自力解答で進んでいくのはちょっと無理だったが、この巻は答を見ても「なるほど」とはならず「無理でしょ」ということが多く、それも第一問から無理。項目数は96で、確か今までで最も少ないが、問題数は多分今までで一番多い。一番時間がかかったのもこの巻だ。テーマは副題の通りロンドン塔の各所を巡る感じで、一々ワトソン先生が歴史まめ知識を入れてくるのが、英国史に詳しい人は面白いかもしれない。

このシリーズ四冊、一つはっきり言えるのは、ペーパーバックなのに装丁が美麗なのが魅力。飾れるレベルだと思う。表紙がボール紙で強化されているのもポイントが高い。フランス語版とかがパズルをどう翻訳しているのか謎だが、日本語は無理かねえ。電子書籍にするのも大変そうで。児童書という扱いになると思うが、いい本だった。

The all four books in this series are extremely beautiful.

Ammonite Pr (2023/2/21)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1781454619

2023年4月20日木曜日

Charles Phillips, Melanie Frances "Sherlock Holmes Escape Book: Adventure of the Analytical Engine" [シャーロックホームズ脱出本:解析機関の冒険]

前二作、ロンドン水道英国博物館とだいたい同じ趣向で、中学生か高校生くらいが対象だと思うが、英語力の問題から難しいだろう。翻訳が簡単にできないのもはっきりしている。数学的には解けるだろうと思うが、久しぶりにガウスの掃き出し法を使う羽目になった。遊びなのになんでそんなことをと思う子がいても仕方がないが、PTAにはアピールできそうだ。タイトルから想像できるようにバベッジの解析機関がモチーフになっているが、あまり深い意味はない。単純なパズル本で、分岐とかも多少回り道があるだけで、完全解析も可能だ。

I love this series.

Ammonite Pr (2022/9/1)
言語: 英語
ISBN-13:978-1781454411

2023年4月12日水曜日

Marian Green "Charms, Amulets, Talismans & Spells" [チャーム・アミュレット・タリスマン・呪文]

ショッピングモール的なところに入っているこの類の海外グッズを集めているようなエスニック雑貨店が楽しめるのなら、参考になるというか勉強になるかもしれない。文化人類学というよりは手芸のテキストみたいに眺めるべきだろうか。自分で持とうとは思わないが、見ているのは楽しい。案外こういう本は見たことがないが、実際あまりないかもしれない。

Ideas for handcraft.

Bloomsbury Pub Plc USA (2018/10/9)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1635573060

William Vaughan "Shadows: in Nature, Life and Art" [影:自然・生活・芸術]

影について色々書いた本だが、基本的には美術なのかな。物理方面に関心がある人向きではない。といっても、どう影を描くかの参考にもならないだろう…。この本と関係ない話だが、浮世絵の異常な特徴…というか西欧絵画以外はみんなそうだと思うが、基本的に影は描かれていない。最近流行りの明治の新版画はわりとしっかり影を描くので、その点ではっきり江戸時代と違う。そんなわけで、初めて西洋の絵画を見た日本人は、「なんでこの人の顔はこんな変な色なのか」とか思ったらしい。結局、暗い色が影を表しているというのは三次元の視野を二次元に写す規則を学習して初めて理解できることで、人間の視覚が自然にそんな風にできているわけではない。このタイトルならこういうことを書くべきではなかろうか。魅力的なタイトルだが、特にここから夢が広がったりしない。

Very attractive title.

Wooden Books (2021/3/8)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263838

Serge Latouche "La Décroissance" [脱成長]

読むのに時間がかかったし、結論から言うと良い本と言えるかどうか微妙だが、考えることの多い本ではある。その間に日本語訳が出版されて、タイトルにも「脱成長」という非常に適切な訳が当てられた。

多分誰でも思うことだが、経済学を学び始めてすぐに「経済成長を続けなければ資本主義経済は維持できない」と教えられ、「いや地球は有限でいずれ限界が来るし現に人口は既に減り始めているし」と違和感を持つが、「人口が減っても生産性が上がれば問題ない」とか「持続可能な開発」とか意味不明な文言で言いくるめられてしまう。日本で言えば長年経済成長せずに特に生活水準が落ちている気もしないし、歴史的に見ても経済成長しないほとんどの時代でも普通に人間は存続してきた…。生活が良くなることの一つの指標として経済成長があり、別に経済成長しなくても生活が良くなればいいように思うが、今の風潮ではなんでもいいから経済成長が必要なことになっていて、何なら経済に貢献しない「生産性のない人間」は存在自体が悪みたいな…。そもそもサステナブルな社会のためにはどっちかというと成長しないほうがいいのでは…。

この一連の疑問は現代の価値観の中心部を直撃している。さしあたり地球温暖化ということでやむを得ず成長に制限が掛けられ始めたが、それでもグリーンニューディールで経済が成長すればいいとかそんなことになっており、ここで実質的な富の拡大と、金銭価値に換算した数値の成長が微妙に混同されている。それが本書でも言及されているような「自然環境の減価償却を計上せよ」みたいなことで全部解決するのか不明だが。

ということを日頃思っていて"Que sais-je"でこのタイトルに出会ったので即買いしたが、とにかく読みにくい。フランス語が難しいわけでなく、一つには衒学が過ぎるのと、一つには感情が多すぎる。多分、著者はものすごく論争を経験してきているのだろう。こういう話はすぐに「じゃあ石器時代に戻れというのか」とか「GAFAが悪い」というバカみたいな話が出てくるし、著者がその類の話から完全に自由だとも思わない。アングロサクソンの価値観はとか言う文句が典型的だが、わりと最初のほうで熱力学の第二法則とか言い出した時点でうんざりする。

しかし、これが脱成長の第一の論客ということでもあるので、読んで損のないところではある。著者の論理の根源は、成長がどうこうというより、生産力至上主義に対する批判だと思われる。従って人口が減ればいいという考えではない。これは資本主義でもマルクス主義でも関係がない。その意味では怠ける権利の正統後継者なのかもしれない。それに付随する諸概念は人によって賛否があるだろう。やたら連帯solidaritéを強調するのはフランスの伝統だから仕方がない。生態系的制約は誰も多分異論はないが、原発がどうとか個別の話はまた別かもしれない。グローバリゼーションを敵視するのはどうかとか、格差問題とリンクさせるとか他にもいろいろある。特に脱成長で失業問題が解決するとか言われても、フランスと日本では状況が違い過ぎる。こっちでは労働力不足が問題で。

ちと論点が多すぎてまとめきれない。結局、脱成長という概念自体は、「そんなに成長成長言わなくても」くらいのことなので、色々個別の政策として考えるというよりは、もっと根本的な社会全体の価値観の変化を促すものだと思う。フランス人みたく徹底的な労働嫌いになるのが幸せかどうか疑問だが…。

Depuis longtemps, on dit que la croissance est nécessaire pour maintenir l'économie. On se demande souvent si une croissance permanente est possible. Évidemment, ce n'est pas possible. C'est le début.

Éditeur ‏ : ‎ QUE SAIS JE; 2e édition (9 février 2022)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2715409606

Tam O'Malley "Mythological Animals: from Basilisks to Unicorns" [神話の動物:バジリスクからユニコーンまで]

多分、よくある類の幻獣辞典の中の一冊でしかないと思うが、差がつくとしたら装丁とイラストだろうな。わたしはWooden Booksのイラストがだいたい好きだが、好みのわかれるところだろう。色が欲しい人もいるだろうし。内容的には、まあこの類の話としてはそんなに深いわけではないが、浸れる人は楽しいだろうと思う。わたしとしてはNethackで見かけるモンスターというところ。関係ないがNethackはRPGの完成形だが、相当やりこんでいても、ユニコーンは"u"の一文字で、たまにはこういう本も読んでおいたほうがいい。

I recommend this book to Nethack players.@.

Wooden Books (2021/3/1)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263142

2023年4月11日火曜日

Oliver Linton "Fractals: On the Edge of Chaos" [フラクタル:カオスの縁]

ハウスドルフ次元がどうこうみたいな話も一応あるが、やはり基本的にはフラクタル図形の博物学みたいなことだろう。色がないのが致命的とかいう説もあるが、個人的にはあまり気にならない。わたしとしては無色のほうが幻想が広がるような気がする。だいたいフラクタル図形は刺々しいというか、サイケデリックな着色がされるもので、フラクタル幾何学が流行った時代を反映しているのかもしれない。まあそれはそれとして、こういうのは学校の図書館に置いておいて、中学生の夢を刺激するべきなのだ。

Fractal shapes are often colored with psychedelic colors. In this book, they are presented mono-chrome, very soothing.

Bloomsbury Pub Plc USA (2021/2/23)
言語 :英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1635575088

Oliver Linton "Numbers: To Infinity and Beyond" [数:無限を越えて]

整数論のpop mathみたいな本で、その意味ではよくあるタイプの本だが、薄い中にしっかり書いてあり、こういう本も子供のころに出会いたかったと思う。内容的にはそんなに難しくなく、最終的にはフェルマーの小定理くらいまでの話だが、別に難関大学受験とかではなければ、高校生でもこれくらいでいいのかもしれない。こういう本は学校の図書室には完備しておくべきなのだ。

A good reading for a math-minded children.

Wooden Books (2021/10/1)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155314

Olavi Huikari "The Miracle of Trees" [樹の奇跡]

実のところ、この本に書いてあることも図も、多分高校の生物の教科書くらいに全部載っているような気もする。最後には森を守れ的なところまで行っていて、それなのにつまらなくないのは、一つにはイラストが美しいからだと思うが(描き方を教えてほしい)、教科書というものが本質的につまらないからではないかと言う…。樹の構造なんて本質的に面白いはずで、面白く語れるところ、教科書となると、情報を効率よく伝えようとしてつまらなくなっているんだろう。どうも色々考えさせられる。

A beautiful lovely book. Maybe scientific information in this book is all well presented in a highschool textbook, but this book is far more entertaining.

Bloomsbury Pub Plc USA (2012/10/16)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0802777898

2023年4月10日月曜日

Angela E. Douglas "Microbiomes: A Very Short Introduction" [微生物叢:非常に短い入門]

目次:1.微生物と共に生きること 2.どうやって微生物叢を確保して維持するか 3.微生物叢と栄養と代謝の健康 4.微生物叢と脳と行動 5.微生物叢と感染症 6.農業食糧生産における植物微生物叢 7.微生物療法と健康な微生物叢

"microbiome"が何なのかよく知らないまま読み始めてしまったが、要するに動植物に付随する微生物集団ということらしい。人間の場合は表皮・消化器・膣にいるバクテリアや細菌類ということになる。この本で主に扱われているのは腸内微生物叢と、植物の根の微生物叢だ。前者は心身の健康に直接影響するし、後者は農業への応用で大きな意味を持つ。

全体的な印象として、どうもまだ開拓され始めたばかりの分野らしく、明瞭な因果関係みたいなのはあまり出てこない。昆虫やねずみレベルの実験では、微生物叢が免疫系や性格に大きく影響しているのは判明しており、人間でもそうらしいことは推察されているが、それほどはっきりしたことは言えないようだ。たとえばASDとか肥満の人の腸内細菌叢は普通人と違うと分かっていても、それが原因なのか結果なのかもよくわからない。似たような話でアトピーや花粉症が激増しているのは現代人の腸内細菌叢が変化したからというのも、「おそらく」くらいの話でしかない。腸内には複雑に絡み合った微生物の生態系があり、地球の生態系と同じで、人の介入がどんな経路で何に影響するか分かったものではない。農業における土壌の微生物叢が農作物に与える影響も、同じようにそう簡単ではないようだ。

ただ、そういう応用分野の前に、微生物叢とホストの関係などの描写は色々世界観が変わってくる。母乳にはヒトには分解できないが腸内細菌叢を栽培するには有益な希少糖が色々含まれており、赤ん坊の免疫系が健全に発達するのはそういったものによる微生物叢との相互作用があるからである云々。なんかVSIの別の本で読んだ気がするが、人間の腸壁は常に腸内細菌と接しており、そんなもので一々炎症を起こしていたら身が持たないし、そこでのやりとりが人体の免疫系の健康維持のために必須みたいなこともある。ピロリ菌は後に胃ガンの原因になるが、子供のうちはピロリ菌がいることによって消化管が健全に発達するなど。

ヨーグルトなどのプロビオ製品についても言及があるが、やはりあまり根拠はないようだ。結局、複雑な生態系にたとえばヤクルト菌を投入したところで微生物叢がそんなに大きく変わる気もしない。胆汁酸というものは腸内細菌で二次胆汁酸に変化し、これがさらに腸から吸収されて人体に影響を及ぼすのが人体の通常営業、という話もあるが、気になって調べたら、ヤクルトのサイトでは二次胆汁酸は発がん性がありヤクルトの株は二次胆汁酸を作らないとか威張っている。

個人的には口腔内の微生物叢とか、他にも色々知りたいことはあるが、そこまで研究が進んでいないらしい。対象が複雑過ぎて、そう簡単に研究が進む気がしないが、監視しておきたい分野だ。

It's a very new field. I want to learn moore about microbiomes of human body, but I guess the research has just started off. It seemes even scientists do not know much.

Oxford Univ Pr (2023/2/24)
言語 :英語
ISBN-13 :978-0198870852

Alice O'neill "Proverbs: The Wisdom of the World" [ことわざ:世界の知恵]

テーマごとにまとめられた世界のことわざ集。それだけなら似たような本は死ぬほどあるが、この本の異常な特徴として、特定テーマに集められたことわざが一つの文章の中に大量に埋め込まれている。書いているほうは、ほぼパズル状態だったのではなかろうか。ほぼ奇書と言っていい。ただまあ、純粋に読む側としては、この類の言葉のパズルが好きな人たちもいるのも分かるが、普通のことわざを配列しただけのほうが好きな人も多いだろう。

An array of porvebs from around the world sorted by themes. But it is not a mundane collections of proverbs. All proverbs are fit into sentences. To some, it is a lot of fun, I guess.

出版社: Bloomsbury Pub Plc USA (2016/9/13)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1632864420

Amy Jones "Plot: The Art of Story" [プロット:物語の技法]

要するにシナリオの基本的な要素や技法の紹介。シナリオライターになるとか小説家になろうというような人にとっては、多分、常識的というか初歩的過ぎるくらいなんだろう。Wooden Booksなんで、本気だったらもっと専門的な本を読んだほうがいいんだろうと思うけど、素人が楽しむ分には十分というか、わたしとしてはかなり興味深かった。わたしは、このブログでも明らかなように小説をあまり読まないし、他にも映画やドラマもほぼ観ない。まして自分で話を作ろうなどは一度も思ったことがないようなことだが、考えたら、小学生くらいでも単に物語を聞くだけでなく自作しようとする子はたまにいる。そういう子にはこういう本をどんどん買い与えたほうが良い。

There are a few children of genius who not only enjoy reading stories but try to fabricate one on their own. They must be provided with this lovely book.

出版社:Wooden Books (2021/10/1)
言語: 英語
ISBN-13 :978-1904263104

2023年4月9日日曜日

Adam Tetlow "The Diagram: Harmonic Geometry" [ダイアグラム:調和の幾何学]

久しぶりのWooden Books。タイトルから内容が分かりにくいが、基本的には正方形に対角線などの折り紙的な線を引きまくって、その交点で色々な分数や数列を表現している。この説明で面白そうと思わなかったら、読んでも面白いと思わない可能性は高い。わたしは子供の頃こんなの好きだったし、結構夢のような本だと思うが、あまりそんな人は少ないかもしれない。ただ、Wooden Booksから出るくらいなんだから、絶望的な少数派とも思えない。とても素敵な本なのだが。しばらくWooden Booksを読んでいなかったが、また新刊を中心に読んでいく。

Very cute and lovely book. I wish I had met this book in my adolescense.

出版社 : Wooden Books (2023/9/15)
言語 :英語
ISBN-13:978-1952178290